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二百五十八話

(´・ω・`)初稿完成してようやくWEBに着手

今回はインターバル的な話なので物語は動きません

「さてと、実は今日の昼食、里長に頼まれて俺が作る事になっているんだ。アマミもよかったらどうだ?」

「あ、食べたい。私今日まだ何も食べてないんだ」

「俺が余計な時間をとらせてしまったからだな、悪い。お詫びといっちゃなんだが、なにか好きなものがあったらリクエストしておくれ」

「うーん……別にカイヴォンの所為じゃないけど、お言葉に甘えようかな。私、食べてみたい料理があるんだ。カイヴォンはなんでも作れるって前にリュエに聞いたんだ」


 そろそろ時間だからとアマミにその提案をすると、少しだけ思案顔をした後に、どこか期待した様子でこちらを見る。

 ふむ、食べてみたい料理とな。そういう具体的な希望を出してもらえるのはとても助かるし、人に作ってあげるのが、そして美味しいと言ってもらえるのが大好きな身としてはとても張り合いがあるわけだが。


「ええと……パスタみたいな料理で、スープに入った料理なんだ」

「ふむ……スープスパみたいなものかね。どんな味なんだい?」

「それが、私も食べた事がないんだ。昔どこからか流れてきた本に書いてあった料理なんだけれど……」


 ふむ、食べたことのない料理となるとさすがに難易度が高すぎるが、俺の知っている料理だろうか? もう少し情報が必要だと彼女に視線を送る。

 すると、何か探しものをしているのか、部屋にあった数少ない家具、やや大きめのタンスをごそごそと漁りだした。

 ……結構衣装持ちですね君。タキシードに……それバニーガールのコスチュームじゃ?

 おおう、結構際どい衣装まで……任務で使ったりするのだろうか?


「ああ~……持っていた本全部里長にあげちゃったんだった。その料理について書かれた旅行記? みたいなのがあったんだよ」

「なるほど。じゃあ先に移動してからその本を見てみるよ」




 里長の屋敷に戻ると、丁度リュエ達も屋敷の裏側から姿を現したところだった。

 別れ際のやり取りを思い出し、少しだけリュエと目を合わせるのが気まずい。

 けれども、リュエは屋敷に入るでなく、そのまま階段を降り門の前までやって来た。


「おかえり、カイ君。アマミも一緒なんだね」

「あ、ああ。ただいま。せっかくだから一緒にお昼にしようと思ったんだ」

「いい考えだ。アマミ、カイ君の料理は美味しいけれど、今日は里長のお願いでもある。こういう時の料理はいつもとひと味違うと思ってくれていいよ」

「そ、そうなの。じゃあ期待しておくね」


 なんでもない風に、こちらに話しかけてくる彼女を見て、うまく取り持ってくれたのだな、とレイスに感謝の視線を送る。

 すると彼女もまた『どういたしまして』とでも言うように、優しい微笑みを返してくれた。

 さて、じゃあその旅行記とやらに目を通してみますかね。




「……これどこで食ったんだよ著者」


 里長に本の所在を尋ねると、すぐさま目の前に本を具現化してみせた。

 どうやら、アマミから預かった本を自分のアイテムボックスに収納していたらしい。

 彼女も料理が好きだからか、その旅行記に載っている物を幾つか再現してみたことがあるらしいのだが、件の料理、アマミの言っていたスープスパのような物がどういうものか想像も出来ず、結局再現を諦めていたそうだ。

 そして、俺がその項目に目を通し、思わず呟いたのが先程の言葉。


『そのスープは、獣の骨を砕き、長時間煮込んだ物と見受けられたが、何故か獣くささもなく、複雑な野菜の甘み、そしてガーリックのほのかな香りがした』

『パスタに似て非なる物。細く、そして完全に柔らかくなる前に出されたそれは、独特の歯ごたえを兼ね備えており、私に新たなパスタの可能性を与えてくれた。アルデンテよりもまだ固いそれは、恐らく特殊な製法で作られたものなのだろう』

『料理人は私の問に深くは答えてはくれなかった。ただ一言『一夜の幻か狐に化かされたのか、だがこの場所でも儂の一杯は通用するようだ』と述べた。そして私が支払いをしようと、その不可思議な移動式の出店から一瞬席を立った瞬間、その存在が忽然と消えていた』

『私は手元に残された器を頼りにその移動式出店の所在を探し、ここセカンダリア大陸を隅から隅まで旅をしたが、ついぞ再びその幻の味を味わう事が出来なかった』

『願わくば、私の本のこの絵を見て、この探求を引き継いでもらいたい』


 これが手記の内容だったんですけれどね? これってどう考えても豚骨ラーメンだと思うんです。

 しかし不思議な記述だ。まるで突然ラーメンの屋台が現れて、そしてまた消えてしまったかのような文章。セカンダリア大陸には、地球と繋がるような場所でもあるというのだろうか?


「どうですか? 私もこの手記を頼りに様々な骨を煮込んでみましたが、正直どれも食べられるようなものではありませんでした」

「里長も試したんですか?」

「ええ。参考までに幾つか鍋を保管していますよ」


 そう言うと、彼女はドシンドシンと寸胴鍋を虚空から取り出し、厨房に並べ始めた。

 うおう……本当に料理が好きなんだな里長。しかも結構本格的に作ってある。

 だが――なるほど、どれもしっかりと骨髄から旨味が出ているようだが、圧倒的に一緒に似るべき野菜が足りていない。

 フレンチのソースよろしく、細かく切った香味野菜、ミルポワとして入れられたそれらや、臭み消しのブーケガルニの姿も見えるが――これじゃあ無理だ。

 豚骨ラーメンのスープに使う材料は、骨よりもむしろ野菜の方が多いくらいなのだから。

 しかし、ここまで煮込まれているのなら、少し薄めて野菜を足せば短い時間で作れそうだ。


「里長、これ少しずつ貰ってもいいですかね?」

「構いませんよ。かなり癖がありますが、大丈夫ですか?」

「うーん……専門じゃないけれど、まぁなんとかやってみます。その間里長には麺を作ってもらいたいんですけれど」

「ああ、もしかして昨日のジャガイモの麺でしょうか?」

「いえ、今回は小麦粉オンリーに例の水を入れて――」


 そこまで言いかけたところで、里長がまたまた虚空からバッドを取り出してみせた。

 そこには、既に練られた状態の黄色みがかった生地が。

 ……なんだろう、この人まるで料理番組の『◯◯したものがこちらになっております』と、完成品を取り出すアシスタントさんみたいじゃないか。まさか未来予知か!?


「あの水が特殊な効能を持っていると聞きましたので、何種類か試していました。ジャガイモを一切使用していない生地で宜しいですか?」

「え、ええ……あ、しかもこれ熟成されてる」

「一晩寝かせておきました。こうすると生地にしなやかさが生まれますから」


 もはや何も言うまい。この人の探究心は本物だ。

 さて、じゃあこの三種類のスープを少々研究させて頂きましょうか。

 そうして、鶏、豚、そして牛の骨で作られた、白く白濁したスープをそれぞれ配合し、大量の野菜を放り込んで煮込み始める。

 今回はまぁ簡易的という事で、そこまで本格的に作るつもりはない。要するにそれっぽい味になればいいのだ。

 皮を剥いただけの人参をまるごと入れてみたり、玉ねぎをヘタと根だけ切り落として入れてみたり、ニンニクを皮ごといくつも放り込んだりとやりたい放題だ。

 さすがに、この暴挙とも言える行為に里長も興味深そうにしていたが『なるほど。香りの高い野菜で強引に匂いを消すのですか』と理解を示してくれた。

 うーん……最強のアシスタントレイスの立場が危うくなるレベルだぞこの人。

 そんなレイスやリュエ、アマミはと言うと、料理が出来るまで少し屋敷の周りの草花の剪定をしてくるからと、先程から厨房の窓から三人の頭がチラチラと見えている。

 紫、白、金色……それに緑? 一人多いぞ。


「あら……カイヴォンさんが先程ニンニクを鍋に入れた所為ですかね。クーが来ています」

「クー……ああ、ニンニク農家の娘さんか」

「あの娘、私が料理でニンニクを使うと目ざとく……いえ、鼻ざとくやって来るんですよ。食べた事がない料理だとほぼ確実に」

「それはなんとも……」

「けれども――好都合ですね。カイヴォンさん、貴方アマミにこの里の防衛について相談していたのでしょう?」


 生地をこねていた里長が、手を動かしながら話題を変えた。

 確かにアマミに防衛について相談をしていたが、それとクーちゃんになんの関係があるのだろうか」


「獣人の皆さんは本来、サーズガルドとは無関係。この戦いに巻き込む訳にはいきませんし、私が許しません。それに、白髪の子達は普通に生活する事は出来ても戦う事は出来ません。つまり、戦え得るのは白髪じゃないエルフのみ」

「……まさか、クーちゃんを戦わせるんですか。まだ子供じゃないですか」

「あれでもアマミよりも年上ですよ。なかなか発育が遅いみたいですが」

「そうだったんですか」


 つまり、アマミが言っていた『純粋な戦士』『弓闘士兼魔法師』のどちらかが彼女だと。

 ……まだ里の中まで来るとは限らないが、戦術の確認はしておくべきか。


「ちなみに、戦えるのは私もです。そうですね、恐らくこの里の住人で一番強いのは私か、森の中のアマミでしょう。食事を終えたら少し作戦会議といきましょうか」

「里長も戦えたんですか……」

「ふふ、牛を一刀両断にするくらいには戦えますよ。淑女たるもの、自分の身を守る為の最低限の護身術は扱えます」

「それを人は淑女とは呼びません」

「あら、そうなんですか」


 まさかあの処刑斧ぶん回して戦うんですか貴女。


 そうしてスープを完成させ、自分で味見をしてみる。

 ……うむ、一体感という点では本物には一歩届かないが、十分に豚骨ラーメンのスープベースになる味だ。

 あとはこれで塩と醤油で作ったタレを割れば完成だ。

 早速麺を入れて試作品を作り出す。トッピングの具は今回チャーシューを作る時間がなかったので、里長に分けてもらった牛バラ肉をやや厚めに切り、濃い目に味付けして焼いた物をチョイス。

 長ネギの代わりのエシャロットと、紅ショウガの代わりに新生姜のピクルス。

 なんともパチモン臭漂う一杯が完成したのだった。


「みんなに出す前に味見をしないとな」

「では私はカイヴォンさんの感想を聞いて妄想を膨らませて頂きます」

「なら顔見て下さい。下半身凝視してもなんの変化も現れませんよ」

「本当に?」


 まさに里長。実に淑女である。

 気を取り直して器の中身を覗いてみる。うむ、具の見た目が違うが匂いはほぼ再現されていると言えるのではないだろうか。

 新生姜の鮮やかな赤が、紅しょうがに見えなくもないし、エシャロットを輪切りにしてしまえば長ネギと大差ない。牛バラ焼肉も、人によってはチャーシューより好きだという人もいるだろう。

 麺もしっかり細めで、湯で時間も調整して硬めにしてある。ちょっと変わった豚骨ラーメンと言い張っても誰も文句は言うまい。

「では頂きます」

 音と立ててすするのが、なぜだかこの世界だと憚れる。里長に見られているからというのもあるかもしれないが、注意をはらいながら口へ運ぶ。

 ……うむ。文句なしに豚骨ラーメンだ。やっぱり他の骨を使ったスープを一切使わなかったのが正解だったか。

 濃厚で、とろみがないのに舌に纏わりつくような独特のスープがなんとも懐かしい。

 いやはや……まさかこの里でラーメンを食べる事になろうとは。

 新生姜のピクルスも、癖の少ない紅しょうがのようで、個人的にはむしろこちらの方が合っているようにも思える。それは牛バラ焼肉も同様で、甘じょっぱく味付けした味が濃厚なスープと合わさり、なんとも背徳的な濃い味で口内を満たしてくれる。

 もちろん、それらが合わさったスープも……。


「……随分と幸せそうに食べていますね?」

「いやぁ美味しい。我ながら美味しい。本当美味しい」

「なんと羨ましい。では皆さんの分を用意しますので、食べ終わったら手伝って下さいな」

「あ、了解です。それにしても……よくこんな器ありましたね」


 そう、今使っている器は、しっかり縁に雷紋が描かれたどんぶりだったのだ。

 ただ少し西洋風というか、陶磁器のように白い光沢に、コバルトブルーで描かれたそれは、俺が知ってるラーメンどんぶりとは似ても似つかないものではあるのだが。

 さて、じゃあ最後の一滴まで飲み干した事ですし? 皆に持っていくとしましょうか。


(´・ω・`)発売はたぶん7月でーす

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