三十話
(´・ω・`)そう(無関心)
さぁ、盛り上がってまいりました。
「カイくん、それじゃあ私が得しないじゃないか。私も何か欲しいのだけど」
「ああ、そういやリュエが直接的な被害者だしな。じゃあどうするか」
リュエ本当ブレねーな。
背後の騒ぎがまるで聞こえていないかのように振る舞ってるぞこの人。
「王様、やっぱりさっきの無しで良いですよ。リュエが何か欲しいそうです」
「む、急に口調が……先ほどの権利はいらないと言うのか?」
「欲しいですけど、さすがにリュエの意見を聞かないわけには行きませんから」
「ふむ、ならば権利と共に、リュエ殿にも何か授けよう」
「おお! 太っ腹だねエンくん」
まぁ俺も王様も大概ですけどね。
というかこの王様、結構俺に似てない? なんかちょっと意地悪な笑みを浮かべてるぞ。
「王様! そいつはソルトバーグで領主の息子を人質に多額の金を奪った男です! マインズバレーでの魔物の氾濫も、この男が現れてすぐのタイミングだったそうです! こいつが犯人です!」
あー、ソルトバーグであることないこと吹きこまれたクチか。
それで恨みもあったから、マインズバレーでの事も俺の所為だと思い込んだ訳か。
確かにタイミング的にも、俺がマインズバレーが訪れたのとほぼ同じタイミングだった訳だし、そう思うのもわからないでもないが。
「さらに! 七星を封じた森に居るはずの護人もいなくなっていた! 恐らくコイツが殺したに違いない! ソルトバーグの門番の話ではこいつは森の方から突然現れたと――」
はいそこまで。
君今言っちゃいけない事言ったね。
護人って言うのはリュエの事かね? 他にあそこに住んでいる人間なんていなかったし。
恐らく女神の伝説とは違い、過去に訪れた事のある人間の話でも伝わったのだろうか。
小声でリュエに確認をとる。
「リュエ、過去に森の奥まできた人間は?」
「いたね。七星を探しに来たかはわからないけれど、人を近づける訳にもいかないからね、少しだけ相手をして帰ってもらっていたよ」
そうかそうか。
んじゃあつまりこいつは、あろう事か俺がリュエを殺したと言う訳ですか。
「王様、今すぐ権利を行使する訳にはいきませんよね」
「うむ。さすがに我らが呼び出した人間。出来ればそなたにも彼と協力して七星の開放を願いたい所だが……無理であろう?」
「それは勿論。それにあの調子じゃあ無理でしょう」
「……彼は力はあるのだが、どうにも、な」
聡明ではないと言いたいのですね分かります。
しかし取り巻きの女の子3人は一体どこに行ったのか。
「それだけじゃない! ギルドの総長が言ったんだ! そいつに言われて新しいランクを授けたって!」
「それは別に問題ないだろう? お願いしてきいて貰ったんだから」
「それが、おかしいと言っている! いいか、そもそも魔王だぞ? 魔族も含めて敵だろ!?」
魔族の皆さんへの熱い風評被害。
やべぇ、こいつ本気でアカン奴だ。
「ふむ。レンよ、ではどうすれば良いと考える?」
「それは……だから捕まえて、倒すべきだろう」
「ふむ。なんの証拠もなしに捕らえ裁くと言うのか?」
「証拠なら、今ここで言っただろ! こいつは人を自由に殺す権利をよこせと言ったじゃないか」
「いや自由に殺すなんて一言も言ってないだろ」
自分の味方である筈の王にすら自分の意見を肯定して貰えない事から、だいぶ頭に血が昇っている様子。
今にも腰の剣を引き抜こうとしているが、さすがに王城内での抜刀はご法度だと理解しているのか、じれったそうに佇んでいる。
さて、俺はどうしたものか。
「カイくん、彼はもう色々と駄目なんじゃないかい?」
「何を今更。だからどうしようか考えてるんだろう」
「ふむ。まぁ落ち着けレンよ。まずお前の話を聞こう、一度下がれ」
「王様!」
「これは命令だ。安心しろ、お前の話の詳細を聞くだけだ。すぐに私自らが行こうではないか」
「そ、それなら……」
最後に勝ち誇ったようにこちらに笑みを浮かべて去って行き、そのタイミングで王が深いため息をつく。
苦労しているんですね王様。くじ運がないんですね、あんなの引くなんて。
「……すまなかったな。一応、そなたの話を先に聞かせてもらえまいか」
「ええ、構いませんよ」
龍神の件は完全に知らぬ存ぜぬで通し、ソルトバーグについてから今に至るまでの事件の詳細を語る。
俺がどこから来たかと問われたが、ソルトバーグの遥か先、森を迂回した先から来たと言うことにした。
どうやら北陸は魔族が多く住んでいるらしく、俺がそこ出身だとしても違和感がないそうだ。
なんでも魔族は造船技術に優れており、あらゆる大陸の、陸路ではたどり着きにくい場所を拠点にしている事が多いのだとか。
……あれか、ドワーフポジションなのか魔族って。
「ふむ、では今の話はマインズバレーのギルド長と、オインク殿が証明してくれると」
「オインクは魔車で視察に向かったはずですから、もしかしたらレン君と同じタイミングで戻ってきてるかもしれませんね」
「む、そ、そうなのか……」
何故か言葉を濁し、バツの悪そうな顔をする。
オインクと会うのが嫌なのか?
「ふむ、話は判った。ではそれを踏まえて、レンの話を聞いてくるとしよう……」
「表情に出てますよ、面倒だって」
「はは、分かってしまうか」
「あ、エイくん私の欲しい物が決まったよ。カイくんと同じカードが欲しいんだ」
貴女本当空気読んでくれませんかね!?
「さて、視察から戻ったら色々面倒な事になっているみたいですが、どうしましょうか」
「その前にお前、あのガキ……じゃなくてレン君と一緒にいたなら説得なりなんなりしてくれよ」
「無理ですよ、あの年頃の子供は現実を一度知らないと変わりません」
現在、王城の一室にて視察から戻ったオインクと面談中である。
どうやら視察先でレンと会い、そこで俺のことを問い詰められたそうだ。
なんでも、自分にも黒いカードをよこせと。
そして領主を含めて視察にきたオインクを差し置いて先に領主とコンタクトを取ったレンは、言われた事を鵜呑みにし、それを理由にオインクを糾弾。
間違った判断をしたギルドへの非難と、正当に自分が評価されない事を上げてゴネていたそうだ。
「それは分かったけど、どうして俺があいつと戦うハメになったんですかね?」
「らんらん♪」
「ごまかすな、どうせ面倒になって丸投げしたんだろ」
そしてこいつ、王と会談の後とりあえず自分の方の問題の方を先に解決しようとしやがった。
つまり『ランクが欲しければカイヴォンを倒してみろ』と。
あわよくばそのまま俺に消されてしまえば、まるっと解決するとでも言いたげな嫌らしい笑みを浮かべている。
「いや殺さないぞ? 一応王に止められてるし」
「……あのガキ、まじでぶちころがそうかしら」
「それはレン? それとも王?」
「王ですよ。彼、王位継承の前はギルドにいましたから。まったく」
「まぁ負けた所に真実でも突きつけてやれば良いんじゃないか? そうすりゃ少しは聞く耳持つだろうし」
「それは王の仕事ですね、私には関係ありません」
「一応この国に属してる組織だし、領主と癒着してるのはお前の組織の末端だろ……協力してやれ」
「ワタシ豚だから難しい事はわからないよ」
無言の腹パン。
俺に用意された部屋へと戻ると、退屈そうにしていたリュエが跳ねるようにして駆け寄ってきた。
「カイくん、また決闘だね。私は今回何も悪いことをしていないからね?」
「そうだな、後ギルドカードおめでとう」
「ふふ、これでカイくんとお揃いだ。オインクには感謝しないと」
尚彼女の要求は連続殺人犯を捕まえた事で、本当にオインクから許可が降りた模様。
後日カードが渡されるそうだ。
一応捕まえたのは彼女だしな。
オインク曰く『どうせぼんぼんと一緒に行動してるなら、渡さなくても渡しても一緒だろう』との事だ。
そして、別に決闘だって悪い事じゃない。
仮にも解放者として召喚され、特別な力を得た人間だ。
俺の実験の相手としてはこれ以上ない相手だろう。
それに、結局まともな対人戦なんて出来ていない訳だし、彼なら文句なしの相手だろう。
惜しむべくは王の頼みで殺す事だけは許されていないという点だろうか?
そもそも、俺だって殺したいほど憎いわけでもないというか、むしろ面白い観察対象程度にしか見ていない相手だ。
俺と違い、まだ大人になる前に突然こっちに連れて来られて、いきなり使命を負わされて旅だった身だと考えれば、ある程度の事は目を瞑れる。
リュエを俺が殺したと思わせる発言は腹にすえかねるが、それは俺側の問題で彼にその意図はない。
……あれ、なんか段々彼がかわいそうに思えてきた。
「決闘は今日の夜、城内の闘技場だと言う話だよ。カイくん、本物の"解放者"っていうのを見せてあげてくれないかな」
「あいよ。まぁ軽く流す程度で良い具合になんやかんやするから、程よく期待して?」
「……なんだか凄い適当だけれど、キチンと勝っておくれよ?」
「はいはい」
さぁさぁ、俺と一緒に剣術のお稽古といきましょう。
部屋に運ばれた昼食を摂り終え、一旦宿へと戻ることを許された。
王城を出ようとした所で、見覚えのある三人組が現れる。
「ちょっとなんでアンタが出てくるのよ! レンはどうしたの!?」
「ん? ああ君達は中に入れないのか。どれどれ」
門番にカードを見せ、彼女たちも通させるようにお願いする。
というか解放者の仲間くらい、一緒に入れてあげれば良いのに。
「ほら、これで中に入れる。詳しい話はレン君に聞くと良い」
「なんでアンタ……どういう事なのよ」
「あの、すみません。貴方は悪い魔王だというのは本当なのですか?」
未だ納得がいかない様子の女の子と、いつも泣きそうな顔をしている女の子。
そんな泣きそうな顔をしながらも、俺にそんな質問をしてくる。
いやぁ、自分を善人だと自信を持って言い切る事は出来ないけど、悪い魔王ってのはちょっとなぁ。
「カイくんは良い魔王だよ」
「魔王な事を認めた覚えは一度もないんですが」
「でも、魔族だったんですね……上位の」
「ふん、上位の魔族だかなんだか知らないけどね、レンに勝てると思わない事ね! ランクじゃない、本当の実力で勝負すれば――」
「わかったわかった、とりあえず中に入ってレンくんと会ってきなさい。お兄さんは少し用事があるので失礼するよ」
たしかあの泣きそうな子は"レイナ"だったかな? 残り二人はわからないけれど。
いやぁ、中に入ったら当然決闘を見る事になるんだろうなぁ。
「カイくん悪い顔してるね。やっぱり悪い魔王だったのかな?」
「まぁ善人ではないんじゃないか?」
さて、仲間の声援で勇者様は覚醒、魔王を打つ! なんてヒロイックな展開が待っているのでしょうか?
(´●ω●`)んなこたぁない




