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三百十七話

(´・ω・`)今月末に六巻が発売されますん

『カッカカッカカッカカッ』

「なるほど、じゃあ共和国内での移動手段として新たな魔車を借りることが出来たんだね?」

「はい。リュエの見込み通り、この町の商人ギルドの長があの隠れ里の出身者だったんです。ずいぶんと話し込んでしまい、予定より帰って来るのが遅れてしまいました」

「いいよいいよ、まだお昼を過ぎた頃だから」

『カシュカシュカシュッ ガリガリガリガリ カッカッカッカ』


 商人ギルドに向かっていた二人だが、なんと新たな魔車に乗っての帰還だった。

 これから全ての領地を見て回る必要がある以上、交通手段の確保は必要不可欠だったのだが、すっかり失念していた。さすがはしっかりもののお姉さんである。

 どうやらミササギ領はこの町から南東にあるらしく、道中深い森に入ることになるのだとか。

 それに従い、虫や魔物避け等必要な道具も増えてくるのだが、商人ギルドで既に一式購入したという。


『ガシューガシューカッカッカッカ ガツガツガツガッガッガッ』

「リュエさんお静かに」

「え?」


 そうした一連の報告を聞いている最中、先程から聞こえてきていたこの異音。

 その犯人であるリュエさんに少し静かにするようにお願いするも……無理だろうなぁ。

 ダリアがアイスを作っている様子を見た彼女が、目を輝かせて駆け寄り、自分の手持ちの食材を片っ端からアイスにし始めているのだった。


「それが、カイさんがやろうとしていた事なんですか?」

「そうさ。俺の世界にあったアイスメーカーで、あんな風になんでもアイスに出来るんだ」

「面白い物が沢山ある世界なんですね……ふふ、リュエがはしゃぐのも仕方ないですね」

「そう、そうなんだよ! これなら簡単に私でも好きなアイスが作れるじゃないか! よしダリア、次はブルーベリーを入れておくれ!」

「あいよ。しかしこんなに果物だけ入れてどうするんだ? アイス液を入れたらこぼれちまうぞ?」

「こんなに果物を入れたんだから、アイス液なんて必要ないよ! 果物100%のシャーベットにするんだ」


 非常に楽しそうでなによりです。もうさっきからヘラを握って放さないんです彼女。

 市場で買ったフルーツをふんだんに入れて生み出された、果物の果汁と果肉のみのかき氷状のアイス。

 それを、魔術で作った氷のカップに盛り付けていく彼女。

 なんとも、片手間でそんな繊細な物まで生み出せるとは。


「完成、フルーツオンリーシャーベット!」

「おお、うまそう! 次俺な、俺も真似する」

「二人とも程々にしておくんだぞー、昼食前なんだから」


 満面の笑みを浮かべ、シャクシャクと色鮮やかなアイスを口に運ぶ姿を見ていると、これ以上強く言えなくなってしまうのですよ。




 レイスが購入してきたタコス風の食べ物を頂きながら、これからの予定を決めていく。

 一応宿は明後日の朝には引き払う予定になっているのだが、既に足も用意出来ているのだし、明日の朝にはもう出発しても良いのでは、というのが皆の意見だった。

 だが、もう少しミサトから情報を引き出せないか、という欲がどうしても後ろ髪を引いてしまい、その提案に頷くことが出来ないでいた。


「おいおい、まさか本気で魅了されたなんてわけじゃないよな?」

「まさか、それはないな。俺のストライクゾーンはレイスとリュエだから」

「自然な感じでそんな事言われると、照れていいのか分からなくなっちゃうよカイくん」

「右に同じくです。カイさんってたまに凄く恥ずかしかったり照れるべきところで、まったく照れない事がありますよね?」

「えー……だって今更照れるような事じゃないじゃないか。俺は二人が好きなのはここに居る全員が分かりきっている事なんだし」

「やめろ、甘い空間を演出し始めるのはやめろ」


 脱線してしまった。

 しかし実際のところ、ここであの一行と別れてしまった場合、次に会うのはいつになるのか想像だに出来ない以上、俺の迷いも当然だと思うのだが。

 聞けば、商人ギルドの方でもあの一行についての情報は得られなかったという。

 つまりこの後の一行の足取りも分からないというのが現状だ。

 まぁ、解放者なのだし、当然最終的には七星解放に向かうのだろうが。


「……あ、じゃあアレか、七星解放って事は、俺達と同じで各領地の封印の起点を回る気なのか連中も」

「気がつくの遅くないか? だからさっさと町を発とうって言っていたんだが」

「あ、なるほど。さすがだねダリア」

「なるほど、ダリアさんの言うとおりですね」

「……三人共気がついていなかったのか」


 さすが一心同体。思考回路の根っこは繋がっているんですかね?

 しかしそうなると、今度は連中が最初にどこに向かうかだが――距離的にミササギで確定なのかね?

 それを尋ねると、やはりそのようだった。


「んぐ……ごちそうさま。じゃあ、やっぱり早めに出発して連中より先にミササギに向かった方がよさそうな感じだな」

「そういうこと。一応あの領地の元代表、封印を任せた相手と俺はそこそこ仲が良いんだ。到着次第『聖地』に向かう事になるはずだ」

「む? 元代表っていう事は、今は違うのかい?」

「正解だリュエ助。今は元代表の娘が代表なんだ。といっても、何か行事がある時に取り仕切る程度の役目だがね。そっちとは面識はないが、まぁ大丈夫だろう」


 随分と楽観的だが、本当に大丈夫なのだろうか?

 もしその娘さんがサーズガルド、ひいてはエルフに良くない感情を抱いていたら、こじれてしまうのではないだろうか?

 そもそも、そのミササギの人間がミサトを召喚した可能性だってあるというのに。

 けれども、ダリアがここまで楽観視している以上、なにか理由があるのかもしれないな。

 ……もんの凄く平和主義な住人だったりするのかね?


「ごちそうさま。やっぱりおいしいねぇ、このリュエフライの揚げてないヤツ」

「ふふ、初日に食べられなかった分、より美味しく感じたのかもしれませんね」

「あ、これってあの時のメニューだったんだ」

「うん。ちょっとピリピリするけど、甘みもあって美味しいよねこれ」

「スイートチリソースってヤツだっけ? カイヴォン、もう少し辛くして再現よろしく」

「今度な今度」


 なんだか緊張感が薄い気がしないでもないが、案外これくらいの気持ちでいた方が良いのかもしれないな。

 美味しいものを食べて、相談して予定を決め、臨機応変に目的を変えながら、各地をめぐる。

 本当にぶらり旅だ。やっぱり良いな、こういうノリは。


「よし! じゃあ食後のデザートだ! カイくん、さっきのアイス作るの出しておくれ」

「まだ食べ足りないのかね君は」

「全然飽きないしいつまでも食べていられる!」






「うーん……うーん……お腹が……」

「ほら見たことか。回復魔法を使いなされ」


 それから暫くの間、一人でアイスの研究をしている彼女を眺めていたのだが、案の定ポンポンペイン、つまり腹痛に襲われている訳でして。

 彼女が回復魔法を発動させようとしたその時、ダリアがそれに待ったをかけた。


「はいストップ。身体の生理現象に魔法を使うのはやめておきな。免疫力が低下する」

「む……それってあれかい? 魔法に頼り切ると身体が弱くなるっていう?」

「お、知っていたか。あれ迷信じゃないんだぜ、本当に微々たる物だが弱くなるんだ」

「マジか。お前そんな事まで検証したのか?」

「んむ。リュエ、おとなしく身体を温める魔術に留めておきな」

「うー、分かった」


 ダリアの言葉に感心していると、今度はレイスが質問を始める。

 どうやら、今の話に気になる点があるようだ。


「あの、では回復魔法はどういうタイミングで使うのが良いのでしょう」

「そうさな、緊急を要する外傷、および身体の内部に異常がある時かね。病気の場合は、回復魔法よりも身体を活性化させる魔法を選んだほうが良いな」

「あ、やはりそうだったんですね……昔娘が熱を出した時も、そういう術式にした方が良いと助言してくれた子がいたので」

「ほほう、やっぱりそうか。……お前さん、以前俺の名前を持つ最後の一人に拘っていたが……イクスペルを知っているな?」

「……今の会話だけで分かるものなんですか?」

「一応、今の考え方や治療法は、まだこの世界じゃ知り渡っていないものだからな。イクスペルには俺が直接教えたんだ、さすがに気がつくさ」

「ダリア、変な考えは起こさないでくれよ?」

「分かってる。あの子が外の世界で幸せに暮らしているのなら、それにこした事はないさ。これで……全員の行く末を知る事が出来たんだ、俺だって安心するさ」


 何気ない一言で、思いもよらない方向へと話が発展するも、どうやら俺が懸念していた事は起きないでくれたようだ。

 ああ、そうだろうな。お前にとっても、ある意味では娘、弟子のような存在なのだから。


「……あの施設で生まれた最後の一一人中、一番素養があったのはあの子だけだったからな。皆、普通の子供よりも多くの魔力を秘めていたり、特殊な力を秘めた子もいたが、文字通り『最高』の素養を――『俺達』に匹敵する素養を持っていたのはあの子だけだった」

「『俺達』というのは一体……」

「……今ここにいる四人。つまり神隷期の人間に匹敵する素養だよ」


 ダリアが言うには、フェンネルが祝福を子供に与えた理由に『神隷期の人間』への探究心もあったはずだと言う。

 自分自身も含めて、随分根掘り葉掘り聞かれたそうだ。

 するとどうやら、リュエもまた、かつて自分の身体について聞かれた事があったという。


「あの子は、私の魔力の回復速度に随分と興味を示していたからね」

「ああ、そういえば聞かれたっけ。イクスペル嬢も、俺達程ではないが自然回復速度が早かったんだよ。その結果に随分とアイツも喜んでいた。だが……なにか良からぬ事に利用しようとしていたのかもしれない、な」

「あの……いえ、なんでもありません」

「何を言いたかったのか、おおよその予想はつくよ。安心しな、イクスペル嬢もその妹にも手出しはしないし、させもしない。それに――あの二人の親は、この世界のどこを探してもお前さん、レイスただ一人さ」


 きっと、レイスは本当の両親について聞いてしまいたくなったのだろう。

 だが――ダリアの口ぶりから察するに、もう……他界しているのだろう、な。

 かつて、何が起きたのかは問うまい。だが、あの王家が一枚岩とも思えないのだ。

 多くの貴族が今も存在している以上、争いが絶えない時代もあったのだろう。

 ましてや、頂点に立つのがあの男なのだから。


「さて――良かったらそっちも聞かせてくれ。あの子がどんな風に育ったのか、どう生きてきたのかを」

「……少し、恐いです。ダリアさんに話すのが。あの子もまた、辛く険しい道を歩んできましたから――」

「……そうだね。ダリア、最後まで聞いてあげてくれ。あの人の長い戦いの人生を」


 彼女は語る。かつて自分と別れ、一人アーカムの元で働いていたイクスさんの事。

 事の顛末を。俺が相対したあの男の末路に至るまで、全てを話す。

そして、今ようやく彼女もまた、新たな一歩を踏み出したという事実を。

やはり親心にも似た感情もあるのだろう。途中、何度かダリアから怒気が漏れ出る。

 その度に俺が『俺が今ここに平然といるんだから、安心して聞け』ととりなす。

 ……本当、お前さんも随分と変わったな。人の親になった、みたいな物なのかね。

 そうして、レイスと俺、そしてリュエの話が終わり、ダリアもまた大きく息を吐き出してから、静かに語り始めた。


「……カイヴォン。よくその男を殺してくれたな。そいつは間違いなく生かしておいちゃいけない存在だ。王家の血を引いているという事は、多かれ少なかれ神隷期の人間の血を引いているはずだ」

「ん? そりゃどういう意味だ?」

「今、この世界にある魔力と、俺達で言うところの『MP』ってのは厳密には違う物なんだよ。魔術に類する物は魔力で発動させる事が出来るが、剣術や弓術はその『MP』で発動させるものなんだ。だから魔術と違って剣術や弓術の類は学問として浸透する事もなく、極々一部に受け継がれていったんだよ」


 そうダリアは前置きをしてから、こちらの質問に答えてくれた。

 神隷期の人間。その中でもプレイヤーとしての記憶を持っているのは、現状俺達だけだという事。

 そして記憶を持っているのは、俺達のセカンド、サード、そして――あのゲームの最終日に、ログインしていたプレイヤーのセカンドやサード、そしてログインしていなかったプレイヤーのキャラクターが、神隷期の人間としてこの世界に存在していたという。

 その事実に俺もリュエも大きな衝撃を受けたのだが、そこに疑問も浮かび上がる。

『そんなに多いのなら、なぜこれまで出会わなかったのか』

『過去に探したけれど、一人も見つけられなかった』

 そう、仮にも俺達に匹敵する強さを持っている存在が、ここまで知られていないなんて事はありえないのだ。


「これは俺の予想だが、多くの人間は『ファストリア大陸』にいたんじゃないかね。それが長い年月を経て、少しずつ他の大陸に移り、子孫を残し、そしてこの世を去った、と」

「その推察に至った経緯は?」

「セカンダリア大陸だ。あの大陸はファストリアと隣接している関係か、強い力を受け継いだ人間が多い。多くの国が存在しているが、いずれもその王家には剣術や魔導、奥義と呼べる術が伝わっているんだよ。これも予想になってしまうが、ファストリアにいた強い人間が大昔に国でも起こしたんじゃないのかね」

「……強い力を持った人間の野望の果て、か」

「もしくは、強い力を思いのままに振るった結果として、多くの人間がその力の支配下に置かれ国となった――か」


 それは、十分に起こり得る話のように思えた。

 リュエがこの世界に現れた千年前。それと時同じくして、強い力を持った人間が数千人同じ地に現れたのだとしたら……それは間違いなく多くの戦乱を巻き起こした違いない。


「神隷期の血を引いた人間は、いずれも強い力を持つ。それにも多少差はあるが、そのアーカムって男は間違いなく、神隷期の力を色濃く引き継いだ存在だろうよ。そのまま野放しにしてりゃ、間違いなくオインクのところは再び戦火に巻き込まれただろうさ」

「ああ、それは俺も想像出来る。やっぱりもう殆ど神隷期の人間は死んでいるのか」

「あの……全員が全員戦死ではないのですよね?」

「ん? まぁそうだな。平穏無事に生きて、そのまま死んだヤツだって沢山いるだろう?」

「うん? どうして死ぬんだい? 私達は歳をとらないんじゃないのかい? 業腹だけど、私達は……その、無限の命を与えられているようなものだと思っているんだけど」


 そうだ。この世界では、強い力を持つ人間ほど、若さを保つ事が出来ると言われているが、その中でもレイス、リュエ、オインク、ダリア、シュン、この五人は間違いなく、一切歳をとっていないはずだ。

 まぁオインクは体型が変わっているが、それを老化と捉える事は出来ないだろう。

 その疑問を向けられたダリアが、少しだけ悩む素振りを見せた後に静かに語りだす。


「……残された伝承を聞く限り、強大な力を持った人間はある時を境に普通の人間と同じように歳をとるようになるんだ。実際にその人間を見たことがある訳じゃないからなんとも言えんが……」

「歯切れが悪いな。一応俺達にも関係がある話なんだ、教えてくれよ」

「……そうだな、教えておいた方が良いだろうな。特にお前たち三人には」


 何故、俺達三人には特に教えておいたほうが良いのだろうか。

 その歳をとる条件を、俺達は満たしつつあるというのだろうか?

 だが、ここまで言いかけた段階で何かがダリアの中でブレーキをかけたのだろう。

 次の言葉を口にしようとせず、ただ沈黙を続けていた。


「悪い、今はまだ止めておこう。全部終わったら……そうだな、お前達はこれからも旅を続けるんだろう? なら、その旅立ちの土産として聞かせてやるよ」

「むー、随分と勿体つけるじゃないか。うまくすれば私の身体も今より……もう少し立派なものになるかもしれないのに!」

「はっはっは、今のままでも十分可愛いだろリュエ助は。そう思うだろ? カイヴォン」

「だな。今のリュエが一番だと俺は思っているよ」


 笑い話にでもするように、この話題を打ち切ろうとするダリア。

 何か理由があるのだろうが、今は触れないでおこう。

 きっと、俺達を思っての事、なんだろう?

 まぁ尤も、レイスはとても聞きたそうな顔をしているのだが。

 ……老化が恐いのでしょうか?


「ま、なんにせよ神隷期に近い人間ほど強い。これは確定だ。大変だったんだぜ、これ調べんの」

「お前、じゃあエンドレシア大陸にも来た事があるのか?」

「いや、それはない。エルフ連中が、俺がエンドレシアに行くのに酷く反対したんだよ。今になって思えば、俺がエルフの伝承……つまりリュエにまつわる真実を知るのを恐れていたんだろうな」


 そう言いながら、ダリアは手をリュエの頭へと伸ばす。

 背が低いからつま先立ちになってしまっているが、それでも届いたその白い髪を、グシグシと手で撫でる。


「……悪かったな、俺がもう少し強引に動けていたら、今とは違った結果になっていただろうに」

「ダリア……ううん、いいんだよ。私があそこにいたから、カイくんと出会えたんだから」

「……案外、カイヴォンが現れたのはリュエが近くにいたからかもしれないがね」

「どうだろうな。もしかしたら、なにか場所に優先順位があったのかもしれないぞ? 例えばリュエがサーディスに行っていたら、代わりにレイスのところに現れていたかもしれない」

「そ、そうなりますと……色々と面倒な事になっていたかもしれません……」


 すると今度はレイスが、少し困ったような顔をしだす。

 聞けば、彼女の店『プロミスメイデン』では度々男性の侵入者が現れていたらしく、いずれも酷い末路を迎えていたのだとか。

 ……もしあの屋敷の庭で倒れていたら、俺どうなっていたんですかね?


「……たぶん私がギルドまで連行していたと思いますが、その間にその……私の子供達が袋叩きに……」

「助けてレイス」

「ご、ごめんなさい。あ、でももしかしたら私とカイさんの間にある絆でしょうか? あの不思議な感覚に助けられるかもしれませんよ」

「ん? なんだその不思議な感覚ってのは」


 俺とリュエとレイス。この三人の初対面の時に感じた、あの不思議な感覚を話す。

 まるで懐かしいような、安心するような、そんな言いようのない暖かな感覚。

 それを伝えると、どこか納得したような表情で、ダリアが優しげに微笑んだ。


「少なくとも、三人の間に魔術的な繋がりは一切存在しない。きっとそれは、世界が変わっても繋がっている目に見えない物なんだろう。それはきっと、心とか、思いとか、そんな曖昧だけれども、確かに存在する奇跡みたいな物、なのかもな」

「……そっか。心が繋がっているんだ。ふふ、嬉しいな」

「ええ。本当に」


 だが、なぜだ。なぜお前は今、その表情の裏でそんな苦しそうにしている。

 ダリア、俺に何を隠している。なぜ、そんな辛そうなんだ。

 お前に……セカンドキャラクターはいないはずだ。

 だったらなぜ?


「さて、じゃあまだ時間もあるし、ちょいと町の散策に出かけてくる。また晩飯の時に会おう」


 そう言いながら、まるでこの場から逃げるように去っていくダリア。

 気にはなるが、なんだか今は一人になりたさそうなその様子に、俺もただ見送る事しか出来なかった。


「さて、じゃあ俺達はどうしようか?」

「それでしたら、明日の出発前に地図で道程を確認しておきましょうか。ダリアさん、道案内が苦手なんですよね?」

「みたいだね。じゃあ私がしっかり道案内してあげるから、御者は私とカイくんだ」

「ずるいですよ? 私と交代です」

「じゃあ二人にお願いして俺は後ろでのんびりしていようかな」


 二人に文句を言われながら、ゆっくりと目を閉じ笑う。

 ……心が繋がっている、か。それは、とてもとても素敵な話だ。

 なぁ、ダリア。お前、もしかして『あの二人』の事を考えていたのか?

 俺にとってのリュエとレイスと同じように、シュンにとってのあの二人。

 もしも心が繋がっているのなら、それが側にいないまま長い時を過ごしているシュンは、一体どんな気持ちなのだろうか。

 俺は、あの時のアイツの言葉を思い出す。

 あの戦いの終わりに、心の底から羨むように呟いた、あの言葉を。

『俺は……お前が憎いよ、カイヴォン』

 ……その憎しみは、なんだ。俺の知らない憎しみだ。理由が分からない。

 お前は、負けた事に対してそんな言葉を言う人間なんかじゃないだろ。

 何が憎いのか……それを考えると、俺は――








「どういうつもりですか」

「黙って言うことを聞け。このまま行けば間違いなくお前は死ぬ」

「……私は、理由のない善意を受け取らないようにしていますので。それが罠でないと私を納得させてください」


 その地下牢で、男女が交わす、誰にも聞かれてはいけないやりとり。

 間違いなく強い力を宿した異邦の存在と、古の存在。

 男は思う。『このままでは、この娘はフェンネルの実験材料にされる』と。


「……何も知らずにこの世界に来た人間を助けたいと思うのがそんなにおかしいか」

「……分かるんですか」

「髪の色と、その力から推察しただけにすぎんよ。別な大陸で前例があるんだ」


 嘘をつく。本当はもっと単純な話だのに、男は嘘をつく。

『君と会ったことがある』ただそれだけの単純な理由なのに。

 そう、かつてシュンはチセと対面した事があったのだ。

 今とは違う形、そう――友人の妹と兄の友人という関係で。


「今夜、この城の結界を張り直すために深夜に数分だけ全術式が弱まる。お前の力なら、それを切り裂いて抜け出す事くらい出来るはずだ」


 再度提案されたその内容を吟味するように、チセは目を閉じ、考え込む。

 自分に与えられた力なら、それは可能だという結論には既に至っていた。

 だがそれでも、自分に不自然なほどに手を差し伸べるこの相手を信じてみてもいいのかどうかと。


「……名前を。恩人ではなく、警戒すべき人間として貴方の名前を教えてください」


『この状況を変えることが出来るのなら、たとえ罠であろうとも飲み込むしかない』

 そう結論づけたにも拘らず、それでも警戒は解かない。

 だがそれでも、もしも本当に自分が助かるのなら、その時に彼に感謝を捧げるため、女は名を求める。

 その提案に、シュンは複雑な表情を浮かべながら、数瞬思案した後に踵を返す。

 まるで『俺の要件はもう終わりだ、もう関わるつもりはない』とでも言うように。

 アテが外れたチセもまた、『仕方ないか』と、その時が訪れるのを静かに待つ。


 それは、歪で遠回しな、彼なりの償いの仕方。

 剣を向けた友への、せめてもの償い。今彼に出来るただ一つの。

 自己満足で終わるかもしれない。そんな思いを懐きながら、彼は一人闇へと消える。


「ヨシキ、お前は間違うなよ。大事な人間は、誰一人として失うな……」


 誰にも拾われず消えていく呟きに、彼はどんな思いを込めていたのだろうか――


(´・ω・`)モンハンおもったよりも面白いね(8年ぶりにシリーズプレイした人間の感想

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