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二百五十九話

(´・ω・`)ズゾゾゾ

「それで、具体的な戦法はもう決まっているのですか?」

「うん。まずレイスさんは弓使いだって聞いたから、私と一緒に森の中で戦ってもらいたいんだ。遮蔽物が多い場所でも使えるかな?」

『ズゾゾゾ! ズゾゾゾゾゾ! チュルン!』

「ええ、問題ありませんよ。木の上にのぼることも可能です」

「そっか。なんだかレイスさんって良いところの奥様みたいな感じだから、ちょっと不安だったんだ。じゃあ後で襲撃ポイントの下見に行こっか」

『ズズズ……ズゾゾゾゾゾ! ズズズ……』

「じゃあ次にリュエだけど……出来れば居住区の近くで、万が一撃ち漏らした相手が入ってきたら始末してくれるかな。その、言い難いんだけれど――」

「髪の色的にも見られたら不味いからね。けど元々私は結界の調整で後方にいるつもりだよ。もし破られたらその時は指示通り居住区の方に移動するよ」

『ズズズ……ズゾゾゾゾゾ!』

「うん、心強いよ。それで――クーちゃんうるさいよ? それ何杯目?」

「四杯目。なにこれ美味しい。ラーメン? 後でこのスープの作り方教えて頂戴」

「確かに美味しいけど……私も後で教えてほしいけど、とりあえず作戦会議しよう?」

「…………ズゾゾ」

「食べないで?」

「かいぼんさんおかわり。みじん切りのにんにくいっぱい乗せて」

「聞いて?」


 みんな食べ終わった中、一人おかわりを繰り返すクーちゃんに五杯目を用意しながら、今話している内容『襲撃に備えてどうするか』という一種の作戦会議について考える。

 彼女が言うには、仮に結界を突破してきても敵が現れる方向は限られているらしく、余程の事がなければ苦戦する事はないと言う。

 だが……どうも嫌な予感が拭いきれない。向こうにダリアがいるかもしれない。ただそれだけで、この戦いは酷く厄介な、裏の裏まで読み切り、さらに戦いの場でも細心の注意を払わなければならないものになると想像してしまうのだ。

 それほどまでにダリア……『櫻木久司』という男は厄介なのだから。

 ゲームだけの話ではない。俺とあいつの付き合いは約二◯年。そしてその時間の中で、俺は何度もあいつに対して『まさかそんな』『そんな発想はなかった』という、予想や期待を越えられるという経験をしてきた。そしてそれはゲームで付き合う事になっても変わる事がなかった。


「俺は、アマミとレイスと一緒に森の中で戦うつもりだったけれど、当日は敵の流れを見て、森の出口付近を中心に全体を見て回るよ。万が一があるかもしれないから」

「うーん……そうなると地理に詳しいクーちゃんをつけた方がいいかな?」

「いいよ、美味しいもの食べさせてくれたからね、出来る限り協力する」

「はは、よろしく。じゃあ里長は……完全に遊撃って形なのかな」

「そうですね。私はその方が一番役立てるでしょう」


 一先ず、具体案は後回しにして方針だけを決める。

 まだ、店のマスターから王国騎士団や自由騎士の一団が到着したという報告も来ていないのだ、このまま杞憂に終わってくれれば、という思いも確かにある。

 だが同時に……俺の中ではもう、襲撃は決定事項のように思えてならない。

 何かが囁くような。予感がするような。それはたぶん……俺とアイツが、闇の中で言葉を交わしたから。

 運命論なんて信じちゃいないが、けれども……たぶんあそこで、俺とダリアの道は交わってしまったんだろう。

 そんな予感が、確信へと変わっていく。




 クーちゃんに連れられて、里の中を見て回る。

 森と里の境界線に沿うように、サーズガルド方面と繋がっている部分を重点的に歩いてみたのだが、どこも人が出入りした形跡がなく、里の住人は皆、長の言いつけを守り森には近づかないようにしているようだった。

 では、住人はどこから森の木の実などを採ってくるのか。その答えはクーちゃんが教えてくれた。


「森は二つあるんだ。一つは外に続く森。もう一つは、里の真ん中にある『終わらない森』」

「『終わらない森』? どういう場所なんだいそれは」

「一度入ったら、戻りたいって思わない限り永遠と森が続くんだ。見かけはちょっと大きな畑くらいしかないんだけどね」

「なんだそりゃ……そこも一種の結界なのかな」

「分かんない。でも、木の実をいくらとってもなくならないし、たぶんどこか別な場所と繋がってるのかも?」


 もはやなんでもありである。この里を最初に作ったナハトの一族は、結界や空間に特化した一族だったのだろうか。


「そういえば君の猫。里長がお使いに出してるみたいだけど平気かい?」

「うん。にんにく泥棒なんていないもん。番猫のつもりだと思うけど寝てるだけだよチャトラン」


 ぽややんと語りながら歩いていた彼女が足を止める。

 ふと森の方を見てみると、なにやら大きな看板が立てられていた。

 するとそこには、里長をデフォルメしたようなイラストが描かれており『ここから共和国』とセリフがつけられていた。

 ……里長が自分で描いたのだろうか。随分と上手だ。


「ここまでかな。かいぼんはもし襲撃があったら、ここから最初の場所まで自由に走り回るんだよね」

「そうなるね。たぶん俺が全速力で走ったらクーちゃんを置いていってしまうかもしれないから、その時は里長か、人が少なさそうな場所で待機してくれないかな?」

「分かった。……ねぇ、襲撃は本当にくるの? なんで?」


『なんで?』、か。その純粋な疑問に、どう答えたら良いのか。

 連中は、黒い影のような魔物を探している。だが、それはダリアと思しき人間が倒したはずだ。

 そうなのだ。もしあれがダリアならば『自分が倒した』と報告してしまえばそれで終わりではないか。

 理由……街道を再び探索する理由があるのか? それとも……やはり最初からこの里の場所に目星をつけていたのか?

 分からない。確かに言われてみれば、何故騎士団連中が街道に出ているんだ。

 もういないはずの魔物を探しているとでも言うのだろうか?


「……ごめん、俺にも分からないんだ」

「そっか。やっぱり私のにんにくが美味しいからかなぁ。にんにく泥棒騎士団」

「ははは……そうだったらいいんだけどね」


 そもそもの意図も掴めないまま戦いに備える。

 月並みな表現だが、まさに暗闇の中を歩いているような手探り状態に、そして恐らく戦う事になるであろう相手に、柄にもなく不安が膨らんでいく。

 たぶん、きっとそれは『俺のアドバンテージ』が揺らぎつつある事も関係しているのだろう。

 ステータスの『精神力』の存在が、心の機微を減らしてくれる。

 そして俺の『401レベル』という大きな力が、さらに心の余裕を生み出す。

 慢心大いに結構。そこに付け入られる事になろうとも、それすら食い殺す程の力を自分は持っていると自負しているのだから。

 だが――今度の相手はヘタをすれば俺と同格、もしかしたら格上である可能性すらある。

 よく知っているから。誰よりもあいつの事を知っているからこそ、一度芽生えた不安が、息絶えることなく心のなかでいつまでも息づいているのだ。


「かいぼん、そろそろ帰ろうか。あらかた見て回ったし、みんなも戻ってきてるかも」


 負の思考に浸かり始めた時、前を行くクーちゃんが少しだけ眠そうな声で語りながら振り返る。

 この子も、この里の住人だ。ただ農家として暮らしているだけの。

 けれども彼女もまた戦う事が出来る人間。そして思い出す、初めて会った時のやり取り。

『そうだよ、エルフだよ。それがどうかした?』あの時、髪の色と種族について尋ねた時、彼女は確かに怒りを垣間見せ、どこかトゲを含ませる物言いをした。

 彼女もまた、何か嫌な目に合いこの里にきているのだろう。

 きっと、この里に住む人間は皆、何かしらの迫害に合いこの地に逃げ込んできている。

 それを暴き、平穏を壊そうというのか、ダリア。

 たとえお前にその気がなかったとしても……そちら側に付くというのなら――


「……敵として、再会する羽目になるなんてな」




 館に戻ると、なにやら玄関ホールで四人が大きな布を裁断しているところだった。

 アマミが三人に指示を出しながら、その大きな布を、人間が隠れられる程度の大きさに切り分け、さらにそれを糸で縫い合わせていくレイス。

 元々ドレスや服の手直しをしていた関係か、彼女の手つきは淀みなく、着々と縫い合わされていくその布。

 一体何をしているのだろうかと、夢中で手を動かしている四人に語りかける。


「みんなただいま。何をしているんだい?」

「あら、おかえりなさいませ。アマミ指導の元、姿を隠すマントのような物を作っているんですよ」


 里長がこちらに向き直りながら、まるで作業用ロボットのような素早い動きで針を動かす。多彩というか多機能というか……もう貴女が何をしだしても驚きませんよ?


「そういう事。確かに、森の中で戦うなら必要になるだろうし、なによりも私やカイ君、そしてレイスは万が一にもダリアに見られちゃいけないから、ね」

「なるほど……確かに隠すに越したことはないか」


 簡易的なフード付きマントが着々と出来上がっていく中、リュエがそのうちの一つを羽織る。

 その瞬間『ふふん、どうだい? 似合うかい?』そう笑いながら訪ねてくる『あのリュエ』の声が聞こえた気がして、少しだけ胸が痛んだ。

 ……分かっている。彼女は同じリュエだという事は。けれども、この緊張の中でも朗らかに笑いかけてくれるであろう彼女を思い出してしまうのだ。

 だからつい――


「リュエ、似合うよ」


 その言葉をかけてしまう。


「似合う似合わないの話じゃないと思うけれど……ありがとう」


 少しだけ顔を赤くして照れている彼女を見つめながら、未来へと思考を飛ばす。

 この戦いの先で、彼女の心を救えるだろうか、と。

 この戦いを、誰も悲しませずに終わらせる事が出来るだろうか、と。

 無邪気な子供のように、新たな料理を笑いながら食べる住人達。

 彼らは知らなくていい。自分達に危機が迫っているなんて、微塵も知らなくていいのだ。

里の住人達はただ、笑ってその日が過ぎるのを待てば、それでいい。


「カイヴォンのも作るから、ちょっとこっち来て」

「ああ、アマミ。それなんだけど俺はいらないよ。たぶん、隠せない」


 そう決意を固めていると、巻き尺を持ったアマミがやって来た。

 けれども、その申し出を断る。きっと翼と角は隠せないから。

 俺が全力で戦えるのはあの姿だから。

 それを説明しようとあの姿になろうとしたその時だった。どこから入りこんだのか、館の奥から一匹の猫が現れる。

 緊急をしらせる赤の首輪を付けた姿で――


(´・ω・`)次回 再び彼女の視点

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