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二百七十七話

(´・ω・`)発売まであと少し! そしてコミック版も次号が山場!

『ネアンデルタール人を絶滅させたホモサピエンス』

 諸説あるが、最も有力な説としてあげられる、俺の元いた世界における人類創生の歴史。

 それは『より優れた種族が劣った種族を駆逐する』という、原初より今に至るまで続く争いの根源にあるであろう本能によるもの。

 ……何故そんな事を今考えているのか? 答えは簡単だ。


「……この大陸の種族を……激減させ奪い取った国、ですか」

「……そうだ。我々は、この大陸における侵略者の末裔だ。それ故に、我々の根底にあるのは『優れたものが上に立ち、劣るものには何をしても良い』という歪んだ思想だ」

「……自覚があっても、変えようとは、治そうとはしないのですか」

「恥ずかしい話だが、私はもう染まりきっている。だが娘は――そうではない。ある一定の身分以上の人間は皆、多から少なかれそういった教育を施される。無論、それは我らブライトにのみ続く風習ではあるのだが、そんな人間に支配され続けているこの国の人間はどうなると思う?」

「……その思想が、少しずつ浸透していく。そして……最後にはその捌け口となる最下層の存在が必要になってくる、と」


 ああ……多少理由は違えど、だから白髪のエルフという存在がこんな歪な形で根付いてしまっているのか。

 なぁおい。どういうことだよ。ダリア、シュン、どうして放っておいているんだよ。


「……聖女ダリアもそれを良しとしているのですか」

「ダリア様、か。確かにあの方は唯一と言っていいほど、弱者への気遣いが出来る方だ。だが――彼女こそが、この国の建国の立役者だという事を、忘れてはいないか?」


 その言葉に見えない鈍器で頭を打たれたような衝撃を受け、一瞬目がくらむ。

 ……まさか。まさか、お前なのか。この大陸を奪い取るほどの戦いを、虐殺を行ったのは。

 馬鹿な。そんな馬鹿な話があるか。

 確かに、俺だって本気を出せば、大陸の一つを落とすことは出来る。『出来るだけの力を持っている』だが――

 やるわけねぇだろうが! 誰が好き好んで殺す! ただ暮らしている人間を、戦いに無関係な人間を、一方的に殺せる訳ねぇだろうが!

 そんな訳ないだろう。俺が、お前が、シュンが、ただ国の為に、土地の為に、居場所を求め元々住んでいる人間を駆逐する? ありえないだろうが!


「詳しくは私も知らない。私もその父も生まれる前の建国当初の話なのだから。だが――外からやって来た我らが、この大陸の半分を支配下に置き、今も優位を保っているという事実が、その証拠にはならないか?」

「……共和国側とは、そこまで険悪な仲なのですか」

「いいや、そうでもない。仮にも、七星を封じたのは我らエルフだ。その恩もある。それに、今では交流もある。もちろん権力者同士の腹の探り合いや諜報合戦のような動きもあるが、そんなもの、いつの世にもありふれた話だろう」


 ……この国は、成り立ちからして歪んでいたのか。

 だが――あの二人はどこにいたんだ? 移民してきたエルフは元々、リュエの住んでいた森からやって来たはずだ。

 ならば、あの二人はどのタイミングでエルフ達に合流したというのだろうか。

 その疑問を彼に投げかける。


「シュン様とダリア様の出自、か。残念だがそれは知らない。だが一つ言えるのは、あのお二人は古のエルフ達と共にこの大陸にやって来た訳ではないという事だ」

「そうですか……」


 この大陸に元々住んでいた? いや、ならば侵略者に協力する理由がない。

 やはり一緒に船に乗ってきたのか、それともこの大陸で特別な位置に元々居たのか?

 ……オインクといいあの二人といい。スタート地点が難儀すぎるだろう。


「私が教えられることは以上だ。そろそろ二人の支度も終える。アマミ君から話があると言われていただろう。行ってくると良い」

「色々と教えて頂き有難うございました。今日中にここを出て行くつもりですので」

「……たまには顔を出しても構わん。娘には友人があまり多くないので、な」

「……分かりました」




 ……親しいと思っている相手の、知られざる過去を聞かされるという経験。

 そういえば、あまりなかったな。あったとしてもそれは、ちょっとした失敗談であったり、そんな軽いものばかりだ。

 だが、今聞かされた話は、決してそんな生易しいものなんかではなく、大いにこちらの心をかき乱してくれた。

 決定的な部分は何も聞かされちゃいないがね。それでも、動揺くらいするさ。


「らしくないねぇ、本当。リュエやレイスがいてくれればこんな悩みも吹っ飛んでくれそうなのに」


 今は遠くにいる二人の事を考えると、不思議と気持ちが楽になった。

 ……するとそのタイミングで、廊下の向こうから足音が響いた。

 曲がり角から現れたのは……今近くにいる二人、つまりアマミとレイラだ。

 既に着替えを済ませたのか、アマミはいつもどおりの長髪。レイスに以前結いで貰った髪型は、どうやらこの短時間で再現する事は出来なかったようだ。

 そしてレイラは、つい先程までのアマミと同じ、キレイにアップに纏められ、その色も同じ濃い金色になっていた。

 ふむ……たしかにこうしてみると、微妙に変装したアマミとは顔つきが違うな。少しだけ優しそうというか、平和ボケしているというか。


「出会い頭で見つめられると困るよ?」

「ああ、なんだか久しぶりにアマミを見たような気がして」

「ふふ、なるほどね」

「では久しぶりに見た私はどうでしょうか?」

「見飽きた」

「ひどい!?」


 からかいつつも、二人のそばへ歩み寄る。

 長旅の疲れからか、レイラの方は少しだけ覇気がない様子だ。

 対するアマミは、やはり鍛え方が違うのだろう。シャンと背筋を伸ばし、今すぐにでも走り出しそうなくらいエネルギッシュ見える。


「ふむ。単刀直入に言うと、レイラさんや、話の邪魔なのでどっかいって?」

「ちょ、カイヴォン!?」

「ひ、ひどすぎませんか……?」

「俺今日中に屋敷を出るつもりなんだよ。だから少しだけアマミ貸してくれよ。あとで返すから」

「あら、そうなんですか? 我が家に滞在してくださっても……」

「……そういう訳にもいかないだろう。万一がある」


 社交辞令か、それとも本気で言っているのか。

 俺があの大陸で引き起こした数々の事件を知っていてなお、好意的に接するレイラ。

 ……ああもう。


「迷惑はかけられんよ。友人に万一があっちゃあ寝覚めが悪い」


 口にする。友であると。

 最悪な、一方的に俺が最悪にしてしまった関係から始まったこの相手を、認める。

 友人であると。迷惑をかけたくないと思える程には、思い入れがあると。

 こちらがそれを口にした事に心底驚いたのか、彼女が驚愕に口を大きくあける。

 なんだよ、そんなに意外かよ。少なくとも俺はお前さんの精神力と料理の腕は買ってるんだぞ。


「……ふふ、嬉しいです。貴方に友と認められて」

「そ、そうなんですか? ……カイヴォンと友達っていうだけでですか?」

「なんでそんな目で見てくるんですかね?」


 そんな『ええ~? こいつと~?』みたいなジト目やめて。悲しいから。

 結構君の前でもかっこいいとこ見せてませんでしたっけ? いいところ結構見せてませんでしたっけ? なーんでそんな評価低いんですかね?


「だってカイヴォン、意地悪だし、少しえっちぃじゃん」

「男はみんな多少えっちぃんですー」

「ふふ、仲がよろしいんですね。そういえば、仲がよろしいと言えば、リュエ様やレイス様は今どちらに?」

「ああ、今ちょっと別な街で待機中。まぁいろいろあるんだよ」

「……リュエ様は、大丈夫ですか?」


 彼女は、恐らく今まで疑問に思いながらも飲み込んできていたであろう質問をする。

 気になっていたのだろう。自分以上に迫害の対象となりえる、リュエの存在を。

 だから、出来るだけ軽い調子で俺も答える。


「ああ見えても最上級の魔導師だぞ? そんなヘマなんてしないで今頃久しぶりの休暇を満喫してるさ」

「そう、ですか。ふふ、なら安心です。では、お話の邪魔をしてはいけませんし、私はお父様のところへ行ってきますね」


 そう言い残して去る背中を見送り、改めて彼女と向き合う。

 今の今まで浮かべていた表情をかき消した彼女は、どこか神妙な空気を身にまとい、そして少しだけこちらを探るように見つめていた。

 ……ここに来るまでの道中、こちらの出自に疑問を抱く場面も多かった。

 それについて訪ねたいのだろうか。

 もし、もう一度尋ねられたら。きっと俺は答えてしまう。

 彼女はもう、友人であり、恩人だ。一緒に旅をし、そして共に戦った仲だ。

 義理もある。心情的にも隠し事はしたくはない。

 けれども、なんと説明すればいいのだろうか。


「私が使わせてもらっている部屋があるから、そこで話そう」


 表情を変えずに告げる彼女。

 それが、幾つもの言葉を飲み込んだ末のものにように思えた。




 通された部屋は、恐らく使用人の為の部屋と思われる、二段ベッドが二つ備え付けられた一室だった。

 が、使用された形跡があるのは一箇所だけ。その他のベッドにはなにやら小包などが置かれ、まるで物置かなにかのような様相だった。

 けれども、決して粗末な部屋ではない。ホコリっぽさもなければ、汚れていたりするわけでもなく、極めて清潔感溢れる一室だった。


「座って」

「ああ。それで話ってなんだい?」


 急かすようで悪いが、いつまでもそんな顔をした君と対面し続けるのは心苦しいんだ。

 はっきりとさせよう。疑問に答えよう。そう覚悟を決め彼女を見つめる。

 だが、不思議とこちらの視線を受けた彼女は、今の今まで浮かべていた表情を崩し、まるで安心したかのようにため息をついた。

 見えない糸で吊るされていたかのように強張っていた身体から力が抜け、彼女の肩が下がる。


「……ま、私だって本当なら色々隠しごとしてた身だし、ね。カイヴォンに頭の中覗かれちゃったけどさ」

「……悪かったよ、あの時は」

「うん、許す。で、カイヴォンは今ならきっと、私のどんな質問には答えてくれる。そう覚悟をしてくれたんだね?」

「ああ。さすがに、ここまで世話になった相手に、友人に隠しごとはしたくない」

「でも、私が知らなくても関係がこじれたりしないんでしょ? 少なくとも、その覚悟をしてくれただけで私は満足したよ」


 あっけらかんと、少しだけ笑みを零しながら、こちらの胸の内を言い当てられる。

『ああ、しっかりと自分の事を見てくれているんだな』という嬉しさと、そしてこの期に及び、まだこちらを気遣う彼女の優しさへの申し訳無さで胸が満たされていく。

 ……ああ、良い女ってこういう人間の事を言うんだな。

 本当に、対等に話せる異性というのは貴重だよ。そうだろ? オインク。

 お前さんもすごぶる良い女だが……なるほど、少しだけ似ているのかもしれない。

 こちらを知ろうと努力するその姿勢が。


「……この先、色々と分かってくる事もあるかもしれないから、その時は答え合わせも兼ねて教えるって約束する」

「はいはい。じゃあその時を無事に迎えられるように、しっかり目的を果たさないとね」


 ああ――ありがとう。


「まず、カイヴォンの最初の目的はなに?」

「……改めて、俺としてダリアに会う事だ。あの里の件は伏せて、純粋に再会の為に」

「友達なんだよね。でも、たぶん普通に会いに行っても無駄だと思う」

「ああ、それはもちろん俺もそう思うよ」


 彼女が言うには、そもそも城のある区画に入る事すら通常は不可能だという。

 それは制度や規則などではなく、物理的……いや、この場合は魔力的に無理と言うべきか。

 まずこの大陸を覆う結界と同様、識別の結界があるという。

 主に宮廷貴族や城務めも騎士しか入ることが出来ず、例外として許可を得た商人が入城可能。

 しかし、城でなにか催し物がある時はその結界が緩められ、臨時に発行された許可証を持った人間も入る事が可能だと。

 が、あくまで区画に入る事が出来るだけであり、城の敷地内に入るにはさらに検問や結界を抜ける必要がある、と。

 まぁ色々と制度仕組みを語られた訳だが、つまるところは『入るのは不可能』だ。

 お約束のような裏道や下水道といったものも、全て魔術的に塞がれてしまっているとのこと。

 まぁ俺ですら『お約束』として思い浮かぶのだ。ダリアだってそれくらい思いつくだろう。

 そして今度は、呼び出す場合だ。これは単純に不可能。日本で例えるなら突然一般人が総理大臣や天皇陛下にお目通りを願うようなもの。

 そんなの、提案しただけで即御用だ。

 そうだよなぁ……なんで普通に呼び出せるとか思ってたんだろう俺。


「と言うわけで、カイヴォンが取れる行動は一つだけ。ダリア様が出て来るのを待つ」

「俺にずっと乞食のように道端で座り込んで待っていろと申すか」

「出来なくはないんじゃない? ……っていうのは冗談だけど。実はね、ダリア様について少し噂があるんだ」


 冗談めかしながらも、彼女は突破口を提示する。

 その内容は――


(´・ω・`)ダリアくんなにしてんの

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