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三百五十話

(´・ω・`)もうすぐ八巻の改稿作業が始まってしまう……

 地下深くにあった封印の間は、どうやら城の後ろに広がる海の中に作られていた場所だったようだ。

 謁見の間までなんとか戻ってこられた訳だが、すぐさまダリアが隠し扉を氷で封じて海水が溢れてくるのを抑え込んだ。


「長くは持ちませんが、対策を練る時間程度は稼げるでしょう。それで……あの場所で一体何があったんですか。それにその娘はジュリアですよね、その様子は……」

「……シュン、全て話すぞ。いいな?」


 未だうめき声をあげ暴れようとする娘を抱き留めるシュンが、ただ無言で頷く。

 そして俺は、こいつが俺に持ちかけて来た話の内容を、そしてこいつが聞かされてきた、その選択をするに至った経緯を全て、ダリアへと語ったのだった。


「……何故、私に一言も相談しなかったのです。時間は幾らもあったでしょう、何百年も、貴方は私の隣にいたでしょうに!」

「お前に言ったらどうなっていた? お前はもう限界だっただろ。ようやく、今になってようやく全部を受け入れた分際で何が分かる!」


 きっと、人格や記憶の事を言っているのだろう。

 そうだろうよ。俺が気付けたんだ、ずっと一緒にいたお前が気が付かない筈がないよな。

 全部、全部知っていたのだろう。ダリアの心がもう、この世界で生きる事に耐えられなくなっていた事を、人格が変化してしまっていた事を。


「……ねぇ、話の腰を折って悪いとは思うのだけど……七星をどうにかしましょう。私に流れていた力が消えている以上、今の七星は万全な状態のはずなのよ」

「自分で蒔いた種だろうが。なにを他人事みたいに言っているんだ。また翼もぐぞ」

「ひい!! で、でも!」

「……そうですね。ミサトも気がかりです。あれを最初に潰しておくべきでした……完全に失念していた私達の落ち度でもあります」

「それだ、そもそもシュン、なんでお前がアイツと一緒にいたんだ?」

「それは――」


 その理由が語られる前に、城が大きく揺れる。

 もはや一国の猶予もないという事なのだろうと、窓から外に飛び出し、そのまま城から飛び降りる。

 城の後ろには、海上に広がる庭園が造られていた。

 平時ならば見て回りたくなるような美しさなのだろう。だが、その果てに俺は見た。

 人……にも見える。だが確かに人ならざる者だ。周囲の景色を歪めるほどの魔力を纏いながら、ただ静かにたたずんでいる。


「隣に転がっているのは……ミサトか?」


 氷漬けにでもされているのか、まるでガラス細工のような姿で転がっているミサト。

 そして、それに興味を向けるでもなく、たた呆然と城を見つめる存在。

 あれが、七星なのだろうか。これまで見てきた七星が『龍神』と『プレシードドラゴン』だっただけに、俺は無意識に『七星=巨大な魔物』だと思っていた。

 だが……確かに感じる、この肌を針で突かれるような感覚、プレッシャーは……。


「しっかりと目覚めた七星ってのは……ここまでの物なのかい」


 自身に付与する[詳細鑑定]の力で、俺が倒すべき相手の情報を読み取る。




【Name】 魔極リスティーリア

【種族】 亜神

【職業】 七星導師

【レベル】398

【称号】 魔極

     謳われし災厄

     堕ちた聖者

【スキル】万有属性 万有魔導 魔力吸収




 こいつは強い。表面上の情報しか読み取れないが、恐らくステータスも俺よりも遥かに優れているのだろう。

 ……かつて、ダリアとシュンが二人でも倒せなかった存在。

 剣を触れない状態でどこまでやれるか――


「……まぁ正攻法じゃ難しいわな」


 負けるかもしれない、なんて感情は一切存在しない。可能性は無限大、それが現実世界だ。

『アレとコレは同時には発動しません』『コレの効果はアレには適用されません』そんなシステム上の制限が存在しない世界で、そんなシステムの様な効果を持っている俺達神隷期の人間が、こんなヤツに負けるはずがないのだから。


「二人とも遅い、なにやってたんだ」

「お前が……早すぎる。ジュリアをファルニルと一緒に避難させた」

「都市全体に避難勧告を出すのは逆効果と判断しました。あの城を最終防衛線とします。住人には……ただのありふれた一日として過ごしてもらいます。私達ならそれが出来るでしょう?」

「……そうだな。トップが狂っていようが住人はその事実を知らない。今まさに突然自分の住む場所が滅びの危機にあるなんて言われたって、納得出来るはずがないもんな」

「……俺は承服しかねる。もしもの時、助かるかもしれない命をみすみす危険に晒すなんて」

「日和った事言ってんな。もしもなんてもんは存在させない」


 瞬時に作戦を構築。今の俺に出来る、最も強くなれる方法を思考する。

 なんでもアリだ。反則だろうがチートだろうが、卑怯だろうがなんだって良い。

 一瞬でコイツを倒す方法を考えろ。都市部に一切の被害を与えない、そんな都合の良い方法を。

 ……アレだ。幸いにしてここは海、被害は最小限に抑えられる、か。


「ダリア、シュン。お前ら二人に俺の回復力を受け渡す。思いっきり無茶して時間稼ぎしてこい」

「んな!? そんな事まで出来たんですか!? というかそれが作戦ですか」

「お前が言うなら従う。幾らでも俺を使え」

「生憎どこぞの豚ちゃんみたいな指揮官としての力はないんでね。んじゃあ俺は準備に入る、後は任せたぞ」


 少し前の出来事が、俺にその攻撃方法を閃かせてくれた。

 この世界に生きる以上、物理の法則は存在する。勿論、魔法という新たな法則によりそれは絶対的な物ではなくなってはいるが、その影響力が皆無という事もない。


「……敵、ここにいるダリアとシュン以外はみんな敵だ……だから――」


 海に向かい、ひたすら格闘術の中にある遠距離攻撃を放ち続ける。

 蒸発する海面、割れる海、散乱するそこに住む罪のない生き物たち。

 ……後で全部責任を持って回収して美味しく頂きます。だからどうか――俺に『殺戮』されてください。


【カースギフト】発動

対象者 ダリア   [生命力極限強化]付与

対象者 シュン   [極光の癒し]付与

対象者 カイヴォン [殺戮加速]付与




 そう、速さとは即ち力。速さから生まれるのは膨大な運動エネルギー。

 それは間違いなくこの身体を蝕むほどに強大で、一歩間違えば自分の身がバラバラに砕け散る程。

 だが、俺の持つアビリティ[硬直軽減]は、本来俺にかかるはずの負荷を極限まで減らし、物理法則を無視した動きを可能としてくれた。

 今、俺に馬鹿げた治癒力は存在しない。だが――被害を最小限に抑え、すぐにでも倒すにはこれが一番効率的なはずだ。


「うーわ……こんなデカい魚もごろごろ棲んでいたのかこの海……後で根こそぎアイテムボックス行きだ」


 海面に浮かび上がる生き物の数は、もはや数える事すら出来ない程。

 そしてステータス画面を確認して表示される俺の素早さの数字もまた、確認出来ない程。

 ……一気に終わらせる。この力、海を割る程度では済まないだろうな。


「ダリア、シュン! 今から一〇秒後に全力で逃げろ! いいか、全力で離れるんだ! ダリアは念のため、都市側に防護系魔法を全力展開! 後の被害なんぞ俺は知らん、住人が死ななきゃ安いもんだよな!?」

「っ! わかりました!」

「了解した。その前に……その足、もらい受ける」


 こちらの攻撃が確実に当たる様にと、シュンが七星の片足を深く切り裂く。

 恐らく致命傷には至らず、すぐに回復してしまうのだろうが、それでも十分。

 やっぱお前と一緒に戦うと、いろいろと楽で良いな。


「……三、二、一」


 足に込められた力は、恐らく以前、あの島で使った時よりも大きな破壊力を生むだろう。

 ダリアとシュンが一斉に飛び退り、七星の身体まで一切合切の障害が除外される。

 それを確認した瞬間、俺はすべての力で――駆け抜けた。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! よう、七星! 驚いたかよ!」


 気が付けば身体に密着しているその相手。七星とはいえ人型のそれは、言葉こそ発しないが、驚愕の表情を浮かべながら俺と共に終わりのない空中散歩……いや、海上散歩へと連れてこられていた。

 まるで石の水切りのように、けれどもそれとは比べ物にならない余波を周囲に与えながら、海を切り裂き、この馬鹿げた速度を乗せた最大の破壊力を与え続ける。

 身体が、喉が、肺がどうにかなりそうだ。視界が赤黒く染まっていく。ブラックアウトってヤツか、これ。

 だが、どうやら、俺の身体が朽ちるよりも先に――


「あ……あぁ……お前は……なんなのだ……」

「口がきけたのか。まぁ、やっと死ねるんだ、ありがたく思いな」


 崩れ、朽ち、消えいく身体。

 その残滓すら遥か後方に残し、俺は一人止まる事も出来ず海上を吹き飛んでいくのだった。

 …………やばい。海に足突っ込んでブレーキかけようとしたら間違いなくバラバラになりそう。

[硬直軽減]はあくまで自分の意思で止まった時にかかる反動を抑えるアビリティだ。

 何かに衝突した時、この場合は海に足を突っ込んだ時にかかる反動を軽減したりは出来ない。

 このまま勢いが弱まるまで待つしかないのだろうか……。




[システムメッセージ]


LvUP 401→402

職業LvUP [奪命騎士](5)→[奪命騎士](7)

職業スキル獲得[スキルバニッシュ]


GETアイテム

“リスティーリアの聖杖”

“禁断の果実『魔極』”

“法印の白ローブ”


ウェポンアビリティ獲得

[魔力極限強化]

[魔導の極意]

[消費MP1/10]




「……あ、そうだリスティーリアってダリアが使っていた杖の名前か。この杖、ダリアが前にぶっ壊したって言ってたな、帰ったら自慢してやろう」


 一向に止まる気配のない俺の海上スキー。

 この後俺が陥るだろう遭難や、溺死のリスクや、とてつもない疲労という現実から目を逸らしながら、久方ぶりに上昇した自分のステータス、そして入手したとてつもないドロップアイテムに興奮していたのだった。

 やべぇよやべぇよ……。








「……戻って来ませんね。というかこの惨状はどうすれば……」

「……イカが浮かんでいるな。……どうする」

「焼いて食べますか? イカ焼き好きでしたよね?」

「そうじゃない、この惨状、この状況をどうするかって言っているんだよ」

「え? そんなのあのバカ女に全部丸投げで良いだろ。元を正せばアイツが悪い。都市に影響が無かった事に感謝して欲しいくらいだがね?」

「っ!? カイヴォン、いつの間に……」

「お前……今俺達の背後から現れたな。海に消えたはずじゃ」

「全身複雑骨折しながら海底に沈んできたわ。そんで海底蹴って走って港から戻ってきた」

「ヤダ……この人怖い」


 単純にシュンとダリアの【カースギフト】を解除すれば良かった話でしたね。

 尤も、それでこちらの痛みが消えるという事はないので、一瞬だけではあるが、自分の足がへし折れ、そのまま引きちぎられながら何度も海面に叩きつけられる感覚に味わった訳だが。

 そして俺の攻撃の余波がどの程度の影響を与えたのか見て回って来たのだが、幸いな事に、この海上庭園一面が水浸しになり、あちらこちらで魚がピチピチと跳ねまわり、周囲の海に大量の海の幸が浮かんでいる事と、城の一部がびしょ濡れになった事以外は大きな被害もなかった様子だった。


「……先に戻っていてくれ。俺はこの魚達を全部回収してくる。生きているのは海に返してね」

「そんな物兵士にでも任せたら良い。あのバカな女が、俺達がいないのを良い事に何をするか分からない」

「……いえ、恐らくもう問題ないでしょう。力を失った彼女なら、私達二人でも抑えられる。カイヴォン、貴方も出来るだけ早く戻ってきてくださいね」


 そうして二人が去って行き、城の中に消えていくのを確認した俺は、全身を襲う猛烈な痛みと、レベルが上がった反動による意識の混濁に屈するように蹲るのだった。

 ……久しく味わっていなかった感覚だ。気持ちが悪いし、全身の痛みに涙が流れそうだ。

 無理して戻ってきたのも影響しているのだろう、全身が気だるい。

 だが――その前に俺はもう一つ、やらなければいけない事がある。


「……余波で海にでも沈んだか……?」


 ほふく前進のように、海の見える場所まで進み、海面を探る。

 すると、少し離れた場所に、氷の像がぷかぷかと浮かんでいた。

 ……砕けてもいなさそうだ。悪運だけは強いな、アイツ。


「早速コイツを試す機会が来たわけだ」


【スキルバニッシュ】発動 対象者 ミサト・ヨシカゲ


 俺が新たに入手した技。これは【フォースドコレクション】で相手から奪ったスキルを、対象者に返さずにそのまま消し去るという物だった。

 毎回【カースギフト】を一度発動させ、それで何か適当なスキルを付与してからでないと発動出来ない【フォースドコレクション】を使ってからでないとスキルを消せない為、面倒ではあるのだが……それでもコイツの[男性魅了]は厄介だ。


「しかも消したら俺が与えたアビリティは戻ってこない……いらないアビリティでも付与しておくか」


 という訳でお前さんには[運+5]とかいうコモンアビリティを『反転付与』させて頂きます。

 せいぜいじゃんけんで負けやすくなる程度だろうが。


「……俺が一番警戒しなくちゃいけないのはお前だったんだな。本当、厄介だったよお前は」


 大方、このまま波に乗って近くの浜にでも打ち上げられるだろう。

 解放者なんだ、これくらいでは死なないだろうさ。助けてやる義理もない。




「ほ、本当に倒しちゃったの!? 嘘、嘘でしょう!? 七星よ、世界の災厄なのよ!?」

「だから倒したって。お前さんはそれより今回の騒動についての釈明、まぁ地震やら津波やら適当に発表して住人を安心させる準備でもしてろ」

「で、でも……貴方の力があれば私の目的だって果たせそうじゃない……人は絶対に争う物。でも子供だって、厳しい親の目があれば兄弟喧嘩もしないじゃないの。貴方のその力は全ての上に立てる程の物ではなくて?」


 城に戻ると、懲りていないのか、未だにそんな妄言を吐くファルニルが詰め寄ってくる。

 一理あるだろうさ。支配された世界は争いもなく平等になるだろうさ。表面上は。

 だがそいつはディストピアになりかねない世界ではないのか?

 人間は争う物だ。主義主張がぶつかり争って来たから今があるんじゃないのか?

 そんなもの、戦いの中で生まれていったこの共和国が一番の例ではないか。

 そんなこの国の成り立ちまで否定するのかと、ファルニルに今一度問い正す。


「……理解しているわ。でも、やっぱり私は……」

「恐いんだろ」


 すると、シュンが静かに語り始めた。


「お前は、自分ではどうしようもない存在が自分と同じ場所にいる事に恐怖した。だから、こうして動き出した。違うか?」

「……貴方、何を言っているの」

「お前は知った筈だ。この術式を組み上げた存在が、どれほどの事が出来るのか、その気になれば、簡単に自分達を出し抜き、滅ぼす事だって出来てしまうと」

「……」


 何を言っているのか。何を言いたいのか。俺には分からない話をシュンは語り続ける。


「秘匿すべき物をしなかった。もしかしたら、お前の抱いた無意識の感情も、その思想も、そうなるように仕向けられたのだとしたら? 俺は今回の事で思い知った。信じれば裏切られる。アイツを俺は許しはしない……」

「……私の心は私の物よ。断じてフェンネルに唆されたり、誘導されたりした訳じゃない」


 そして理解する。こいつが何を言っているのか、その全てを。

 かつてフェンネルはここを訪れ、ジュリアという娘さんを術式に組み込んだ。

 もしも、その時に『自分は簡単に術式を変えられる』と『その気になれば国を揺るがす事も出来る』という可能性を言外に知らしめる意味もあったのだとしたら。

 この馬鹿な皇女に、危機感を植え付ける事が目的に含まれていたのだとしたら……。


「『思考誘導術式』と『特定の誰かを生かし続ける延命の魔導』この大陸の術式に仕組まれていた術……生かされていたのがジュリアだとすれば、施行誘導術式は……国民だけでなく……?」

「な、なんの話なのよそれ、私は知らないわ、そんな事……」

「少なくとも、私の国ではその影響が出ていました。存在はするんです、人の思考を誘導するような術そのものは……もしも、ここの結界の調整の時に何かを仕組まれていたとしても、不思議ではないでしょう」


 以前、リュエが隠れ里で解析した結果だったはずだ。

 あの時ダリアは珍しく怒りを露わにしていたから俺もよく覚えている。

 ……そうなのか、やはり。やはりお前が元凶なのか……?


「……城の復旧も同時に急がせてください。地下室が浸水してしまっているはずですから」

「わ、分かったから落ち着いて頂戴……私も落ち着きたいから……一度に色々起こり過ぎてどうしたら良いか……」

「……封印の術式の再調査か?」

「ええ。大至急水を抜いてください。嫌な、嫌な予感がします……」


 どの道、解放者召喚の術について調べる必要があったのだから、このまま水没させておくわけにもいかない。

 だが、確かにダリアとシュンの言う通り、今回の解放者召喚ですら、仕向けられた可能性があるとい疑念が一同に渦巻いていたのだった。


「そもそもシュン、お前はなんでエルダインに行ったんだよ」

「お前達がサーズガルドから逃亡した後、俺にも追いかけるように命令が下された。随分と遅い命令だったが、幸いお前達の痕跡を辿るのは簡単だったからな」

「あー……海割ったりしたからな俺」

「それで向かった結果、エルダインに辿り着いた。あの女と出会ったのは俺としては偶然だったが……少なくとも向こうは俺が何者なのか知っている風な物言いをしていた」

「……やっぱりあのバカ引き上げて来た方が良かったか。おいファルニル、浜辺に氷漬けのミサトが打ち上げられている筈だ。回収してきてくれ」

「え、ええ……分かったわ」


 もしや、ミサトにもなんらかの形でフェンネルが係わっているのだろうか。

 そういえばシュンが言っていた『子供には魅了が通じない』と。

 となると……フェンネルも同様に利かない可能性がある。


「シュン、お前は魅了にかかっていないのに何故アイツに――って、そうだったな。お前にもお前の目的があったんだよな」

「そうだ。アイツが自分を解放者だと名乗り、その証を提示してきた。だから利用しようと考えた訳だが、俺に言わせたらあんな不自然な容姿、言われなくてもその可能性を疑うさ」

「だよな。テンプレ過ぎる格好だったからなアイツ」


 ……おい、なんでそんな無言で俺の姿をジロジロ見るんだお前。


「私は暫くこの城に残ってファルニル様の補佐に入ります。カイヴォン、貴方は一度ホテルに戻って彼女達に説明をお願いします」

「分かった。何かあれば使いでも出してくれ。シュン、お前はどうする」

「俺は……ジュリアの傍は離れられない。今は出来る事をしてやりたいが……」


 今は別室で眠らされているらしい、ジュリアの事を優先したい、と。

 それを咎めるつもりは一切ないが……治療の見込はあるのだろうか。

 彼女が今、具体的にどのような状態なのかファルニルに尋ねる。


「汚染された魔力というよりは、七星の持つ異質な魔力ね。それを長い間浴び続けていたのだから、変質は当然なの……心が壊れたというべきなのかしら……身体に異常はなくても、以前のように戻るとは思えない……自分の身体の限界を超えて動こうとして、自壊していく事だってあるのよ……」

「……そういう訳だ。今は誰かが付いていないといけない。悪いが……」


 ……ふむ。身体のリミッターをつかさどる部分、すなわち脳、か。

 脳に深刻なダメージを受けてしまったと考えるべき、なんだろうな。


「……ダリアでもどうにも出来ない、のか?」

「残念ながら……身体の損傷は幾らでも治療しますし、精神を安定させ、安静にさせる事も出来ますが……」

「ああ、それだけで十分だ。それ以上を望みはしない、これは、俺に与えられた罰なんだよ」

「そんな言い方はしてやるな、今も生きている子を罰扱いはあんまりだろ」

「そう、だな。悪い、前言撤回だ。俺はこの先もあの子に連れ添う覚悟だ。だから……俺が出来る手助けは、そう多くない」


 協力を求めたのは俺だしその約束もした。

 だが、確かに今のシュンに何かをさせるのは、あまりにも酷だ。

 脳……か。回復魔法の専門家とも言えるリュエにダメ元で見せてみるのも……下手な希望を持たせる事になってしまうか?

 いや、出来る事はなんでもするべきだ。下手な希望でも希望は希望だろうが。


「シュン、言い方が悪いがダメ元でリュエのところに行くぞ。一応回復魔法に関してはダリアより上のはずだ」

「っ……良いのか、俺はあの子達の前でお前を傷つけた。俺はいない方が――」

「その子の傍にいてやるって決めたんだろ、ウダウダ言ってねぇでついてこい合法ショタ」

「んなっ……分かった、ついて行くよ」


 あんまりだろうが。もしも、リュエやレイスが同じような状況になったと考えると、とてもじゃないが今のコイツを放っておく気にはなれなかった。

 そのジュリアという子を、そのまま黙って見ている事なんて出来そうになかった。

 せめて、何か手掛かりでも、治療は出来ずとも、何か希望が見つかれば……。

 そんなあるのかないのか分からない物を頼りに、ホテルへと戻るのだった。




 シュンは先にジュリアの様子を見に行くからと、一先ず俺だけホテルへと戻る。

 やはり先程の地震の影響か、街の中は少々混乱気味ではあるのだが、幸いにして建物の崩落や怪我人がいる様子もなく、また七星との戦いで港に被害が出たという事もなかった。

 まぁそれはさっき港から這い出て来た俺を見て悲鳴を上げた漁師の皆さんを被害者としてカウントしなければ、の話だが。

 長い髪を濡らし、どこぞの井戸の住人よろしく這い出て来た魔王とか、ちょっとしたトラウマですわ。


 ホテルの近くへ行くと、なにやらローブ姿の怪しい人物が、しきりに物陰に隠れながら周囲を覗っていた。

 ゴソゴソと木箱の裏に隠れてみたり、器用に看板に飛び乗ったりと。

 ……ローブなんて着なくても良いって言ったはずなんだけどなぁ。


「おーいリュエ、戻ったよ」

「あ! カイくん大変だよ、さっき大きな地震があって、それで辺りを探ってみたんだ。そしたらお城の後ろにある海がブワアアア! って割れて、ブシャア! って――」

「あ、大丈夫大丈夫、それも俺だから」

「あ、やっぱりそうだったんだ。やっぱり戦いになってしまったのかい……?」

「まぁね。とりあえず部屋に戻ろうか、話すべきことが沢山あるんだ」


 ……さて、今ちょっと七星を一体倒して来たと言ったら、君は一体どんな表情をするのでしょうか。


(´・ω・`)あるフラグが成立しました

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