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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
十二章

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二百七十六話

(´・ω・`)五巻発売まで後11日! 早いところだとあと10日!

『首都ブライトネスアーチ』

 サーディス大陸の約半分を治める大国『サーズガルド』の首都であり、都市全体を覆う結界により、常に一定の温度と湿度を保ち、住人が何不自由なく暮らすことが出来る、まさに楽園と呼ぶにふさわしい巨大都市。

 発達した魔導具により住人の生活水準は、学術都市『マギアス』以外の街全てを大きく引き離すほど高いという。

 まぁこの場合は『利便性の高さ』と言ったほうが適切な気もするのだが。

 また優れた術師を多く抱えた国家による治安維持が徹底されており、犯罪とはほぼ無縁、女子供が夜に路地裏をニコニコと歩き回れる程度には治安が良いと言われているそうだ。

 だがその反面、入出制限が厳しく、また許可を得た人間でなければ行商人とはいえ入ることも出来ず、結界内部に入る事すら難しいという話だ。

 とはいえ、出自を証明する物を提示し、然るべき手続きを踏めば誰でも入ることは出来るそうだ。

 まぁ、許可を得られる出自であれば、の話だが。


「と、いうのがブライトネスアーチの主な説明になります。アマミさんは髪色の関係でほぼフリーパスですが、先程のように警備隊と直接やり取りををする際はやはり身分の証明が必要ですので、こうして私の影武者として同行しているという訳です」

「なるほど。じゃあ……アークライト卿。彼女の後ろ盾になってください。今後彼女が自由に入出出来るように」

「ちょ、カイヴォン何言ってるの!?」

「……分かった。アマミ君さえよければ、我が家の正式な騎士として雇う事も可能だが、どうするかね」


 現状、彼女の身は決して安全とは言えない。

 都市の説明を聞き、ならば丁度良いと言わんばかりに、半ば脅しをかけるようにアークライト卿にその提案をする。

唐突過ぎる提案とはいえ、彼だってこのままアマミを放っておく事も出来ないだろうさ。

 むしろ定期的に顔を合わせる口実にもなるだろう。


「え、ええと……どうしてそんな急に」

「一応、君の状況はこちらでも調べてある。それが理由だと言えば納得するかね」

「……つまり、貴重な影武者を失いたくないという意味ですね?」


 自分の状況が既に伝わっている事に、さほど彼女は驚きを見せなかった。

 アークライト卿の私兵には、そういった諜報員がいる事を彼女も知っているのだろう。

 そんな彼女の『影武者を失いたくない』という言葉に、彼は微かに表情を歪める。

 本当は『娘を守りたい』という思いからの行動なのだから。

 だが本当の理由を口にする事。そして彼女の出自を明かすことは、きっと立場が許さない。

 そしてなによりも、環境が、今のこの国が、それを許しはしないのだろう。

 事情を知るが故に、橋渡しのように二人を近づけようとしている……ように思われているかもしれないな。

けれども、俺が彼女の保護を頼む一番の理由は、残念ながら『アマミの為』というよりも『俺の為』という理由が占める割合が大きい。

 一ヶ月後には、再び彼女には里に戻って貰わなければ、そしてリュエとレイスを連れてきて貰わなければならないのだから。


「……天秤にかけるみたいで、なんだか嫌だな」


 家族と友人。悪いが、前者の方に傾いてしまうんだ。もちろん、君の無事を保証したいという気持ちも嘘偽りなんかじゃないのだけれど。

 嫌になる。俺は幾つ天秤を用意すればいいのだろうか。

 この先も、きっと幾らでも必要になってしまうだろうから――






「本当に涼しいですね。空気もカラッとしていますし」

「そうだろう。ではこのまま私の屋敷まで同行して貰うが、その後はどうするつもりだ。悪いが、この都市の中で私がしてやれる事など一つもない」

「そうですね、一先ずアマミをお願いします。俺は適当に一人で動きますので」

「あの、カイヴォン様はどういった理由でこの都市に?」

「古い友人に会いに来ただけさ」


 揺れの少ない客車内でかわされる、この先の俺の行動について。

 そうだな。言われてみれば入ることを目的とし、その後の事をまだあまり考えてはいなかった。

 まずは情報収集からというのが常套手段ではあるのだろうが、この都市の性質上、噂話や有益な情報を集めるのは難しいのではないだろうか?

 客車の窓から外の様子を伺っても、皆浮ついた様子もなく、健全に、お淑やかに静粛に、なんて言葉が出て来るくらい、洗練された立ち振舞で往来を行き来している。

 まるで、都市全体が厳粛な教会内部のような、そんな印象を抱いてしまう程。

 しかしまぁ……もしも教会なのだとしたら――いくらでも裏に通じる道もありそうだがね。


「カイヴォン、屋敷について着替えたら少し話せる?」

「ん。分かった」


 すると、こちらの考えを見透かしたかのようにアマミが提案する。

 軽い調子の言葉だが、彼女の顔に浮かぶのは切迫したそれ。

 恐らく、なにかこちらに伝えたい事があるのだろう。

 ……さすがに、今ここでこちらに関する発言は出来ないか。アークライト卿に俺の目的を知っていると悟られるのは不味いと思っているのか。


 都市内部の道の様子だが、やはり入出制限が平時よりも厳しい関係か、他に走る魔車の姿もなく、ただ静かに目的地へと向かい進んでいく。

 街道はそうでもなかったのだが、都市内部の道路の舗装状況は極めて良好。全く揺れを感じさせない乗り心地に関心しつつ、この国のあり方について考えてみる。

 豊かな国だ。正直、街道や他の街を見た感じ、セミフィナル大陸よりも劣っているのでは? とも思っていた。

 過去にヴィオちゃんが『こっちの国は色々進んでいる』と発言していた事から、少々失礼かもしれないが、未開の地のような、もう少し不便な国かと思っていたくらいだ。

 だが――それはもしかしたら、この国以外の話だったのかもしれない。

 あまりにも、あまりにもこの国は豊か過ぎる。

 都市まるごと覆う空調なんて、日本にいた頃ですら聞いた事がない。

 それに少なくとも、この都市の治安状況の良さは日本以上に良いとすら言える。

 ……この都市の発展にも、ダリアとシュンの二人が関わっているのだろうか?


「発展の裏には、必ず衰退がある……光輝く場所があるのなら……必ず深い闇もある」


 仮に、二人が関わっていたとしたら。

 分かっている筈だろう。貧富の差は決して消える事などないという事を。

 厳しく取り締まり作り上げた世界には、かならずほころびが出来る事を。

 知っている筈なんだ。二人だって、俺と同じ国で歴史を学び、そして発達した文化があるにもかかわらず、戦争が必ずどこかで起きていたという事実を。


「……いや。未だ高い場所にいないが故の考えなのか、これは」

「うん? どうしたのカイヴォンさっきからブツブツ」

「ん、ちょっと悩み事」

「平然と悩み事だなんて言うくらいなら大丈夫そうだね。ほら、もうすぐお屋敷に着くよ」


 その言葉に目を外に向けると、以外な光景が飛び込んできた。

 木だ。圧倒的に木が多いのだ。

 先程まで物静かな街並みが広がっていたと言うのに、今は背の高い、見上げなければならないであろう高さの木がまばらに生えているのだ。

 もちろん屋敷の姿も見える。だが、そのほとんどが木々の間に隠れているかのようで。

 こんな景色は見たことがない。こんな、古代樹の森と貴族街を合わせたような、不思議な光景は……。


「その反応を見るに、カイヴォン様はこの様式を知らなかったみたいですね」

「説明プリーズ。庭先に木を受ける屋敷なら見たことがあるが、これはもはや『森林の中に屋敷を建ててみた』って言った方がしっくり来る」

「我々はエルフだ。どこまで発展しようとも、森とは切っても切れない関係にある。この地は長く生きた木々と、そこに集う多くの魔素、地脈、霊脈の力が満ち溢れている。当然、我々もその恩恵を受けて暮らしているという話だ」

「貴族となると、その分その恩恵を強く与る事が出来るんです。ここからは見えませんが、王城周辺はもっと凄いですよ。本当に太古の森林をそのまま活かしたお城なんですよ」


 ふむ……リュエはそんな事を気にした様子を見せたことはなかったが、やはりエルフというのはそういうものなのだろうか。

 つまり裕福で力が強いものほど、木々の多い場所に住んでいると。

 ならば密林の中に住めば良いのでは? とも思ったのだが、少なくとも今目に写っているこの巨木達は、都市の周りでは見られなかった種類に見える。

 きっと、特別な木かなにかなのだろう。

 そう一人納得していると、金属のこすれる音が外から聞こえてきた。

 どうやら外門が開く音のようだが、屋敷についたのだろうか。

 徐々に速度の落ちていく魔車。そして――


「アークライト様。レイラ様。無事に到着致しました」




 客車を降りてまず目に入ったのは、まるで長い間森の奥深くで眠っていた神殿を思わせる白亜の屋敷。

 木陰を浴び、白いスクリーンに緑の陰を落としているかのような姿に歴史を感じるも、建物自体はそこまで古びた風ではなく、イメージとのギャップに少々脳が混乱する。

 だが慣れてしまえば、その自然と調和のとれた神秘的な外観に心奪われそうになる。

 ……なにが『末端の家系』だ。こんな立派な屋敷、そうそうお目にかかれないぞ。

 アマミ扮するレイラとアークライト卿。そしてその二人に付き従うように本物のレイラが扮したメイドが続く。

 すっかり屋敷に目を奪われてしまい出遅れてしまった。慌てて一行を追いかけ、その屋敷の扉をくぐるのだった。


 屋敷に入ると、すぐさまレイラとアマミの二人が屋敷の奥へと消えていった。

 そして残される彼女達の父親である彼と俺。

 少々気まずい空気が漂う中、先にその沈黙を破ったは彼の方だった。


「二人の支度には時間がかかる。それまで私の書斎に来て貰えないか」

「分かりました」


 彼に連れられ中央にある階段を昇る。

 どうやらこの屋敷は二階建てらしく、天井の随所に取り付けられた窓から木々の葉を通した淡い緑高が降り注ぎ、屋内にいるのにもかかわらず、森の中にいるかのような気分にさせてくれる。

 これも、この場所が常に晴れているからなのだろう。もし雨が降ろうものなら雨音が反響して大変な事になりそうだ。

 やがて、白い大きな扉、巨木のレリーフの掘られたその場所に辿り着く。

 彼はその扉に手をかざし、手から漏れ出た魔力だろうか、淡い光で扉の隙間をなぞる。

 すると解錠の音と共に扉が独りでに開き始める。


「随分厳重ですね」

「……ああ。ここに人を入れるのは……そうだな、四◯年ぶりか」


 なにか、大きな秘密でも隠されていそうだ。

 彼に続き部屋に入ると、まず初めにその圧倒的な蔵書量に圧倒された。

 壁一面を覆う、天井まで続く本棚。それら全てがびっしりと埋められている。

 どれも魔術に関わる書物のようだが、中には童話かなにかだろうか、どこかで見たことのあるタイトルの本が混じっていた。

『ピーチジョン』『バックアイランドジョン』『ゴールデンジョン』すまんこれ絶対ダリアだろ。これ書いたのダリアだろ。このタイトル考えたのダリアだろ。

 いや確かに『太郎』って英語圏だと『ジョン』みたいなものだけどね?

 あまりにも直訳しぎませんかね?


「その本が気になるのか? ……ああ、それはダリア様が昔書かれた童話でな。今でも劇団の演目として人気の作だ。まったく、あの方の才能は留まるところを知らない」

「……そ、そう……ぷっ……ですか」

「私は持っていないのだが、他にも『リトルプリースト』という作品がある。生まれのハンデを乗り越え幸福を掴むという話だ。……私には耳の痛い話ではあるがな」


 ……しんみりしているところ申し訳ないが、それってたぶん一寸法師ですよね。

 もう少しタイトルなんとかならんかったのかね?

 一人笑いを堪えつつ、彼にここに連れてきた真意を尋ねる。

 こんな場所に連れてきたのならば、なにか理由がある筈だ。

 あの宿で交わした会話が、全てではなかったのだろうか。


「単刀直入に言う。お前は……この国の闇を、晴らすことは出来るのか?」


 意を決したように。その言葉を口にする事自体が大きな罪とでも言いたげな表情を浮かべながら彼は言葉を続ける。

 それは、不満や恨みではなく、純粋な願いだった。


「……この国は、とうの昔に狂っている。建国から今に至るまで……歪みきっている」

「どういう意味ですか、それは」

「この国の成り立ちを。この国がどうやって出来たのかを、それを話そう」


 そして俺は知ることとなる。

 オインクに続く、ダリア、シュンの二人の歩んできた歴史を。

 親友である二人の、罪の足跡を――


(´・ω・`)次回、いよいよあの二人の過去について少し触れます

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