三百五十一話
(´・ω・`)明日見本誌が届く予定なので、なにか宣伝用の料理と一緒に撮影してツイッターにでものっけておきますん
「チセさん、これで大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます……すみません、服の調整までしてもらって……」
「いえいえ、良いんですよ。よく娘達の服の手直しをしていましたから」
「え……レイスさん子供がいるんですか……? そんな風には見えないのですが……」
カイさんとダリアさんが城へ向かってから三時間程経った頃、私は以前チセさんに差し上げた服を手直しをすると提案し、ようやくそれが終わったところでした。
何かしていないと、気が気でないというのもあります。ですが同時に……チセさんと色々話してみたいという欲求を抑える為、何かに没頭していたかった、というのもありました。
「いえ、私の実の娘ではなく、様々な事情を抱えた娘達を引き取り、一緒に暮らしていたんです」
「へぇ……孤児院……みたいな物なのでしょうか。素敵です、凄く立派だと思います」
「ふふ、有り難う御座います。チセさんのご家族はどんな方だったんですか?」
しまった。つい話の流れで、私が一番聞いてみたい事を聞いてしまいました……。
ごめんなさい、カイさん。何を聞いても私の胸に留めておくので許してください。
「私の家族……ですか。そうですね、母はなんでも出来る人でしたね。日曜大工から機械の修理、パソ……そうですね、ここで言うところの、術式の調整みたいな物まで出来る人だったんです。勿論、料理も上手でした」
「まぁ……凄いお母さまなんですね」
「ええ。ただ、無理がたたって、重い病にかかり、そのまま……」
……そう、でしたか。
「すみません、少しぶしつけな質問が過ぎましたね」
「いえ、大丈夫です。これでももう大人ですから、自分の親との死別が特別な事だと、悲しみ続けるものではない事は理解しています」
「……ええ、それはとても立派な考えです」
そう、それは自然の摂理。遅かれ早かれ、それは誰にでもやってくる運命ですからね。
それをどう乗り越えるか、どうやって耐えるか。きっとそれは、その人の過ごしてきた人生で変わっていく、ある意味では関門、試練なのでしょう。
「それと、父は対照的に、そんなに頼りがいのある人ではありませんでしたね。いえ……逞しくはあるのですが、生活力が足りないというか……」
「ふふ、それは優しい、という事ではないのですか?」
「そうですね、優しい父でした。後……やたらと山から食材を採って来る人でしたね」
あ、少し親近感が。私もそうでしたから。
それに……カイさんも山菜採りが得意だったと記憶しています。
子供の頃によく連れて行ってもらったりしていたのでしょうか?
「あと最後に兄もいました」
「っ! お、お兄さんですか?」
つい、身構える。これまであまり多く語られてこなかったカイさんの、元居た世界での素顔を知れる機会に、興奮と期待、そして罪悪感から、心臓がドクドクと鼓動を速めていく。
「……私はあまり兄が好きではありませんでしたよ。小さなころはよく意地悪をされていましたし、口も悪くて、しょっちゅう私の事を『クソチビ』なんて言って……」
「……それは頂けませんね、ひどいお兄さんです」
「まぁ、男の子なんて小さいうちはそんなものなんだろうな、と今なら分かりますけれど……ただ、兄はある日失踪してしまったんです。警察……国の機関に捜索をお願いしましたが、二年以上経ってそれも打ち切り。たぶん……どこかで死んじゃったんだと思います」
ジクリと、胸が痛んだ。
「たぶん、事故とか事件に巻き込まれたのではなく、どこか見つからない場所で、自殺しちゃったんです。きっと、疲れてしまったんです。それくらい私の兄は、一人でなんでも背負いこんでいたんだと思います」
私は、なんて愚かだったのだろう。
カイさんがここに居る。それは即ち、彼女の元から突然消えてしまったという事なのに。
その残された人が、どんな思いを抱えているのか、少し考えれば分かるはずなのに。
彼女がそんな事を考えてしまっていたのに、それを思い出させるなんて。
いつから私はこんなに愚鈍で、自分の欲を優先する人間になってしまったのだろう。
「え……あの、レイスさん? すみません、そんなつもりじゃないんです、今はなんともありませんから……泣かないで下さい」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい……」
「い、いえ! 良いんです。そうだ! 代わりに面白いエピソードを教えますから、それでどうか……あ、そうです、兄が失恋した時の話なんかは笑えるので、それで――」
「ちょおおおおおっと待ったー!」
その時でした。勢いよく扉が開かれ、顔を真っ赤にしたカイさんが飛び込んできました。
……すみません、ちょっとだけ今の話は聞いてみたいな、なんて思ってしまいました。
「いや、さすがにこの場にいない人間の恥ずかしい話を言いふらすのは良くないと思うんです。きっと君のお兄さんが知ったら止めるんじゃないかな?」
「あ、カイヴォン君おかえりなさい。そうですね……やめておきます」
扉の外から聞こえて来た、死の宣告にも似た話題につい、ノックもせずに扉を開けてしまいました。どうも、失恋した時に色々とおかしくなった経験のあるぼんぼんです。
というかお前そんな事覚えてんのか。確か中学時代だぞ、それ。お前当時小学生だろ。
「お、おかえりなさい……」
「はーいレイスさんは後でちょっとお話しましょうねー」
「ご、ごめんなさい……」
取り合えず、ずっと展開したままだった魔王ルックを解除しつつ、未だに気だるい身体をベッドに横たわらせる。
……やっぱりHPと身体の疲労感って完全に同じ物じゃないんだなぁ。
「その姿だったという事は……やはり領主と戦闘になってしまったのですか……?」
「正解。それだけじゃないぞ、相手側にミサトとシュンもいたんだ」
「っ! ミサト、生きていたんですね。そのシュンというのは彼女の従僕ですか?」
「まぁ、操られていたって事になっていたよ」
「ミサトちゃん……やっぱり彼女は危険だよ。酷い言い方かもしれないけれど、殺しておくべきなんじゃないかい?」
「うんにゃ、今回の戦い、表向きは今言った展開だったけど、結果は全然違う物だったんだ」
シュンに持ちかけられた内容と目的、そしてその果てに待っていた結果を語る。
俺にとってのリュエやレイスのような存在がシュンにいた事。そして残された子供の為に戦ってきたアイツの事情。
そして――ようやく取り戻した子供が、どんな状態になってしまっていたのかを。
すると次の瞬間、ベッドの上に置いてあった枕に、レイスの拳が強くめり込んでいた。
……物に当たりたくなる程の怒り。彼女の気質からすれば、それは当然だろう、な。
「私は、自分を綺麗な人間だとは思っていません。相応の罪も犯して来たと思って居ます。ですが……ここまで人を罰したいと、いいえ、殺してしまいたいと思ったのは初めてです」
恐ろしく低い、普段聞かせないような声で彼女は淡々と語る。
最初から結果を知っていて止めなかったであろう領主も、シュンを騙してその発案をしたフェンネルも、絶対に殺すべきだと彼女は言う。
……領主は残念ながら、完全にこの件に関しては黒とは言い切れない訳だが。
なにせアレは馬鹿だ。きっとジュリアも覚悟の上だと思っていたのだろう。
まぁこれから先、一生俺の影に覚えて生きていけば良いんじゃないですかね、アイツは。
「……誰かが、犠牲になっていると思っていたけれど、それがシュンの大切な子だったんだね。けど……どうしてそんな事になってしまったんだろう。私だって七星の封印の傍で生きていたのに、そういう影響は……少ししか受けていなかったよ」
「あ……そうか、リュエも毎晩うなされていたんだよな、確か」
「うん。でもそっか、私と違って直接術式を介して繋がっていたんだもんね……それもまだ子供なのに」
そう言われてしまうと、やはりジュリアが今の状況になってしまったのも当然なのかもしれない。だが……本当にどうする事も出来ないのだろうか?
「あの、お話の途中ですみません。という事はもう、七星を目覚めさせる事が出来てしまう状態なのでしょうか……ミサトが七星を解放してしまう可能性は……」
「あ、その事なんだけど――ほら、リュエにお土産。この杖をプレゼントしよう」
思い出したように、先程手に入れた杖を取り出し、リュエにプレゼントする。
彼女が持っている杖がどの程度のものかは分からないが、恐らくこの杖はさらにその上をいく逸品のはず。
すると彼女は、訝しみながら杖を受け取り――
「うん? 私の杖はかなりの逸品だから、今更新しい杖を貰っても……勿論嬉しいんだけれど、出番はあまり無いんじゃないかなぁ?」
「まぁまぁ、よく見てくださいな」
杖を掲げてみたり、コンコンと叩いてみたり、そしてステータスを確認してみたり。
すると――
「うわあ!!! なんだいこの杖! 私の杖よりも強いよ! 魔力伝達効率も、術式増幅効果も、自然治癒の増強まで! 素材はなんだい? どこで手に入れたんだい!? こんな凄い物貰っていいのかい!? 時代が時代なら一つの国を差し出してでも欲しがる人がいるレベルだよ! うわー! すごいすごいすごい!」
「それね、この領地に封じられた七星“魔極リスティーリア”ってヤツが持っていた杖なんだ」
「へー! 七星の杖かー! 道理で強いはずだよ! へー、魔極かー! 凄い名前だねー」
杖を抱きしめてみたり、くるくるとトワリングしてみたり、興奮冷めやらぬ調子で大はしゃぎのリュエさん。実に可愛い。プレゼントした甲斐があるという物だ。
が、レイスとチセは今の発言に気が付いたのか『あれ?』と表情を変化させた。
そして、一しきりはしゃぎ終えたリュエもまた『ん?』と訝しみ――
「カイくん今なんて?」
「ん? だからそれ、七星の杖だよって」
「どうしてそんな物を持っているんだい?」
「そ、そうですよカイさん! 封印されているところから盗んできたんですか?」
「いやー、実はさっきもう、七星一体倒してきちゃった」
どっきり大成功。
少々心の安定を取る為に、癒しが欲しかったんです、お許しください。
もうここ最近ずっとシリアスだったじゃないですか。こっちも参ってしまっていたんです。
「えー……もうさすがに驚かないって言いたいけど、そんな軽い感じで倒しちゃったっていう事に驚いてしまうんだけど……」
「わ、私としてはもう、カイさんが負けるはずがないと思っていましたので……いえ、でも……さっきですよね? つい、さっき」
「うん。あの地震が七星の目覚めだったんだよ。で、リュエが見た海の異変が俺の攻撃」
「本当についさっきだよ!? 地震からあの海がぶしゃああ! ってなるまで、十分くらいだったよ!?」
「今回はすぐ傍が都市だったので、なるべく被害を出さずに手早く倒す必要がありました」
さて、ネタばらしをしたところで、先程から口を開く様子のないマイシスターの様子を見てみよう。
「おかしくないですか、カイヴォン君」
「そんな冷静に返されるとさすがに傷つくんだが」
「だって、大陸を襲った災害、ようやくそれを解放出来る時が来たと、ここまで多くの謀略や水面下の争いがあったはずです。それを、一〇分で全部覆したんですよ。おかしいですよ、なんだか、おかしいです」
「……そう言われると返す言葉もないんだけどね。ただ、俺としてもあの七星……少々弱すぎた気もするんだよ、確かに」
俺の一撃が強かったというのもあるのだろう。実際、俺も瞬殺出来るように準備をして、それで絶対に勝てる状況を作り出したのだから。
だが、それにしたってあまりにもあっさりしすぎていたように思えるのだ。
……目覚めたばかりで本調子じゃなかった? それとも、魔力が完全に流れ込んでいなかった、とかだろうか?
散々魔力の流れをいじくりまわされていたんだ。どこかにロスが生まれていたのかもしれない。
「ともあれ、これで残りの七星は後一体だ。そっちももう目覚めさせる事が可能になっているはずだけど、ここに解放者が二人ともいる以上、勝手に目覚める事はないっていう話だ」
「そっか……じゃあ準備が出来次第、残りの七星も倒しに行くんだよね?」
「そのつもりだよ。もう、あれはこの大陸に争いしか生まない存在だって俺は判断したし、それはきっとダリアもだ。今、召喚の儀式に使われた部屋の調査の為に城の中を復旧中だ。チセが元の世界に還る為の手段を見つけるのには、もう少しだけかかりそうだけど、大丈夫かい?」
「……とりあえず、障害になりそうな物は簡単に排除出来る、という事が分かりましたので……ただ、七星なしで私って戻れるのでしょうか……七星の魔力で呼び出されたはずですし」
「その辺りもダリアに聞かないと分からないが……でも問題になるようなら最初に俺に言っているはずだからなぁ」
もしそうなら、俺に『倒すな』って絶対に言っているはずだ。
それも含め、あの水没した部屋の調査を早めようとしているのだろう。
そしてこっちが本題。シュンの姪のような存在、ジュリアについてだ。
今彼女は限りなく回復の見込の無い状態だが、もしも何か希望があれば、可能性がわずかでもあればと、リュエに診察してもらえないかと尋ねてみる。
「もちろん協力するよ。シュンの頑張りが少しでも報われるように、出来る事はなんでもするつもりだよ」
「私からもお願いします。彼に思うところはありますが……もし、私も同じ立場だったらと思うと……許すとは言い切れませんが、理解出来ます。大いに」
「とりあえず私は、そのシュンという人にお礼がしたいです。サーズガルドから抜け出せたのは彼のお陰ですから」
「良かった。じゃあ、たぶんもう少しすればその子をつれて来るはずだから、少し待っていようか」
それから三〇分程で、ホテルの従業員から来客の旨を知らされる。
通すように頼んだのだが、どういう訳か一向にやってこない。
どうしたものかと様子を見に向かうと、この階のエントランスフールで、うろうろと歩き回っているシュンの姿が。
「なんだ、部屋が分からなくなったのか? ほら、こっちだ」
「ああ、いや……そうだな。どうにも緊張してしまって」
「なんだよそのノミの心臓。ほら、待ってるんだから来い」
「分かった。ジュリア、行こうか」
相変わらず焦点の合っていない瞳で、首も座っていないようにガクガクと身体と共に揺らしながら手を引かれている子供。
身長だけ見ればシュンより少し大きいのだが……痛ましいな、やはり。
そして部屋に戻り、それに続きシュンがおずおずと入室する。
「……失礼する」
「いらっしゃい、シュン!」
「ご無沙汰しています」
「こんにちは。地下牢以来ですね」
「……まさか、一緒に行動していたとはな」
ふいにシュンが視線を向けてくる。恐らく『彼女に自分の正体を教えたのか?』という意味なのだろう。
俺は、黙って首を横に振る。
「……どうやら一番良い陣営に付いたようだな」
「そうですね、ある意味その通りです」
「まぁ、こっちも色々あったんだ。で……リュエ、この子がそうだ」
知らない人間に驚いたのか、シュンの手を振り払おうとしているジュリアをリュエに紹介する。
こうして見ると、髪の色も目の色も似ている所為か、リュエの姉妹かなにかに見えるな。
するとリュエは、微笑みながら、シュンの代わりにジュリアの手を取る。
「こんにちは。初めまして」
「あ……ぅぐ……」
「私とおんなじ目をしているね? よろしくね、ジュリアちゃん」
「うー」
不思議そうに見つめるジュリア。どうやら怖がっている訳ではないようだ。
するとリュエは彼女の手をそっと引き、一緒にベッドに腰かける。
「綺麗な髪をしているねぇ。よーしよし」
「あーうー」
まるで子供をあやすように、静かに髪を撫でる。
すると、微かにリュエの手が光を帯びていき、ゆっくりとそれがジュリアの頭に染み込むように消えていく。
すると、ジュリアの瞳がゆっくりと閉じていき、小さな寝息を立て始めた。
「……ふぅ。なんだか精神の乱れが激しいみたいだったから、一度眠ってもらったよ」
「やはりそうか。城の術師達も同じ事を言っていた、普通の人間でいうところの、錯乱状態に近い、と」
「うん、そうだね。詳しく見てみるから……ちょっと静かにしていてね」
先程俺がプレゼントした杖を早速使うつもりなのか、彼女はそっとそれをジュリアの頭に添える。
解析、だろうか。皆息を飲みながら、彼女の診察が終わるのをじっと待つ。
「……心の問題だけじゃない……頭のどこかに、なにかが溜まっているんだと思う……でも、頭に回復魔法を使うのは……私でも少し難しい、かな」
「溜まった物が自然に排出されるって事はないのかい?」
「……正直に言うと、難しい。他の身体に比べて頭って凄く複雑でさ……錯乱とかじゃなくて、本来の働きが出来なくなっている状態なんだと思う……」
恐らく、リュエが複雑だと言っているのは脳の事だろう。
現代医療でも難しい分野、そして全てを解明出来ていない器官だ、確かに魔術でどうこうするのは難しい……か。
「脳のどこかに腫瘍が出来ている……みたいな物なんだな」
「シュン……ああ、そういう事になる。だが……この世界の術でこれ以上詳しい治療は難しいかもしれない……」
「解析の術式でも、詳しい部位は見つけられない、か」
「解析も魔術だからね。微弱な魔力を流して調べるんだけど、頭の隅々まで流すとなると……どんな影響が出るか分からない。下手をすれば目を覚まさなくなる事だって考えられるんだ」
シュンも俺も歯噛みする。下手に地球の医療を知っているだけに、悔しいという気持ちが沸き起こる。
脳に影響を与えずに、内部の様子を細かく見る事が出来る医療機器が、俺達の世界にはあるというのに……と。
「……また、眠りにつかせた方がいいのかもしれないな」
「諦めるのか、シュン」
「……幸い、俺は歳をとらない。何百年、何千年もすれば、いつかは魔術的なアプローチでCTスキャンやMRIが生まれるかもしれない……その時まで、彼女を眠らせるのも、一つの手段だろうと、な」
「……なるほど。この世界なら、長い間生命を維持して眠らせる事も可能だからな」
皮肉な物だ。地球では逆に、人体の冷凍保存技術と、無事に解凍、覚醒させる技術は確立されていなかったというのに、この世界ではそれが可能なのだ。
「この世界に、医療機器があればよかったのにな、本当に」
「シュン……」
眠る彼女の頭を撫でながら、悔しそうに、悲しそうに、力なく呟くシュン。
その姿は、まごうことなく、娘を思う父親のそれだった。
……どうにか出来るかもしれない方法を知っているのに、絶対にそれが不可能だと理解する。それは、あまりにも辛い、受け入れがたい事だろうに。
「このまま彼女を城に連れていく。後で、ダリアに相談してみる。再び彼女を眠らせる方法について、な」
「……すまなかった。せっかく来てもらったのに」
「私もごめんよ……もっと、回復魔法が発達していたら……」
「いや、構わない。希望は貰った。いつか、何世紀かけても、救って見せる。その可能性を貰えただけで十分だよ」
そうして、シュンは自分より大きな娘を、ひょいと軽々と抱きかかえ部屋を去っていった。
残された俺達は、ただシュンの気持ちを思い、言葉を発することが出来ずにいたのだった……。
翌日、城の内部の様子がどうなったかを知る為に、今日も一人で向かう事に。
リュエ達は念のため、今日も三人で固まっていてもらう事になった。
とはいえ、さすがに今日は街の様子を見に行ったりと、ある程度の自由行動は許可してあるのだが。
「ダリア、地下室の様子はどうなった?」
「カイヴォン、来てくれましたか。昨日のうちに海の側から地下への浸水を防ぐために防壁を作りました。現在、海水を抜く作業をしているところです」
「排水ポンプとかあるのか?」
「さすがにそういう物はありませんが、水流を操作して、空気中に通り道を作って流す事は出来ます。実はこの技術を応用した水族館のような物がサーズガルドの城内にあるんですよ」
「マジでか。今度見せてくれよ」
「ええ、約束しましょう。それで……シュンの様子から察する事は出来ましたが……どうなりましたか?」
詳細を聞いていなかったのだろう。俺は昨日のリュエの診断結果を彼女に伝えた。
未来への可能性。そして、再び封印の眠りにつかせる計画を。
「…………あの、もう一つ試してみるべき事があるのではないでしょうか」
「……まだ手立てがあるのか?」
「ええ。つまり魔術的なアプローチで作られた、私の記憶の中にもある医療の道具、そういった物があれば良いのですよね?」
「ああ。だがそこまで魔導具は発達していないだろう?」
「ええ。現状、そこまで発達した技術を持つ国は他大陸にもないでしょう。ですが――」
するとダリアは、少しだけ懐かしい笑みを浮かべ――
「貴方が私を最初に連れて行った場所……そこで、私は何を修理していましたか? それを忘れた訳ではないでしょう?」
「っ! そうか! まだ可能性があったんだな!」
失念していた。俺達はすでに一度それに関わっていたではないか。
機械的な分野と、魔術的な分野が融合したマシン。
そして、なんとも都合の良い事に――そいつは医療に関わるものだ。
「MI搭載Hゼロ型……里長!」
どうやら、七星の元へ向かう前に、もう一度あの里へ向かう必要があるようだ。
(´・ω・`)ベーカリーでパンとか買ってこないと……