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二十四話

 いいぶた わるいぶた そんなのひとのかって

 主人から水を貰い自分の部屋へと戻ろうとすると、護衛の女騎士が姿を見せた。

 だが向こうはこちらに用事がないらしく、主人の元へと向かっていった。


「……なんか嫌な予感が」


 早めに自室へと戻り、相変わらず俺のベッドで寝ているリュエに水を渡した所で、隣の部屋の扉がノックされる音が聞こえてきた。


『リュエ殿、いらっしゃいますか?』


 黙っとこ。

 念のため、ベッドの上のリュエを入り口から見えない床へと下ろしておく。


「ぐえ!」

「すまん、ちょっと静かにしててくれ」

「はくじょうものーべっどつかわせろー」


 少しすると、隣の扉が開けられる音がする。

 鍵はかけていたはずだが、主人が鍵を渡したのだろうか?

 まぁ相手が騎士なら仕方ないが。


『いない……』


 恐らくこちらへと向かってくるだろうと、俺も一応対策を取ることにした。

 相手が女性ならば、うん、行けるだろう。





「すまない、カイヴォン殿」


 ノックの音が聞こえ、俺はそのまま鍵は開いていますよと返事をする。


「失礼する。実はリュエ殿――」

「こんな姿で失礼、どうなさいましたか?」


 上半身裸、下半身タオルを巻いただけの状態でございます。

 必殺、男版色仕掛け。

 仮にも本気でクリエイトしたイケメンの裸体、そして鍛えあげられたボディ。

 勿論笑顔もセットです。


「――あ、の……その……」

「申し訳ありません、少し身体を拭いておりました。それで、いかがなさいましたか?」


 笑顔のまま、半歩だけ近づく。

 騎士さんは顔を赤く染め、うつむき加減に半歩後ずさる。


「その、リュエ殿に用事、が……」

「ふむ、困りましたね。彼女はちょっと出かけているのです。おかげで寂しい夜になりそうです」

「わ、わかりました、では私はその、これで」


 更に一歩近づき、声のトーンを落として囁きかける。


「代わりに、どうです?」


 何とは言わないよ!

 ナニを想像するかは向こう次第です。


「あああああの、すみません失礼します!」


 勢い良く閉められる扉と、逃げるような足音。

 いやぁ、部屋の中を調べられたら不味いと思ったけれど、案外うまくいったもんだ。

 もしかして、馬車の中にいた騎士とは別人だったのだろうか?


「カイくーん……わたしはここにいるよー」

「あーはいはい、今ベッドに寝かせるから」


 あんまり無防備すぎるとお兄さんが食べちゃいますよ。



 翌朝。

 結局ベッドは占領されたままだったので、仕方なく鍵を掛けてリュエの部屋で眠っていた俺は、何者かの気配で飛び起きる。


「なんだリュエか。調子はどうだ?」

「だいぶスッキリしたから自分で治療魔法を使ったよ。下着を取り替えたくて取りに来たんだ」

「んじゃ俺も自分の部屋に戻る。そういえば覚えてるか分からないが、昨日女の騎士さんがリュエを訪ねてきていたぞ」

「ああ、うっすら覚えているよ。後で聞いてみる」


 どうせ碌な用事じゃないだろうがね。


 朝食は宿で軽めに済ませ、集合場所である騎士たちの宿泊した宿へとやってきた。

 既に荷物をまとめ、自分たちの馬車の荷台に積み込んでいる。


「おはようございますお二人共。昨夜はよく眠れましたか?」

「ええ、問題なく」

「右に同じく」


 毎度おなじみ責任者らしき騎士さんに、昨日の事を教えておく。

 万が一大事な連絡だったら事だし。

 だが、案の定――


「それは、恐らくカプル殿でしょうな……白銀持ちの恐さを知らないんでしょうね」

「んじゃあれだ、今日の護衛は俺とリュエが最前線でお願いしていいですかね? 手っ取り早く力でも見せつけておこうかと」

「いい考えだね、ストレス発散にもなるし」


 決定。

 案の定配置換えに難色を示してきたが、責任者の騎士さんがキッパリと断り無事に最前列へ。

 そのまま首都へと向けて出発したのだった。




 街道を出て暫くして、右前方に森が見えてきた。

 念のためソナーを発動すると、開けた場所の所為で思ったよりも効果を発揮してくれなかったが、それでも森に潜む魔物の位置を掴むことが出来た。

 かなり近くに向かっているようだし、戦闘準備を始める。


「リュエ、右前方の森に7体。目視可能範囲まであと50メートルちょい」

「了解。じゃあ今回は私に譲ってくれるかな?」

「なるべく本気で頼む」


 俺が片手を上げて後列に合図を送ると、行軍が停止する。

 横ではリュエが身体強化の魔法を使い始め、全身を淡い光が包んでゆく。

 確かあれは魔導師の補助魔法ではなく、聖騎士の魔法『バラク』だった筈。

 自分にしか掛けることが出来ない不便さはあるが、その効果は中々のものだ。


 HP自動回復が付与され、さらに近接攻撃に聖属性が付与、さらには全ステータスが5%上昇。

 能力上昇は申し訳程度だが、残りの効果は中々に優秀。

 そして何よりもこの魔法は、自分の能力の高さに応じて効果が上がる。


「……あの剣って魔力もアホ高かったよな」


 リュエ本人の強さもあり、相当な化け物スペックに跳ね上がっている筈だ。

 今更ながら、リュエのレベルって幾つなんだろうか? もしゲーム時代と同じだとしたら、キャラクターレベル200の聖騎士魔導師50のカンスト状態の筈だ。

 尚俺の奪剣士に職業レベルは設定されていない模様。他の剣士職で覚えた技を使えるだけだ。


「準備完了。森から出てくるみたいだし、ちょっと行ってくるよ」


 森から現れる、大きな猪型の魔物。

 中々の素早さでこちらに迫る様子は迫力満点だ。

 リュエは走りだすと同時に剣を振るいながら魔力をみなぎらせている。


「走りながらって結構難しいんだけどな」


 流れるように動いた剣から、薄い氷の刃が射出され、次々と魔物の足を切り裂き転倒させて行く。

 そして魔物との距離が0になる頃には既に7体全てが地面に転がっていた。

 やはり魔法の使い方が俺とはぜんぜん違う、戦術に取り入れてきた年季が違うのだろう。


 はしりながらのたうち回る魔物の横へと移動し剣を振るい、分厚い首をいとも簡単に落とす。

 その剣閃に追随する用に放たれた氷の刃が、そのまま直線上に並んでいた他の魔物の首を順番に落としていった。

 よくみると、7体全て同じ方向に首を向け、直線上に倒れ伏している。偶然ではないだろう。


「戦い方だけなら俺じゃまず勝てないな……さすがだ」


 俺もあんな計算された戦いがしてみたいです。

 たぶん一撃かすっただけで即死してしまうけど。


「カイくん、部位が少し残ったから持って帰ってもいいかい?」

「了解、後で焼いて食べよう」





「凄まじいですね……レッドボア7体を一瞬とは」

「そんなに強い相手なんですか?」

「一応単体でDランクに分類される相手です。さすが白銀持ちですね」


 行軍開始とともに近づいてきた責任者……いい加減面倒だし名前を聞いておこうか。


「そういえばまだ名前を伺っていませんでしたね。よろしければ?」

「あ、申し訳ありません、最初に名乗るべきでした。私は首都街道警備隊長の"ローガン"と申します」

「街道警備隊……随分と軍が細分化されているんですね」

「ええ。近衛、城内警護、都内警護、遠征軍、そして我々の近隣の警備隊ですね」


 なるほどなるほど、随分としっかりした軍だ。

 今回の護衛にしたって全員が騎士らしい装備をしているし、一人一人の戦力も相当な物だろう。


「あれくらいリュエなら朝飯前ですよ。仮にも白銀持ち、一個師団くらいは余裕で相手に出来ますよ」

「確かに……ではカイヴォン殿は?」

「んー、とりあえず大陸一つ落とすくらいは出来るんじゃないですかね」


 冗談だと思ったのか、ローガンさんが笑い、俺もつられて笑ってしまう。

 いや本当に出来ると思うよ? やろうとは思わないけど。


「で、なんでまたリュエが馬車に行くことになったんですかね」


 本題。

 討伐を終えたリュエが呼ばれ、馬車へと向かっていった。

 どうやら先程の戦闘を見らカプルが話があるとかなんとか。

 大方召し抱えたいとか言い出すんだろうが、白銀持ちを個人が従える事って出来るんですかね?

 契約金的な意味とギルドの権力的な意味で。


「すみません、ですがさすがに呼び出されてしまうとなんとも……ですが、恐らく強く出ることは出来ないと思いますよ」

「まぁあの戦いぶり見てまだ強引に迫れる人間がいたら尊敬しますよ」


 案の定、扉を蹴破ってリュエが飛び出してきた。


「つ、月600万! 600万ルクスでどうか!」

「責任者君、依頼人は君の名義だったよね」

「は、はい。如何なさいました!?」

「なら私に命令出来るのは君だけの筈。もう私はあそこにいかない、いいね?」


 馬車から身を乗り出した豚さんが、バランスを崩して落ちてしまった。

 懲りないねアンタも。



 そしてその日の夜、ようやく首都が見えてきた。

 ぜんぶしゅっかすれば かんけいない

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