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三百九十五話

(´・ω・`)ついに

 これは……まさか本当に離れた仲間をこちらに呼び寄せる事が出来るのだろうか。

 それに、もしかしたらメールを送る事も可能なのではないか。

 だが……それよりも、一番気になる記述、表記がある。


Gu-nya……発動不可


 これだ。これは……どういう意味なのだ?


「お前は……この世界に来ていないのか……? それとも、もう……」

「カイくんどうしたんだい? そんなに下を見つめてもまだ芽は出ないよ?」

「なにか、気になる事でもあったのですか?」

「いや、ちょっとね」


 まずは、どこか一息つける場所に移動すべきだろう。

 ここだって、安全という訳でもない。現に今だって遠くの方に魔物の影が見える。


「ねぇ、せっかくだし私達の家がどうなっているのかも見に行ってみようよ。たぶん……無事ではないと思うけれど……」

「そうですね。痕跡だけでも……見てみたいです」

「ああ、そうだね。行ってみようか」


 先程、ホームの使用が解禁されたと出ていたが、まさか無事なのか?

 それとも……たとえ損傷していたとしても、今のアナウンスでそれらが修復された?

 神隷期、ゲーム時代の装備は損傷してもアイテムボックスに収納してしまえば修復される。

 もしもそれと同じように、ホームが修復されるのだとしたら。

 元々大樹のあった中央広場の隣、比較的大きな屋敷が立ち並ぶ一角へと向かう。


 この区画は、ハイグレードのホームを買ったプレイヤーのみが住める区画なのだが、俺達のチームマスターは、最初は家なんてどうでも良いからと、ランダムハウスと呼ばれる物を購入した。だが、それでハイグレードを引き当てたのが運の尽きで、我らが豚ちゃんはその財力をいかんなく発揮して様々な設備を購入。

 そして、実を言うと純粋な持ち金だけで行くと、稼いでいたのは豚ちゃんよりも、むしろシュンやエルの方が遥かに多かったりする。

 結果、土地の拡張や屋敷のグレードアップを繰り返し、まさしく城のような規模になってしまった俺達の家。


「懐かしいな……まだ残ってるのかね、形だけでも」

「ね。それに……結局『アルバートさん』は独りぼっちになってるかもしれないし」

「え? 誰だい、それ」

「その方もお仲間なんですか?」

「あれ? カイくん覚えていない?」

「あ、ああ……」


 誰だ、それは。まさかゲームでは認識できない何者かがいるのか?


「ほら、家の門番をしてくれていたじゃないか。冒険に出かける時、たまにポーション持たせてくれる兵士のおじさんだよ」

「あ、あー! はいはいはい。あの人ね! 覚えてる覚えてる」


 と、思ったのだが、どうやら門番NPCの事だったらしい。

 一応、彼も屋敷の設備扱いで、一定時間ごとにポーションの補給をしてくれる人物だ。

 見栄えも良いし、なんだか屋敷のグレードがグンと上がったような気がするからと、オインクがすぐさま導入していたっけ。

 他にも、シュンの要望で戦闘練習用の木人だったり、ぐーにゃの要望で簡易工房を設置したり、庭のレイアウトなんかはエルやダリアが率先していじっていたな。

 俺? 俺はまぁほとんど家に寄らずに戦っていたので……。


「あ! ねぇカイくんレイス! 誰かいる!」

「え? まさか本当に人がいたのか?」


 おぼろげな記憶を思い出していると、リュエが突然大きな声を出す。

 まさか、村の少年から聞いた人影なのかと、慌ててその人物の元へ向かう。

 すると、鎧姿の人物が、今まさに徘徊中のゴブリンと戦っていた。


「これは……間に合わないな。もう倒してしまいそうだ」

「むむ……本当に戦える人がまだいるんだ……」

「話を聞いてみませんと」


 そのまま到着すると、新手かと思ったのかこちらに剣を向ける人物。


「何者です。こんな場所に人がいるとは……命が惜しくば立ち去りなさい。外までは送ります」

「いえ、こちらも魔物を倒しながらここまで来ました。その、この屋敷に用事があるのです」


 そして、この人物が戦っていたのは、丁度俺達の……屋敷の目の前だった。

 荒れている様子はない。ゲーム時代と変わらず、いや、多少リアリティやサイズはアップしているが。


「わあ……残ってる……! そのまま残ってるよ!」

「こ、これは……こんな素敵なお屋敷に住んでいたんですか!? これではまるで……大貴族の屋敷のようです……ここに、皆さんが……」

「ま、待て! なんだお前達は! ここは開かずの屋敷。何人たりとも開ける事は――」

「開いたよー!」

「なんで!? ちょ、待ちなさい! ここは私が先祖代々――」

「……リュエ、嬉しいのはわかるけれど、少しこの人の話を聞こう」

「そ、そうだぞ! どうやって開けたのだ……まったく」


 甲冑姿ではあるが、声から察するに女性の様だ。

 まず、こちらがどういう目的でこの場所に来たのかを話す。


「古の民の生き残り? 何を馬鹿な……」

「本当だよ? だからここにも入る事が出来たんだ。ここはね、ずっとずーっと昔、私達の家だったんだよ」

「信じる信じないはさておき、今度はそちらの話を聞かせてください。以前、ここで人影を見たという話を聞いた事があるのですが、それは貴女の事ですか? そちらこそ、この場所で一体何をしていたんです」


 見たところ、プレイヤーには見えない。鎧だって、元々は観賞用の物、性能より外見を重視したような、お世辞にも実用に耐えられる物には見えない。

 だが……同時に彼女はこの街に住む上位種のゴブリンを退けた。

 彼女が、前に聞いた古の民の血を引いた人間の一人なのだろうか?


「これは私の日課だ。先祖代々、この屋敷を見守っているのだ。ここは、他の屋敷と違い唯一残っている場所。きっと特別な加護があるに違いないのだ」

「先祖代々? じゃあもしかして……ねぇねぇ、ちょっとポーション分けてくれないかい?」

「なんだ突然……。まぁポーションなら持ち合わせがある。飲むと良い」


 ……いや、これは偶然ですよね? リュエのこの確認方法はさすがにどうかと思う。


「ん! この味は間違いないよ! アルバートさんのポーションだ! この少しスパイスが効いていて、眠気覚ましの効果がある味! アルバートさんので間違いないよ!」

「そ、そうなんですか……? 私はわからなくて……」

「右に同じく」


 ゲーム時代のポーションの味なんて、さすがに分からんです。

 ただ、確かに貰えるポーションは通常の物よりも回復効果が高かったと記憶しているが。


『おほー! このポーションコスパ良いわね! みんな使わないなら貰うだけ貰って私に頂戴? 初心者に少し高めの値段で売りさばくわよー!』


 ……商魂たくましいどこぞの豚ちゃんを思い出した。


「アルバートだと? なぜ、その名前を」

「失礼ですが、貴女のお名前は……?」

「レティシア・シグルト・アルバート。私の家の名を知る貴女こそ何者だ」

「リュエだよ。さっきから言ってるけど、私はここの家に住んでいたんだってば」


 すると、レティシア嬢は腰に下げていた革袋から、何やら古い手記を取り出し、熱心に捲り出す。

 随分と年季が入っているが、何が書かれているのだろうか。


「……毎日しっかりポーションを貰いに来る聖騎士……リュエ、だと?」

「そう、私が聖騎士のリュエさんです。信じてくれたかい?」


 そう言いながら、リュエが自信満々に聖騎士装備を身に付け、剣を構えて見せる。

 本当ここに来てから随分楽しそうだなぁリュエ……。


「アイテムボックス!? 本当に古の民か!」

「あ、これ見せた方が早かったかな。信じてくれたよね? 君は、アルバートさんの孫の孫の孫の孫の……末裔って事でいいのかな?」


 ようやく信じるに足る証拠を得たのか、彼女はどこか呆けた様子でこちらを見つめる。

 まぁ鎧姿なのでどんな表情かは分かりませんが。


「ほ、本当にこの屋敷の主……なのか?」

「正確には、俺達や他の仲間全員の屋敷になるのかな。そうか……ずっと代々守って来てくれたのか」


 彼女がゴブリンと戦えたのにも合点がいく。

 アルバートこと守衛NPCは、大樹から魔物が溢れてくるという定期的なイベントで、戦闘のサポートを行ってくれる戦えるNPCなのだ。

 ならば、その末裔である彼女も、他の住人とは違い戦う力を持っていたのだろう。


「なんと……なんという良き日か……一族の悲願が、ついに果たされたというのか!」

「うんうん、きっとそうだよ! ありがとうね、ずっと留守番をしてくれて」

「いえ! 鍛錬の為という意味合いもありました。感謝されるなど畏れ多い」

「それでも助かったよ。もしかすれば、ここも魔物に荒らされていたかもしれないんだ。君や、君のご先祖様には感謝しないといけない。これまで、本当にありがとう」


 それを告げると、相変わらず鎧姿で表情は見えないが、感極まったように身を震わせ、勢い良く駆けだした。


「私は! これからもこの場所に来ても良いだろうか! 私の生きがいだったのです! 今日は、この事を家の者に伝えてきますが、また、明日も来ても良いでしょうか!」

「もちろんだよー! くれぐれも気を付けるんだよー! 魔物に注意してねー!」

「はい! では、また明日!」


 そうして、嬉しそうに街の中を疾走しながら、集まって来たゴブリン達を吹き飛ばしながら、レティシア嬢は去って行ったのだった。

 ……そうだよなぁ。味方のNPCって不死属性がついていたり、物凄くHPが高かったり、その辺のプレイヤーより強かったからなぁ……。


「と、いうわけだったのさ。よかったね、アルバートさんは孤独なんかじゃなかったんだ。あんな元気に子孫が残ってるくらいだもん」

「え、ええ……なんだか凄い勢いのある人でしたね……でも、ずっとこの場所を守っていたんですね……何代にも渡って」

「ああ……って、あの人からもっと話を聞けばよかった! 明日以降、詳しい話を聞いてみないとなぁ」


 ともあれ、もう何年経ったのかわからない。だがそれでも、記憶に残るままの屋敷の扉を、ゆっくりと開き中へと入るのだった。


 屋敷の中は、長い間人の手が入っていなかった時特有の、埃っぽい匂いや木が古くなったような臭いなどもせず、ただ主が帰宅したのを迎えるような、ありふれた普通の家の香りがした。

 この屋敷だけ老朽化も破壊もされずに残っていた事から、なんらかの力により時間を止められていたのかもしれない。

 屋敷と言っても、一般的な貴族の豪邸とは違う。あくまで、外観がそれなだけであり、内装はゲーム時代のまま、即ちあくまで利便性に特化している物だった。

 なので、扉を開けて最初に待ち受けているのは、玄関ホールなどと言う物ではなく、ただのサロン、メンバーの談話室であり、その光景に思わずレイスが呆気にとられる程だ。


「不思議なお屋敷ですね……どれもこれも、あまり見た事の無い調度品……神隷期の品々なのですね」

「そうだねー。置いてある置物なんかは、私とかシュンとか、冒険に出た時に見つけた物だったりするんだ。ほら、あの赤いチョーチンっていう照明がぶらさがっているだろう? あれはオインクがぶら下げたんだ。豚の絵柄が付いてるからーって」

「……実際に目にするとアンバランスってレベルじゃないな」


 屋敷の中を見て回ると、チームメンバーどころか、それぞれのサブキャラクターの為の部屋まで用意されてあった。

 アカウント毎の部屋だったはずだが、この世界ではこういう形に変わっているのか。


「わ、私の名前まであります……なんだか不思議な気分です」

「私の部屋はー……相変わらずベッドしかない!」

「右に同じく。たぶんレイスもそのはずだよ。悪い、これはたぶん俺が部屋をあまり触らなかった影響だと思う」

「むむ、そっかー……当時はあまり興味がわかなかったけど、今なら色々置いてみたいねー」

「そうですね。私は……この備え付けの棚に、本やお酒を並べたいです」


 そんな、目標を語る。

 不思議な気分ではある。だが、いつか……ここで暮らせるようになったら、好きな風に自分達の部屋を飾り付けられたら、それはとても……とても素敵な事だ。


「さて……と。二人とも、少し待っていてくれないかい? 実は……さっき種を植えた時、気になるメッセージがメニュー画面に出たんだ。少し、試してみる」

「うん? 私はとくに何も出ていないけど……」

「私もですね」

「ふむ。『チーム』っていう項目の文字が灰色から白に変わっていないかい?」

「あ! 本当だ変わってる! ……凄い! みんながどこにいるか分かる!」

「まぁ……こんな便利な機能があるんですか?」

「それだけじゃ……ないんだ。もしかしたら……手紙をまた、送れるようになっているかもしれないんだ。ちょっと試すから、二人は何もせずに待っていてくれないかい?」


 もし、メールを送れるのなら。それどころか、もしも本当に『テレポ』を発動できるのなら。

 この場に……皆を集める事も出来るのではないだろうか。




From:Kaivon

To:Oink:Daria:Syun:El:Gu-nya

件名:至急確認されたし


チームコマンドが復活した可能性あり。

テレポでホーム帰還を試してみてくれ。




 全員に、同じ内容のメールを送信する。

『テレポ』という魔法は、自分の現在位置からホーム、すなわちこの屋敷に瞬間的に転移する事が出来るチーム所属メンバー専用の魔法だ。

 自分が元居た場所にも転送開始地点としてのマーカーが残るので、当然屋敷から戻る事も可能なのだが、これには他の使い道もある。

 例えば俺がエンドレシアからホームに移動する。そして、オインクがセミフィナルからホームに移動したとする。すると、お互いの使用したテレポの痕跡を使う事により、ホームを経由して俺がセミフィナルに移動したり、オインクがエンドレシアに移動するという事も出来るのだ。

 自由に行先を決められる魔法ではないが、使い方次第では、短時間であちこちに移動可能となる、という訳だ。

 まぁ、この仕様を使い、俺はグランディアシードのサービス終了間際に、全てのレイドボスである各地の七星を倒した、という訳だ。


「……これで、どうなるか……」

「カイくん、どうしたの恐い顔して」

「実は……テレポが使えないか実験中」

「テレポってなんだい?」

「え? リュエ、知らないのかい?」

「うん」


 まさか、これはプレイヤー限定の記憶、知識なのだろうか。

 だとしたら……この世界では使えない? だが、さっきのシステムメッセージでは使用可能とあったはずだ。

 それから数分。メニュー画面から久しぶりにメールの着信音が鳴る。

 それも四回連続で。なんともタイミングが良い。




From:Oink

To:Kaivon

件名:出てきなさい

(´・ω・`)メールが来るという事は、今近くにいるのね!? どこです、出てきなさい!



From:Daria

To:Kaivon

件名:どういう事なのか

メールを使える事は知っていましたが、まさかこれは遠距離で送信されているのでしょうか



From:Syun

To:Kaivon

件名:同上

同上。今ダリアとジュリアと飯食ってる。コーラのレシピ残していったのマジグッジョブ


From:El

To:Kaivon

件名:どういうこと!?

嘘!? メール機能って生きてるの!? 私今まで一度も使えなかったんだけど!



 その返って来たメールの内容に思わず苦笑いを浮かべる。だが……やはりぐーにゃからは返ってこない。

 お前は……やはり死んだのか……?


「第一段階成功。あとはこっちに来られるかどうかだな……」

「め、メールが送れたのかい!? わ、私も使っていい!?」

「もうちょっと、もうちょっとだけ待ってくれリュエ」

「むう……」


 恐らく皆忙しいのだろう。すぐに自由に抜け出せるとは思っていない。

 ならば、もう少しこの屋敷で時間を潰そうと思ったその時だった。

 階下にある談話室から、大きな声が聞こえてきた。


「うっわ! 滅茶苦茶懐かしい! 本当にこれちゃったんだけど!」

「え!? エルの声だ!」

「エルさん!? どうして!?」

「……はは、成功しちまったよ」


 急ぎ階段を駆け下りると、ドレス姿のエルが、驚く程の……アホ面というか、口をあんぐりと開けた状態で談話室を駆けまわっていた。


「エル! どうやってここに来たんだい!?」

「あ、リュエっち。ねぇこれどういう事なの!? なんかメールも出来ちゃうし、ここにこれちゃうし! なに、カイさん本当にファストリアに来れちゃったの!?」

「ははは……その恰好から察するに、そっちは無事に国に戻れたんだな」

「あ、カイさん。うん、そう。今日ちょっと色々来客があって着替えてたんだけど……それよりどういう事か説明してくれる?」

「ああ。実は――」


 ガルデウスで別れてから、ここに至るまでの出来事を簡潔に説明する。

 俺が見つけたグランディアシードというアイテム。そして、それを植えた事による効果。

 それら全てを話し終えると、エルは頭がパンクしそうになったのか、ソファーに腰かけながら頭を抱える。


「ごめん……理解が追い付かない……これは世界があるべき姿に戻りつつあるって事なのかな」

「そうかもな。もしかしたら、この大陸、世界も元通りになるんだろうか」

「ちょっとこれは一大事よ……戦争が終わったと思ったら今度はこれなんて」

「悪いな。エル、ところで抜け出してきてよかったのか? 来客っていうと、今後の国についての面談かなにかじゃないのか?」

「そ。けどまぁ、今日はもうおしまい。いつものように塔に引きこもっていたところよ」

「なるほど。ちなみに、同じ内容のメールを他のみんなにも送ったんだ。もしかしたらみんなも来るかもしれない」


 それを告げた瞬間、三人が同時に『本当に!?』と喜びの声をあげたのがなんだかおかしくて。

 三人とも、急いで準備をしないと、とお茶を入れたりお菓子を用意したりするのだった。


「ねぇ、ちょっと外見に行ってもいい? 街がどうなっているのか見たいんだけど」

「さっきも説明したが、酷い有り様だぞ? それに魔物も徘徊してる。Lv1のお前さんじゃ危ないだろ?」

「うーん、それもそっか。あーあ、やっぱり少しは鍛えて置いた方よかったかなー」

「みんなが揃ったらパワーレベリングでもするか? ここ、かなり強い魔物が徘徊してる。たぶん豚ちゃんなんかは経験値アップ効果のある装備も持ってるだろうし、頼ると良い」

「それもそうね。ふふ、楽しみね。みんな……現実に見るとどんな感じなんだろう」


 エルは、俺達と出会うまではずっと一人だった。

 オインクにも、ダリアにも、シュンとも会う事なく過ごして来たのだ。

 リュエやレイス同じく、こいつも孤独だったのかもしれないな。


「ふぁぁ……カイさんごめん、ちょっと部屋で仮眠とっても良いかな? 今日は早朝から忙しくって……」

「お部屋にでしたら案内しますよ。二階です」

「うん、ありがとレイス。本当、お屋敷がこんなに広くって驚きよ」

「ああ、少し横になってな。みんながもし来たら起こすから」

「お願いね。さーて……どんな部屋にしていたかしらね? もう覚えていないわー」


 彼女を見送り、しみじみと思う。

 懐かしい、と。戻って来たのだな、と。


「驚きです……遠い場所にいる人が一瞬で現れるなんて」

「さっきも説明した通り色々条件があるんだけれどね。ただ、少なくとも今の段階だとオインクやシュン達がいる大陸にも一瞬で行けるって事になるのかな」

「むー……でもエンドレシアにはいけないって事だよね? 私の家がどうなっているか、そのうち様子を見に行かなきゃだよね……」

「……全部終わったら、一度あの森に戻ろうか」

「うん、そうだね。レイスにも案内したいんだ、私のいた森を」

「ええ、是非。全部……終わったその時は……」


 あの、森の中の小さな家。俺の始まりの場所でもある、幸せの象徴。

 そこに三人で戻るというのは、確かに楽しみだな。

 和やかな空気につつまれ、少しだけ気持ちが安らいでいたその時、遠慮がちに声をかけられた。


「良い雰囲気のところ申し訳ないが……無事に来られたぞ、カイヴォン」

「うお! シュンか! 一人なのか?」

「ああ。ダリアは夜まで時間がとれそうにないから、まずは確認もかねて俺だけ。一応検証もしてみたんだが、ジュリアにはテレポのゲートが見えなかったようだ。やっぱりチームメンバー限定みたいだな」

「相変わらず抜かりがないな。じゃあ……とりあえず今の状況を説明するから聞いてくれ」


 シュンが、若干気まずそうな顔で入り口前に立っていたのだった。


「シュン! 凄い、サーディスからも来られるんだね!」

「そういう事だ。三人とも、相変わらず元気そうでなによりだ。話は大体分かったが……これはどう見るべきか。今の状況、まるでお膳立てされているかのような流れに思えるんだが」

「だよな。消えた大樹とグランディアシード。そしてこのタイミングで俺達が揃う条件が整う……なにかしらの意図があるように俺も思っていたんだ」


 考察班というか、何か新しい要素が出るたびに攻略に力を割いていたシュンが加わる事により、現状を更に冷静に見る事が出来る。

 そうだ。シュンの言う通り今の状況は出来過ぎているというよりも、まるで大きな流れの一部のように思えてくるのだ。


「……お前の話の通りなら、残る七星は一体。そして天変地異が起きて隔離された俺達の世界が最後の大陸で、天界に辿り着く為の唯一の道が失われている。そして、その手がかりに触れた結果……世界の鎖が解かれ、チーム機能が復活。これはもう――」

「何者かが、言っているのでしょうね。私達に……全ての決着を付けろと。まぁ、途中から聞いただけですのでお話は分かりませんが。こんにちは、皆さん」

「っ! ああ、お前か……やっぱり見慣れないな、オインク」


 シュンの考察を補強するように口を出したのは、またしてもいつの間にか現れていた……我らが豚ちゃん、オインクだった。


「オインクだ!」

「おっとっと……ふふふ、お久しぶりです、リュエ」

「ふふ、違うよオインク。私がギュッてしたらおほーっって言わなきゃ」

「そうでしたね。おほーっ!」


 彼女の姿を見た瞬間、抱き着きにいくリュエ。

 はは、なんとも懐かしい。


「オインク。久しぶりだな。色々大変だっただろ」

「ええ、お久しぶりですぼんぼん。私にも、最初から説明して頂けますか?」

「ああ」


 どうせならばと、今回の事だけでなく、全てを話す。

 オインクと別れ、セミフィナル大陸を旅立ってから、今に至るまでの物語を。


「エルが今、二階で眠っているんですね……会うのが楽しみです」

「ああ、そうだ。ダリアがまだだが、起こしてくるか?」

「いえ、察するに彼女も今とても大変な時期なのでしょう。もう少し眠らせてあげてください」

「カイヴォン。この屋敷の訓練所は生きているのか? 後で手合わせを頼みたい」

「ああ、それはいいな。全員が揃ったら、現在の戦力確認もしておきたいしな」

「なんだか夢みたいだよ。みんながこの家に集まってるなんて……」


 かつての拠点に、続々と仲間たちが集結する。

 それは、きっとこの先で、俺達が何かに立ち向かわねばならないからなのだろう。

 ……昔とは、真逆だ。単独で七星に挑んで回り、一人で神を討った、あの時とは。


「……いよいよ、なんだろうな」

「ああ。その前にカイヴォン、一つ訊ねたいんだが……チムマス、ぐーにゃとは連絡が取れたのか?」

「あ、それです。彼はどうなったのです?」

「それが……アイツだけ、チームコマンドで居場所を確認出来ないんだ。もしかしたら、もう……」


 居場所が表示されない最後の一人。

 考えられるのは、既に死んでいるか、まだこの世界に来ていないかのどちらか。

 少なくとも、アイツにはサブキャラが存在しない。エルのように一時的にこの世界から消えている、という事もないはずだ。

 それを告げると、やはりオインクは悲し気に表情を歪める。


「残念、ですね。皆が揃うという意味でも……戦力的な意味でも」

「そうだな。あいつがいれば、装備面での心配も消えたんだが」

「そいつは仕方ないだろう、な。幸いこっちには豚ちゃんがいる。どうせ、ありえない量の装備を貯めこんでいるんだろ?」

「ええ、まぁそれなりには」

「さらに朗報だ。街の中で、唯一荒らされていないであろう場所があった。オークション会場だ。もしかしたら、何か有用な物が残されているかもしれないし、探索の価値はあると思う」

「ほう、そいつはでかいな。なら闘技場はどうだ? あそこにも何かありそうな物だが」

「なるほど。そうだな、全員が揃ったら今後の活動について方針を決めた方が良さそうだ。まぁ、ダリアはまだ暫く掛かるんだろ? シュン」


 懐かしい。チームのみでレイド戦に挑む時や、チーム対抗のバトルに挑む前のようなこの空気が。

 戦力的な心配は……もう、なくなったと見てもよさそうだ。

 そうして、今しばらく互いの近況報告や、ある程度の戦力確認を終え、日が落ち始めた頃、ついに最後の一人、ダリアが現れたのだった。


「これは……本当に全員が揃っている、という事なのでしょうか」

「遅かったな、ダリア。悪いが俺は先に来させてもらっているが、ジュリアはどうしてる?」

「彼女なら、貴方が消えたまま戻らないからと、血相を変えて私のところにきましたよ。後でたっぷり怒られてください」

「うっ……そうか、そうだよな」


 相変わらずの、聖女だ。そして――ある意味では、オインクとの因縁もある人間。

 オインクの願いをかつて切り捨てたのは『ヒサシ』としての人格ではなく、今の人格のダリアなのだから。

 かつて、変わってしまう自分の代わりに、ヒサシとしての人格を残したダリア。

 そして……頼みを断れないヒサシに代わり、オインクを切り捨てる選択をしたダリア。


「……お久しぶりです、オインク」

「ダリア……。随分と、お変わりになられた……というべきでしょうか」

「ええと……オインク、俺からも説明すると――」

「いえ、カイヴォン。これは私が話すべき事ですから」


 するとダリアに口止めされ、彼女は自分の口から、変わっていった己と、自分で生み出したかつての己、ヒサシの人格について語るのだった。


「私は自分の意思で貴女を拒絶した。それは、本当に申し訳なく思います。ですが……それを間違いだとは、言う事ができません。ただ……もう少し、貴女の気持ちを考えるべきでした」

「私も、今では立場ある身。今なら、十二分に理解出来ます。そして、いかに自分が軽率だったかを。貴女を、随分と悩ませる結果になってしまったみたいですね、ダリア」


 ダリアの小さな手を、オインクがそっと手に取る。

 分かり合えて当然だ。お前たちは、本質的に同じ。仲間の事を誰よりも思い、そして互いに立場ある身。一番の理解者同士なのだから。


「さてと……そろそろエルを起こしてやらないと文句を言われそうだな。ちょっと起こしてくるから、みんなはそうだな……何か適当に食べたい物でも考えておいてくれ。幸い、この屋敷の台所はしっかりとした物だからな」


 そうして、ある意味では最後の仲間になるのか?

 文字通り眠れるお姫様を起こしに、二階へと向かうのだった。

 ……まさか、本当にこんな日が訪れるなんて、な。


「……ばーか。なんで居ないんだよ、お前は」


 本当、お前は馬鹿だよ、マスター。


(´・ω・`)いよいよ最後に向けての準備が整いつつある一行

そして我が同胞豚ちゃんの再登場

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