二百九十三話
(´・ω・`)今日のTGSの為に現在東京のホテルでくつろぎ中
「よう。敵対の言い訳は出来たかよ」
「ダリアか」
日が昇る前。後一◯分もすれば朝日に照らされるその場所で、一人佇む彼の元へ。
こちらのかけた声に然程興味を示す様子も見せず、ただ平坦な声でそれに応える。
シュン、今日だぞ。ここに、カイヴォンが来る。
ここにお前がいると、剣を交えると覚悟の上で来るんだ。
「言い訳はしない。ただ――俺の望みの為に俺はここに立っている」
「……お前にだけは言っておく。アイツは、今日起きることに薄々感づいているぞ」
「だろうな。メッセンジャーがお前じゃあ、そりゃ気がつくだろ」
「……ワザと俺を行かせたって意味か」
「イエス。そうじゃなきゃ、万全のアイツと戦えないだろ」
平然と述べられた答えに、まさかこいつはカイヴォンと闘いたいが為だけに今の状況を受け入れたのかと、強く睨めつける。
けれども同時に、それを理解出来る俺もいる。
渇望、嫉妬、責務、正義、願い。
そのどれもがこいつの内に眠る感情なのだと、理解出来てしまう。
だが――状況が、悪すぎる。これは、もはや公平な闘いではない。
カイヴォンがいくら準備を整えようが、ここ『公正の釜』では関係ないのだ。
「……戦いを望んでいるとでも? 崇高な目的を掲げるフリはやめろ。お前はただ、八つ当たりがしたいだけだろ」
「そうかもな。どのみちこちらは負けが許されていない状況だ。俺の敗北はそのまま――お前がアイツの為に道を整えるための合図にでもなっているんだろ?」
「さすが相棒、よく分かってんね」
「賢いやり方とは思えないけどな。お前が思っているよりも、この国は強かだ。たとえ王が罪を認めようが、そんなものフェンネルに握りつぶされるさ」
「だが俺がいる。この国には、俺がいるんだ」
「……聖女の威光なんざ、お前が思っている程万能じゃない。お前は綺麗なままでいすぎたんだよ」
「綺麗好きなもんでね」
いつもよりも少しだけ饒舌な相棒の姿に違和感を覚える。
それは緊張なのか、それとも罪の意識なのか、はたまた他の何かなのか。
……ああ、なるほど。
「安心しろ。俺は結果に従う。お前が勝てば、しっかりカイヴォンに立ちはだかる障害として歩む道を選んでやる。それに――お前だって俺の友人だ。この長い歴史の中、俺の隣にいたのはお前だ」
「それを聞いて安心した。そうだな、恐らくフェンネルはカイヴォンが敗北したあかつきにはなにかの実験、研究に利用するつもりだろう。それに、リュエへの執着も尋常じゃない。なんらかの動きがあるはずだ」
「……その時は、せめてアイツらが不幸にならないように、動くさ」
「……羨ましい話だ」
最後の呟きを境に、背を向けて瞑想に戻るシュン。
その時、ゆっくりと朝日が上り、その姿を照らす。
その表情は窺えないが、こちらへと伸びる色濃い影が、まるでこいつが背負っている物を表しているかのようで、少しだけ、胸が傷んだ。
今日、ここで決まる。恐らく、あいつが思っているような展開にはならない。
シュンも、カイヴォンも、そしてフェンネルですら、今日の戦いがどんなものになるか想像出来ないはずだ。
ここに集う兵士も、カイヴォンの仲間も、誰も彼も。
舞台から離れ、最終調整の為に結界の境界へ向かう。
最後にもう一度振り返り、顔に刺さる朝日に目をしかめる。
「……俺は、頼まれてしまったから。シュン、間違うなよ、チャンスは、逃すなよ」
「良かったのかい。誰にも言わずに出てきて」
「どうなるか分からないんだ。巻き込むわけにはいかないさ」
「そう、ですね。全てが上手く行く保証もありませんし」
都市の裏手。行商人が共和国側に抜けるための使う門の脇にある運河の船着き場で、用意されていた小型のボートに乗り込む。
国の許可を得ている証である紋章を描かれた帆を持つこの船は、検問で止められる事がないという。
だがその反面、天然の川を利用した運河である為川を上ることが困難であり、実質都市から出る事しか出来ないようになっている。
まぁ、だからこそ検問が緩いのだろうが。
つまり、一方通行だ。ここから出たら再度都市に入るのは難しく、今日待ち受けている試練を乗り越え、ダリアの正式な協力を得られない限り、ここに戻る事が出来ないと見て良い。
「これはただの船みたいだね。魔導具や機械仕掛けもないみたいだ」
「なるほど……あの、方向転換をするには舵の操作が必要なんですよね? でしたら私が」
「やっぱりこういう仕組みが好きなんだねレイスは」
「は……はい。あ、凄いです。水の抵抗を手に感じます」
何も知らない二人が、楽しそうにボートの様子を探る。
その姿を見て、こちらも心を落ち着かせる。
大丈夫だ。何も、何も気負う必要はない。
この川を下り、少しすると大きな山が正面に見えてくるそうだ。
その山の麓にある桟橋で降り、道なりに進めと言われているのだが……まだかかりそうだな。
なら、暫しの間このクルージングを楽しむとしようか。
「あのさぁ、お前が図太いってのは知ってるけどさぁ?」
「よう、待たせたか?」
「いや待ってないけどさ? なんで君達三人してそんな事してるん?」
舟下りを始めて一時間程。ようやく見えてきた桟橋には、既にダリアがこちらを待ち構えていた。
その姿を見た瞬間、リュエは気持ち嬉しそうに顔を上げ、そしてレイスもどこか気まずそうな表情を浮かべていた。
そして桟橋についた直後にかけられた言葉がこれである。
「だって川だし」
「川だしじゃないが」
「ボートの上だし?」
「上だしじゃないが」
「魚泳いでいそうだし?」
「そりゃ泳いでるが」
「いいじゃん。大漁だぞ」
すまん。二人が釣りを始めたのでつい。
なんかすっごい爆釣だよこの川。マスそっくりな魚ばかみたいに釣れたよ? アイテムボックスのストック数が四七匹だよ。
「……分かってるんだよな」
「おう」
「はぁ……さて、じゃあとりあえず降りてくれ。こっちにも段取りがある」
ダリアに連れられ、川の傍にあった小屋へと連れられる。
恐らく、これから『嘘の』段取りを始めるのだろう。
屋内に用意されていた椅子につき、ダリアの話しに耳を向ける。
「さて……挨拶が遅れたな。恐らく、そちらはもう俺と会っているって認識なんだろうが、改めて言わせてもらう。久しぶりだな、リュエ。そして……久しぶりだな、レイス」
「本当に、本当に久しぶりだね、ダリア」
「ええ、お久しぶりです。その……実は――」
「言わなくても分かってるさ。まさか、あの時のお姉さんだとはね。髪の色や羽の有無だけで気がつかないなんて、案外俺達も抜けてるな」
最初に交わされる挨拶、そして再会の言葉に、奇妙な会話が混じる。
レイスと会っていたのか? それについて尋ねると、なんと驚くべき答えが返ってきた。
ダリアとシュンの二人がセミフィナルの収穫祭に訪れた際、レイスと会っていたというのだ。
それどころか、俺達の屋台のメニューを食べていたと。
「そういえば、あの時一緒にいた方はもしや……」
するとレイスが更に追い打ちをかけるようにその話題を口に出す。
シュン。この後恐らく俺が闘う事になる相手。
思いもよらぬ場所からその人物の話題が出てしまい、つい反射的に表情が動いてしまうのを自覚する。
それはどうやらダリアも同じだったようだ。数瞬遅れてレイスの言葉に反応を示す。
「あ、ああ。あれはシュンだ。つまり、俺と同じくカイヴォン、リュエ、そして君の古い友人だよ」
「そう……なのですか。私は、皆さんの事を殆ど覚えていないという身なのですが、それでも、友人と思ってもいいのでしょうか」
覚えていなくても、向こうは憶えている。
その状況に陥らないと、今レイスがどんな心境なのかは推し量ることは出来ないけれど。
そして今、新たに友人が出来るかもしれないという場面だというのに、もしかしたら決別の道に進んでしまうかもしれないと思うと、酷く、彼女が不憫で。
どうしても、この関係を崩したくないと、願ってしまう。
「まぁ、こちらも結構記憶が曖昧なところがあるわけだが……少なくとも俺は、これから友人として付き合っていきたいと思っているよ」
「そ、そうですか。それは、とても嬉しいです。状況が状況です、もしかしたらなんて、そんな想像をしてしまうこともありました。けれど、ダリアさんにそう言って貰えると、なんだかとても心強くて……凄く、安心出来ます。そうですよね、カイさん」
「ああ、本当に」
一時の邂逅。昔の思い出話を語るには短すぎて、状況が許してくれなくて。
それでも、この今の時間は、オインクが渇望した状況、風景に近いモノで。
最愛の二人と、現実世界において誰よりも親しかった友人が揃っている今という時間が、かけがえのないものなのだと、再認識出来て。
きっと、同じ事を考えているんだろう?
『このままで終わってくれればどんなに良いか』と。
けれどもそうはいかない。
ふいに、ダリアが立ち上がる。
まるでこれ以上ここに居てはいけないと自分に言い聞かせるかのような勢いで。
「さて。じゃあ俺は準備がある。もうすぐ儀式が始まる。そうしたら山の頂上を目指すんだ。黒い壁が現われるから、そこを越えてくれ」
「気になっていたのだけれど、その儀式というのはなんだい? 王が動く以上、ただの祭事ではない、何か大切な行事なのだと思うのだけれど、それを邪魔するのはさすがに少し引け目を感じてね」
「まぁ、確かにかなり大規模な術式だが、別にそこまで特殊な意味合いはないんだ。一種の視察のようなものだから、気にせず入ってくれ。ただ――一度入ったら、全てが終わるまで絶対に出られない。それだけは覚悟してくれ」
それは、恐らくリュエだけでなく、俺にも向けられた言葉だったのだろう。
『決して逃げられない戦いなのだ』という、最終通告。
分かっている。だから俺は今日本気で、全力で、全身全霊で挑むのだ。
静かに頷き、ダリアへと視線を向ける。
心なしか悲しげに目を伏せ、迷いを断ち切るように踵を返す。
「じゃあ行ってくる。二十分もすればこの小屋の窓から光が見える。そうしたら来てくれ」
「あいよ」
「無事のお運びをお祈りします」
「私も、さすがに緊張してきたよ」
小屋からダリアが去る。
僅かな沈黙を破るかのように、レイスが口を開く。
「やはり、不思議な方ですね。少々話し方が男性的ですが、昔からなのでしょうか」
「そうだね、昔からダリアはあんな調子だよ。女の子らしさとは無縁っていう印象かな」
「まぁ……うん。そうだな」
まぁ元々が男な以上、女言葉で話すのに抵抗があるのだろう。
尤も、公の場で聖女として振る舞う場合はしっかりと割り切っている様子だが。
しかし、儀式か。恐らくその儀式は、こちらを縛るためのものなのだろう。
果たしてどんな制約を掛けられてしまうのだろうかと、少しだけ心臓が鼓動を早める。
……だが、たとえどんな制約、呪縛、負荷、ハンデをかけられようが関係はない。
ただ今目の前にいる二人の身さえ無事ならば、俺はいくらでも戦えるし、諦めずに挑み続ける事が出来る。
「……カイ君、随分緊張しているね」
「ん? そうかい?」
「そうですね。少し顔が強張っていますよ?」
「ははは……旅の最初の目的を果たすまであと少しだと思うと、やっぱりね」
「そう、ですよね。では先の事を考えましょう。リュエと王様が和解……というのでしょうか? わだかまりがなくなり、そして今すぐでなくても、差別がなくなったらどうするかを」
「ふふ、そうだね。私としては……今度こそブライトネスアーチを見て回りたいかな。王城の中とか、かなり密度の濃い魔術式で覆われていたからね、後学の為に見ておきたいかな」
「なるほど。カイさんはどうですか?」
「俺は……」
俺が今、それを口にしても良いのだろうかという葛藤が一瞬生まれる。
けれども、確かに先への希望、望みは俺も持っている。
この目的が、この問題が片付いたら――
「俺は、国境にあるっていう街に行ってみたいな。かつてリュエの為に料理を用意してくれた人間の末裔だって生きているかもしれない場所らしいし、何よりも面白い料理だった。どんな物が他にあるのか見てみたい」
「ああ、あの『魔女のつまみ食い』の事だね。なんとも恥ずかしい名前だけれども、あれは大好物だからね。今も根強く残っているみたいだし、私も行きたいな」
「ふふ、いいですね国境の街。私はそうですね……まず隠れ里から続いているという共和国側の出口、そこに行ってみたいです。そこもある意味では、リュエと関わりが深いと言えると思いますし、何か文化やお話が残っているかもしれませんし」
「なるほど……ナハトの一族が関わっているかもしれないね。うん、そこも是非行ってみたい」
旅のこれからを語る。楽しそうに、瞳を輝かせながら。
未来へと思いを飛ばす。希望の未来を信じ、先の幸せを願う。
眩しくて、楽しくて、幸せな言葉が飛び交うこの瞬間が、こちらの最後の決意を固めてくれて。
その時だった。どこか遠くで大太鼓でも叩かれたかのような、そんな空気の振動を胸に感じた。
もしやと窓の外を見やれば、山の山頂から一筋の光の柱が伸び、それが空にぶつかり、黒く色を変えていった。
ドーム状に広がっていく漆黒の闇。まるで、俺とダリアが森で戦った悪魔を思わせる不気味な雰囲気に、ゴクリと唾を飲む。
「あれは……なんだか不吉だ、嫌な予感がする」
「必要な儀式、というのは、もしかしたら何かに対しての鎮魂なのでしょうか……」
立ち上がり、扉を開き二人へと振り返る。
どこか緊張した面持ちの二人を解きほぐすように、軽い口調で言ってやる。
『なぁに、俺とダリア、それに二人がいるんだ。どんな事が起きても問題ないさ』と。
「これは……なんだい、知らない術式だ」
「ということはダリアさんによるものなのでしょうか」
「そうかもね」
その黒い壁に手を触れようとするも、何もないかのようにすり抜けてしまう。
光の膜というよりも、実像を持っているのではと思えるほどの存在感を放っているにも拘わらず、触れられないというのがなんとも不気味だった。
すると、俺よりも先んじてリュエがそこに飛び込もうとした。
「ストップ。出来ればみんな一緒に入ろう」
「なるほど、一緒の方がいいかもね」
「では、どうぞ」
差し出されたレイスの手を取り、そしてもう片方の手でリュエの手を取る。
そして、こちらの動きに合わせて二人も一歩踏み出し、その闇へと飛び込んだ。
視界が一瞬だけ塞がれる。そして、次の瞬間何か見えない力で、二人の手から引き離されるのを感じた。
そして闇が晴れるとそこは――
「……なるほど、ああ、おあつらえ向きだな」
「造形は、そうだな、ギリシャのコロッセウムをイメージしたんだが、術式の関係でひっくり返したドーム状だ。底の部分はこの通り平面だが、端へ逃げようとすれば坂道で動きが鈍る」
「まるで中華鍋の底だな」
「分かりやすい例えだ。さて、じゃあ……久しぶり、とでも言っておくか?」
シュンがいた。
現実世界の姿と、髪色しか変わらない、シュンがいた。
少し低い身長は、その童顔もあいまって、高校生と中学生の中間にしか見えない。
だが、確かに感じる。まるで巨木の前に立たされているかのような、圧倒的な威圧感と、ある種の神聖性。
友好的な空気がないというだけで、敵意を向けられているでもないのに萎縮してしまいそうになる。
「一緒に入った二人はどこだ?」
「後ろにいる。とはいえかなり距離があるが。一応、ギャラリーとして不測の事態に対処するための精鋭騎士八◯名、術士七◯名がいる」
「そんな大勢で見られると恥ずかしいな」
「抜かせ、そんなタマじゃないだろうが」
仏頂面、というべきだろうか。
少しだけ不機嫌そうに、バツが悪そうに語るシュンは、どこか他人行儀で。
それがきっと、本来ならば当たり前の反応なのだろうと、割り切る。
改めて周囲を見回す。
広い、あまりにも広いこの舞台に、これから起きる戦いがどれほどの規模になってしまうのかと、微かに身震いしそうになる。
これは、山そのものをくり抜いて作った場所なのだろうか。
なんの目的で? 明らかに戦いを前提にしているかのような形状に、少しだけ嫌な予感が脳裏をよぎる。
「んじゃあ、やるのか?」
「ああ。剣を抜け。こちらはもう、準備万端だ」
「好戦的だな、随分……まぁこっちも覚悟の上なんだが」
アイテムボックスから剣を取り出す。
そして、背を向けて少しだけ距離を取る。
その時、遠くにダリア、そしてレイスとリュエの姿を捉えた。
そして、何かを必死に叫んでいるのが見て取れた。
まだ猶予はあるだろうと[五感強化]を自身に付与して、その言葉に耳を澄ます。
『どういうことだいカイ君! 私の約束は、どうしたんだい!』
『ダリアさん、これはどういう事ですか』
『ああ、動くな動くな。この席からは出られんよ。もう、終わるまで見てるしかない』
『ダリア! 騙したのかい、私を、カイ君を!』
『ああ、騙した。騙さないといけないと、カイヴォンも理解した上で乗ってくれた』
『んな!? カイ君! 説明をしておくれ! 剣をしまうんだ!』
ああ……すまない、まさかそこまで怒るとは思わなかった。
目に映るのは、今まで見たことがないくらい怒り心頭といった様子のリュエ。
そして、射抜かんばかりの視線をダリアに向けているレイス。
そして……心底困ったかのような表情を浮かべたダリア。
「……随分と愛されているな」
「ん、お前聞こえていたのか」
「空気の震えで分かる」
そいつはなんとも恐ろしい。
距離を取ったところで再び対峙する。
そして、最後にこの相手のステータスを覗き見る。
悪いな、もうここから勝負は始まっているんだ。
【Name】 シュン
【種族】 ヒューマン
【職業】 剣聖(50)剣豪(50)
【レベル】 411
【称号】 蒼星の騎士
伝説を継ぐ者
神域に至る者
最果ての剣聖
デスブリンガー
魂を捧げし者
永遠の挑戦者
終わりなき求道者
お姉さんキラー
【スキル】 極剣術
【ウェポンアビリティ】
[追閃]
[剣聖の指針]
[抜刀加速]
[万象切断]
清々しいほどに剣術のみを極めたそのステータスに畏怖を覚える。
あれは、間違いなく『究極の一』だ。俺の手数やバリエーションとは対極に位置する、ただひたすらに剣を極め続けた人間の証だ。
……こいつは、少々恐ろしいな。
けれども、例えどんな攻撃であろうとも、俺は今日『絶対に負けない、負けようがない構成』で挑んでいるのだから。
自身に[生命力極限強化]を付与しなおしたところで、剣を構える。
「……さて、言い忘れていたが――」
その時、対峙していたシュンが口を開く。
そして――脳裏に響く、聞き慣れた、けれども聞きなれない言葉。
「悪いが、お前の装備を縛らせてもらう」
『PvPハンディルール』
『ハンディキャップが課せられます』
『プレイヤーKaivonの装備の能力を一時的に初期化します』
『プレイヤーSyunの装備性能を一時的に強化します』
「おいおい……そりゃ反則だろ……」
ああ……もっと警戒すべきだった。
今思えば『あのスキル』だけ、異彩を放っていた。
ダリアの持つ『デミ・プログラミング』まさか……そこまで出来ちまうのかよ。
「さて……この場所の名は『公正の釜』本来であれば同じ条件で高め合う為の場所だが……少々悪戯をさせてもらった。なるべく抵抗はしてくれるなよ」
「……おーけーおーけ、そんじゃ死にものぐるいでいかせてもらう」
……クソ、こいつは、本当にダリアにお願いする事になっちまうかもしれないな。
(´・ω・`)今日の夜は友人とオフ会じゃオフ会じゃ