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三百八十九話

(´・ω・`)最終章、始まります

「うーん……なんて言えばいいのかな? 絵を描く前に、私は物を描く階層を最初に決めて、それを最後に合わせるイメージで……レイヤーの概念って説明しづらいね」

「なるほど……描写の奥行がそれまでの作品より綺麗に描かれているのはそういう技法のお陰なのですね……カイさんのいた世界は芸術面でもかなり進歩しているのですね……」

「うーん、よく分からないけど、エルは凄いって事でいいんだよね?」

「うん、私は凄い。あーもう可愛いなリュエは」


 ガルデウスにある商業区画。その一角に若い女性が多く集まるエリアがある。

 見るからに女性受けしそうなおしゃれなカフェで楽しそうに話しているのは、我が家の娘さん二人と、かつての仲間であり、今まさにセカンダリア大陸の為に動き出そうとしている次期王女、エルだった。

 元々二日程前から市井に潜んでいたらしく、早々にガルデウスからの出国の準備を済ませ、最後にこうしてカフェでお茶をしているという訳だ。

 エルに対する反応は、やはりレイスが凄まじく大きく、もう拝み倒すのではないかという勢いの感激ぶりで、さすがのエルも少々引き気味だったのだが、今ではそれも収まっている様子。


「本当、凄く懐かしいわ、こうして面と向かって話すと。今回はあまり時間がとれないけれど、いずれじっくりお話したいわ」

「私もだよ。エルも、これから大変だと思うけど、私達に出来る事はなんでも言っておくれ。凄く、凄く私達は強いんだから」

「ふふ、出来ればそういう方面での問題には直面したくないのだけれどね? カイさん、突然無理を言ってごめんなさいね? ちょっと肩身が狭かったでしょ?」

「ははは……まぁ多少は。でも三人が楽しく過ごせたならそれに越したことはないさ」

「ここ……凄く女性が多いですもんね……」


 店内に男が俺一人なので、マジで色々視線が集中していたのですよはい。

 気を聞かせて三人とは少し離れた席に着いていただけに、もう目立ちまくりです。


「カイさん達はこれからどうするの? 私は国に帰るけど、もうちょっとガルデウスに?」

「いや、エルのお陰で色々心配事も減ったし、そろそろファストリア大陸に向かうよ」


 カフェの会計をしながらそれを伝えると、ポカンと、まるで俺が素っ頓狂な事を言っているとでも言いたげな表情をするエル。


「ファストリアって……そんなの、地球で言うムー大陸みたいなものよ? さすがに無理でしょ?」

「……は? それは一体どういう……」

「ムー大陸ってなんだい? なんだか可愛い名前だね」

「ムー大陸……それはどういう意味なのでしょうか?」


 俺には意味が分かる。ファストリア大陸は……地球のムー大陸と違って実在するだろ? そこの遺物が漂着したという話だってあるし、俺が普段使いにしているコートだってファストリアから流れ着いた物のハズだ。


「うーん……説明が難しいけど……誰も辿り着けない大陸なのよね。たぶん、カイさんの旅立ちにはこの国の王様も協力してくれると思うから……やるだけやってみても良いかも」

「ふむ……分かった。王様にも相談してみるよ」


 そのどこか不穏な言葉に促されるように、彼女が密かにガルデウスを発つのを見送ったその足で城へと戻るのだった。

 またな、エル。きっとまた近いうちに会いに行くからな。




「そうか……ついに旅立ってしまうのか」

「ええ。メイルラント帝国との関係も、このままいけば悪い方向には向かわないはずですしね」

「そうだな。そもそも、客人を引き留める訳にもいかない。して、この後はどこに向かうのだ? カイヴォン殿は。またサーディス大陸か、それとも直接セミフィナル大陸へ?」

「実はその事で相談があるのですが――」


 エルに語ったのと同じ内容。即ち、ファストリア大陸を目指している旨を伝える。

 すると、やはり国王もその表情をどこか複雑なモノに変化させた。


「……カイヴォン殿ならば、あるいは目指す事も出来るかもしれない。が、向かう為の船を用意するのが難しいのだ」

「エル……メリアにも似たような事を言われました。その、具体的な話をお聞き出来ないでしょうか」

「良いだろう、分かった。まず、ファストリア大陸は確かに存在していると言われている。事実、漂着物が時折、商人の元に渡る事もある。だが、大陸へ向かう為の航路が存在しないのだ。ある一定の距離まで大陸から海を南下すると、船の動力が機能を失う。まず、これが一つ」

「あの……つまり動力である魔導具が止まってしまう、という事なのでしょうか?」

「うむ。聞けば、リュエ殿やレイス殿は魔力、魔素に対して過敏であると聞く。もしかすれば、その原因が分かるかもしれないが……が、我らとて詳しい調査をしたいと何年も前から考えていたのだが――そもそも、大陸南にある海岸一帯に近づく事も難しいのだ」

「どうしてだい? 何か魔物でも住み着いているならやっつけてあげるよ?」

「魔物……ではないのだ。いつからか、南の海岸一帯を守護している存在がいるのだ。初めはメイルラントの軍かと思っていたのだが、どうやらメイルラント側も立ち入れない様子。恐らくどこからか流れてきた流浪の民だとは思うのだが……」

「対話を試みる事も出来ないのでしょうか」

「出来ない。ただ立ち去れと警告されるのみだった。先走った者達により武力行使もあったと聞くが、瞬く間に殲滅、命こそ奪われはしなかったが、完全に戦意を喪失していたのだ」


 騎士団を返り討ちにするほどの手練れ……か。


「その場所にもダンジョンはある。当然ナオも向かったのだが、諦めた程だ。つまり、マッケンジーも、スティリア副団長も、ナオをも含めたパーティーですら撤退を余儀なくされたということになる。あの場所はもう、メイルラントも我らも手出し出来ない場所となっているという訳だ。当然、調査など出来ようはずもない」

「それは……少し気がかりですね。それほどまでの力を持った人間がそこで何を……」


 今のナオ君達ですら撤退を選ぶ……ヨロキに匹敵するのではないか、そこに住む存在は。


「ねぇねぇ、だったら北の港から、ぐるっと海をまわって行けば良いんじゃないかい? それで、問題の海域からは帆を張るんだ」

「確かに。王様、この手段はもう……試されたようですね」

「うむ。その結果が一つ目の理由、動力が動かなくなるという結果に繋がったのだ。さらにその周辺の海流は複雑で、帆船として動くには少々危険すぎるのだ」

「むー……困ったね、それは」

「けど、諦める訳にはいかない。一度、その海岸に向かってみようと思います。その海岸に住む人達からも……なんとか話を聞いてみます」

「うむ……海岸の存在は、近づかなければ決して我らに害をなす者ではないのだ。魔物から行商人を守るという事もしていると聞く。出来れば……命を奪う事だけは避けたい」

「もちろんです。では……俺達は明日にでも出立しようと思います」

「そうか……本来ならば盛大に見送りたいところではあるが、今はそれも出来ない。申し訳ない。が、せめて海岸までの魔車の手配と、同行者をつけたいと思う。何かあればすぐにこちらとやり取りが出来る様に伝令としてな」

「わかりました。相談に乗って頂き、ありがとうございました」


 そうして、滞在させて貰っているスティリアさんの屋敷に戻り、出立の旨をナオ君、そしてスティリアさんの父親であるシェザード卿に伝えると――


「僕も海岸までご一緒させてください。案内や、付近の森の地理は頭に入っていますから。それに……戦いについてもお話出来ると思います」

「南海の民に挑むとは……娘もナオ殿と挑んだという話であったが……」

「南海の民、ですか? 元々はどこから来たのでしょうか……」

「戦争が激化する前、少なくとも……スティリアが生まれる前から、でしたな」

「僕も聞いた事があります。亡くなられたスティリアのお母さんも、その南海の民と交戦した事があるって……」

「そんな昔から……じゃあ向こうも代々戦っている、という事になるのかな」


 二人が言うには、その南海の民と呼ばれている者たちは、皆一風かわった甲冑を身に付けた『女性』であるらしい。

 だが、まるで一つの意思で統一されているかのごとき連携で、何もさせてもらえなかったとも。


「カイヴォンさんに分かりやすく言うと……まるでどこかの特殊部隊でした。戦法も戦い方も、この世界よりも何百年も先に行っているかのような……」

「それは……まさか銃でも使うっていうのかい?」

「分かりません……どちらかというと、レイスさんが使う弓みたいな、魔力の矢みたいな」

「私の魔弓と似た? それは……興味深いですね」

「うーん……悪い人達じゃないみたいだし、王様にも念押しされているから、私が一帯を一気に氷結させる訳にもいかない……よね?」


 リュエさん、そんなさらりと恐ろしい事言わないで下さい。ナオ君もシェザード卿も驚いてるじゃないですか。

 と、その時だった。スティリアさんの帰宅が告げられた。

 やはり現在、捕縛された騎士団長やその直属の部下達の穴を埋めるべく、騎士団の再編で忙しいそうなのだが――


「正式に告げられるのはまだもうしばらく先になるのですが、この度、騎士団長の任を授かる事になりました」

「本当かい!? 凄いじゃないかスティリアちゃん!」

「繰り上がり、のようなものなので、私がそれに見合った実績、功績を積み重ねた訳ではないのですが、それでも身を捧げる覚悟で臨みたいと思います」

「そうか……お前も母と同じく団長となったか。だが、身を捧げるとは言わないでくれ。精いっぱい、周囲の人間に頼り、共に歩んでいくのだぞ」

「父上……そうですね。少々物言いがよろしくありませんでした。申し訳ありません」


 そうか……みんな、少しずつ変わっていくのだな。


「ところで、国王から先程聞いたのですが、明日出立されるそうですね。少し急ではありますが、私の部下から信頼出来る者をつけたいと思います。場所が場所です、何かあればすぐに連絡できるよう、伝書用の魔物も同行させたいと思います」

「伝書の魔物……ハトみたいなもの、ですかね」


 なんだろう、こう……ハトサイズの魔物に手紙でも持たせるのだろうか?


「スティリアは来れないの? 僕は海岸まではついて行こうと思うんだけど」

「う……残念ですが、さすがに今は離れられないのです……同行させる部下は、実力、人柄ともに信頼出来る者をつけますので、それでどうか」

「そっか、確かに騎士団長になるんだもん、忙しいよね。スティリア、十分に気を付けてね。内通者が全員捕縛されたとは限らないんだし」

「はい。ナオ様も、どうかお気をつけて。南海の民の強さは、私も身に染みております。カイヴォン殿達がいる以上、負けるとは思えませんが……それでも」


 微妙に後ろ髪引かれていそうなスティリアさんの言葉を噛みしめながら、ある意味ガルデウス最後の夜は更けていく。

 南海の民……か。果たしてどういう存在なのだろうか。

 全員が女性となると……なんらかの組織である可能性が?

 いよいよ最後の大陸に向けて出発だと言う事もあり、若干興奮で寝つきが悪い気もするが、気が付くとこちらの意識が遠く――




「おはようございます! スティリア副団長により、この度魔車の御者、および護衛、伝令の任を受けました、サテラ・ニールソンと申します!」


 翌朝。朝早く屋敷の扉の前でこちらを待ち受けていたのは、一日の元気を今この瞬間に全て発揮しているかのような眩しい笑顔を浮かべた女性の騎士だった。


「おはようございますサテラさん。手首の調子はどうですか?」

「ナオ様! はい、あれからすっかり良くなりました。今後も精進したいと思います!」

「それはよかったです。カイヴォンさん、こちらはサテラさんと言って、僕の仲間の補充をする際に開かれた選定の戦いに出場していた方なんです」

「なるほど。初めまして、サテラさん。俺の名前はカイヴォンと言います。道中、宜しくお願いしますね」

「はい!」

「おはようサテラちゃん。私の名前はリュエだよ。今日からよろしくね」

「はい! リュエ様のお姿は以前、城の訓練場でお見掛けしました! 聖騎士様と旅が出来て光栄であります!」


 おっと見事な敬礼。なるほど、スティリアさんかナオ君との模擬戦を見ていたようだ。


「おはようございます。私の名前はレイ――」

「レイディアントマジェスティことレイス・レスト様ですね! 御高名は聞き及んでおります! 私も姿絵を持っているのですが、同じ女性でもほれぼれしてしまうお姿に感激を禁じえません! 道中、何卒よろしくお願いします!」

「う……なるほど……そういうことでしたか。気軽にレイス、とお呼びください」


 そして、レイスの事も当然のように知っている、と。

 ……あれ? なんか俺の時だけ反応が軽かった気がする。

 仕方ないね。目立った功績なんてありませんしね。

 ともあれ、そんな元気いっぱいなサテラさんと共に、長らくお世話になっていたスティリアさんの屋敷を後にしたのであった。




「ふう……この魔車はかなり速度重視みたいだね」


 都市を出発してから三〇分。以前俺達が借りた魔車よりも幾分速い速度のお陰で、すっかりガルデウスの姿が見えなくなる。

 このペースで行くと、昼前には国境付近まで辿り着けると言う話だ。

 まぁ、そこから海岸までの方がむしろ時間も掛かるのだが。


「きっと王様も、なんだかんだでカイヴォンさんを引き留める形になってしまっていたのを気にしていたんだと思います。この魔車、たぶんガルデウス最速ですよ。時速でいったら90キロを超えているくらいだと思います」

「それは凄いな……振動も少ないし、こういう客車も欲しいな……」

「ですよね。僕も車とかバイクが好きだったので、気持ちはわかります」


 ちょっと意外。いや、年齢を考えれば興味を持ってもおかしくないか。


「じゃあ、今のうちに南海の民について聞きたいんだけど……具体的にどんな連中なのか、教えてくれるかい?」

「はい。まず、いきなり襲ってくるような野蛮な人達ではありません。威嚇射撃というんでしょうか、地面を攻撃され、足を止めた瞬間、どこからか声がしてきたんです」

「威嚇射撃……ますます軍隊っぽいな」

「ええ。それで『どんな用事か分からないが、この森を抜ける事は禁じる。即刻立ち去れ』って言われました。でも、ダンジョンに行かなければならないからと言うと――」


 どうやら、どんな理由であれ海岸側に出られるのは困るようだ。

 森の中での開戦だったようだが、こちらが何かする前に完全に包囲され、そのまま外に出るかどうか選択を迫られたそうだ。

 さすがに、姿が見えない相手、それも一方的な状況に追い詰めてきた相手と敵対する事は避ける、という選択を選んだと。


「降参すると告げると、森の中から一人の女の人が出てきたんです。いつ現れたのかわからないくらい突然」

「潜伏、ゲリラ戦の専門家ってところか……」

「はい。全身、細めの甲冑で覆われていて、ヘルムも被っていたんですが、身体のラインから女性だと分かりました。その方に、安全に外まで案内されたのです」

「案内って、ナオ君達も普通に入って来たんじゃないのかい?」

「それが、道中トラップが沢山仕掛けてあって。幸い僕が看破したので、なんとか無事に進めたんですが、それでもやっぱり時間がかかっちゃって」

「トラップもあるのか……」

「はい。正直、もしも全力で僕達が戦っても、搦手で負けていたかもしれません。それくらい、統率された人達でした」


 ふーむ。もしかして本当にゲリラ部隊だったりするのだろうか?

 だとしたらどこの国のだ? 一応、この大陸にはガルデウスとメイルラントという二大大国があるが、他にも小さな国がいくつかあるという話だ。そのどこかの手勢か?

 ともあれ、そのまま行軍は進み、無事に国境へと差し掛かったのだった。

 あれ? そういえばこの辺りって、俺が七星の使いを名乗って盛大に荒らした場所じゃありませんでしたっけ?


「んな! 国境が完全な崖になっています! 皆さん、少々ルートを変更致します!」


 外からのサテラさんの言葉に、一同がこちらを見る。

 そ、そんな目で見るんじゃない! 俺は悪くねぇ! いや10:0で俺が悪いか。


「まるで地震で大地が割れたみたいです……噂では、七星の使いを名乗る有翼種の攻撃によるモノだそうですが……七星が解放された以上、きっともう襲われる事はないでしょうね」

「え、ええ。きっとそうだと思いますよ」


 ちなみに、関係者以外には、ナオ君が無事に七星を解放した、という事になっている。

 別に信仰の対象だったわけでもないし、下手に混乱させるよりはこのまま黙っていた方が良い、というのが満場一致の意見だ。

 そのまま、俺が作り出した広大な地割れに沿い、海岸を目指すのだった。




 出立から三日目。地割れが見えなくなった頃には、何もないただの平原が続く大陸南部、その辺境へと差し掛かっていたのだが、いよいよ進路の先に森林が見えてきた。

 この後森の手前でサテラさんと別れ、徒歩で海岸を目指す事になる。

 距離的には二キロあるかないかなのだが、鬱蒼とした森、そして仕掛けられた罠や間違いなくやってくる襲撃の事を考えると気が抜けない。

 そして森の前に辿り着くと、サテラさんが一匹の兎……に似た魔物を俺達に託してくれた。


「何かあったら森の中でこの子を放してあげてください。私のところに来るように教育していますので! その後、必要であれば更に鳥の魔物をガルデウスに向けて放ちますので」

「へー! なんだか可愛いね! こんな子どこにいたんだい?」

「実は、御者席にずっと座らせていました。景色を見るのが好きなんです。鳥の方は初日からずっと空を追いかけていたんですよ」

「なるほど、それは気が付きませんでした。では……この子は私が抱えていますね」

「あ、私も抱っこしたい! 後で交代ね」

「ふふ、分かりました」


 可愛らしい角兎にご満悦のリュエとレイス。だが……確か、アルヴィースの街で……ヒューマン保護区の食糧難の為に狩った事があったような……言わないでおきましょう。


「さて。罠があるのなら俺の出番かな」

「久しぶりに見ますね、カイヴォンさんのその魔法」

「厳密には魔法ではないんだけどね」


 さて、久しぶりにナオ君の前で披露するのは、ご存知[ソナー]のアビリティ。

 アビリティの性質上、屋外ではあまり効果を発揮しないのだが、建物が密集している場所や、今の様に木々が多い場所ではしっかりと反響してくれる。

 地面に剣を突き立て、その衝撃がこちらのメニュー画面に詳細なマップを映してくれる。


「これは……罠の配置に規則性がしっかりあるな……さらにその規則性そのものが罠だ。こりゃ普通の人間じゃ何もできずに返り討ちになるはずだ」

「あの、カイさん。その力で相手の位置もわからないのでしょうか?」

「それが、不思議な事に動物や魔物らしき反応はあるんだ。飛んでいたり駆け回っていたり。でも人らしき反応はどこにもないんだ」

「それなら、むしろチャンスかもしれませんね。恐らく何かしらの術、トラップで進入を感知しているはずです。それでしたら一切ひっかからなければ……」

「なるほど。じゃあみんな、しっかり俺の後ろについてきてくれ」


 どうやら、森の始まりあたりには罠はしかけていないようだ。

 だが、すぐに通りやすい場所、少しそれた場所、そういった人が選びそうな場所にピンポイントで罠がしかけてあった。

 極細のワイヤーを使ったモノのようだが、ある場所さえ分かっていれば回避は容易い。


「ここで……ここにジャンプ。みんなも俺の足跡の通りに動いて」

「わかりました。えい……とと」


 ばるんばるん。いや、何がとは言いません。


「ほりゃ! シュタ!」

「ははは、一〇点満点」

「じゃあ僕も……よっと」


 そうして無事に罠を回避し、森を奥へ奥へと進んで行く。

 やがて、振り返っても森の外が見えないくらい内部へと入り込んだ時だった。

 まるで周囲にスピーカーでもあるような、発生源を突き止められない声が辺りから響く。


『また、お前か。今度は別な仲間を連れているようだが無駄だ。今すぐ立ち去れ』

「っ! 感知された気配はなかったと思ったんだが」

『……偶然ではなく罠を見破って来たか。少々危険だな、お前』


 女性らしき声。すぐさまもう一度剣を取り出し、地面に突き立てようとした瞬間、高速で飛来する光の矢が剣にぶつかる。

 衝撃に腕が跳ね上げられるが、どうやら武器破壊は免れたようだ。

 さすが、これでも最高レアリティの剣だからな。


「いきなり攻撃とは穏やかじゃないな」

『先に武器を取り出したのはそちらだ、卑怯とは言うまいね』

「……カイさん、魔眼で周囲を見ましたが、反応がありません」

「同じく気配、魔力の流れに異常なし。これは……何かの力で隠匿しているのかも」

『次は、武器ではなく直接狙う。悪いことは言わない、すぐに森を立ち去れ』

「生憎、そうはいかなくてね。俺達はこの先の海に出たいんだ。そっちこそ、海について何か情報があるのなら――」


 その瞬間。猛烈な衝撃を腹部に受け、大きく後退る。

 顔を上げれば、今まで俺が立っていた場所に、赤黒い甲冑を纏った戦士の姿があった。

 甲冑……? 随分と近未来的なフォルムだ。


「親方、こいつはここで排除する。海を調べると言ったぞ今」

『……致し方ない。少々手荒いが、強制的に排除させてもらう。悪く思うな』


 その宣言と同時に、四方から光の矢が飛来する。

 が、すぐさまリュエの結界が展開されそれを塞ぐ。だが、防いだ瞬間閃光が辺りを照らし、気が付くと今度は槍を構えた戦士たちが無数に表れ、まるで示し合わせたかのようにこちらの手足、そして避けた先に待ち構えているように差し出された。


「っ! レイス、上だ!」

「あ……キャア!」


 飛来する光。槍、そしてなにか爆発物だろうか、こちらの反撃よりも先に煙幕を張られ、再び飛来する光の矢。


「もうあったまきた! 全員凍らせて――」

『一番、三番、点火。退避』

「リュエ、防ぐんだ!」

「わ! なんだこれ!」


 我慢の限界を超えたリュエが魔法を発動させようとした瞬間、いつのまにか足元に置かれていた筒が破裂し、異臭が漂う。


「うげ、頭痛い! 集中できない!」

「魔法を妨害……リュエ、薬だ!」

「ありがと!」


 使う機会の少ない状態異常回復薬を投げ渡し、迫りくる槍を――すべて身体で受け、そのまま大きく振り回す。

 戦士を数名投げ飛ばし、なんとか体制を立て直す。


「おいおい……どんだけ連携上手なんだよこいつら」

「うーん……即効性の毒で集中を乱すなんて、やるなぁ……」

「私も、先程から弓を構えられません」

「すみません、僕も何も出来なくて」


 いつの間にか姿を隠した戦士達。完全にこちらの動きを先読みし、まるで詰将棋のように攻めてくる。


『大人しく森から出ていけ。これ以上は死人が出る』

「悪いが……そういう訳にもいかない。が、死人を出したくないのはこっちも同じだ。だから……悪いが手足の一本が消えても文句言うんじゃないぞ」


 すぐさま武器に[弱者選定]のアビリティを組み込む。

 こちらの気持ち、手心の加え方を加味し、自由に相手へのダメージを減らせられるという効果を持つもの。

 だが、武器のアビリティを組み替えた時、ある事に気が付いた。


「……なんだ、ステータスに違和感が――」


 その一瞬の隙を見逃してくれるはずもなく、再び無数の光の矢が、今度は俺に集中する。

 だから、こっちもなりふり構っていられないんだっつーの。


「いい加減に――しろ!」


 閃光の中。全力で剣を振るう。

 人を殺すな。だが全てを薙ぎ払え。その思いが通じたのか、閃光がはれるとそこには――


「……ようやく全員姿を現したか」

「っ! 馬鹿な! 森が消えた……だと!?」


 その声は、先程から森に響いていた声だった。

 見た目、二十歳にも満たないであろう人物。黒い甲冑に、どこか幾何学的な緑のラインが入ったものを身にまとい、白い髪をのぞかせる、少女と見紛ういで立ち。

 そして、先程鋭いボディブローを叩きこんできた赤黒い甲冑の戦士に――


「こんなに潜んでいたなんて……」

「ひーふーみー……一九人もいたんだ。全員で連携されちゃかなわないよ」


 総勢一九人の、いずれも一風変わった、どこか近未来的な甲冑をきた女性たちが、なぎ倒された木々の間に立ち、呆然とこちらを見つめているのだった。


「……撤退するわ。地の利がここまで失われたのなら引くべきよ」

「親方、こいつはどうする。砂浜で迎え撃つのは危険だ」


 冷静に、その判断を下す『親方』と呼ばれている少女。


「引き際まで弁えている、か。悪いが逃がすつもりはない。そちらが離れる前に、今度は身体にも斬撃をあてる。そこまで冷静なんだ。俺達が、俺がどうにか出来る相手じゃない事くらいもう見抜いているはずだ」

「っ! もし、まだ逃げる方法があるとしたら?」

「……親方!」


 次の瞬間、大人しく後ろで見守っていた残りの一七人のうち、二人がこちらに駆け出した。

 その腕に、先程見せて爆発物を抱えながら。


「リュエ!」

「大丈夫、もう凍らせた」


 だが、俺より先にそれを察知したリュエが、その爆発物を凍らせ、抱えていた少女達の足をも凍らせる。

 自爆特攻させる気だったのか!?


「お前、何を考えている!」

「っ! それをさせたのはお前だ」

「……どうしても敵対、交戦するしかないのか?」

「……海を荒らされる訳にはいかない」

「……交渉だ。俺達も無暗やたらに人の領域を荒らすつもりはない。だが、このままではそうなってしまう。交渉に応じろ、今この場での決定権は俺にある」


 能面に似た、無表情ながらも整った顔がこちらをじっと見つめる。

 赤い、真紅の瞳。白い髪に真紅の瞳となると、その無表情もあいまって、どこか里長を彷彿とさせる。


「……カイくん。この子達――魔力反応が腰、あの武器にしかない」

「……え?」

「確かにそうです……これはまるで――」


 その瞬間、俺は咄嗟にこの言葉を口にした。


「全員、自分の型番とマスターの名前を教えてくれないか」


 するとその瞬間、彼女達の動きが止まり――


(´・ω・`)今月30日に9巻が発売されます。

そして9月頃からまた改稿作業に入る予定ですが、それまでには完結させたいと考えています。

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