二十二話
やっと たびにもくてきが できたぞ
検証も兼ねて坑道探索を行ってみた物の、敵が弱すぎて検証のしようがなかった。
いっその事"奪剣"改め"奪命剣"を封印して、別な武器で戦った方がいいのだろうか?
が、考えてみたら今まで使っていた奪剣の攻撃力より低い武器なんてただの片手剣『アイアンセイバー』くらいな物だ。
強いにこしたことはないが、余りに手応えがなさすぎるのも考えものだ。
どうしたもんかと思案しながらも、一路宿へと戻ることにした。
あ、やめてやめて、今悩んでる最中だからまとわり付かないで。
「まおーさまー! 今日はどこいってきたのー!」
「おにいちゃん飛んで!」
「まおうになってよー 変身してー!」
最近、街を歩くと子供たちが群がってきます。
おかしいな、ソルトバーグだとナイスバデーなお姉さま方が寄ってきたのに。
「お兄さんは今日はもう疲れたので無理です。ごめんなー、魔王タイムは一日一時間なんだ」
「えー! じゃあ明日はー?」
「明日はどうだろうなー、わからないなー」
けれども邪険に扱うわけにもいかないんだよなぁ。
ほら、保護者の皆様が申し訳なさそうに頭下げてるんだもん。
元々子供好きではあるんだがなぁ。
「随分と人気ですね、魔王さま」
「ん? オインクじゃないか、どうしたんだ」
「ちょっとリュエと話してきたんですよ。中々どうして彼女も悩み多き乙女のようです」
「それはない」
「カワイソス」
そこに丁度いいスケープゴートならぬスケープピッグが現れたので、押し付けるとしようか。
「みんな、そこのお姉さんはなんと魔王様の仲間で、豚に変身出来るんだ。ちょっと遊んでもらえ」
「ほんと!? おねえちゃんぶたになるんだ!」
「まじかよ! ぶただぶただー!」
「ひぇ!?」
「んじゃ後は任せた」
子供に群がられて身動きとれなくなったオインクを尻目に、宿へと戻るのであった。
「リュエー戻ったぞー」
部屋へと戻ると、丁度リュエが服を脱ぎかけている所だった。
ノックをしない俺が悪いね、せやね。でも脱ぐなら鍵もかけないといけないね。
俺じゃなかったらどうするつもりだったんだ。
「何か言う事は?」
「凄くムラムラします」
「いいから一回出ていきなさい!」
これはそろそろ部屋を分けるべきだろうか。
自覚が出てきたのは喜ばしい事である。
シャワー室の扉が開いたのを確認し、再び部屋へと戻る。
この部屋は脱衣所もあるし、今日はしっかり着替えも持っていってるようだ。
だが、だがしかし。
「脱いだものそのまんま放置は頂けない」
悩ましい薄水色の抜け殻がそのまんま放置されていた。
下着まで青系等なんですか貴女は。
……見なかったことしよう。
「そういやアイテムボックス外のアイテムって取り出せるんかな」
ふと、現状の火力過多を解決する方法を考えていた時、リュエと俺、そしてサードキャラの『レイス』の共通ストレージの存在を思い出す。
確か自分の拠点でしか引き出せなかった筈だが、少なくともリュエの家に住んでいた時は引き出す事が出来なかった。
「やっぱり俺が契約した宿ってだけじゃ引き出せないか。というか宿として認識されてないのかね、ここ」
ゲーム時代から存在する宿屋とかが残っていたら引き出せそうだが、この世界はゲーム世界とはだいぶかわってしまっている。無論、大陸も。
オインクの話で少し出てきたが、今いる大陸は『エンドレシア』と言い、ゲーム時代は存在していたか不明だった場所だ。
そしてゲーム時代の大陸は『ファストリア』と呼ばれており、今いる大陸から一番離れた場所にある。
なんとこの世界、5つの大陸が縦一列に並んでいるらしい。7つじゃないのかよと思ったのは俺だけだろうか。
当面の目的はファストリアを目指して旅をするって形にしようと思っているのだが、一度リュエにも相談してみよう。
まぁ勿論、シュンとダリアのいるエルフの国のある『サーディス』大陸にも行くわけですが。
「本当、どうするかな」
リュエに一度、当時のエルフ達の話を詳しく聞くべきだろうか。
ただ、そうすると俺の目的がリュエにもバレてしまうかもしれない。
それに恐らく、復讐とか謝罪とか、そんなのは求めていないだろうし。
だがもし、もしも行った先で何かあれば、その時は――
「どうしたんだい、そんな顔して」
「ああ、もう上がったのか」
「もうって、40分は入ってたと思うんだけど」
マジでか。思いの外考え込んでいたのか。
らしくもない。
「リュエ、これからの事で相談があるんだ」
「じゃあ首都から港町に向かって、そこから『セミフィナル』という大陸に向かうんだね?」
「ああ。そこから大陸を横断して『サーディス』大陸へ向かうの当面の目的だ」
「ダリアとシュンがそこにいるんだね。エルフの国に」
「……もし嫌だったら、サーディスを迂回する船で先に『セカンダリア大陸』に行ってても良いぞ」
「いや、大丈夫だよ。気を使わせてしまって悪いね」
「やっぱり、今のエルフの王族がリュエがいた集落の?」
「王家の名を聞く限りは、ね」
オインクから聞いたのは『ブライト』と言う家名。
クロムウェルさんの『リヒト』と同じ、光を冠する名だ。
この2つの部族はかつて一緒に住んでいた事から、恐らく間違いないと。
そしてリヒトの一族は世界中に散らばったのに対して、ブライトは一箇所にと留まり続けていると言う。
ちなみに、この2つの家名以外を持つエルフは存在しないらしく、それ以外は『ダークエルフ』らしい。
そう、ダークエルフである。褐色お姉さんである。
ゲーム時代は存在しなかった種族だ。
「まぁ、とりあえずはセミフィナルで、最終目的はファストリアだ」
「セミフィナルは七星の一が開放された場所らしいね。一応その開放された近くに行ってみるよ。私ならもしかしたら、分かることがあるかもしれないし」
「何か隠してるようなら脅してみるから問題なし」
「国に喧嘩を売るような真似だけはしないでおくれよ……」
売られない限りは。
翌日、オインクに一声かけてから、クロムウェルさんに挨拶を済ませて街を出る事にした。
オインクはともかく、クロムウェルさんにはかなり引き止められたが、
だがオインクの率いてきた調査団や援軍はこの街に暫く逗留するらしいので、俺達がいなくても問題はないだろう。
というか、余りアテにされても街にいい影響を与えないだろうし。
誰か一人に依存する国なんて、遅かれ早かれ衰退するもんですよ。
首都に向かうのにも一応、護衛の任務を兼ねて行ったほうが良いだろうと、一番報酬の良い物を選んで受ける事にした。
報酬よりもむしろ、馬車に乗せてもらえるかもしれないという下心ありきなんですけどね。
定員は二名と都合がよく、今回はしっかりリュエと俺とで受ける事が出来た。
だが、相場よりも若干とは言え金払いが良いのは何故なのだろうか?
「そろそろ行くぞ……って何してるんだ」
「ん? このミニ神殿に食べ物をお供えしているんだよ。メニュー画面に仕舞える物には限りがあるからね」
「あー、なるほど。んじゃ俺もいくつかお供えしておこうか」
こればっかりは俺達だけの特権である。
というか俺達以外の人間は、お供えした物がすぐ消える事を疑問に思わない物なんだろうか。
まぁ長年あり続ける物だしそういうもんだと納得してるのかもしれないな。
「護衛を受けたのはお前たち二人で間違いないな?」
「はい。俺と彼女の二人です」
「ふむ……見慣れない人間だが、ランクは幾つだ」
「EXです」
「Sだね」
「し、失礼しました!」
待ち合わせの場所へ行くと、甲冑に身を包んだ人間が出迎えた。
どうやら首都の騎士らしく、本来なら騎士団のみで護衛を賄う予定だったらしいのだが、先日の氾濫で負傷者が出てしまい、急遽護衛の依頼を出したそうだ。
で、報酬が高い理由だが、ある程度信用のおける人間で、ランクC以上でないと受けられないと設定してあったそうだ。
無条件でどんな依頼も受けられてしまう所為で、その辺の確認もしていなかった。
で、護衛対象なのだが、王家御用達の商人だそうだ。
なんでも、ソルトバーグから上質な塩と食材を運ぶんだとか。
……どんな物なんですかねぇ?
「しかし驚きましたな! まさかこの大陸に白銀持ちがいらっしゃっていたとは」
「まぁ、長らく一線を退いていた身ですけれどね。それに、彼の方が私よりも頼りになるんですよ?」
「ふむ……黒色とは珍しいですな」
想定外の最高ランクだった為、急遽行われた配置換え。
結果、リュエは護衛対象と同じ馬車にのり、俺もまたその馬車のすぐ隣を馬に乗って並走している。
なんというか、こいつ明らかに女好きだろ。リュエ以外の一緒に乗っていた護衛の騎士も皆女性だったし。
……まぁさすがに王家の手前、問題を起こすような真似はしないだろうが。
あ、もちろん五感強化で中の話を盗み聞きしてる状態です。
何かあったら問答無用で馬車ごとぶっ飛ばす。
リュエはどうするって? 死なないだろたぶん。
「カイヴォン殿、馬の乗り心地はいかがでしょうか?」
「ああ、問題ありませんよ。案外大人しい物ですね」
「しかし、馬に乗るのは始めてだと聞きましたが……」
「何故か従順なんですよこの子。よくしつけられていますね」
「……かなり気性の荒い奴なんですが」
一瞬桜肉食いたいな、なんて思ったせいだろうか。
久々に食べたいなぁ、桜肉のユッケ。
そんなこんなで一晩街道の脇で野宿をし、翌日の昼に中継地点である町に到着したのだった。
(´・ω・`)←暫く出番がなくなります