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三百八十二話

(´・ω・`)おまたせしました

 何を言っているのか。この身体に、内に作用する術が通じるとでも?

 幾ら身体を破壊出来ようが、この信念も信仰も、何者にも侵されない絶対の領域。

 私から何を引き出したい? 情報? なんの情報だ。

 戦争の真実でも知りたいのか? それとも解放者の真実? 七星の真実? 何かしらの答えを知りたいのだろうが……諦めろ、ここにあるのはただ絶対の信念のみ。

 私はただ従僕として、在るべき主に成り代わり世界の均衡を司るのみだ。

 こんな相手に何が出来る。私を殺し続けるくらいしか出来ないであろう。

 しかし……相当に力を取り込んでいる様子。なんとかしてその力を解放者へと移す事が出来れば……どうにかして糧に出来れば良いのだが。

 時間は、いくらでもある。何年でも良い、この男の力を行く行くは――


「いや、残念だかそこまで時間はない。そうだな、一月以内には完全にお前を消滅させるさ」

「っ!?」


 まさか? いいやただの読みだ。それに私を消滅させると?

 世界に生かされた私を? 不可能だ。少なくともこの世界の力で私を倒すなどと。

 ……解放者に殺させるつもりか? 不可能だ。その少年に私を倒せるだけの特別な力があるとは思えない。


「まぁ方法は追々考えるさ。で、そろそろ教えてくれないか? 戦争の真実とやらから始めて貰おうか」

「……貴様、どうやって」


 間違いない、こいつは私の思考を読めている。

 ならばこの考えも読まれて……考えるな、なにも、考えるな。


「思考を閉ざそうとしても無駄だ。かならずそこに何か他の考えが浮かぶ。戦争の真実ねぇ……まぁ大体は想像出来るが」

「……」


 はったりだ。想像は出来るかもしれないだろうが、所詮そこで止まる。


「長引かせてまで何を望んだ? そんなに自分の力の弱さが不甲斐なかったのか?」


 馬鹿な! そんなこと、考えてはいなかったはずだ!

 読めるのは思考ではなく記憶だとでも言うのか……?


「まぁそうだろうな。戦争が長引けば状況は二転三転するさ。その歴史の中じゃ、今のガルデウスのような考えを抱く国も出てくるだろう」

「……お前はなんだ」


 まさか、既に読まれ始めて? 嘘だ、そんなはずはない。

 この膨大な記憶をこんな短時間で……何百年、何百年私が戦って来たと。

 いいだろう、お前がこちらの心を乱すのなら、私も――


「随分と口が回るな、魔族の男。お前はそうして、何人もの人間の心を暴いてきたのか?」

「ふむ。悪いが質問はこちらからする、そちらの質問には答えんよ」

「ふむ、余程耳が痛いと見える」


 入り込め。きっかけを掴め。この男の精神に――

 なんだ……? 心に、感情に入り込めない?

 今、確かに私と会話をしたはずだ。なのにどうして――


「無駄な努力は止せ。さぁ、楽しい尋問の再開だ――」








 流れてくる。ヨロキの思考が、思惑が、胸の内がこちらへと。

 焦り。元々、相手の心を乱すのを十八番としてきたのだろう。

 それが今、こうして俺に読み取られる事で、完全に気が動転しているように見える。

 見た目は平然としている。だがその実、先程からこいつの頭の中は次々と様々な考えが浮かび、その度に慌てて思考を破棄するという作業を繰り返していた。

 読み。そう、俺の言葉の半分は読みだ。こいつの名前やレベル、そしてその強さや言動から、それらしい事を話して揺さぶりをかけているだけ。

 だが、たとえただの揺さぶり、的外れな言葉でも、一瞬だけその思考に揺らぎと方向性を与えていた。


「狂信者は、扱いやすくて助かるな。狭間にいる間抜けは随分と焦っているようだな? 最近じゃ手駒を次々に失っている。まぁ、自分の身体すらない、離れてどうこうするしかないだけの惨めな存在だ。それも致し方あるまい」


 次の揺さぶりは、オインクの言っていた『焦っている』という言葉から作り出した物。

 それはどうやら、この男の矜持に触る言葉だったのか、これまでよりも長い、一貫した思考が流れてくる。


「……解放者は手駒、か。そしてお前は始まりの解放者だと。なるほど、初めてだから力も弱かったのかね? それで、自分よりも優秀な存在を呼び出させようと? 惨めだな、お前」

「……黙れ」

「どうした、怒ったのかヨロキ君。もしかして……ああ、お前がその神官なのか? 解放者召喚の術式を広めた? なんだ、もしかして初めからその為に送り込まれたのか?」


 既に、こいつの目的の大筋がこちらの頭に流れ込んでいた。

 こいつは、召喚されたのではない。『送り込まれた』のだ。

 なんらかの理由で、その狭間にいる――便宜上神もどきとでも呼ぶべきか。

 そして、こいつの持つ[精神操作]のスキルを駆使していた、と。

 恐らく、この世界の方から外に力を求める、つまり解放者を呼ぶ術式を広める為の存在。


「こちらから呼べば、向こうも手駒を送りやすくなると。まぁそうなんだろうな。何せ自力で送り込んだのがこんな出来損ないだ」

「黙れと言っている!」

「なるほど。その精神操作を使って、少しでも戦争を長引かせていた訳だ。……いや、違うな。出来損ないのお前にそこまでの力はない……」


 はずれだ。

だが少なくとも、この男は、戦争を長引かせ大陸を疲弊させる事により、解放者を呼びやすい状況を作ろうと動き始めたのは間違いじゃない。

 ではどうやった戦争を長引かせたのか。そもそも、ダンジョンを人工的に発現させる程の術をどうやって生み出したのか。


「……誰か協力者でもいたのかね。お前の未熟過ぎる精神操作。それを利用、もしくは参考にしようとした誰かがいたのか? お前、元々現れたのはこの国、ガルデウスのようだし……案外『ここ所縁の人間』なのかもな」

「……ここ、だと?」

「ああそうだ。ここは魔術師ギルド。どうだ? 懐かしいか?」


 反応した。間違いない、こいつは魔術師ギルドにかつて在籍した経験がある。

 今日はこの辺りで良いだろう。また明日、だ。一度こちらも情報を整理したい。


「今日のところはここまでだ。悪いな、またお前は黒い塊に入っていてもらう」

「貴様は、いてはならない存在だ。首を洗って待っていろ、いずれ――」


 誰が最後まで言わせるか。また黒曜石のような塊に封じられた男。

 そして、すぐにケン爺とリュエに入ってきてもらうように言い、厳重に封じてもらう。

 するとその時、ついうっかりリュエの思考が流れ込んできてしまった。


『なんだろう、床の紋章に魔力が通った跡がない……別なアプローチ方法があるのかな……でもカイくんも使いたがらない力だし、調べるのはやめた方がいいよね。ああ、でも面白いなぁ……今日はジニアちゃんにも面白い術をかけてもらったし、私の知識がどんどん増えていくよ。何かに応用できないかなぁ』


 根っからの研究者気質なようでした。こりゃいけないな、すぐに武器からアビリティを外して――


「お疲れ様ですカイさん」


 ああレイス! 近くに来ないで!


『心を読む……これも大変な力です。私達には決して向けないとは思いますが、もしも読まれては……ふしだらな女と思われてしまうかもしれません。例えば――』


 おっと、段々エスカレートしてきたので急いで外してしまいましょう。

 ……親しい人間の気持ちを読むなんて、あっちゃいけない力だよ、これも。


「ありがとう、レイス。ひとまず今日のところは得た情報を纏めようと思う。ケン爺、終わったらどこか落ち着いて話せる場所に案内してくれるかい?」

「うむ、分かった。しかし……不可思議な術じゃな。思えば、主はダンジョンに潜った際も不思議な術で辺りを探っておったしのう」

「まぁ、その辺りの事も含めておいおい、て事で」


 再度厳重な封印を施し、俺達はケン爺に連れられ、研究の発表に使われる広い一室へと通された。

 途中、他のギルドの面々が一様にケン爺に頭を下げていた事から、彼が本当に立場ある人間なのだと窺い知れる一幕もあったのだが……やっぱり日頃の言動の所為かそうは思えないんだよなぁ。


「……して、カイよ。主はあの男から情報を引き出しておったようじゃが……それについて教えてくれんかの」

「ああ。完全に読めた訳じゃないが、それでも大分情報は得られたよ」


 そして、俺は情報を纏め直す意味も含めて、今回知った情報を語り始める。

 

解放者とは、そもそも世界の外にいる何者かが手駒として送り込んでいる事。

 あの男は、解放者召喚の術式を世界に広めた張本人だという事。

 なんらかの方法で戦争を長引かせ、結果的に解放者召喚を促していた事。

 解放者を強く育て、なんらかの目的に利用しようとしていた事。

 かつてこの魔術師ギルドに籍を置き、なんらかの研究をしていた事。

 そしてヤツ自身が、最初にこの世界にやってきた解放者だという事。


「……以上だ。正直世界の外なんて話、信じられないかもしれないが……ナオ君は知っているね?」

「……はい。僕はこの世界に召喚される時、その途中で不思議な場所に出ました。そこで僕は――魔王を倒せ。つまり、カイヴォンさんを殺すように指示を受けました」

「なんだって!? じゃ、じゃあなにかい? 君はカイくんを殺すつもりなのかい?」

「そ、そんなことしません! 僕は、自分で見た物を信じます。カイヴォンさんは倒すべき存在なんかじゃありません!」

「……リュエ。落ち着いてくれ。彼は信じても大丈夫だ。それに……忘れたかい? 俺の命を狙っていた解放者は……もう一人いただろう?」


 そう。神もどきが俺を討つ為に送り込んできた、次の解放者。

『ニシダ・チセ』そう、俺の日本における妹だった女性だ。

 彼女は、今度こそ俺を殺そうとする神もどきにより、力を授けられていた。

 正直、この世界での経験が彼女の今後の人生に悪影響を与えかねないと、少々心配ではあるのだが。


「他の解放者が……? その人は今どうしてるんです」

「……送り返したよ。元の世界にね」

「っ! 帰る方法があるんですか!?」


 その時、ナオ君が立ちあがり身を乗り出す。そうだろうな、彼は……地球に帰りたいのだ。


「サーディス大陸で呼び出された解放者は、七星殺害の際に生じた魔力を使い、召還の儀式を使い帰って行ったよ。……そうだな、ナオ君が帰る時は、俺の方からダリアに頼むよ」

「ひょほ! ダリア様が召還の儀式を!?」

「落ちつけケン爺。ダリア含めて、セミフィナルもサーディスも、既に七星殺害に関してはある程度覚悟は出来ているんだ。この国もそれに倣うなら、いずれ首脳が集まる席も設けらるさ」

「そ、そうか……。しかし、解放者に七星を解放させるとなると……何が狙いなんじゃろうか」

「……さて、な。碌な事じゃないのは分かり切っているが、こっから先はまだ情報不足だ」

「そう、ですよね。まだ、何も解決していないのに浮かれてしまって。すみません」

「いいさ、気持ちは分かる。後でまたから揚げでも作ってあげようか」

「い、いいんですか!?」


 少しだけ、空気がなごむ。だが、そこに険しい声色で語り出すリュエ。

 どうしたのかと彼女に話を聞くと……。


「情報を引き出す。うん、それは正しいと思う。けど、あの男をすぐに殺せる手段を用意しておいた方が良いと思う。今日、直接見て分かったよ。あれは……今の私じゃ殺せない」

「不死者でも、聖騎士のリュエが倒せないんですか?」

「うん。不死なんだとは思う。でも不浄の者じゃない。アンデッドじゃないんだ。ずっと調べていたんだけど……私にはアレがなんなのかさっぱり分からないんだ。ただ、生きているのに死んでいるような……そこにいるのが当たり前のような……ごめん、説明出来ない」


 殺す事を、既に考え始めていたようだった。

 確かにそうだ。あいつは核の破壊力をこの世界で再現した存在。絶対に生かしておいてはいけない相手だ。

 万が一の為にも、殺す手段を用意しておいた方がいいだろう。


「……何度も何度も、跡形が無くなるまで俺が殺し続けるっていうのはどうだろう」

「……たぶん、ダメだと思う。むしろそうなるとどこかでまた生まれる? 現れる? そんな感じがする。どうしようカイくん……私分からない、あれをどうすれば倒せるのか」

「……リュエでも分からない、俺でも殺せない……ああ、そうだ。あの男は『自分を殺せない』と考えていたよ。少なくともこの世界の力では決して死なないと」

「と、いう事は僕、なんでしょうか? 僕の力でなら……?」

「いや、残念だけどナオ君じゃダメージが通るかすら……それに君の力はこの世界で鍛えられた物だからね」

「この世界の力では倒せない……? なら、外の世界の力ならって事かい?」


 となると……何か手段はないのだろうか。

 するとその時、リュエが深刻な顔をしながら、ある『手段』を提示した。


「……今思いついた方法として考えられるのは二つ。前に話した、種族特効の魔剣。あれなら、きっと相手が人の形、私達や世界が、あの男を人に類するものだって認識している以上、殺せるかもしれない剣を作れると思う」

「それは……だが、人相手のモノを作るってどういう意味か、分かってるんだろ?」

「うん、これは最終手段。出来れば絶対にやりたくない。でもね、カイくん。私はもう一つの手段も出来れば使いたくないんだ。これはたぶん……君には毒になると思うから」


 そしてリュエは、もう一つの手段として、ある一振りの刀を虚空から取り出した。

 あれは……まさかリュエ、それを譲り受けていたというのか……?


「……間違いなく、外の世界の力がこもっている。それに殺すって概念においては、たぶんこれが最強最悪の一振りだと思う。アレが、元解放者で外の人間だとしたら……この刀は間違いなく特効だと思う。だって……カイくんですら死ぬ直前だったんだから」


 それは、かつて俺の心臓を貫き、そして一瞬で命を奪った一振りだった。

 彼女は平気なようだが、俺では触れる事すら叶わなかった刀。そう――

 俺の妹、チセが神もどきから授かったという刀だった。


「……私は触れた。でも、この刀はね、なんだかおかしいんだ。カイくん、それにナオくんに対して、今も敵意を向けている。そんな意思を感じるんだ」

「チセから譲ってもらったのか……」

「……実は、ね。彼女が帰る前の日に、私に譲るって言って来たんだ。まぁだからちょっとおかしいなって思って、次の日胸騒ぎがしたんだと思う」

「……僕とカイヴォンさんに……敵意?」


 俺は、あの刀の来歴を語って聞かせる。

 そして、いよいよ話すべき時が来たのだろうと……その真実を告げる決意をする。


「外世界への特効の刀。つまりそれはこの世界にあるはずのモノを消し去るモノだ。ナオ君。どうして君だけじゃなく、俺もその対象に入っているのかを、教えておくよ」

「……どういうこと、なんですか?」

「……君は、北海道の出身だろう。ザンギはあそこの郷土料理だからね」

「っ! まさか!」

「そう。俺も元をたどれば、日本の出身だよ。解放者とはまた違った理由でこの世界に来たのだけど、ね」

「そんな……なんで黙っていたんですか……?」

「逆に聞くよ。話す必要があったかい? 使命をおびた君に、望郷心を思い起こさせるような話、出来たかい? それになによりも……俺はもう、あの世界と決別したつもりなんだ」

「……そう、ですか。たぶん、それが正しいんだと思います。今のは、ちょっとだけ僕がわがままだっただけです。なんだか、僕だけ知らないのが不公平な感じがして」

「そうだね。確かにその通りだ。まぁ、とりあえずこれでアイツを殺す目途はついた訳だ」

「はい。あの、リュエさん。その刀、少し触ってみても良いですか?」

「あ、危ないよ? カイくんは触っただけで大やけどしたんだから」


 ナオ君は納得した様子を見せ、今度は刀に興味をしめす。

 そうか、チセが手に出来たのなら、ナオ君ももしかして――


「……なんだか不思議な感覚がします。静電気……みたいな。持とうとすると反発するような、違和感みたいな」

「それだけかい? 触るなら指先だけでとどめておきな」


 そして、彼は恐る恐る人差し指を柄へと伸ばし――


「触れた! あ、大丈夫です、僕も握れます」

「なるほど……解放者は一応あの神もどきの加護でも受けているから、手にとれるって訳か……」

「なるほど。はい、リュエさんお返しします」


 これならば……アイツの思惑を逆手に取る事も出来るか……?


「さて、話を戻すよ。明日、俺はまたアイツに話を聞くつもりだけど、ケン爺にやってもらいたい事がある」

「ん、なんじゃカイよ」

「あの男は、過去にこの魔術ギルドに在籍していたはずなんだ。もしも古い記録が残っているのなら、それを調べてもらいたい。恐らく、アイツに協力した存在や、アイツが戦争を扇動した方法も見えてくるかもしれない」

「ぬぅ……それは中々の重労働になるぞ。確かに魔術師ギルド結成から今までの資料は残っておるが、ざっと七○○年分はあるぞい……」

「ははは……たぶん戦争が起き始めるよりも前の時代だと思う。それで少しは絞り込めると思うから、頼むよケン爺」

「そうじゃな……重要な手がかりにもなろう。幸い、人手なら王から沢山借り受けたからのう。すぐに指示を出してくるわい。確か『ヨロキ・ショウセイ』という名じゃったかな」

「ああ、そうだよ。任せたぞ、ケン爺」


 早速彼が部屋を後にし、残されたのは俺とレイスとリュエ。そしてナオ君。

 いつの間にか姿の消えていたジニアだが、ナオ君曰く、先程味見したワインで酔ったらしく、医務室で休憩中だとか。……まだ一七歳かそこらじゃなかったか? この世界に飲酒の年齢制限があるかは分からないが。


「なんとか道筋が見えてきましたね……七星についての発表は三日後の祝宴会で行う予定ですし、それまでにもう少し情報を得られると良いのですが」

「そうだな……明日はそれこそ、七星についての話も聞いておかないと。少なくとも、この大陸には七星がもう一体いたかもしれないんだ」


 かつて、クロムウェルさんが語ってくれた話。

 そして七星召喚の儀式についても、彼は『ある国の神官』とも言っていた。

 ……情報の出所はどこなのか。こればかりは、オインクの報告に頼るかしかない、か。


「あの、カイさん。私は少しジニアさんの様子を見てきますね。慣れないお酒を飲むなんて心配ですから」

「ああ、お願いするよ。もし大丈夫そうなら、先に一スティリアさんの屋敷に一緒に戻っておいてもいいからね」

「はい。では、失礼します」


 そして、部屋に残されるのは三人。

 リュエは先程から考え込んでいる様子だが、やはり気になる部分が多いのだろう。

 七星解放の意図。そして何者かの存在。解放者の裏にいる何か。

 最強の七星として君臨していた龍神を封じていたのだ、当然思うところがあるのだろう。


「あの、カイヴォンさん。カイヴォンさんの出身って……あの日本のなんですけど」

「ん? ああ、東北の片田舎さ。北海道にも何度か言った事あるぞ」

「本当ですか!? ふふ、ならもしかしたらどこかですれ違っていたかもですね」

「ああ、そうだね。……そうだな、いずれレン君も君と顔を会わせておいた方がいいかもな」

「レン君……? もしかしてその人も解放者なんですか?」

「ああ。君と同い年くらいの男の子だ。ふふ、きっと今のナオ君の強さに嫉妬してしまうだろうな。彼は元々、武術を修めていた子でね。中々強かったんだよ」

「もしかして……僕の兄弟子になるんでしょうか?」

「いんや、彼と俺は元々敵対関係にあったんだよ。二度ほど、剣を交えたよ」

「ええ!? じゃあもしかして彼も魔王討伐を……」

「いや、そうではないよ。ちょっとした貴族の陰謀に巻き込まれたようなものだ」


 ……そうだな。彼は俺がこの世界にやって来る前に呼ばれた存在だ。だから、当然俺を倒せと命じられてはいない……やはり龍神を倒した事が引き金になったのか?

 ……そういえば、解放者召喚の術式が世に広まったのも、龍神が封じられた後だったな。

 まさか、龍神には何か大きな秘密が……?


「リュエは、最初から七星解放には懐疑的だったね、そういえば」

「うん、当然さ。ずっと毎晩呪詛を放たれていたんだ。あれが良いモノのはずがないよ」

「ええと、まさかリュエさんって……?」

「最強の七星、龍神を封じた偉大なるエルフの聖騎士様だね」

「いやー照れるねー!」

「そしてその龍神を葬ったのがお兄さんです」

「ええ!? ……なんだかとんでもない人達だったんだなぁ……」

「確かに。でもこうして見ると、俺がリュエの元に現れたのも、単なる偶然じゃない気がするよ」

「そうだね。なんだか不思議だ、まるで……その何者かの意思に抗うみたいな……」

「……案外、そうかもしれないな。解放者を手駒とする存在に敵対する、俺達神隷期の人間を呼び出した存在が別に……」


 もしも、本当にいるのだとしたら。

 それは案外、あの術式の中で暮らす、自称『神様みたいなの』と嘯く彼女だったりしてな。


「もしそうなら、僕は裏切り者ですね。僕は、もう絶対にカイヴォンさんの側から離れるような真似はしません」

「ははは、それは頼もしいね」

「はい! あ……! そういえばすっかり忘れていました。カイヴォンさん、これ、預かったままでしたね」


 すると、ナオ君が懐から指輪を取り出した。

 ああ、そういえばすっかり忘れていたな。


「はい。じゃあ今回もナオ君にはめて貰おうかな」

「……あの、日本出身という事は、婚約指輪の風習とか知っているんですよね?」

「おっとー? 他意はないぞ他意は。君だって俺がはめてあげて以来つけたままっていう話だし」

「あははは……なんだかずっとつけてると、離れても一緒みたいな感じがして」


 君最近髪縛ってないから、ただの黒髪美少女にしか見えないんです、そんな事言わんでください。不覚にも一瞬可愛いなって思ったじゃないですか。

 そうこう言いながらも、彼は指輪を今度は俺の右手の人差し指にはめた。

 よかった。左手の薬指にはめられたらどうしようかと。


「むむむむ……ここにレイスがいなくてよかったね! 私でもなんだか面白くないのに、レイスが見ていたらきっとカンカンだったよ?」

「はは……内緒な、内緒」


 再び指輪交換をしたところで、ケン爺が無事に指示を出し、早速資料を調べさせているとの報告を受け、俺達は一先ず屋敷へと戻るのだった。

 なお、ジニアは屋敷の庭で、レイスとはむちゃんと一緒にかくれんぼをしていた模様。


「もう身体は平気なのか、ジニア」

「はい。先程、医務室であの人……ゴトー……? さんと会いました。どうやら、私達の滞在先も知っていたみたいですし」

「やっぱりか。そうだな、明日あたりアイツとも情報共有をしておいた方がいかもしれないな。またこの都市の総合ギルド本部に行ってみるよ」

「はい。では、私はしばらくこの屋敷の警備に回ります。……今、狙われるとしたらナオだと思いますから」


 そう言うと、ジニアは瞳をスッと細め、いつもの気だるげな表情ではなく、武人としてのソレになる。

 はは、頼もしいな。恐らく、彼女にならある程度任せられるだろう。

 そうして、着々と情報が、世界の真実が明らかになっていく中、俺は彼女――オインクがクロムウェルさんから情報を掴むのを、ただ願っていた。

 ……どうか、優しい結末であってくれ――と。


(´・ω・`)そう、彼は情報を持ちすぎていた。

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