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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
十二章

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二百九十四話

 恐らく、こちらが事実確認をするまで待ってくれているのだろう。

 戦いの火ぶたは切って落とされたはずだというのに、こちらの様子を窺ったまま動こうとしないシュン。

 ならば、今だけはその好意に甘えよう。急ぎステータスを開き、装備の項目を確認する。


「グレーアウト……選択不能か」


 今の俺のステータスは、装備なしの状態に規定の数字が加算されただけという事になる。

 俺の記憶が確かなら、これはPvPモードの『フラットバトル』で適用される一種のシステム的状態異常。

 ようするに装備品の能力が加算されない、効果が適用されていないという状態になるという意味だ。

 そしてそれは……俺の武器の最大の強みであるアビリティを封じられたという事に他ならない。

 つまり、この身に宿した、刻み込んだ、学んできた力だけで、挑めと。

 この、五○○年生きた剣を極めた男に。

 それだけではない。こっちは装備を縛られているというのに、向こうは強化されているという始末だ。

 ……はは、とんでもねぇ難題だ。だが、勝機は――


「もう、済んだだろ?」

「っ!?」


 その瞬間、すぐ横からシュンの囁き声がした。

 驚きと恐怖の感情に促されるまま、ただ声がした方向の反対側へと強く飛び退る。

 着地と同時にヤツの方を見やれば、すでに剣を振りぬいた姿。

 俺は攻撃されたのか? いや、そんな気配なんて……。

 だがそれでも、確実に迫る死の予感、見えない不安に心臓が強く脈打つ。

 そして、次に聞こえてきたのは、地面にから響く金属質な音。


「なん……だ?」

「……降参を勧めるが、どうする」


 視線の先。地面に転がる、愛剣。

 そして、その『柄を握りしめている右手』が落ちていた。

 認識から痛みが訪れるまでの刹那の時間で、こちらの考えの甘さを呪い、そして喉が張り裂けるような声が無意識に上がる。

 死にもの狂いで手を拾い上げ、切断面に押し付ける。


「ふむ、なんだそれは。回復魔法……? こっちに来てから覚えていたか」

「っ! くそ……なんだ、今の」


 行幸、装備以外はそのままだ。

 自身に付与した[生命力極限強化]は機能している。

 なら、これを反転付与してやれば一気に――

 そこまで思考が及んだところで思いとどまる。

『それでは殺すことになってしまう、それでいいのか?』

 ……という相手を思いやる気持ちではなく、純粋な勝算を思っての事。

 アビリティの性質上、完全に相手の体力を奪うまで三三秒の時間が必要だ。

 だが――正直、三三秒もこいつの攻撃から逃れる自信が、俺にはない。

 今何が起きたのかすら把握出来ていないのに、どうすればいいのだという話だ。

 そもそも『今の俺はカースギフトを使う事が心情的に出来ない』のだから。


 一先ず、フィールドの端を目指してバックステップを繰り返す。

 だが、その速度に負けない速さでこちらへ駆け寄るその姿に、もう遊びは終わりなのだと、こちらも覚悟を決める。


『フレイムフェーン』を発動させ、黒い炎を薄く広げる。

 その炎の揺らぎで、かろうじてヤツが加速する瞬間を見極め、転がり込むようにして逃げに徹する。

 ゆっくり、少しずつ端へと方向を変えながら。

 ここは中華鍋のように端にいけば上り坂になると言っていた。

 ならば、いくら速くてもまったく同じ速度で動き続けるのは負担になるはずだと、そこに一抹の希望を見出す。

 ついでに、この炎の中なにも知らずに動き回り、酸欠にでもなってくれれば儲けものなのだが――

 次の瞬間、一瞬で空へと舞い上がり掻き消える黒炎。

 そううまくはいかないかと、舌打ちをしつつ、さらに距離を取り、ようやく坂道へと差し掛かる。

 そして、それとほぼ同時に氷魔法を発動させ、足元に薄い氷の膜を発生させる。


「……なるほど」


 こちらの意図に気が付いたシュンの呟き。

 けれどもそれは酷くつまらなそうで、期待外れだと言いたげなもので。

 ああ、そうだろうよ。俺だってこんな方法でしか戦えない今の自分が情けない。

 だが――別にこいつは足止めなんかじゃない。誰が安置から攻撃するなんて言ったよ。


「大地裂閃」

「月閃光」


 せっかく張った氷を砕き地面を進む此方の斬撃。

 そして間髪入れず、ほぼ同じ軌道で進む斬撃技がシュンから飛んでくる。

 巻き上がる氷の粒。一瞬の目くらまし。

 だが、今度はその氷の粒めがけて闇魔導を発動させ、侵食し漆黒の霧へと変貌させる。


「天断“昇竜”」


 完全に視界を奪ったタイミングで、当たるかもわからない大技を叩き込む。

 そして、ヒット確認もしないまま、再び外周沿いに走りながら、背後に再び氷の膜を張る。

 視界の悪い中、追いかけてくるのは至難の業。

 これで少しは勝機が見えてきた。そう思ったその時だった。

 肩に奔る鋭い痛み。思わず身体が傾きそうになる。

 歯を食いしばり、頬にありったけの力を籠め己に活を入れる。

 もうすぐ後ろまで迫ってきているのかと、振り向きざまに大きく剣を薙ぎ払い、同時に再び『大地裂閃』を放つ。

 だが、こちらの視界にシュンの姿はなく、既にだいぶ距離が出来たしまった黒い霧だけが、不気味にその場所に残っていた。

 まさか、まだあそこにいるのか?

 だが、今の攻撃は一体。

 既に回復を始めている肩の傷を撫でながら、その正体を考える。

 波動を放つ攻撃はいくつか種類がある。だが……こんな狭い範囲で正確に切り裂いてくる技などあっただろうか。

 ウェイブモーションで切り裂くことは可能だ。だが……それではないと、俺の勘が囁く。

 あまりにも鋭く正確な、そして発動の予兆すら感じ取れない攻撃。


「っ! な、んだ」


 唐突に訪れる衝撃に頭を揺さぶられる。

 思考が止まる。呼吸が苦しくなる。

 血の味が広がる、熱い痛みが、抉られるような痛みが喉から広がる。

 首を押さえると、おびただしい量の血液がべっとりと手に付着する。

 切り裂かれた? いや、掠っただけだろう。だが、確実にこちらを仕留めにきている謎の攻撃に、冷や汗が額から頬へと筋を作る。

 黒い霧は一切の変化を見せない。そしてフィールドのどこにもシュンの姿はない、

 痛みが引き、けれども喉に残った血を吐きだし、その霧を睨みつける。

 ……霧が動いていない。剣を振っていないのか?

 その時、霧からようやく声が響き、そして同時に十字に切り裂かれた霧が四散する。


「……ふむ。お前、何かおかしな事になっているな?」

「……その言葉、そのまんまお前に返してやる。その技はなんだ」


 こちらの異常な回復力を訝しむ。

 そしてこちらは、その異常な攻撃に警戒心を抱く。

 ……一見すると千日手。だが、その実に追い詰められているのはこちらの方だ。

 もし、攻撃を連続で受け続けたら。もし、こちらの回復量を凌ぐダメージを受け続けたら。

 一度その不安が脳裏を掠めてしまうと、どうしてもその事が頭から離れなくなってしまって。


 剣を振れば、絶対に霧は動く。だがその様子もなく、まるで見えない剣で切り裂かれたような傷を受けるこちらの身体。

 そこで思い至る。先ほど覗いたアイツのステータスにあった【ウェポンアビリティ】の存在を。

 たしか[追閃]とあった。字面から察するに、追撃に類するものだと予想するのだが――


「まさか」


 次の瞬間、攻撃の予兆もなにもないにも関わらず、地面を転がるようにして距離を取る。

 するとその刹那、こちらが今までいた地面に十字の傷が深く刻まれた。

 飛び散る床材と、空気を震わせるような、死を予感させる風切り音。

 間違いない、これは――


「時間差攻撃……! 随分えげつない技持ってんじゃねぇかおい」


 先ほど、霧を四散させた攻撃。あれは確かに十字に振るわれていた。

 もし、その軌跡を遅らせて、それも任意の場所に追加で発生させるのだとしたら。

 そして今俺が回避出来たのは偶然だろうが、それでも一度指定した座標を変更出来ないのだとすれば。

 ……いや、こちらが走っている最中にも攻撃は当たった。なら、あれはこちらの動きを予測して発生させたのか?


「さて、適当に流すだけで終わるかと思ったが……存外粘るな」

「……見下してんなよチビが」

「なぁに、直ぐに頭の位置を逆転させるさ。地面の味を教えてやる」


 そして、第二ラウンドの幕開けだとでもいうように、奴の剣が、蒼光を宿す刀が振るわれる。








「……遊んでやがるな」

「……ダリア、もう一度お願いするよ。ここから出しておくれ」

「悪いがそれは出来ない」

「申し訳ありませんが、たとえカイさんのご友人でも――必要とあらば、その命貰い受けます」

「やめとけ。かすり傷も負わんよ」


 公正の窯。かつてファストリア大陸……ゲーム時代のシステムの名残を秘めた石碑から復元した石舞台。

 ゲーム時代のPvPを疑似的に再現出来る修練所として生み出されたこの場所は、使い方次第では残酷な処刑場へとその姿を変える。

 ……そして、この場所を作るにあたり、誰よりも熱心にこの『ハンディキャップ』の実装を推し進めたのは、お前だったな、シュン。

 それは、今日この日の為だったのだろうか。この国を守るというただ一点において、最も警戒すべき障害として、何百年も前からカイヴォンを仮想敵と定めてきたとでも言うのか。

 ……そんな訳があるか。ただの偶然だ。だが、余りにもこのシステムはアイツに対して効き過ぎている。

 ゲーム時代カイヴォンの強さは、圧倒的なプレイ時間からくる操作の正確さや、知識の量もあったのだが、その最たるものは『装備』にある。

 場面に応じて自由にアビリティを組み替えるあいつは、奪剣の攻撃力の低さを差し引いても軍を抜いた強さを誇っていた。

 勿論、パーティーを組んだ際は、生粋のDPS担当のシュンには劣る。だがその反面、どんな状況にも対応出来、単独での生存率やクリア率は他の誰にも負けてはいなかった。


「……だが、今この瞬間、お前に勝機はない筈……なんだけどな、本当なら」


 その時、視界の隅に閃光が奔る。

 振り向けば、レイスが弓を構えたままこちらを鋭く睨みつけていた。

 ……撃ったか。けれども、今この瞬間、大陸の術式に繋がり、そしてこの場を制御している俺にその一撃は届かない。

 蟻の一噛みが像の皮膚を越えられないように。赤子の戯れで大人を倒せないように。

 残酷なまでの差が、彼女の意思を歯牙にもかけず弾いてしまう。


「……悪い事は言わん、座って見ていてくれ。悪いようにはならないよう、なんとかする」

「ふざけないでください……私は、私は貴女を許さない! カイさんの思いを、再会の喜びを踏みにじった貴女を絶対に!」


 美人の怒り程恐ろしい物はない。美しすぎるその貌を歪ませ、余りにも重い怨嗟の声をぶつけられ、つい苦笑いではない、後悔の表情を漏らしてしまう。

 ……分かってんだよ。俺がアイツの期待、希望を裏切ってしまった事なんて。

 互いに分かってんだよ。こうするしか他ないって、分かってんだよ!


「……ダリア。本当に出してくれないのなら、せめてお願いがある」


 レイスとは対照的に、落ち着いた調子でリュエが語りかけてくる。

 けれども、それは取り繕った物なんだろう。震える手が、拳を握り震える手が、それを物語っていた。


「万が一カイ君が負けたら、直ぐに手当してあげておくれ。私はどうなっても構わないから、カイ君とレイスだけは、無事にこの国から出してあげておくれ」

「……悪いが、俺がストック出来る願い事には限度がある。もう、カイヴォンに願い事をされていてな、そいつを叶えるので手一杯なんだ」

「カイ君の願い……?」


 それを語るつもりはない。

 だが――このままいけば、本当にその願いを叶えるハメになってしまう。

 俺の目から見ても、カイヴォンはよく戦っている。

 この世界に来て一年で、ここまで戦えるという事実に内心舌を巻く思いだ。

 殺しの葛藤。いや、それ以前に『容易く人の命を奪える力を振るう事その物への葛藤』があった。

 必要に迫られ、またある時は激昂に駆られその手を汚した事もあった。

 何年も戦い続けて、少しずつその感覚がマヒしていく事への恐怖もあった。

 それを割り切るのに、幾千の夜を乗り越えてきた。


「……ステータスなんて、飾りなんだよ」


 精神力の高さで乗り切れるものなんかじゃなかったのだ。

 軽い気持ちで、精神力が高ければどんな精神的な負荷にも耐えられると挑んだ結果、幾度となく胃の中身をぶちまける結果になった。

 シュンはとりわけ酷かった。なまじ今の姿と現実世界の姿が近かったせいで、ここが異世界だからと割り切る事も出来ず、日々憔悴していく姿を誰よりも近くで見てきた。

 だが――アイツはそれを数百年とたたずに克服し、そして万を超える屍を築き上げた。築き上げてしまった。


「……お前が抱えてる物は理解してるさ、カイヴォン。だが――俺達が背負い込んで来た物も、踏み越えてきた物も、同じくらい重いんだよ」


 だからこそ――俺はどちらの勝利を願えばいいのか、分からなくて。

 けれども、今逆境に追い込まれながらも、正面から切り合うその姿に嫉妬にも畏怖にも似た感覚が沸き起こる。

『お前は、この世界でも常軌を逸している』と。


「っ! またカイ君の技が潰された」

「……技の早さがあまりにも違いすぎます……」


 諦めたように二人の戦いを見つめているリュエとレイス。

 そこから漏れる言葉に、こちらも視線を集中させる。

 カイヴォンが剣を構え始めたら、もう既にシュンは攻撃を終えている。

 恐らくカイヴォンはまだ、ゲーム時代のモーションを取らないと技を発動させられないのだろう。

 意識の切り替え。技を発動させるイメージを練ってから動くのでは、追い付けんよ。

 もう俺達は身体に染みついてしまっているんだ。

 そして潰すために発動された技にも拘わらず、数瞬遅れてその斬撃が再びカイヴォンの身に刻まれる。

 攻撃速度も、手数も、技の制度も、比べようがない。

 だがそれでも今立ち続けていられるのは、その身に宿っている、不可思議な回復力の賜物なのだろう。

 あれは一体なんなのか。リジェネやそれに類する魔術だろうかと疑うも、その回復力や持続時間がこちらの知識と合致しない。

 桁違いの回復力だ。装備の力を失っている筈なのに、これはどういう事なのかと疑いの眼差しを向ける。


 丁度その時、もう何度目になるか分からない致命傷たりえる一撃が、カイヴォンの身体を貫いた。

 背中から飛び出る血飛沫に、隣の二人の悲鳴が上がる。

 ……なぁ、もう倒れとけよ。俺に託した願いなんて忘れて、負けを認めちまえよ。

 お前、頑張ったよ。もう十分だろ。

 どんなに出の早い技を使おうが、もっと出の早い技には追いつけない。

 絶対に……絶対にお前は勝てないはずなんだ。

 なのに何故――


「……なんで、だよ」


 何故、何故震えが止まらない。

 二人の内どちらかが命を落としてしまうかもしれない事への恐怖か?

 いや……違う。これはそんなものじゃない。

 悪寒が、まるで実態を持って背後に佇むかのような、今にも迫ってきそうな不安。

 不気味な感覚に、震えが止まらない。これは『あの願い』の所為か。

 その時だった。大きな衝撃音が響き渡り、この場に居るすべての人間が思わずたたらを踏む。

 正面から、ついに真正面からシュンの一撃を受け止めて見せたのだ。

 ……お前、おかしいよ。なんで食らいついていける。どんな道を歩んで来たら、心折れずに挑み続けられる。

 気がつけば、カイヴォンの姿が『よく見知ったあの姿』になっていた。

 最も強く記憶に刻まれている、仰々しい衣装に身を包んだその姿。

 悪寒を具現化したかのような禍々しいその姿に、つい変な笑いを漏らしてしまう。


「……放浪魔王が、ついにここまで来ちまった、か」

「カイ君……本当に、本気で……」

「……止めるなら今の内ですよ、ダリアさん。このままでは不幸な結末にしかなりません」


 二人の物言いに、恐らくあの姿がカイヴォンの本気なのだろうとあたりを付ける。

 だが――余りにもその考えは甘い。俺達が歩んできた道は、そのくらいで追い付けるほど短く平坦なものではないのだから。

 次の瞬間、戦場の隅々まで行きわたるような威圧感が、衝撃波がこちらの結界に強くぶつかる。

 それは技ではなく、ただの覇気。全身から察せられるある種のエネルギー。

 そして両者の剣が光を纏う。

 二人の口から出た言葉は、互いの持つであろう必殺の一撃。

 カイヴォンの『天断“絶”』とシュンの『極光“滅”』

 単発火力に特化した、似た性質を持つ二つの技。

 恐らく一か八かの掛けに出たであろうカイヴォンの一撃に、シュンが重ねるように発動させた形だった。

 後出しにも拘わらず、やはり先に発動したのはシュンの一撃。

 紺の光を纏った極大の一撃が、カイヴォンへと迫る。

 身体に触れる寸前で、カイヴォンの一撃が間に合い、極大の一撃がシュンの身体へと迫る。

 だがそれでも、先に攻撃を受けたのはカイヴォンだった。

 絶叫が木霊する。

 そして少し遅れて、シュンのうめき声が微かに聞こえる。


「……これで、終わりにしてくれ」


 閃光の余波で眩んだ目に、再びその光景を映し出す。

 ようやく、攻撃らしい攻撃を受け、肩を抑えるシュン。

 そして――


「う……そだ……」

「そんな、カイさんが……負けた……?」


 千切れ飛び、一枚だけとなった翼。

 仮面が砕け散り、地面に白い欠片が四散する。

 崩れそうな、罅だらけの角と、ボロボロの衣装。

 剣を両手で掴み、杖のようにしてかろうじて満身創痍の身体を支えているその姿が、ゆっくりと沈み、膝をつく。


 だが、同時に再び襲いかかる不安に俺は、ついに、この戦いに口を出してしまう。


「シュン! 早く、早く終わらせろ! 今すぐ沈めてしまうんだ!」


 ダメだ、まだ気を抜くな、そいつは俺に、俺になんと願った?

 思い起こされる、あの夜の会話。

 あの時お前は俺に――


『俺にもしもの事があれば、その時は――』


 俺に、その約束を果たさせないでくれ。

 それを予感させる前に――勝負を終わらせてくれ。


『どうか二人に、俺の姿を見せないようにしてくれ』


 悪寒が、恐怖が、限界へと到達する。

 俺はつい、周囲の目があるにも拘わらず、声を大にして呼びかける。


「今すぐ止めを刺せ! そいつは、そいつはカイヴォンなんかじゃねぇ!!!」


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