プロローグ3
あともう少しだけ続くんじゃ
『簒奪者の証(神)』
『神を完封し完全に下した者の証 神は泣いて良い』
『攻撃に神属性を付与可能 神属性は全ての種族、耐性に対して軽減されない。また相手の防御力を50%減少させた状態でダメージ計算が行われる』
証コンプリート!
いやぁ、神は強敵でしたね。
実際単調な作業の繰り返しだったので、地味に疲れたのは本当だ。
何度か集中力が切れて反撃されてしまった。
が、やはり6割カットは大きく、そのダメージもすぐに回復できてしまう。
なんだか途中、神のグラフィックが影を背負ったような、そんな気がしてくるくらいかわいそうだった。
一応このゲームの最終ボスみたいな扱いだったんだけどなぁ。
Kaivon:どうよ? 一応戦闘風景流してたけど見てくれた?
Syun:神を冒涜する魔王にしか見えませんでした
Daria:ラスボスがラスボス倒すなし
Gu-Nya:虐殺乙wwww
Oink:よく集中力続いたわね、おつよー
El:あ、すみませんイラスト描いててみてませんでした うちの子達4人の集合絵です
俺の最後の偉業がこの扱いである。
Kaivon:今からこの証全部セットしてみるわ!
Syun:でもそれだとスロット1つあまるんじゃ?
Daria:俺達の戦いはまだ始まったばかりだ的な
Kaivon:おいおい、もう時間ねーぞw さすがにないだろ
さて、全部セットしてっと――
Kaivon:おい! ちょっと聞いてくれ!
8スロット中、7つを証で埋め、残りをあえて何もつけず空きにした。
証が並ぶその姿は壮観で、達成感を与えてくれる。
そして、その結果――
Kaivon:なんもおこらねーぞ!
Daria:しってた
Syun:このゲームこういう所手抜きだからな
Gu-Nya:クソワロタwww 無駄骨乙www
El:お疲れ様でした。そろそろカウント始まりますよ、戻ってきて下さい
Oink:はまじ 本当最後までクソゲーだったわね
Kaivon:いいっていいって。むしろ何かあったほうが困るわ どうせ時間もないのに
まぁ、これが一番このゲームらしいよな?
セントラルタウンへと行くと、本当にサービス開始直後以上の賑わいを見せていた。
元々戦闘以外に売りのないゲームだったので、何もない、せいぜいアイテム補充しか利用価値のない街にここまで人が集中する事なんてなかった。
プレイヤーイベントだってたかがしれているし、本当に街が人で溢れかえるのはゲーム始まって以来だろう。
むしろ、街のあるサーバが負荷に耐えているのをほめてやりたいくらいだ。
Kaivon:待たせたな
Syun:周りがお前の姿を見てドン引きしてるぞ
「うわ! 放浪魔王が街にいる!」
「まじで肉いりなのか? おいアンタプレイヤーなのか?」
Kaivon:うわ、めんどくせ
Daria:最後くらいなんか言ってやれ、伝説になるぞ
Gu-Nya:Kaivonの扱いワロタwwwww お前コミュ障かよwww
Kaivon:ちげーよw この見た目でいじられるのめんどくさいんだよw
El:私は嫌いじゃないですよ? うちの子と一緒だと魔王と囚われの姫みたいで絵になりますし
「はぁ、君ら散々人の事言いやがって。俺はプレイヤーだっつーの」
「「「「キャアアアアアアアア!! シャアアアベッタアアアアアアアアアアアア!!」」」」
「うるせぇ!」
最後くらい、こんな馬鹿騒ぎだっていいだろう。
うん、なんか新鮮でいいな、まるで……
「この感じ、サービスINを思い出すな」
「お、アンタも初期からやってんのか」
「いや、俺はベータ前、アルファのテストプレイの時からやってる」
「まじかよ!!!! あの400人に選ばれてたのか」
Gu-Nya:なにそれ初耳ww
Syun:あーそれ言っちゃう
El:ということはこのバグの多さや調整の甘さの責任の一端は
Kaivon:いやいや、あくまで俺ら負荷テストしかやらされてないから! そんなチェックなかったから俺
最後だからか、ちょっとした恨み言に留まり、むしろそこから昔の思い出話が広がっていく。
それが本当に「おわかれ」だからだと、いやがおうにもわかってしまい、僅かばかりだが、胸に来る物がある。
さすがにゲームで泣きはしないが、最近では滅多にないしんみりした気持ちにさせてくる。
サービスINから、俺の場合はテスト時からだから人より少し多い7年。
あ、別に2年間もテストしてたわけじゃないぞ、テストから発売まで2年も時間かかったってだけだ。
ともかく、本当に俺の人生の一部になっていたゲーム、そして半身とも言えるキャラクター。
今使っているカイヴォンの他にも、二人持ちキャラがいるが、そちらも大切な俺の分身だ。
それらが全て今、消えていく。
今ようやく強さを発揮したこの剣も、全て。
これが、オンラインゲームの宿命。
ああ……楽しかったな。
『それではこれより、運営からの挨拶を始めたいと思います』
「お、はじまったぞ」
「運営がゲームマスター以外でメッセージをゲーム内に飛ばすの初めてじゃない?」
Kaivon:こいつらこんなメッセージ出す事できたのかよ
Gu-Nya:メンテ告知すらGMでシャウトしてたよなこいつらwww
挨拶は当たり障りのない、ありふれた物だった。
人が減った事や、自分達のミスを認める言葉と、機材のなさや設備の甘さ、予算のなさ等、言い訳にも聞こえる言葉も合間に混じる。
だが、それでも彼らは少しずつ改善していったのだ。それを一番知っているのは、俺だろう。
恐らく、一番多く戦ったのは俺だし、一番不具合を報告したのも俺だろう。
『我々の調整ミスで、不遇だったアイテムも沢山ありました』
Kaivon:はい
Syun:「はい(迫真)」
Gu-Nya:クソワロタwwww
くそっくそっ笑い事じゃないんやで!?
『ゲームの根底に関わるデータでしたので、おいそれと手出し出来ませんでした。それは余りにも強すぎる為です』
Kaivon:ああ……さっき見せただろ、アビリティ
El:こわれてますよね? さっきだってあんな短時間で神さまソロ攻略してましたし
Oink:クソゲに拍車がかかるわね
とまぁ、そんなこんなで挨拶は終わった。
そして、いよいよカウントダウンが始まる。
Kaivon:10
Daria:9
Syun:9
Daria:かぶった
.
.
.
Kaivon:おいw びびって黙るなよ
El:4!
Daria4!
Gu-Nya:おまwwww
Syun:いいかげんにwww
Oink:1!
さぁ、最後はみんなで同時に発言だ!
焦りを抑えてタイプをし、エンターキーに指をかけて――
Kaivon:本当、楽しかったよ……吉城
一瞬、そんな文字が見えたと思った瞬間、俺の意識が遠のいて行った。
楽しいプロローグ終わり