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三百九十六話

(´・ω・`)ここまでの総集編、振り返り的な。

 ノックを三回、返事なし。

 ならば四回、しかし返事なし。

 ダメもとで五回、やっぱり返事なし。

 爆睡なのか、それとも外部の音を遮断しているのか。

 ゲーム時代のシステムなら干渉を無効化しているかもしれないのだが、ドアノブに手を掛けると普通に扉が開いてしまった。


「凄いな……現実世界だとこういう部屋になるのか」


 エルの部屋には、大量の写真が飾られていた。

 所謂ゲーム時代のスクリーンショット。それが本物の、実写の写真としてかざられていたのだ。

 無論、何かの絵画。恐らくインテリアアイテムだろうが、そういう類の物も飾られている。


「ベッドも専用……まるでお姫様のベッド……って本当にお姫様だったな今は」


 ネトゲで姫って言うと悪いイメージが先行するのだが、こいつはまぁ『姫プ』ではなかったな。

 このいかにも高そうな家具やインテリアも、自分で稼いだ金で買ったはずだ。

『貴方のマイキャラをイラストにします。料金はキャラレベル×100万から』。

 こんな謳い文句で、ゲーム内通貨をがっぽり稼いでいたのだ。

 ちなみに……エロイラストの場合はレベル×1000万だったらしい。

 その金で屋敷をどんどん改築し、俺達に多額の報酬を支払い、あちこちへと護衛をさせていた。

 まぁ、ある意味では我儘なお姫様みたいなものだったのか?


「エル、起きろ。もうみんな下で待ってるぞ、エル」

「…………」


 ベッドで眠る彼女は、とても……美しいというよりは、可愛かった。

 ふむ。無防備な。今度は手を伸ばし、肩をゆすってやる。


「起きろ、エル姫さんや。おーい」

「ぅ……うん……カイさんじゃない……なに、夜這い?」

「ええいやめろやめろ! ほら、起きなされ。全員下で待ってるぞ」


 パジャマ替わりにと着替えていたのか、ゲーム特有の無駄に露出度の高い水着姿のエルが腕を伸ばしてくるのだが、それをさっと回避する。

 ふはは、Lv1の攻撃があたるわけがないだろう! ああくそ捕まりゃよかった。


「あー……ごめん寝ぼけてた。ちょっと乙女の柔肌見てないで向こう向いてて。今着替えるから」

「あいよ。なんでそんな水着持ってたんだよ」

「私、いろんな衣装をサブキャラに持たせておいたんだよね。よし着替えた。どう? 懐かしい?」

「お、初期服じゃないか。確かにエルって感じするな。ほら、行くぞ一緒に」

「そうでしょう? さ、じゃあ感動の再会といきますか」


 素朴なワンピース姿となったエルを引き連れ階下に戻ると、何やら集まった面々が真剣な様子で話し込んでいた。


「ピザだ。人が集まったならピザにコーラに決まってる」

「そんな大学生みたいな……折角ぼんぼんが作るのならもっと凝った物にすべきです。そうですね……私はローストビーフを希望します。付け合わせに沢山の生野菜を添えて」

「私もオインクの意見を指示します。カイさんの作るローストビーフは絶品です」

「私はそうだなぁ……シチューがいいなぁ。ここって少し肌寒いし、きっと温まるよ」

「それでしたら、辛い物なんてどうでしょう。彼は確か豆腐を持っています。ここは記憶にあるマーボドウフなる物をリクエストしたいのですが」

「そんな普通の家庭料理のような物を再会のごちそうに選ぶのですか……? いえ、確かに彼の事です。本格的な中華料理にしてくれるのでしょうが……その、私は辛い物が……」


 なんでそんなガチで食いたい物の議論してるんですかね。


「君ら、揃いも揃ってなんでそんなに真剣なんだよ……ほら、エルを起こして来たぞ」

「や、おはようみんな……って、カイさん一人知らない人混じってるんだけど?」


 すると、挨拶をした瞬間、慌ててエルが耳打ちしてくる。


「ああ、その黒髪美人さんはオインクだ。ダイエット成功したんだそうだ」

「え、マジ? オインクなの?」


 エルさんの頭の中では、丸々太った豚ちゃんのままだったようです。


「エル! お久しぶりです! その姿は……確か三人目のエルでしたよね」

「うわ喋り方にも違和感が……随分美人になったわねーオインク。それに……よく覚えていたね? そ、これは三人目のエル。本当お久しぶり」

「エル……久しぶりだな」

「シュンちゃん可愛い。ちょっとお姉ちゃんのとこおいで。膝の上に座らせたげる」

「おいやめろ。俺はこれでも五〇〇才越えだ」

「なによー、すっかり大人な対応しちゃって」

「ふふふ。本当に久しぶりですね」

「ダリアだ。相変わらずちっちゃいけど、その話し方は……あれね? きっと長い年月で雌堕ちしたのね? 久しぶり、代わりに膝に座る? 私子供大好きなの」


 無駄にテンションが高い。これは相当喜んでいると見える。

 そそくさと皆の集まるソファーに座り、無理やりダリアを膝の上に乗せる。

 非常に居心地が悪そうなダリアだが、どうやら無理に逃げようとは思っていないようだ。


「はぁ可愛い。本当にお久しぶりね、みんな。なんだかおいしそうな話をしてたけど、今夜何を食べるかって話なのかな?」

「ええ、そうです。私は是非マーボドウフを食べてみたいのですが」

「それってカイさんが作るの? みんなあんまりハードル上げない方いいわよ。カイさんが泣いちゃうわ」

「おや? エルはまだぼんぼんの料理を食べていないのですか?」

「うん。いや、そりゃあカイさんが料理得意っていうのはゲーム時代のチャットで知ってるけど、限度があるわよさすがに」


 おっとー? 俺をその辺の『俺、料理出来ますよ』なんて言ってお洒落だけど簡単なパスタやおかず程度を作って女に取り入ろうとしているだけのチャラ男と一緒だと思っているんですかね? エルさんは。


「エル、エル。一応俺、元本職だぞ。とりあえずなんでも作れるから期待しつつひれ伏すがいい」

「え? 嘘、本当? なんでも作れるの? じゃあ私無理難題言っちゃうよ? バラちらし食べたいんだけど出来る?」

「おい待て。ピザにしろピザ。そこにオーブンが見える。絶対にピザにすべきだ。俺のアイテムボックスに最近出来たカフェのコーラのストックが大量にある。ピザを食いながらコーラにすべきだ」

「だから、そんなザ・若者みたいなメニューはどうかと……ローストビーフです、ローストビーフ」

「お肉かー……なら、私はシチューじゃなくて、ポークジンジャーでも良いかな!」

「そんなー!」


 もはや収拾がつきそうにないので、勝手に作り始めますね。

 麻婆豆腐にピザにシチュー、ローストビーフにバラちらしか。

 ポークジンジャーもだったか? なんともバラバラなピックアップだ。


「……今日くらい、全部作るか」


 それら全てを同時進行で仕込みながら、この屋敷にある調理道具を確認していく。

 凄いな、全部本格的な道具ばかりだし、そもそもがゲーム時代の背景、オブジェクトみたいな物だった関係か、普通にどれもこれも現代的だ。

 こちらには魔法もあるのだし、これは想像以上に楽が出来そうだ。


「ふぅ、ではそろそろまとめますよ! まず、シュンのピザを却下します」

「な! それは横暴だろう!」

「ピザなら明日以降でも良いではないですか。それこそ、お昼ご飯にどうです」

「……まぁ、確かに昼でも違和感のないメニューではあるが」

「でしょう? で、次です。麻婆豆腐は、今回人数分豆腐があるか分からないので、一時見送りでどうでしょう。しっかり彼に準備期間を与えた方がいいのではないでしょうか」

「なるほど……確かに一般にはまだ出回っていない食材ですからね……」

「そしてエルの言うバラちらし。これは……お願いしても良いのではないでしょうか。私も含め、和食に飢えているのは皆も同じでしょう? それにレイスが言うには、彼女達は最近、マグロに似た魚を手に入れたという話です」

「あ、そういえばそうだったね! うーんカイくん達の国の料理は私も興味あるなぁ」

「私もその料理は知りませんが、マグロが使われているのなら是非食べてみたいです!」

「そして、最後にローストビーフですが、調理時間の大半をオーブンで焼くという性質上、こちらも並行して作る事が出来るのではないでしょうか。それに、これはシュンの持っているコーラともソース次第では相性がいいはずです」

「確かに肉とコーラはアリだな」

「では、今回お願いするのはバラちらしとローストビーフ。この二つで異論ありませんね?」

「異議なし」

「私もそれで良いかな」

「私もです」

「同じく私も」

「私も私も」

「しかし、なんだかんだで自分の要求を通すあたり、策士だなオインク」

「ね。さすが我らが参謀」


 なんか後ろから凄い真面目なやり取りが聞こえくるんですが。

 悪いな、既にマグロは漬け込み作業に入っているし、ピザ生地は発酵中だし、ローストビーフはオーブンの中だし、豆腐もばっちり人数分確保してある。

 それにシチューだってホワイトソースはストックがあったりするのだ。

 そうして、代表としてオインクがやって来た時には、もう既に全て出来上がりを待つだけだと告げた結果、真面目に議論し意見をまとめたオインクが『そんなー』と言う羽目になりましたとさ。






「えー……なんかここまで来ると女としての自信が打ち砕かれるというかなんというか、ここまで作れちゃう物なの?」

「うまい……うまい……散々肉は食ったが、やっぱりコーラに合う味ってのは同じ日本人じゃないと無理だ。この濃い味はいいな……ハンバーガーに似た味だ」

「この赤いオトウフも美味しいですね……辛みはありますが、ここまで美味しくなるなんて……」

「本当ですね、お願いしてよかった」

「ぼんぼん、このローストビーフの隣にある白っぽいお肉……やっぱり……?」

「オインク、これ豚だよ! ジンジャーソースをかけたらポークジンジャーの味になる!」

「どぼじでぞういうごどずるのおおおおおお」

「これがバラチラシ……マグロに味が染み込んで、ビネガーの酸味をまとったライスとの相性が……これは、私の好物になってしまいそうですね……」


 好評でした。いやぁ頑張った甲斐があるってもんです。

 テーブルに所狭しと並べられた料理の数々を、皆の口に消えていく。

 率先して料理を取り分けているのは、レイスとエル。このあたりはまぁ……さすがというべきか。

 そして、一番がっついているのは、俺を抜かすと唯一の男性であるシュン。

 ワイルドに肉を頬張りながら、俺が伝えたコーラをグビグビと飲み干している。

 ちょっと俺にも分けてくれ。


「んん? ねぇカイさん、このバラちらしに乗ってる魚って、マグロとブリと……これ、タイよね?」

「タイの仲間だと思う。正式な名前は残念ながらまだ勉強してないが、ほぼ同じみたいなものだろ?」

「うん、それはそうだと思うんだけど……このタイだけ、他の魚と味付け違うよね? なんで?」

「エル、お前さん昔ゲームで出身地の話しただろ、地酒の話題で。その時愛媛だって聞いたから、鯛めし風の味付けにしたんだよ、卵黄とゴマと醤油ダレで」

「……本当にさぁ、なんで人の地元の郷土料理とかナチュラルに混ぜてくるかな? こんなの惚れちゃうじゃない、私と結婚してよ。エルダイン帝国の皇帝になれるわよ」

「はははは、そいつは辞退しておくさ」


 お前冗談でもそういう迂闊な事言うなよ。隣のオインクの表情が固まってるぞ。

 レイスのフォークを握る手に力が入ってるぞ。

 そしてリュエが本気で心配そうな顔をこっちに向けてるじゃないですか。


「だ、だったら私のところの料理は……なんだろう、わからないや」

「リュエは後でパンアイス作ってあげるからなー」

「やった!」

「わ、私は……どうしましょう、代表的な料理が思い当たりません……特産が小麦というくらいで……」

「ぼんぼん、私は千葉出身です。期待しておきます」

「あのネズミの耳でも齧ってなさい」

「そんなー!」

「今度な、今度。太巻きでもつくってやる」

「え? あれって郷土料理なんですか?」

「一応」


 メジャー過ぎる料理が郷土料理だと、作る側も少々とっつきにくかったりします。


「カイさん、今度作る時は酢飯をミカンジュースで作って頂戴。知ってる?」

「知ってるぞ、小学校の給食でミカンご飯っていうのがあるんだろ?」

「そう! よく知ってたわねぇ」

「……うまいのか? それ。俺は遠慮したいな。カイヴォン、そんな恐い物よりピザだピザ。出来ればゴルゴンゾーラとハチミツの甘いピザを頼む」

「なんですシュン、そんなお洒落で女子力の高い物を頼むつもりだったんですか?」


 夢の様な、光景だった。

 かつての仲間と、今の仲間が一堂に介し、共に笑い食卓を囲む。

 それは、かつてオインクが抱いた夢と、同じ物なのではないだろうか。

 まぁ一人足りないのだが……そこは、仕方ないだろう。


「さて……食いながらで良いから聞いてくれないか。これからの方針について」

「んぐ……ああ、そうだな。だがその前に今一度、これまでの話を皆の前でしてくれないか? 全員で聞けば、何か気になる部分も出てくるかもしれない」

「あ、賛成! カイさん話してよ、この世界に来てから今日までの事、全部。なんだか話を聞く限りじゃ、かなり最初にその龍神? っていうの倒しているっていうし、そういうの含めて全部教えて欲しいな」

「全部って……俺がこの世界に来てからの二年近くを全部か?」

「そ。って……改めて考えると激動ってレベルじゃないわよね。私はまぁ飛び飛びだけど、それでも六〇年以上はこの世界で生きてるけど、正直ほぼほぼ平穏だったし」

「確かにな。俺とダリアなんて五〇〇年だ。まぁそれなりに厳しい日々だったと自負しているが、確かに密度で言えばお前は少々異常だな。俺も、最初から聞いてみたい」


 ……そうだ。期間で言えば、俺は本当に極々僅かな時間しか、この世界に来てから経っていないのだ。


「そうだな……じゃあ、話そうか。俺達が最後の瞬間、あのグダグダなカウントダウンで〇を迎えた瞬間から……今日この場所に至るまで、その物語を」






「俺は、気が付くとある森の中で倒れていたんだ。針葉樹って言うのかね、どこかスギっぽい木に囲まれていて、季節もさっきまで夏真っ盛りだったはずなのに、少しだけ肌寒い感じがして。確かこっちの世界では秋の中頃だったはずだ」


 目覚め。そして、その状況を夢だと断じ、あてもなく森を彷徨い、そして見た事も無い巨大な蛇の魔物に遭遇した。

 そして……何も分からない俺に救いの手をさし伸ばしてくれた、リュエとの出会いを語る。

 夢だと思ったと。自分の分身である彼女が、意思を持ち、語り、生きている状況を。

 そして話しているうちに、これは現実なのではないか、と思い始めた事。

 家に住まわせてもらう事になり、そこで様々な事を教えて貰い、魔術の手ほどきをしてもらった事を。

 とても、とても幸せな日々だった。

 平凡でありふれていたけれど、そこで暮らした一年間は、紛れもなく俺の大切な思い出だったという事を。


「なるほど。それが、リュエがカイさんの『先生』たる所以、なんですね」

「懐かしいねー。カイくんって実は凄い魔術師の才能があるんだ。今からだって、もっと上を目指せるくらいなんだ」

「はは、照れるな。じゃあ続き、話すぞ」


 それから一年。世界の基本的な知識や、森を抜ける為の知識。それに教わっていた魔術も十分に備わったと判断した俺は、森を出る事を決意し、その意思をリュエに伝えた。

 今になって思えば、彼女が俺の強さ、異質さに気が付いていない訳がない。

 つまり、俺はかなり早い段階で森を抜ける事が出来ると、彼女は知っていたはず。

 それでも、言い出さずに俺を住まわせていたのは……きっと、俺と一緒にいたかったから……なのだろうな。

 外の世界へ共に向かおう。その提案を断られ、そして……彼女が抱えていた強大過ぎる存在、苦しみ、苦悩を知った。

 そして……俺はその存在。どんな存在なのかも知らずに、ただ憎いと、大切な彼女を縛り付ける存在をこの世から消してやるという一念のみで、打ち倒した。


「……今考えても、私達の国が、かつてのエルフ達がした事は……とても酷く、非道な行いだと思います。そして……私達はその元凶とも呼べるエルフと、共にいたのですね」

「俺も……もし同じ状況なら、きっとカイヴォンと同じ選択をしただろうな。ああ、だがそれでも俺はお前と共に行く道を選ばなかった。本当に、すまなかった」

「そんな顔すんなよ。こうして今、二人は俺と共にいる。それで充分だろ?」

「そうだよ。それに……お陰で私はカイくんと出会えたんだから」


 森を抜け、ソルトディッシュの町で辺境伯の三男坊にリュエが付きまとわれた事件。

 次の町、マインズバレーで冒険者として登録し、そこで初めて七星の詳しい話を知る。

 クロムウェルさんとの出会い。リュエの元で生まれた彼がとの出会いは……きっと大きな意味を持っていたのだろうな。


「ところで、結局あのバカ貴族の三男坊というか、辺境伯はどうなったんだ?」

「辺境伯の爵位を没収。今は塩商人として地道に活動していますよ。あの三男坊は冒険者として働いているはずです」

「なるほどな。中々逞しいな、貴族ってのは」


 そして、マインズバレーでの魔物の氾濫。

 あれは、今思えばダンジョン化の兆候だったのかもしれない。

 あの場所は……恐らくヨロキのなんらかの計画に関係があったのだろう。

 解放者の育成。あの町にはレン君がいたのだから。

 やがて事件を解決した後……俺は、この世界に俺以外のプレイヤーが残っている事知る。


「今思えば、お前は神隷期……いや、創世期の人間を探していたんだな」

「ええ。神隷期、即ちプレイヤーを探すのなら、創世期から今に至るまで生きている人間を見つける事が出来れば、情報も入って来ると考えていたのです。これまでそういう人間を何人か見てきましたが、あれはきっと、ここファストリアから渡った人間の末裔……だったのでしょうね。強い力を持ち、長い寿命を持つ存在は、きっとここに残った古の民の血を色濃く継いでいる人達だったのでしょう」

「そうだろうな。それで、俺はオインクと出会った事で、間接的にダリア、シュン。お前達二人もこの世界にいる事を知った。そして……エルフ達の末裔が、国を興している事も」

「……ある意味では、貴方の旅の目的を再決定した出来事だったのですよね」

「結果論だが、お陰で俺達の国は大きく変わったよ。感謝するぞ、オインク」


 そうして、他の貴族や商人とのいざこざ、そして解放者であるレン君との衝突を経て、俺は次なる大陸、セミフィナルへと渡ったのだ。


「とまぁ、エンドレシアでの俺の歩みはこんなところだな」

「最初に倒したのが龍神ってのも、なんだかおかしな話だな。よく、倒せたな?」

「あれだ、ゲーム時代にあった『天断“極”』の倍率バグがこの世界でも適用されたんだよ。幸い、対ドラゴン用のアビリティも沢山持っていたし、俺なら単独で例のコンボも使える」

「ああ、追月を使ったコンボか。なるほど……それなら一撃でも倒せる……か?」

「……この世界に限界や制限は殆どないような物だ。これが上手くいったのなら、他にも何か、最終兵器になるような攻撃手段だってあるかもしれない。俺はな、ゲームならともく、現実にこの世界を、大事な人達を救う為なら、どんな手段でも使うつもりだ。そこに戦いの楽しみや駆け引きなんていらない。一撃で倒せるなら……それを選ぶさ」

「……ああ、そうだな。その通り……なんだよな」


 そう。かつて、フェンネルを殺す為だけに『天断“降魔”』を設置していたように。

 確実に仕留められる手段は、必ず用意するべきなのだ。


「さて……じゃあ次はセミフィナルに移動してからの話だな」

「あ……私の話……ですよね?」

「そうだね。俺とリュエは、オインクと別れてセミフィナル大陸に渡ったんだけど、そこの港町のギルドで、ある人と出会ったんだ」


 港町のギルド支部で、俺は大陸の北方を治める領主、ブック・ウェルド氏と出会った。

 彼の歓待を受けるべく、俺達は隣にある町……夜の町として名高い、娯楽の町、ウィングレストへと招かれた。

 そして、彼は日本の接待宜しく、俺とリュエを町一番の高級クラブ『プロミスメイデン』へと招いたのだった。


「高級クラブ『プロミスメイデン』現職の議員や領主、海外の要人の接待にも使われる事もある、上流階級では知らぬ人間はいないとさえ言われている場所です。実際、私も何度か接待の為に手配した事もありましたね」

「プロミスメイデン……それって、あれじゃない? 高級アンティークの為に物凄いお金かけてるお店じゃないっけ? 私の国、セカンダリア大陸でもその名前は届いてるわよ? 確かね、芸術の町スフィアガーデンの家具工房のパトロンの一人だったはずよ。そこは家具の売り上げの一部を孤児院にも回してる事で有名なんだけど、きっとそのお店のオーナーもそれを知っていたのかしらね? 毎月物凄い金額が投資されていたらしいわ」


 おっと、それは初耳だ。

 あの店の料金の高さは俺も知っていたが、まさかそんな遠くまで流れていたとは。


「しかしカイさんって凄くない? そんなお店に接待で通されたんでしょ? どうどう? やっぱり一晩だけのアヤマチとか……ちょっとここでは話せないイベントとかなかったの?」

「はは、生憎そういう事とは無縁の、格式高い上品なお店なんだよ。ただ、極上の時間を過ごさせてもらったよ」


 その店のオーナーである、グランドマザーと呼ばれている人物との邂逅。

 夜の町における、影の女帝。様々な勢力がしのぎを削る世界で、力の均衡を保っていた存在。

 そんな人物に、俺は自分の相手を、一緒にお酒を飲まないかと誘いをかけたのだ。


「命知らずすぎない? 大丈夫? 裏から黒服こなかった? チンチン握りつぶされなかった?」

「お前はマフィア映画の見過ぎだぞ、エル。そんな事あるわけないだろ? まぁ、俺も内心、そんな人だとは知らずに声をかけて、あわてて領主のウェルドさんに止められたけど……結果、その人と過ごす事が出来たんだ」


 さて、この会話の最中、ずっと顔をうつむけて耳まで真っ赤にして大人しくしている人物がいます。

 そう、そのグランドマザー本人であるレイスだ。

 エル……この後の話を聞いたらどんな反応をするのだろうか。


 俺は、その夜の町で暗躍する人物、そしてさらにその人物を操っていた黒幕の話をする。

 そして……グランドマザーが、何故自分の正体を隠していたのかを。

 待っていたのだ。マザー……レイスは、いつか自分を迎えに来てくれる誰かを。

 共有倉庫に入れられていた様々な品を送っていた人物。記憶の無い自分を支えていた、おぼろげな物。それを与えてくれた……誰かを。

 その共有倉庫の話題が出たところで、ようやくエルは、これがレイスの話だと気が付いた。


「ええええええええ! なんか私余計な事口にしなかった!? っていうかなんかごめん! そしてありがとう! あの多額の融資、関税で一部は私の国にも勿論入っていたんだけど……正直、凄く助かってました……」

「い、いえいえ……これはちょっと恥ずかしいですね……」


 気が付けば、テーブルの上にある料理がほとんど消えていた。

 そうして俺は、その後の話を続けていき、第二の解放者、ナオ君との出会いから……レイスを狙っていた存在、アーカムの話を終わらせた。


「もしかしたら、古の民の殆どがあちこちの国を立ち上げていたんだろうな。王家には、そういう血が濃く流れている可能性がある。なにせ『王伝』なんて言葉もあるんだ。王伝魔導、王伝剣術ってな。それはいずれも神隷期の奥義クラスの技や術だったんだ」

「そうですね……そうなると、人によって術や技の扱える幅に差があるのも納得です。あれは……どれだけ血を引き継いでいるのかによるのでしょう」

「そういう意味じゃ、リシャルさんやアーカムは物凄い強く血を引いていたんだろうな」


 やがて、セミフィナルの首都であるサイアスで、大きな転機を迎えた。

 かつての解放者、イグゾウ・ヨシダ氏との出会いと、レイニー・リネアリスとの出会い。

そして……七星プレシード・ドラゴンとの戦い。


「死後に世界に留まる……それこそ、大地の地脈、奥底で待っていた可能性がありますね。それにそのレイニー・リネアリスという存在は、少なくともその地脈、精神世界のような場所を自由に移動できる。かつて、私がサーズガルドの大陸に術式を刻んでいる時にも、一瞬だけでしたが会話をする事がありました」

「……ガイア理論的に言えば、そのレイニー・リネアリスっていうのは……世界意思の化身かなにかじゃないのか? 詳しくは俺も知らんが、カイヴォンはどうだ?」

「世界意思……か。この俺達が使っているメニュー画面に表示される文章こそが、俺は世界の意思だと思っている。そして、レイニー・リネアリスはそこに介入出来た唯一の存在なんだ、俺の知る限りじゃ」

「なるほど……じゃあ、この線は濃厚って事でいいか」


 そして、俺は世界の秘密の片鱗を知る。旧世界と呼ばれる時代と、この世界を今現在手中に収めようとしている何者かの存在を。

 そしてそれは、メニュー画面にも現れていた。

『※※※※※の使途』という形で。


「その話は、今この大陸、このセントラルシティで起きた出来事と関わっているように思えるな。実際、そのつけ狙う者こそが、その使途、解放者達に関わる存在なんだろうな」

「狭間の地にいる相手……どうすればいいのか、現段階では検討もつきませんが」


 そして七星を倒し……様々な出会いと別れを経験したセミフィナル大陸を、俺達は旅立った。


「……一番、思い出深い大陸でもある。俺にとって……あまりにも大きな事がおこりすぎた」


 レイスとの出会い。そして……彼女を一時とはいえ、手にかけてしまった事。

 世界の秘密の片鱗を知った事。そして……自分の歪さ、狂える本能に直面した事。

 それに……オインクとの事も。


「本当に……濃い旅路を歩んできたんだな、カイヴォンは。タフだよ、お前は本当に」

「あの、今現在もセミフィナル大陸にいるオインクさんに聞きたいのですが……ウィングレストの町が今どうなっているのかは分かりません、か?」

「知っていますよ。今は、町の代表としてエルスペルさんが、次期議員として立候補すべく精力的に動いています。働く女性の支援、政界の場にももっと一般女性の意見を、という理念を掲げています。ちなみに、それを支援しているのはイル・ヨシダとなります」

「まぁ……あの子ったら随分と……すみません、娘が暴走しないように目を光らせてください……」

「ふふ、そうですね。それと姉のイクスさんは、先日まで錬金術ギルドの方に冒険者ギルドから派遣された研究者、という形で働いていてくれたのですが、今は長期休暇を取って大陸中を見て回っているそうですよ。その後は、アルヴィースの街にまた戻ると言っていました。今現在、ギルド主導で、親をなくした子供の為の施設を設立するという提案もなされているのですが、彼女にもその計画に関わってもらえたら、と」

「それは……素敵な考えだと思います。孤児院は今も点在しますが、その全てが善良な人間によるモノとは限りませんから……私も、騙され売られそうになった娘達を何人も引き取ってきましたから……」

「オインク、その話、俺も一枚噛ませてくれ。監査、討伐、なんでもいい。子供は愛でるモノであり、利益や欲望の対象にすべきじゃない。今の俺はダリアと違い融通が利く、考えておいてくれ」

「お前……ジュリアが戻ってから随分と子供好きになったんだな」

「まぁ、な。俺達の国は……いや、俺は……不幸になる子供を見てみぬふりをしていた罪人だ。だから、せめてもの償いという訳ではないが……少しでも、幸福な子供を増やしたいんだ」


 なるほど……な。


「なんだかんだで、みんな凄く立派な考えを持って動いているのね。正直、私なんて今になってようやく動き出した身だし、なんだか恥ずかしいわ」

「そんな事言ったら俺なんてただの放浪魔王だが?」

「その放浪で世界を救ってるんだから、説得力ないわよ」

「ははは……さて、一回休憩挟むぞ。テーブルの上を片付けたい」

「あ、お手伝いします」

「そうね、片付けましょう。実はさっき良いモノを見つけたの。食後のティータイムとしましょう」


 本当に、長い昔話になってしまったな、なんて苦笑いを浮かべながら、皆で食器を片付けるのだった。


(´・ω・`)さいしゅうかいまえのおやくそく

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