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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
十二章

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二百八十四話

(´・ω・`)秒読み

「あー……本当美味しい……これなに?」

「タルトソレイユって言うんだ。大人数向けのおつまみみたいなものだけれど、ここでは少量ずつ販売しているんだよ」

「へぇ……中に入ってる具は……トマトと?」

「市場で捨て値で売られていたよく知らない魚」

「エ゛!」

「大丈夫、食用の魚だから。見た目と捌きにくさで不人気なだけだから」


 約束通り開店時間と同時に訪れたアマミを、調理場に一番近いカウンター席へと案内して貰い、今日からこの店のメニューに加わった一品を振る舞う。

『タルトソレイユ』いわゆるパイだ。簡単な工夫で出来上がりを美しく仕上げられるこの料理は、ちょっとしたホームパーティーなんかで振る舞うと歓声があがることもしばしば。

 簡単なんだけどなぁ、これ。

 今回はパイをまるごとでなく個人用に少しずつ提供する為に、焼きではなく揚げて作ってある。

 つまり揚げパイの状態なのだが、これが今日仕入れた魚とよくマッチしている。

 どうやらこの魚、港から運ばれてきたのでなく、川で泳いでいる、普通にこの辺りで捕れる方の魚だとか。

 まぁぶっちゃけナマズみたいな見た目なので、ナマズ向きの方法で調理した訳だ。

 香辛料と香味野菜、そしてトマトと一緒に煮込み、肉味噌のような状態にしてからパイ生地で包んで揚げる。

 多少手間だが、うまい。ナマズと聞いて敬遠する人間もいるかもしれないが、それはあくまで汚い川で釣れる魚というイメージが先行しているからだろう。

 まぁ……この世界って川が汚れる要素である廃液やら化石燃料やらとは殆ど縁がありませんからね?

 一応、この世界での研究分野である魔導具や錬金術の関係で、薬品を下水に捨てる事も、もちろん生活排水も存在しているのだが。

 が、このあたりもさすがの魔法。リュエが使う『ディスペルアース』程ではないが、浄化能力を持つ魔法も存在しており、それを応用した魔導具も存在している、と。

 ……もうこっちの世界の方が文明的に進んでるんじゃないですかね一部。


「お酒も美味しいけど、なんだかお酒って感じしなくて危ないね。グビグビ飲めちゃうし」

「どうやらこの都市の人達は果実酒が好きみたいだからね。そういうカクテルを多く用意してみたんだ」

「ライム大好き。このシュワシュワも好き。これって錬金術の薬品屋で取り扱ってる生成用水だよね」

「イエス。さすが魔術国家。炭酸水が大量に手に入るのでカクテルの幅が広がる広がる」

「産業の幅が増えるのはいいことだけど、研究者の皆は複雑かもね」

「ところがどっこい。ほら、あの角のお客さん見てみな」


 本日も既に満員の店内を見回し、その一団を見つける。

 店の隅で身を寄せ合うようにしている、少々お疲れ気味の三人組が、幸せそうに杯を傾けているところだった。

 恐らくどこかの研究者なのだろう。この世界でも相変わらずインテリ感を醸し出す白衣を身にまとったその一団が、メガネを顔からずらしながら勢い良くカクテルを飲み干しているところだった。

 三人共、同じデザインのバッヂをつけていた事から、恐らくなんらかの機関に属しているのだとは思うが……。


「うわ、あれ王城区画内にある研究所の職員だよ。ダリア様の耳に届くのも時間の問題かも」

「お、マジでか。じゃあそろそろ変装でもするかね」

「……なんで?」

「驚かせたい。出来るだけ面白おかしく笑わせてやろうかと」

「……だめ。結構真面目にやらなきゃいけない場面だよね?」

「……俺から遊び心を奪ったら残るのはただのクズ野郎なんですがそれは」

「そんなことないよ」


 あ、待ってナチュラルにそんな心にキュンとくる事言わないで。


「料理が上手なうちは性格の悪い料理人としての価値があるじゃない」

「……そうかよチクショウ」

「ふふ。けど、それが二人の関係なら……それでいいのかもね。じゃあ私はもうこのお店にはこないよ。私がいたら、ダリア様が色々勘ぐっちゃうかもしれないし」

「あ、それもそうか。悪いな、アマミ」

「いいよいいよ。その代わり今日は沢山奢ってね?」

「……あいよ」


 注文を受けながら交わす会話は、不思議とこちらの心の負担を和らげてくれて。

 いつもなら頻繁に声を掛けてくれる他のお客さんも、今日だけはなにかおかしな深読みでもしているのか、ニマニマとアマミと俺の会話を眺めていた。

 時折聞こえる『そうかそうか、兄ちゃんにはいい人がいたのか』というからかいの声に、アマミが少しだけ反論したさそうにしていたが、それもまたなんだかおかしくて。

 久しぶりに、本当に久しぶりにリラックスした、どこか救われたような思いのする一時だった。

 客足も徐々に途絶え、店内に残っている客を最後にと、ミスティさんが外に閉店の札を下げに向かう。

 喧騒、楽しげな空気がかすかに残る中、最後の料理を味わうお客様の様子を伺う。

 うむうむ、残されている様子もない。ここ二週間で既に分かっていた事だが、どうやら俺の料理はしっかりと住人に受け入れられたようだ。

 内臓系、小さな魚、川魚、イカやタコ。

 あまり人気でない商品を使った料理という事でミスティさんも最初は不安そうにしていたが、しっかりと調理したこいつらの旨味は他の食材では得難い官能的な風味、濃厚さがある。

 そう、一度病みつきになってしまえば、もうここで食べないと気がすまなくなるくらいに。


「途中で大鍋でストックを作れるメニューを入れたのは大正解だったな」


 俗に言うモツ煮のように、その店に行けばすぐに食べられる名物料理のような、提供速度の早いメニューを一つ用意する。

 すっかり失念していたこの方法を取り入れることにより、それだけを目当てにやってきた客を早いペースで回すことが出来たのも、この流行のきっかけの一因だろう。

 新鮮な魚のキモやイカのエンペラ、タコの吸盤などを使ったトマト煮込み。

 ここにすべての中毒性を集約するかのごとく、とびっきり手間をかけたこの煮込み料理は、正直自分で作っておいてなんだが、卑怯だ。

 これを食べてしまったらもう……他の店で魚介料理を食べても物足りなくなってしまうのではないだろうか?


「……なんだかんだで、楽しかった、な」

「……まるで、もうすぐ終わりみたいな事を言うのね」


 つい、今日までの店の様子を思い出し呟いた言葉を、ミスティさんが拾い上げる。

 気がつけば、最後のお客も店を後にし、テーブルの上も片付いていた。


「……そう、かもしれません。もうすぐ、俺の目的が達成されそうなんです」

「……そう。今日、あのお友達が来たのが関係しているの?」

「いえ、彼女は関係ありません。ただ……俺は、ある人が俺の前にやってくるのを待っていたんです」


 せめて、理由を話そう。

 ここまで一緒に仕事をしてきた、そして俺に場所を貸してくれたこの恩人に。

 会いたい人がいるのだと。その為に、料理好きなその相手を誘い込むような場所が欲しかったのだと。

 語り終え、彼女の表情を窺う。

 利用された事への怒りでも、失望でも、悲しみでも、どんな表情であろうとも受け止める覚悟をして。

 けれども、そこにあったのはどこかホッとしたような、安心したとでも言いたげな優しい笑みを湛えた彼女の顔。

 藍色の瞳を細め、そしてゆっくりと閉じられていく。

 なぜ、そんな顔をするのか。


「そう……会いたい人が、いるのね。ふふ、やっぱり、私とどこか似ていたはず。なんだか貴方からは……私が言うのもなんだけど、危うい気配がしていたから。でも、貴方もまた、誰かに会いたくて、それで無茶をしていたのね」


 ……ああ。

 そうか、彼女もまた……そうだったのかもしれない。

 きっと、彼女は失い、そして在りし日の光景と一緒に、取り戻したかったモノが、人がいたのだろう。

 事情は少し違うけれど、根底にあった願望は、きっと同じだったのだろう。

 俺が、彼女を見つけたのは。

 彼女が、この場所に留まっていたのは。

 偶然かもしれないけれど、もしかしたら、惹かれ合った結果、なのかもしれない。

 そう思えると、なんだか胸の苦しさや、ここ数週間抱いていた焦燥感が消えていくようで。


「利用するような真似をして、申し訳ありませんでした。俺が目的を果たした後……もしもこの場所を持続したいと願うのならば、俺はここで使った知識を、レシピをお譲りします。それを餌にすれば、協力を申し出る人間も多いかと思います」


 実は、既にそういった打診を受けていたのだ。

 最初は『我々の店に来るつもりはないか』という引き抜きの言葉だったのだが、そこに俺が『だったら、あの店の為に働いてもいいという優秀な人間を用意してくれたら、カクテルや料理のレシピ、他にもまだ未発表のものも教える』と。

 もちろん、ただの口約束であるし、彼女にも話していない。

 最初はどうなろうが知ったこっちゃないと思っていたが、やはり非情にはなりきれなくて。

『人は敵か味方の二択』という俺の考えは、しっかりと俺に『味方を救え』と使命感を抱かせたのだ。

 彼女が、俺抜きでも平穏を享受出来るように、と。


「……うん、考えておくわ。やっぱり私は、ここの空気が、みんなの笑顔で満ちたこの場所にいるのが好きだから」


 ああ……ぜひ検討してみてくれ。俺も、この場所がなくなるのが惜しく思えてきたんだ。








 王城内部にある庭園。

 いわゆる中庭と呼ぶべき場所なのだろうが、少なくとも俺の知識じゃあこんな規模の自然公園を中庭と呼ばん。

 水底の小石の模様まで見て取れるほどの澄んだ水が静かに揺れる水芭蕉園。

 降り注ぐ陽光をキラキラと反射させる、高さ一五メートルにも及ぶ噴水。

 魔術の力で流れを固定化、そして起伏された、ガラスの存在しない水槽と呼ぶべき水壁。

 川魚がその中を泳ぎ回り、まさしくファンタジーな様相を見せるこの場所で、一人ベンチに座り、周囲の話に耳を傾ける。


「……水族館の話をしたら次の日には出来たんだっけな、この区画」


 ガラスもないのにしっかりと長方形に型どられた大量の水が並べられた、水族館と見まごう一角。

 聞こえてくる環境音に混じり、俺と同じようにこの自然と魔術の水が融合したこの場所で思い思いの時間を過ごす使用人や宮廷貴族、休憩中の研究者達の話し声が聞こえてくる。

 まぁ、本来は聞き取れないような距離、音量なんだがね。

 盗み聞きは情報収集の基本なんだよ。ビバ魔法。


『お前昨日でこっちでの仕事終わったんだろ? 早く研究所に帰れよ』

『ふふふ、嫉妬ですか? 私が聖女様に仕事を申し付けられた事への』

『くっ……』


 ……俺の人気は衰えを知らず。やだよ野郎に好かれても嬉しくもなんともないわ。

 そういえば研究所が細分化されたと聞いた。

 俺が今回調査を申し付けた健康管理の分野と、結界の維持管理、そして新たな術式の開発と、魔導具、魔法薬の開発。

 それぞれの分他に研究所が別れるのは良い兆候だ。競争心を煽り、それぞれの研究の効率化にも繋がるのだから。

 俺が知識を与えなくても、在り方を教えなくても。もうこの国は自分達の力でより高みへと登る事が出来る。

 既に、成長という流れに完全に乗っているのだから。


「……だったら飯の文化ももうちょいあがってくれんかね」


 ああ、ポテチ食いたい。もっと気軽に日本酒飲みたい。

 こう、ジャンク一歩手前の料理が食いたいのだよ俺は。

 ……まぁ尤も、そんな俗物的な願いを抱いているのは、もはや俺だけなんだがね。

 あまりにも、この国は豊かになりすぎた。そして野心が少なすぎるこの国は、行き着くところまで行った後はもう……奪われるか停滞するか、そのどちらしかないのだから。

 ああ嫌だ嫌だ。美味い店の情報を集めるつもりが、気がつけばこの国の未来ばかり考えてしまう。

 もうすっかり、俺は聖女としての思考が脳にこびりついてしまったみたいだ。


『ま、荷物は昨日のうちに移動しましたし、今晩は私の送迎会という事で……』

『昨日『仕事が終わった打ち上げ』と飲みに行ったばかりだろうが』

『さすがに連日は無理じゃないか、今あの店予約するのも難しいんだろ?』

『大丈夫です。開店と同時に向かえば! あの界隈は行列を作るのが禁止されていますから、チャンスはあります!』


 その時聞こえてきた話し声に一際耳を凝らす。

 ほう、人気の店とな。

 それはどこにある。

 おかしな話で、この国が出来た当初から、住人の間でこういった話題が上がる事が多かった。

 それは自分達の気質である、新しいものを拒むというものと相反する、新しい娯楽の話題。

 きっと、彼らは自分達の生活を強制的にかえてしまう物を嫌う反面、自分達の意思でその退屈になりかねない人生に一時の快楽を、エッセンスを加える事そのものには寛容的なのだろう。

 それは魔導具の開発であったり、新たな料理であったり、今俺を囲むこの水槽もどきであったり。

 ……文化の変化恐れながらも、新しい物を求める住人達。

 ……そうだな。国は成長しても、少なくとも住人達はまだまだ、子供だ。

 だからこそ、この国は少々、歪なのかもしれない、な。


「魚介の煮込みか……刺し身の方が好きなんだが、難しいだろうな」


 さて、場所はだいたい分かったし、今日は早めに城を抜け出すとしますかね。


(´・ω・`)2……1……

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