三百八十六話
(´・ω・`)さあいよいよ今月末発売です
ちょっと頑張って更新ペースあげていきます
「……やっぱり、ずっと狙っていたな、ヨロキ」
「カイくん!? 今手当てを――」
「いや、このままでいい。ナオ君、君ももう諦めな」
心臓から飛び出た刀が引っ込み、今度は腹から、そして首から、何度も何度も突き刺される。
俺に対して特効の刀。だが、今この状況でだけは、その効力を失っていた。
傷すら、残らない。まるで俺の身体がそこに無いかのように、ただ刀が通り過ぎているだけだった。
「なんで……なんで! 死ね、死ね!」
「親しい人間に言われると結構応えるな。リュエ、ナオ君の無力化を」
「ど、どういうことだかわからない……ナオ君が裏切った訳じゃないんだよね?」
「そいつの力だね。どうした? もう抵抗はしないのかヨロキ」
ヨロキは、その赤い姿を再び人の形にし、ただ立ち尽くしているように見えた。
もう逃れられないと。自分が温めてきた最後の切り札ですら、通じないと分かり呆然としているような。
「なぜ……神の力ですら……届かないのか?」
「まぁ、俺にそんな力はない。ただ……世界には明確な意思と、絶対のルールが存在する。外から眺めている自称神じゃあ届かない、そういうルールもあるってことだ」
背後から、氷の魔術の気配を感じる。
氷漬けにされ、身動きがとれなくなったナオ君が、ただ焦燥に駆られた顔で、必死にその戒めを解こうとしていた。
「リュエさん! これを消してください! 殺すんです、それで僕は本懐を――」
「……カイくん、ナオ君の事、眠らせるね」
「ああ、頼む」
自身の胸から再び生えている刀の刃を押し込み、手のひらの激痛に耐えながら刀を抜く。
自分から触る分にはやはりしっかりとダメージはあるようだが、この程度ならば回復も可能だ。
身体から抜け落ちたそれを拾い上げようとするも、やはり猛烈な痛みと共に手のひらが焼けただれ、やはり治癒も遅く、持ち続けるのは困難だと分かる。
恐らく、触れている間は著しくこちらの力が弱まってしまうのだろう。
だがそれでも、溶けつつある手で刀を持ち、そして――
「まだ、聞きたいことは山ほどあるが――お前は危険だ、ここで終われ」
「何故、何故だ! どうして、なんで!?」
一閃。霞を切り裂くような手応え。だが、確かに目の前の存在が苦しみ、虚弱な存在へとなっていくのがわかる。
二閃。断末魔ともとれる空気の震えが全身を揺さぶる。赤い霧が、室内に充満する。
三閃。四閃。五閃。六閃。霧が晴れる。するとここで、手にしていた刀が床に落ちた。
見れば、右手のひらが完全に解けて消えてしまっていた。
「……案外、怒っていたのか俺は」
痛みなど忘れて、ただひたすらに刀を振るっていた。これは、怒り半分、八つ当たり半分。
親しい人間に向けられた感情への不満。そしてなによりも――
「……どんな形であれ、いずれこうなるかもしれないって確信していたから、か」
自分自身への怒り。
「カイくん、手! 今なおす――必要はないみたいだね」
「ああ、手から離れたからね。リュエ、またこの刀を収納してくれないかい?」
「……もう、壊してしまおうよ。どういうわけか今回カイくんは無事だけど……絶対、死んでたと思う」
「……それでも、持っておこう。なんだかんだで、思い出の品でもあるからさ」
尤も、妹に心臓を刀で貫かれたというのは、あまりいい思い出ではないと思うのだが。
するとその時、久しぶりに聞く『システム音』に、メニュー画面を開いてみる。
確認した結果、どうやら俺は、しっかりヨロキを消滅させる事が出来たようだ。
それと同時に襲う猛烈な頭痛を、なんとかやせ我慢しつつ、なんとか持ちこたえる。
以前より、レベルアップの反動を耐えられるようになってきたのは、俺も成長しているという事なのだろうか。
「そうだよな。このシステムメッセージこそが……ある意味この世界の神だ。ここだけは、絶対に嘘をつかない。逆に言えば、ここに書かれている事は……絶対だ」
運命とは、なにか。神が定めた絶対に辿る事となる道筋か。それとも、人の縁が導き出す、逃れられない流れの事をさすのか。
それが何をさすのかは分からないが、恐らく、自分の力だけでは逃れられないモノの事なのかもしれない。
だから……俺は、その運命ですら越えられると、そう謳っていた『ある物』に、賭けていた。
この世界においては、アイテムの説明文、所謂フレーバーテキストが、ただの香りづけで終わる、という訳ではないのだ。
例えば、一度アマミに渡されたお茶。あれにもしっかりとテキストがついており、そこには彼女の思いが、真実が書かれていた。
逆もしかり。そのアイテムに書かれている文言は、真実であり、嘘ではない。
「……信じていない訳じゃない。でも……いつかこの日が来ると、思っていたんだよ」
そう言いながら、俺は今も凍ったまま眠りについているナオ君……その右手の部分だけ溶かし、その手を取る。
「カイくん? 一体何をして……」
「……今度こそ、本当に信頼の証をあげないといけないからね。嘘の贈り物は……回収だ」
そして、俺は彼の人差し指から、俺がはめているのと同じデザインの指輪を抜き取った。
【友情の指輪】
【たとえ運命に翻弄されようとも、互いが存在する限り互いを傷つけ合う事が出来なくなる】
【装着の際は互いに指にはめて貰う事が条件 また男性同士でしか効果は発動しない】
そう、この指輪。一度、リュエのカバンをあさっていた時に見つけた品だ。
これを見た瞬間、何かに使えるかもしれないと、ずっと持っていた物。
そして――アギダルで彼と出会った時、そのステータスに書かれていた『※※※※※の使徒』。それを見た瞬間……絶対にこの子に渡そうと、そう決めていた。
信頼もしていた。信用もしていた。だが……それだけで全て事がうまく運ぶとは思えなかったのだ。
「ヨロキは死んだ。一応、眠らせたまま拘束を解いてあげてくれないかい? 俺はケン爺の様子を見てくる」
「う、うん……たまに、私はカイくんの読みが、恐いと感じる事があるよ……それ、大分昔に私の倉庫から持ち出したヤツだよね……?」
「読みというよりは、転ばぬ先の杖かな。用心深いんだよ。なんだかんだで……俺は、平和な世界から来た、元々力のない人間だったんだからね」
さて、これでケン爺とナオ君の精神操作が解除されていると良いのだが。
そう思いながら廊下に出ると、誰か老人の……まぁ該当者は一人しかいないのだが、壮絶な泣き声が響いていた。
相変わらず酒の匂いが酷い部屋を経由して、俺が拘束しているケン爺の元へ赴くと、そこでは壁に貼り付けにされたまま、顔中汁まみれの老人が、良い大人が、盛大に声を上げて泣いていたのだった。
「カイ!!! 儂を殺してくれ! 儂は、儂はとんでもない事をしでかしたのじゃ! 皆を、皆を欺き、そして……あの者を解放したのは儂じゃ! リュエ殿の信頼も、主の努力も、全て台無しにしたのは儂じゃ! 殺せ、カイ! この惨めなおいぼれに死の罰を――」
「うっさいケン爺。とっとと顔洗って部屋を片付けるぞ。ほら、さっさと働け働け」
「も、もう少し感動的な展開を期待しておったんじゃが……すまぬ、儂はとことん無力じゃった」
「念のため聞くが……自分の行動がおかしいって気が付いたのいつからだ?」
「この街に戻って来た時からかの……儂はもう、ヨロキをいずれ解放すると心に決めておったのじゃ。恐らく……あの森で対峙した時から、支配下にあったのかもしれん。思えば、この街にきてからも、主とは極力一緒におらんように動いていた気がするからのう……」
「……そうかい。ちなみにこの部屋の惨状は自分でやったのか?」
「うむ。外部の犯行と思わせる為にの。なんとか主とナオ殿を分断しようと思ったのじゃ。ここ数日は、毎晩一人でこの黒い塊を壊す方法を模索しておったのじゃ」
「……恐ろしいな、それは。全く気が付かなかった」
「儂も、自分が平気で皆を欺き続けられた事が恐ろしくてかなわんよ。して……主が今ここにいるという事は……?」
「ああ、終わらせてきた。ヨロキは死んだ。俺が殺したよ」
「そうか……これでもう、儂は皆を騙さずに済むのじゃな……」
最後に儚げに笑うケン爺を、もう一度軽く笑いながら解放する。
さて……じゃあ残りはナオ君だな。
恐らく、俺を攻撃した時の記憶が彼にはある。少々気の毒だが……受け入れて貰わないとな。
七星の部屋に戻り、彼が目覚める前に、医務室に連れて行く。
曰く、そこまで強い昏睡ではないから、もうそろそろ目覚めるそうだ。
「……いつか、こうなるってこっちは分かっていた。その対策もしていた。ある意味、最初に裏切っていたのは俺の方だったのかもな」
その消えるはずの独り言が、呟きが、拾い上げられる。
「……いいえ。カイヴォンさんは、きっと間違っていなかったと思います。きっと……僕は他の真実を、別な何かを見つけたら……きっと貴方に挑んでいたかもしれませんから」
他でもない……ベッドで目を覚ました彼に。
「こんなに簡単に、僕は貴方に剣を向けてしまったのは……僕の心がそれだけ弱かったからじゃないんですか? 心のどこかで……まだカイヴォンさんと敵対する可能性を考えていたからなんじゃないですか? きっと、そうなんです」
それは、自分の弱さを憎むような、自分の心を疑うような言葉だった。
それを否定出来る程、俺は彼を知らない。だから慰めの言葉なんて見つからない。
だが、少なくとも事実だけは伝えられる。
「ちょっと、酷い事を言うよ。ナオ君、君は少し自惚れている。心が弱いから? なんだそれは。心が強ければ、神もどきの力にも対抗出来ると本気で思っているのかい?」
そんなわけがあるか。心の強さなんて問題ない。あらがえないのだ。俺ですらそうだ。
俺の経験を。一度、無様にも女に誘惑され、リュエやレイスの優先度を簡単に下げ、解放者になびいてしまった過去を語る。
慰めじゃない。事実だ。神もどきの力は、俺達人間じゃどうにもできない。
「自惚れるな、ナオ君。あれは相性次第で必ず効果を発揮する。心だなんだでどうこう出来る問題じゃない。何度だって言う。君の心なんて関係ない。百年以上生きたケン爺ですらこうだ。君は、彼の心も弱いと言うのかい? この大陸に生きる多くの人の心も弱いと言うのかい?」
「それは……」
「俺も、自惚れていた。誰かに自分が害されるなんて思ってもみなかった。だがその自信すら打ち砕かれた。俺が、この世界に生きる人間が抗わなきゃいけないのは、そういう相手なんだ。これは慰めじゃない。ただの事実だ。ナオ君、君の心が問題なんじゃないんだ」
「……」
無言。感情の落としどころが分からないと、そう思っているかのような。
あまり、俺は面倒見の良い人間じゃない。だから……こういう場面でどうすればいいのか、良く分からない。
だが、少なくとも泣いている子供には……手をさし伸ばす程度の良識は持ち合わせている。
静かに、うつむいたからの頭に手を乗せてやる。
「……本当、同じ男なのにどうしてこんなに髪が綺麗なのかね」
「……そんなの……毎日ケアしているからに決まってるじゃないですか……」
「なるほどな。今度、教えてくれ。俺は研究室の片づけに戻るよ」
「……はい。もう少ししたら、僕も行きます」
ああ、そうだろうとも。君は、弱くなんてないのだから――
それから、魔術師ギルド全体にかかっていた洗脳を解除することになったのだが、どうやらあれはヨロキではなくケン爺によるものだったらしい。
曰く『急ごしらえだったので、不完全な出来の術』という話だが、それでもヨロキの力を参考に生み出せてしまうあたり、なんだかんだでこの老人は天才の部類なのではなかろうか。
そして施設の清掃、今回の事の顛末を関係者に伝えた結果、この日の深夜――
「……話は理解出来た。確かに、同じ時間帯、一部の貴族の供述が突然変化したという報告も来ている。嘆かわしい事だが、私の側近、一部の者にも同じ症状が現れている。半信半疑ではあったのだが……この大陸が既に何者かの意思に染まりつつあるというのは事実なのだな……」
「王様。今すぐに戦争を止めるのは難しいのですよね、やっぱり」
「うむ……全ての民が急激に心変わりしたとは思えんのだ」
そう。関係者と共に、国王までもがここ、ケン爺の研究室へとやってきていたのだ。
「たぶん、一番効果が期待できるであろう、上にいる人達の影響が大きかったんだと思う。ヨロキが消えて、直接影響を受けていた貴族の人達の感情が抑制されても、さらに下、その下って伝染していったモノまでは取り除けないっていう事なんだと思う」
「なるほど……それに、そもそもの原因はヨロキではなく、その解放された七星という話です。存在そのものを消すことが出来れば、また変わって来るのかもしれませんが」
「んむ。スティリア嬢の言うように、本当の原因はその『ハーム・コラテラル』という七星のようじゃし、なんとかして大陸中にちらばったその者を消滅させる方法を考えんといけないじゃろうな」
「今はむの事呼んだはむ? はむは今この花の実を食べるので忙しいはむ」
そして何故か居るはむちゃん。どうやら王様にくっついていたようだが、王様、もしかして子供好きなのだろうか。さっきもなにやらお菓子を渡していた様子。
「はむちゃんじゃなくて『ハーム・コラテラル』だよ? あとソレを食べるのはやめた方がいいよ? それ、ケン君の研究用植物だから」
「ははは、構わんよ。ワインの原料に使う木の実じゃからの、それ自体はただの美味しい実じゃ」
「そうなのかい? じゃあ私も……あ、美味しい」
場の空気が急激にほんわかするのでちょっと一回静かにしてください……。
「あの……もう一つ気になっていたのですが、封印されているあの七星はどうしましょうか」
ナオ君に言われ、部屋の中央に移動しておいた七星に目を向ける。
まるで、はむちゃんのような耳のついた妙齢の女性。身にまとうのは、どこか神官を思わせるような法衣だった。
……確かに、ヨロキはこれを抜け殻だと、あまり気にかけている様には見えなかった。
あれがただのハッタリである可能性もあるが……口ぶりやこれまで聞いた話から、今世界に散らばっている『ハーム・コラテラル』は、元々この七星と一つだったかのような口ぶりだった。
「これが七星……少々意外だ。もっと禍々しいモノかと思っていたのだが……これではまるで……」
「人柱や生贄のようだ、ですか?」
「うむ……このモノの出自や正体が分かれば何か糸口が見えるかもしれぬが、我が国にいる獣人は、傭兵や商人を含めてもそれ程多くなく、この種族も私は知らぬのだ」
「恐らく、百年二百年遡った程度じゃわからないと思います、この七星の正体は。ただ……この人物の名前だけは、分かっているんです」
「なに、それは真かカイヴォン殿!」
「え? 初耳なんだけどカイくん」
「僕も初めて聞きました……それ、割と重要な情報じゃないですか?」
「……ごめん。確かに共有すべきだったね」
俺は、以前同様[詳細鑑定]を発動させ、この七星のステータスを閲覧する。
【Name】 雷神エレクレール
【種族】 七星の六/亜神
【職業】 大神官/保母
【レベル】 3
【称号】 調停者
母なる大地の化身
悪逆の器
【スキル】 料理 子守歌 雷魔導 弁論 魂の調律
……やはり、この七星が悪しき存在だとは、俺にはとても思えなかった。
そして……今なら理解出来る。この称号にある『悪逆の器』という言葉の意味が。
このステータスを、周囲の皆にも見えるようにし、情報を共有する。
するとやはり、皆の反応も、俺と同じような物だった。
『本当に、邪悪な存在なのか?』と。
「ねぇ、この人って……はむちゃんと同じ、精霊種なんじゃないのかな?」
「そういえば前も言っていたね精霊種っていう言葉。確か霊魂に近い種族だっけ」
「うん。神聖な森とか、人が健やかにくらす自然の里、歴史ある大聖堂で自然発生する種族なんだ。大昔は神様だとか、守り神だとか、信仰されてる場所もあるって見た事ある。最近だと……ミササギの里の前領主さん。あの人とかはたぶん、そのうちあの聖地で精霊種に生まれ変わりそうな感じがしたよ」
「なるほど……それで、リュエはどう思う、この『ヒト』のこと」
彼女の種族が分かったところで、それでどうするべきなのか。それを彼女に問う。
もし、俺と同じ結論なら――
「……解放を提案する。お話を、してみるっていうのはどうかな。人型だし、通じると思うんだ」
「サーディスの七星も人型だったけれど、話なんて出来そうになかったよ」
「うん。それでも、解放しよう。最悪の場合、カイくんも私もいる。話をもし聞けたなら……この世界の謎に、大きく近づけると思うんだ」
「……リュエも、そう結論付けたんだね。俺も、実は解放しようと考えていた。このヒトの『悪逆の器』が本当にその通りの意味なら……もしかしたら『ハーム・コラテラル』をどうにか出来るかもしれない」
そうして、彼女を解放するという事で意見がまとまり、ナオ君が解放を試みる事になった。
しかし――
「……ダメです。さっきから、僕が触れて魔力を込めても、うんともすんとも言いません」
「うん! すん!」
「こらはむちゃん。後ろに回り込んで声をあてるんじゃありません」
「よ、よかれと思ったはむ……元気出すはむ、黒い髪のおねーちゃん」
「さぁ、私と一緒におじちゃんの隣にいましょうね」
「お、おじちゃん……ふふ、まさかそう呼ばれる日が来るとは」
あ、なんかジニアがすみません、国王様。
ちょっと嬉しそうなのはきっと気のせいなのでしょう。
しかし……解放出来ない、か。なら――
「……俺が試すよ、ナオ君。俺も――どういう訳か解放者になったみたいなんだ」
そう。俺のステータスに変化が訪れていた。
ヨロキを倒してすぐ、システム音が鳴った時、確認したステータスには――
【Name】 カイヴォン
【種族】 人間
【職業】 解放者(真)←New 拳闘士
【レベル】 477
【称号】 簒奪の魔王 ←New
龍帝屠りし者
神の敵対者
世界を解き放つ者←New
【スキル】 闇魔導 氷魔法 炎魔法
剣術 長剣術 大剣術 簒奪
格闘術 サクリファイス カースギフト
フォースドコレクション スキルバニッシュ 解放←New
残念ながら、新たなアビリティは取得出来なかった。だが、ヨロキが蓄えてきた膨大な経験値が、俺のレベルを急激に成長させたのだ。
そして……何が引き金になったのかは分からない。もしかしたら解放者を殺す事が条件だったのかもしれないが……俺の称号が、ついに『解放者(真)』となっていたのだ。
その事実を伝えると、リュエがおもむろに顔を上げて――
「やっぱり、そうなんだ。本物の解放者はカイくんだったんだよ……伝説は、本当だった。かつて神隷期に見えざる神から世界を奪い取った剣士、カイくんが本物の解放者なんだよ!」
「……そんな事、昔言われたね。まさか、本当にこんな事になるとは思わなかったよ」
「ううん、私は信じていた。私を呪縛から解き放ったのもカイくんだった」
「……そうです。私も、長年の呪縛から、カイさんに解き放ってもらいました」
「それを言うならば、私も、私の街も……いえ、セミフィナル大陸全体が、カイヴォン様に解放されたようなものです」
リュエに続くように、レイスが、ジニアが声を上げる。
「それだけじゃない。カイくんはサーディス大陸でエルフ達の心を解放したじゃないか」
「あれは、むしろリュエじゃないか。リュエがみんなを――」
「ううん、違うよ。カイくんが私をそこに連れて行ってくれたんだ。それに、ジュリアちゃんも救われた。カイくんはさ……ずっと解放してきたんだよ、これまで」
そう言われ、思い返す。
それは、成り行きだった。俺がしたいから、俺が救いたいと思ったから、やりたいからやっただけだ。そこに『解放してあげよう』という意思なんて存在していなかったのだ。
「……生き方が、そもそも誰かを解放するものだったんですね。ずっと……カイヴォンさんは解放者だったんじゃないですか。……お願いします。僕では出来ません。どうか、この七星の封印を……解放してください」
ナオ君が一歩下がり、……俺が代わりに手を触れる。
そして……本当の意味で、俺の初めての解放が始まった。
(´・ω・`)ただ最近長時間執筆してるとすぐ片頭痛起こすんだよね