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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
十三章

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三百三話

(´・ω・`)スモーク楽しいよスモーク

「冷たいスープって良い物だねぇ! 気温も高いし、凄く今の季節に合うね」

「本当だ……じゃがいものいい味もするし、優しい甘さもあるし……カイヴォン、後でこの作り方詳しく紙に書いてくれない? 里長にも教えたい」

「ああ、勿論。気に入ってもらえて何よりだよ」


 食卓を囲む。今頃になって気がついたのだが、過去最高の男女比率ではないだろうか。

 男1に対して女5である。まぁダリアは中身が男だから微妙なラインではあるが。

 で、そんな微妙な立ち位置であるダリアの様子はと言うと――


「あー……やっぱ俺お前の味付け好きだわ。なんかこう、舌に馴染むというか……」

「ま、俺もお前も元……アレだしな。あそこ(・・・)向けの味付けでレシピを覚えてる人間の作った飯の方が気にいるのは仕方ないさ」

「まぁな。……本当、何年経ってもこいつばっかりは変わらんよ」


 そう言いながら、どこか嬉しそうに笑うその表情からは、何か、深い感情が見え隠れしていた。

 何百年経っても、変わらないもの……か。リュエ程ではないが、その過ごしてきた年月は……膨大。ましてや、日本での思い出を忘れずにいるお前にとっては……特別な物なんだろう、な。


「むぅ……たまにかカイくんとダリアってなんかこう……二人だけの世界に入るよね? 私は不満です! ダリア、私にも色々お話しておくれよ」

「ははは……おいカイヴォン、リュエが凄く可愛いんだが?」

「当たり前だろ。リュエだぞ。可愛いに決まってるだろ」

「な、なんだい二人して急に……ごまかされないよ?」


 いや、素直な感想です。たぶん今全員が同じことを思っています。

 しかしまぁ……確かにダリアと俺の関係は、オインクと俺の関係ともまた違うものがある。

 これは、言うなれば同性の幼馴染が故の会話内容なのだが……今のダリアの姿の所為で、それが違ってみるのだろう。

 なんだ、兄妹みたいな、それとももっと違うものに見えるのだろうか。


「ねーかいぼん。このスープにんにく入ってないのににんにくの香りするね。あとでやり方教えて」

「ああ、簡単だよ。器の内側にニンニクをかるくこすりつけるんだ」

「へー! お手軽でいいね、マネしよっと」

「……前から思ってたけど、お前専門って和食だよな。なんでそんな別な分野にも詳しいんだよ」

「んー……まぁあっちこっち渡り歩いたし、俺自身、食べてみたい物は自分で作る主義だったからなぁ……勝手に身についた」


 ははは……これ、結構色んな人に聞かれたっけ。

 今思えば、あの世界で暮らしていた時代から、今のようにアビリティを集めるかのごとくレシピを覚えていったもんだ。

 ……案外、そのせいでこの武器に惹かれたのかもしれないな。


「時にレイスや。俺の記憶が確かなら、お前さんも料理上手じゃないっけ? ほら、屋台の時もそうだったし」

「あ、はい。私も沢山の子供にご飯を食べさせていたので、それなりに……」

「んな! おいカイヴォン、お前レイスとの間に子供がいたのか!?」

「ははは、違うよ。レイスは身寄りのない子供や娘さんを引き取っていたんだ」

「……そうか。いや、すまん急に大きな声を出して」


 ふむ、ちょいと驚きすぎじゃないかね君。

 なに? 俺がそんなこの世界で脱童貞したのが気になるのかね?

 生憎、この世界の俺は未だチェリーさんなんだぜ。娼館に心惹かれたり、夜のお誘いをかけてくるお姉さんの誘惑も全て跳ねのけてここまで来ましたよ?


「ああ、それで話しの続きだけど、レイスさんや、この男の料理ってのはどういうもんなんだい? ちょいと俺にはよく分からないんだが」

「そうですね……知識量や技術の面で見れば、間違いなく一流です。ですが、この世界の料理における知識や趣向への見識の深さはまだ発展途上といった感じでしょうか……」

「うっ……さすがレイス、ピンポイントで痛いところ突いてくる。そうだなぁ……レイスやリュエの好みに突き刺さる味付けっていうのはまだ完全に把握出来ていないかもしれないな」


 和やかな、少しだけこちらに突っ込んでくるダリアの影響もあり、いつもより深い会話が続く。

 そして、ダリアの語る俺の話題に、リュエもレイスも食いついていく。

 なんだかむず痒くて、恥ずかしいくて。けれども、嫌ではなくて。

 不思議な感覚だ。俺が小学校に入る前からの付き合いであるダリアと、最愛の二人がこうして会話をしているというこの状況が。

 けれども、これはオインクがいつか夢見た、そして俺も夢想した光景への第一歩、なんだよな。


「あー美味しい……カイヴォン、ムニエルの皮って美味しいね」

「む、アマミ良いこと言った。やっぱり美味しいよな、このカリカリ」

「ニンニクの香りによくあう。あ、そうだ後でかいぼんに相談があるんだ」

「む? 珍しいね、どうしたんだい?」

「最近、商人に結構高い値段でにんにく売ってるんだけど、もっとお金ふんだくりたい。今まであいつ、とんでもない金額ちょろまかしてたのが分かったから、こう、付加価値をつけたいんだ」

「……やだ、この子どんどんたくましくなってる。レイス、ナイス教育」

「う……私は別にそんな……」




 そうして昼食を終え、食後のティータイムと洒落込みながら、スコーンをムシャムシャと食べ続けるダリアへと尋ねる。


「で、里長の様子はどうなんだ、ダリア」

「んぐ……今、散らばった部品を修復中。まずあのカプセルの修理から入るつもりだ。どうやら、ある程度のリペア機能も備えてるみたいでな」

「ほう、部品の修復となると、それこそリュエやレイスの協力とかいらないのか?」

「うーむ……それがなかなか難しい問題でな。まず、再生術の補助にレイスが入るとする。そうなると当然俺の負担は減るんだが……」

「あ、それでしたらお手伝いしますよ?」


 紅茶のおかわりを淹れながらレイスが立候補する。


「ところが、再生術を扱うには、お互いがその完成品の知識を共有しなくちゃならない。今俺が治している物がどういう物なのか、その概念から効能、完成形を今からレイスに教え込む必要が出て来るんだ」

「なるほど……そいつはちょいと時間がかかるな……」

「そうなんですか……あの、やはり難しいものなんですか?」

「正直……かなり難しい。理想としては、カイヴォンの知識とレイスの再生術、そしてリュエの魔術知識を合体させたら、俺と同じ事が出来るとは思うが……」

「よし! じゃあカイくん、レイス! 私と合体しよう!」

「はい意味合い変わってくるような事言わない。まぁさすがにそいつは不可能だな」

「そういうことだ。気持ちだけ受け取るよ、レイス」


 ダリアの例えは言い得て妙だ。リュエ並の魔術知識を持ち、俺と同じで現代の技術や知識に通じ、そしてレイスと同じく再生術を扱えるのだから、文字通りダリアは俺達三人分の力を持っている事になる。

 やはり里長の治療は、ダリア一人に任せる他ないだろう、な。


「今はとりあえず、必要な部品に薬品が染み込むのを待っている状態だ。そうだな、後四時間はかかるだろうから、それまでのんびりさせてもらおうかな」

「あ、だったらダリア! ちょっと教えて欲しい事があるんだけど」

「ん? どうしたリュエ助」

「リュエ助……その呼び方、なんか懐かしい気がする」

「ああ、そういえば呼んだことあったっけ」


 二人がなにやら術式の会話に華広げている側で、レイスが少しだけしょんぼりしていた。

 ふむ、ダリアと近づく機会を伺っていたのだろうか? 大丈夫、ダリアも君ともっと親しくなろうと考えてくれているはずです。

 とりあえずレイスにスコーンのおかわりをプレゼントしておきましょう。

 実は俺、これが苦手なのである。モソモソしていてちょっと……。


「かいぼんーニンニクの付加価値上げる方法考えてー」

「うわ! チャトラン顔に押し付けるのはやめろ、猫臭が、猫臭が!」

「嬉しそうだねかいぼん。猫好き?」

「大好きです」


 チャトラン君を顔から引き剥がし膝の上に置く。おお、逃げないでくれる。

 なでりこなでりこ……ああ、癒される。


「うわ、カイヴォンが気持ち悪いくらい笑顔だ。そんなに猫好きなの?」

「うん。大好き。超可愛い」


 しまった。無意識に表情筋が緩みきっていた。


「ニンニクの加工品とか作って売ったらどうだい? 黒ニンニクと、ガーリックオイルとか、色々あるじゃないか」

「なにそれ詳しく。黒ニンニク? オイル? どうやって作るの」

「ガーリックオイルは私も知っていますが、黒ニンニクは初耳ですね」

「んー、発酵させたニンニクなんだけどね? 甘酸っぱくて、まるでドライフルーツみたいな味になるんだ。食感も似てるね。ちなみに、とてつもなく栄養たっぷりです」


 そういえば、健康食品としてよく取り上げられていたっけ。

 今思えば、割と簡単に作ることが出来る物を更に加工して、付加価値というか流行りに乗って高額で販売していた業者の賢さが良く分かる。

 なるほど、上手く行けばクーちゃんはこの世界の◯ずやになれるというわけだな。


「簡単だけど時間がかかるから、それは後にしようか。もっと手軽に作れる物にしようか」


 さて、じゃあ手先の器用なレイスやダリアもいる事だし、少し一緒に工作と行きましょう。




「カイヴォン、これでいいの? これ、牛の餌保管していたタンクの廃品だよ」

「おーばっちりだ! じゃあこれ貰っちゃうよ」

「ダメ……ごめん嘘。いいよ」


 里長の屋敷の玄関ホール。

 以前は、襲撃に備えてフードやらマントやらを作ったその場所で、その襲撃者のリーダーだったダリアと一緒になり、戦いとは無関係の物を一緒に作る。

 まさかこんな未来が待っていたなんて、あの時の俺達は考えもしなかっただろうな。

 そんな事を考えながら、俺の下手くそな設計図にそって必要なパーツを作りだしていく。


「随分大掛かりだなカイヴォン。これ、ちゃんと出来るのか?」

「構造自体は簡単だぜ? 正直ダンボール箱が五、六箱あれば似たような物が作れるくらいなんだし」

「まじかよ……知ってたら俺も作ってたのに」


 さて、俺達がダリアの待ち時間の間に何を作っているのかというと、答えは簡単、燻製器だ。

 クーちゃんがニンニクの加工品を、と言っていたのだが、加工品の代表といえば燻製だ。

 保存所為も味も増す、まさしく魔法の加工法なのだが、意外なことにそこまで燻製製品が出回っていないのだ。

 まぁ、魔物が多く肉に困らない世界だ。保存食としては干し肉で十分なのだろう。

 一応、ジャーキーのようなものは嗜好品として存在しているのだが、その流通量は少ないというのはレイスの弁だ。

 プロミスメイデンで勤めていた時代、そういったつまみの仕入れなども行っていた彼女が言うのなら間違いないだろう。


「あー……夢が広がるな。なぁ、燻製卵作ってくれよカイヴォン。俺あいつ摘みながらビール飲みてぇ」

「だな! けどこの世界のビールってほとんどエールだろ? ちょいとフルーティー過ぎないか」

「安心しろ、しっかり苦味の強いヤツも開発されてる。一応、供物として作られている方だから市場流通は少ないが、長年溜め込んだのがアイテムボックス内にある」


 無言の握手(某国風)。擬音で表すならピシパシガッガッグッグ。

 傍から見えたら謎の儀式である。いや、さすがのダリアさん。よく分かっていらっしゃる。


「ほらー! またダリアとカイくんが二人の世界に入ってる! なんだいその踊り、教えておくれよ私にも」

「はい、じゃあダリア任せた。俺はこいつをカットするから」

「え゛! ええと……まず握手してから肘を互いに組んで……」


 真面目に解説しているダリアを余所に、アマミから貰ったドラム缶のようなタンクをカットし、大きな鉄のパイプ状にする。これを煙突のようにして、間に食品を置ける網をセットして……そうだな、扉を作ってやろう。

 なんだか楽しくなってきたな。どうせなら大量生産出来るような、そんな燻製器を作ろう。


「楽しそうですね、カイさん。なんだか生き生きしています」

「ちょっとはしゃぎすぎたかな?」


 ノコギリ受け取りながらレイスが笑う。

 呆れられたか、と思うも、そこに浮かんでいたのは純粋な微笑み。

 ここ最近、どこか張り詰めていたこちらが、ようやく息抜きをしはじめた事にホッとしているようにも見えるその表情。

 ああ、もう俺は背負い込まないさ。必要なものだけど、選び取る。

 残りの空いた心のスペースには、これまで通り、レイスやリュエ、君達と楽しい時間を過ごす事に割こうと思う。

 そうだな、まずは手初めてレイスが喜びそうな物をこの燻製器で作ってみようか。


「レイス、これが完成したらとっておきのメニューを作ってみるよ。鶏肉を使ったものなんだけど――」

「カイさん、次はなにをしたらいいですか?」


 いや、急にそんな……背筋をピシっと伸ばさんでください。




「よーし完成! とりあえず燻煙に使う木材だけど……うん、とりあえず初めはニンニクの剥きガラと紅茶の出がらしでやってみようか」

「えー! そんなゴミ燃やした煙でやるのかよー!」

「ダリアお前……何も分かってないんだな。良いか、この二つの組み合わせはとんでもないんだぜ? 微かに甘い上品な香りと、仄かなニンニクの風味、そこに少し砂糖も焦がすことで、カラメルのような風味が追加されるんだ。こいつで魚とか肉をスモークすると……」

「よしやろう。ほら、急げ、もうすぐ俺戻らなくちゃいけないからすぐ出来るヤツ希望」

「……じゃあすぐ食べられるチーズで。他の食材は味付けとか漬け込みがあるからとりあえずコレな」


 完成したのは、全長三メートルにもなる、横に長い燻製器だ。

 上に伸びた部分もあるのだが、ここは高温で短時間での燻製が行う事が出来、横に伸びた部分で、やや高温の長時間。そして端の方にいけば、低温でさらに長時間の燻製が可能、と。

 なお、食材を置けるスペースを大量に作ったので、一度に大量の食品を加工出来るようになっております。

 既にマスやお肉達は味付け用の液体に漬け込み済み。明日をお楽しみにってヤツだ。

 今回は高温短時間の場所に、切り出したチェダーチーズを並べる。

 ちなみにこれもこの里で作られたものらしく、前の世界じゃそうそうお店に並ばない、まるまんま一つ、つまりホール状態の物を切り分けた状態だ。


「ニンニクも並べるね。このやや高温? で良いんだよね」

「そうそう。で、二時間で取り出して、一日休ませてから、まるごとオリーブオイルに漬け込むんだ」

「それで美味しいオイルが出来るんだ……いくらで売ろう、一瓶一五◯◯ルクスかな」

「……なかなかギリギリのラインを攻める君に脱帽です」


 さて、という訳で燻煙スタートです。


「うーん……カイくん、このゆでたまごもう煙に入れちゃってもよくないかい?」

「だーめ。それは後二時間くらい漬け込んでからです」

「むぅ……私はゆで卵作るの得意だけど、こういう加工は始めてだから楽しみにしていたのに……」

「楽しみは後にとっておくものだよ。ほら、隣座りなされ」


 二人並んで、自作の燻製器を眺める。

 なんだかおかしな光景だが、楽しくもある。

 ちなみに、さすがに屋敷の中で燻製をするわけにもいかないので、今は裏庭、周囲をバラに囲まれたスペースで行っております。

 後でこれはクーちゃんの家に設置するとしよう。さすがに、帰ってきたら自分の家のバラ園から燻製の香りがしたら、里長が怒ってしまいそうだ。

 ……なんだか自分のお尻の心配をしなくちゃいけない気がしてきたな。


 ふと、レイスの姿が見えない事に気が付き周囲を見渡す。

 すると丁度彼女が、屋敷の裏口、台所に面した扉から、大きな水筒を持ってやってくるところだった。


「みなさん、お疲れ様です。冷たいレモネードを用意しましたので休憩しましょう」

「おほーっ! さすがレイス、喉乾いていたんだ」

「あ、ダリアがオインクみたいな声出してる」


 ……いいな、こういうの。全部忘れて、ここでのんびり生活出来たら、それもそれできっと、幸せなのかもしれない、な。




 それから三十分。そろそろチェダーチーズがスモークチーズにジョブチェンジを果たしている頃だろうと、ワクワクとしながら燻製器の一部を開く。

 すると、そこには先程までオレンジがかった色をしていたチーズが、今は小麦色に色づき、つやつやと光沢持つ状態でずらりと並んでいた。

 まるで磨き上げられたキャラメルのようなその出で立ち、そして香りに唾を飲む。

 後はコイツを冷ましながら一◯分程空気にさらせば完成だ。


「あ、そろそろ時間だわ。カイヴォン、そのチーズ少し分けてくれ、向こうで食べる」

「もうそんな時間か。悪いな、急がせて」

「さすがに優先するさ。……当然だろ?」


 今の今まで纏っていた浮かれた空気を、一瞬で消し去り立ち上がる友人。

 やはり、責任を感じているのだ。里長の眠りについた原因の一部は、間違いなくダリアが関わっている。

 元々、自分はもう長くないと里長は言っていた。だがそれでも、それを加速させたのはあの襲撃と、負傷が原因なのだから。

 ……悪いな、こればっかりは俺も『ゆっくりしていけ』なんて言えないんだ。

 それを分かってくれているからか、ダリアもまた、苦笑いをこちらに向ける。

 それがなんだか『気にすんなよ』と言ってくれているようで。


「今日は小屋に止まるから、夕食は気にしなくていいから。明日の朝、もし戻らなかったらそのまま無視してくれ」

「あいよ。なんだったら朝食届けるぞ?」

「いや、大丈夫だ。結構食い物は持ち込んでる」


 恐らく、今日はこれから始まる強行軍の為のチャージ期間だったのだろう。

 ここからダリアは、きっとほぼ不眠不休で治療にあたるつもりなのだろう。

 ……頑張れ。俺はそれを心の中で呟いた。なんだか今更、俺がそんな言葉をかけるのが恥ずかしいような、そしてかけられたダリアも困ってしまいそうで。

 言葉は伝えないといけないと、学んだばかりだが、こればっかりは、例外だ。

 そんくらい、互いの表情で分かるんだ。

 けれども、そうじゃない彼女達は、俺の代わりにその言葉を伝えてくれる。


「ダリア、無理はしないでおくれよ? ちゃんと寝るんだよ?」

「ダリアさん。二日に一度は屋敷で眠ってください。ベッドできちんと眠ると、作業効率も上がりますから」

「うん、頑張ってダーちゃん。里長のことお願いね」

「ダリア様、ベッドはいつでも万全の状態にしておきますからね!」


 ほら、な?


「……ははは、こりゃ心強い。よーし任せとけ、後一週間以内には絶対に治療してみせるからな!」

「お? 言ったな? もし少しでも遅れたらスモークサーモン無しな。クリームチーズと一緒に挟んだベーグルサンド、お前だけ無しな?」

「まじかよ絶対治す」


 チーズを手渡すと、森へ戻る前にダリアが小声でこちらに話しかけてきた。

 それは、他人には聞こえないようにと配慮されたもの。

 つまり、内密な話だった。


「……カイヴォン、さっき森の中で剣を抜いたが、頼む。それはもう絶対に抜かないって誓ってくれ。収納する気がないのはもう分かった。だが……頼む、俺の精神衛生上の為にも」

「……ああ、分かった。俺も迂闊だったよ。後で鞘でも作って抜けないようにしておく」

「悪いな。何かの拍子にって思うと気が気じゃないんだ」


 そうだな、ダリアの為にも、俺も少し自重しないと、な。

 ……余った材料で作れるといいんだが……。






 ダリアが森に戻り、そしてようやく完成したニンニクをクーちゃんが残さず回収し、一度自分の家に戻っていった。

 アマミは完成したスモークチーズを、お世話になっている酪農家のお兄さんのところに持っていき、そしてリュエはようやく味のついたゆで卵を燻製器に放り込み、今か今かと体育座りをして完成を待ちわびていた。

 そして俺はというと――


「カイさん、やはりここは革でしっかりと縫い合わせた物を作った方が良いと思います」

「やっぱりそうなるか……俺、裁縫は苦手なんだよなぁ」

「でしたら私に任せてください。革のベストを作った事もありますし、鞘なら簡単なデザインのものでしたら二日もあれば出来ますよ」

「そうかい? じゃあお願いするけれど」


 そう、剣の鞘をどうするかレイスと相談していたのだ。

 採寸を取るために、ここ数日背負いっぱなしだった剣を彼女に手渡す。

 この世界に来てから、二度その姿を変えた愛剣を。


「これが……凄みを感じますね、なんだか……これが、最強の存在を打ち倒した……そして私を救ってくれた剣、なんですね」


 レイスが俺の剣を手に、しみじみと過去を思い出すように呟く。

 その瞬間、思い出してしまった。その剣で、彼女を手にかけてしまった時の事を。

 レイスの顔で、レイスの声で、怨嗟の声をぶつけた『七星プレシードドラゴン』

 心臓が、ズキンと痛む。衝動的に、レイスを抱きしめたくなる。


「カイさん……」


 だがこちらに先駆けて、レイスがそっとこちらの首に腕を回し、抱きしめた。

 彼女の香りが、する。少しだけ煙の香りが移ってしまったレイスの香りが。


「……忘れてください。あれは、私ではありません。私は今、ここにいます。ここにいる私を見てください」

「……そうだね。スモークのいい匂いがするレイスだけを見ているよ」

「っ! あ、そ、それは……恥ずかしいです! 後でシャワーを浴びておきます!」

「ははははは!」


 そうして笑っていると、外からリュエの嘆きが聞こえてきた。

 どうしたのかと様子を見に行こうとすると、バタンと大きな音と共に、見慣れない肌のエルフ、褐色のダークエルフが飛び込んできた。

 ……すみません、どう見てもスモークされたリュエさんです。

 なるほど、さては我慢できずに途中で燻製器の扉を開けたな?


(´・ω・`)エルフをスモークするとダークエルフになるんです

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