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三百九十三話

(´・ω・`)終わりまでのカウントダウン開始

「父さん、母さん! お客さんを連れて来たよ!」

「ケント! どうしたの? それにそちらの方々は……」

「もしかして、新しい行商の方でしょうか? それでしたら村長の家に……」

「違うんだ! この人達は、大陸の外からやってきたんだよ!」


 そこは、簡素で小さな、これまで世界を旅してきた中で、最も小さく未開な印象をうける村だった。


「またそんな事を言って……ごめんなさいね、この子ったら毎日あの砂漠に行くものだから、ちょっと夢見がちで」

「本当に申し訳ない。ささ、私が村長の家までご案内します。しかし、今回の担当さんは随分と……その、若いと言うか、美しいと言うか……」

「違うってばー! あそこは砂漠じゃなくて浜辺なんだってば!」


 案内された家で子供の両親が、まるで信じていないように話しを進めていく。


「いえ、その子供、ケント君が言っている事は正しいです。私達は、先程竜に運ばれ、この地に降り立ったところです」


 水を討ったような静寂。そしてどこか神妙な顔のまま、父親がこちらに付いて来るように言い、まるで家族から引き離すように、村の中を急ぎ足で進んで行く。


「子供の話に合わせている訳ではないのですよね。すみませんが、怪しい人間は村長のところへ連れて行く決まりになっています」

「いえ、こちらも助かります」


 奇異の目にさらされる。

 どこか質素な村の中では、俺達に服装は目立つようで、皆口々に『どこから来たのか』とざわめいていた。


「カイくん……なんだろう、ここ、本当に神隷期の世界……なのかな?」

「気の遠くなるくらい、時間が経っているのかもしれないな……」

「そう、ですね。それに村の中に遺跡……のような残骸も多く見られますし」


 かつて、何かの建造物だったと思われる廃墟。

 それらを利用した家や、井戸が目立つ。

 やはり……この大陸でも文明が一度リセットされたのだろうか。

 そうして、村の一番奥。大量の瓦礫に囲まれた一際大きい家に辿り着く。


「失礼、村長は御在宅でしょうか」

「ああ、ケント君のお父さんですか。お爺様でしたら先程集落の集まりから戻られましたよ」

「分かりました。では、少々お邪魔しても?」

「はい、どうぞ。そちらの三人は……見たところ、中央の地区から参られたのでしょうか?」

「……そんなところでしょう。では、失礼します」


 年の頃、一六かそこらの娘さんに連れられ、家の中へ。

 やがて一つの大きな部屋の前で、少年の父親が言葉をかけた。


「村長『特別なお客人』を連れてきました」


 すると、部屋の中から何やら物音がし、少々緊張感に満ちた声が返って来た。


「入られよ、お客人」

「……では、失礼します」

「同じく失礼します」

「失礼します」


 開かれた扉を潜った瞬間、中にいた老人の手、そこに握られた杖から光の輪が飛来する。


「捕えた! して、この者達はどうやってここに」

「ケントが、どこからか連れてきてしまったのです。申し訳ありません、村の宝まで使わせてしまい」

「うむ……じゃが、これで安心だ。やはり、予め合図を作っておいて正解だったの」


 まるで、最初から俺達を捉えるつもりであったかのようなやりとり。

 そして今俺達に巻き付いている光の輪は……確かゲーム時代の品。


「申し訳ありません。これでは俺達を――とめられません」

「懐かしいねー、確かバインドステッキだっけ? 結構高いよね」

「なるほど、そういう物なんですか」


 プチプチと、まるで糸でも切るようにちぎられる拘束。


「なあ!? おぬしらは一体何者じゃ! 儂らの村になんの目的が――」

「いえ、だから少しお話を聞きたくて……やっぱり信じてもらえていなかったんですね」

「話……? どういうことじゃ?」

「いえ……またケントがあの砂漠で……言葉巧みに騙されたようで」

「騙すとは何だい? 私達は子供に嘘なんてつかないよ! 本当に、あの浜辺にさっき降り立ったばかりなんだってば!」


 閉鎖的な、排他的な。だが、当然の反応をする大人達。

 だが、拘束を破ったことで少しは話を聞く気になったようだった。


「俺達は、ここの隣の大陸。セカンダリア大陸から、竜に連れられてこの地に辿り着きました。ここは……ファストリア大陸で、間違いありませんよね?」

「ふぁすとりあ……? 村長、彼等は一体何を……」


 この大陸の名前ですら忘れられているのか、ケント少年の父親が怪訝そうな表情を浮かべる。だがそれとは対照的に、村長はというと――


「少し、下がりなさい。この客人と少し話がしてみたい」

「は……? いえ、ですがそれは……」

「よい、下がるのじゃ」


 父親を退出させ、村長がじっとこちらを見つめる。


「客人……ファストリアと、この地を呼びましたか?」

「はい。ここは、ファストリア大陸です。それは間違いないです」

「それを……どこで知りましたか」

「外の大陸で。俺は、ここがそういう名だとは元々知りませんでした。少なくとも……俺がこの地に住んでいた頃は」

「っ! まさか、貴方は……古の民の生き残りか!」


 瞬間、村長が再び杖を取りこちらを警戒する。

 古の民? まさか、俺達と同じゲーム時代の人間が、この大陸にいるとでも?


「村長、教えてください。この大陸の事を全て。俺達は……長い旅路の末、ようやくこの大地に辿り着きました。決して貴方達の害になる事はしません。望むのなら、どんな願いだって叶えます。金も、食糧も、武力も。だから、教えてください」


 脅す事なんていくらでも出来る。だが、どうにもこの場所で、人の道、即ちルールを破るような真似は憚れる。

 それは、やはりゲーム時代の意識が働くからなのだろうか。


「本当になんでもあげるよ! 美味しい魚もいっぱいあるし……」

「外の金銭に価値があるかはわかりません。ですが、本当に私達は今、情報を求めています。何も……本当に何も分からない状態なのです」

「お願いします。一体……この大陸で何が起きたのですか……」


 沈黙。だが、俺はともかくリュエとレイスの懇願は、彼の心に迷いを生んだようだった。

 教えて欲しい。ここは、ゲームが終わりを迎えてからどうなったのか。

 俺は気が付けば、ゲームが終わった瞬間から千年以上経った世界に生れ落ちた。

 リュエですら千年。もしかすれば、本当はもっともっと時間が経過していてもおかしくはないのだ。

 風化したダンジョン。浮上した大陸。世界に放たれた七星。

 少しでも良い。なにか……情報を与えてはもらえないだろうか。


「……客人は、この戒めの杖をやぶった。そんな事が出来るのは、余程の強者。だが、そんな者を儂らが知らない筈がない。恐らく、外の大陸からやってきたのは間違いないのでしょうな」

「はい。そして……かつてこの地が、多くの強き人間で溢れかえっていた時代に、ここで暮らしていました」

「……やはり、古の民なのですな……」


 まるで観念したかのように、彼は語る。

 伝承。神話のようなあやふやな物語。だが、それは十分な情報を俺達に与えてくれた。


「『グランディア・アース』この地の名前です。力ある魔物が各地を支配下に置き、そんな魔物に多くの戦士が挑む、試練の地。天を貫く大樹を大陸の中心に奉り、危険と平和が隣り合わせの、そんな土地だったと伝えられております」

「グランディア・アース……」


 その名前ですら、俺の記憶にはない。だがあのゲームの名前は『グランディア・シード』というものだった。これは、きっと偶然ではないのだろう。


「儂らの祖先は、そんな戦士達ではなく、ただここで暮らしている住民にすぎなかった。強き戦士達に平和を維持してもらい、わしらは日々の糧を得ながら、ただ平穏に暮らしていたと言われております」


 それは、つまり彼らの祖先はNPCのように、街や村々に住んでいた人間だったという意味なのだろうか?


「……戦士達は、どこに行ったのですか?」

「ある時、この大地から力ある者が消え、ようやくの平穏が訪れた。『七星』と呼ばれる存在が、一人の剣士により討たれたと、戦士達は口々に言ったそうですじゃ」

「あ! その伝説は私も知っているよ! どこで聞いたんだろう……」

「もしかすれば、古の民の生き残りが下界へ渡れたのかもしれませんな。平穏が訪れた世界には、多くの戦士達がただ残されていたそうです。だが……力は、向けるべき相手がいないと、それを互いに向けあってしまうものなのです」


 そこからは、正直冷静に聞くことが難しい内容だった。

 俺の行動は、確かに世界を解放したのだろう。だがその結果として、リュエやレイスのような、プレイヤーではないが、プレイヤーにより生み出されたキャラクター達を大量に世界に放つ結果となったようだ。

 プレイヤーと、ゲーム内のルールという枠組みにより抑えられていたキャラクター達。

 強大な力を持つ者達が自由を、何者にも縛られる事の無い世界に放たれたらどうなるのか。


「一部は、大陸を離れたと聞きます。そして大半の残った者達は、互いに奪い合い、国を興し争い、長い時間をかけて……ゆっくりとその数を減らしていったのです」

「……その争いの結果が、荒廃した大地……だと?」

「それも、一因なのでしょうな。ですが、それだけではないのです。先も言ったように、この地は中心に大樹を奉っていました。ですが……争いの果て、その大樹が失われ、そこから見る見るうちに荒廃が進み、やがて……天変地異が起き、我らは隔離されてしまったのです」


『大樹』とはなにか。無論、知っている。

 セントラルシティの中央に存在する大樹であり、ゲームのシンボルであると同時に……ラストダンジョンでもある場所だった。

 俺が最後に挑んだ七星『神』が待つ天界フィールドに唯一通じる道であり、侵入には数多のダンジョンをすべてクリアしている事が条件とされている場所。

 始まりの街にあるスポットが実はラストダンジョンだったという事で、当時は話題になったものだ。

 その大樹が……失われた?


「古の戦士の騒乱。長く続く争い。そして失われし大樹と、引き起こされる災い。その伝承だけが、我らには伝わっております。貴方達は……その時代に外に逃れた戦士達の生き残り……ではないのですかな?」

「……たぶん、それに近い状況なんだと思います」

「うん……私は、気が付いたら別な大陸にいたんだ。それに今分かった。私は剣士の伝説を外で知ったんじゃない。たぶん……この場所で聞いたんだと思う……世界が終わる前に」

「私は……残念ですが何も覚えていません……ただ、少しこの大陸の空気は……懐かしい気がします」


 俺が、この大陸の荒廃の引き金になったのではないか。

 そんな思いも確かにある。だが……やはり、争いを起こしたのはその人間達だ。

 そう割り切り、胸に溜まった澱のような思いを一息に吐き出す。


「今、セントラルシティ、大樹のあった街はどうなっていますか?」

「争いの中心であるあの地は、大樹が失われた事で加護失い、今では魔物の住処となっております。討伐を試みる者達も太古の時代にはいたようですが、やはりそれもかなわず……」

「……そっか。ねぇ、あの街を解放出来たら、君達は喜んでくれるかい? なんだか、凄く……私達と同じ世代の子達が迷惑をかけたみたいだもん、何かしてあげたいんだ」


 リュエがそう提案する。ああ、確かにその通りだ。

 プレイヤーではなくても、そのプレイヤーにより生み出されたのには違いない。

 そして、現状唯一生き残っている俺達が……その責任を少しでも負おうとするのは、間違いじゃない。

 それに……なんだか気分がよくないじゃないか。俺達の街が、魔物に奪われているなんて。


「本当に可能ならば、それほど助かる事はありません。各地方へ渡るには、元はあの街を通り抜ける事が必須でしたが、それが出来なくなってからというもの、険しい道を少数で渡る事でしか互いに行き来できなくなっています。もしも……本当に可能ならば、我らだけでなく、他の地に住まう者も救われる事でしょう」


 その会話の最中、俺はこの村長さんのステータスを覗いていた。


【Name】ボーゲン

【種族】ヒューマン/只人

【職業】村長

【レベル】1

【称号】村長

【スキル】なし


 あまりにも、全てが低すぎるのだ。

 もしかすれば『只人』と種族に入る者は、キャラクター的な成長が出来ないのではなかろうか。

 逆に、今外の世界にいる人達は……多かれ少なかれ、古の戦士、即ちプレイヤーキャラクターの血が混じっている……?

 もしも、千年どころではない、何千年も前に戦士達が外の世界に消えたのなら、その血が混じり広がっても不思議ではない。

 いや、むしろ逆なのか? この大陸に元々住んでいた人間が、ゲームとなった時に成長性を奪われたのか……?

 後者の方がしっくり来る。エレクレールから話を聞く限り、当時から彼女達は強い力を持っていたのだから。


「……隔離された世界を手中に収め、人々から力を奪った存在……か」

「何か言いましたかな?」

「いえ、考え事を。すみません、この辺りの地図を譲って頂けませんでしょうか。対価として支払えるものならなんでも支払います」

「地図ですか。それでしたら、以前使われていた行商人用の地図があります。お代は……そうですな、何か食糧を分けてもらえれば……行商人の到着が一週間ほど遅れているので……」

「それなら任せてください。私達は……古の民、になるのでしょうか。当然、アイテムボックス、物品を収納する力を持っていますから――」




 村長の家の外には、不安そうな表情を浮かべた男達が、思い思いの武器、クワや包丁を巻き付けた棒などで武装して待ち構えていた。

 だが、村長の『安心して良い』という言葉に武器をおさめてくれた。

 同時に周囲の面々のステータスを覗くも、皆例外なく『Lv1』『只人』とあった。

 力を持てないが故の警戒心、か。いや、むしろこの方が普通、あるべき姿の環境なのかもしれないな……。


「さて、皆に伝えなければならない事がある。こちらにおられるお三方は、この大陸の外からやってきたと言う。儂は、この方達の話を信じる事にした」


 すると、先程別れたケント少年が『やっぱりそうだ! 砂浜に知らない乗り物があったんだ』と言う。そうか、しっかり裏を取ろうとしてくれていたのか。

 村長とケント君の言葉に、半信半疑な様子ながらも、村人たちが徐々に歩み寄って来る。


「ほ、本当に外から……この大陸の外にも世界が広がっているのか!?」

「ええ、本当です。凄く離れていますけれど……」

「竜に乗って飛ぶってのは本当か? 俺も飛竜種が大陸の外に向かうのを見たことがあるが、全て途中で墜落していたぞ」

「ええ、俺達もそれを経験しました。ただ、中には飛べる竜もいたんです」


 疑念の声に応えながらも、俺達は村人の皆さんに食糧を分け与えていく。

 そして結果的に、その事が、俺達が外から来た人間だと証明する一番の術となった。

 どうやら、この大陸ではそこまで食品の加工が盛んではないらしく、缶詰や腸詰、干し肉や小麦粉といった物は大変貴重らしく、それを惜しげもなく大量に配ったことが、何よりもの証明だとか。


「ねぇ! お兄さん達が魔物の街に行くって本当なのかい!?」

「ああ、そうだよケント君」

「あの……だったら、一緒に調べて欲しいんだ。前に行商人のおじさんが、街の中をなんとか通れないか調べたんだって。でも結局諦めちゃったっていう話なんだけど……その時、街の中で人を見かけたって言ってたんだ!」

「ケント、またその話か。先程は大変失礼しました……。この子は外の世界、そして魔物の街に興味を持ちすぎていて、それで商人にからかわれたのでしょう。それか、街に紛れたゴブリンを見間違えたのでしょう」

「本当だよ! 他の商人の人も、人影を見た事があるって言っていたんだ!」


 魔物に占拠された、古い古い、古の民が暮らしていた街。

 そこに人が? だとすると、魔物に対抗できる力を持っているという事になる。


「生き残りが他にもいるのかな……?」

「どうだろう。この村にはいないみたいだけど、他の集落には古い民、レイスやリュエみたいな人の血を引いている人も何人かいるというし、そういう人達かもしれない」

「なるほど……どの道、私達もその街に行く予定ですし、調べる価値はあると思います」


 もしも、まだ誰かが残っているのなら。

 もしも、それが本当にゲームの終わり、神隷期の終わりから今の今まで生きている人だとしたら、情報源としてはこれ以上ない相手だ。

 集まった村人の皆さんに、食糧を分け与えつつ、この大陸の話を聞きながら俺はそんな事を、この大陸でするべき事を考えていたのだった。

 そして、普段食べる事の無い魚や大量の小麦を使った料理に住人が舌鼓を打ちながら、この大陸最初の夜が更けていった――




「では、俺達はセントラルシティに向かいます。遅れている行商人の件ですが、もし何か痕跡があれば、こちらでも調べてみますが……」

「ええ。恐らく……魔物に襲われてしまったのでしょう。せめて遺品だけでも回収出来れば……」

「あの、魔物というのはよく遭遇するものなのでしょうか?」

「ええ。街に近づけば近づくほどよく遭遇すると言われております。皆さまも、どうかお気を付けください。昨夜は、久方ぶりに村の者が楽しそうに笑っておりました。私は……また昨日のような夜を皆で迎えたいのです。ですから、どうかご無事で」


 翌朝。まだ日が昇り切らないうちに、村の入り口、俺達がきた側とは反対に位置する門で見送られる。

 譲り受けた地図と自身の記憶を照らし合わせた結果、この先はゲーム時代で言うところの『夜光の渓谷』と呼ばれる地域のはずだ。

 正直、そこまで強い魔物が生息する地域ではないのだが、今は時代が違う。

 俺達も改めて気を引き締め、村を後にしたのであった。

 だが――


「うわぁ懐かしい! ホボゴブリンにアーマードビーだ!」

「ええと……初めて見る魔物なのですが……?」

「これはねぇ! 私が生まれて初めて倒したちょっと強い魔物のリーダーなんだ!」

「ははは……最初のダンジョンのボスだったっけ」


 凄く、弱いんです。ゲーム時代に比べて遥かに弱い魔物が巣くっていたんです。

 もうレイスがローキック一発でゴブリンの群れを蹴散らしてしまっているんです。


「強い魔物がみんなセントラルシティに移動した結果、元々街の近くに住んでいた弱い魔物が辺境に追いやられたのか……?」

「そうかも! うわー本当懐かしい! ほら見ておくれよカイくん、年代物のポーションを落としたよ! わー! 相変わらずぜんっぜん回復しない!」


 思い出に浸りながら、嬉しそうにナチュラルにドロップ品をディスるリュエさん、ちょっと魔物が可哀そうです。

 だが、想像以上に魔物と遭遇する頻度が高い。脅威ではないのだが、中々に面倒だ。


「これで七戦目か。魔物がこうも活性化しているとなると、やっぱり七星の封印から魔力が漏れ出てるってことなのかね」

「うーん……それなんだけど。ここだと私達も普通に魔法が使えている事から、大陸の外の空にある悪性魔力? それがここでは充満していないんだと思うんだ。でも、元々封印されている大陸でも、その悪性魔力っていうのが大地を蝕んでいるっていう話だったよね? でも、普通に私達は魔法が使えた。もしかしたら、悪性魔力って空気中じゃなくて、もっと深い場所、本来なら地脈、霊脈、大地の奥深くに流れ出る物なんだと思うんだ」

「ああ、そうだね。ってことはここの場合も、大地から魔力が……?」

「いえ、それが私も先程から気になっていたのですが、この大陸の奥底、魔力の流れを魔眼で見ていたのですが、流れが逆なんです。通常は大陸の中心から、外に向かって魔力が流れていくのですが……」

「そう。この大陸は、大陸の外から中央、恐らくセントラルシティに向かって魔力が流れているんだ。たぶん、悪性魔力を吸い取っている何かがあるんだと思う」


 ……ということは、必ずしもこの大陸の七星が封印されているとは限らない……と?


「カイくん。この先は注意しないといけないと思う。さっきセントラルシティが魔物の巣窟になっているって聞いただろう? つまりこの魔力がそこに集中しているって事なんだ。たぶん……相当手ごわい魔物がわんさかいるよ。魔力の濃度が、あの空全ての魔力を濃縮したような状態になっているはずだから」

「それは……確かに厄介だな。でも、ここまで来た俺達なら……きっと乗り越えられるさ。こんな俺でも、どうやらあの街は故郷のような物だと思っているらしい。少し、あの場所が魔物の手に渡っていると思うと……気分が悪い」


 久方ぶりに、力が漲る。

 取り戻せと。俺達の思い出を、始まりの街を、世界を。

 その思いはどうやらリュエも同じだったらしく、不敵な笑みを浮かべ強く頷く。


「そうだよ、絶対に取り戻す。この渓谷を過ぎたら、後は川を上っていくだけだからね。どこかで一息つける場所を見つけたら野営をして、明日、一気に街まで行ってしまおう」


 その言葉に強く頷き、渓谷をさらに進み、大きな滝が流れる場所、その裏側にある洞窟で一晩明かす事にしたのだった。

 ……この滝裏の洞窟、ゲーム時代からあったんだよな。まさか、ここで野営をする日が来ようとは。




 翌日。出入口が一つしかない上に見つけにくい滝の裏にあったおかげか、夜襲の警戒をそこまでせずに済んだのだった。

 だが、本来ならば魔物避けの結界魔導具を設置するはずだったのだが、どういう訳かこの大陸ではうまく起動しなかったのだ。

 リュエ曰く、大陸の魔力の流れが逆な所為で、魔導具が対応してくれないという話だったが……。


「大丈夫、後で私が魔導具の改造をしてみるよ。ささ、じゃあ早速出発しよっか。私の記憶が確かなら、ここからセントラルシティまではそこまで遠くないはずだから」

「確かにそうだね。凄いな、やっぱり実際にここで暮らした記憶がある分、リュエの方がしっかり道をおぼえているみたいだ」

「なるほど……カイさんは、何か間接的にこの世界を観測していたんでしたっけ」

「そうだね。それに今よりも簡略化された状態だったしね。名残は勿論あるんだけれど」

「そっかそっか。じゃあここからは私が先頭を行くね、よーし出発だ!」


 そうして、今度は流れる滝の上、清流をさかのぼり進んで行く。

 やはり、この場所からは現れる魔物も手強く、上位の種類に変わっていくのだが、それでも……この世界で生きてきた俺達の敵ではなかった。

 いつか見た道。多くの思い出を孕んだ懐かしい場所。

 そうして、ついに俺達は一本の街道へと出た。

 草木に石畳を侵食され、もはや獣道と見分けのつかないレベルの荒れ方。

 だが、確かにそれは、セントラルシティから伸びる無数の道の一つだった。


「見えてきた……ね。なんだろう……帰って来たって感じてしまうよ」

「ああ、本当に……何度も、何十回も、何百回も見た光景のような気がする」

「不思議と……私も懐かしいと感じます」


 石造りの門。

 壁を埋め尽くさんばかりの蔦。

 そして、先に見えるのは……見慣れた、けれども荒れ果てたいつもの道。

 かつて多くのプレイヤーが露店を開いていた通りだ。

 そして俺達はついに……懐かしのホームタウン、セントラルシティに帰還を遂げたのだった。


(´・ω・`)次回、連載最初の街へ。

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