表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
380/414

三百七十二話

(´・ω・`)単行本の八巻がいよいよ来週発売です

イラストの一部がファミ通文庫のツイッター上で公開されてたりしますよ

 僕の旅が、もしかしたら今回の探索で終わりを迎えるのかもしれない。

 そう思うと、いつもなら気合いを入れ、自分を鼓舞するように強く踏み出すはずの第一歩を踏み出せなくて。

たぶん、これが僕の本来の、日本にいた時の感覚なんだろうな、なんて少しだけ懐かしく思いながら自嘲してしまう。


「ナオ、恐いの?」

「……はい、少しだけ」

「……大丈夫、私の後ろにいたら良いです。私は前に出るのには慣れています」


 隣にいるジニアさんが、淡々とした口調で、けれども微かに微笑んでいるような目を向けながら僕の前に出る。

 鬱蒼とした……なんて言葉では片づけられない、そんな不気味な森の前に彼女はスラリと立ち、もう一度僕に振り返る。


「私の故郷にも、薄暗い森があります。良く、子供達を護衛していました。だから……慣れています。先頭は任せてください。……先頭だけでなく……戦闘も?」


 淡々と、洒落のような事を言うジニアさんが、一瞬だけ肩を震わせる。

 始めは少し怖い印象を受けましたけど……たぶん、面白い人……になろうとしているんだと思います。

 不器用で、時々僕よりも世間知らずな言動をする、少しだけ僕より大きなお姉さん。

 きっと……スティリアとも仲良くできるはずだと思うんだ。

 ……ここを突破したら。そして……七星を見極める事が出来たら。

 探索の成功を、どんな結果であれ、僕の役目を終えたら皆で彼女の屋敷に行こうと、土産話をたっぷり用意して、この旅の結末を彼女に話そうと、そう皆で決めたんだ。


「あまり気負うでないぞ。この森は中盤、一般の冒険者が辿り着ける『神の墓標』までは、そこまで強力な魔物も現れないと言われておる。油断しろとは言わぬが、あまり硬くなるでないぞ」

「はい。私は硬くなりません。表情が硬いとはよく言われますが、実際には私の頬は柔らかいです」

「う、うむ……まぁお主の事はある意味信頼しておるからの……」

「あはは……そうですね、大丈夫です。いざとなれば、一度キャンプまで戻るつもりですし」


 結局、遠征軍で最後まで残ったのは、本当に精鋭と呼べる正規騎士の皆さんと、僕との選定に挑んだ中でも、かなりの腕前を誇っていた戦士の一団だけだった。

 そんな彼らですら、この森は鬼門だと、覚悟を決める必要がある、最難関のダンジョンだと話していた。

 彼らは僕達の後に続き、後ろの守りを固めつつ、定期的にキャンプ地を作ってくれる事になっている。

 何かあればすぐに彼等の元まで後退し、そして皆で防衛、殲滅、そして休息をとるという方法で攻略をするつもりだ。

 今まではこんな大規模な、そして慎重な進軍をしたことはなかったけれど、今回は違う。

 それほどまでに、この場所は特別な場所なんだ。


「……ではそろそろ行きましょうか、ナオ」


 ジニアさんの言葉に、今一度覚悟を決める。

 僕達の後ろには、大勢の仲間が整列し、その時を待っている。


「はい! 目指すは蒼星の森最深部。『神の墓標』を越えたその先へ! 目標、封印された七星の確認……そして――解放! 遠征軍、全軍進撃開始!」


 そして、僕の掛け声に呼応し上がる鬨の声胸を震わせながら、この闇の広がる、恐ろしくも美しい、そんな神秘的な森に足を踏み入れたのだった。








「ふむ……あれがガルデウス……帝国に比べると大分大きいな」

「ええと、この本によりますと、ガルデウスは神話の時代、神々がそれぞれの部族を率い、そして共存していた巨大な都市……ということになっていますね」

「都市? 国じゃないのかい? それに神話っていうと……神隷期とはまた違うのかな」

「そうみたいですよ。この大陸に伝わる神話らしく、このガルデウス王国は、神話の大都市から名前を借りて起こされた国だそうです」


 ナオ君達を追いかけスフィアガーデンを発ってから、早いものでもう十日が過ぎようとしていた。

 魔車の性能のお陰で、ようやく彼らの所属する国へと辿り着けたわけだが、もしも検問や封鎖が無ければ、港から二日程度で来ることが出来たのだと思うと、つくづく俺達は遠回りをしてきたのだな、と思い知らされた。

 まぁ、おかげでエルの存在を知れたわけだが。


「さて……王国に立ち寄るか、直接ナオ君が向かった先に直行するか……」

「真っ直ぐ向かうとしたらどれくらい掛かるんだい?」

「そうだなぁ……この魔車なら三日、ほぼ休みなしで向かえばの話だけど」


 ゴトーめ、余程高性能な魔車を用意したと見える。だが……さすがに無理をさせすぎたのか、昨日今日と、明らかに速度も落ち、魔力の補給頻度も上がってきている。

 こういう時、自動車なら限界まで酷使する事も割と出来てしまうのだが、さすがに生物となると……どうしたものか。


「あの、カイさん」


 するとその時、考え込んでいたのか口数が少なくなっていてレイスが声をあげた。


「どうしたんだい?」

「王国に立ち寄った方が良いと思います。魔車の取り換えや、ナオさん達が正式に出発してからどれくらい時間が経っているのか、正確な情報を得た方が良いと思うんです」

「なるほど、確かにそうかもしれないね。けど――本当の理由は、それじゃないね?」

「……はい。情報が確かなら、スティリアさんは今、ナオさんのパーティーから外れています。彼女に、一目会っておきたいと思いました」

「そうだね……身体の具合が悪いっていう事なんだろう? 私なら、もしかしたら少しは役に立てるかもしれないし、カイくん、やっぱり王国に寄ろうよ」


 元々、寄るか寄らないかは二人の意思に任せていたのだ、二人がそれを望むなら、断る理由なんてない。

 それにレイスの言う事も尤もだ。魔車の方もそろそろ取り換えるべきだろう。


「よし、じゃあ次の分岐で右。ガルデウスに寄って行こうか」

「よーし、じゃあ手綱はまかせておくれ!」

「ふふ、では行きましょうか!『神話と発展の国ガルデウス』へ」




 曰く、王制の国ではあるものの、国の方針を決めているのは『各職業の長を含めた代表者達』となっている。

 そして王というのは『建国に携わった偉大な代表とその一族』という象徴であり、同時に悪く言ってしまえば『おかざり』でもある、というのが、少々ひねくれた見方をするその本の著者の弁だ。


「結構深く書かれているんだなぁ……この本、後でじっくり読ませてもらうよ」

「ふふ、ミササギの本屋さんで購入したんですよ。タイトルがかすれてしまっていますが『――トン旅行記』っというタイトルみたいです」

「ふーむ……興味深い」


 案外『ラントン旅行記』だったりして……旅する豚ちゃん……ないな。

 やがて、ガルデウスの前に辿り着き、巨大な門の一つに並ぶことに。

 戦争中という事もあり、様々な風貌の人間が列をなしているのだが、見た限りではそこまで入国審査が厳しいようには見えなかった。


「カイくん、あれなんだろう? 門の係の人がおっきい透明な玉を一人一人に触らせているみたいなんだけど」

「ん? なんだ……何かのテストかね?」

「もしや入国書のような物が必要なのでしょうか……困りましたね」


 リュエの言うように、ソフトボール大の透明な、水晶玉のような物に触れてから王都に入っていく人間の姿。

 ……出たとこ勝負だな、なにかあっても。

 そして、ついに俺達の番がやってきた。


「こんにちはー! もしよろしければ入国の際、ここに手を翳してもらえませんでしょうかー!」

「ええと……それはなんなんですか?」


 近づいてみると、思いのほか若い娘さんが職員だったようだ。

 遠目でフードを被っていたので気が付かなかったが……というかノリが結構軽いな。


「こちら、魔力の徴収を行う魔導具なんです。現在、戦争中につき魔術師が不足していまして、これで徴収した魔力を使い、特製のポーションを作成しているんです。完全なるボランティアになってしまうんですけど、もしよろしければー」


 あ、これあれだわ。完全に街頭募金だわ。そりゃ軽いノリだわ。

 ……戦争で片方の陣営に協力するつもりはないのだが、これくらいなら良いか?


「あ、ちなみに徴収する魔力はその人の1%。一日の半分で自然回復しちゃうような量なので、健康に異常はありませんからー」

「なるほど……って」


 これ、不味くないか? 恐らくMPの事だろうが、一応俺も神隷期の人間。通常より遥かにMPも多いはずだが、その1%となると……。


「はい、じゃあ私が払ってあげるよ」

「あっ」


 するとその時、リュエが興味津々な様子で玉に手を触れてしまった。

 次の瞬間、玉が激しく輝きだし、そのまま光が収まる事なく、透明な玉が輝く玉にかわってしまったのだった。


「うわ! 一瞬で満タンになっちゃった! エルフのお姉さん、もしかして魔導師だったりしますか? 現在、ガルデウス義勇軍では術者を募集していますよ!? すごい好待遇で取り立ててもらえますけど!」

「え? ううん、私は戦争には参加しないよ。旅人だもん」

「そうですか……もし興味がありましたら、ガルデウス中央区にある、職業適性診断センターに向かってみてくださいね。ではお通りください」


 正直、かなり平和ボケしているというか、日本的というか。

 文化の発展の仕方だけを見れば、今まで訪れたどんな都市よりも日本に近いような印象だ。

 そしてそれは当然、街並みにも現れていたのだった。


「うわぁ……セミフィナルの首都も凄い大都会だったけれど……ここはもっとすごいね……」

「活気が凄いですね……これ、お祭りが開かれている訳でもないんですよね?」

「そもそも、今は戦争中のはずなんだけど……確かにこれは凄いな」


 街の中を走る、小型ながらも機能的なフォルムの魔車。歩道を歩く人々が跨っている、シンプルではあるがしっかりと人力で動いている自転車。そして、建物の屋根付近には、専用の通路でもあるのか、魔法の力や身体能力を強化している人間の為の通路。

 今この瞬間も、とんでもない速さで駆け回る戦士風の人間や術者の姿があった。


「す、すごい……魔法がこんなに生活に密着してるなんて……カイくんこの国凄いよ、今見掛けた魔車とか、上の方にある通路とか……ここだけ術式の進歩が二世代くらい他より進んでる感じがする!」

「そういえば……スフィアガーデンでも不思議な空中建造物が目立っていましたね……ガルデウス……どうやら魔導具の発展具合は他大陸とは比べ物にならないみたいですね」


 これはもう、ある意味では魔法文明の未来の姿なのではないだろうか。

 職業診断をする為の施設もあるような事を言っていたし、魔力の徴収なんてものが普通に気軽に行われていたしで、もうこの国だけ別世界のような印象を受ける程だ。


「先程の魔車も凄いですね……優美さはありませんが、機能美というのでしょうか。無駄を廃したようなフォルムですね……」

「うーん、私はのびのび出来なさそうだし、あれはあまり好きじゃないかなぁ」

「もしかして案外中は広かったりしてね。見た目だけ小さくて」

「く、空間拡張の術式が使われているかもしれないってことかい!? 超高等術式だよ!?」


 あ、いや。コンパクトに見える軽自動車みたいなノリで言っただけです。

 が、たしかにそんな術式があるのなら、本当にそんな魔車があるのかもしれないな。


「色々なお店がありますね……あれは薬屋でしょうか? いろんな形の瓶が店頭に並んでいるみたいです」

「本当だ! それにあっちは……子供の玩具かな? よくわからないお店だ」

「凄い活気だな……ゆっくり見て回りたいけれど、とりあえず今は貴族街を探してみようか」

「あ、そうだったね。スティリアさんの家を探さないと」

「す、すっかり頭から抜け落ちて……確かシェザードという家名でしたよね?」

「そのはずだよ。とりあえず街の中央に主要な施設があるみたいだから、そこを目指してみようか」


 どうやら、この都市はまるで切り分けられたピザのように、八つの区画に分けられているようだった。

 中央にあるのは役所やギルドのような、住民や外から来た人間の様々な要望、取り決め、手続きを行う為の施設が密集しているらしく、その真後ろにある区画が貴族外だそうだ。

 ちなみに、王城は貴族外の最深部にあるそうだ。


「貴族街だけ他の区画より高くなっているんだね。警備の問題なのかなぁ」

「なるほど……中央を通らないとあの区画には入れない、と。俺達が入るのも難しいのかね、やっぱり」

「一応、あちらの方に門があるみたいですし行くだけ行ってみましょうか」


 一先ず魔車を役場? 公共の駐車場のような場所に預け、徒歩で貴族街へと続くゲートまで向かう。

 都市の入り口ではだいぶフレンドリーな調子だったが、さすがにこの場所を守っているのは、鎧を身にまとった屈強な騎士だった。


「すみません、ここから先に行きたいのですが、可能でしょうか?」

「旅行者か? ここから先の観光は事前に申請がないと許可出来ない」

「いえ、古い知り合いの家がこの先にあるはずなのですが……」

「ふむ……なら使いを出してみるとしよう。虚偽の場合は罰せられるが、構わないか?」


 よかった。どうやら門前払いにされる訳ではないようだ。


「シェザード家、という家はありますか? そこにいるスティリアさんに会いたいのですが」


 その名を告げた瞬間、対応中の騎士の表情と姿勢が、ピシリと音をたてて整ったような気がした。


「副団長のお知り合いでありましたか! お名前をお伺いしても構いませんでしょうか!」

「あ、はい。カイヴォンとその一行が来た、とお伝え願えますでしょうか」

「すぐに伝令を向かわせます。どうぞ、あちらの待合所でお待ち下さい」


 どうやら……スティリアさんはこの国の中でもかなりの要人扱いのようだ。

 というか副団長って……まさか国の正規騎士団の副団長だとでも言うのだろうか?


「スティリアさんって有名人だったみたいだね? どうしよう、お土産とか用意した方よかったかな?」

「確かにお見舞いでもありますしね……ですが一先ず待合所に行きましょうか」

「……そういえば、前にステータス覗いた事あったな……」


 俺の記憶が正しければ……彼女のステータスには『王国の守護神』という称号があったはずだ。

 そこまでの称号を手に入れるとなると、彼女の上げた武勲はそれこそ、あがめたくなる程の物なのだろう。

 そういえばケン爺もなんだかんだで『救国の英雄』なんて称号をちゃっかりもっていたし。

 少なくともあの二人は、オインクと同等の偉人と見て良いのだろう。

 待合所でそんな事を考えながら、沙汰が訪れるのを静かに待っていると、待機中の騎士達が、どこかソワソワした様子でこちらを見つめていた。

 いや……正確にはレイスを、だろうか。


「あの……私がどうかしたのでしょうか……先程から視線を感じていたのですが」

「も、申し訳ありません! 少々気になる事がありまして」


 やはり彼女も気が付いたのか、近くにいた騎士の一人に声をかけはじめる。

 別段怒っている風ではない。身内びいき抜きに彼女は視線を集める美女だ。

 だが……確かにいつも向けられているような質とは異なる視線だと俺でも分かる。

 きっと彼女も、いつも向けられるような視線とは違う事が気になったのだろう。


「あの……間違っていたら申し訳ないのですが、貴女は先のセミフィナル大陸で開かれた七星杯で活躍なされた、レイス・レスト様ではないでしょうか……?」

「え……?」

「あ、すみません人違いですよね……」

「いえ、私で間違いありませんけれど」


 するとその瞬間、驚くべき速度で騎士が懐から一枚の紙を取り出し、それに続くように周囲の騎士達もレイスを取り囲み始めたではないか。

 何事かとこちらも立ち上がると、騎士達が持っている紙が目に入った。


「あれは……レイスの絵?」


 まるでブロマイドのような大きさのレイスの肖像画を皆が持っていたのである。

 騎士の一人に声をかけ、その肖像画がなんなのか尋ねてみると――


「これは俺達の代表が七星杯に出場した時、一緒に行った絵師が描いた物なんだ! 毎年、俺達はあの大会に代表者を一人出して、作家と絵師も一緒に派遣して大会の様子を冊子にまとめて配布しているんだよ」

「それで、今年度の優勝者の情報にこの絵があって、それを広報の人間が絵を複製して、俺達騎士にくばってくれたんだよ! まさか本当にこんな美人だなんて!」


 他の騎士達も、まるで自慢でもするかのようにこの絵について語り始める。

 曰く、騎士団の人間の間でこういった肖像画を集めるのが流行っているのだとか。

 ……凄いな、あるいみ雑誌のような物じゃないか。文化の発展具合でいくと、やはりこの国は頭一つ飛びぬけている……か?


「サ、サインですか? ええと……『レイスよりミラーさんへ』と」

「私もお願いします! 是非『ヨシュアさんんへ愛を込めて』と!」

「申し訳ありません、愛を込める事は出来ません……『ヨシュアさんへ』と」


 ミーハーである。そしてヨシュアとやら。こっちを睨むのをやめろ。

 するとその時、待合所の扉が開き、先程門の前で対応してくれた騎士が戻って来た。


「お前達何をしている!」

「隊長! 見てください、レイス・レストさんご本人ですよ!」

「な……確かによく見れば貴女は……ええい沈まれ! この方達は副団長のご友人だ! 無礼な態度は許さん!」


 その瞬間、今の今まで見せていた表情が一斉に消え去り、キビキビと整列をし始め、皆声をそろえて『失礼いたしました!』と謝罪の後、持ち場に戻っていくのだった。

 スティリアさんすげぇ、すげぇよ……。


「……レイス・レスト殿だったとは先程は気が付けず、お恥ずかしい限りです」

「い、いえ……あの、こういう肖像画出回っているのは知りませんでした……出来ればあまり広めないでくださると助かります……」

「それならばご安心ください。騎士団の中でも今年度の代表が所属している、都市警護隊の者達にしか出回っていませんので。……あの、道中、出来ればで良いのですか……」


 隊長と呼ばれた騎士もまた、懐からレイスの肖像画を取り出したのであった。




「へへー、私もさっきの騎士さんから一枚分けて貰っちゃった。レイスの絵!」

「あ、いいなリュエ。俺も後で分けて貰お」

「あの……私が一緒にいるので良いではありませんか。少し恥ずかしいです」


 馬車の中、レイスが騎士さんにサインをしてあげると、リュエが続いてサインをせがみ、レイスの表情をなんともいえない物にしていた。

 しかし複製というよりはカラーコピーみたいな質感だな。

 魔導具でそこまで出来るとなると、新聞ももしかして発刊していたりするのだろうか。


「シェザード家の屋敷はまもなくです。代々王家を守護する家柄であり、その関係で王城からほど近い場所に居を構えておられるのです」

「なるほど。となると彼女の御父上も騎士だったのですか?」

「いえ、母君が先代の騎士団長でした。御父上は武芸ではなく芸術を愛するお方で、わが国の発展、とりわけ芸術面や文化的交流に御尽力されているのですよ」


 レイスのサインを手に入れ、見るからに上機嫌な様子の騎士が彼女について語ってくれる。

 曰く、騎士に入ってすぐに彼女は敵国の間者から王族を守り、そしてその翌年にはダンジョンから溢れた凶悪な魔物達を単独で押しとどめてみせたそうだ。

 その他にも彼女の武勇伝は数多くあるらしく、屋敷にたどり着くまでに語りつくすのは到底不可能だ、とのこと。

 ちなみに、ケン爺は先代国王の時代に宮廷魔導士として国を共に導いた程の賢者だとか。

 ただのエロ爺だと思っていただけに少々意外だ。


「着きましたぞ。こちらがシェザード家の屋敷となっております。既に家の人間に伝えてありますので、どうぞそのままお入りください」


 ほどなくして馬車が止まり、早速屋敷へと降り立つ。

 見た感じ、特別大きな屋敷ではなく、ごくごく一般的な貴族の屋敷に見える。

 質実剛健、余計な装飾を省いているのだろう。

 が、どうやらレイスの目にはそうは映らなかったらしい。


「これは……巨匠ブルスターニ・マジェンダの建築様式では……あの窓の形は……素晴らしいです……いつか私の店の窓も同じ物に……」

「へー。なんだか凄い屋敷なんだね。よし、じゃあ行こうかレイス」

「そうだね。待たせちゃ悪いしいこうか」

「あ、はい……」


 凄いな、まさかレイスがここまで芸術関係に詳しい、もといマニアだったとは。

 ……機械的な仕掛けに釣り、そして芸術……結構多趣味なんですね?


 ノッカーを鳴らす時も、小さな声でレイスが興奮しながら何か呟いていたものの、すぐさま開かれた扉と現れた家令の男性に一瞬で姿勢を正すレイス。


「ようこそおいでくださいました。カイヴォン様ですね? どうぞ、こちらへ」


 家令の男性も、心なしか身体つきががっしりしているような印象を受ける。

 そんな静かな迫力を秘めた男性に案内され応接間に通され、ソファーを勧められる。


「お嬢様はただいま、身支度を整えておりますので、どうぞこのままこちらでお待ちください」

「分かりました」


 部屋に残され、彼が退室すると同時にリュエが小さく漏らす。

『悪いことをしちゃったかな』と。


「もしかして、部屋で休んでいたのかもしれないね……」

「やはり貴族として、客人に弱った姿を見せられないのでしょうね……確かに少々配慮にかけていたかもしれません……」

「……そこまで、状態が悪いのか……」


 少しするとノックの音がし、それと共に、彼女がやってきた。

 メイドの肩を借り、そしてもう片方の肩、脇には松葉づえを挟みながら。


「っ! お久しぶりです、スティリアさん」

「カイヴォン殿にリュエ殿、それにレイス殿もお久しぶりです」


 だが、その表情や声色に陰り等はなく、純粋に再会を喜んでいるように目に映った。

 ……強い人なんだな、彼女は。

 メイドが部屋を後にするや否や、スティリアさんはどこか嬉しそうに語り出す。


「セミフィナル大陸で開かれた七星杯。レイス殿のご活躍は私の耳にも届いていますよ。優勝、おめでとうございます」

「あ、その事なのですが……具体的な内容も知られているのでしょうか?」

「具体的というと……決勝戦の後に事故が起きた事でしょうか?」

「あ……はい、そうです」


 やはり、あの大会での出来事は国外には漏れていない、と。

 恐らくオインクを始めとしたギルドの人間が手を回しているのだろう。

 今思えば、大会直後に大陸を離れる船が殆どなかった気がする。

 まぁ元々セカンダリア大陸から来ていた人間が少なかったのもあるのだろうが。


「しかし、面目次第もありません。このように痛々しい姿を見せてしまい……」

「それです。俺達もある程度情報は掴んでいます……一体何があったんですか、スティリアさん」


 話が変わったタイミングでこちらから切り出す。

 彼女は、ナオ君の歩んだ道の果てでこの傷を負ったのだ。

 一体彼が何を思い動き、そこで何と出会ったのか。

 それを……聞くべきだろう。

 そして彼女は、今の今まで見せていた、どこか気丈に振舞っていたかのような表情を覆い隠し、静かに語り出した。


「……少々、長い話になります。それでもよければ、お話ししましょう……」

「ぜひお願いします。俺達は、この後ナオ君の後を追うつもりですから」

「それは、とてもありがたい。今からする話は、ナオ様とマッケンジー老、そして国王だけが知っている話になります」


 彼女は語る。俺達とアギダルで別れてから、今に至るまでの全ての出来事を。

 ナオ君の物語を――










(´・ω・`)スパッツアマミかわいいかわいい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ