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三百五十二話

(´・ω・`)さぁいよいよはつばいまでのこりわずか、そしてれんぞく更新もいったんおしまいが近づいてまいりました

「今すぐあの里に向かう事は出来ませんが、いずれサーズガルドに向かう必要がある以上、あの場所を通るのが近道でしょうね」

「そうか……またあの場所に行けるんだな」

「ええ。その為にも水を抜く作業を早めなければ。カイヴォン、貴方はどうしますか? 今の間、ミサトの尋問でも……と思いましたが、それは危険でしたね」

「ああ、その事なら安心しろ。あいつが持ってる魅了のスキルは消し去った」

「……そんな事が出来るならもっと早くしてくださいよ」

「いや、生憎昨日の七星を倒して能力が上がった時に習得したんだよ。本当にタイミングが良いのか悪いのか」


 ともあれ、俺がダリアの作業を手助けする事も出来ない以上、やれる事をやるべきだろうと、一先ずこいつには[消費MP1/10]を付与だけしておく。

『一生この力を私にください』と言われたが……すまん、それはさすがにがめつすぎる。




 ミサトの元へ向かう前に、今の話、里長の件をシュンにも伝えようと、アイツが恐らくいるであろう、城の医務室へと足を運ぶ。

 昨日の騒ぎや浸水の事もあり、今も兵士たちがせわしなく行き交っているのだが、そこに焦りや不安の表情はなく、この辺りはやはり、領主への信頼が厚いからなのだろうと、非常に癪ではあるのだが、あの女の手腕を少しだけ認めておく。


「失礼する」


 ノックと共に医務室の扉を開くと、そこにはやはりシュンの姿と、ベッドで眠っているジュリアの姿。そして……何故ここに居る、ファルニル。


「ここでサボってるんじゃないだろうな、お前」

「ち、違うわよ……一応、封印したのは私だもの。この後の事について相談したり、この子の様態を確認していたのよ……もう、お願いだから殺気を向けないで頂戴」

「……本当だ。こいつは善意でこちらにやって来ている。やっぱり、こいつは最初から、ジュリア自身が自分の心が死んでしまう事を知っている、納得しているつもりだったそうだ」

「……まぁ、それでも私がやった事に変わりはないのだけど。シュン、この子の封印だけれど、身体的には問題ないわ。後は膨大な魔力が必要だけれど、七星がいない以上、他で賄う必要がある。……せめて、それくらいはこちらでなんとかするわ」

「……それは助かる。出来れば、誰にも眠りを妨げられない場所で、静かに眠らせてやりたい」


 ……どうやら、他意はないようだな。

 さて、じゃあここからはもう一つの可能性を提示する時間だ。悪いがあの場所の情報をこいつに聞かせてやるつもりはない。何をするか分かったもんじゃないからな。


「少し二人で話がしたい。ファルニル、お前さんは兵士に休憩でもさせてやれ。さっきから城中駆け回って汗だくな様子だったぞ」

「そう、分かったわ。じゃあ私はこれで行くけれど、何かあったら遠慮なく言ってちょうだい」


 ファルニルが去り、暫しの沈黙。

 聞こえるのはジュリアの小さな寝息と、外から聞こえる足音のみ。


「……一晩経って、ようやく俺も落ち着いたよ。お前の協力だが、いずれお前は残った七星を倒しに行くんだろう? あれはサーズガルドに封じられている。もしもそこに障害が塞がるのなら、遠慮なく俺を使え。まぁ、お前なら一人で全部倒しえてしまえそうだが」

「……その事だがシュン。何度もお前の決意を揺らがすようで悪いんだが……実は、この世界も一つ、超高度な魔法と科学の融合とも言える、医療に関係する装置が存在するんだ」


 それを告げても、シュンは特に何か返す訳でもなく、自嘲気味な笑いを漏らすだけだった。


「……さすがに、そいつは都合が良すぎる。その嘘は元気づけるには少々残酷だ」

「だよな……だが、事実だ。俺はその存在を忘れていたが、さっきダリアに思い出させて貰った。実は、アイツにはその修理の為に付いてきてもらっていたってのもあるんだよ」

「……嘘でもそこまでしつこいと流石に不愉快だぞ?」

「信じろ。俺達はサーズガルドに向かう途中そこに立ち寄る予定だ。だから――」


 まるで、もう全てを諦めたかのような物言い。

 もう絶望したくない。もう希望をチラつかせてほしくない。これ以上期待させないでくれ。

 そんな心の声が聞こえてくるようで。


「もう一度だけ、俺と一緒に付いてくるんだ。その子と一緒に」

「……本当に、そんなものがあるのか……?」

「ある。具体的に言うとある里に長の屋敷の地下。そこのワインセラーに隠してある」

「なんでそんな場所に……」

「そいつは話すと長くなる。だが、その装置には少なくとも、対象の状態を細かくチェックする機能もついていた。きっと、その子の身体の事を、リュエ以上に詳しく調べてくれるはずだ」

「本当に……本当に分かるのか……?」

「少なくとも、人間以上に難しい存在の状態を事細かく調べてくれたのは実証済みだ」


 するとシュンは顔を伏せ、そのまま『悪い、出て言ってくれ。恥ずかしい』とだけ言い、その意思を汲んで俺もまた、静かに医務室を後にしたのだった。




 地下牢。封印の間とは別の地下に存在する、犯罪者や反乱を起こした物、また規則を破った兵士を閉じ込めておくその場所の最深部に辿り着く。

 ミサトの居場所を聞き忘れていたと、兵士に言葉をかけて歩いていたファルニルをつかまえて教えてもらったのだが……この領地ってどうなってんだ? 一人も罪人らしい罪人が見当たらないんだが。

 そして唯一の住人であり、ようやく氷の彫刻から人間に戻れたミサトの前へと辿り着いた。


「っ! カイ! 命令するわ、私をすぐにここから出しなさい! 貴方の力ならそれが出来るはずよ!」

「……そんなに熱心に見つめられても困るんだがね。たぶん他の看守にも同じ事をしたんだとは思うが……」


 魅了を試みているのだろう。だが、そいつは既にお前から完全に失われた力だ。

 自分でステータスを開けば確認出来るとは思うのだが、まさか自分からその力が失われるとは思っていなかったのだろう。

 所謂“神様チート”とかいうヤツなのだろう。

 ……となると、チセにもそういった力があるのだろうか……念のため後で確認しておくか。


「お前さんが持つ[男性魅了]の力は消させてもらったよ。これまで散々甘い汁吸って来たんだ、そのつけが回ってきたんだよ」

「そんなわけない! 私は、私は主人公なのよ! そんな訳ない! どうせ、貴方だって心変わりする、そうに決まってる!」


 俺が、こんな事を思うのもおこがましいのかもしれないが。

 誰かに聞かれたら『お前が言うな』とか『ブーメラン乙』とか、言われるかもしれないが。

 だがそれでも――我慢の限界がある。

 主人公だ? 心変わりする? なんなんだお前は、これまでの言動から、もしかしてと思っていたが――


「てめぇ、ここがゲームか何かの中だとでも勘違いしてんのかコラ」

「ゲーム!? アンタ! まさかアンタもなのね!? 私の邪魔しな――」


 鉄格子を望み通り吹き飛ばしてやる。

 ああ、うっかり力が入り過ぎたな。一緒に両足、消えちまった。


「あ――」

「……口を塞ぐぞ、騒ぐな」


 闇魔術で口を覆うと、声にならない叫びというのだろうか、表現上ではよく耳にする言葉だが、実際に初めて見るその様子に一人感心する。

 そうか、目は口ほどに物を言うとはこの事なのか。

 同時に両足を凍らせ、痛覚をマヒさせる。


「ここは現実だ。お前は当たり前のように死ぬし、ここは断じてお前に都合の良い世界じゃない。俺はお前を助けない。そしてこの先お前に救いは訪れない。以上の事を踏まえて俺の話を最後まで聞き、全ての質問に答えるなら、その足を治してやる。応じるなら首を縦に振れ」

「――――!」


 まるで壊れた人形のように、震えながらガクガクと首を振る。

 ……外道な考えかもしれないが、ファルニルで学んだ。馬鹿な人間はこうやって痛みと死を感じさせてやれば、素直になると。

 ファルニルの時と同じように、ほぼ原形を留めていない足を近づけ[生命力極限強化]を付与してやると、潰れた面がブクブクと泡立ち、そして赤い筋が幾重にも伸び、潰れた足へと繋がっていく。


「治してやったぞ。今から口を解放してやるが……余計な口を利いた瞬間、今度は頭を潰す。勿論……即死だ、もう治してやることも出来ない、分かるな?」


 ……人の尊厳を失う生理現象を見せながら、再び猛烈に首を振る。

 そして、防いでいた口を解放してやると、息苦しかったのか、這いつくばり深呼吸をしはじめた。


「さて、お前はどうしてエルダインに向かった。そこにシュンがいると知っていたはずだ」

「それは……私は解放者だから、次に解放する場所はあそこだって、分かっていたから……」

「シュンの事は誰に聞いた。あの場所の警備を突破出来るのはシュンしかいない。偶然あいつを誘惑したなんて言うつもりじゃないだろうな?」

「……」


 黙り込むミサト。言うつもりはない? 今の拷問を受けて? そんな気概がこいつにあるのか?


「死ぬか?」

「待って! 待ってお願い! 思い出す、思い出すから待ってください! 本当にお願い!」

「思い出すだと……?」

「……誰かに、強い人間がいるって……誰かに……誰か……?」


 震えながら必死に思い出そうとしている姿に違和感を覚える。

 恐怖で錯乱している? いや、どうも様子がおかしい。

 まだ四日と経っていない時の記憶だぞ、さすがにそんな……。


「誰かに……誰かが……誰なの……聞いたの、聞いたのよ! 本当よ信じて! 誰かが教えてくれたの、強い子供がいるって! 大陸で一番強い剣士がいるって!」

「それが誰なのか思い出せないと? 随分と都合が良い頭をしているな?」

「待って待って待って待って! 殺さないで! 本当なの、誰かなの……思い出そうとすると、そこだけ消えちゃうの、おかしいの!」


 ……どういう事だ。まさかこれもフェンネルの術かなにかなのか?

 少なくとも、誰かがこいつに情報を渡したのは分かった。だが、それが誰なのかは分からない……か。


「もう良い、思い出さなくても良い。時間の無駄になりそうだ」

「いやああああああああああああ! 死にたくない死にたくない死にたくない! なんで、私はただ、ただ好かれたいだけなのに! ようやく、良い事が起きたと思っていただけなのに! なんで、なんでえええええええ!!!」


 スキルを奪っても、こいつの容姿は衰えなく美しいままだというのに、今の姿は見るに堪えない程醜く映った。

 お前さん、人の心を操り、意思を縛るってのがどんなに罪深い行為なのか理解していないのか?

 今、お前が恐怖に縛られ、なんでもかんでも喋らされ、身体も満足に動かなく、失禁までしてしまっているこの状況、ほとんど内容的には変わらないんだぞ?


 騒ぎ暴れるこいつを黙らせる方法を、殺す事以外に持たない俺は、後の事を看守に任せて、背後から響き渡るミサトの慟哭に背を向けながら地下牢を後にしたのだった。




「水抜き作業はまだかかり――何をしてるんだお前」


 謁見の間に戻ると、ダリアではなく何故かファルニルが地下通路に向けて身体を差し込み、内部の様子を探っていた。


「なんでも、自分に名案があるから……と」

「あ、ちょっと見ていて頂戴カイ。私良い事思いついたの。急いで水を無くしたいのでしょう? ここで汚名返上……まぁせめてもの罪滅ぼしになればと思ってね」

「ふむ。それで評価を変えるかどうかはさておき、とりあえずその名案とやらをやってみると良い」

「見ていて頂戴。とはいっても、ちょっと危ないから離れていてね」


 すると頭を床下に突っ込んだまま、何やら気合を入れ始める残念領主。

 何をするのかと見ていると――


「ふぅ……はああああああああああああああああああ!!!」

「うお!? なんだ、この揺れは」

「ほほ! ふほいわ! ほんほんみふがひえへいふ!」


 まるで口に何か加えているかのような言葉が聞こえてくる。

 一体何をしているのだろうか?


「まさか…………っ! ファルニル様、すぐに止めてください!」

「ほうひへ? ほは、ほんほんひょうはふひへ――」


 次の瞬間、鼓膜が破れてしまう程の轟音がすぐ傍で鳴り響き、あまりの衝撃に床に転がってしまう。

 なんだ……爆発、一体何故!


「うう……障壁が間に合わなければみんな重体でしたよ……何考えているんですか貴女は!?」

「な……な……どうして爆発したの……水を無くすなら、炎で蒸発させてしまうのが手っ取り早いと思って、ブレスを吐いただけよ、私……一体何が起きたの……」


 …………やっぱりこいつの評価を改める事は無理そうだな。

 水蒸気爆発。大量の海水、それも密閉された地下に向かって炎を吐き続けたらそりゃそうなるだろうに……。


「……全身真っ黒です。今日は下がって休んでいてください。後は私がやりますから」

「分かったわ……どうして爆発したのかしら……」


 やっぱりある程度の科学知識はこの世界にも広めた方が良いのではないだろうか。

 ボロボロの姿のまま立ち去るおバカさんを見送り、地下がどうなったか確認してみる。


「ん、無駄ではなかったのかね、結構水が減ってきているじゃないか」

「そうですね、水蒸気として抜けていった分もありましたから……一歩間違えたらまた崩落していたかもしれないというのに」

「やっぱりまだ妨害する気だったんじゃないのか。どうにも行動がチグハグだ。わざとらしいというか」

「いえ、あれは素ですよ。元々真っ直ぐな方なので、今回もおかしな方向に突っ走った訳ですし。決して、決して悪人ではないんです。……面倒な気質であることは認めますが」

「なるほどね。じゃあ後少しみたいだし、残りは任せるぞ。ひと段落したら一度宿に戻ってきてくれ。ミサトから話を聞いた、その報告をしたい」

「分かりました。では人が通れるくらいまで水位が下がったら戻りますね」


本日の俺の仕事はこれにて終了だからと城を後にし、宿へと戻る事に。

どうやら既にリュエ達も戻ってきているらしく、室内から楽し気な会話が聞こえてくる。

ふむ、なんとなく気が引けるが、入室致しましょう。


「ただいま。みんなも戻ってきていたんだね」

「あ、おかえりなさいカイヴォン君」


チセからの『おかえり』という言葉に、一瞬言葉を失う。

……懐かしくて、切なくて。なんだよ、不意打ちに弱いな俺は。


「っ――ああ、ただいま、チセ」

「カイくんおかえりー。お城の様子はどうだった?」

「お疲れ様です、カイさん、今日は面白い物が売っていたんですよ?」


未だ予断を許さない状況ではある。

だが、本来出会う事のなかった人間達が、それも自分にとって大切な人間達が一同に会した今の状況が、そしてほんのわずかな間の日常が、とても、愛しくて。

たとえ仮初でも、一時の物だとしても……。


「へぇ、面白そうだ。三人の話を聞かせてくれよ」


 この瞬間を大事にしたい。そう、思った。


(´・ω・`)ローストビーフサンドすごくおいしくできました

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