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二十五話

 (´・ω・`)←こいつ最高に

 遠目から見えていたが、巨大な城とそれを覆う広大な城壁。

 平原のど真ん中に唐突に城が聳え立つ異様な光景だ。

 街は全てあの城壁の中にあるらしい。


「ようやく到着したね。ローガン君、報酬は首都のギルドで受け取るのだろう? 城壁内に入ったらすぐ向かってもいいかい?」

「は、はい……本当に申し訳ありませんでした」

「ギルドへの案内だけ、誰か一人つけてくれると助かるんですけど、お願い出来ます?」


 幅5メートルはあるであろう堀と跳ね上げ橋。

 守りも堅牢な入り口を通りながら提案する。

 一秒でも側にいたくないんですね、わかります。

 幸い一人ギルドへ報告に向かう人がいるので、その人に付いて行くことになった。


 最後まで申し訳そうなローガンさんと別れ、先日俺の部屋へと来た女騎士さんと共にギルドへと向かう。

 何故か目を合わせようとすると真っ赤になって顔をそむけてしまうが、可愛らしいので気にしないでおこう。


「騎士くんはこの街に住んでいるのかい?」

「はいそうです。普段は街中の警護なんですけれど、今回急遽……」

「なるほど、災難だったね。そういえば私を探しにきていたんだって?」

「え、ええ。その、リュエ殿を呼んできてくれとカプル様に言われて……」


 あの男の専属って訳じゃなかったのか。


 街の中は夜にもかかわらず老若男女が自由に出歩いており、それが治安の良さを物語っていた。

 堅牢な守りに加えて、警備もしっかりした街。

 住人にとっては楽園のような場所じゃないか。


 通りを歩きながら、街の中央にそびえ立つ城を見上げる。

 あれが日本人を召喚した場所だと思うと、少し気になりはするものの、別に戻ろうとも思っていないしすぐに興味が薄れる。

 むしろ、過去にも日本人が呼び出された街ならば、その恩恵が根付いている可能性があるこの街の食事事情が気になってしまう。


「日本酒置いてねぇかな……」

「あ、ありますよ?」

「その話詳しく」


 騎士さん、今貴女凄い大事なこと言いましたよ。

 つい手を取ってしまう。


「是非、その場所を。出来ればどんな酒なのか、どこでいつ作られた酒なのか詳しく」

「あああああああのおあああのののの」


 くそ、熱暴走しやがったぞこいつ。

 季節はまだ冬なのにどうなってんだ!


「カイくん手を離すんだ。私が不機嫌になる」

「自分で宣言するなよ。ヤキモチかーこいつめ」

「よ、よせ」


 はいはいお手て繋ぎましょうねー。

 恋人つなぎである。これ地味に肩痛くなるんだよね、歩調が違うと。


「此方がラーク冒険者ギルド本部です。今の時間ですと人も混んでいないはずですよ」

「そうですか、有難うございます。日本酒の情報も有難うございました」

「い、いえいえ。では私は報告がありますでのこれで」


 ギルド内はまるで大きな市役所のような構造になっていた。

 要件ごとに分けられた窓口に、番号を表示する魔導具。

 オインクの影響だとは思うが、どこか日本的だ。

 幸い俺は黒いカードなので待つこともせず、依頼の達成報告へと向かう。


「失礼、依頼の達成と恐らくオインク総長から受け取る予定の物を貰いにきました」

「ではカードの提示をお願い致します」

「どうぞ」


 この広いギルドの建物も、そして今のギルドという組織も、創設者でこそないもののここまで発展させたのはオインクだ。

 そしてその頂点にいるのもまた。

 友人の偉業に、少しだけ自分が小さく見えて焦ってしまう。


「確認が取れました。カイヴォン様ですね。今回の報酬と、こちらのカードをお受け取り下さい」

「はい、有難うございます」


 手渡されたのは、黒ではなく青く透明なカードだった。

 金属でもガラスでもない手触りに、どう扱っていいのか躊躇してしまう。


「そちらのカードは錬金術士に特注させたブルーダイヤ製となっております。ランク名は『SS』実質総長の右腕といっても過言ではありません。後日正式に王家からも保証書が交付される手筈となってあります」

「具体的にどの程度の効力があるんでしょうか?」

「非常時にギルドに所属する全ての人間に対する命令権です。これは各支部のギルド長よりも上となっております。またここ『エンドレシア』大陸では公爵と同等『セミフィナル』では貴族制度が廃止されておりますが、各地方を治める領主と同等の力を発揮します」


 ……すげぇ。

 公爵と言えば王家に血の繋がりのあるやんごとなき方々じゃないか。

 それと同等っていうと、本当にオインク本人は王家に匹敵する力を持っているのか。

 内心、話を盛ってるんじゃないかと思ってたが、本当だったのか。


「今この時点より、最上階のサロンを含め、全ての施設をご利用になる事が出来ます」

「そ、そうなんですか。じゃあその、ここのレストランの食事なんかは……」

「全て、無料となっております」


 はい来ました。食べ飲み放題の権利頂きました。

 何を隠そう、日本酒を提供している店はここ首都に数あれど、一番品揃えが良いのがここのレストランだそうだ。

 ギルド所属の人間には割引、また一般開放もして冒険者と一般人との距離を近くするという役割もしているのだとか。

 有難うオインク、君の出荷は最後にしてあげよう。



「リュエの分の報酬、25000ルクスだ」

「ありがとう。こういう時カイくんのEXランクが羨ましいよ」

「ふふふ、実は今回SSランクに昇格したんだ。ほら見ろ、俺だけの為に用意されたランクとそのカードだ」

「あ! なにそれ凄い綺麗! 私のと交換しておくれよ!」

「さすがに無理だな。何か凄い功績を上げてオインクに相談すると良い」

「……七星さえ倒せば、いや私では無理だ……戦争でも起きたらそこで……」

「なに物騒な事言ってるのこの子」


 そこまでして欲しいか。


 その後、リュエにここのレストランの飲食代が無料だと教え、二人で向かう。

 ここの三階に出店しており、今日もだいぶ混雑している様子。

 すでに行列ができている上、待合スペースのイスも全て埋まってしまっている。

 そして、俺はそんな列の横を素通りして店内へと向かうのであった。

 この背徳感と優越感、そしてわずかな羞恥心! たまらん!


「お客様、ただいまご覧のとおり大変混雑しておりまして、申し訳ありませんが――」

「これを」


 スっと取り出すは青い透き通ったカード。


「……これがなにか?」

「え!?」

「申し訳ありません、最後尾へとお並び下さい」


 どうなってんだバァロォ!


「カイくん今どんな気持ち? ねぇどんな気持ちなんだい?」

「う、煩い! 黙って並べ!」


 あれですか、まだ連絡が細部まで伝わっていないんですか。

 そりゃそうだよなぁ、まだ交付されたばかりだし、新しいランクだしこうなるわな。

 迂闊でした。なんだかさっきから周りの視線が妙に集まっている気がするのは気のせいか。


「申し訳ありません、カイヴォン様ですか!?」

「はい、そうですが」

「当レストランの支配人の"チェザール"と申します。先程は失礼致しました! すぐにVIPルームへとご案内致しますので!」

「あ、はい。なんかすみません」


 受付から連絡が行ったのか、燕尾服にモノクルと言うまさにジェントルマンと言うべき壮年の男性が現れ、あれよあれよと店内へと連れて行かれてしまう。

 リュエも一緒だと断り連れて行く。

 あ、視線が集まってきた。でも今度は逆に居心地悪いぞコレ。


 案内されたのは、レストラン内にあるゆるやかな螺旋階段を登った先、店内の様子と建物の外を両方見る事が出来る個室だった。

 テーブル上のセットも、ぱっと見で高級だと分かり、さらに給仕のお姉さんが待機していた。

 が、今回は必要ないと退室をお願いする。


「なんだか凄い所だね。オインクに感謝しないと」

「……凄いな、本当に日本酒がある」


 早速メニューに目を通す。


『純米吟醸酒"豚に真珠"』

『雪中貯蔵ひやおろし"豚錦"』

『純米大吟醸"どんぐりの背比べ"』


 ネーミングは酷いが。


「ん、これは?」


 その中に一つ、他とは毛色の違う銘柄が一つ。


『特別純米大吟醸"絆"』

『ギルド総長オインクの贈る最上級の逸品 特別な人と飲む大切な一時に』


 ……これは、なんだろうな。

 その力の入れように惹かれ、注文をする。

 食事の前に飲む酒としては少々度がキツイかもしれないが。


「カイくん、知らない料理が沢山あるよ」

「けど豚肉の料理があからさまにメニューの最後の方に小さくまとめられてるのは頂けないな。とりあえず豚串盛り合わせ頼むか」

「……このお店にきて頼むような物じゃないよね」



 運ばれてきたのは、美しい鼈甲色の瓶だった。

 ラベルには達筆な筆文字で『絆』と書かれている。

 料理はまだ運ばれてきていないが、好奇心に負けて注いでしまう。


「あ、私が注ごうと思ったのに」

「そりゃもったいないことをした。美人の酌で飲む酒は格別なのにな」

「や、やめてくれそういう事言うのは……」


 恥じらうその姿もそのままに、美しい切子にも似たガラスの杯に口を付けて一献。

 瞬間、口内に充満する華やかな甘い香りと、空気を洗い流すような風味と旨味。

 喉を通る瞬間にはそのまろやかな旨味が一本の刀のような切れ味に代わり、スっと喉を通り抜ける。

 これは……辛口のくせに香りのせいで甘口と勘違いしてしまいそうな旨さだ。


「……良い酒だな。それに懐かしい」

「懐かしい? 飲んだことがあるのかい?」

「まぁリュエも飲んでみろよ」


 リュエに注いでやりながら、この酒について考える。

 ゲーム時代、皆に地元の酒の話を聞き、通販で買い付けて飲み比べていた。

 そして、お礼にと俺の住む場所で、一番好きな地酒を皆に配達した。

 住所を教えることにも躊躇しない程仲良しだって事を再認識した出来事だったが、この酒はその味とほとんど同じだった。

 そうか……オインクはあの酒をしっかり飲んで覚えていてくれたんだな。

 そして、ここで再現してつけた名前が『絆』か。


「……豚の癖に、生意気だな」

「ん? カイくん、泣いてるのかい?」

「気にするな。酒が変な所にはいってしまっただけだ」


 俺の心は変な所なんですよ。

 いいやつ


ちょっとまって何が起きたのポイントすごい増えてる

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