三百九十話
(´・ω・`)正体
女性達の動きが止まり、リュエとレイスもまた『何を言っているのだ』という顔を向ける。
ナオ君だけはこの言葉が意味している事を理解したのか、驚きの表情を浮かべていた。
「お前……私達が“なんなのか”知っているのか……?」
「当たりか。どうだ、少しは話を聞く気になったかい?」
「親方、少し待て! 都合が良すぎる……信用するな!」
すると、赤黒い甲冑の戦士、拳に何やら装甲のような物を付けた女性が反論する。
「なんだお前。どこで聞いた。探っていたのか私達を」
「いいや、初めましてだ。だが……君達と非常によく似た存在を一人、知っている」
「これは命令。今は、この人間の話を聞く。皆、帰投するわよ。それと……立ち入りの許可は貴方、銀色の髪の男だけ。それ以外の人間は許可出来ないわ」
「分かった。だが進展次第では認めてもらう」
「交渉次第よ」
親方と呼ばれる少女の言葉には逆らえないのか、赤黒い甲冑女性、そして周囲にいた他の面々も、無言で踵をかえしまるで整列するかのように並んで歩きだす。
「カイくん……今のは一体……」
「賭け、だったんだけどね。大丈夫、なんとかリュエ達も入れるようにしてみせるから、皆は一度サテラさんのところに戻っておいてくれ」
「カイヴォンさん、あの人達ってまさか……」
「極めて人工的な存在。詳細は分からないけどね、少なくとも一人そういう知り合いがいる」
「里長の同族……という事ですね。確かに、呼吸に紛れて魔素が吸収されるそぶりもありませんでした」
「の、ようだね。じゃあ、行ってくるよ」
前を行く女性……旧世界の遺産であろう彼女達に続いて歩き続けると、次第に濃密な緑の香りに混じり、潮の香りも鼻孔に飛び込んでくる。
だが同時に……この世界では嗅ぎなれていない、まるで工場、機械がたくさん並んでいる場所の様な、そんな人工的な香りも混じってきた。
「ガラクタ……いや劣化が激しいけどいずれも機械的な物……か」
見えてきた白い砂浜。だが、そこにおびただしい量の鉄の塊が、錆の塊が、そして近未来的なフォルムのマシンが転がっている。
里長の物よりだいぶ損傷が激しいようだが……。
「やはり、あれがなんのか知っているな、お前」
「カイヴォン、だ。俺の名前だよ」
「……オービタルインターフェース内蔵MR司令型。昔、少しだけ世話になった人間に倣い、親方と呼ばれている」
「オービタル……回路、伝達……あの統率された動きの正体はそれか」
恐らく、他の彼女達に伝令のような物を送っているからこその連携なのだろう。
型番の名前のつき方から察するに、やはり里長と同じ世界、次代の遺物と見るべきか。
「着いたわ。さて……じゃあ話してくれるかしら。ここを調べたい理由。そして……カイヴォン、貴方が何を知っているのか」
「分かった。まず――」
彼女の質問に答えようとしたその時、先程まで大人しく海岸に帰投していた他の戦士達の中から、一人の女性がものすごい勢いでこちらに迫って来た。
「貴方は、ドクターなのか!? それともマイスターなのか!? な、なんとかしてくれ! 私の妹機がもう長くない! 頼む、治せるなら治してくれ!」
甲冑を纏った一人がヘルムを外しながら、無表情ながらも、必死さをにじませそう語る。
……胸が、痛む。
「……悪いが、俺はただ知っているだけの人間だ。この時代に……貴方達の事を知る人なんて……普通はいない」
「そんな……だが貴方は知っているではないか!」
「落ち着きなさい。私が話す、貴女は戻りなさい」
「親方……分かりました」
とぼとぼと、砂浜を歩いて消える女性。
「……大体の状況は、今ので察してくれたかしら。私達はね、この海で探しているの。まだ見ぬ同胞、そして私達を救えるモノを。残念だけど私達に潜水能力は備わっていない。だから、時間をかけて海をせき止め、水を抜いている。だから……この海域を荒らされたくないのよ」
「なるほど……」
「それで、カイヴォン、貴方の目的はなに?」
「この海域から船を出し、果てにあると言われているファストリア大陸に向かいたい。つまり貴方達の邪魔をしてしまう形になる」
「……そう、なら許可出来ないわ。交渉決裂ね」
一触即発の空気が漂う。だが……もしかしたら。
「メディカルインターフェース内蔵H零型。このタイプに聞き覚えは?」
かつて、里長が語った『自分の型番』。そして……その存在意義。
彼女は言った『私は元々同族を癒す為の存在』と。
その名を口にした瞬間、親方と、その傍に控えていた赤黒い戦士が、猛烈な勢いで頭を下げる。
「これまでの無礼をどうかお許しを。私達にはその型番の同胞が必要です。今、どこにいるのですか! 我々に残された時間はあまりに少ない!」
「頼む、教えてくれ! さっき殴った事なら謝る! 頼む、三日前にも二人機能を失った!」
「……サーディス大陸という場所で隠れ住んでいるよ」
「……遠い、遠すぎる……それではもう……」
「でも、ちょっとこれを見てくれないか」
まるで、もう猶予がないかのような必死な様子に、すかさず俺はアイテムボックスの奥底にしまっていた『里長の体内にあった器官』を取り出して見せる。
「な! まさか……同胞を手にかけて――!」
「いや、逆だ。彼女の身体を治す時、今の技術ではどうしても完全に治せなかった。だから、これを外して――分かりやすく言うと、ストレージを増やす為に仕方なかったんだ」
「……なるほど。それを、少し調べさせてくれないか」
大人しく里長のパーツを親方に差し出す。すると、彼女は手に乗せたソレに、もう片方の手を翳し、まるで温める様にそっと触れる。
「親方、どうだ!?」
「待ちなさい……大丈夫、まだ使える……」
「そ、そうか! なら早く接続して――」
「待ちなさい。これはあくまでカイヴォンの所有物。許可はまだ得ていないわ」
冷静にそう返すも、その言葉はどこか震えており、まるで懇願するような瞳をこちらに向けていた。
「オービット。名前から察するに、拡張性に富んでいる。即ちこのパーツも使う事が出来るって事でいいのかな」
「……話が早くて助かるわ。これを譲ってくれるなら、カイヴォンをマスターとして登録、絶対の忠誠を誓っても良い。望むなら、世界だって手に入れて見せる」
「……癪だが、私もマスターにしてやる。ここにいる全員だけで、この大陸の人間達程度なら制圧出来る」
「生憎、武力ならご存知の通り有り余っているんでね。それを譲る代わりに、この先の海、それについて調べるのを協力してくれないかい? それがあれば、もう海底を掘り起こさなくてもよくなるんだろう?」
今も、なにやら年期の入った機械がフル稼働し、沖の方で水を抜いているのか、放水が続いていた。
まるでプールの様に、大量の瓦礫や岩で囲いが出来ているが……きっと、何十年もかけてダムのような物を作り上げたのだろう。
「……それでいいのなら、助かるわ。でも……あまりにもそちらの益が少ない」
「ならその時にまた考えるさ。それ、使えるなら早く用意して欲しい。さっきの子の妹が動かなくなってしまう前に」
「……感謝するわ。これで……先に逝ってしまった子達も帰って来る……貴女がさっき言った言葉、今なら私も同意出来るわ。『都合が良すぎる』って」
「……本当にな。親方、私は残りのポッドを一か所に集めて動力を確保してくる。あと……カイヴォンだったな。ありがとう。本当にありがとう。腹、殴って悪かった」
「ああ、平気だよ。もっと凄いパンチ食らった事があるからね」
ヴィオちゃんとかヴィオちゃんとかヴィオちゃんとか。
「親方さん。さっきの仲間達を呼んでも平気かい?」
「ああ、それなら構わないわ。今全員にその旨も伝達した。私はこれから調整に入るから、対応出来なくなるけれどね」
「了解。じゃあ一端森の外に行ってくるよ」
既に森、木の大半が失われている事で、一人でも楽に外に出られそうだ。
砂浜を進んで行くと、恐らく既に里長のパーツの話が伝わっているのか、多くの娘さん達が、錆びて変色したポッドに縋りつき、嬉しそうに話しかけていた。
……きっと、あの中で眠っているのだろう。大切な同胞が。
数少ない同胞が、一人、また一人と眠りについていくのを、彼女達はどんな思いで見送って来たのだろうか。
海の水を抜くなんて途方もない計画を何十年も続けてきたのも、きっとまた会える日を信じていたからこそなのだろう。
「海を荒らされたくない、か。きっと……俺が同じ立場なら同じ事をしていたかもな……」
森の外に出ると、ナオ君を含む全員が、心配そうな表情を浮かべていた。
戻るなりみんなが一様に『なにかされませんでしたか』と聞いてきたので、一瞬『ナニカサレタヨウダ』とでも言おうと思ったのですが、さすがにやめておきました。
「とりあえずみんなも立ち入り可能になったよ。サテラさんも一人でいるよりは一緒の方が良い。一緒に浜辺まで行こうか」
「は、はあ……まさか本当に一人で無事に戻ってこられるとは……御見それしました」
「状況次第で、ガルデウスに伝言もお願いしますので、その上にいる鳥の魔物君にも来てもらって良いですか?」
「あ、了解しました! では行きますよヒョロロ君」
名前、それでいいのか。
するとその時、魔物がピーヒョロロと、まるで祭囃子のような鳴き声を上げる。
トンビに少し似ているが……完全に祭囃子だ。
浜辺へ戻りながら。彼女達が置かれている状況、そして海を閉鎖している理由、今回提示した解決策について話すと、やはり皆も同情的な反応をしてくれた。
が、やはり不法占拠は不法占拠。かつて騎士団と争った事実もある以上、なんの厳罰もない、という事にはならないだろうとサテラさんは言う。
……なんとか出来ないだろうか? というか厳罰なんて下そうものなら手痛いしっぺ返しが待っているのではなかろうか。
「到着。ここが、現状彼女達が拠点にしている場所なんだ。かなり色々な物が置かれているから、無暗に触らないように頼むよ」
「おー……なんだけ変な臭いがする……油っぽいというか」
「なるほど……古い時代の魔導具、のような物ですか……再生術で何かお手伝いは出来ないでしょうか……」
「わ、私はこの場所でお待ちしております! 何かあったら知らせてください」
「僕もここで待機しておきます。サテラさんの護衛も兼ねて」
サテラさん。完全に逃げ腰である。いやまぁ新たな部外者であるリュエ達に、一同の鋭い視線が向いたので仕方ないとは思うのですが。
ナオ君も、過去に戦った事がある関係か、少し警戒されているように見えるな。
「戻って来たか。親方は暫く動けない。案内と説明は私がする」
「あ、さっきの。君には何か個別の呼び名はないのかい?」
「ない」
赤黒い戦士がどこかぶっきらぼうに言うが、それだと少しだけ不便だ。
すると、リュエが突然――
「私がアダ名をつけてあげようか!」
「なんだお前」
「リュエって言うんだよ。そのカタバン? っていうの教えておくれ。アダ名を考えてあげるから」
「L.U構成インターフェース内蔵NA型後継モデル」
「う……長い上にさっぱりわからない……」
「それは、どういう意味なのでしょうか?」
「分からない。正式に稼働する前に遺棄されたんだよ私達は」
過去の世界で何があったのかは分からない。だが……少なくとも彼女達は『兵器』としての側面が強いように感じられた。
『L.U』がもしも、ラージユニオン。つまり大連合だとすると、彼女もまた司令機体の一種だったのではなかろうか。
「うーんうーん……カイくん交代」
「え、俺? じゃあとりあえずルナでいいんじゃないか」
「なるほど、含まれている文字を名前にする、と」
「……なるほど。もしも個体名が必要になった時には使うかもしれない。案内を始めるぞ」
砂浜を連れられ、数々のガラクタ、もとい何かのパーツを解説されるも、イマイチ良く分からない。
だが、すくなくともこの海域には多くの遺物が眠っているらしく、漂流物も多いそうだ。
恐らく、それがファストリア大陸からの物だとは思うが……。
「この海の先の大陸? 悪いが測量可能な同胞は大昔に機能停止に陥った。ただその当時に記録によると、この先の海は途中から断絶されている、と聞いた。物理的にはありえないが、海に渓谷が出来ているらしい」
「な……じゃあ漂着物はどこから……」
「知らん。だが、じきに皆が目覚めるのなら……調べられるだろうさ」
そう嬉しそうに語りながら、最後に案内されたのは、砂浜であるにも関わらず、多くの緑が生い茂っている一角だった。
するとそこには、一体の女性、彼女達の仲間であろう人物が座り込んでおり――
「この人は……」
「もう、動けないんだ。環境調整用設置型モデルなんだ」
座り込んでいると思われたその人物は、多くの植物が身体から生えていた。
環境調整……まさか苗床のような役割なのか。
「おや、その声はL.Uだ。いらっしゃい」
「客人を案内中だ。喜べ、もうすぐお前も自由に歩けるようになるぞ」
「本当かい? それならもっと他の植物を育てられるじゃないか」
「もうそんな事をしなくていい。お前はなんで自分の身体を犠牲にしてまでそんな事をする」
「それが私の役目だからね。でも、安心だ。機能が戻るなら自由に歩いて育てられる」
なんだか、この子だけは役割に殉じられているように見えて、少しだけ、救いの様に思えた。けれども同時に、不憫にも思えて。
太古の人間の指示に従い続けるのが、果たして本当に幸せなのか。
……いや、俺が考える事じゃないよな、それは。
「ごめんよ、首の関節ももう稼働しないんだ。こっちに回り込んでくれるかい、お客人」
「あ、申し訳ない。今回、メディカルインターフェースを提供したカイヴォンと言います」
「付き添いのリュエだよ」
「同じく付き添いのレイスです。これは……食用の作物なのでしょうか」
「はい。私は元々人間の生活を補助する目的で生み出されましたので。恐らく、今残っている同胞の中では一番古い機体でしょう」
「そういえばそうだったな。眠っている観測タイプとお前は私達より先に生まれ、目覚めたはずだ」
「目覚め……?」
それは、どういう事なのか。
この環境調整用モデルは、他の人達とは違うのだろうか。
「私はこの海岸に打ち上げられたカプセルで眠っていました。データが正しければ、ここは私達が生まれた時代よりも遥かに未来、恐らく千年単位では足りない程だと思われます。察するに、どこかで文明がリセットされるような災害、または争いが起きたのでしょうね」
「そう……なんですか」
「はい。この大陸に残されている王家の名称も、私のデータにはありませんでしたし、そもそも地形もまったく見覚えがありません。ですが、海底の波形を観測機体が調べた結果、幾分符合する部分がありましたので、海底の調査を始めました」
「それで次々に見つかったのが私達だ。この先の海については、観測モデルが目覚め次第だ」
ふむ……旧世界というのは、俺の想像以上に昔なのかもしれない。
ガルデウスの過去や、エルクレアが言っていた時代よりもさらに過去のような気もする。
そうなると、この世界をずっと狙っている存在というのは……やはり旧時代に関係しているのだろうか?
「また来る。少し親方の様子を見てくる」
「はいはい。では、機能が回復したら今度は私が向かいましょう」
別れの挨拶を済ませ、親方のいた場所に戻る最中、リュエがぽつりとつぶやいた。
「さっきの子……頭からピーマンのヘタみたいなの生えてたね?」
「……実は気になって仕方がなかった」
「あの方だけは、どうやら周囲の魔素を、植物を介して吸収していましたね。もしかしたら、共棲しているのでしょうか……」
謎だ。だが、少なくともこの先の海に繋がる手がかりは得られそうではあるな。
「親方、戻ったぞ。どうした、何か不調か?」
「いや……不調ではないが、想像以上に動力の変換率が悪い。集めたポッドの劣化が激しい」
「……そうか。今、海についてカイヴォンに説明した。出来れば観測モデルだけでも優先して目覚めさせてやりたい」
「なるほど、確かにそうね。でも……ちょっと時間がかかりそうよ」
親方のところに戻ると、なにやら里長が使っていたポッドに似た機械が積まれており、それぞれが配線で繋がれ、親方の身体に動力を送り込んでいるように見えた。
素人目にもかなりめちゃめちゃな配線に見えるが……そういえば彼女達は自分に纏わる装置についての知識は持ち合わせていないのだろうか?
少なくとも、里長は知らない様子ではあったが。
「ふむ……親方さん、このマシンの配線とか、少しやり直しても大丈夫かな?」
「分かるのか? 私達も検証してこれに辿り着いたんだ」
「多少は……」
などと言いつつ、俺の知識なんてせいぜい小学校の頃の教材で電子工作をした程度なんですけどね。
あと玩具の改造とかその程度。
「そうか……ここは潮風が強いもんな。劣化も早いか……」
「あの、カイさん。古くなった部品の修復だけでしたら、私でも出来ると思います。ダリアさんから色々教えて貰っているので……」
「本当かい!? それだけでもかなり助かるよ」
「じゃ、じゃあ私も何か……」
「リュエは……ええと……」
ちょっとリュエさんは今出来る事は少ないかもしれないです。
すると、積み上げられたガラクタから、一本の線が伸び、何やら大きなタンクを経由して、さらに背の高い丸太に巻かれ、まるで避雷針のような物が設置されているのに気が付いた。
「親方さん、あれは?」
「あれは動力の確保の為に作った。効率は悪いが、落雷の際に発生する電波を収集している」
「なるほど……直接雷、電気を集めている訳ではないと」
「雷はダメだ。強すぎる。だが落雷の余波で発生したエネルギーは丁度良いんだ」
「なるほど……よし、リュエの仕事が決まったよ。あの丸太から少し離れたところ……そうだね、あの岩場に落雷の魔法をお願い出来るかな」
「雷の魔法って苦手なんだけれど、それでもいいなら落とすよ」
「お願いするよ。くれぐれもあの丸太に直接ぶつけないようにね」
「よーし、分かった!」
一先ず、俺とレイスは配線やそこに触れる面、その他集められているガラクタから、錆を取り除き、配線を綺麗に整えていく。
本当、こういう時ダリアがいてくれればかなり助かるのだが、生憎あいつはサーズガルドだ。
さらに言うなら、実はダリアよりもシュンの方がこういう電気工作的な作業には適正があったりする。少なくとも日本にいた頃は。
「……今頃、何をしているのやら」
そうして黙々と作業をしていると、レイスが錆た物や変形した物をある程度修復出来るという事で、マシンの配線が済んだ後は、娘さん達の身体の修復をするという事になった。
やはり、長い間動いてきた関係で関節の歪みや腐食が進んでいるようだ。
「何から何まで助かるわ。動力の伝導率が二一%向上。それにあの白い髪の子が雷を落としているおかげで、エネルギー残量が三六%から六七%まで回復したわ。やっぱり、マイスターとドクターだったんじゃない」
「そんな大それた物じゃないよ。さっき渡したパーツの調子はどうだい?」
「適合しつつあるわ。凄いわ、劣化や損傷がまったくない。MI内蔵モデルは恵まれた環境にいたようね」
「……そう、だったのかな」
「話を聞きたいわ。あの子はどういう生活を送っているのか」
身動きが取れなく、どうせただ待つだけならば語って聞かせようと、里長の事を、隠れ里の事を、そして何故彼女がそのパーツを手放す事になったのかを語って聞かせる。
「――それで、最後に彼女は俺に託したんだ。『旅路の中で、もしかしたら出会うかもしれない』って言って」
「……あの子は、マスター得て、使命に殉じ、人の為に働き平和に暮らしているのね……凄く、羨ましいわ。私達は……マスターを得ていないもの」
「でも、さっき会った環境調整モデルの子は……」
「彼女は特別よ。外部から、私達のところに合流したの。きっと、マスターから引き離されたのね。それで私達は……来る時の為に眠らされて……この時代に目を覚ました」
酷く、悲しそうな声だった。
感情が読み取りにくいと思っていた彼女達だが、話しているうちに、その僅かな機微が分かるようになっていた。
……もしかしたら、里長は沢山の子供達に囲まれていたからこそ、あそこまで感情豊かになったのかもしれないな。
「……きっと、この時代じゃなかったら、君達は戦いの中で散っていったかもしれない。今この時代で目覚めたなら、今度は自分達を自分達のマスターとして自由に生きるのはどうだい? 少なくとも今の君達は、同胞の為に動けているじゃないか」
「……考えておくわ。でも、やっぱり指針が欲しいのよ。そういう風に出来ているんだから」
「ふぅ……久しぶりに沢山魔力を使ったよ。親方ちゃんの調子はどうだい?」
「お疲れ様、リュエ。親方なら今は最終調整が必要だからって集中する為に一人になっているよ」
「そっかそっか。レイスの方は……あ、帰って来た」
「た、ただいま戻りました……ま、魔力がほとんどからっぽです……疲れました……」
リュエとレイスが、一通り仕事が終わったからと戻って来る。
レイスは特にお疲れ気味で、珍しく表情に疲労の色が濃く出ている。
よしよし……今MP回復のポーションを分けてあげますからね……。
「あ、私にもおくれ。いやー久々に飲むよー」
「あ、これは……神隷期の飲み物なのでしょうか?」
「そうだね、飲み薬の一種だよ。ちょっとお酒みたいな味だけど中々美味しいよ」
ゴキュゴキュと飲み干す娘さん達。ちなみに味は、サクランボのリキュールに似ていると思う。
なおグレードによって味が変わると言うのはオインクの弁。アイツ、最高級のポーション類しこたま貯め込んでいたからなぁ。
「ふぅ……大分楽になりました。皆さん、やはり体のあちこちが痛んでいたようで、治療すると本当に嬉しそうにしてくれて、ついつい張り切り過ぎてしまいました」
「いいなー……私の回復魔法じゃ効果がないみたいなんだよね」
確かに、レイスがやって来た方向に目をやれば、娘さん達が嬉しそうに飛び跳ねて自分の身体の調子を確かめている姿が見える。
……酷い腰痛や肩こり、関節の痛みから解放されたようなイメージだろうか。
「よし、じゃあ一先ずやれる事はやったし、今のうちにナオ君達のところに戻ろうか。ガルデウスに伝令を送らないと」
「伝令? どうするんだい?」
「海が使える様になるのなら、そろそろ船をこっちに回すようにお願いしないとね」
さぁ、準備は整った。次はいよいよ航海に向けて動き出すぞ。
(´・ω・`)家畜モデルLANLAN