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二百五十五話

(´・ω・`)楽しい報酬期間が終わり

「失礼しますよ、マスター」

「……もうそんな時間か。ちょっと待て、今閉店の看板を――珍しいな、他に連れがいるなんて」

「こんばんは。夜分にお邪魔します、マスター」

「あんた……アマミの連れだったな。はは、大したもんだ。アマミだけじゃなくて里長まで誑し込んだのか?」

「ええ、そうなんです。もうこの人想像通りのテクニシャンで」

「ちょっと里長?」


月と星の淡い明かりに照らされた薄暗い森の中を通り抜け、再びやって来たアマミ行きつけの酒場。

バックヤードから突然現れたこちらに、マスターは少しだけ驚いた様子を見せ店の入り口へと向かう。

やはり、この人物も里の関係者だったのだなと確信し、他に客がいないカウンター席に腰掛ける。

周囲の席を見れば、少し前まで他の客も晩酌を楽しんでいたのか、その残滓たる食器が残されていた。

マスターの様子から察するに、里長はよくこの時間にここを訪れているようだ。


「よく、動力供給の後にここを訪れるんですよ」

「あの、少し気になったのですが、動力供給をしているのなら食事の必要はないんじゃ」

「私にも味覚がありますからね。長い時間を過ごすのなら、それなりに楽しみを見出さないと。私の場合、それは性的なものであったり、食であったり、ですね」

「せ、性ですか」

「ふふふふふ……」


彼女は勝手知ったる我が家のように、カウンターの向こう側から一本のボトルを取り出し戻ってきた。

ワイン……ではないな。中に何か固形物が入っている。果実酒だろうか。


「私はあまりお酒が好きではありません。正常な思考の妨げになってしまいますからね。これは、料理を美味しく頂くための、必要最低限の嗜み、みたいなものです」

「なるほど。じゃあ、今日は俺も控えておきます」


トクトクと、心地よい音を立てながら、いつの間にか用意されていたブランデーグラスに注がれる、ほぼ無色透明の液体。

どこか官能的なくびれを持つグラスの内部で香りを閉じ込めているのか、この液体の正体がなんなのかはまだ分からない。

彼女からボトルを、少しだけ奪うように受け取ると、ちょっぴり申し訳なさそうに笑いながら彼女がグラスをこちら側に寄せてきた。


「では、お願いします」


再び、耳に心地いい音をさせながら注がれる、無垢を液状化したようなそれ。

互いにグラスを持ち、軽く触れるような乾杯の合図を鳴らし、煽るように一口含む。


「これは……リンゴ酒ですか」

「ほぼ発酵前のものですけれどね。小さな子供でも飲めるくらい、アルコールの少ないものです」


若い果実のような酸味を含んだそれを口に入れると、ふわりと鼻から爽やかな香りが抜ける。

なるほど。たしかに食前酒としては優れていると言える。


「なんだ、もう始めていたのか……って、里長そりゃないぜ、そいつはまだ仕込み中なんだぞ」

「だからこそ、ですよ。私はあまりお酒が好きではありませんから」

「酒場でそれを言われちゃ適わんよ……まぁそれだけうちの料理が気に入ってるって事なんだろうが」

「ええ、もちろん。私の里の食料を優先的に卸しているだけはあります。今日も、いつものものを……二人分お願いします」


なにやらおすすめしたい品があるのか、彼女はおもむろに料理を注文する。

くるくるとグラスを揺らしながら、その料理が出来上がるまでの時間を潰すようにしている彼女。

妙に絵になる反面、未成年にしか見えないその容姿から、どことなく倒錯的な、危なげな雰囲気が漂っている。

その一種のタブー的存在と化した彼女に声をかける。


「ここへは長く通っているんですか?」

「そうですね、少なくともこの店の開店には私も多少関わっていますから。たぶん、一番の常連でしょう」

「なるほど……」


きっと、森の結界の関係で、どこかに目立たない入り口を作りたかったのだろう。

それが何故店のバックヤードなのかは分からないが。


「長い歴史の中。この土地も幾度となく衰退と繁栄を繰り返してきました。この店は、マスターが偶然この起点となる場所に店を建てようとしたので、そこに私が介入した形になりますね」

「ああ、もう三◯年も前になるのかね……ある日、いきなりこの里長が開店前のこの場所にやってきてな、『ここにお店を出したいのなら、少し私とお話してもらいませんと』って言ったんだ。最初は『なんだこの娘は』って思ったもんだ」


 料理する手を止めずに、どこか懐かしむようにマスターが話を引き継ぐ。


「私も、人となりを見て判断し、眼鏡に適わないようなら追い払おうと思っていたのですけれどね」


二人は、当時のことを語って聞かせてくれた。

里を守るため、絶対に他の人間にはバレない入り口を作ろうとしていたこと。

もともとの入り口である町の奥にある森に、人が多く入るようになり危惧を抱いていたこと。

初代の里長亡き状態で、結界の改良、入り口の設定に非道く難航したことなどを。


「実は、協力してくれたエルフがいたんですよ。初代里長があの里を作る時にも協力してくれた若いエルフなのですが、次に会った時には随分とお爺ちゃんになっていました。まったく、一番美味しそうな時期に会えていたら、もっと楽しめたかもしれませんのに」

「またそんな如何わしい。けれども、そのエルフは信用出来るんですかね?」

「ええ、この大陸の外から来た方ですので。なんでも、『近々引退するので、その前に様子を見に来た』とか言っていましたね」


……ふむ。『近々引退』『約三◯年前』『外の大陸』。

もしや、またしてもクロムウェルさんが関わっているのだろうか。

いや、もしそうならこの里の事をリュエに教えていたと思うのだが……。

……いや、逆に秘密にしておきたかったのかもしれない。

彼女と似たような境遇の存在が、仲間と共に生活しているという状況を。

それは、もしかしたら罪の意識、だったのだろうか。自分達が最後までリュエと共に歩む事が出来なかった事への。

ただの想像。けれどもこれは、俺の心の中に留めておくべき、だろうな。


「出来たぞ里長、それと――」

「カイヴォンです」

「そうか、是非試してみてくれ、カイヴォン」


出された皿には、薄くスライスされて、昨夜里長の作った牛のタタキに似た料理が盛り付けられていた。

だが、薄っすらと肉の表面が白んでおり、マリネの仲間なのだろうとあたりをつける。

香りは……酸味のある香りと、案の定ニンニクの香り。

非常に、酒が進みそうな一品だ。

尤も、今日はこの、ほとんどジュースと呼べるような、若い果実酒なのだが。


「では、頂きます」


フォークに肉を引っ掛けるようにして持ち上げ、口に含む。

じわりと、酸味と甘さの混在する、けれどもニンニクやスパイスの痺れるような味が見え隠れする、絶妙なバランスの味が口内に広がる。

そして噛むたびに染み出す、肉の旨味。なるほど、これは確かに……極上だ。


「どうでしょう、私の味覚が狂っていなければ、美味しいとは思うのですが」

「美味しいです。この果実酒にも合いますね」

「ええ、そうでしょう」


そうして時折会話を交えながら、その一皿を堪能する。

すると、マスターが周囲の席を片付けながら話を振ってきた。

そしてその内容は――


「そうだ、里長。どうやらこの宿場町に向かっている王国騎士の一団がいるそうだ。まぁ、恐らく今の時期だ。街道沿いの宿場町の方が満員だから、こっちに泊まるつもりなんだろうが」

「……いえ、そうとは限りませんよ。アマミから報告が来ていませんでしたか? 少し前に、例の化物が現れたそうですし、その調査かもしれませんよ」

「む……俺は聞いていないぞ」

「昨夜聞いたのですが、どうやらアマミ自身も、自由騎士団の上層部から目を付けられつつあるそうです。だからこそ単独で抜け出すように調査に出た、という事らしいのですが……」

「タイミング的に、王国騎士団と自由騎士団が合流する可能性があるかもしれんな」


どこか警戒するような口ぶりの二人。

だが、ここで疑問が浮かび上がる。

その二つの組織は、そこまで連携が取れるような親しい間柄なのだろうか?

俺は以前、エンドレシアでオインクが率いるギルドと、王国の貴族達の確執を思い出し、その疑問を投じる。


「基本的に両組織が合同で動くことはありませんね。ですが――上はどうでしょうね。何か大きな目的があれば、必要に迫られれば一緒に動く事もあるでしょう。ましてや、相手はこの大陸に巣食う共通の敵、ですから」

「元々、自由騎士って組織だってサーズガルド側が発祥だからな。共和国側にもあるが、向こうとこっちじゃ制度は同じでも、大本が別れてるって話だ」

「……でしたら警戒した方がいいのでは? この町を調べられたらまずいんじゃ」

「大丈夫ですよ。これでも、里の結界に関わっているのは歴代でも最高峰の技を持つ魔導師ですから」


だがもし、その一団にダリアがいたら。

それを思うと……。


「その顔、まだ何か心配事があるようですね」

「……少し前に、この近くでダリアと思われる人間と遭遇したんです」

「……永劫の聖女、ですか」

「そいつは……」


いや、けれどもその時は俺が……いや、俺が俺として、あいつと敵対するのは避けたい。

もしも、俺の存在が敵としてダリアに知れてしまったら、警戒の値を最大まで引き上げられてしまうのではないか。

そうなってしまえば、リュエの願いは叶わない、絶対に。

もちろん、話し合いもなしにいきなり敵対するような人間ではないと思っている。

だが……これまでの話を聞くと、ダリアは少なくとも数百年、この世界で生きている事になる。

俺の友として日本で過ごした二◯年なんて、そんな時の流れの前では……。

不安が、鎌首をもたげる。じわりと、疑心暗鬼にも似た気持ちが思考を侵食する。


「分かりました。少々、警戒しておきましょう。マスター、今日以降しばらくはこの入口を封印します。そうですね、一週間。その間に自由騎士、もしくは王国騎士の一団が現れないようでしたら、いつもの子に印を持たせてください。けれども――」

「緊急の場合は、あの猫ちゃんに赤い首輪をつけて返す、だな」

「ええ、お願いします」


あの猫というのは、あのにんにく娘さんの所の茶トラ猫だろうか。

森の結界を無視して進むことが出来るという、一種の特異個体。

もしやあの猫はもしもの時の伝令役として、その一環で畑を守っているのか?


「カイヴォンさん。というわけですので、明日には里を離れた方が――」

「いえ、残ります。もしもの時の戦力は多い方が良いでしょう」

「まだ里までやってくるとは限りませんよ。入り口を封印してしまう以上、たどり着くことはほぼ不可能です」

「ですが、町の奥の森から入り込まれては――」

「絶対に迷うようになっていますよ。それでも突破した場合は、今度は順路を間違うと転送される結界です」


その結界に絶対の自信があるのか、彼女はこちらの滞在を拒むような口ぶりで言う。

それは、こちらを巻き込まないための方便なのか、それ以外の理由なのかは定かではないけれど。

だが――ここで俺が頷いても、絶対にリュエは動かない。そう確信する。


「ダリアがもしもいたら……恐らく結界も無効化されるでしょう」

「そこまで、なのでしょうか? これでも、数百年絶対に破られてこなかったのですよ?」


……もしも、その結界に携わったのがかつてリュエの教えを受けた『ナハト』の人間と、同じくリュエの元で生まれた『リヒト』の人間ならば、リュエがその気になれば破る事は可能。

そしてそのリュエをも凌駕するダリアの手にかかれば……。


「大陸の結界を司る魔導師、ですよ。何が出来てもおかしくはないでしょう」

「……そう、ですか。そこまで言うのでしたら、滞在を認めます。くれぐれも、危険な事はしないと約束してください。貴方達になにかあれば、うちの子が、アマミが悲しみます」

「もちろん。大丈夫、大船に乗ったつもりでいて下さい」


具体的に言うと、タイタニック級の船に乗ったつもりで。

……氷山なんて砕いてやりますよ。


(´・ω・`)懐かしのレベリングの季節がやってきた

FoとTe以外はキャップ解放してるから頑張らないと!

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