三百八十話
(´・ω・`)ちょっと短め
「やっぱり兵士の姿が目立つな……住人は気にしていない様子だが」
「はい。指揮系統の乱れによる不祥事として処理される事になるという話でしたが、そんな物住人には関係ありませんから。……ですが、そもそもこの都市……いえ、この大陸の人間は皆、戦争を受け入れ過ぎていると感じました。まぁ私がこれまで見てきた町や人の数などたかが知れていますが」
貴族街を抜け、都市の中央にある施設への道すがら、ジニアとそんなやり取りをする。
以前よりもずっと口数が多くなった彼女。これも、ギルドに所属して様々な経験をしてきたからなのだろうか。
「……しかし、大陸間通信か。てっきりエンドレシアとセミフィナルだけかと思っていたが」
「いえ、かなり前からセカンダリア大陸とも繋がっていたそうです。ですが半年程前から環境が安定していなかったそうです。間にあるサーディス大陸の影響という話でした」
「なるほど。言われてみれば、通信できなきゃナオ君達がセミフィナルに協力の打診なんか出来ないよな……船じゃ何カ月もかかりそうだし」
「そういえばナオから聞きました。ナオの師匠というお話ですが、どうしてそんな事になったのですか」
施設まではまだかかるから丁度良いと、彼等との出会いを聞かせるのだった。
「アルヴィースに来る少し前だったんですか……」
「そういうことになるな。ジニア、アルヴィースの様子はどうだ?」
聞けば、彼女は正式にギルドに加入してから、暫くはギルドの地下牢に住まわせてもらっていたらしいが、さすがに弟のリネアに説得され、近くに小さな家を建てたのだそうだ。
そこで暮らしながら、裏通りでひっそり暮らしていた老人たちと子供達と交流しつつ、まだ燻る魔族至上主義者達を取り締まっていたそうだ。
他にも護衛の任務で、ウィングレストの町に足を運んだり、首都サイエスへ赴いたりと、色々な経験をさせてもらっていたと言う。
「そうか、色々経験したんだな。その所為か、少し変わったよジニアは」
「そうなんですか? 私はよく分かりません」
「そんなもんさ。弟、リネアはどうしている?」
「アルヴィースの街のギルドで事務員をしていましたが、領主代行となったイクス様の補佐として暫くは働いていました。ですが、イクスさんが解任され、リネアも事務員に戻りました」
「イクスさん、解任されたのか……誰が引き継いだんだ?」
「確か、イルという若い女性です」
イル……イグゾウ氏の孫娘か。彼女ならば悪い事にはならないだろう。
ある意味、オインクの片腕とも言える人物だし安心だな。
「現在、イクス様はサイエスの冒険者ギルドの魔術研究員として、錬金術ギルドに派遣されています。私ともたまに会ってくれていました」
「そっか。イクスさんも元気そうでなによりだよ」
「元気……少しだけ寂しそうでした。よく『私も子供が欲しい』と呟いていたのが記憶に残っていますね」
「そ、そうか……あまりそういう呟きを広めるのはやめてあげましょう」
イクスさんも、やはりレイス同様に子供が好きなのだろう。
もしかしたら、昔のレイスのように孤児院みたいな物を始めるかもしれないな。
そんなこんなで、目的地へと到着する。見た感じ、大分背の高い建物だが、ここがこの国の政治的、自治的、組織的な中枢なのだろうか。
中へ入ると、当然の如く様々な人が詰め掛けており、傭兵風の人物が殺到する窓口もあり、恐らくあそこが義勇軍に志願する為の受付なのだろうとあたりをつける。
すると、ジニアが人の少ない窓口へと向かい、何やら二三言葉を交わしたのち、受付の向こう側、職員たちのスペースへと通された。
「カイヴォン様、こちらです」
「ああ、今行くよ」
どうやら、既にこちらの組織には話が通っているらしい。
というのも、オインクがギルド総帥になって以降の組織改革は、こちらのギルドを参考にしている部分もあるらしい。
だが、この大陸に冒険者ギルドに相当するギルドはなく、主に職業ごとの組合としての色が強いそうだ。
なら、この大陸における冒険者ギルドで賄うような討伐や護衛は誰が行うのか?
それが、王国の騎士達と、傭兵達だそうだ。
「こちらになります。御済みになりましたら、外にいる係の者にお声がけしてください」
「分かりました」
そして通されるのは、小さな部屋。まるで取調室の様な小ささだが、防音など情報の漏洩を防ぐための、ある意味電話ボックスのようなところだ。
「……そういや電話ボックスなんて都会じゃ消えつつあったっけな……」
「…………こんにちは。ギルドカード番号000000003です。総帥にお取次ぎお願いします」
おっと、通信が始まった。随分特徴的なギルド番号だが……何か意味があるのだろうか。
ちなみに俺の番号は1878237564です。自分で決めさせて貰いました。
「…………こんにちはオインク総帥。ちょっと待って下さい、総帥の声が周囲に聞こえるように……どれでしょうか」
「たぶんこれじゃないか?」
『周囲にですか? その場所は安全なのですか? 周りに誰かいるのでしょうか?』
「ヤァ! 僕ボンボンダヨ! ハハッ」
迫真の裏声。分かる人には分かる、あのネズミ様風の挨拶で一つ。
『その声は……ぼん、カイヴォンですか』
「今の声で俺だって認識されるのは誠に遺憾であります」
『なるほど、無事にカイヴォンと合流、任務を果たしたという事ですか。しかしジニア、既にゴトーからも報告が上がっているのですが、独断専行が過ぎたようですね?』
「さらっと流すんじゃない。ジニアの件なら、俺からも既に直接お説教させてもらった。むしろジニアの功績を褒めてやって欲しいくらいだ」
『……既にジニアと合流している以上、解放者ナオとも合流出来ているのですよね? 何かありましたか?』
話せば長くなる。それに、地球の話題にも触れる事になる以上は……。
「ジニア、少しだけ外で待っていてくれないか。この恐い総帥さんがジニアをしからないように説得する間」
『そんな、人聞きの悪い』
「分かりました。総帥、申し訳ありませんでした」
『いえ、現場の判断で動くことが必要な時がある事くらい私も理解しています。次回からは、より良い策をもう少し仲間と話し合うようにしてくださいね』
「はい。では、私は少々席を外します」
ジニアが席を外し、改めてこれまでの……セミフィナルを発ってから、これまでに起きた数々の出来事を報告するべく、久々に言葉を交わしていく。
「改めて久しぶりだな、オインク」
『ええ、大体三か月ぶりでしょうか? もっとですかね』
「もっと、だな。しかし案外通話に支障がないんだな、こんなに離れていても」
『ええ。どうやら、サーディス大陸にこれまであった結界が消えた影響でしょうね。既にこちらにも結界消失の報告は来ていますよ、ぼんぼん』
二人だけだからか、久しぶりに懐かしい愛称で呼ぶオインク。
最後の会話がアレだった影響もあり、少しだけ気まずい思いもあるのだが、向こうはそうでもないようだ。
『……二人には。ダリアとシュンには無事に会えましたか?』
「……ああ、会えたよ。順風満帆、ただの純粋な再会とはいかなかったが、それでも収まるところに収まったって言える。そのうち、ダリアがお前に会いにいくかもしれない。その時にでも詳しい話を聞くと良い」
『そう、ですか。貴方の声から察するに、良い結果になったんでしょう?』
「ああ。あ、でもあれだ。ダリアの調子を見てあまり驚いてくれるなよ。アイツにも色々あるんだ」
『ふふ、分かりました。……それで、こうしてジニアを離したという事は……何があったんです』
セカンダリア大陸で起きた、これまでの事をオインクに話す。
ナオ君やスティリアさんから聞いた話。今の戦争の状況。
七星解放の果てに出会った男の存在と、そいつが日本人だという事実。
原子力を使った魔法の存在と、その被害がどういうものであったか。
そして――七星を今まさに、自分達の手中に収めているという事を。
『まったく……平凡な旅になるとは夢にも思っていませんでしたが、ここまで波乱に満ちているとは……』
「ついでに言うと、サーディスに眠る二体の七星も既に撃破済みだ。その辺もいずれダリアに聞いてくれ」
『ひぇっ! もう七星絶対殺すマンじゃないですか! まさかその氷漬けの七星をそのままかき氷にしてしまおうなんて考えていないですよね?』
「発想がグロい。やるなら氷漬けの豚でミンチ肉を作るさ」
『そんなー!』
久しぶりの、本家本元の豚っぷりに和みつつも、今後の動きについて伝える。
「……俺は、もう七星は滅ぼすべき敵だと認識している。少なくとも、七星をこの世界に放った存在も、解放者を呼び出す術を人に授けたのも、そして――」
呼び出された解放者に、狭間の世界で『魔王を倒せ』という指示を与える存在の事を伝える。
「その存在も含めて、これらは同じ存在じゃないかって疑っている」
『……なんらかの目的を持ち七星を世界に放ち、今度は封じられてしまった七星を解放する為に人を動かし、さらに今度はぼんぼんの存在を消す為に、解放者に指示を与える……』
「そういうことになるな」
知恵を。考えを。俺では至れない何かに、お前ならば辿りつけると信じて、彼女の沈黙をじっと待つ。
『随分と……焦っているように感じます。まるで、とん挫しそうになった計画を慌てて修正しているような……』
「言われてみればそうかもな。直接乗り込んでこないのを見るに……力が残されていないのかね」
『油断は出来ません。こうして、何か目的を持ち動く元解放者がいるのです、なにかしらの影響力も持っているのかもしれません。正直、相手がどこの誰かも分からない以上こちらからは何もできませんが……』
「出来るぞ。この世界の七星全てを殺す。そうすりゃ嫌でもアクションを起こすだろう? もう解放者を新たに呼び出す事もなくなるんだ。絶対にアクションがあるはずだ」
『それはそうかもしれませんが……』
「だが、この大陸の七星だけはなんだか不思議なんだよな……」
『……龍神、プレシードドラゴン、サーディスの二体……そして今手元にいる七星。残りは二体ですか』
「ん? 一体だろ? もう既に解放されている七星がもう一体いるはずだが」
『え? そんな話ありましたか……?』
「なに? ……確か、クロムウェルさんが言っていたと思うんだが」
『……そうでしたか。少々気になります、すぐにでも確認してみます。幸い、彼は今アギダルにて慰安中ですから。明日にでも連絡してみます』
「アギダルか。懐かしいな。旅が一通り終わったら、今度はダリアやシュンも連れて行こうかね」
『……ええ、それは楽しみです』
とここで、まだ報告していなかった事実を伝えねば。
「ところでオインク。エルって覚えているか?」
『それは勿論。しっかり私のレストランの絵にも描かれていたでしょう?』
「そうだったな。……会ったぞ、エルに」
次の瞬間、通信魔導具の向こう側から、何かがひっくり返る音が聞こえてきた。
『本当ですか!? 本当に本人だったんですか!?』
「ああ、間違いなく本人だ。色々と複雑な事情を抱えていたが、確かに彼女だ」
『……そう、ですか。生きて……この世界で生きていたんですね……彼女はどこに?』
「メイルラント帝国の王室に養子として入っていたよ。その辺りの事情は、なんとかして引き合わせるから直接聞いてくれ」
『はい、それは是非! ……だいぶ話し込んでしまいましたね。これで、主だった報告は終わりでしょうか』
気が付けば、部屋の窓にジニアがべったりと顔をくっつけて見つめている。
なるほど、相当話し込んでいたようだ。
窓越しにジニアのおでこを突いてやりながら、そろそろ終わりにしようと提案する。
やはり、若干の寂しさを感じてしまうが……俺もアイツも、互いに忙しい実だしな。
「最後に、リュエがよろしくって。大分話したがっていたから、近いうちに連絡するかも」
『ふふ、了解です。ですが、もしかしたら私もアギダルに移動しているかもしれませんね。向こうのギルドの魔導具の調整もしておきます』
「ああ。……クロムウェルさんの事だが……最悪を想定してもいいかもしれないからな?」
『クロムウェル師は、確かに謎の多い人です。貴方達に出会うまではその出自すら知りませんでしたから。術式の技術や人脈、そしてその知識にもし裏があったら……ですね?』
「……警戒にこしたことはないって話さ。彼が善人だとしても、関わっている人間全てがそうとは限らないんだから」
『……そうかもしれませんね。ええ、ご忠告感謝します。では、今度こそこれで』
「ああ、またな。それじゃあ豚ちゃんは出荷よー」
『そんなー』
受話器を置きながら、身体をぐっと伸ばす。
早ければ、明日にでも謁見もありそうだし、な。
……クロムウェルさんを疑いたくはない。
だが、彼が俺達の知らない情報を知り、リュエですら解析不可能な『女神小神殿』と『家の倉庫』を繋ぐという離れ業を成し遂げ、そして七星の情報に精通しているというのは紛れもない事実だ。
かつて、リュエの家で生を受けた、現在生き残っているリュエの最後の仲間とも言える人物。
そんな彼だが……あのフェンネルと関りを持っていた可能性だって、十分にありえるのだ。
長く生き、リュエの為に動いていた者同士。どこかで出会っていても不思議ではないのだ。
「っと。俺も出るか」
部屋の外では、ジニアが若干待ちくたびれたような、少し不貞腐れているかの様に壁に寄りかかり、片足をぶらぶらさせていた。
こうしてみると、年相応の女の子にしか見えないな、やっぱり。
「待たせたねジニア。たぶん、ジニアが怒られる事はないと思うし、ゴトーと合流してから、アイツの用事が終わり次第戻る事になると思う」
「……わかりました」
「……でも、気になる事が沢山あるだろうし、全部終わるまでは俺達と行動した方がいいかもしれないな」
そう伝えると、目に見えて彼女の顔が華やいだ。
なんだ、そんな顔も出来るんじゃないか。
「本当ですか!? では、もう少しカイヴォン様と一緒にいていいと!?」
「ああ、問題ない。ゴトーから報告を受けていたって事は、アイツものこの都市にいるはずだ。伝言でも頼んでおいて、今日のところはスティリアさんの屋敷に戻ろうか」
「はい!」
帰り道、任務が終わって余裕が出来たのか、しきりに周囲を見回しながら、時折興味深そうに立ち止まる彼女に、ついつい寄り道を許してしまう。
その様子が、なんだか旅を初めて間もない頃のリュエを彷彿とさせ、なんだか胸が温かくなる。
……娘、か。案外、いいかもしれないな……。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさいませ、カイヴォン様。先程、マッケンジー様もお戻りなられたのですが、リュエ様とナオ様を伴い、魔術師ギルドへと向かいになられましたよ」
「え? リュエは何か言っていましたか?」
「はい。なんでも『氷と黒い塊を預ける場所が出来たから行ってくる』との事でした。預け物だけでしたら、もうそろそろお戻りになられる頃だと思いますよ。魔術師ギルドは貴族街にありますので」
「なるほど、そうでしたか。伝言、有り難う御座います」
超がつくほど有能な家令のお爺さんにお礼を述べ、俺達が使わせて貰っている部屋へと戻ると、レイスがソファに腰かけて何やら本を読んでいるところだった。
「おかえりなさい、カイさん、ジニアさん」
「はい、ただいま戻りました」
「ただいま、レイス。あれ、一人かい?」
「はい。はむちゃんでしたら、隣の部屋のベッドで眠っていますよ」
「そっか、もう暗くなってきたしな」
「ええ。それで……オインクさんはなんと?」
「ああ、色々知恵を貸してくれたり、近況報告をね。やっぱりエルの生存は衝撃だったみたいでね、いつか絶対連れて行ったあげないと」
「ふふ、私も是非お会いしたいです。では、夕食までここで待っていましょうか。リュエ達ももうすぐ戻るはずですから」
謎は、まだまだ深まるばかり。行先の見えない闇の中で、見えない敵を探すような。
だが、不思議と仲間達が傍にいる今の環境なら、たとえどんな事が起きても大丈夫、そう思えたのだった。
(´・ω・`)らんらんの番号は110298989です