三百十五話
(´・ω・`)じゅあわくるる
夕暮れ時。蒸し暑い気温が幾分和らぐ黄昏の時間。
今まで見たことがないくらいソワソワと慌ただしい様子のレイスを先頭に、本日のディナーを頂く店へと向かう。
ドネルケバブですよドネルケバブ。レイス程ではないが、こちらも少々テンション上がって参りました。
ふと前を見ればリュエとダリアが、しきりにケバブの味について予想を語り合っていた。
なんだか微笑ましいな、こうしているとまるで姉妹かなにかのようだ。
「むむ、じゃあダリア自身もどんな味か分からないのかい?」
「そうなんだよ。ソースをかけて食べるのが一般的らしいが、どうなっている事やら」
「どう考えても美味しいに決まっていますよ。本当に、世界には様々な料理がありますね」
店に到着すると、すぐにレイスは予約名を告げ、店の奥へと案内される。
どこか大きなビーチハウスを彷彿とさせる店内は、柱や壁の数を最小限に抑えた、風通しのよさそうな構造になっていた。
これなら大人数でのパーティーでも開けそうだ。
そうして案内された席の隣には、移動式のケバブグリルが置かれている。
つまり、目の前であのステキな光景を堪能出来るという訳だ。
「む、これ意外と簡単な構造なんだね。回すための動力は手動で、ほぼ熱源にしか魔力を使わないんだ」
「こっちはあまり複雑な魔導具が使えないんだよ。やろうとすると大きくなってしまう」
「なるほど……ダリアはこういうのに詳しいのかい? やっぱり」
「そこそこかね。元々機械的なしくみには詳しいから、それを組み合わせる方向だが」
などと二人が語っていると、早速店員が、大きな銀の皿に二本、あの巨大な肉塊を乗せて運んできた。
すでに串に刺さったそれを、早速一つグリルに設置し、魔導具が赤熱していく。
「ああ、表面がジュワジュワしてきましたよカイさん!」
「これは美味しそうだな……」
テーブルに置かれていたパンフレットを手に取ると、この料理についての来歴や食べ方が書かれていた。
するとどうやら、この店は創業から九◯年も経っているらしく、その間幾度となく改良を加え、今の形になったという。
それは偶然か、はたまた辿り着く答えとしての運命なのか、地球と同じく、袋状の生地に入れて食べるという物。
が、他にもライスを合わせてスプーンで食べる物や、レタスのような葉物野菜で包むやり方、そして中には、さらに大きな肉で巻いて食べるという、豪快な方法まで。
ううむ、面白い。知っている物が知らない進化を辿っていく様子というのは。
「カイさん、ソースが選べるそうですが、知っている物はありますか?」
「どれどれ……へぇ、結構種類があるね。でも、俺が知ってる組み合わせはないかな」
「むむ……では私の直感で……このフルーツを使ったソースにしてみます」
「あ、私もそれがいい。ダリアはどうするんだい?」
「……照り焼き系ってやっぱりないんだな。ううむ……じゃあバーベキューソースで」
次々に周りが決めていく。待ちたまえ、ちょっとお兄さん迷ってるんです。
ハニーマスタードか、チリソースか……。
決められないので二つ頼みますね? どうせおかわりするだろうし。
すると、既に決めていた一同もまた、更にもう一品決めるから、と迷い出す。
店員さんすみませんね、もうちょっとかかりそうです。
「はああ~……なんて美味しいのでしょう……」
「レイスがとろけてるよカイくん」
「可愛いからそっとしてあげましょう」
「いやはや、これうまいな。聞けばこれ、鶏肉らしいぞ」
「こっちはどうやら牛と羊の混合らしい。ほら、これって肉塊に見えるけど、元々は薄切りにした肉を何枚も重ねて整形しているんだよ」
「へぇ、じゃあ二種類の肉を一緒に重ねているって事なのか……いいな、そっちも」
次々に提供される料理を、時に会話を交えながら、時に交換をしながら食べ進める。
気候の関係か、共和国側は野菜が豊富らしく、気がつくと肉と野菜、バランスよく食べる事が出来ているし、案外この店はベストチョイスだったのではないだろうか。
「つ、次はどうしましょう……このお肉でお肉を巻くという、魅惑的で背徳的な物にしましょうか……」
「あ、俺もそれにする。一緒に頼んでくれレイス」
「その小さい身体でよく食えるな。じゃあ俺もそれで」
「むむ……私は流されないぞ、このライスと一緒に食べるのにしておくれ」
目の前で焼かれ、そして削ぎ落とされ積み重なる肉。
それを、さらに巨大な肉で巻き、皿へと乗せる。
その様子をつい、唾を飲み込みながら眺めていると、遠くからもう一人店員がやってきた。
長いコック帽を被っているその人物が、一礼と共にこちらへとやってくる。
すると、こちらの給仕を行っていた店員が頭を下げながら一歩下がっていった。
どうやら、立場ある人間のようだ。
「本日は当店をご利用して頂き誠にありがとうございます。料理長兼、オーナーを勤めております“レシオン・サルガード”と申します」
「これはご丁寧に。とても美味しく、楽しい時間を過ごさせて頂いております」
なるほど、予約と共に最高の席を取った人間への挨拶なのだろう。
すると、レシオンさんは少し驚いた顔をした。
「これは驚きました……久しぶりです、私と同郷の方がいらっしゃるなんて」
「え? それはどういう……」
「ふふ、この通りです」
彼はコック帽を外す。そして現れるのは、純白の頭髪。
彼は、ダークエルフでなくエルフ。それで白髪という事はつまり――
「あ、君はあの里の子なんだね? 私達はあそこで暮らしていた訳じゃないんだけど、昨日まで滞在していたんだ」
「なんと……では、他の方達も……? これは珍しいですね、滞在を許可されたなんて」
「まぁ色々あったのさ。そっかー、里を出た後もこうして自由に暮らしているんだね」
「ええ。幸いにして、この町には様々な言い伝えが残っていますからね」
それは恐らく、魔女のつまみ喰いやそれに関する物だろう。
以前ヴィオちゃんが言っていた。この町には、サーズガルドでは『外典』と呼ばれている逸話が残っていると。
そして……かつてリュエにどうにかしてご馳走を、感謝の気持ちを伝えようとしてくれた一族がいた事を。
「あ、そうだった。私はそれが食べたいんだ。注文してもいいかな?」
「ふふ、いいですとも。久しぶりに、私もあの里を思い出しました。どうぞ、心ゆくまでご堪能ください」
少しすると、大きな肉塊の変わりに、ピンクがかったすり身の塊がやってきた。
まるで巨大かまぼこのような様相だが、それをじっくりと炙りながら、ケバブ同様に削ぎ落とされ、そしてリュエの目の前に運ばれてくる。
ぷりぷりと弾力のありそうなそれを、一口食べる彼女。
「あー……なんて美味しいんだろうね。お肉もいいけど、私はこの優しい甘みが大好きなんだよ」
「どれどれ俺も一口……ほう! カイヴォンこれ美味いな、今度エビチリっぽく作れないか?!」
「ほう、なかなかいい考えじゃないか。そうだな、中華系は作っていなかったし今度やるか」
「チュウカ……ですか? それはどういう物なんでしょうか」
「料理のジャンルだね。俺の住んでいた世界の料理の一つだよ」
「なるほど……あの、以前から思っていたのですが、ダリアさんはもしかして、神隷期ではなく、そのカイさんの世界での友人だったのでしょうか?」
「ん? 言ってなかったっけ? こいつが子供の頃からの友人だが」
あー言っちゃう。なんだか話がややこしくなりそうな予感がするからまだ黙っていたのというのに。
すると案の定、二人が興味津々といった様子で食いついてきた。
「子供のカイくんだって!? 気になる!」
「前の世界での友人……道理でオインクさん以上に親しげなはずです」
ああ根掘り葉掘り聞かれるぞ、俺はもう知らんぞ。
余計な事は言わないようにと視線で釘を差しながら、こちらですら覚えていないような事を話し出すダリアを居ないものとして、現実逃避をしながら一人モクモクと食事を進めていくのだった。
「カイくんって勉強が嫌いだったんだね! 悪い子め!」
「ふふふ、男の子はそれくらいヤンチャな方が可愛げがありますよ?」
「もうヤダ。なんでそんな事まで言うの君」
「えー? だってお前小学入学してそうそうに職員室に連行されてたじゃん? その所為で俺、二日連続で日直やらされたり、家が近いからってプリント配りに行ったり面倒だったんだぜ? 因果応報だ」
レストランからの帰り道で、しきりにリュエにからかわれてしまう。
こいつは恐らく、この世界で唯一俺に有効な精神攻撃の使い手だ。
油断ならねぇ! かといって、仕返しにこいつの昔話を暴露しようにも……ほとんど効きそうなエピソードがねぇ!
「それにしても……そんな年齢から学問を学ばせる国ですか……カイさんが博識なのも頷けます」
「そうだねぇ。なんだかんだで、カイくん物知りだもんね」
「いや、そいつの物知りは学問関係ないんだけどな? ただの趣味だ趣味」
「やめい! ここはそろそろ俺を持ち上げるべきだろうが」
「じゃあ少し持ち上げるか。こいつ成績は悪くなかったぞ。むしろ悪かったのは俺だな!」
「そうなのかい? ダリアはすっごく頭が良いイメージがあるんだけど」
「そうですね、術式といい、里長の治療といい……」
「これは俺が働きに出てから学んだものだよ。ま、教えられた学問だって役に立っちゃいるがね」
「勉学をする心得とか、自分が必要な事を学ぶ下地を作るって意味合いの方が強かったんだろうな……今にして思えば」
まさかこの世界で、こんな事を思う時が来ようとは。
思えば、俺は意識的に深く前の世界を思い出さないようにしていたのかもしれない。
リュエとの生活や旅の間も、俺は彼女に自分の事をあまり語らなかった。
それはもちろん、レイスにだって。
だが今、こうしてダリアが居ることで、俺は嫌でも前の世界を考えてしまう。
……そうか、これか。ダリアがシュンと共に五◯◯年生きてきたという事は、こういった話題が幾度となく上り、そして記憶を忘れることも出来ず、抱えて生きてきたのか。
……確かに、辛いかもしれないな、それは。
「ま、中には勉強が好きだって人間もいたがね。カイヴォンの妹なんかは――」
「……ああ、そうだな。俺の妹は勉強が得意だった」
「カイくんに妹がいるのかい!? なんだか勝手に一人っ子なイメージを持っていたよ」
「カイさんの妹……なんだか想像が出来ませんね?」
「俺とはあまり似ていなかったよ。主に性格が。けどまぁ、結構仲は良かったかね」
思い出が、記憶が、掘り起こされていく。
それが少しだけ辛い反面、嬉しくもあり、懐かしさもあり。
そして……ほんのちょっとだけ、寂しくもあり。
ダリア、わざとなんだろ? そして……良かれて思ってなんだろう?
俺は確かに、蓋をしてきた。目を逸してきた。
割り切ったと、悩んでなどいないと切り捨てたと自分に言い聞かせてここまできた。
だが、それではダメなんだと、お前は言うのだろう。
この先で、もし俺が再びシュンとぶつかる事があるとしたら。
もし、この先あいつが抱えている物と対面する事があるとしたら。
俺もまた、同じ土俵に立つ必要があると、同じ思考を辿り、その境地に立たねばならないと、そう言うのだろう?
「随分とお節介を焼くようになったな、ダリア」
「ま、この身体で生きてりゃ色々変わるさ」
このちびっこめ。こうしてくれる。
なでぐりなでぐり。ぐりぐりぐり。
「や、やめい! フードがとれる!」
私には、兄がいた。
そう過去形で表現する事が出来るようになったのは、ようやく現実を受け入れた三年目の春の事だっただろうか。
新入社員として、社会人として新たな人生の第一歩を踏み出した私に、会社の先輩が尋ねたのだ『◯◯◯さんは一人っ子なの?』と。
その時初めて私は『兄がいました』と、過去形でそう答えたのだ。
ある日、唐突に姿を消した兄。
初めは誰か友人の家にでも泊まっているのだろうと気にもとめなかった。
元々放浪癖があり、自由に好き勝手生きてきた人だ。今回もきっとそうだろうと。
けれどもそれが一週間、二週間と続いたある日、兄の友人の家族から連絡が入った。
『うちの息子が、そちらにお邪魔していないか』と。
そう……兄だけではなかったのだ。兄と二十年来の付き合いのある『櫻木さん』も同日に姿消したというのだ。
ここに来て、ようやく私はことの重大さに気が付き、父と相談し、捜索願を出したのだった。
「……私がここから戻れなかったら、今度こそ父さんは一人になってしまうから」
知らない場所。私の知識に存在しないモノが存在する異世界で、私は一人与えられた部屋で独りごちる。
ある日、私はこの世界に呼び出された。
会社から帰宅し、ようやく慣れてきた料理を作り終え、先に眠ってしまった父の分を冷蔵庫にしまったところで意識を失ってしまった。
そして次に目を覚ました頃にはもう――
「……使命を果たせば、その力で私は戻ることが出来る……その為なら私は――」
どんな事だってしてみせる。
たとえそれで他者の安寧を奪うことになろうとも、他の命を摘み取ろうとも、そして――他の誰かを蹴落とそうとも。
「ふふ、やっぱり兄妹なのかな」
容赦のない、人でなしのような兄だった。
口が悪くて、意地悪な兄だった。
料理が上手で、ものしりな兄だった。
冷たく振る舞い、家族をないがしろにする兄だった。
そして――本当は誰よりも家族を思っていた兄だった。
「絶対に、戻ってみせる。私が、あの国を落としてみせる」
誰もいない部屋で一人、自分の生命線である一振りの刀を抱きしめる。
不安を押しつぶすように、冷たい鞘を身体に押し付けながら、私は、この刀……力を手に入れた時の事を思い出す――
『やぁ、君達が今回あちら側に向かう二人だね?』
人の良さそうな声で、私はぼんやりとした頭を覚醒させていく。
帰宅して、食事を終えた私を突然襲った謎の疲労感。
開いた目に映った真っ白な景色と、恐らく倒れてしまったであろう自分の状況を結びつけ、私は無意識に『ここは病院なのだろう』と思い至った。
その瞬間、再び疲労感と共にめまいに襲われる。
『なるほど、ここの方が話しやすそうだ』
「え……ここは……」
次に目を開くと、そこは『私もよく知っている病院』だった。
違う。先程までのまばゆい白とは似ても似つかない。
まるで、私の思いを反映して、後出しで景色を変えたみたいだ。
するとまたしても、不自然に人の良い声が周囲からこだまする。
「誰です、どこにいるんですか」
『全部、僕。でも見えないから、気にしないで欲しいかな?』
「ここはどこですか! 私をどうするつもりですか!」
家の鍵だってしっかり締めた。なのに、この相手は私を家から連れ出しのだ。
ポケットを探ってみる。残念ながらスマートホンはそこにはない。
ああ、そうだ、テーブルに置いたままだった。
どうする、ここが本当に病院なら他に人だって――
すると、ここでようやく私は今の状況が、超常的な物なのだと理解させられた。
見慣れた病院。けれども、窓から見える建物の外は――ただ真っ白な世界。
やはり最初に見た光景は気の所為じゃなかったのだ。
『君はね、今から別な世界に行くんだ。これはもう決まった事だし、僕が呼び出した訳でもない。だから、僕に文句は言わないで欲しい』
「別な……世界? なんですかそれ、どういう事なんです」
『別世界は別世界さ。君の世界にも、そういう題材の娯楽作品はあるだろう? つまり君はそういった作品の主人公のように、異なる世界へ飛ばされるという訳さ』
「それは困る! 私には仕事もあるし、父さんだっている! 私が……私まで消えてしまったら!」
『そう、僕だって君の事はよく知っている。一応、この場所を司る存在だからね。だから――』
こちらを思いやるような物言い。気遣うような声色。
そんなもの……信用してなるものか。幸い私には、とてつもなく性格の悪い家族がいた。
いつだって『人の裏を読め』『親切な人間は普通の人間よりも警戒しろ』そんなちょっとひねくれた事を言う家族がいたのだ。
認めたくはないが、その教えは私を何度か救ってくれた。
だから、この目に見えない相手への警戒度をさらに引き上げる。
『君が、あちらの世界に行った後に困らないように、何か力を授けようと思う。あちらの世界に行けば、君はすぐに大きな使命を背負わされる。でも、君は元の世界に帰りたい。なら、その手助けとなる力を――』
「帰れるの!?」
警戒をしていたはずなのに、そのちらつかされた希望に手を伸ばす。
もう、この場所から戻れないのは私でも分かってしまった。
なら、せめてその方法をこの相手から聞き出そう。
『使命を果たせば、帰る道も示されるはずだよ。ただ――そこにもう一つ、僕のお願いを聞いてくれるのならば、その使命を遂行するのにこれ以上ない力を差し出すつもりさ』
「最初と少し話が違いますね。『手助けをする』から『交換条件』に変わっていますよ」
『さすが目ざとい。この場合は耳ざといかな?』
何をさせようというのか。
見知らぬ場所に行くことを決定づけられた私に、この上なにをさせるのか。
冷静さを取り繕う事に精一杯の私に……。
その時だった。この場所にもう一人、別な人間の声が響き渡った。
『決めた! 超美人にしてよ! 男を魅了出来るような力を秘めた!』
その頭の悪そうな子供の声に、この不安が少しだけ和らいだ。
「今の、なに?」
『もう一人いるんだよ、君と同じ境遇の子がね。まぁ、君がその子と協力するかは自由意思に任せるけれど』
「子供、未成年は嫌い。頭が悪そうな物言いもマイナス評価」
『ははは、清々しいほどに合理主義だ。いいね、そんな君は何を望む』
何をさせられるのか。
どんな世界なのか。
何もわからないまま、何を望めというのか。
聞いてみても、声の主は何も答えない。
なら――私が望むのは、どんな場所でも、どんな使命でも、絶対に役に立つ力。
人間なんて動物だ。そして動物なら、絶対に力の強いモノに従うものだ。
現代社会においてそれは『地位』であったり『権力』であったりするけれど。
けれども、もしそんな社会をもねじ伏せられる『圧倒的な力』があれば――
どんな使命でも、どんな苦難でも、どんな理不尽でもねじ伏せられたなら。
きっと私は、元の世界に、父のいるあの家に帰る道を遮る、どんな障害だって排除出来ると思うから。
「力を。強い力を。私の道を塞ぐモノを排除出来る、そんな力を頂戴」
『うんうん、実にシンプルだ。いいだろう、君に武器を授けよう。君の心に呼応して、君の努力に呼応して、君の決意に呼応してくれる、そんな武器を』
「最初から最強にはしてくれないんですね」
『ものには限度があるからね。その武器は、君が最も強く思い描く姿になるよ。さぁ、思い浮かべてご覧……』
武器。銃。剣。槍。戦車。爆弾。
魔法とかもあるのかな。別な世界がどういう場所なのかわからないけれど。
強い武器。凄い武器。私が思い描くのは――
『なぁ、ほら見てみろよ。これ一五万もした和包丁だぞ? まるで刀みたいだろ!』
『たっか……それで料理の味が変わるの?』
『実は、刺し身に関しては本当に変わるんだよ。まぁ見とけ』
武器だって言ってるでしょ、なんで刺身包丁が頭に浮かぶの。
……けど、あの刃がすごく綺麗で、思わず引き込まれたのは事実。
包丁……ううん、刀が良い。なんだか、子供みたいにはしゃいでいた兄さんを思い出せるから。
『刀……君の国の武器だ。いいだろう、とっておきの一振りをプレゼントしてあげよう』
「ありがとう御座います。じゃあ……貴方の願いを教えてください」
身体から力が抜けていく。手の先から、光の粒へと変わっていく。
どこか遠くへ飛ばされるような感覚に身を任せながら、その言葉を聞き届ける。
『その世界には、お約束のように悪い魔王がいるんだ。だから君には――』
ああ、まるで主人公だ。私に……そんな大役が務まるだろうか。
薄れる意識の中、私は確かにその願いを聞き届ける。
『魔王を殺せ』という、まるで古いゲームのような、そんな使命を――
「……やっぱり、自分一人でやるしかない、か」
抱きしめていた刀を、目に見えない収納スペースに収める。
凄く便利なこの力は、この世界に召喚された人間には必ず備わっているそうだ。
それは勿論、私と一緒に召喚された子『ミサト』ちゃんにも。
明らかに不自然な美貌を兼ね備えた彼女に、召喚の場にいた男性陣が色めきだったのを、どこか冷めた目で見ていた。
『ああ、これがあの声の主から貰った力なのだろう』と。
なにやら今の状況を楽しんでいるような節のある彼女と、どうしても仲良くなれる気がしなかった私は、すぐにこの召喚の理由を問いただした。
そして私は――
「……手柄を先に取られたら、願いを叶えてもらえないかもしれない」
私達のお供となる人間を選抜する、と聞いた。けれども、そんな暇なんてない。
幸い、私達はこの世界において、普通の人間以上に強くなれる資質を持っているそうだ。
だから私はすぐに、自分の腕を試しつつ『目的の場所』を目指すと進言した。
そんな勝手を許さないと言われるかもしれない。けれどもその心配は杞憂に終わる。
一緒に呼ばれたミサトちゃんの一言によって。
『大丈夫ですよ、彼女が失敗しても私がいますから』と。
……力を求めずにそんな見せかけの容姿を選んだ君に、何が出来るというのだろうか。
けれども渡りに船だった。私はすぐに装備を用意してもらい、この召喚された場所から旅立つ為の最低限の知識を与えられた。
だから今日、この夜が明けたら、私は旅立つ。
……大陸を支配する国『サーズガルド』へと――
「では、短い時間でしたがお世話になりました」
翌朝。私の世話係としてつけられた、どこか育ちの良さそうな女性に別れの挨拶をすませる。
見送りには意外な事に、彼女だけでなく、ミサトちゃんの姿もあった。
ぱっと見私と同い年くらいに見えるけれど、その言動から幼さが抜けきれない彼女。
どこか楽しそうに、まるでこちらを面白い物だと断じているかのような視線が妙に気に障る。
「じゃあね……ええと、名前なんだっけ?」
同じ場所で一緒に名乗りを上げたというのに、この子はもう忘れている。
そんな相手に教える必要なんてないと思うけれど、それでも一応、同胞だから。
ヘタに関係を悪化させるような振る舞いをする必要もないからと、私は名乗る。
――仁志田 知瀬と。
Yー(´・ω・`)ーY 上手に焼けましたー
モンハンワールド買うか迷うなー




