三百八十一話
(´・ω・`)おまたせしました
「ただいま。カイくん、オインクの様子はどうだった?」
「おかえり、リュエ。それにナオ君もケン爺も」
「はい、ただいまです」
「カイよ、ついでに約束のブツを持って来たぞい」
それから少しして、魔術師ギルドから三人が戻って来た。
物が物だけに、本当に安全に保管出来ているのか心配ではあるのだが、リュエの様子を見るにそこまで心配する必要はなさそうだ。
「相変わらず忙しそうだったよ。近いうちにリュエからも連絡するって言っておいた」
「そっか。ふふ、楽しみだなぁ」
「ところで……その酒瓶がケン爺の秘蔵の酒かい?」
「うむ。今瓶に移して来たばかりじゃ。これは儂の研究室で栽培している特別な木の洞で発酵、熟成させた物でのう。天然の森ワインにも勝るとも劣らず、間違いなくこの大陸一のワインじゃよ」
「へぇ……天然の猿酒みたいな感じか……楽しみだ」
「もう、明日謁見があるかもしれないのにお酒なんて……カイヴォンさんまで」
「ははは、いざとなればポーションや魔法の力に頼るさ」
早速その酒瓶片手に杯の準備をしたところで、肝心な話を聞く。
あの氷と黒い塊は保管出来ているのか、という。
「儂の研究室には実験用の部屋があっての。厳重な結界を内部、外部ともに張りめぐしておる。こう見えても儂は国の魔導師の中ではそれなりの地位での、警備の厳重さも折り紙付きじゃ」
「ついでに私も建物全体に結界を張ったからね。大丈夫、安心していいよ」
「そっか、それなら安心かな」
キュポンと栓を開けながらそう応えると、芳醇な、濃い葡萄の甘い香りが立ち上って来た。
ほう……この濃い香りは……それでいてどこか爽やかな緑の香りも混じる。
「それ! さっき私も一口だけ貰ったんだけど、私の人生において一番美味しいワインだったよ!」
「ほほう、そりゃ凄い。じゃあせっかくだしなにかつまみでも用意しようかな」
それなりに危機が迫っているかもしれない状況の中、ダメな大人達による酒盛りが始まりを告げたのだった――
翌朝、結局昨日戻らなかったスティリアさんが早朝に戻り、部屋で酔いつぶれていたケン爺を連れて屋敷の奥へ消えていき、なにがあったのか目をしゃっきりさせたケン爺が戻って来たところで、昨日の会議について教えて貰う事に。
なお、未成年組とリュエはまだ夢の中。今起きてるケン爺とレイスと俺だけで、まずは触りの部分を聞いておく。
「謁見は本日の正午、我が屋敷で行う事になりました。城よりもむしろこちらの方が、内々の話も出来るだろうから、と」
「国王が城から出るなんてよっぽどだな……ああ、この国だとそこまで厳重な守りになったりはしないのかな」
「いえ、今戦時中ですし、先日の騎士の独断専行もありましたからね、それなりに警備の者を配する予定です」
「なるほど。それで、あの騎士の派兵についてはどうなったんですか?」
その質問をすると、彼女は眉を悔しそうに歪める。
「『すべて、戦争を終わらせたいと願う一心からだ、寛大の処置を求める』これが私の直属の上司、騎士団長からの進言でした。無論、責任の追及はなされるでしょうが、根本的な解決、対策にはなりそうにありません。これも、本来であれば騎士達を監督すべき私が不在だった為に起きた事。これ以上、強く抗議する事は出来ませんでした」
「……そうですか。ただ、謁見がこの屋敷で行われるのならば好都合ではありますね」
「……カイヴォン殿?」
「どこまでいっても、俺は部外者ですからね。色々やりようはありますよ」
起きてきた皆に、先程の話を含めた、今日の予定を話すと、俄かに屋敷が慌ただしくなる。
王を迎えるとなると色々準備もあるからと、ケン爺、ナオ君、スティリアさんは礼服に着替え、それに倣い俺達も謁見向けの衣装に袖を通す。
「カイくんは魔王ルックなんだね?」
「一応、この姿の俺がエンドレシアと約束、取り決めをした訳だからね。国力に差はあれ、地位はあるに越したことはないよ」
「リュエはその衣装、確かミスコンの時の物ですよね? ふふ、やっぱり素敵です」
「レイスも久しぶりのドレスだね? やっぱり綺麗だなぁレイスは」
全員が着替えた事で、一気に貴族の屋敷らしさが増す中、若干の緊張と共に王の到着を待つ。
「とこおでジニアとはむちゃんは?」
「二人は、王に会う必要はないからと庭で遊んでいますよ」
「ジニアはさすがに顔をあわせておいた方がよかったんじゃ……」
「苦手、みたいですよ。ああいう場に立つのが。あの小さな子と随分仲良くなったみたいですし、いいかなーと」
ナオ君がついに放任主義に。いや確かにジニアはちょっと独特な空気を纏っていますからね? しかしはむちゃんとは案外なかよくなれそうだな。
「この謁見で、ナオ君は七星について話す。ケン爺は魔術師ギルドで大規模な実験を行う許可と、人員や機材の手配について。スティリアさんは今一度、先の派兵の責任の追及と首謀者の拘束……これでいいんだね?」
「うむ。そしてカイ、お主はどうするつもりじゃ」
「そうですね、スティリアさんの願いが聞き届けられるように動くのと……七星の研究、ゆくゆくは解放ではなく……排除を打診してみるさ」
「は、排除じゃと……それはさすがに無謀じゃ」
「……いや、この流れは止められない。俺が止めさせないさ。幸い、人脈には心当たりがある。最悪汚い事や脅しでもなんでも使うさ」
そんな悪者見るような目を向けんでください。これは、いつか必ず必要になる事なのだ。
そうして、窓の外から大勢の騎士達、そして大きな魔車の姿が現れ、俺達もいよいよその時が来たのだと、応接室で待機することに。
謁見はどうやら、上客を持て成す為の大きなサロンに特設された、急ごしらえではあるが、謁見の間と化した広間で執り行うことになるようだ。
今は屋敷の代表者としてスティリアさんのお父さんと彼女とで、挨拶と共に今日謁見をする予定になっている人物の紹介を行っているようだ。
一応、俺とレイスとリュエは、解放者の旅における功労者、およびセミフィナル王国からの特使のような扱いとなっているそうだが……。
「カイヴォンさん、皆さん、どうぞ広間へきてください」
ナオ君からの呼び出しに、早速俺達もその場所へと向かう。
広前の扉の外では、不服そうな顔をした宰相とおぼしき衣装に身を包んだ男性達が待機しており、時折『何故我らが同席を許されないのか』という声が漏れ聞こえてくる。
……信用、していないのだろうな。既に様々な勢力の思惑が混在しているのだろう。
「カイヴォンさん達をお連れしました、王様」
「……うむ。おや? 貴殿は魔族であったか。先日はしっかりと持て成す事も出来ずすまなんだ」
「いえ、お気になさらず。今日は先日とはまた違った立場としてこの場に赴いておりますので」
「ふむ……そうであるか。して、ナオよ。昨日から続くこちらの内々の揉め事の所為で、すっかり話を聞くのが遅れてしまったが……どうやら、無事の七星解放を告げる為の謁見ではないのであろう?」
王は、隙を一切見せない、どこか人を緊張させるような眼差しでこちらを見渡し、そしてナオ君に要件を告げるように促した。
「はい。僕達は蒼星の森を走破し、封じられた七星の元へと辿り着きましたが、解放はまだおこなっておりません」
「なんと……あの未踏の地を走破したと。解放がまだでも、それは時間の問題であろう? いや、よくぞやってくれた。我が国の悲願でもある七星解放がついに……」
「いいえ、王様。話はここで終わりません。七星は……現在、封印ごとこの都市に運んできているのです」
「うむ。現在儂の研究所で厳重に封印を施しておる。安心めされい、王よ」
まさか、その七星が既にこの都市の中にいるとは思っていなかったのか、厳格そうな彼の表情が、一瞬だけ年相応の、ただの驚いた初老の男性のようになる。
が、すぐにそれを取り繕い、厳しい声色で言う。
「それは……危険分子を国に入れたという事になるのだが。ナオよ、其方は何を考えておるのだ?」
「……この戦争を止めるのが、元々の目的のはずです。まずは七星を手中に収めた事を大々的に公表してもらいたいのです。解放は……現段階では不確定要素が多すぎます。まずは出方を覗いたいのです」
「……出方だと? 一体誰の出方を覗うというのだ」
「裏で動いている者。先の襲撃で、スティリアを負傷させた人物が、またしても現れました。その人物は、裏で動き、そして僕を泳がせているような事を匂わせていました。きっとメイルラントだけじゃない、この国にすら、その何か企みを抱く人達がいるはずなんです」
「……それで、その男はなんとした」
「現在、封印して七星と共に厳重に管理しています」
「……そうか」
その後も、ケン爺による七星やあの男を取り調べ、研究する為の協力要請や、先の派兵にも何らかの企て、七星解放の裏で動いていた何者かの働きかけがあったかもしれないとし、首謀者の拘束、責任の追及をどうするのかと進言が入る。
が、やはり王はそのどれにも乗り気な様子を見せず、難しい顔を崩そうとはしなかった。
「ところで……貴殿、カイヴォン殿は今回どのような用向きで……」
そして、ついに俺が口を開く番がやってくる。
気合を入れなおし、まるで威圧するような気持ちで、堂々と、自分こそがこの場に君臨すべき存在だと知らしめるような、そんな半ば自己暗示のようなモノを自分にかけ語り始める。
「改めて名乗らせて頂きます。エンドレシア大陸、エンドレシア王国と同盟関係にある、カイヴォンと申します。今回はある提案をする為に同席させて頂きました」
初めて名乗ろう。俺に与えられた、あまりにも大きすぎる権力の名を。
方便や思惑、こちらを縛る為の称号だが、貰った物は使わせてもらおう。
が、この事実をナオ君達は知らなかったからか、大変な驚きを見せていた。
「エ、エンドレシアの国と個人で同盟……」
「最凶の大陸の王家に関わっておったのか主は……」
利用できる物は、全て利用する。これまで出会って来た多くの人物、関係、その全てを今この場のカードとしてオープンする。
「冒険者ギルド最高幹部にして、現在はサーズガルド王国の聖女や、セリュー共和国の全領主とも懇意にさせてもらっています。それを踏まえ、私の話を聞いてもらいたい」
武力を見せつけるだけでは、王は動かせないと俺は知っている。
見せるべきは政治的な重要性と、背後に控える様々な権力者の影。
ただの戯言と、はったりとは思わせない、すぐに確認出来る事実を並べる。
「……嘘や戯言ではないと?」
「少なくともエンドレシア王との同盟の件は今すぐ証書をお見せ出来ます。この件はオインク総帥も知っています」
「……ならば、本来であれば国賓として扱わねばならぬ身分である、と。こちらも態度を改めさせてもらいます。対等な、国を憂う者同士として」
玉座から立ちあがり、こちらの側にあった椅子につく王。
向かい合うようにこちらも座り、俺は――初めてこの世界の住人に、俺の考えを伝える。
「……七星の解放は、ナオ君や王の思惑はあれど……いずれは行わねばならぬ事。しかし解放の後は、私自らが処断、この世界から永遠に消し去ってしまおうと考えています」
「なんと! 神の使いに仇を成すと言うのか」
「既に私達は七星を四体、葬りました。この事実を知るのはオインク総帥と、サーディス大陸の二大国の上層部だけ。その流れに、貴方達の大陸にも乗ってもらいたい」
既に七星の存在がなくても、いやむしろ存在しない方が国も豊かになる事は知っている。
そして七星の存在が、封印から漏れ出る魔力がダンジョンを誕生させ、戦争の原因となっているこの大陸も、その話を端から否定する事は出来ないようだった。
「戦争を止めるには、まずダンジョン頻発の元を断つ必要がある。それは解放でも抹殺でもかわりないはず。そして、七星の力を利用しようと暗躍する人間は、既に別大陸で現れています。それだけではない、七星そのものが邪悪な存在であると証言する人物もいます」
「……俄かには信じられぬ。あまりにも突拍子がなく、突然すぎる……」
「ええ、そう思います。ただ少なくとも――七星を手中に収めたという事実は公表すべきでしょう。絶対に、影に潜む者達は動き出す」
「……で、あろうな。解放に反対する者や、ナオに仇を成す者の存在は私の方でも確認している。だが……それを抑えきれるのか、御せるのか、それが不確かな以上、現状を維持できなくなる道を私は選べなかった」
「……王が絶対の存在ではない以上、それも仕方のない事です。……各々が大きな力、野望を抱きやすい状況では……まだ、民主制は早かったのかもしれません」
「民主、か。民を主とする国の在り方……かつて、それを語って見せた女性がいたな」
「……オインクですか。きっと、それは間違いじゃないでしょう。だが、唯一の正解でもない。今はまた、少しだけ絶対の立場として立ちあがる必要があるかもしれませんね」
「……そうかもしれぬ。そうか、七星を滅するか……サーディスは我ら以上の魔術国家。そこがその判断を下し実行にうつしたか……」
毅然とした王の表情から、少しだけ力が抜ける。
張りつめていたのだろうか。激しい権力争い、対立、それでも王という称号を保持し続け、国の代表の一人として戦い続けていたが故の。
「公表、すべきであろうな。そして私自身、この長く続いた戦争に嫌気がさしていた。戦争を糧とする者も、外交に徹するべきだと言う内通者も、攻め滅ぼせという過激派も。これで、まずは動きを封じられるのであろうな……」
「王よ……では、此度の責任の追及を――」
「許可する。スティリアよ、其方が推し進めてみよ。権限は私が与えよう」
「御意に」
「ナオ、七星解放を祝する宴の席で、七星を捕らえた事実を公表する許可を与えよう。近隣諸国からの使者も多い、恐らく二晩もすれば大陸中に広まるであろう」
既に、他の有力な国々が動いていると伝えれば、背中を押してくれるだろうという目論見は成功したのか、それともただの偶然なのか俺には分からない。
だが、これでまた大きく前進するだろうと確信する。
後は……あの男の話を聞くだけになる、か。
「マッケンジーよ。魔術師ギルドの前長としてのお主に、王国騎士団所属の術者、研究者を貸し出そう。必要な物資もなんなりと申し付けよ。それが、国の未来……いや、大陸の未来に続くのならな」
「ひょほ! 随分太っ腹じゃな王よ。よいのか? 儂にそんな権限を与えて」
「くく……お前にはしっかりとお目付け役をつけねばな」
国が動き出す予感。俄かに周囲の人間の瞳が輝きだす。
だが同時に、それは本当の意味での決戦が近いという事に他ならないのだ。
謁見はこれで終わりだからと、王が足早に屋敷を後にしようとする。
早速外で待機していた人物達が、王に何があったのかと聞き出そうとするも、最後まで王は口を開かず、ある意味では騒動の渦の中心となるであろう、祝勝会の手筈を進めるよう指示を出すのだった。
「……ケン爺。ある程度自由に研究が出来るようになったなら、是非俺とリュエとレイスもそこに組み込んでくれないか」
「そ、それは構わぬが……カイよ、先程の話は本当なのか……主がその……国と同盟というあれは」
「形式の上ではそうなるね。まぁ俺を国の協力者として、外堀を埋める為の策じゃないかな」
「じ、事実だったか。それに聖女というと、あのサーズガルドの聖女のことじゃろう? ダリア様じゃ、聖女ダリア様」
「お、知っているのかケン爺、守備範囲広いな?」
「からかうでないわ! あの方は儂ら辺境のエルフやハーフエルフにとっては信仰の対象じゃ。我らを同胞と認めてくださったんじゃぞ。儂が若い頃、一度だけサーズガルドに招かれ――」
よくわかりませんが、ケン爺にとってはとても尊敬すべき人物だそうです。
とりあえず幼馴染だとは伝えておきました。
「かの国の出身とは聞いていましたが……まさかそのような立場であらせられたとは。これまでの非礼――」
「そのくだりは前にアギダルでやったのでナシでお願いします。スティリアさんは俺の、カイヴォンである俺の友人じゃないですか」
「それは……はい。それでも、どうか感謝の気持ちを受けて欲しいのです。お陰で、私は騎士団内部にいる人間を調べ上げる事が出来ます。これで……ようやく浄化が出来るというもの」
彼女も、騎士団内部におかしな人間が、不届きな輩がいる事を知っていたのだろうか。
すると、先程まで外で遊んでいたというジニアとはむちゃんが戻って来た。
「今戻ったはむー。むぐむぐ」
「ただいま戻りました。この子は随分と元気です、私が疲れてしまいました」
「おかえり、二人とも。はむちゃん、何を食べているんだい?」
「キャラメルっていうお菓子はむ。さっきこっから出てきたおっちゃんからもらったはむ」
「私も頂きました。何やら疲れた顔をしながら食べていたところ、この子が分けて欲しいと頼みこんで……」
「快くはむに差し出したはむ。あのおっちゃんはきっと良い人はむ」
……まさか王様にお菓子をねだったんじゃないだろうな……。
謁見が終わり一息ついたところで、早速俺達は動き始めた。
スティリアさんは王城へ戻り、今回の派兵に関わった者を洗い出し始め、そして俺達とナオ君、ジニアは、ケン爺の研究室へと訪れていた。
「随分立派な研究室だなケン爺。植物のサンプルか? 屋内にしちゃ随分自然が多いな」
「儂の専門は樹霊術じゃからな。植物とは密接な関係にある訳じゃ。まぁ、中には趣味と実益をかねた物もあるがの」
「それがこの木か。凄いな、近くに行くだけで酔いそうなくらだ」
彼の研究室は、まるで植物園を屋内に作ったような、とても広い場所だった。
様々な機材から、複雑な紋様の描かれたタペストリー、それに以前ダリアが使っていたような、ガラス機材も並べられ、今も何か薬を蒸留しているようだった。
「それで、この奥じゃ。七星とあの黒い塊、あの男を封印しておるのは」
「今更だがあの二つを一緒の場所に封じるのは危険じゃないか?」
「うん。私もそう思って、別々な部屋に分けておいたんだ。カイくん、今からあの黒いのを解放するつもりなのかい?」
「……そうだよ。今は詳しい情報がもっと欲しい。あの七星に関わる情報も、俺達にはほとんどないし、そもそもアイツが何の目的で動いていたのか、それすらも分からないんだ」
すると、先程から大人しかったナオ君が、おそるおそる口を開く。
「……僕を、いえ解放者を育てていた……というのは考えられませんか? どうも、あの男の言動は、僕に何かを期待するような雰囲気がありました」
「解放者を育成……ヤツ自身、かなり高位まで育った解放者だったようだけど、それでもまだ足りないと……?」
「分かりません……ただ、なんとなくそんな気がして……」
ヤツの、『ヨロキ・ショウセイ』のレベルは、これまで見てきたどんな敵よりも高かった。
だが、実際には俺に成す術もなく負けていた。殺す事こそ出来なかったが、正直驚異とは思えなかったのだ。
だが、それでもナオ君にとっては十二分に脅威である存在……。
「……能力的には劣っている? 自分ではこれ以上強くなれないと察していた……?」
例えば、ナオ君なんかはレベルの割に明らかにステータスが高く、解放者としての特性を強く受けているように感じられる。
それは恐らく、レン君にも言える事だろう。まぁ彼の場合は元々非凡な才の持ち主だが。
「まぁ本人から情報を引き出すしかない、か」
「ふむ。じゃが、ヤツがそうそう口を割るとも思えぬ。不死という話じゃし、拷問も効果は薄いじゃろうし」
「私は聖騎士だから、アンデッドには特効の術を沢山持っているけど、口を割らせるとなると難しいかなぁ」
「私の魔眼も、残念ながら魔力の流れを辿る事しか出来ませんし……」
これからどうすべきか悩んでいた一同が、先程からナオ君以上に大人しい、ジニアへと視線を向ける。
なーんでこっそりワインの樹からお酒を拝借してるんですかね?
「すみません、あまりに美味しそうなので一口欲しくなってしまいました」
「う、うむ。まぁそれは良いとしてじゃ。ジニアよ、主も魔眼持ちだそうじゃが、それで何が出来るのかの?」
そこで思い出す。ジニアの実父アーカムが持っていた魔眼の存在を。
……あれは、対象を一人、完全に自分の支配下に置けるという、非常に強力な魔眼だったはずだ。
あの力により、イクスさんは絶対服従を強いられていた……だとしたら――
「私の魔眼は片方だけなので、そこまで強力ではありません。そうですね、相手を多少素直に出来たり、お願いごとを頼みやすくする程度ですね。それも、術で簡単に防がれてしまいます」
「ぬう……話しを聞く限りでは便利そうじゃが……尋問は無理じゃろうなぁ」
「ね、ねえ! 私にそれをかけてみておくれ! ちょっと楽しそうじゃないかい?」
「構いませんよ。ではリュエさん、リラックスして私の右目、金色の方の目を見てください」
そうか、残念ながら尋問には使えないとなると……俺が禁じ手を使うしかない、か。
正直、使うと今後、俺の人間関係が全て壊れかねないが、そこはなんとか誤魔化して――
「ケン爺、ちょっとソイツが封じられている部屋の――グェ!」
するとその時、リュエが突然抱き着いてきた。
「カイくん抱きしめておくれ。頭撫でておくれ! うりうり!」
「ど、どうしたんだリュエ」
「……なるほど。素直になるとカイヴォン様に甘えてしまうのですね、リュエさんは」
「……リュエに魔眼を使ったのか」
「はい。すぐに元に戻ると思います」
嬉しそうに頭をグリグリとこちらに押しつける彼女に、とりあえずなでりこなでりこ。
……いや可愛いけれども。ただ今は少し待って欲しいですリュエさん。
「……は! 凄い、勝手にカイくんに抱き着いてた! 凄いなぁ……どういう原理なんだろう」
「ジニアさん、それ私には絶対に使わないようにしてくださいね……リュエでそれなら……きっと私は大変な事になってしまいそうです」
「はい。絶対に使いません」
レイスがどうなってしまうのか、お兄さんちょっと興味がありますが……たぶん人様に見せられないと思うので、ここは我慢しましょう。
「ええい! イチャついとらんで対策を考えるぞい! カイよ、先程何を言おうとしていたんじゃ?」
「ああ、そうだった。ケン爺。ソイツの封じた部屋に……何か、あまり複雑な効果を発揮しない、簡単な紋章を床に描いてくれないか」
「……む? それは構わんが……何をするつもりじゃ」
「……禁じ手」
そうして、ケン爺は俺の言う通り、床に紋章を描き始める。
中央にはあの黒い塊が鎮座しており、他の面々は念のため、部屋の外に待機している。
幸い、この部屋には大きな窓がつけられており、外から様子を覗う事も出来るのだが。
すると窓の外から、ややくぐもったリュエの声が届いてくる。
「カイくん何をする気だい? カイくんが紋章で何かするなんて初めて見るんだけど」
「まぁ誰にも見せた事がないからね。普段は絶対にやらないんだけど、今回は特別」
「ふむ。なにやらよう分からんがとりあえず描き終えたぞ。効果は『気力充填』正直気休め程度のものじゃが」
「ああ、それで充分だよ。これを媒介にするだけだから」
嘘だ。実際にはこれになんの意味もない。ただ周囲に『下準備をしないと発動出来ない物』と思わせる目的でしかない。
ケン爺が部屋を出て、扉をしっかりと閉め封印をしたのを見計らい、俺はいよいよこの黒い塊を解除するのだった。
「……口は聞けるか? まだ死んじゃいないだろう?」
「ククククク……ずっと意識はあったが、中々に辛い体験だった。ここは……ほう、どうやらどこかの研究室と見た」
解除と同時に散乱する手足。そして身体と繋がったままの首から、流れるように男が言葉を発する。
何事もなかったかのように、大きなリアクションもなにもない、当然のように。
「念のため聞くが……お前の目的はなんだ? 元解放者のヨロキ・ショウセイ」
「っ! これはこれは……どうやら強力な看破の術を持っているようだ。名前で呼ばれるのは何百年ぶりか」
まずは、こちらが既に持っている情報を伝え、隠し事は難しいと分からせるが……やはりそこまで動揺を見せはしなかった。
「何も、語らないさ。私は永遠に成り行きを見守り、そしてかき回すのみ。無駄だ。幾ら強い力を持とうが、どうにもならない物があるのだよ」
「……そうかい」
ウェポンアビリティを組み替える。
かつて一度だけ使い、その効果があまりにも人道に反しているからと、これまで使ってこなかった力を。
【ウェポンアビリティ】
[五感強化]
[アビリティ強化二倍]
……そう、かつてウィングレストの町で使ったアビリティ。
[五感強化]の五すら数字と捉え、倍加してしまう事の弊害。
第六感とも言うべき力を授かってしまう、禁じ手中の禁じ手。
これにより、人の思考が読めてしまうのだ。
似た効果を持つ[以心伝心]は、あくまで相手が思った事、自分に対して向けた思いを読むだけのもの。
だがこれは違う。自分だけの思い、奥底に秘めた考えや企み、誰かに伝える気のない物まで読めてしまう……人間関係をぶち壊しかねない代物だ。
……これを知られるのは、正直避けたかったが、今回は状況が状況だ。
「……お前の考え、探らせてもらうぞ」
(´・ω・`)レイスが素直になったらノクターン行きになっちゃうから……。




