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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
三章

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二十九話

 おれは しょうきにもどった

 まだ混乱覚めやらぬままの老人に、報告すべき事を報告し独断専行の理由を述べてゆく。


「つまり、今回はまたとない好機だった訳です。確かに独断の上、王家の許可を得たと言ったのは申し訳なく思います。ですが公爵家と同じ待遇と言う事は、こういう事も可能だと言ってるような物だと私は思う訳ですよ」


 畳み掛ける。


「ましてや今回はギルドに依頼を出した形。そして被害者はギルドの構成員。最悪の場合ギルドと敵対する事もありえる問題ですよ? むしろ私がオインクの不在の内に終わらせ、罪人をこの手で罰したのはそちらにも有利に働くかと」


 豚ちゃんごめんね、後でドングリ追加してあげるから許してね。



 さて、ここまで話し終えた所で、ようやく再起動を果たしたご老人。

 最初の気難しそうな、威厳のある表情が今や見る影もなく、心底疲れたような一気に老けこんで寿命を使い果たしたような顔を見せる。


「そう、でございますな……カイヴォン様はオインク殿の右腕。つまり今回の件はオインク殿自らが罰したという扱うで宜しいのでしょうな……」

「そうなりますね。まぁ個人的に私の"大切な仲間"が"王家"の後ろ盾を持つ人間に害された事は依頼抜きに誠に"遺憾"ではありますが」


 日本人の上位スキル"遺憾の意"を発動!

 説明不要の便利な言葉である。きっとこれはレン君も使えるぞ!

 ……それくらいの知識はあるよね?


「それは……誠に申し訳なく思います。そうで御座いますな、確かにこれは……私の一存では謝罪の示し方すら決める事が出来ません……一度王に報告を致します」

「ああ、別に構いませんよ? ただ俺が思うだけの話で別に何かしようとか、オインクに相談なんてしませんし」

「い、いえ! どうか謝罪を、そしてお時間を!」


 いや本当にどうこうしようとは思ってないんですよ、ただの悪乗りなんです。

 必死に食い下がらないで、俺こう見えて敬老精神溢れる"若者"だから。

 しかし、彼は頭を下げた後飛び出すように応接室を出て行ってしまった。


「ホークさんいつまで座ってるんですかそんな所に」

「は! 申し訳ありません魔王閣下殿!」


 なんでや。

 魔王なんて名乗ってないだろ! この世界の魔王像もこんなんなのか!


「所で、結局さっきの方は何者だったんでしょうか?」

「この国の宰相"ヘリオール"様です。都内警護隊の組織図で言うと、トップにあたる方です。無論、王を除いてですが」

「となると、首都の外の部隊はまた別な人間が?」

「はい。将軍である"レティシア"様が全ての指示を出しておられます。現在はこの大陸の沿岸部へと遠征へと向かっておられます」


 役職と名前から勝手に人相をイメージする。

 ……きっとお尻が弱そうな人に違いない。具体的に言うと『くっころ』さん。

 あ、でもそうなるとリュエも……ないな。



 宿へと戻ると、リュエが一階の食堂で美味しそうに酒を飲んでいた。

 傍らには日本酒の瓶が。すっかり気に入ってしまったようだ。


「やぁおかえり。美味しいねぇこのお酒は」

「どれどれ"山業廃棄物略して山廃"ひっどい名前だなこれも……」


 山廃って本来酒の作り方の一種だろ。

 たしかに昔"さんぱい"って読んで恥かいたけど、これはヤマハイと読む筈だ。


「で、結局どうなったんだい?」

「ああ、後日正式に王家から謝罪がくるらしいぞ。リュエの手を煩わせてごめんなさいって」

「私なのかい? 確かに襲われはしたけど。まぁ謝罪で何か貰えるならそれはそれで……」

「がめつい」

「良き妻は強欲なものさ」


 妻ときたか。

 じゃあ夜の営みも妻の業務に含まれますか?


「うりゃ」

「きゃ」


 一度触ってみたかったんですよコレ。

 ふにふにとしていて、ちょっと強く触ると中にコリコリとした存在を感じる。

 ひんやりしていて気持ちいいなこれ。



「エルフの耳は軟骨が入っているか否か。その疑問が今解けた」

「やめ……ちょっと人が見てるから……」

「失礼失礼。妻なんて言うからツマんでみた」

「まったく……そういうのは人前でするんじゃありません」


 じゃあ後で堪能しよう。



 翌日。

 なんやかんやで後回しにしていたが、殺人鬼を殺して手に入れたアビリティを確認する。


『弱者選定』

『自分より格下の相手に対し、自由に手心を加える事が出来る』


 なるほど、弱い人間をいたぶる為のアビリティだと。

 これで結構悪どい事してたんかね、あの男。

 ………………は!?


「まじかよ俺でも接戦に持ち込める!?」


 ついに! ねんがんのアビリティを手に入れたぞ!

 これさえあればオーバーキルや瞬殺劇、味気のない戦闘からさよならばいばい出来るのか!?

 俺はコイツと旅に出られるのか!? こいつはやべぇ、今すぐ実験しにいかないと!



「カイくん起きてるかい? お客さんがみえてるそうだよ」

「ん? わかった今行く」


 宰相さんからのお知らせかな?

 正直今日はもう実験に行きたいのだが。


「おはようございますカイヴォン殿。ヘリオール様より、本日正午に登城して頂きたいとのお願いを伝えに参りました」

「ホークさんキャラ変わりすぎです。それまで時間を潰しておきますけど、服装とかどうします? それにリュエの方も」

「服装、ですか。先日のお姿ならば問題ないかと思います。リュエ殿も、お好きなお召し物で宜しいかと」

「だそうだ。リュエさん、少しオシャレをしてきて下さいな」

「急に言われても……ド、ドレスアーマーとか?」

「あ、もしかして昔の奴か? まだ持っていたのか」

「あ、いやそれはその、封印してしまったんだ。予備の方だ」


 封印とな。

 そんな強力な力を秘めていたっけ?

 勿論手間暇掛けて作って、強化も施した逸品だが。

 まぁいいや、俺も魔王ルックで向かうべきか。


 宿の外でリュエを待っていると、珍しくローブを脱いだ姿で現れた。

 苦労して作った一級品の装備ではないが、中々凄そうな外見のドレスアーマーだ。

 肩を露出した白いドレスに、胸元を飾る金糸のレース。

 恐らく盛ってあるであろう胸を覆う甲冑には彫刻が施されている。

 スカートはロングタイプで、ここには鎧は装着されていない。

 まぁついてたら生地が垂れてカッコ悪い事になるだろうが。


 両腕には長い手袋、そしてその上から二の腕まで覆う白銀のガントレットを装備している。

 足もスカートから見える範囲には、金属製のグリーヴを装備しているのが見て取れる。

 なんと豪華な。


「俺の装備ぱっと見過ごそうだけどさ、性能的には普段着てる皮装備とどっこいどっこいなんですよね」

「へぇ、そうなんだ」

「リュエの装備、それはどういう物なんでしょうか?」

「昔の装備程じゃあないけれど、創世記にエルフ達が残していった物さ。万が一の為に私をあそこに縛り付けたのだから、それなりの装備は置いていってくれたんだよ」


 あ、またちょっと憎しみが。

 そして俺と同じく外見重視の装備だと思ったら、まさかのガチ装備でした。

 ちょっと後で性能見せて貰えないか。


「おお……リュエ殿、まるで伝説にある龍神の女神のようですな!」

「龍神の女神とは?」

「この大陸に遥か昔より伝わる伝説です。この地のどこかに、荒ぶる龍神を封印した白きエルフの女神が住まうと」

「へぇ、そうなんですか」


 おい、ご本人だぞ。


「へぇ、そんな伝説があるんだね、なんだか照れてしまうよ」

「ははは、女神などと突然女性に言うのはぶしつけだしたな!」


 違います、女神だと呼ばれた事に照れてるんじゃなくて、自分が女神だと伝わっている事に照れているんですこの人。

 やったなリュエ、魔王と違って女神だぞお前。


 所かわって王城の前へ。

 都市を囲む堀とは違い、常に流れがあるここの水はとても澄んでおり、水底にしかれている玉砂利がきらきらと輝いている。

 綺麗な石造りの橋を渡り、門番達の間を通り城内へ。


「全員とんでもなく緊張していませんでしたか?」

「それは……さすがにカイヴォン殿の姿を見ればそうなるのは必然でしょう」

「ははは、恐いからねぇカイくん」

「くっ」


 でもしょうがないね、王様に対抗して魔王ルックにならないと緊張してしまいそうだし。


 城内には人の姿がなく、恐らく皆出払っているのだとあたりをつける。

 最低限の騎士を配された謁見の間への道を進んだ先に、重厚な、石造りの扉が姿を表す。


「まるで神殿のようですね。綺麗だ」

「私としては、白だけじゃなくて青いワンポイントが欲しい所だね」


 ブレないね君。



「SSランク冒険者カイヴォン様と、Sランク冒険者リュエ様をお連れ致しました!」

「ご苦労、入るが良い」


 開かれる扉。

 まっすぐに伸びる赤いカーペットに、左右に並ぶ近衛兵。

 先日の宰相のおじいさん事ヘリオールさんがカーペットの先、壇上の脇に控えており、そしてその真中には玉座が。

 そこに腰掛けているのは、ヘリオールさんより幾分若い壮年の男性。静かに座してこちらを見つめている。

 さすが、俺を見ても狼狽えもしないか。


「じょ、上位魔族……」

「あれが……公爵位の」


 近衛兵の先、宮仕えの貴族のざわめきに、王が初めて表情を崩す。


「静まれ。……態々こちらまでお越しいただき感謝する。この国の王である"第22代エンドレシア"である」

「お初お目にかかる。しがない冒険者にして、ギルド総長オインクの片腕。カイヴォンだ」

「やぁ、私はリュエ。家名もあるけど人に貰った物だから呼ばなくて構わないよ」


 なんで君そんなフランクなの!?

 必死こいて威厳負けしないように挨拶したってのに台無しだよ!


「ふふ、ではカイヴォン殿とリュエ殿で宜しいか?」

「構いませんよ、王」

「私も問題ないよエンドレシア君」


 オイイ!?

 君ちょっと前の護衛任務の時とか、普通に公の場での喋り方出来てたよね!?

 なんでさっきから色々ぶっ込んでくるの?

 これにはさすがの王様も苦笑いである。


「ふ、ふはは……エンドレシアくんか。始めてだぞ、そのような呼び方は」

「申し訳ない。どうやら緊張しておかしな事を口走っているようだ。どうか気を悪くしないで貰えないだろうか」

「いや、構わぬよ。それで、早速本題に入ろう」


 まだ周りの貴族さん達が慌てふためいていますが。

 そしてさっきから近衛兵の皆さんが剣呑な雰囲気を醸し出していますが。

 今回はリュエが悪い! もっと睨んでやってくれ。


「先日の連続殺人鬼の件だ。犯人は既に処断されたと聞いたが、黒幕である人物が私が贔屓にしている商家の人間だと聞いた。そのような者に権力を与え野放しにしていた事実。ギルドに多大なる損害を与え、死者まで出してしまった事は簡単には済ませられない問題だと認識しておる」

「その件につきましては、私からオインクに穏便に済ますように進言しましょう」

「感謝する。私も、この国を二分するような事態は避けたい」


 どうやら、王自身もギルドが既に、国の力に比肩する程までだと認識しているようだ。

 中々どうして聡明な、そして柔軟な思考を持つ人のようだ。

 何せ俺を態々呼び出して対話しようとするのだから。


「して、そなたの仲間であるリュエ殿にまで牙を向けた事については、どう謝罪すれば良いか私にも決めかねておる。はて、どうしたものか」

「あ、私はもう気にしていないよ? けれども何か貰えるならそれでいいかなーと」


 頼む、お前もう黙ってくれ。


「王、リュエの言葉は聞き流して貰えないか。そうですね、でしたら私は権利が欲しい」

「ほう、権利とな? 既にそなたは公爵位と同等の地位を与えている筈だが、これ以上何を望む」


 そりゃあもう、今後面倒な事が起きないようにする権利ですよ。

 あと俺自身の自己満足の為に。


「罪人を、その場で罰する権利を」

「……それは、殺害も含めての事か」


 俄に王の目つきが鋭く、刺すようなプレッシャーが襲いかかる。

 そりゃあそうだ、自分の国の民を個人の手で殺す許可なんておいそれと出せないだろう。


「私は殺戮者ではない。誰の目にも明らかな罪を犯すもの、そして自分が正しいと思う道に立ちふさがり、害なす者を打つ権利を頂きたい」

「……オインク殿が邪悪な者に権力を与えるとは思えぬ。その力、決して悪しき事に使わぬと、そして罪なき命を脅かさず、弱き者の為に力を振るうと誓うのならば――」


 王が次の言葉を発する直前。

 巨大な扉が勢い良く開けられ乱入者が現れた。


「騙されるな王様! そいつは魔王、魔物の親玉だ!」


 どうもレンくん、お久しぶりです。

 かいほうしゃ れんがあらわれた

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