三百九十二話
(´・ω・`)いよいよとうちゃく
ジュリアは、七星から漏れ出る魔力に汚染されていた。
その漏れ出た魔力は、里長が言うには『悪性魔力』という、旧世界の公害のような物。
ミネルバさんは途切れた海の先の空には『悪性魔力』が満ちていると言っていた。
これらのことから、七星はその『悪性魔力』と密接に関わっている事が分かる。
ならば……七星には、その『悪性魔力』への耐性があるのではないか?
「という推論を考えてみたんだけど、どうかな?」
「その七星というのが良く分からないが、悪性魔力により変質した狂暴な種というのは確かに存在していた。もし、同質の物ならば耐性を持っているかもしれないが……」
「そうね、でも都合よくそんな魔物を手なづけられるとは思えないわ。私達の時代でもアレは災害認定されていたし、ここにいる同胞の中には、実際に戦った事のある子もいる」
「ですね、あれは敵であり、決して相容れる物じゃないです。でも……例外がいる」
「あ! 分かったよカイくん! ケーニッヒの事だね!?」
そう、俺が思いついた方法。それは、七星の力を得た竜、ケーニッヒに運んでもらうというものだ。
問題は、今ケーニッヒは遠く離れた地、セミフィナル大陸のどこかで眠っているという事だ。
「契約している魔物なら、もしかしたら呼びかける事も出来るかもしれないけど……試してみようか、カイくん」
「ああ、やてみるよ」
身体の部位のような、神経の一番遠くの部分に命令を出すように。
目を瞑り、身体の隅々に語り掛けるように……。
『聞こえるか……もし、聞こえたら……俺のところに、来てくれないか』
返事はない。だが……確かに命令は出せたように思えた。
これで、数日待っても何も起きなければ、いよいよセミフィナル大陸まで一度戻る事になるのだが……。
「ふむ。どうやら何か解決策を思いついたようだが、現状では我々に出来る事はない。少し、あの船の人間と話しをしてこよう」
「そうね、私も一緒に行ってくるわ。カイヴォン、貴方達は少し休みなさい。人間は休憩しないといけないものだと聞いているわ」
「ええ、そうですね。今は待つ事しか出来ませんし、少し休憩しています」
ケーニッヒが果たして大陸間を渡れるほどの飛行能力を持っているのか。
そもそも、本当に俺の思いを受け取ってくれたのか。
それは定かではない。だが、もし仮にこちらに向かうのなら……数日、少なくとも一週間は見た方がいいだろうな。
「来てくれるかなぁケーニッヒ。私達の事、忘れていないかなぁ?」
「きっと大丈夫だと思います……短い間ですが、苦楽を共にした仲間ですから」
「そうだね、俺もそう思っているよ。じゃあ……今日から少しだけ、またこの浜辺で待機しようか」
「ええ、分かりました」
「了解だよ」
そう返事をしながら、いそいそと藪の中に移動する二人。
そして、水着に着替えて戻って来たのだった。
もー! 完全にバカンス気分じゃないですかー!
目の保養になるからいいけどさ!
「カイヴォンさんなにしてるの?」
「恩人さんなにつくってるの?」
「人間が何か作っているぞ、手伝って差し上げろ」
浜辺の一角に打ち捨てられていたガラクタをいじっていると、機人さん達が寄って来た。
いやね、僕もただ待つよりは、少しでも何か益になる事をしようと思っていた訳ですよ。
先程から彼女達が過去に採掘、破棄したガラクタの山から、見覚えのある品がチラホラ見え隠れしていた訳で。
神隷期、即ちゲーム時代のアイテムの破片や、ポーションの空き瓶などだ。
親方さんに聞いたのだが、彼女達が使っていた武器は、いずれも流れ着いた武器、恐らくレイスが使う魔弓に似た武器を解体、改造して作った物なのだとか。
そういえば里長も手先が器用だったし、彼女達もそうなのだろう。
「ゴーグル。水中眼鏡ともいう。目の周りを空気で覆って、浸水を防ぐ道具だよ」
「ああ、水中活動用のバイザーみたいな物か!」
「原始的な構造でも出来る物なんだね、手伝うよ」
「そうかい? じゃあ……この瓶底を綺麗に加工してくれるかい?」
「よしきた、任せろ」
そうして、彼女達に手伝って貰い、お手製の水中眼鏡を作った俺は、早速装着して海底めがけてダイブしたのだった。
(ここまで漂着物が多いんだ。何か良い物でも沈んでいるかもしれないしな)
機人である彼女達には、そこまで潜水能力は備わっていない。
その反面、こちらは完全に無呼吸という訳ではないが、無酸素でも一時間は余裕で活動出来てしまうのだ。
それどころか水圧にだって負けない頑丈な身体、そして回復能力まである。
本当[生命力極限強化]さまさまである。
(おー……古い剣の柄とか折れた刃とかもあるな。それにサンゴが多い……生き物が多いんだな)
そうしているうちに、気が付けば目的を忘れ、食べられそうな貝類やエビを捕まえだす始末。
いやだってこんなにいるとついね?
(お? あれはレイスかリュエのルアーかな……追いかけているのは……ブダイみたいなヤツか)
これほど様々な魚種が釣れるのなら、後で俺も参加してみようかな。
するとその時だった、海底近くにいるのに、何か大きな振動がこちらまで響き、その衝撃に生き物たちが一斉に逃げ出してしまった。
何事かと海面に浮上する。すると――
「カイヴォン! 緊急事態よ! 出来ればもう一度潜水、リュエとレイスがいる場所まで移動して頂戴」
「危険度が計り知れない……この時代に、ここまでの脅威が存在していた……?」
「観測完了。ただちに船舶の逃走経路を伝えてくる。親方、ここはませかせる」
「ええ。皆、陣形Dで展開。全員武装を許可するわ」
浜辺で、皆が深刻な顔で森の跡に向かい武器を構えだす。
だが、その視線の先には――
「……嘘だろ、まだ二時間も経ってないってのに……」
再び、七星プレシード・ドラゴンの姿となり、以前よりも遥かに大きく、この浜辺一帯を覆い隠す程の翼を広げた、我が家のドラゴンさんが雄々しく雄大に鎮座していたのだった。
「はは……本当にどこまで大きくなるんだ、お前さん……」
『お久しぶりで御座います、我が主』
「親方さん! 武装解除! ケーニッヒも威嚇禁止! 仲間、みんな仲間だから!」
一触即発状態の双方に、互いが仲間だと伝える。
「そんな……悪性魔力をここまで宿した種を、従えている? こんなの災害レベルよ」
「だよなぁ……ケーニッヒ、お前いつからそんなに大きくなったんだ?」
『以前より主から力は流れ込んでおりましたが、半月程前に急激に力が増しました』
もしや、ヨロキを殺した時の事……だろうか。
「いや、なんにしてもよく来てくれた」
海から出て、着替えつつケーニッヒに労いの言葉をかける。
騒ぎを聞きつけやってきたレイスとリュエも、ケーニッヒの成長ぶりに目を丸くしていた。
『はい。主のお呼びとあらば。この身体を使えば、とこしえの夜の中を飛ぶことも出来ますので、そこを通り周囲に影響を与えずに移動する事が出来ます』
……それって、まさかとは思うが宇宙じゃあないでしょうね……?
うちのドラゴンさんがどんどん超スペックになっていっているんですが。
「じゃあ、今回ケーニッヒを呼び出した理由を説明させてもらうよ。実は――」
この先の海の事。世界の終わりとも言える、果てに広がる空の事。
普通の魔物では飛ぶことが許されない空域。そして、悪性魔力、七星に関わる力場の事。
それらをケーニッヒに説明してやると、俺が他の竜に乗ったくだりで少しだけ悲しそうな声を出していた。可愛いヤツめ。
『つまり、そのカンソクモデルという人物を乗せ、その空域を飛び回ってきて欲しい、ということですか』
「そうだ。頼めるかい?」
『……主やその半身であるレイス様、リュエ様ならばまだしも、赤の他人となると、少々気のりはしませんが、それが、望みとあらば』
「はは……そう言わないでくれ。彼女は、地平の果てまで世界を見通す力がある。そこに、どんな場所でも飛べるお前の力があれば、俺の……最後の目的地を見つけられるかもしれないんだ。頼んだぞ」
『詮無き事を言ってしまいました、面目次第もありません。主の悲願とあらば、必ずや期待に応えて見せましょう』
「悪いな。じゃあ、早速向かってくれ」
やはり、龍の帝王とも呼べる程の存在にまで成長すると、それ相応のプライドもあるのだろう。
……今度あのバカ皇女、ファルニルにでも会わせてみるか? どんな反応をするだろうか。
『素晴らしいわ! 私の国に住みなさい、私専用の騎獣になるといいわよ!』
とか言いそうだな。
「ふむ、私がこの特異個体に乗る……少々慄きをおぼえるな。どこから乗ればよいのだ?」
『人とも違う者。こちらの翼を伝ってくるが良い』
そう言いながら、ケーニッヒは広げた翼の片方を砂浜におろす。
砂が舞い上がる中、ちょっと気になる事が。君……普通に周りの人にも聞こえる言葉で話していません? 前からだっけ? いや、違うはずだよな。
尋ねてみると、周囲の人間に意思を伝える事は出来るそうだ。これも成長の証か。
機人達も一応そういう意味では人間に区分されているのだろうか。
「おお……なんと高い。親方、では行ってくる! カイヴォン、少し待っていてくれ。必ず、お前の望みを叶えてみせよう。その大陸を見つけてやる」
『では、出発する』
防風とも呼べる羽ばたきの余波に、皆が砂浜を転がる中、瞬く間に海の果てえと消えるケーニッヒ。
振り落とされたりはしないだろうな……?
「とんでもないわね。もしもあれと戦う事になれば、半数は同胞を失っていたわ」
「逆にその被害でケーニッヒを倒せる気でいるのに驚きだよ……」
「そうね。私達の時代でも、あの特異個体に匹敵する種と戦った事があるわ。やっぱり……その七星というのは私達が知る特異、変異種と同質の物のように思えるわ」
「なるほど……」
となると、七星を遣わせた者というのは……そんな遥か昔から、なんらかの形でこの世界に関わろうとしていた……?
「ねぇねぇカイくん。ケーニッヒが大陸を見つけて戻って来たら、私達もケーニッヒに乗って向かうんだよね?」
「そうなるね、当然」
「じゃあ、何か客車みたいなの、用意した方がよくないかい? あの空域じゃ私の魔法で防護も出来ないし、寒いと思うんだ」
「あ、そうですよ。そのまま剥き出しよりも、客車があった方が絶対に良いはずです」
生身フライトが苦手なレイスも同意し、ならば今の間、どうにか風よけ、外気から守れるようになる物を作るべく、機人の皆さんに手伝ってもらうのだった。
「完成。塗装は必要ないと言う話だけれど、いいのかしら? 少々美的によろしくないわ。やはり紺、黒をベースに……」
「いや、赤黒だろう。これは譲れない」
「だ、だったら白と水色はどうだい!?」
完成した客車……というよりも、軽トラックの座席部分のような形のそれ。
金属剥き出しの外観だが、それを何色にするかで揉めている親方さんとルナさん、そしてリュエ。
そのあたりはどうでもいいと思うんですが。
するとその時、空気が震え、海の方に視線を向けてやると、ケーニッヒが常識的な速度でこちらへ向かって来た。
よかった。衝撃で全員吹っ飛ぶかもしれないと思っていたところだ。
そのままゆっくりと着陸すると、ふらふらとした様子でミネルバさんが降り立った。
「体内バランサーが異常をきたしている……少し、楽な体勢で回復をさせてくれ」
「大丈夫ですか……?」
『少々、人の限界というものを分からずに無茶な事をしてしまったようだ。面目ない、人ではない者よ』
「構わない。おかげで……良い物を見つけられた」
すると、ミネルバさんの指が高速で動き出し、近くにあった鉄板の切れ端に、ひっかき傷で詳細な地図、もはや航空写真のような物を描き出した。
「これは……空、ですよね」
「そうだ。あの空でもこの特異種は問題なく飛ぶ事が出来た。海の終末地点からさらに南南西に三一八七キロの地点で、これを観測する事が出来た。が、まずは報告に戻ろうと接近はしなかったんだ」
「ほ、本当にかい? 海じゃなくて、空なんだよね?」
「まさか……ありえるのでしょうか……」
「原理は解析不明。なんらかの力場により隔離されていると予想。だが、この図は真実だ」
彼女が描いた物。それは……空に浮かぶ、巨大な影。
大陸そのものが、空に浮いているという信じがたい光景だった。
「肉眼では恐らく観測が難しい程の低速、徐々にこの大陸、セカンダリア大陸から離れている。現在、この大陸に漂着する物品から察するに、以前は海の上にあったか、あるいは通常の大陸として、海も正常な状態だったのではないかと予想」
「凄いわね。さすがにこの規模の浮遊大陸なんて私も知らないわ。ご苦労様、観測モデル。ポッドの使用許可を与えます。少し回復に専念なさい」
「感謝する。カイヴォン、私はこれから眠る。次に会う時はいつになるか分からないが、私達はお前への恩を忘れない。良き旅を」
そう言って、静かに去って行くミネルバさんに礼を捧げる。
……いよいよ、だ。まさかここまで困難な場所にあるとは思わなかった。
だが……それでも、ついに俺達は辿り着けるのだ。
「オインク……かつてお前が諦めた地に、ついに辿り着けるんだな」
仲間を探し、世界を旅したというオインク。
ダリアとシュンを見つけ、そしてタイミング悪くエルには出会えず、そして最後にファストリアには行こうとしても行けなかったという彼女。
どうやら、とびっきりの土産話が出来そうだ。
商船の船長に、自分達は竜の力で先へ進むと言う旨を伝え、改めて機人の皆さんにも挨拶を交わす。
「私達はしばらくの間はこの場所で港の開発に従事するわ。けれど……その後は、MI搭載型に会いにいってみようと思うの」
「この大陸で新たな国、街を起こすという案もあったんだがな。お前達の話を聞いて旅をしてみたくなった」
「それに、私達も味覚が欲しいしね。美味しいと言われている物を食べてみたいの」
未来への展望を語る皆の姿に、こちらの胸も温かくなる。
そうだ。この世界は続いていくのだ。これからも、ずっと。
何か特定の存在に、世界を自由にさせる訳にはいかないのだ。
「もし、サーディス大陸に渡るのなら、まずはサーズガルド王国を目指してください。そこで王城に向かい、カイヴォンの使いだと名乗って、聖女と呼ばれる人間とコンタクトを取れれば、きっと里長……MI搭載型とも会えると思います」
「サーズガルド王国の王城……了解よ。では、旅の無事を願っているわ」
結局未塗装の客車に乗り込み、それをケーニッヒが足で掴み運んでくれる事となった。
力加減は……大丈夫そうだな。
「またねー! あの大きな海の穴は残しておいておくれよー!」
「皆さん、絶対にまた来ます。お体にお気をつけて!」
ミシリと少しだけ天井を歪ませながら、浮遊感がこちらを襲う。
激しい振動を包まれながら、それでもゆっくりと砂浜が遠ざかる。
残された皆が美しく整列し、敬礼をしてくれている姿に、ついついこちらも敬礼をかえしてしまう。
そうして、ついに俺達はここ、セカンダリア大陸を後にしたのであった――
「まもなく海が終わるよ。魔法も使えなくなるから、一応毛布を出しておくよ」
「ありがとうカイくん。やっぱりここまで高く飛ぶと寒いねぇ」
「話には聞いていましたが……本当に海が終わっていますね……この目で見ても信じ難い光景です」
ケーニッヒに連れられ、いよいよ海の終わりが見えてくる。
どこまでも続く空。世界が壊れてしまったのではと思えてしまうような、そんな現実感の無い光景。
そして、ついに問題の空域へとケーニッヒが突入する。
「凄い……上も下も全部空……なんだかおかしな感覚だよ」
「そしてこの先にファストリア大陸が……」
「……ついに、ここまで来たんですね」
「もしかしたら……どこか見覚えのある場所に着くかもしれないな」
ゲーム時代の舞台となった大陸ならば。どこかのマップの元となった地形もあるかもしれない。
期待と不安。懐かしいような、心配なような。そんな混ぜこぜになった心を抱えながら、終わりの空を進む。
やがて――
『主。大陸が見えてきました。丁度良い場所がありますので着陸します』
「分かった。二人とも、衝撃に備えて」
「う、うん」
「ついに、ですね」
ドシンという衝撃。そして扉を開き、どこか不思議な空気が漂うその大陸に第一歩踏み出す。
砂漠。最初にそう感じたのは、足元から目の前まで広がる砂の所為だった。
「砂漠……じゃないよな……」
「そうみたい。ほら、風化した貝殻も落ちてるし、もともとはここも浜辺だったのかも」
「海と繋がっていないから、こうなってしまったのでしょうか……」
広大な砂浜。ただし海はない。そんな不可思議な場所に降り立った俺達は、まずは先にケーニッヒに言葉をかける。
「よくやってくれた、ケーニッヒ」
『ありがたきお言葉』
「ここは、もしかしたら俺の……いや世界にとっての敵の本拠地かもしれない。ケーニッヒ、お前は一度ここを離れ、さっきの大陸のどこかで身を隠しておいてくれ」
『よろしいのですか。露払い程度ならば出来ますが……』
「いや……以前仲間を操る術を持つ敵がいた。その身体も、七星の力が宿っている以上、もしかしたら身体を乗っ取ろうとする敵が現れるかもしれない」
「そうだね。私も、もう君がカイくんに攻撃される姿は見たくないもん」
「そうですね……今は、どこかに身を潜めていてください。気持ちはありがたく受け取ります、ケーニッヒ」
『そういう事でしたら……。それでも、何かあればどうか遠慮なく呼び出してください。私は主達の翼ですから』
そう言い残し、再び空へと消えるケーニッヒ。
本当に、出会ってからお前さんには世話になりっぱなしだ。
いつか、形に残る礼をしたいが、何をすればいいのやら。
「それにしても……元は砂浜っていっても、完全に砂漠だよなぁこれは」
「だね。どこまでも続いているみたいだし……まさか大陸全部がこうじゃないよね」
砂の上を進む。乾ききった流木に何かの骨。そして、時折空から吹き込む風が砂塵を巻き上げる。だが、そうして歩いているうちに、不思議な既視感を感じ始めていた。
「ここが大陸の南側だと仮定すると……まさか“ライズアーク海岸”か……?」
「あ! それなら覚えがあるよ! 海、海があったんだよやっぱりここには」
「神隷期の地名、でしょうか……私は覚えていませんが、二人には見覚えが?」
「まだはっきりした訳じゃないけれど、このまま進んで、もし途中に寺院があれば、間違いない」
ゲーム時代のエリア名『ライズアーク海岸』夏に実装されたフィールドで、そのバケーションや同時期に実装された水着アイテムにより、多くのプレイヤーで賑わっていた場所。
だがその反面、用意されたダンジョンの難易度の高さに、バカンス気分で訪れていた多くのプレイヤーを返り討ちにした、曰くつきの場所でもある。
そして、緩やかな弧を描く砂浜を進み、小高い砂丘を回り込んだところで、それを発見した。
「“サザナミ・テンプル”完全に風化してるな……」
「じゃあ、ここは本当にライズアーク海岸なんだね……ちょっと寂しいな」
「沢山、思い出があった場所、なんですね……」
小さくない衝撃を受ける。だが同時にこの大陸が、やはりゲーム時代の舞台だったという確信が持てた。
ならば……どこかにあるはずだ。プレイヤー達の拠点であり、俺が最後の瞬間を迎えた街。セントラルシティが。
「ここは大陸のほぼ南端。ここから北上して、まずはセントラルシティ。当時の拠点である街を目指そうと思うんだけれど、どうかな」
「そうだね、まずはあそこに行ってみないと……でも、その前にちょっと辺りを調べよう、もう少し」
「そうですね……この大陸に、果たして人が住んでいるのか。この大陸で何が起きたのか。それを知る誰かが、もしかしたらいるかもしれません」
「そうだね。じゃあ、まずは浜辺を抜けて、自然が残っている場所を探そうか」
そうして砂地を抜けると、緑がしっかりと残っている山道に出た。
道があるという事は何者かが通っている証。ならばと、その道を辿っていく。
こうして見ると、なんだか不思議な感覚に囚われる。
どこもかしこも、この道でさえも、遠い過去に見た記憶があるような。
一人の人間としてこの地に足を踏み入れたのは初めての筈なのに、何もかもが懐かしく感じてしまう。
「ノスタルジー……ていうのかね。不思議な気分だよ」
「私も。なんだかこうして歩いていると昔を思い出す。オインクやシュン、ダリアと一緒に冒険していた時をさ……」
「いつか、全てが終わったら教えてください。この地で、どんな場所でどんな事があったのか」
「そうだね。たぶん、どこもかしこも懐かしいだろうから、案内は沢山出来るよ」
次第に緑が増え、空気が澄んできたように思えたその時だった。
ガサリと葉の揺れる音がしたと思った瞬間、何者かが駆けていく足音が耳に届く。
「人だ! 追いかけるよ!」
「分かった! おーい! そこの君―! 待っておくれー! 悪い人じゃないよー! なにもしないよー!」
「リュ、リュエ……それでは逆に……」
そんな間の抜ける呼びかけだったのだが、本当に道の先で人影が……見たところ少年が立ち止まっていた。
あどけない……服装から察するにただの村人の様に見える。
「だ、だれですか貴方達は……どうやってこの先に行ったんです……」
「もしかして……さっきの浜辺、いや砂漠は封鎖されていたのかい?」
「浜辺……あの、もしかして……貴方達は外から来た人、ですか?」
こちらが『浜辺』と口にした途端、子供が驚きと期待をにじませこちらを見つめる。
「そうだよ! 私達はね、外からこの大陸にやってきたんだ!」
「本当ですか!? じゃ、じゃあお話聞かせてください!」
「ええ、分かりました。ですが、人が多い場所に案内してもらってからでも良いでしょうか。少し、休める場所を探しているのです」
「分かりました! 僕の村に案内しますね! きっとみんな驚くぞー」
レイスのお陰で、子供に案内してもらう事になった俺達は、森の中にある、小さな集落へと連れてこられた。
木製の門と柵が広がるこの場所は、もしかしたら浜辺へ向かう道の関のような役割をしているのかもしれない。
そうして俺達はその子に連れられて、最後の大陸の、最初の村へと辿り着いたのだった。
(´・ω・`)今回も宣伝料理を作ってみました
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居酒屋だな!