表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
十一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

264/414

二百五十六話

(´・ω・`)今章は隠れ里の件が終わるまでの予定

「おはやいおかえりですね、カイさん」

「こんな朝早くに戻ってくるなんて、ね」


 うっすらと朝焼けが差しつつある酒場を後にし、そして再びやってきた、おかしな空の下に広がる隠れ里。

 アマミに用事があるからと、里長とは森の前で別れ、一人静かに館に戻ってきたのだが……。

 待ち構えていた我が家の娘さん達が、少々ご立腹のようでございました。


「ご、ごめんなさい。深夜に里長が館を抜け出したみたいで、それで気になって……」

「深夜に、ですか。それで、なにか分かったのですか」


 こちらの答えに、二人が表情を切り替える。

 だが――その詳細を伝えていいものかと迷いが生まれる。

 要点だけ。彼女が本当にこの里を思っているとだけ、伝えるべきか。

 それを口にしようとした時、背後で再び館の扉が開く。


「あら、皆さんお揃いですか。おはようございます」

「あ、おかえりなさい里長」

「お、おはようございます」

「おはよう、里長」


 ああ、助かった。彼女に事情を説明してよいか訪ねよう。

 しかし――何故か彼女はにやりと、イタズラでも思いついたかのように表情を歪める。


「カイヴォンさん、朝までお付き合い頂きありがとうございました。最近、ご無沙汰でしたので、中々に甘美な一時を過ごさせていただきましたよ」

「……里長わざとですよね、その言い方」


 ああ、ダメだレイスが両手で口を覆い『なんという事でしょう!』って顔してる。

 あ、でもリュエは『ははーん、分かったぞ』と言いたげな、少しだけ面白そうに笑っている。

 やめて、レイスさんはこういう事になるとポンコツになっちゃうから!


「何故……カイさん、そんな――里長の毒牙に……」


 とりあえず頭撫でておきましょ。




「もちろん分かっていましたよ、カイさんがそんな人ではない事くらい」

「目のハイライト消していたような気がするんですが。いやまぁ、確かについつい朝まで飲み食いしてしまったのは悪いと思っているのだけれど」

「私としては、あの酒場のお酒を飲んだことが羨ましいしけしからんと思っているよ。今度奢っておくれ、カイ君」


 食卓を囲みながら、二人の誤解を解く。

 レイスの危うげな空気を感じ取ったのか、里長が早々にネタバラシをしてくれたのが功を奏したわけだ。

 朝食は昨夜の残りをリメイクしたのか、牛のトマト煮と、ガーリックトーストだったのだが、残念ながら俺はまんぷくなので、皆が食べているのを眺めているだけです。

 というか、よく入りますね里長。やはり身体の内部も特別製なのだろうか。


「それで、さっき聞いた宿場町を目指している一団の件だけれど……里長、この里の結界の起点、一番の大本に私を案内してくれないかい」

「そうですね……貴女になら、見せてもかまわないかもしれません、ね」


 二人には、すでに酒場で聞いた話を、そしてもしかしたら、この里を防衛する戦いが起きるかもしれないという旨を伝えてある。

 するとやはり、リュエがこちらの決断、里に助力するという判断を聞く前に『私は、絶対にここに残る』と言い、そして意外……でもないか。レイスもまた『ここの子供達を守るためでしたら、助力を惜しみません』と、メラメラと燃えるような瞳で語ってくれた。

 だがその反面――


「でも、やっぱりカイ君は里を出た方が良い。ダリアと今会う訳にはいかないんだろう? それに……騎士団がこっちに来るのなら、今は王都に入り込みやすいはず。潜伏しておくなら今だろう」

「さっきも言ったが、それは断るよ。むしろ……ダリアがいるのなら、最悪の事態だって考えられる。もし、この場所に騎士団が大挙して押し寄せたら……ここを血で汚すわけにはいかない。俺が、ダリアに直接交渉を持ちかける」

「……私が結界の管理をすると決めたのだけれどね。それでも、カイ君はダリアがここに到達すると、信じているんだね」

「……そういうつもりじゃないんだ。ただ――」

「いや、いいんだ。私だって、それは認めている。ただ――私の勝利を、君に願ってもらいたかっただけだから」

「リュエ……」


 ……分かってはいるんだ。俺も、リュエも。

 そして彼女が言わんとしていることも、理解しているんだ。

 これは、俺の我儘だ。リュエとダリアを戦わせたくないという。

 その為ならば、俺が矢面に立とう。大丈夫、もしもの時は、俺も正体を隠して挑む事だって出来るのだから。


「じゃあ、里長。早速私をその結界の起点、中心に連れて行ってくれるかな」


 少しだけ、硬質な声で告げながら立ち上がるリュエ。

 まるで今は一緒に居たくないとでも言うように、足早に食堂を後にしようとする。


「ええ、分かりました。お二人はどうしますか?」

「そうですね……私はリュエと……」


 一瞬、チラリとレイスがこちらを見た。

 その瞳には『リュエの事は私に任せて』という意思が宿っているように見えた。

 ああ、お願いするよ。俺も、そしてリュエも、たぶん今、少しだけ浮足立っているんだ。

 目を瞑り、こくりと首を縦に振る。


「俺は……そうだな、アマミと話してくるよ。里の周囲の森について、聞いておく」

「分かりました。では、またお昼すぎにでも。昼食は……そうですね、カイヴォンさんにお願いしましょうか」

「ああ、了解したよ」


 またここに集まると提案してくれた里長にも、心の中で頭を下げる。

 少し、もう少しだけ、時間をくれ、リュエ。

 まだ、割り切れない部分があるんだ。どこか、臆病になってしまっているんだ。

 そして何よりも……うちに秘めた激情が、出口を求めているんだ。

 どこかで……これを発散しないと、もう、持ちそうにないんだ。

 この里にもし、尖兵として心無い騎士がくるのであれば。

 ……悪いが、どうか、俺の捌け口になってくれ。






「リュエ……大丈夫ですか」

「ん、なにがだい?」


 館を出た里長が、鉄城門へ向かわず、壁に沿うようにして館の背後へと向かう。

 彼女の後を追い、庭に植えられた沢山の花の香りに包まれながら、その場所へと向かう。

 そんな中、私は自分の前を黙々と進む姉に声をかける。

 どこか悲しげな、その小さな背中が、見た目よりも更に小さくなってしまったかのようで。


「カイさんが、リュエを軽視している、私達よりも、そのダリアさんの事を考えている。そんな風に思っているのではありませんか?」

「……そうだね、思っているかもしれない。いや、気持ちは分かるんだ。オインクと同じで、ダリアはカイ君にとってかけがえのない存在だって……」


 振り向かずに、歩みを止めず淡々と告げる彼女。その表情を窺うことは出来ないけれども、私には、彼女がどこか泣いてしまっているように見えた。

 そんな彼女に触れようと、手を伸ばす。けれども、立ち止まることなく彼女は、私の手の届かない場所へと進んでしまう。

 その時、チクリと、伸ばした手に何かが刺さる。


「っ!」


 茨のトゲ、でしょうか。引っかき傷のように刻まれた赤い筋から、少しだけ血が滲む。

 けれども、それでも私は彼女を追いかけるように、歩みを止めず手を伸ばし続ける。

 置いていかれないように。見失わないように。

 けれども――


「レイス? 大丈夫かい、手、怪我しているじゃないか。ちょっと待っていておくれ」

「あ……はい」


 振り返る。戻ってくる。私の手を、とってくれる。

 ああ――安心しても、いいんですね。

 これからの未来を示唆しているのでは、なんて暗い思いを晴らすように、彼女から淡い光が放たれ、私の怪我を癒やしていく。


「……カイさんは、たぶん、恐いんだと思います。それは、リュエや私が負けてしまうから、ではないんです。きっと」

「恐い……カイ君が、何を恐れるんだい」

「それは……今のようにリュエとカイさんが、どこかぎこちなくなっているような、そういう状況になって初めて分かるもの。リュエ……もしも、私がカイさんと争い、決別の道を選んだとしたら――」


 仮定だとしても考えたくないその言葉を、彼女に伝える。

 私が今感じている、この恐怖。もしも、二人が仲違いをしてしまったとしたら。

 その恐怖は、私がこれまで感じたことのあるモノとは質の異なる、深く、重く、のしかかるような、じわじわと心を蝕んでいくかのようなモノ。

 そして私の言葉を聞いたリュエは――


「……嫌だ。そんなの……絶対に嫌だ」

「……はい。絶対に嫌です。だから……これが今、カイさんが感じている気持ち、なんだと思います」


 きっと、そのダリアさんは、私達に匹敵するくらい大切な友人なのでしょう。

 最初から会うために旅をしていると言っても過言ではない様子から、それは間違いない。

 だからこそ……私達がその友人と争うかもしれないという状況が、彼に深くのしかかっているのでしょう、ね。

 もしくは――私達と争わせるくらいならば、いっそ自分が……なんて。

 彼は、きっとそこまで割り切れてしまう人、だと思うから。

 その決断の前で、今少しだけ苦しんでいるのかもしれないから。


「後で、謝らないといけない、ね」

「はい。先程のは少し、意地悪な言い方でしたから」

「うん……本当にそうだ。たぶん、これは私の――」

「ふふ、嫉妬、ですね」


 きっと、その時は近いんだと思いますよ、リュエ。

 私は、カイさんに救われた。そして今、リュエ、貴女が彼に救われるかどうかの瀬戸際にいるのだと思います。

 けれども……同時にそれは、カイさん自らが苦境へと、自分の心を削る場所に向かおうとしている事に他ならない。

 だから……私は寄り添おう。貴女が救われるように、彼が救われるように。




 館の裏手から続く小道。その先には、想像通り、あの大きな木の姿。

 まるで、この場所を見守るように、深く深く文字通り根を張るように、丘の上に聳え立つ、その畏怖すら憶えてしまう程の佇まい。

 近くに寄っただけで、まるで深い森の奥に迷い込んだかのような、濃密な緑の香りが肺を満たしていく。


「驚いたね……これ『白霊樹』だ」

「ハクレイジュ……?」


 木の表面を撫でている彼女から、どことなく畏れているような、まるで高価な品に恐る恐る触れているかのような、少しだけ怯えた空気が伝わってくる。

 その『ハクレイジュ』がなんなのかと、里長に視線を向けてみると――

 ……ぽかんと口を開けていますね。


「その木は、とても珍しいものなのでしょうね。私がこの場所にくる前から生えていたので、敬意をもって接してきましたが」

「これは……世界に魔素を放出する数少ない植物だよ。ああ……ここまで立派な木があるのなら……七星の封印の負担も少なくて済むのかな」

「……リュエ」

「それにしても……凄いよこれは。こんな大きさ、文字通りこの大陸を支えていると言っても過言ではないよ。こんな場所に結界の起点があるのなら……正直私でも破れるかどうか……」


 興奮気味に、彼女は木の表面をなぞるように木のまわりを歩き出す。

 一周するのにそれなりの時間を要してしまうようなその幹の太さ。改めてこの大樹の規格外さにため息をつく。

 どうやら、その結界の起点というのが木の反対側にあるらしく、先んじて歩いていったリュエを追うように私達も進んでいく。

 ふと、私もその木の表面を撫でながら、魔眼を発動させて観察してみる。


「っ!?」


 けれども、その光の奔流の眩しさに一瞬で顔をそむけてしまう。

 これほどまでの魔力が……植物に?

 自然に出来たというのですか、こんな……こんな途方もない魔力を生み出す存在が?

 どこから、どうやって、生み出しているんですか……。

 その余りの密度に、恐怖すら覚える。

 魔眼を解除し、そしてようやく見えてきた祠のようなもの。

 そして、その前に立つリュエの姿。

 けれども、その様子がどこかおかしくて、訝しみながら傍へと歩み寄る。


「……ああ、やっぱりそうだったんだ」

「どうしたんです……」

「ほら、これを見てご覧よ。この結界の起点の祠だ。これは……祠であると同時に墓標でもある」


 小さな、木製の祠。その中に、美しい輝きを放つ、六角錐の黒い石が安置されていた。

 その表面には、見たことのない紋章が刻まれている。けれども、よくよく見るとその紋章は、私達が森の出口近くの木の根で見かけたものによく似ているようだった。

 確か……リュエから教えを受けた『ナハト』という一族の紋章のはず。

 ということはつまり……この里を作ったのはリュエの教えを受けた……?


「どうりで懐かしいはずだよ……知らない術式も混ざっているみたいだけれども、根底にあるのは間違いない、私の教えた術式だ」


 墓石に手をかざし、まるで子供にするように優しく撫でる。


「君は、誰だい……教えを授けたのは、一人だけではなかったからね」

「……やはり、そうでしたか。リュエさん、と言いましたね」


 いつの間にか、私達の背後に佇んでいた里長から声がかかる。

 ゆっくりと歩み寄り、そのまま祠へと跪き、祈りを捧げるようにして手を組む。

 恐らく、初代の里長がこの祠の下に眠っているのだろうと、私も彼女に習い手を合わせる。

 そして、リュエも。


「里長。ここに眠っている子の名前を、教えてくれるかい」

「……『ラーナ・ムジカ・ナハト』とても、奇天烈なお爺さんでしたよ」

「ムジカのところの子供だったんだね。そうか……」

「リュエさん。貴女には『セミエール』という名前があるのではないですか?」


 すると、里長がリュエの苗字を、あまり名乗らないその名を口にした。


「なるほど……遺言でも受けていたのかな」

「はい。ただ、遺言と言うには余りにも短く、意味のあまりない言葉ですが」

「ふふ、だいたい想像がつく。ムジカの子供達は、ナハトの一族の中でも特に変わり者が多かったから」


 昔を思い出すように、目を閉じ、まぶたの裏の情景を見つめるように彼女が空へと顔を向ける。

 その姿が、私には涙を堪えているように見えてしまい、つい彼女との距離を詰める。


「『先生が森から出られたのなら、きっとよくない事件が起きたに違いない。が、大丈夫だぞ、もう俺の術式は先生を超えた。真似してくれていいから、これでまた龍神を封印してくれ! ただし使ったら、お礼としてこの里の人間を守ってくれよな』だそうですよ」

「なるほど。残念だけれど、君の予想は外れだ。けれども……教え子の願いくらい、全力で叶えてみせるさ」


 静かに、彼女の背中が一回り大きくなる。いや、そう幻視する。

 きっと、この下に眠る方は、とてもとてもリュエを慕っていたのでしょうね。

 今、彼女が何を思い、何を決意したのか、私には分かる。


「リュエ、ある程度調整が済んだら、一度館に戻りましょう」

「……あ、うん勿論。これは、とてもやりがいがあるね。ふふ、とても楽しくなってきた」


 私だって、子の願いを叶えるためならば、時として悪魔にでもなってみせる。

 身体にみなぎる勝利への欲求が、出口を求めて激しく渦巻くあの感覚。

 それを、彼女もまた感じているのだろう。


「……カイさんの予想は、きっと外れますよ。ダリアさんは、絶対にこの結界を破れないでしょう、ね」


(´・ω・`)決戦の時は近い(決戦になるとは言っていない)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ