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三百九十四話

(´・ω・`)本日単行本9巻の発売です

専門店では特典SSやブックカバー、あとなんか水玉コラなんて物が貰える場所もあるそうです。

電子版ブックウォーカーでもSSがあったはずです。

「……意外だな。建物は割と形を留めている」

「うん……ここ、私が最初に鎧を買った場所だ……あっちは、よく冒険が終わったら寄りに行った食堂……あはは……全部、全部残ってる……」

「気を付けてください……先程から何か気配がします……先の建物に、何かが……」


 あまりにも、懐かしくて。

 PCのモニタ越しに見ていた物とは、あまりにもリアルさ、鮮明さが違うし、微妙にディテールやサイズ感も違う。だが……それでも一目で分かるくらい、同じで。


「あそこは元クエスト斡旋所だね。ちょっと調べてみる」


 アビリティの[ソナー]を発動させ、この街……都市とも呼べる規模の街の中を魔力の波が反響し、正確な地図と、魔物の位置をこちらに知らせてくれる。


「多いな……それに明らかにボスクラスの大きな反応があちこちにある」

「本当に、全部乗っ取られているんだね……全部、やっつけるよ」

「はい。まずは手始めに、その建物から――」


 次の瞬間、扉が勢いよく開き、鎧を纏った大量のゴブリンが現れる。

 黒い肌。ゴブリンの中でも上位種だ。それに……あの鎧は、どうみても元はプレイヤー達が作ったであろう、最高品質の物だった。


「ラコール鋼の赤鎧。ダマスカスコート。ヒヒイロカネの胴鎧。随分と……不相応な物を身に付けているな、雑魚風情が」

「宝の持ち腐れだね。レイス、援護お願い。凍らせて一気に叩く!」

「はい! お二人とも、気を付けて!」


 大陸の外。終末の空に充満する悪性魔力。

 それをたっぷりと集め影響を受けているであろうゴブリン達は、人間と何ら変わらない動きでこちらの攻撃を躱し、陣形を取る。

 が……それが通用するのは、あくまでお前らが知る人間だけだ。

 こちらの攻撃を躱し、それを喜び、声を上げた瞬間、全員の足元が凍り、そこに光の雨が飛来する。

 奇声を上げるゴブリン達に、今度は俺の剣が叩き込まれ、一太刀で六つの頭が宙を舞う。


「出来るだけ、街は壊したくないからな」

「……どうやら、この建物に巣食っていたのはこの魔物で全てみたいです。どうします、中を調べますか?」

「や、それは後にするよ。今は……少しでも街の中の魔物を駆除したい」

「賛成。どうしようか、かなりの広さがあるけど、二手に別れるかい? ちょうどこの道で別れると、教会前広場で合流出来るけれど」


 その提案に今一度マップを見ると、その教会前広場に、大きな魔物の反応を見つけた。


「それで行こう。道中、かなりの魔物がいるから、二人とも気を付けて。教会前には大きな反応もあるから、お互い到着してから挑むこと。いいね?」

「はい。カイさんもお気をつけて」


 路地を進む。この辺りは、確かアイテムオークションを行う為の施設への隠し通路があったはず。

 どうやら、そこだけは魔物に見つかってはいないようだが、それ以外の道は様々な魔物で埋め尽くされていた。

 混合した種が一緒に行動している姿。これでは、本当にゲーム時代と同じだ。

 それに……いずれも高難度ダンジョンに住んでいたはずの種類ばかりだ。


「……殺し合った人間に比べて、お前らは随分と仲が良いんだな」


 もう何度目になるか分からない魔物の襲撃を退けながらひとりごちる。

 最後の日。あの日、ログインしていたプレイヤーはやはりこの世界には来ていないのだろう。だが、キャラクター達はこの世界に残された。

 セカンドやサード。使われていないキャラクターや、ログインしていなかったキャラクターでさえも。

 停滞した世界で、皆極限の強さを手に入れていた。そんな存在が不自由な世界に残され、倒すべき目標がなければどうなってしまうのか……。


「略奪……争い……そして大陸の外へ……か。そう考えると、俺達やリュエ、レイス、それに他の皆のサブキャラ達は……それらを避けるように別な場所で目覚めたって事か」


 何者かの意思。俺達だけ、他の多くのキャラクターとは違う、孤立した状態で目覚めたのは、きっと何者かの意思。

 それは、少なくとこの世界を狙う何者かとはまた違った存在のはずだ。


「そろそろ合流地点か。そうだな、考えるのは……アレを倒してからでいいか」


 教会前広場。全てのプレイヤーが、必ず訪れる場所。

 最初に作成されたキャラクターはこの教会から旅が始まり、そして街の外で死んだプレイヤーも、この街をホームに設定している場合は、この教会がリスポーン地点となる。

 間違いなく、全ユーザーがお世話になる思い出深い場所だ。

 そこに今、大型トラックをさらに二回り近く大きくしたようなトカゲが、全身から黒いオーラを放ちながら鎮座していた。


「ギガントランドドラゴン……にしてはデカすぎるしオーラも出ているな……けど[詳細鑑定]でも種類は合っていると出ているし……これが、悪性魔力の影響か?」


 もしかすれば、こういう存在が進化した末に、七星になるのかもしれないな。

 物陰に潜み様子を覗っていると、反対の道からリュエとレイスが現れ、こちらと同じくすぐに物陰に退避する。

 教会前の茂みの中を通り、彼女達と合流する。


「カイくんカイくん! あれなんだい!? 私あんなの見たことないよ!」

「私も……あの魔物にはさすがに恐怖を覚えます……悪寒が止まりません」


 声を潜めつつもリュエが必死にそう主張し、レイスもまた恐ろしそうに顔色を青くする。

 そうだろう。少なくとも、今確認したあの魔物のレベルは……。


「……アーカム程度なら一蹴するレベルの強さを持っているよ、あれは」

「……ちょっとそれはシャレにならないんだけど? どうする、戦うかい?」

「あの……そんな相手に私は戦えますか……?」

「レイス。君は、もうあの頃とは違う。俺の目には君の強さがはっきり映っている。君は……もう既にアーカムの強さを越えているんだよ」


 レイスを励ます。それは嘘偽りではなく真実。彼女は、闘技大会やサーズガルドでの戦いで……既にレベルがアーカムを越えていたる。

 そしてリュエもまた、長らく上がってこなかったレベルも上がり、それどころか一度七星が落とした果実を食べた影響もあり、魔力の値がおかしな事になっているのだ。

 それらの事実を伝え、もう二人とも、俺に並ぶ、それどころか越えかねない強さを持っていると伝える。


「リュエ。全身全霊でこの周囲に結界を。被害が広がらないように」

「了解。カイくん、全力を出すつもりだね?」

「レイスは、俺の一撃の後に間髪入れずに再生術で魔力を充填。全てを込めた一撃でダメ押ししてくれ」

「了解です」


 そして、戦いを始める前に、念のためある事を試してみる。

 禁じ手だ。悪いがここを取り戻すのに手段を選ぶつもりはないんでね。


【カースギフト】発動

対象:ギガントランドドラゴン

[生命力極限強化]→反転付与


 もしも通じるのなら、三〇秒で命が尽きる。

 卑怯で結構。いつもは使わないが、その気になれば見ただけで相手を殺せるのだ。

 だが――


「チッ……こいつも七星と同じで大地のバックアップ持ちか。スリップダメージより自然回復の方が遥かにデカい」


 残念ながら、この速度でHPを削ったところで倒す事は不可能、と。

 やはり強大な一撃で一機に削りきるしかないようだ。


【ウェポンアビリティ】

[滅龍剣]

[氷帝の加護]

[絶対強者]

[全ステータス+20%]

[全ステータス+15%]

[クリティカル率+15%]

[クリティカル率+20%]

[与ダメージ+15%]

[与ダメージ+20%]

[アビリティ二倍]


 シンプルに、ただダメージだけを増やす為の構成にする。

 だが、ここまでしても殺しきれる保証がないのだ。

 信じられない事だが、ただ街の中にいるだけの癖に……こいつは、実際にはプレシード・ドラゴン。そして……七星を取り込んだフェンネルですら越えるステータスを持っていた。

 それに加えて馬鹿げた回復力。これは……さらに念を入れるべきか。


「二人に加護を。ごめん、あの龍の強さは……たぶん龍神の次くらいに強いと思う」

「え……そんな、こんな街の中にいるだけの魔物なのにかい?」

「信じられません……本当に、勝てるのでしょうか……」

「勝つよ。絶対に」


【カースギフト】

対象者:レイス

[極光の癒し]→付与


対象者:リュエ

[魔力極限強化]→付与


対象者:カイヴォン

[簒奪者の証(龍)]→付与



【フォースドコレクション】

対象者:ギガントランドドラゴン

[大地の守り]→簒奪


【スキルバニッシュ】

[大地の守り]→消去



「む……一度消したら二つ目は奪えないのか」


 どうやら、相手の持つスキルを全て消す事は出来ないようだ。

 だが、それよりも気になる事がある。


「そうか……違和感の正体はこれか……?」


 自分のステータスを覗いた時、以前少し違和感を覚えた。

 俺の職業は[解放者]となったはず。だが、今確認すると[奪命騎士]に戻っている。

 あれは一時的な物かとも思っていたのだが……どうやらそうではないようだ。

 剣を地面に置く。するとその瞬間、職業が[解放者]となる。

 あのヨロキとの戦いの時、俺は剣を持っていなかった。それが、関係しているのだろうか。


「……一部のスキルも消えるのか。武器依存のスキルなのかね」


 そして、奪剣を手に持つと現れる、未だ使った事の無いスキル達。

 これは……落ち着いたら試すべきか。


「よし、準備完了。もう一度おさらいするよ。開幕リュエが結界。そして間髪入れず俺が最大の一撃をお見舞いする。それでダウンは奪えるはずだから、レイスはその間に魔力吸収。リュエは起き上がる前の竜をさらに氷で足止め、俺は断続的に攻撃をして惹きつけるから、レイスが最大の一撃を、出来れば弱点になりそうな場所に叩きこむ。魔眼なら恐らくある程度目ぼしはつけられるはずだから」

「う、うん。ちょっと緊張してきたけど……今ならやれそうな気がする」

「はい。既に確認済みです。尾の付け根にある、大きな突起が弱点のようです」

「了解。リュエ、その部分は氷で覆わないようにね」

「分かった」

「じゃあ……次にあの竜が反対の路地を向いたら、作戦決行だ」


 緊張感がこちらを満たす。

 いつもとは違う。ここには、俺だけじゃない。リュエとレイスもいる。

 ここまでの相手を、俺達だけで戦わなければいけない状況だ。

 二人にもしもの事があったら。その不安が、微かにこちらの足を遅くしてしまいそうだ。

 だが同時に『なんとしても二人を守る』という気持ちが、胸に火を灯す。

 そして、ゆっくりとドラゴンが反対の路地の方へ向いた瞬間――光の壁が、周囲の建物を守るように展開された。


「こっちだ!」


 駆け寄り、振るわれる尾を踏み、さらに電灯に飛び移り更に高く。

 剣を振り回し自分の身体を高速できりもみ回転させ、その勢いのまま――技を放つ。


「天断!」


 頭から首のつけねにかけて大きく引き裂き、おびただしい量の血が広場に散らばる。

 絶叫。動かすたびに激痛が走るのか、こちらを向きながらも口を大きく開き絶叫を上げ続けるドラゴン。


「ダウンはとれないか」


 再び駆け寄り、首を動かす事を嫌ったドラゴンが出鱈目に前足を振るう。

 その一つを、剣で受け止めながら、深く切り裂き掻い潜る。

 そしてもう片方の前足に剣を突き刺し――


「“バーンストライク”」


 数少ない剣術による属性攻撃。

 炸裂する刀身に、左前脚が破裂。ついにダウンを奪う。

 そして、破裂と同時に[氷帝の加護]の効果により、徐々に首と前足が凍り始める。

 あくまでうっすらと。だが、すぐにそれを後押しするかのように、周囲に散った血液が凍り付き、そのまま竜の身体を地面につなぎ止める。


「まだまだー!!! 凍れ凍れ凍れ! 全部凍ってしまえ!」


 リュエの魔導が、ついに竜の体内にまで届き、身体どころか、右目から氷の棘が生えだし、さらに前足が氷の棘に覆われる。

 身動きを封じられ、さらに内部からのダメージ。

 だが、まだ体力は尽きないのか、全身を猛烈に振動させ、氷を砕き始める。


「もういっちょ!」


 全力の振り抜き、天断(降魔)を発動させる。

 もう一度剣を振り下ろした時に発生する斬撃を浴びせる前に、右の拳で強く強く首をカチ上げるように殴りつけ、そして斬撃を降らせる。

 一番傷が大きい首を狙っての集中攻撃、さすがにこたえるだろう。

 ついに首を下げ、大量の血を吐き出す竜。

 そこにさらにリュエの氷魔導が炸裂し、口を完全に血の氷で塞いでしまう。

 呼吸を奪い、傷だらけとなったところに、さらにもう一押し。

 身体から赤黒い炎を噴出させたレイスが駆け寄り、拳に全ての炎を移しながら、ダウンした頭に思い切り一撃を叩きこむ。

 バキリと、グシュリと音をさせながら、完全に頭に刺さるレイスの腕。

 貴人というよりは鬼人。眩しい程に瞳を赤く輝かせたレイスの攻撃に、完全に原型を失う竜の頭。


「リュエ、ダメ押しに聖魔導で拘束! レイスは一度引いて魔弓の構え! まだ、死んでない!」


 剣を上段に構え直し、恐ろしい速度で再生する頭を何度も叩き潰し、そこにリュエの拘束が発動し、再生の邪魔をする。

 レイスの放つ赤い光線が幾度となく全身を貫き。そして、ようやく回復する様子を見せなくなったところで――


「“剣神に祈りを捧げ、ただ天を断たんと欲する。終わりを等しく与え、仰ぎ見るべき天空を切り裂き、新たなる秩序をこの手で生み出さん。我が身を糧に、ここに極限の終わり、新たなる理の誕生を約束せん”」


 詠唱。かつて……レイスの身体ごと七星を消滅させた、二つの意味で使う事を躊躇ってきた技の為に。

 狙いは、レイスに教えられた弱点、尻尾の付け根にある突起物。


「“天断(終極)”」


 降り注ぐ光が、こちらのHPと共に竜の残り僅かなHPを減らし続ける。


「リュエ、俺に回復をかけ続けてくれ」


 今回、俺は攻撃力に全てを捧げた構成故に[生命力極限強化]を使っていない。

 足りない部分は、他が補ってくれる。リュエが、レイスが、俺のアビリティでは成し遂げられない事を成し遂げてくれる。

 そして――完全に竜の身体が消え、聞きなれた音が脳内に響くのであった。


「……さすがに、もう前みたいに馬鹿げたレベルアップはなしか」


 それでも、一度の戦闘で二もレベルが上がる。

 そしてリュエもまた、思わず頭を抑える程のレベルアップの反動を受けているようだ。

 ……という事はレイスは……。


「い、痛い痛い痛い……痛いです……頭が……割れそうです」

「はは……少し我慢してくれ、レベルアップの反動だから」

「うう……」


 確認してみると、どうやらレイスは今の戦闘で二一ものレベルが上がったようだった。

 ……恐ろしいな。街にいるボスの一体だけでここまで粘られるんだ。

 この後、さらに数体、もしかしたらさらに増えるかもしれないと思うと、若干の戦力不足を感じてしまうほどだった。


「ふぅ、ふぅ……カイさん、ようやく、おさまりました……」

「お疲れ様、レイス、よく頑張ったね……大金星だ」

「私も、ここまで神経を使う戦闘は久方ぶりだよ……カイくんも慣れない指揮、お疲れ様」

「ああ、正直かなり火力一辺倒な作戦だったけれど、倒せて良かったよ。本当……めっちゃくちゃ強かったなコイツ……その癖アビリティもドロップ品もないし」

「ね! 何か凄い剣とかアクセサリーとか落とすと思ってたよ私は!」


 冗談めかしながら、憤慨して見せるリュエにようやく肩の力が抜ける。

 ああ、本当に強い。これが……今のセントラルシティを取り巻く環境なのだとしたら……ここからの戦いはかなりの長期戦になってしまいそうだ。

 その時、レイスが未だ魔眼を発動させたままだという事に気が付いた。


「レイス、何か気になるのかい?」

「あ、はい。実は先程竜が死ぬ間際の魔力の流れを観察していたのですが……一瞬、あちらの教会に魔力の流れが通じたように見えて、今はそれが途切れていて……もしかして教会を守護していたのではないかな、と……」

「ふむ。教会の警護……? 何かあるのか?」

「調べてみようよ! ある意味だと……私達三人が生まれた場所でもあるんだ。レイスも一度見てみたくないかい?」

「あ、それは是非! 何か、記憶にあるかもしれませんし」


 何かあると思われる教会。懐かしい、俺達の始まりの場所。

 その扉を開き中へ一歩踏み込むと……想像だにしていなかった光景が目に飛び込んできた。


「な、なんだいこれ!? 木の根……? これ、奥に行くのも一苦労だよ!」

「なんだ……まるで木の根元だ……どこから伸びてるんだ、これ」

「え、ええと……元からこういう場所ではないのですよね……?」


 聖堂が、木の根でうめつくされていた。

 床だけではない。縦横無尽に伸びた根が、置かれていた椅子などを持ち上げ、まるで蜘蛛の巣でも張っているかのように、木の根で埋め尽くされているのだ。

 室内だと言うのに、まるでジャングルの中でも進んでいるかのように、剣で根を払いながら祭壇へと向かう。


「ここだ……この祭壇の前に、俺達は降り立ったんだ。で、ここで神父さんと会話した後に外に出て……冒険が始まるんだ」

「私の時は、神父さんの話も聞かずに外に飛び出したんだけどね!」


 あ、それはたぶん俺がイベントスキップしたからだと思います。そうか、リュエからするとそういう状況だったのか。……いやぁ、さすがに二人目となると……ね?


「で、外にシュンとダリアがいたんだよ」

「なるほど……」

「レイスの時は、外に出た瞬間、エルもオインクも、シュンもダリアもいたはずだよ。まぁぐーにゃは工房にこもりっきりだったけど」

「あーそうそう。ぐーにゃって人気だったからね、外に出るといつも誰かに装備を作ってくれーって頼まれていたし」

「ぐーにゃさん……その方が、最後のお仲間……なんですね?」


 ああ、そうだ。あいつは貴重な生産職の中でも、特に需要の高い鍛冶職人だった。

 全てのレシピをマスターし、さらに職人レベルが高い事もあり、オリジナル武具作成でも高い能力を秘めた物を作る確率の高い、まさしくゲーム中最高峰の職人だった。

 まぁその反面、ネタに走った装備を作る事も多かったのだが。


「この教会、名前がなかったよな、そういえば。にしてもこの根はなんなんだ……」

「ねぇ、この根っこ辿ったらさ、奥の部屋に続く扉があるんだけど、あっちって行った事ないんだよね」

「む? あっちか……たぶん懺悔室か何かかな、俺も行った事がないよ」


 正確には、侵入不可エリア。ただの背景として描かれており、実際には入る事が出来ない場所。だが、この世界においてそんな侵入不可エリアなんてものは存在していない。

 平然とリュエは扉を開き、中へと一歩踏み込んだ。


「こっちは一段と密集してるなぁ……もしこれで虫とかいたら嫌だけど、幸い生き物はいないみたい」

「そうみたいですね……何か植物が奥に生息しているのでしょうか……」

「ふむ……」


 大樹が失われた街。封じられた教会。木の根。

 繋がっている気がする。

 そうして廊下をなんとか進んで行くと、地下へと続く階段が現れる。

 そこを降りていくと、今度はまるで地面の中のような、土壁で覆われた地下道に出る。

 こんなエリアがあったのか……。


「なんだろう……全身がむずむずするような、変な感じ」

「私もです……なんでしょう、この先に何かあるのでしょうか」

「さすがに鬱陶しいな……二人とも後ろへ。一気に道を切り開く」


 いつの間にか、木の根がどす黒い色へと変化し、若干蠢いているようにも見える。

 その不気味な根を、一片に切り開くと、最奥に立派な扉が見えていた。

 だが、今切り開いた根が瞬く間に道を塞ぎ、再び不気味に蠢き始める。


「カイくんもう一回! 今度は凍らせて止めるから、一気に駆け抜けよう」

「了解! レイス、走る用意を」

「はい!」


 一閃。そして間髪入れず青白い冷気が地下を満たし、根の動きを止める。

 そして、その扉まで駆け抜けたのだった。


「ふぅ……扉、開けるよ」

「なんだろう、こんなにワクワクしたのは何百年ぶりかな! お宝発見できるかな!?」

「ははは、たしかにダンジョン攻略を思い出すな」

「確かにドキドキしますね……こんな場所に何があるのか……神聖な物でしょうか」


 扉を開く。すると、どうやらこの場所は木の根による浸食から逃れられている様だった。

 そして、上にあった祭壇と似た物が設置され、その上には……。


「あ、でっかいナッツだ」

「本当ですね、アーモンドによくにているようですが……随分大きいですね」

「お宝じゃないけど……もしかして食べたら強くなれるかも? 砕いて食べようか!」

「待て待て待て待て! 二人ともなにいきなり食べようとしてるの! ちょっと俺にも調べさせてくれ」


 ワクワクが最高潮に達していたのか、ウッキウキでトンカチや調理道具を出している二人に慌てて待ったをかける。

 ええ……リュエはともかくレイスまで……そんなに楽しみだったのか。


「……ふむ。これで杏仁豆腐でも作ればいっぱい食べられそうだな……って違う違う。ちょっとアイテムパックに一度入れて……」

「アニンニンドウフってなんだい? 作っておくれよ」

「オトウフでしたらミササギで食べさせてもらいましたね。甘くないババロアです、あれは。私は余り得意ではありませんでしたが、ショーユをかけて食べると途端に美味しくなるんです」

「二人ともちょっと食べる事から離れて? ちょっと調べてみるか……ら……」


 ……なんだよ。こんなとこで、お目にかかれるとは。


「はは……こんな……近くにあったのか。ゲームじゃいけない場所にあったとか、ふざけてるだろ」

「うん? カイくん、どうしたんだいおかしな顔して」

「何か、知っている品だったんですか?」

「……初めて見たよ。でも、知ってる」


 アイテムボックスから、この大きなナッツ……いや、種を取り出す。


「これ、ちょっと俺が預かっていいかい?」

「う、うん……でも勝手に食べちゃったりしちゃダメなんだからね? 私が言えた義理じゃないけれども」

「……カイさん、どうしたんです。それは……一体なんなんですか?」


 アイテムボックスに再び収納し、そこに表示される名前を見つめる。

 これを、二人に見せてもきっと何も感じないだろう。なにせ、知らないのだから。

 だが、俺は知っている……いや、俺達プレイヤーは知っている。


「……このアイテムの名前は……『グランディアシード』って言うんだよ」


 そう。俺達がプレイしていたゲームのタイトルであり、最後まで関連するストーリーやアイテムが見つけられなかった存在。

 ある意味では、全プレイヤーが探し求めていたとも言えるアイテム、そのものだった。


「グランディアシード……? それはどういう物なんだい? 食べられるのかい?」

「いえ、種となると毒があるかもしれません。もしかして……植える事で効果を発揮するのでしょうか?」

「そうだ! きっとその実が凄いお宝なんだ! どこかに植えてみようよ!」

「あ、ああ……そうだ、確かにこれは植えた方が良い気がする……」


 失われた大樹。もし、それがこの種に関わる物だとしたら……。

 かつて大樹が生えていた場所に、これを植えるのは正しい事、そんな風に思えた。

 ……これは予感ではない。ただの勘。ゲーマーとしての勘だ。


 どうやら、この種が失われた事で、木の根は活動を終えてしまったように見えた。

 目に見えてしおれている大量の根に、もしかしたら誰かの手に渡った段階で、これは諦めてしまったかのように思えてくる。

 だとすると……これを俺達が植えたら、何者かは困る……のか?


「そういえば、天界には大樹が無いと行けないんだったな……まさか」

「まさかカイくん、天界に行くつもりかい?」

「ああ。もし……最後の七星がいるとしたら、そこなんじゃないかって」

「最後の七星……この街のさらに上となると……悪性魔力がどれだけ注ぎ込まれているか……」

「逆じゃないかい? たぶん、そこまで魔力は届かないよ。むしろ……隔離されて弱っているんじゃないかい?」

「……なるほど。隔離されている……か」


 教会を出ながら、大樹があった場所、都市の中央を目指す。

 途中、大きな魔物に遭遇したのだが、その強さは先程戦ったドラゴンと比べ、あまりに弱すぎる。

 いや、十分に強くはあるのだが、あれと比較すると、どうしても肩透かしを食らってしまうのだ。

 やはり、あの教会を守る、特別な魔物だったのだろうか。


「どんどん……街が荒れていくね。中央で大樹を切り倒しちゃったんだっけ? そんなにひどい争いがあったなんて……」

「……なんだか悲しいです。私やリュエと同じような人間が……沢山死んだのですよね」

「そう……だね。この辺りはね、チームホームや個人用の家がある区画なんだ。だからたぶん……みんなここで目覚めて、ここで暮らしていたんだと思う。だから……色々軋轢も生まれ、それが膨らんでいったのかな……」


 やがて見えてきた、ゲーム時代よりも遥かに広いその区画。

 数多くの屋敷や家が立ち並んでいるが、そのどれもが……原型を留めていなかった。

 まるで、紛争地帯の街。そんな印象を抱かせる程荒れ果て、歩くだけで胸が締め付けられる。


「もう少しだ。あの区画、中央区画に大樹があって……」

「うん。そして、そのすぐ傍に……私達の家が、あったんだよね」

「私達の……? ダリアさんやシュンさん、オインクさんやエルさん、ぐーにゃさんと一緒に暮らしていた……?」

「そうだよ。区画の中央だったからね、屋敷を建てる時にこの場所を引き当てたチムマス……ぐーにゃにはみんな感謝しているんだ。なんていったって……周囲に自慢出来るからな」

「あはは、そうだったね! みんな嫌でも私達の家の前を通るんだ。だから、とびっきり豪華にして、ものすごーく自慢してたんだよね」

「……ちなみに、一部の人間は俺がいるせいで『なんちゃって悪魔城』なんて言ってたっけ」


 全く失礼な連中だ。ドゥドゥドゥドゥドゥドゥエの刑だな。


「見えてきた、こりゃ……見事に焼け野原だな」

「これは酷いね……私が浄化してみるよ」

「そうですね、これでは植物が育ちません」


 リュエが剣を構え『ディスペルアース』を発動させると、赤黒く変色した土や、枯れて朽ちた大樹の破片などがすべて砂となり、そしてさらに分解され、綺麗な土となる。

 そして、地面から小さな草の芽が出てきたところで、リュエが一息ついた。


「ふぅ……たぶん、ここに誰かが死体を沢山埋めたんだと思う。凄く……汚染されていた。でも、悪意は感じられなかったね。たぶん……誰かが弔ったんだと思う」

「そうか……じゃあ、この種、植えてみるよ」

「うん、そうだね。ふふ、ある意味肥料がたっぷりだね!?」

「リュエ、さすがに不謹慎ですよ!」

「ご、ごめんごめん。場を和まそうと思って……」


 彼女のブラックなジョークが地味にツボに入りながらも、土を少し掘り起こし、種を置き土をかける。

 今更だが、これを植えたところですぐに芽が出るとは思えない。

 だが――次の瞬間、再び聞きなれた音が脳内に響く。




[システム]グランディアシードを大地に返した事により、世界の理との接続が回復。

     条件を満たした事により、機能制限を解除。

     ホームの利用が可能になりました。

     チームコマンドの利用が可能になりました。

     共有倉庫からのアイテム引き出しが可能になりました。


「……マジかよ」

「うん? どうしたんだい? まさかもう芽が出たのかい?」

「いえ、そうではないみたいです。カイさん……?」


 俺は、震える手で、メニュー画面を操作する。

 そして映し出された項目に、思わず心臓が止まる程、驚いてしまうのだった。


テレポ発動可能メンバー一覧


Daria……現在地 サーディス大陸サーズガルド

Syun……現在地 サーディス大陸サーズガルド

Oink……現在地 セミフィナル大陸アギダル

El ……現在地 セカンダリア大陸メイルラント帝国

Ryue……現在地 ファストリア大陸セントラルシティ

Raith……現在地 ファストリア大陸セントラルシティ

Kaivon……現在地 ファストリア大陸セントラルシティ

Gu-nya……発動不可


(´・ω・`)みんなー!

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