三十六話
(`・ω・´) ← 一緒に依頼を受けると決まった時のあの人
「なぁ、俺は騙されないぞ。これは採取依頼じゃないだろ」
「言うなカイくん、私だって気がついていたさ! だけどこれが一番手軽で稼げるんだからしょうがないだろう?」
「しかしなぁ、これ本当はただの『草むしり』だろ」
採取依頼は種まき前の農地での雑草むしりでした。
おかしいと思ったよ! 採取対象が『全て』で、更に採った物についてはギルドではなく直接農家の人の指示を仰げだなんて。
怒らないから依頼名を正直に『草むしり』に改めて、どうぞ。
「けど良い事もあるんだよ? ここの農家の皆さんはこの街が出来る前からここで暮らしていたんだ」
「ふむ、そうなのか」
それがどうしたと言うのだろうか?
だが知っている。俺の経験上、ドヤ顔をしている時のリュエは大抵の場合見当外れの発言をすると。
「私も街中で警備の仕事をしたり、こうして農家の人に話を聞いていたのは他でもない、彼女の事を私も外から調べる為だったんだよ。そうじゃなきゃお金に困っていないのに私が働く訳がないじゃないか」
「おお! 最後の一言がなければ凄い尊敬していた所だ」
……いやぁ、今回は素直に驚いた。
そのドヤ顔、許す。
「カイくんも言っていたけど、彼女はここに長年住んでいたみたいなんだ。この街が出来たのが30年と少し前で、それまではレイスさんは近隣の街で今と似たような事をしていたそうだよ」
「へぇ、じゃあ街が出来ると同時にこっちに移ってきたってわけなんだな」
「所が少し事情があったらしい。彼女は当時とても衰弱していて、暫くこの近くの農家でお世話になったいたそうだよ。なんでも、前領主と揉めたとかなんとか」
「……へぇ」
「その領主は今じゃ大陸の中央にいるみたいなんだけど、未だにこっちにちょっかいをかけてくるらしいよ」
「なるほど。じゃあ街の方はどうなんだい?」
今回ばかりは素直に脱帽。
俺では農家の人間に話を聞くなんて考えもしなかった。
だがリュエは、ここの農家さんとコミュニケーションを取っているうちに、彼らが昔からここに住んでいると事を知る。
そしてそこから取っ掛かりを見つけたと。
しかし、前領主と揉めた事と良い、彼女の人生は随分波乱に満ちていたようだ。
今の仕事をしているのだって、きっとのっぴきならない事情があるのだろう。
そしてもし、彼女が俺の知るレイスだったのならば――
「街では近頃、外部から参入してくるその……ほら、えっちなお店が増えてきたらしくてね?」
「どんだけ初なの君」
「ちゃ、ちゃかさないで聞きなさい。警備でよく揉め事に遭遇するんだけど、どうも外部から来たお店にまつわるトラブルが多いみたいなんだ」
「まぁこういうのは縄張りというか、独自のルールがあるし仕方ないんじゃないか?」
「うん、けれどもここで出てくるのがレイスさんなんだ」
聞けば、彼女の店を引退、と言うよりも円満退職したり、年齢的に辞めていった人達が、自分達で新たに飲食店やレイスさんの流儀に合わせたお店を開いているそうだ。
だが、そういった店に限って外部から来た娼館や、そこの常連とのトラブルが頻発していると言う。
必ずしも全てではないようだが、その頻度が問題だ。
これは少々きな臭い。
恐らく外部からレイスさんに攻撃を加えてる人間がいる、と見ていいだろう。
「凄いなリュエ、俺よりも沢山調べられてる」
「そうだろう! ……だからその、もうあの店に行かなくても良いんじゃないかい?」
「いや、これはこれで必要なんだ」
「むうううう」
なるほど、そんなに行ってほしくないんですか貴女。
いじらしいというか、可愛いというか。
思わず頭をなでくりまわしてしまう。
「ぎゃー! 草の汁がー!」
……草の香りがするエルフって結構しっくりくると思います。
「はーさっぱりした。じゃあ私はそれらしい物を引っ張りだしてみるから、カイくんは調べてみておくれ」
「了解」
無事依頼を終え、シャワーを浴びたリュエが一息つく。
まだ時間は十分にある事だし、早速変装に使える魔導具がないか調べてみる事に。
仮に彼女がつけているとしたら、恐らく目立たない物、アクセサリー等のように身につける物だろうと狙いを絞る。
そして、次々にリュエのカバンから出てくるアクセサリーや手袋、メガネ等といった物を調べていく。
「ん? カイくんこれはなんだと思う? なにかの魔導具だと思うんだけど」
「……それはたぶん違うから早く放しなさい」
中には、何を思ってお供えしたのか不明な道具まで入っていた。
これ、まさか使用済みとかじゃないだろうな。
そうこうしている内に、いくつか面白い物も見つける事が出来た。
ゲーム時代にはアクセサリーなんて外見を変える程度の意味合いしかない、それこそ俺の角や魔眼のような物ばかりだった。
だが、ここではしっかりと効果のある物が存在するようだ。
何気に俺がリュエに上げたバレッタも魔法を跳ね返す効果があったくらいだ。
【友情の指輪】
【たとえ運命に翻弄されようとも、互いが存在する限り互いを傷つけ合う事が出来なくなる】
【装着の際は互いに指にはめて貰う事が条件 また男性同士でしか効果は発動しない】
なんとホモホモしい!
【思いやりの靴下】
【決して臭いを発さない】
お、おう。
結構実用的だな。
【絶対正義の耳栓】
【自分の都合の良いように相手の言葉が聞こえる】
知ってる、俺そういうのつけてるんじゃないかって人間を小説で読んだ事ある。
まぁ今のようなネタにしか思えない物も多数あるのだが、普通にステータスをブーストしてくれる物も豊富に取り揃えられていた。
だが、本命である変装に使えそうな物が見つからない。
髪の毛も普通に染め、目もカラーコンタクトを使っただけとかだと簡単な話なのだが。
「あ、変装ではないけれど、相手の正体を露わにする事が出来るメガネがあったよ!」
「なんと!」
とここで大本命、早速受け取ってかけてみる事に。
だがそれは、別な意味で俺に衝撃を与える品物だった。
【Name】 リュエ・セミエール
【種族】 エルダーエルフ ???
【職業】 聖騎士 魔導師
【レベル】 221
【称号】 封印の女神
龍神の守人
がっかりエルフ
【装備】
【武器】神刀"龍仙"
【頭】???
【体】聖銀のドレスアーマー 青のローブ
【腕】聖銀のガントレット
【足】聖銀のグリーヴ
【キャラクタースキル】光魔導 氷魔導 聖魔導 炎魔法 雷魔法
剣術 聖騎士剣 杖術
【所持アビリティ】 『MP回復力強化』 『不屈』
【ウェポンスキル】 『フリーズブースト』
『氷属性の攻撃を強化する』
『永久凍土』
『発動した氷が溶けにくくなる』
【ステータス】
【HP】 5210/5210
【MP】 340/340(回復速度倍加)
【攻撃力】 5295 (装備込み)
【防御力】 7099 (装備込み)
【魔力】 7250 (装備込み)
【精神力】 99999 (装備込み)
【命中力】 1222 (装備込み)
【素早さ】 995 (装備込み)
【技量】 2905 (装備込み)
【体力】 725 (装備込み)
【身長】 156
【体重】 42
【スリーサイズ】
【バスト】 73
【ウェスト】55
【ヒップ】 75
マジかよ……俺が欲して已まなかった相手の能力を見る力が、まさかこんな身近にあったなんて。
一部見ることが出来ない項目もあるが、かなり有要な逸品だ。
アイテムの類なら自分のアイテムボックスに収納すれば能力を見ることは出来たが、これがあれば見るだけで――
「ありゃ、これ対人専用というか、物には反応しないのか」
「ちょっと私にも貸してくれないかな?」
「あ、ちょっ」
やばい、スリーサイズから身長体重まで覗いてしまった事がバレてしまう。
ああ、言わんこっちゃない……リュエの顔が見る見る赤く染まっていく。
「……なんて物騒なアイテムなんだいこれは……これは没収する!」
「だ、駄目だ! お願いだからそれを俺にくれないか!」
「こ、これで何をするつもりなんだい!?」
「い、いや戦う相手の事を調べられるのは便利だなーと……」
「……無闇にそれをつけて歩かないって約束してくれる?」
「勿論!」
「本当だよ? じゃあはい」
ついに ねんがんの鑑定能力を てにいれたぞ!
「で、結局これでレイスさんを見れば良いって事なのか」
「そうみたいだね。もう私の倉庫にはそれらしい物は見当たらないし」
「目当ての物はなかったけど、まぁ結果オーライか」
そして時刻は夕方。
そろそろ色街も含めて賑わいを見せ始める中、俺は魔王の姿でリュエと歩く。
しかし、今更俺が側にいなくても、もうみんなリュエの事を恐がっているんじゃないか? 今朝のギルドといい。
「今日は色街じゃなくて、街の入り口近くにある会館の警備だったよね、私達は」
「ああ。お、あれかな? へぇ、結構立派じゃないか」
三階建ての、庭付きの大きな白い屋敷。
しっかりとした鉄の門が備えられた、いかにも重要そうな外観の建物。
小さなホワイトハウスといった感じだ。
「なんでも、オインクもここに視察に来る事があるらしくて、そういう時にも使われるそうだよ。今日はこの街の顔役が集まって会議をするみたい」
「で、レイスさんも参加すると」
警備の任務につき、門番を任せられる。
やがて次々に訪れる、歴戦の強者を思わせる商人風の人間や、恐らく色街、宿場町の顔役であろう人物達。
全員が護衛を連れ、いずれも皆『自分こそがこの街の支配者』と言わんばかりの自信に満ち溢れた表情を浮かべている。
まだ会議の始まりの時間には早いが、俺もそろそろレイスさんを迎えに行くべきだろう。
「その姿で会いに行ったら驚いてしまうかもね。さっきのメガネはどうするんだい?」
「今はつけないでおくとするよ。この格好でつけるのも変だし、今は護衛に集中しないと」
「じゃあ待ってるね」
この姿のまま街を歩くのに、少しだけ抵抗を感じてしまう。
いやほら、ここ色街だし。
明らかに浮いている。想像してみると良い、魔王が娼婦ひしめく夜の街を闊歩する姿を。
「あ、あら素敵な……魔王さま……? 少し遊んでいか……いきませんか?」
「いや、依頼でここを通っているだけだ。相手をしている時間はない、すまないな」
「い、いえ! 失礼しました……」
ほらー! 明らかにお姉さんも困惑してるでしょ!
俺も俺でつい、この姿だとこんな話し方になっちゃうし!
周りのお姉さんたちも遠巻きにヒソヒソするのやめてくれませんかね!?
そんな視線に晒されながら、ようやく辿り着いた『プロミスメイデン』
本日は休業なのか、照明が落とされひっそりと静まり返っている。
若干恐いと思いながらも中へと入り、扉のドアノッカーを鳴らす。
「すみません、ギルドからレイスさんの送迎の依頼を受けた者ですが」
「はい、今お開けしますので少々お待ちを」
中から聞こえてくるのは当の本人、レイスさんの声。
一瞬の間の後、ゆっくりと慎重に扉が開かれる。
さて、どんな顔をして会えばいいのか、少しだけ緊張してしまう。
「お待たせしまし――た。あの、送迎の依頼を受けたのはカイヴォンさんでは……」
「この姿でお会いするのは初めてでしたね。カイヴォンですよ」
マスクだけ外し微笑む。
大丈夫、恐くない、恐くない……。
「まぁ……! 魔族の方、でしたのね。では宜しくお願い致します」
扉に鍵をかけ、門にもしっかりと施錠を施す。
従業員は皆ここに住んでいるようだし、戸締まりは念入りにしないとな。
やはり彼女は顔が広く、通りを歩くだけで娼婦からその客、そしてその他の商売人までもが軽く頭を下げている。
凄いな、ちょっとかっこいいぞレイスさん。
「やっぱり皆さんに頼られているみたいですね」
「いえ、そんな事は。ただ少しここに住み始めて長いだけですよ」
そう言った彼女の横顔が、どこか寂しそうに見えたのは何故なのだろうか。
つい、我慢出来なくなり道すがら、なんでもない風に少しだけこちらから切り出す。
「そういえば、何故貴女は魔族である事を隠しているのです?」
「!? な、なにを」
「不躾で申し訳ありません。一応同族ですからね、わかってしまうのですよ」
これは方便。
だが今現在魔族は他種族と敵対している訳でもないし、何故隠しているのか俺には分からない。
いや、まったく見当がつかないでもないのだが。
「分かってしまう物なのですか……?」
「俺が特別察知能力に優れているだけなんですけどね」
そう言うと、あからさまにほっとしたような表情を浮かべる。
これはやはり、誰かから隠れていると見たほうが良いのだろうか?
「そのお話はいずれ。なので今はまず会館へ参りましょうか」
「俺も中に入って良いんですか?」
「ええ、私の護衛、付き人という扱いになりますが」
「わかりました」
そうして俺は、門番をしているリュエに白い目で見られながらレイスさんと会館へと向かうのだった。
(´・ω・`) ← こうなった




