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三百六十七話

(´・ω・`)八巻発売まであと一カ月もないので、少し更新ペースあげていきまうす

『思惑』という物は、どんな事柄であれ多少は入り混じる物である。

 だが、この場以上にソレが渦巻く場所は、現在戦争中であるここセカンダリア大陸広しと言えども、ありはしないだろう。

 元々、先の見えない戦争だ。そこに唐突に示された『終わる可能性』を前に、興味を持たない者はいないだろう。

『解放者』という存在は、それだけ多くの存在の注目を集めているのだ。


「しかし、本当にあの若者が何百年もの間踏破出来なかった蒼星の森を超える事が出来るのですかな?」

「してもらわないと困る。私の領地にも小さなダンジョンが幾つかあったが、いずれも彼に明け渡し消滅させたのだ。資源を得るよりも、この戦争が終わった後の立ち位置を優先しようと動いたのは、何も我らだけではないはずだ」

「そうですなぁ……しかし、こうも他国から戦士を送り込まれてくるとは想定外でしたな」


 観戦席の一角で、とある貴族風の男達が語らう。

 彼、ナオが呼び出された国『ガルデウス』も勿論、一枚岩などではない。

 ダンジョンがもたらす貴重な資源を惜しむ者、戦争が長引く事により己の地盤を固め、広げようとする者、そして敵対国と繋がっている者と、千差万別。

 そこにさらに降ってわいた、解放者の側近、新たな仲間を募集するという話は、どんな思惑を秘めているにせよ、多くの者にとってはこれ以上ない好機となったのだった。


 ある者は自分の息のかかった者を戦争終結の立役者の一人とし、自らの地位をあげる為。

 ある者は、己の手勢の力で解放者を傀儡と化そうとする為。

 またある者は、後ろ盾なく、ただ純粋に己の力を試す目的の為。

 義憤、正義、下心、欲望。あらゆる感情が渦巻く選定の場、巨大コロシアム。

 選び抜かれた十数名の戦士達が、今まさに解放者自らの手で選ばれようとしていたのだった。


「身体は大丈夫かの、スティリアよ。気持ちは分かるが、やはり大人しく屋敷で休んでいた方がよかったんではないかの」

「心配は無用です、マッケンジー老。こうして貴方が治癒術をかけてくれているおかげで、屋敷で寝ているよりも気分も良いくらいです」

「……そうか。しかし、なかなかどうして面白い顔ぶれが集まっているようじゃの」

「……女性が圧倒的に多いのが、非常に腹立たしいところではありますが」

「ほっほ。しかし、中にはヌシの部下もおるじゃろう。あの娘さんがそうじゃな?」

「……出来れば、わが国の息がかかった者、信頼のおける者を配したいところですからね。現状、自由に動かせる騎士の中で、最も腕の立つ者は彼女なので」


 そして、解放者ナオの仲間である二人もまた、この選定の戦いを見守っていた。


「やはり各派閥に関わりのある傭兵や貴族出の者もいるようですが……同盟国とはいえ、所詮は戦争によりこちらについただけの関係。そう簡単に信用は出来ませんからね……」

「うむ。それに、選ぶのがナオ殿自身じゃからといって、明らかに戦えそうにない若い娘までおる。手心を期待し、あわよくば……という腹積もりなのじゃろう」

「……けしからんとしか言いようがありません。我々、ナオ様の戦いをなんだと思っているのか……」

「ふふふ、じゃが、儂がいるかぎり間違いは起こさせぬよ、その点は安心せい」


 多くの人間が、ナオ自身の実力を疑っていた。

 だが、この場にいる二人だけは、もう彼がただの子供のだと、力ない存在ではないと知っていた。

 手心も、そして甘い選定も、決して起こりえぬのだと知っていた。

 それは、最初の一人との戦いが始まってすぐに知らしめられる事となった。

 恐らくどこかの令嬢、どう見ても戦えない身に、無理やり装備を着せただけの人物が対峙した時の事だった。

 開始の合図と共に、一瞬で姿を消すナオ。

 会場から驚きの声が上がるのと、彼の剣が令嬢の背中に突き付けられたのは同時だった。


「僕は、ここに本物の戦士を、仲間を見つける為にやってきました。これは警告です。次の相手からは攻撃を確実に当てますので、そのつもりで挑んでください」


 静まり返る会場に響くその宣言は、どこか侮った目で見ていた多くの人間の目を覚まさせた。

 すぐさま、控室が慌ただしくなり、少なくない人間が試合を放棄していく。

 そして、ようやく本当の意味で選定が始まったのだった。




 ようやく全うな選定が始まり、かれこれ七名の戦士との戦いを終えた頃、彼の仲間である二人が、どこか感心した様に語る。


「……なるほど、やはりまだ埋もれている強者というのは存在するようじゃな」

「ええ。先程の彼はナオ様より一つ年下のようでしたが、少なくとも私の部下では手も足も出なかったでしょうね」

「んむ……じゃが、それでもナオ殿と肩を並べるにはまだ遠い……まっこと、解放者の成長というものは末恐ろしいくものじゃな……」

「ええ……それに、ナオ様には規格外の師から伝授された技もありますから、ね」


 かつて、彼が師事した男。

 魔王として、自然災害ですら、神話急の魔物ですら一刀のもとに切り伏せ退けた、別次元の強さを持つ存在。

 その出会いが、確かにナオを、そして二人を変えていた。

 強さの限界を決めつけない価値観。

 そして、古式剣術と呼ばれる、選ばれし者だけが扱える秘伝の技。

 それが、確かに彼、ナオの強さを後押ししていたのだった。

 故に、鬼才を秘めた剣士であろうと、厳しい訓練を受けた騎士であろうと、武芸を極めんと修行を続ける戦士であろうと、ナオには届かないでいた。

 無論、選定は勝敗に関係なく公平に行われる。

 あくまで、ナオが戦った中から『この人物ならば共に戦える』と見定めるのが目的だ。

 だが、未だ彼は『この人なら』と思える相手には巡り合えないでいたのだった。


「……思えば、私はナオ様を守る為に選ばれた守りの騎士。ですが……今は、もしかしたら私のような者でなく、彼と共に並び戦う、攻撃に特化した者こそが相応しいのかもしれませんね……」

「なにをそんな弱気な事を。たとえその通りだとしても、守りを受け持つ人間が不要になる事はないじゃろうて。安心せい、ナオ殿を守る役目は、いつまでもヌシだけの物じゃ」


 選定の戦いも残すところ一人。

 それを見守っていた二人もまた、もうすぐ誰か一人、ナオに選ばれる事を理解し、僅かばかりの寂しさに似た感情を抱いていた。

 ずっと、三人で歩んできたからこそ。新たな人間が入るという事で、これまでの歩みがどこか変わってしまうかのような、そんな言い表す事が難しい感情。


 各国の代表者、貴族派閥に属する者。大半が棄権した中でも、輝く物を感じさせる者達が確かにいた選定の戦い。

 そしてその最後の一人の登場に、会場が微かに騒めいた。

『あれは、どこの人間だ』『また、篭絡狙いの娘が現れたのか』

 どこか失望にも似た言葉が漏れる中、スティリアとマッケンジーの二人だけは、その違和感にも似た異質な気配を感じていた。


「あれは……魔族の娘のようですが、この大陸では珍しいですね、特異器官を持つ魔族は」

「ほほう、見たところナオ殿より幾分歳が上といった風貌じゃの。なかなかの美人さんではないか」

「マッケンジー老……しかし、確かに気になりますね、あの姿は……」


 確かに目を惹く容姿を持つ、魔族の娘の登場。

 麗しい外見と、力ある魔族にだけ発現すると言われている特異器官。

 対峙しているナオもまた、その者に生えている『片翼』に目を奪われていた。

 そして、開戦の合図がなされた次の瞬間――


「っ! 消えた」

「スティリア嬢、あそこじゃ」


 これまで、まるで瞬間移動のような速度で繰り出されるナオの攻撃を、ギリギリで受け止めるか回避するか、そのどちらかの展開が時折繰り広げられていた。

 ナオの力はもはや常人では挑めない境地。それに対応出来るだけで称賛される程。

 だが、今会場で行われているのは、対等な攻防であった。

 戦場の端、一瞬で壁際に移動した二人の剣が交差し、まさしく拮抗していたのだ。


 娘の剣がナオを弾き飛ばし、すかさず目にも止まらぬ連撃が繰り出される。

 そしてナオもまた、この選定の戦いにおいて一度も抜いていない、二本目の剣、短剣を抜き放ちそれをしのいでいく。


「……強いですね、貴女!」

「はい。私は他の人よりも強いのだと思います」


 戦いの最中だというのに、まるで他人事のように自己評価を下す娘の言に、一瞬ナオの表情が呆気にとられたような物になる。

 そして次の瞬間、どこか嬉しそうな顔へと変化し、大きく距離をあけた。


「……本気で行きます」

「はい。私も本気で行きます」


 師、カイヴォンより託された技『ウェイブモーション』の構えを取るナオ。

 両の剣が光を纏い、目の前の剣士を切り伏せようと力が注ぎ込まれていく。

 対する娘もまた、自身の身体から青い炎を立ち上らせ、剣へと宿す。

 そして、両者が駆け出したその瞬間――


「そこまで! 双方、剣を収めよ!」


 拡声されたガルデウス王の声に、戦いを中断されたのだった。


「これ以上の戦いは選定から逸脱してしまう。これにて選定戦を終了とする」


 不満の声はあがらなかった。これは、別段試合や見世物ではないのだから。

 むしろ、決定的な『なにか』が起きなかっただけ、まだ自分達の手勢にチャンスが残されているかもしれないと胸をなでおろす者も多かった。

『もしも、解放者を負かしてしまえば、あの娘が選ばれてしまう』と。

 だが、皆分かっているのだろう。現時点で既に、あの最後の娘だけが、唯一肩を並べる事が出来る程の実力者であると――


「決まり、じゃな。気持ち的には若い娘さんと旅を出来る事を歓迎したいところじゃが……そうも言っていられんのう」

「……ええ。今のナオ様と互角に戦える者など、この大陸いるとは思えません」

「となると――他大陸から渡って来た、と?」

「その可能性は高いでしょうね。……申し訳ない、マッケンジー老。どうやらまた体調がすぐれなくなってきてしまったようです。私は屋敷に戻りますが……後程、詳細を」

「……うむ。事が決まり次第、ヌシの元へ向かおう。ナオ殿の事は儂にまかせておけ」


 そうして選定戦が終わる。

 結果は審議するまでもなく、解放者であるナオ自身の言葉により決定づけられた。

 それは、大多数の想像通りの結果であり、そこに貴族達の思惑が介入する余地もなかった。

 どこからともなく現れた、一人の魔族の娘。

 唯一ナオと対等に渡り合えたその娘が、晴れて選ばれたのであった――








「ふー……ようやく見えてきた。このペースだと夜には港に到着かな」

「いやーまさか後少しってところで速度を落とすなんてね? 速いけれど燃費がイマイチなのかなぁ?」

「聞いてみたのですが、どうやらこの船に使われている推進力を生み出す部分は、まだ研究中の物らしいですよ。なんでも、ダリアさんが開発に関わっているのだとか」

「なるほど……オインクあたりの協力を取り付けられたら、もうちょっと研究もはかどりそうなもんだけどなぁ……」


 リュエと巨大魚の格闘から三日。航海五日目にして、セカンダリア大陸の姿を捉える。

 全体のペースでいえば十分すぎる程速いのだが、やはり前半のペース比べてしまうのか、今の船の速度に少しだけリュエも物足りなさそうな様子を見せていた。

 いやぁ、これでも今までの船より十分速いと思うんですけどね。


「さて、じゃあ一応船員さんから聞いた話や、レイスが以前ミササギで買ったセカンダリア大陸の旅行記の内容をおさらいしておこうか」

「そうだね。これまでより危ない道中かもしれないし、しっかり道や方針を決めておかないと」

「確かに、私達といえども多くの人間と敵対する訳にもいきませんし……対応や行動方針はしっかり決めておかないと」


 以前、ナオ君達から聞いた話や手に入れた情報を総合すると、セカンダリア大陸はまるで、あちこちにベルリンの壁が存在しているかのような、そんな緊張が続く状態の大陸だ。

 国境線も存在し、現在戦争の真っ最中である大陸。

 ダンジョンの発生も高く、そこの資源を巡った小競り合いが激化したのがそもそもの始まりだそうだが、その歴史は古く、国同士の間には大きな溝が出来ているそうだ。

 ナオ君を呼び出した王国は、ダンジョン誕生の原因は、封印された七星の魔力が原因と睨み、七星を解放する事で、ダンジョン誕生の原因を断ち、戦争を根絶しようとしたわけだ。

 正直、それは悪手なのではないだろうか。必ず反発する勢力が現れると思うのだが。


 ともあれ、そんな大陸であるからこそ、俺達は慎重に行動しなければならない、と。

 曰く、商人同士の取引はあっても、国交そのものは盛んでないと、ファルニルは言っていた。

 故に俺達は他大陸からきた旅行者にすぎず、戦いに巻き込まれない保証はないのだ。


「ガルデウスだよね、ナオ君が呼ばれた国って。まずはそこを目指せば良いのかな?」

「そうなりますね……ですが、直接向かう事が出来るかどうかは、今の状況次第です……通れる筈の道が封鎖されていたり、通行が規制されている可能性もありますし……」

「さすがに強行突破って訳にもいかないからなぁ」


 なんとか紛争地帯を避けて向かいたいところではある。

 が、なんにせよ一度港町で情報集めるのが先決、か。

 この大陸に存在するであろう『宗教』や『神話』。

『旧世界の手がかり』や『フェンネルが手に入れた像の出どころ』。

 そういった確信に迫る情報よりも、まずはそれを探る為の『戦争の情報』が必要なのだから。


「戦争……嫌な物ですね……得てして戦争というものは、くだらない欲によって生まれるものでしかありませんから……」

「そうだね。人と人が争うだけなら、大義だってあるかもしれない。でも……戦争はそうじゃない。もうそういう最初の目的以外が働いているものだもんね」

「俺達は、たぶんその気になればどんな争いだって鎮められる。でも、俺達はこの戦争に介入しない。それで良いね?」


 二人が静かに頷く。勿論、目の前で悲劇に見舞われている罪のない人がいれば、当然それを守護し、自らに降りかかる火の粉は払うという考えの元。


「それにしても……はむちゃんはどうしようか。危険な大陸だし、一緒に行動した方が良いと思うんだけど……」

「そうだよなぁ……ただ、あの子の旅の目的がイマイチ分からないんだよ」

「本人曰く、安住の地を探しているような、故郷に帰るような……と、曖昧な様子でしたし、ハムネズミ族は元々流浪の民ですので、本能のような物なのかもしれません」

「たしか、精霊種みたいな存在なんだったかな。その気になれば自分の身も守れるって話だけれど……本人に聞いてみるしかないかね」


 もしも一人で旅をしたいと言い張るのならば無理強いはしないのだが……。

 そうして、一度船内へと戻り、到着までの間、また暫く身体を休めるのだった。






 夜。汽笛の音で目を覚ます。

 仮眠のつもりだが、どうやら船のリズムに深く眠っていてしまったようだ。

 俄かに慌ただしくなる船内の気配に、いよいよ上陸の時が来たのだと、急ぎ下船の準備をする。

 すると、降りていく乗客の列の前方にはむちゃんの姿を見つけた。


「はむちゃん! 俺達と一緒に行かないか!?」

「おー! 黒い兄ちゃんはむ。はむは、行かなきゃいけないところがあるような気がするはむ。だから、一緒にはいけないはむー」

「そ、そうなのかい? 本当に一人でも大丈夫なのかい!?」


 リュエが心配そうに言葉をかけるも、彼女はただニコニコと手を振りながらタラップを降りていく。

 ……行かなきゃいけないところ? なにか目的が出来たのだろうか。

 だが……彼女がそれを選ぶのならば、それを見送る事が正解なのだろう。

 アリシア嬢曰く、もう十分に戦えるだけの力を身に付けているそうだが……。


「もしや、ハムネズミ族の帰巣本能でしょうか……一般的なハムネズミ族は、お世話になった場所で役目を終えると、人知れず姿を消すと言いますが、そんな彼女達がどこに向かうのかは、誰も知らないのです……もしかしたら彼女も……」

「ね、ねぇ……消えた子達って戻ってはこないんだよね……? もしはむちゃんまで消えたらどうしよう! 嫌だよ私、あの子がいなくなっちゃうなんて」


 種としての本能……なのだろうか。

 だが、なんとなく彼女はそうじゃないような、ただぶらり旅を続けているだけのような、そんな気がしてくるのだ。

 ならば、きっとまたどこかで会えるのではないだろうか?

 俺達も下船の列に並び、上陸を果たしたころにはもう、はむちゃんの姿はどこにもなかった。

 気落ちしているリュエをはげましながら、一先ず今日の宿を探すべく、夜の港町をさ迷うのだった。


「はー……はむちゃん今晩どこに泊まるんだろう……大丈夫かなぁ」

「聞けばこれまでだって彼女はずっと旅を続けていたみたいだし、俺達よりも旅人としては先輩になるんだ。きっと大丈夫だと思うよ」

「まぁ確かに、たくましい子だとは思いますが……」


 夜だというのに活気あふれる夜の町。

 こうしていると、ここが戦争中の大陸だという事を忘れてしまいそうになる程だ。

 酒場も多く、宿と兼業している場所も多いのだが、こちらにはリュエとレイスがいるのだ。酔った人間ひしめく場所へと立ち入るのは控えておこう。

 そうして店を見て回っていると、他の宿とは違い粗野な喧噪が聞こえてこない宿を見つけた。

 一晩過ごすならここが良いだろうと、早速契約する事に。


「やはり、戦時中な事も影響しているのでしょうね。他のどの町よりも酒場が多く、賑わっていましたし」

「お酒の力で嫌な事、不安を忘れる。そうだね、私もそういう人達を何度も見てきたよ……」

「そういうもの……か。とにかく明日、この大陸にもギルドのような組織がないか調べてみるよ」


 そうして、今日のところは船旅の疲れを癒すべく、すぐさまベッドに横になり、意識を手放した。




 翌朝。レイスに揺り動かされ目を覚ます。

 いつもなら俺が起こす側なのだが、どうやら深く寝入っていたようだ。

 どこか満足気な表情のレイスに朝の挨拶をしつつ起き上がると、ちょうど部屋の扉を開けてリュエがやってきた。


「あ、おはようカイくん。丁度良かった、私達にお客さんが来ているんだ」

「おはよう、リュエ。俺達にお客って……昨日の夜上陸したばかりの俺達にかい?」

「うん。たぶん驚くと思うよ、着替えたら一階のラウンジに来ておくれ」


 どうやら、俺が起きる前に宿の主人から来客の知らせが来ていたらしく、リュエが対応してくれていたようだった。

 しかし俺達に客となると……船員の誰かか? いや、リュエが驚くと言うからには……まさかナオ君やその仲間達だろうか?

 ともあれ、着替えを済ませレイスと共にラウンジへ向かう。

 するとそこには、どこか懐かしい、ギルドの職員の制服を身にまとった一人の中年男性の姿があった。


「おお、久しぶりだな旦那! 元気そうでなによりだ!」

「貴方は……ゴトーさんでしたか!」

「なんだかむずかゆいな……ゴトーで良いですぜ旦那。アルヴィースの街の時みたいな感じで構いませんぜ。なにせ、旦那は立場上ギルドの上役なんですから」


 そう、そこにいたのは、アルヴィースの街で俺の補佐をつとめてくれていた冒険者……に扮していたが、その実、ギルドの密偵であるゴトーさんだった。


「それにしたって、なんでこんなところに……セミフィナル大陸にいるはずじゃ?」

「ははは、特命ってヤツですわ。旦那、オインク総帥に調査の依頼を出していたでしょう? マインズバレーでの魔物の氾濫、その顛末と発見された呪物の。それだけじゃない、アギダルのダンジョン化についてもある程度調べがついたから、その報告に俺達が派遣されたんですわ」


 そのタイミングの良さに内心驚きを隠せないでいた。

 俺達が探っている問題と、オインクに調査を依頼した内容は、間違いなく繋がっている。

 その謎の答えが眠るであろうこの大陸で、その報告を受けられるのはタイミングが出来過ぎているとさえ感じてしまう程。


「総帥が、恐らくそろそろセカンダリア大陸に向かっている筈だからと、直接ここまで来たんですわ。が、珍しく読みが外れたようで、実は一か月前からこの港で待っていたって訳なんですわ」

「はは……それは悪かった。思いのほかサーディス大陸で色々事件が起こってね」

「なるほど。ま、俺も久しぶりの休暇もかねてはねを伸ばしていた訳ですわ。そのついでに、ある程度情報も集めておきましたぜ?」


 さすが密偵。単独でアーカムが支配していたアルヴィースの街に潜入していただけの事はある。

 どうやら、この戦争の動きや各国のおおまかな動きや立ち位置、そして――解放者であるナオ君の動きも調べていてくれた様だった。

 だが、それを聞くよりも先に――


「そういえば今『俺達が派遣された』って言わなかったか? 他にもいるのか、ギルドの人間が」

「それなんですが――俺と一緒に動いていた娘がいたんですが、情報を得る為に今は別行動中でした……実力的に心配はしていないんですがね?」

「この大陸で単独行動となると、中々の手練れを連れて来た、と」

「旦那も覚えていますかね? ほら……アーカムの忘れ形見の双子。その姉の方が一緒に来ているんですわ」

「んな!?」


 かつて、心を閉ざし、ようやく再び人生を取り戻した、偽りの魔王の娘。

 ジニアが今、この大陸に来ているとは……。


「……聞きたい事が山ほどある。朝食をおごるよ、じっくり聞かせてくれ」


 どうやら、俺達がこの大陸でどう動くべきか。その具体的な方針が決まってくれそうだ。


(´・ω・`)ジニアさん再登場

微妙に彼女の設定についても、書籍版(五巻)の設定が優先されています。

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