表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
385/414

三百七十七話

(´・ω・`)たいへんおまたせしました。更新再開です。

「……カイくん、戦闘準備。この森……もう死にかけてる」


『蒼星の森』。

 辿り着いたその場所は、成程最強のダンジョンとして言い伝えられ、国土をも侵食する恐ろしい場所だというだけはあり、入り口から既に異様な雰囲気を放っていた。

 見た目の上だけならただの深い森。だが、気配が違うのだ。まるでそう、巨大な魔物が潜み、こちらを着け狙っているかのような、そんな落ち着かない、恐怖心を掻き立てるような。

 だというのに、リュエはこの森を『死にかけている』と言い切った。


「……急速に森の魔力が薄くなっている。何かがいる、この先に森全てを殺しつくすような何かが……」

「まさか、それが七星なのか……? だとしたらもう目覚めて……」

「リュエ殿、我々はどうすれば?」

「最短ルートで最深部へ向かうよ、たぶんもう、戦いが始まっている」

「もう既に……間に合うのですか?」

「間に合わせる。カイくん、本気の一撃をお願いするよ。たぶん緊急事態だと思う。ありったけの力で……ここ、この方向に真っ直ぐ道を作って欲しい」


 珍しく、リュエが俺に全力の一撃をお願いしてくるその様子に、本気で危うい状況が迫っているのだと、俺もすかさず魔王の姿となり、アビリティを構築していく。

 真っ直ぐどこまでも続く一撃……となると『天断“昇竜”』だろう。

 すぐさま剣を上段に構え、意識を集中させていく。


「やはり……間違いないのですね。カイヴォン殿はあの降魔の主その人だと」

「ええ。そう言う事になります。リュエ、障壁を。全員衝撃に備えてくれ」


 そして、全力の一撃をこの深く広大な森へと向かい、解き放ったのだった。








「ここは……さっきのお墓と同じ物が……」

「ぬぅ……? では先程見たのは偽の墓、という事になるんかの」

「こっちも剣がささっていませんが……それよりあの大きな綺麗な物はなんでしょう」


 リュエさんの髪飾りにそっくりな品を手に、先へと足を進めた僕らを待っていたのは、前の部屋で見た、何か剣でも刺さっていたのか、と僕が口にした台座が設置された大きな部屋だった。

 けれども、ジニアさんが言うように、その奥には更に目を惹く、大きな、全長3メートルはありそうな透明な塊が鎮座していた。


「光っておるようじゃが、あれは氷の塊のようじゃな。魔力の氷……明らかに周囲の魔力があの塊一つに集中しているようじゃ」

「……ナオ、マッケンジー。私の片目は魔眼なのですが、どうやらその綺麗な氷の中に……何かいるようです」


 そう言いながら、ジニアさんはスタスタと平然と氷へと向かい歩いていく。

 止める間もなく、何事もないように氷の前まで移動した彼女に続き、僕達も傍へ赴くと――


「……ナオ殿よ。もしかすれば、コレが我が大陸の七星なのじゃろうか……」

「……これが、七星なんですか……?」

「あの。この大陸の七星にまつわる伝承はないのですか。見た目とか、名前とか。私のいたセミフィナルでは七星は有名だったのですが」

「ぬう……そちらは既に解放されていたからのう……こっちはそういった伝承がほぼないのじゃ。ただ、何度も解放を試みて、誰も戻らなかったとしか……」


 そうだ。僕もこの国の七星については何も知らない。ただ、封じられた場所と『僕よりも先に召喚された解放者達が、長い歴史の中何人も失敗してきた』という事実しか。

 ……なら、ここまで辿り着いたのはもしかして……僕が初めて……?


「……違う。髪飾りの件といい、剣が失われている事といい……絶対に誰かがここまで到達していたんだ。誰かが……この七星の元まで」

「ううむ……しかしナオ殿よ、この封じられた存在が七星でない可能性も捨てきれぬ……儂にはこの『女性』が、凶悪な存在とはとても思えぬのじゃが」


 ……そう、光る氷の中に閉じ込められていたのは、美しい女性だったんだ。

 オレンジがかった茶色の、綺麗な長い髪を伸ばした女性が、悲しそうに瞳を閉じて氷の中で眠っている。言われてみると、僕にもこの存在が、女性が凶悪な物には見えないんだ。


「……可愛い耳がついています。サーディス大陸に住むという獣人でしょうか。出してあげたら、耳を触らせて貰えるかもしれませんね」

「なにを呑気な……じゃが、どうするべきか。解放者はそもそも、どうやって七星を解放するのか、その詳しい方法は分かっておらぬのじゃが……ナオ殿、どうじゃ?」

「……なにか、共鳴する感じはします。ダンジョンの最深部、僕にしか開けられなかった扉に似た感覚が……やっぱり彼女が七星という事で間違いないのでしょうか」


 そっと氷へ手を伸ばそうとしたその時、何かの気配を感じてすぐに手引く。

 次の瞬間、目の前で氷がさらに一回り大きく成長し、そのまま宙へ浮かんでいく。

 それを目で追うと、そこには――


「あ……戦闘用意! ジニアさん、アイツは敵です!」

「貴様……何故ここにおる!」


 そこにいたのは、宙に浮かび、こちらを見下ろしている赤いローブの男。

 忘れるはずもない。スティリアを、僕の仲間を戦えない身体にした男。

 憎い仇だと、この世界に来て初めて特定の誰かを明確に敵だと定めた相手だというのに、怒りよりもさらに大きな恐怖が、僕の足を地面に縫い付ける。


「なるほど、仲間を失ってもまだ折れないか。やはりお前を、解放者たるお前を潰さねばならないか? それとも――」

「っ! やっぱりその氷の中にいるのが七星なんですね。どうして解放を邪魔するんですか! 解放を望む人は多い、それなのに何故!」

「ああ、そうだ。解放を望む人間は多いだろう。それこそ、この戦争をやめてしまう程の衝撃をもたらすだろうさ」


 戦争の原因を、ダンジョン化による資源の奪い合いを煽るような事をする存在を追いかけた果てに出会った相手が、今度は七星の元に現れる。

 僕を追っていた……? 違う、口ぶりから察するにそうじゃない。


「……繋がっている?」

「出来は悪いが頭の方は多少切れると見た。まぁ、繋がっているだろうな。私がこの場に、愛しの七星様のご機嫌伺に来るくらいなのだから」

「……ナオ、もう戦っていい?」

「……はい」


 情報を聞き出すのも、真相を探るのも、後回しだ。

 たぶん今ここで決めないといけない。ここで倒し、その後で情報を聞き出すしか僕達が先へ進む道はない。

 すかさず僕以上の機動力を持つジニアさんが、驚異的な跳躍力で宙に浮かぶ男の背後を取る。そして、その彼女に気を取られ一瞬生まれた隙を突き、マッケンジーさんの術でこの場に茂っていた植物を急成長、操作して、まるで蜘蛛の巣のような足場を宙に生み出した。

 隙を与えたらだめだ、息を整えさせたらだめだ。あの魔法が、あの攻撃が、僕達に放たれる前に勝負を決めないと――


「速いな、娘」

「速いだけじゃないです」


 ジニアさんの剣がローブを掠め、小さな炎が回避と同時に彼女へと放たれる。

 けれども、足場と化した植物から伸びた蔓がそれを防ぎ、同時にそれを掴んだジニアさんが足場から飛び降り、そのまま蔓にぶら下がったまま、振り子のように反対側へと移動する。

 速いし、強いし、実戦慣れしている。明らかに前回とは違う、守り耐える時間稼ぎではない、攻撃的な時間稼ぎは、確かにあの男の意識を僕からそらせていた。


「ナオ殿、儂も少々無茶をする。前へ出るが問題ないな」

「はい、マッケンジーさん。僕も限界まで……力を貯めます」


 イメージするのは、僕の師でもあるカイヴォンさんの一撃。

 強大な敵ですら一撃で葬る、最高最強の一撃。

 腕に伝わる剣の振動と力の奔流に、自分の力ながら恐ろしくも感じながらも、マッケンジーさんを見送る。


「最上位魔族か。良い手駒を得たな解放者。ただの女ヒューマンよりも上等だ」

「ほう、やはり主にも見えるようじゃな、相手の力量が」

「っ!?」


 術師である彼が前に出るとは思わなかったのか、ジニアさんに気を取られていた男の背後に立ったマッケンジーさんがそのまま自分ごと男を木の蔦で覆い隠す。

 蔦の媒体は杖。自分の魔力を長年吸った木の杖を、自分の身体の一部として素早く動かす、彼の隠し玉。

 ジニアさんの攻撃すらしのぐ相手を止めるには、これくらいしないといけないという彼の判断だ。


「儂ごと貫け、ジニア」

「私はもっと器用です」


 瞬間放たれる、目にも止まらぬ速さの乱れ突きが、蔦の塊を何度も貫き、そして破裂する。

 すると、そこには両手両足を正確に貫かれたローブの男。

 そしてそのまま苦悶の声上げながら宙から足場へと落ちていった。


「見事。儂だけを避けるとはのう」

「……手ごたえが変です。それに血も少ない」


 落ちた足場がそのまま男を捉える呪縛となり、今度はさらに大きくなった蔦の塊が、ようやく地面に墜落する。

 手を弱めるものか!


「二人とも離れて! 終われ、『天断』!」


 光を極限までため込んだ剣を、その呪縛もろとも消し去るつもりで振り下ろす。

 轟音と共に辺りの壁が崩れ、蔦の塊のシルエットがどんどん小さくなる。

 見よう見真似でも、その威力はこれまでの実績が、成果が、裏打ちしてくれている。


「ナオ殿……まだじゃ、油断してはならぬ」

「焦げダルマしか残っていませんが、中に気配を感じます」


 光の奔流が収まると、崩れかけの蔓の残骸が転がっていた。

 けれども、追い打ちをかけようとしたその時、大きな爆発と共にそれが四方に飛び散る。

 そして現れたのは――ローブをボロボロにされた、けれどもしっかりと両方の足で立つ、男の姿があった。


「油断したが、悲しいかな――攻撃力不足だ。だが十分に楽しませてもらった。以前はどうにもならないと思ったが……片鱗、資質としては及第点か?」

「っ! なんの、なんの話だ!」

「消すつもりだったが……解放者、お前はまだもう少し泳がそう。だがそうだな、一人失ってここまでこれたなら――今度は二人か?」


 言われてハッとする。話に耳を傾けすぎて、相手に時間を与えてしまった事に。

 再び宙へと浮かび上がるも、今度はさっきの一撃で壁が崩れ、ジニアさんの跳躍でも届かない。

 マッケンジーさんも先程の魔法で杖を失い、戦力が低下してしまっている。

 嫌な予感が、死の予感が、見えない恐怖が心臓へと忍び寄る。


「二人とも逃げて! 僕の後ろに! くる、あれがくる!!」

「だめ! みんなで逃げる! マッケンジー走って!」

「ちぃ! 退避じゃ!」


 どんな攻撃か分からない。でも、スティリアの守りを無いも同然とした一撃、ここから逃げるだけで間に合うか――


「……悪いが今回は目的あっての行動。逃がしはせん。またお前が成長する事を期待する」


 ローブの男の声が背後から聞こえる。逃げなきゃ。離れなきゃ!


「……無駄な事を。直撃すれば即死、離れれば――致死の病を宿すだけだ」


 遺跡の出口が見えてきたその時、突然扉が閉じられる。


「……これまで……かのう」

「……っ! 仕掛け、どこかにありませんか」

「元々、ここも敵地だったんですね……」


 空気が、変わる。なんだろう、まるで自分の具合が悪い時に感じるような、不味い、美味しくない呼吸。

 鉄の様な、良く分からない味が肺を満たす。


「……ナオ殿。せめて、せめて傍に。儂らの遺志は、次の代が、必ず引き継ぐ」

「……やっぱり、僕じゃ無理だったのかなぁ……」


 足音が響く。もはや宙を浮くこともせず、こちらの反撃の遺志がないと踏んだ様子の男が現れる。


「……解放者、そこを離れろ。お前も死ぬぞ」

「なら、どきません」

「……では仕方ない。次の解放者に期待するとしよう」


 その瞬間、僕の隣にいたジニアさんが駆け出す。

 ローブの男に抱き着き、そして小さな呟きが聞こえてきた――


「……今だけは感謝します、父上」


 そして次の瞬間――彼女の身体から光の奔流と共に突風が吹き荒れたのだった。


「自爆魔法じゃと!? あやつ、一体どんな者に教えを受けた!?」

「っ! ジニアさん!」


 激しい轟音と。崩れる遺跡。

 彼女の一撃が、天井を崩し日の光をのぞかせる。

 そこから、出られるとでも言いたそうに、横たわった彼女がゆっくりと指で指し示す。

 けれども、そんな彼女の起死回生の一撃ですら、男は体勢も崩さず仁王立ちを続けていた。


「往生際が悪い。悪いが先にいかせてもらう」

「待て!」


 彼女のあまりにも凄惨な様子に一瞬、足が止まった隙に先に外に出てしまうローブの男。

 そんな……ジニアさんの開いてくれた活路まで……!


「…………先に作戦、言えば良かった……私は話すのが、苦手ですから」

「ジニアさん、今回復薬を」

「わしも杖無しでも多少の魔法は使える……少し目を閉じるのじゃ」


 今度こそ、終わりだろうか。

 天井に空いた穴からは、攻撃の気配がない。

 僕達が出てくるのを待っているのだろうか。

 ……嫌だ。せめてお前の思い通りの展開にだけはならないでやる。

 閉じ切った扉の前に立ち、男が迫ってこないのを良いことに力を貯める。


 そして、再び放たれた光の奔流の前に崩れさった扉を通り、僕たちは避けようのない死が待ち受ける外へと出たのだった。


「……今度こそ、諦めるんだな」

「お前がどうして僕だけを生かそうとしたのか。解放者に何かを望んでいるのは分かるけど、それを僕がするのは嫌だ。ここで、僕は仲間と最後まで抵抗するよ」

「……再開すると? もはや戦えない二人を守りながら?」

「……そうだ。それに……お前は分かっていないんだ。僕達がここで終わったら、きっと僕達の遺志を継いでくれる人が、お前を追い詰める。それは僕なんかじゃ足元にも及ばない、強い、強い、本当にどこまでも強い人。その人がいる限り、お前の企みは成就しない」

「……ほう。それは良い事を聞いた。誰だ、そいつは。是非とも会ってみたいものだが」


 剣を取る。もう話してやるものかと。これで会話は終わりだと言うように。

 動けないジニアさんを抱え、戦えなくても動けるマッケンジーさんが森へと向かう。


「な、なんじゃ……森の形が変わっておる……こんな真っ直ぐな道、なかったはずじゃが」


 そんな彼の呟きが耳に届くも、男はそれを気に留めるふうでもなく、僕に話しの続きを促せと言いたげに見下ろしていた。

 けれど同時に僕は、宙に浮かぶ男以外のソレを見つけて――


「そう、近くない未来に会えるよ。お前を倒しに、その人が――」

「くく――それは楽しみだ。向こうから会いに来てくれるというのか」


 そう。たぶんあと二秒もしない間に――ね。

 次の瞬間、轟音と共に周囲の景色が土ぼこりに覆い隠される。

 けれども確かに見た。僕は――あの男の遥か上空に、二対の翼を広げたあの姿を!








 振り下ろした一撃は、驚異的な反応と頑強さに止められた。

 だが、それだけだった。

 墜落したその相手を、すぐに殺す為に容赦なく四肢を引きちぎりその四肢をそれぞれ氷で覆い、残った身体に刃を突き刺す。

 煙が掻き消える頃には、四肢をもがれた男がただ地面に縫い留められた姿が残る。


「……なぜ死なない」

「……これはこれは驚いた……」


 口を氷で塞ぎ、今度は頭を氷漬けにしてやる。

 だが、その瞳の光は消える事無く、俺に喜色満面な表情を向けていた。


「……間一髪か、それとも遅かったのか。ナオ君、これは敵で間違いないな」

「っ! はい! 敵です、たぶんこの大陸で、一番の敵です!」

「……そうかい。怪我人は? 今、リュエ達がこっちに向かっている。俺だけ飛んで先攻したんだけど、最低限の治療は出来る」

「それでしたら、今森に隠れています」


 本当にボロボロで、目の周りを赤くし、髪もほどけ、満身創痍といった様子のナオ君。

 ここまで耐え戦い抜いた彼に、深い敬意を捧げながら、彼と共に戦ったであろう、マッケンジー老と――


「……やっぱりジニアだったのか」

「……はい、私です! 私、頑張って戦いました!」


 翼が半ばから折れ、片腕を不自然に垂らし、片足をひきずる様子のジニアがそこにいた。

 以前よりも遥かに分かりやすくなった表情、喜びに満ちた顔で、マッケンジー老に支えられながらこちらへとやってくるジニア。


「ほっほう! 本当に来ておったのか! それも、まさかこんな場面に間に合わせてくるとはのう! カイよ、助かったぞ、本当に助かった!」

「……ケン爺。顔色が随分と悪いぞ」

「なに、ちょいと魔力で足りない分を生命力で補っただけじゃ。寝れば治るわい」

「! そんな、マッケンジーの寿命がなくなっちゃう」

「な、なんじゃと! そこまでではないわい、ジニアこそ興奮するでない、少し落ち着くのじゃ」


 ボロボロだ。ナオ君も、ジニアも、ケン爺も。

 生きているのが。今こうして会話出来ているのが奇跡と思えるくらいの有り様だ。

 それ引き起こした人間が何者なのか。


「念のため聞くよナオ君。この男が、スティリアさんを攻撃し戦線を離脱させた男だね」

「あ……知っているんですね、僕達の事」

「ああ。彼女から直接聞いた。これまでの事も、全部」

「……会ったんですね。スティリア……ちゃんとお話し出来たんですね」


 やはり、この男だ。原子力という、禁忌にも近い力を、本物の禁忌に、破壊の力に転用した悪魔がこの男なのだ。

 頭を氷で覆い、呼吸すらまともに出来ないはずの男が、今も氷越しに俺をみつめているような気がする。


「……やはり、規格外じゃ。一瞬で倒すとはのう」

「だが、殺せていない。四肢を奪い、心臓を貫き、口を塞いでもまだ生きている」

「そんな事ある訳が……まさかアンデッドだとでも言うんかの?」

「……少し調べてみる」


 破れたフードから覗く瞳。そして歪んだ口元。だがその全貌は隠されたまま。

 ならば、この力でならば、お前の正体を暴く事が出来るだろうと、俺は剣のアビリティを変更し、その姿を視界に収める。




【Name】  与呂木ヨロキ 翔正ショウセイ

【種族】  超越者/不死者

【職業】  解放者/神官

【レベル】 899

【称号】  原初の解放者

      神に仕える者

      無限の命を内包する者

【スキル】 科学魔導 魔導具作成 封印術 精神操作




 その表示された内容に驚愕するも、同時に安堵の溜め息をつく。

 ぐーにゃじゃない……別人だ。

 だが、こいつが地球の、それも日本出身だという事は間違いないようだった。


「……どうやらこいつからは色々事情を聴く必要がある。だが、それが済んだらなんとかして殺す方法を考える。こいつは絶対に生かしておいちゃいけない相手なんだ」

「ふむ……?」

「あ、あの! こっちにリュエさんが向かっているなら……これ、これについて彼女に聞いておきたいんですが」


 すると、ナオ君が懐から、見覚えのある髪飾りを取り出して見せた。

 間違いない、リュエの髪飾り……その片割れだ。


「ナオ君、これをどこで?」

「遺跡の奥で、最後の扉を開く鍵になっていたんです。もし、彼女が何か知っていたら……」

「いや、これは元々この大陸の物だよ。本来の持ち主から話を聞いているんだ。それ、俺が預かってもいいかい?」

「はい、それは勿論。じゃあ……リュエさんはこの場所とは無関係みたいなんですね」


 これが、鍵? 片割れでも鍵として成立すると知っていた?

 この遺跡を熟知している存在? 本当に何者なのだ、この男は。


「謎だらけ……だな」

「……はい。でも、道は開けました。これで、スティリアにも良い報告が出来そうです……」


 今、彼女達はこちらに向かっている。速度的に直進ならばもう半日もかからずに辿り着くだろう。

 それまでに、こちらもある程度準備を整えておかないと。


「死なないなら遠慮はいらないな。ナオ君、そこらに転がってる手足を拾ってきてくれるかい?」

「は……はい。容赦なくばらばらですね……これでも死んでいないなんて」

「……そんな相手に、よく生きて耐えていたね」


 おっかなびっくり手足を拾い集めてきた彼の頭に、そっと手を乗せる。


「ナオ君。本当に強くなった。心も、身体も」

「……はい! 本当に、本当にありがとうございます、カイヴォンさん」


 髪がほどけてしまっている所為か、本当に女の子にしか見えない彼が涙を流し始め、言いようのない罪悪感に戸惑っていると、少しだけ治療が済んだジニアがヒョコヒョコと近づいてきた。


「カイヴォン様。私も撫でてください。沢山情報も集めておきました」

「あはは……本当ですよ。僕達が生きているのはジニアさんのお陰です。凄く、凄く助けられたんですよ、彼女には」

「はは、そっか。ジニア、ギルドの人間としてはきっとオインクに怒られる部分もあると思う。だけど、ジニアがしたことはとても立派で、誇れる事でもある。出来ればもう少し自分を大切にして欲しいところだが――」


 黄金の髪に、手を乗せる。

 かつて、実の親を奪ってしまった娘の頭を、撫で上げる。

 嬉しそうにそれを受け入れる姿に、少しだけ複雑な気持ちを抱くも、それもふくめて俺が飲み込むべき感情なのだと納得する。


「よくやった、ジニア。 偉い、凄く偉いぞ。リュエが来たら、しっかり身体を治してもらうんだぞ」

「っ! はい! もっと、もっと撫でてください! 褒めてください! こういう、こういう感覚なのですね、親に褒めてもらうというのは」

「え!? やっぱりカイヴォンさんの娘なんですか!?」

「いや、そういう訳じゃないんだが……ちょっと複雑な関係なんだ」

「カイヴォン様が父親……そうだったら、どんなに良かったでしょうか」


 そんな、少しだけ和やかな空気が漂い出すも、先に仕事を終わらせるべきだと、取れた四肢と身体をまとめて全て氷漬けにし、さらに闇魔導を発動させ、決して溶ける事のない塊へと変える。


「……これで俺が解除しない限りは絶対に動けないはずだな。リュエが来たらさらに厳重な封印を施してもらうよ」

「封印……そうだ封印! カイヴォンさん、この遺跡の奥、そこに七星がいました! それを、確認しないと!」

「! そうか、そいつもいたか! ナオ君、案内してくれ」


 森の入り口でリュエが言っていた言葉。あれがもしも七星に関係する物だったら、異常が起き始めているという事になる。

 彼に案内を任せ、遺跡の奥へと瓦礫を押しのけながら向かうのだった――


(´・ω・`)ジニアの自爆は父親から授かったもの。

娘すら捨て駒にする

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ