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二百七十八話

(´・ω・`)五巻発売まで残り5日切ったわよー!

「……城を抜け出している?」

「そう。任務で何度か城の催しに出席した事があるのだけれど、そこでちょっと耳にしたんだ。丁度去年、ダリア様が目覚めてすぐの頃だったかな」

「ふむ。しかし抜け出すとは穏やかじゃないな。外に大事な用事もであるのかね」

「それは分からない。けど、話していた人の口ぶりから察するに、ちょくちょく居なくなるみたいだよ」


 彼女からもたらされた情報。それは、ダリアが城を抜け出す常習犯だという事実。

 外出なら自由にさせてもらっても良さそうなものではあるが、あいつはもう、自分を自分の意思だけで動かす事が出来ない程の地位に立っている。

 慰問、技術指導、視察に鎮圧、そして『あの黒い影への警戒』。

 地位が高くなるにつれ、扱える力や許される行いも増えていく。

 だがその反面、その特権を行使する為の責任、責務が課せられる。

 そうだな、そんな事分かりきっている。オインクしかり、そして……その責任を背負う事を恐れた俺しかり。

 だとすれば、ダリアが城を抜け出すという事実には、どんな真実が隠されているのか。

 それを探る事こそが、俺の目的達成の近道なのではないだろうか。

 考え込むこちらを覗き込むアマミが、満足げに頷く。


「そういうこと。ダリア様がどうして抜け出すのか、そして何をしに行ってるのか。それを突き止めるまではいかずとも、予測する事が出来れば、ただ待つよりも目があるんじゃない?」

「……そういう事か。ああ、たしかに俺はあいつの友人だ。ある程度思考だって読める。……抜け出す理由、か」


 抜け出し、どこかへ向かっているのだとしたら。

 その行先を俺が予想し、待ち構えることが出来れば。

 考えろ。あいつは何故城を抜け出す?

 もし俺なら、俺が同じ状況ならどうする……城を抜け出したくなる理由はなんだ。

 そもそも抜け出すという事は『城の中にいては不可能な何かをする為』だ。

 ではその『何か』とは?


「……城の中は、特別不便だったりするわけじゃないんだよな」

「うん。そうだね、凄く快適で、息抜きも出来る自然公園みたいな庭もあるよ。あ! それだけじゃなくてね、まるで夢のような、水の中に入ったかのような水槽もあるんだ」


 城の設備について問うと、まるで夢見る乙女のような表情をうかべ、興奮気味に、どこか遠くに思いを馳せるように彼女が語る。

 ふむ、そこまで快適な空間ならば……不便を感じて外に向かうって線は無しか。

 だとすると『誰かに会いに行く』という線はどうだ?

 ダリアと親交のある人間に心当たりはないかと彼女に問う。

 だが、俺の思っていた以上にアイツの状況、環境、境遇は特殊だったようだ。


「親交のある人なんて、シュン様か結界の管理を任されている魔導師団の長くらいなものだよ。城の外に会いに行くとしたら、どこかの研究所か孤児院か、はたまた戦争被害にあった遺族の末裔か。どれもこれも公的なものだから、抜け出すとは思えないかな」

「本当にいないのか? こっそり会いに行って話したり、一緒に食事をしたり」

「うーん……一部の貴族がダリア様とつながりを持とうとアプローチはしているよ? でも、ダリア様は絶対にそういうのに出席しないって、何十年も前から言われているらしいし」


 ううむ……人に会いに行く線も考え難いとなると……逆か? むしろ人に見られたくない事をする為に抜け出しているのか?


「アマミ。この都市に色街はないのか?」

「……ダメ。教えない」

「なるほど、少なくとも存在はしていると」

「ああ~頭の中また読まれた~」


 いやこれはだから推理です。反応があからさますぎです。


「必要なのは分かるよ? だったらこの間の時ある程度――」

「勘違いしているようですが、あくまでダリアが必要としている可能性を示唆してるんです」

「……まさかぁ。ダリア様は女だよ? 確かにそういう人もいるけど……うーんダリア様はそういう話とは無縁だと思うけどなぁ」


 ……確かに言われてみれば、日本にいた頃からそういう浮いた話や下世話な話題とは無縁だったな、あいつ。

 あいつの出す話題はいつも酒かゲームか、面白いなにかを見つけたという話題ばかり。

 ……ふむ、ならばむしろ――

 俺は彼女に、この都市に存在する歓楽街や遊び場所を訪ねてみる。

 闘技場や賭博場のような場所だってあるだろう。

 いくら神聖な、規律の厳しい都市とはいえガス抜きくらい必要だ。

 そういった雑多で、粗野で、少々品のない笑いが絶えない場所くらいあるはずだ。


「う~~~ん……サロンでカードゲームやボードゲームをする程度しか私は知らないかな……言われてみれば、この街ってそういう遊びとは無縁なんだよね~。共和国側にはそういうのが盛んな街もあるんだけれど」

「マジでか……そこまでこの街って厳しいのか。みんなどこで息抜きしてるんだよ……」

「そうだねぇ、新しい魔導具めぐりとか、術式の開発とか、後は美味しいもの食べにいくとか……」


 本当、どこまでも健全な街ですね、ここは。

 しかしそうなると、いよいよもってダリアが抜け出した先が分からない。

 ……いや? 『美味しいもの』?


「……それだ。ダリアはきっと、なにか食べに行ってるんじゃないのか?」

「え~? この都市で一番美味しいものって満場一致でお城の食事なんだけど?」

「だが、個人の趣味趣向だってあるだろう? ダリアの好物とか、そういう情報はないのか?」

「うーん、そこまでプライベートな情報なんて出回らないよ。それに、私が諜報活動していた目的って、基本的に貴族の裏切り、他国との内通を探る事だったもん。ダリア様については特に詳しくは調べてないからなぁ」


 もし、俺がダリアと同じように責務に追われ、息の詰まるような城での暮らしを続けていたら。

 もし、毎日最上級の料理を提供され続けていたら。

 気安く食べる事を許されないような逸品や、気安く話せる相手のいない境遇や、そして自分を出せずに『聖女』としての振る舞いを日々強いられていたら。

 ……気晴らしに出かけたくなるのは当然だろうが。

 そして、俺達がそういうストレスを抱えた時はいつだって――


『あ~……そろそろ飲みに行きたいんだけど』

『お疲れ気味だな』

『頭のおかしい客ばかりなんだよ。そうだな、魚食いてぇ』

『……俺も来年は東京だ。そろそろお前も自分で店開拓したらどうだ?』

『だって俺どこが美味い店なのか検討もつかねぇし』

『……仕方ねぇな。んじゃ美味い刺身出してくれるとこ連れてってやる』

『おー、いいねぇ』


 ……いつだって、二人で飲みに行っていただろ。

 思い出すのは、久司との思い出。交わした言葉。

 いつもやつれ気味にそう提案するその姿に、俺は内心『美味いもん、食わせてやらねぇとな』なんて使命感にも似た思いを抱いていた。

 ああ、そうだ。あいつは変わってなんかいない。あの里でたった少し言葉を交わしただけでも分かるくらい、ダリアは久司のままだったじゃないか。


「アマミ。飲食店の密集する場所だけ教えてくれ。後は俺が目星をつける」

「本気? 本気でダリア様が食べ物の為に抜け出していると思っているの?」

「……ああ。あいつはそういうヤツだ。絶対に、間違いない」


 半信半疑だろう。国を支える聖女が、食べ物の為だけに城を抜け出すなんて信じ難い話だ。

 だが、俺とアマミでは認識が違う。俺にとってのあいつは――『美味い物が好きで、楽しい事が好きな、いつまでたっても子供のように人生を謳歌する男』だ。

 そこに聖女だ要人だなんだって役職や地位は存在しない。

 だからきっと、あいつは自分が自分でいられる為に、聖女を捨てられる一時を求めているはずだから――




「ではこれにて失礼しますアークライト卿。アマミの事、よろしくお願いします」

「ああ。何をしようとしているのかは聞かぬが、事がうまく運んだのなら、一度訪ねて来るが良い」

「カイヴォン様。貴方の事ですから、凶事をもたらすような真似はしないとは思います。ですが、どうかそれはご自身にも招き入れないよう、お願い致します」

「貴重なネックホルダーを失うのが恐いと見た」


 屋敷のエントランスで見送られる。

 そっと挨拶だけをして出ていくつもりであったのだが、どうやらアークライト卿に気に入られた……のだろうか。それとも、地雷を丁寧に撤去しようという用心深さなのだろうか。

 ……なんてな。ありがたく二人の言葉を受け止め、感謝の意を示す。

 そして、立場的に仕方ないとはいえ、後ろで控えていたアマミを押し出すように二人が動く。

 ……きっと、レイラ自身もどこかアマミに親しみを憶えているのだろう。

 彼女とは交わすべき言葉をすでに交わしている。後はただ、別れの言葉を告げるだけ。

 そう、思っていた。けれども、まるで何か大きな荷物でも抱えているかのような、少しだけ切羽詰まった顔をした彼女の姿に、疑問と心配が湧き出す。

 何故そんな顔をする。そんな、まるでもう二度と――――ああ、そうか。


「…………用事が済んだら、絶対に戻ってきて」

「俺は約束は破らない。やるべき事が済んだら、きっとあの場所へ行く」

「……そういう意味じゃないけど、そういう事にしておくね」


 大丈夫。里長のこと、忘れたりなんてしていない。

 ダリアをもしこちら側に引き入れる事が出来れば、少なくとも今よりは事態が進展する。

 だが、その意図を乗せた言葉に、少しだけ彼女の表情がすぐれない物になってしまった。

 どうしたのかねアマミさんや。笑顔プリーズ。


「……上手くいかなかったら、逃げて。一ヶ月くらい逃げて、どこかに隠れて」

「……そういう訳にもいかんでしょうに」

「だめ。絶対」


 そして暗に『何かあれば隠れ里に逃げて』と提案されてしまう始末。

 大丈夫、大丈夫だって。そんなに心配せんでおくんなせぇ。

 ここに来て、今までにないくらい不安そうな表情を浮かべる彼女が、なんだか可愛そうで。

 そんな姿が『彼女』に重なってしまって。

 だからつい……本当に久しぶりに、この腕を伸ばす。

『彼女』にするように、その頭の上へと。


「……安心しろ。俺は失敗はせん。上手く行かないと失敗はイコールじゃないんだ」

「わ、こら。だめ、髪がめちゃめちゃになる」


 なでりこなでりこ。やっぱり少し感触が違うな。

 なでりこなでりこ。この器用で不器用な。優しくて厳しい、そんな友人に。

 あとお前は頭こっちに向けんなレイラ。首しめろと申すか。

 アークライト卿睨むな。友達同士のスキンシップくらい多めに見てくれい。




「歓楽街は城を挟んで反対側……随分と遠いな」


 屋敷を出て貴族の屋敷が密集している区画から足早に抜け出し、アマミに手渡されたこの街の全体図を広げる。

 この街は巨大な川が途中で四股に分かれ、それぞれが街の中を通り、そして街を抜けたところで再び合流するという、少々変わった地形をしている。

 まるでこの都市が大河を割いているかのような有様だ。

 現在地は街中央の王城区画から南東に位置する場所。歓楽街までの直線距離はそこまでではないのだが、いかんせん通り抜ける事は不可能なのだそうだ。

 従って、ぐるりと城の周りを通って反対側へと向かわなければならない。

 まぁ歓楽街と貴族の居住区がなんの隔たりもなく隣接していたら色々と都合が悪いのだろう。


「さてと……じゃあこの川を残り三本渡って回り込みましょうかね」


(´・ω・`)報酬期間終わるまでにゼイネがクリファドのアームユニットください……

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