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三百五十三話

(´・ω・`)くらいまっくす

 薄々予感はしていました。

 初めて会ったその時から、隠そうともしない下心、決して下世話な意味でなく、明確な目的、野望とも呼べるナニカを抱えている人間だと、当時の『俺』もそう思っていました。

 それに目を瞑ったまま何百年も共に過ごしていくうちに、本来抱き続けなくてはいけない『警戒心』が薄れていっていたのだと、今ならば理解出来ます。


「最初から私は利用されていただけでしたか……」


 海水で冷え切っていた地下室で、私は一人あきらめにも似た気持ちで、この旅の本当の目的を見つけてしまった。

カイヴォンがフェンネルを討つ為の大義名分。ええ、ありましたよ、やはり。

そもそも、最初から彼は自分の為だけに動いていたのだと、思い返せばすぐに気が付けたのに、私はずっとそれから目をそらしてきたのですから。


「……七星の覚醒が不十分だった可能性を、カイヴォンは指摘していましたからね。それに、ファルニル様も、自分に流れ込んでいた力が急に消えた、と」


 ここからでは分からない。あまりにも、あまりにも遠すぎて。

 遥か北に聳える、私が長い間暮らしてきた王城の方角を向きながら、恐らく待っているであろう結末に一人、覚悟を決める。


「……簒奪者を待ち受けているのは、いつだって滅びの結末、ですか」


 願わくば、そんなセオリーを破綻させた、異端の物語を。

 過ちを犯した人間が、救われたまま終わる、そんな都合の良いハッピーエンドを。

 ……戻りましょう。彼らをここに呼び出す為に。そして――最後の嘘をつく為に。






「ようやくか! じゃあ今すぐホテルに戻って全員呼んでくる」

「ええ、ついでに今回の件について整理する為にフェルニル様も招いて、事の発端と事件の概要を説明しようと考えています」

「あー、ファルニルに対してレイスが怒り心頭って様子だから、たぶん大変な事になるぞ」

「それは向けられてしかるべき感情です。彼女はそれだけの事をしたのですから」

「ある意味じゃフェンネルにハメられたのかもしれないがね」

「意外ですね、カイヴォンからそんな言葉が出るなんて」

「見ていて痛々しい程アピールしてるんだ。少なくとも根っからの悪人じゃあないんだろ」


 翌日。昼食の時間にやって来たダリアの使者に呼び出され城へ向かうと、地下室の水抜きが完了したという報告を受けた。

 だったらわざわざ呼び出すよりも、全員で来るように言伝してくれたらよかったのに。

 尤も、こうして俺だけ呼び出されたおかげで、レイスがファルニルに対して怒っている事を伝えられたのだが。


 ホテルに戻り、三人を引き連れて再び城に戻ると、今回初めて訪れたリュエとレイスがその荘厳さ、白を基調とした内装の所為かどことなく漂う神聖な空気に魅せられている様子だった。


「私、このお城気に入ったかも……良い、凄く良いね」

「確かにこれは……今まで見てきたお城とはどこか違いますね」

「私は前に一瞬だけここに滞在していましたが、正直他の事に目を向けている余裕がありませんでした」

「まぁチセの境遇を考えたらそうだろうな。さて、じゃあこのまま地下にある封印の間に向かうけど……領主、ファルニルも同席する事になっているんだ」


 予想通りレイスの足がピタリと止まる。

 彼女からすれば、ファルニルは子供を酷い目に合わせ、そしてチセをこの世界に連れて来た極悪人なのだろう。まぁ、チセを呼び出した事に関しては俺も思うところがあるのだが、逆に言えばあいつは召喚の儀式を執り行っただけであり、チセを意図的にこちらの世界に来るように仕向けたのは、他の何者かだ。

 世界と世界の狭間。地球への繋がりを生み出した、俺を排除したくて仕方のない誰か。


「改めてチセと俺達への謝罪、そしてダリアへの贖罪、これから先この大陸を平和な場所にする為に最大限の努力をするように約束させるつもりだ」

「……そうですか」


 そして、謁見の間に辿り着くと、やはりダリアとファルニルの二人が待ち構えていた。


「お久しぶりですチセさん。まさか、彼と行動を共にしていたなんて」

「俺が強引に取り込んだんだ。恨み言はナシだからな、ファルニル」

「ひっ……睨まないでちょうだい……分かっているから」


 とりあえず釘を刺しておきましょう。


「じゃあ、今から封印の間の調査を始める訳だが、ファルニル、お前にはこの子を送り返す方法について調べてもらうからな」

「方法もなにも、元々役目が終わったら送り返す事になっているのだけど……七星、殺しちゃったから術式がちゃんと発動するか分からないのよね」

「その辺りも含めてお前には調べてもう。出来ないじゃ済ませないからな。お前の人生を全て賭けてでも探してもらう」


 こればかりは脅しじゃない、本気だ。

 諦めたその時は、申し訳ないが――お前が最も心を痛める行いをさせてもらうさ。

 まぁそうならない為に俺達も協力する訳なのだが。


「……では行きましょう。既に残りの海水は私が内部まで入って除去しておきましたから」

「お疲れ様、ダリア。じゃあ向かうか」


 階段を降りる際、しきりにリュエが『凄い凄い、周囲全てが天然の魔力流の通り道だよここ』と興奮しながら話していたが、恐らく、そういう場所だからこそ、封印の大本、そして七星そのものを封じていたのだろう。


「へー……ここが最後の封印の間か~……凄いねぇ、もうこの場所そのものが一種の異次元になりかけているよ、あまりにも魔力の流れが集中しすぎていて」

「う……たしかにここでは魔眼を発動出来そうにないです……真っ白で何も見えないくらい魔力が渦巻いています……」

「ねぇダリア、この二人って何者なのかしら? 平然と私のお城の仕組みを見抜いたり、魔力を視覚でとらえたりしているんだけど」

「カイヴォンの未来のお嫁さんです。くれぐれも無礼のないようにお願いしますね」


 ほら、露骨に恐がらないそこ。

 そんなこんなで、この場所の調査が始まったのだが、元々解放者召喚の術式やプロセスは、何十年も前に確立され、各国に知れ渡っているもの。

 ダリアも勿論術式そのものは知っていたようで、調査が必要なのは、実際に呼び出した場所の状況、そして七星の魔力をどのように取り込み利用するかの、術式同士のジョイント部分だけが必要だったらしい。

 つまり、あっという間にチセに関わる調査は終わってしまった、という事だ。


「つまり、この場所から今すぐ私を元の世界には戻せないという訳なんですね」

「そうなります。元々、二体の七星の魔力を使い強引に二人を同時に呼び出したようですし、送り返す際も膨大な魔力が必要になります。ただ――ご存知の通り七星のうち一体は既に消滅してしまっています。つまり一度に送り返せるのは一人までなんです」

「ミサトはこの世界に残るつもりなんだろ、元々。だったら問題ない」

「そうね、あの子には屋敷も用意してあるもの。ただ――私がこうなった以上、彼女の待遇も考えないといけないのよね……?」


 今どうなっているが知らんがね。ただ、少なくともチセの帰還にアイツは必要ないと。

 なら、もうどうなろうが知ったこっちゃない。


「さてと……じゃあダリア。そろそろまとめに入るか」

「……ええ、そうですね。では、事の発端から始めたいと思います」


 今回の一連の解放者騒動の発端。ファルニルの暴走とも呼べる行動。

 そして、何故シュンとミサトが出会う事が出来たのか。

 シュンがフェンネルに騙されて自分の娘のような子供を封印された件も含めて、どういう事情で、どんな思惑があったのか。

 その予想と一部の解答が、ダリアの口から語られたのだった。


「……結論から言うと、この大陸全体に刻まれている術式ですが、共和国に限っては、その殆どがここ、セリューに集中していました」

「ふむ、そいつはどういう事だ」

「以前私がミササギからノクスヘイムに向かう途中、何もない荒野や草原、森の事を『ああいう何もない場所に術式が集中している』みたいな話をしたと思います。それは、基本的に無害な術式でも、長い間その上に人がいれば、多少その影響を受ける事もある。そして逆に、人間の影響で術式に乱れが生じる事もある、という事です」


 確かに以前聞いた事がある。だが、本来ある場所にはなく、その殆どがこの場所の周辺に集中していたとなると――


「ここの人間は影響を受けやすい、と?」

「と、言うよりは、影響を与える為に組まれたのでしょう」

「待って頂戴。それだと、私の事を狙っていた風に聞こえるのだけれど」

「ええ、狙っていたのでしょう。自分達に比肩する国のトップに、もしもなんらかの形で気が付かれずに介入出来れば……恐ろしく有利に事を運べるでしょうね」

「……でも、私はドラゴニアよ。そう易々とエルフの術にかかったりは――」

「何百年もかけて、じっくりと影響を受けて来たとは考えられませんか?」

「……そう言われると、さすがに無いと断言はできないけれど」


 そして、共和国側で魔導具を使った場合、出力が安定しないという件。

 これも、術式が偏っている所為で、魔素の薄い場所とそうでない場所があるせいだ、と。


「あら、じゃあそれを正せば私達の国がもっと豊かになるのね?」

「そうですね、事件が全て終われば、そうなるはずです」


 途端に嬉しそうな声をあげるダメ領主。いや、お前さん操られていた可能性があったんだぞ、と。もう少し憤りを見せたらどうですか。


「……さて。ではこんな術式に誰がしたのか。もう言わなくても分かっているでしょう」

「まぁ……ね。たぶん、私が疑心暗鬼に陥ったきっかけは、彼があの娘さん、ジュリアさんを封じた時。私の国の封印なのに、他国の人間が自由に組み替える姿に、危機感を覚えたもの」

「……そして、七星の力を横流しする術を貴方は思いついた。いいえ、思いつくように仕向けられていた。ファルニル様。術式の改良には、ノクスヘイムの領主も関わっていますか?」

「いいえ、直接は関わっていない。ただ、私の部下である術者達が、各地に交流という名目で調査に向かっていました」

「なるほど、それでミササギにも現れていたのか」


 各地の術式の調査と、封印の下調べ。いざという時は解放の手助けをする為に、か。


「でも、そうなるとおかしくないかしら? 私がチセやミサトを呼ぶように仕向けて彼になんの得があるのか分からないわ。だって、封印しているからこそ、貴方達サーズガルドは潤っているんじゃないの。解放して貴女達の国が魔力の流れをある程度コントロール出来ているっていう状況を崩してどうするつもりなの?」

「そりゃお前さんが言っていたようにまた争うつもりなんじゃないか? 今度は大陸全土を手に入れる為、とか」

「……悪かったと思っているわよ。もう戦争をもう一度、なんて言わないわ。自分達が負ける事、奪われる側に回る可能性を一切考えてこなかった私が愚か過ぎたのよ」


 それほどまでに、ドラゴニアは強いのだろう。

 元皇女一人でこれなのだ、きっと他にも強い人間は沢山いるに決まっている。

 が、上には上がいるという事実を、こいつは忘れていた、と。


「……ファルニル様。貴女が手にしていた魔力ですが、ここから消えて別な場所に向かった痕跡が残っていました」

「ええ、だからそれは七星に――」

「いいえ。向かった先はここから遥か北。サーズガルドです」

「……つまり、俺が倒した七星は不完全な状態だった、って訳っか」

「いえ、あれはあれで十分に元の力を取り戻していました。消えたのは、何百年とため込んでいた魔力の分です。さすがに、ファルニル様もただ七星の魔力を奪った程度で、七星を従えられるとは思っていなかったのでしょう?」

「……ええ、そうよ。長い間ため込んできた七星二体分の魔力。それが、消えたのよ」


 ここまで言われたら流石に理解する。国を拡大するだとか、戦争を起こすだとか、そういう大層な理由なんかではなkったのだ。

 ただ純粋に『力が欲しかった』これだけだ。

 七星がため込んだ魔力と、そこから漏れ出る魔力。その両方を手に入れたいのなら、七星の解放は絶対条件だ。

 だが――さすがにサーズガルド側がそれをする訳がない。あの地に住む人間がそれを容認するはずがないのだ。

 ダリアも間違いなくそれを止めるだろう。シュンは……微妙なラインだな。


「セリューに解放者を呼び出すように仕向けたのも。シュンがそれに力を貸す理由や機会を与えたのも、全て……本当に認めがたいのですが、ただ自分が力を得る為でしょうね」

「……それで、何をしたいのかね、あのガキは」


 結局はお前に戻る。

 ここまで旅をして、ようやく見つけた大義名分。

 元々、再びお前の前に立つ為に始めた旅だ、今更驚く事ではないさ。

 だが――ダリアは心の中で、違って欲しい、理由があって欲しい、そう願っていたのかもしれない。

 薄暗い部屋の中、確かに浮かぶのは、辛く険しい表情。

 ……俺にとっての師匠がリュエで、お前にとっての師匠があのガキ、フェンネルだからな。


「……じゃあ、向かって良いんだな?」

「ええ。どの道、このままにしておけないでしょう」

「大義名分だけじゃない。他にも理由が出来たんだ。もう立ち止まる必要はないし、もう撤退する事もない。今度こそ、本気で潰せるんだな」


 チラリと話についてこれていない我が妹を見る。

 恐らく、彼女を送り返すのに必要な膨大な魔力も、フェンネルの元に集まり始めているのだろう。

 ようやく、ようやくまた会えるな。準備はもう出来ている、今すぐ向かいたい気分だ。


「……戻りましょう。ファルニル様は、暫く共和国内の情勢に目を光らせておいてください。エルダインの新しい領主が負傷しているはずですから、その件についてもしっかりと対応を」

「分かった。近いうち私が直接向かうわ」

「では、私達は明日にでもシュンとジュリアを連れてここを発ちます」

「ええと……結局私達はどこに向かうのでしょうか……」

「最終目的地はサーズガルドにあるブライトネスアーチ。そこで、君を元の世界に戻す」

「……分かりました。では、それまでお手伝い出来る事があれば言ってくださいね」


 予感がする。きっとこの旅の終わりは、大きな分岐点になるのだという。

 それはきっと――別れ。俺が対面しなければいけない、決断の時、なのだろう。


(´・ω・`)ちょっときゅうけいはさむけど!

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