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二百四十九話

(´・ω・`)発売日まで二十日間連続更新、無事に達成です。

明日の28日に四巻が発売です!

 現れたのは、背負籠を背負った、『薄緑色の髪』をしたエルフの少女だった。

 外見年齢は一八かそこらの、少しだけ眠そうな目をしたその少女が、蛇を咥えた猫を抱きかかえる。


「また蛇なんか捕まえて。前は山鳩、その前は兎。お前本当に猫なの?」

「ニャーン」


 猫に言い聞かせるのに夢中なのか、彼女がこちらに気がついた様子はない。

 しかし、髪の色が金以外のエルフなんて見たことがないぞ……無論、ゲーム時代である神隷期を除いたらの話だが……。


「君は、里の住人なのかい?」

「ヒッ! 知らない人がいる!」

「あ、いや怪しいものじゃないんだ。ちょっとここで待っているようにアマミっていう人に言われてね」


 未だ猫を見つめる彼女に、しびれを切らして声を掛けると、驚くべき速さで彼女が距離をとる。

 背負っていた背負籠を地面に下ろし、その後ろに隠れるようにして。

 非常に警戒している様子だが、やはり里には知らない人間が来る事が少ないのだろうか?


「アマミ……帰ってきてるの?」

「今、里長のところに行くと言っていたよ。君はエルフなのかい? 珍しい髪の色をしているね」

「あ……そうだよ、エルフだよ。それがどうかした?」


 リュエがそう答えると、眠そうな目を少しだけ吊り上げ、やや剣呑な声で返す少女。

 その様子に、彼女もまた自分の髪で何か人に言われるのに慣れているのだということが窺い知れる。

 ああ、そういえば町の中にいたからリュエの髪はまた金色なんだったか。

 するとやはり、彼女は自分の髪色を元に戻し始めた。


「ご覧の通りさ。アマミにお願いして、この里の人達に色々と話を聞きたくてね」

「新しく住むの!? 歓迎のニンニクあげるよ!」

「うわっと」


 またしてもその反応は劇的。彼女は背負い籠の中から、まだ土も、葉すら付いたままのニンニクをひと束取り出してリュエに差し出したではないか。

 そういえばアマミが『ニンニク専門の農家がいる』と言っていたが……。


「すまないが、ここに定住するつもりはないんだ。けれども、この大陸の歴史が気になってね。私もこんな髪だから」

「そっか、住むわけじゃないんだ。とりあえず、里に入れるといいね。にんにくはそのまま貰っていいよー」

「……ありがとう」


 そう言いながら、少し困ったようにそれをこちらに渡してくるリュエ。

 ふむ、葉つきは中々貴重だ。この葉っぱも立派な食材だからな。ありがたく頂戴しましょう。

 ふと、先程から大人しいレイスがどうしているのか気になり辺りを見回す。

 すると切り株の一つに腰掛け、そしていつの間にか逃げてきたと思われる茶トラの猫を膝に乗せて撫でているところだった。

 ……今まで見たことのないような、とろけた顔をしながら。


「はぁ~……なんて可愛い動物なんでしょう……猫、ですよね……珍しい模様ですし……顔つきも丸くて……はぁ~……」

「あ! チャトランいつの間に! お前蛇どうしたんだよ蛇! 変なもの食べちゃダメなんだからね!」

「ニャーン」

「蛇でしたら、私が森の中に放しておきまっしたよ」


 珍しい模様……? ただの日本猫のようにしか見えないが……いや、ここは日本じゃない。それどころか地球ですらない。確かに言われてみれば珍しいのかもしれない。

 ところで……俺も触らせてもらっていいですかね。猫好きなんですよ猫。

 彼女の元へ向かい、そっと手を伸ばす。だが、その進路上にレイスの頭が割り込み、そのままその頭を撫でる事に。


「にゃーん」

「レイス、さすがにいい大人がする事じゃない」

「………………はい」

「へへ、じゃあ改めまして」

「ニャーン!」


 すると突然、猫が膝から飛び降り、森の中へと入っていってしまった。

 おいおい、この森って下手したら次元の狭間に落ちたり町の外まで飛ばされてしまうんだろ?

 こちらの責任で、飼い猫を危険な目に合わせてしまったと、急ぎニンニク農家の娘さんに謝罪する。


「ああ、大丈夫。あの子ちょっと変わっていてね。結界とか無視して私のところに帰ってくるんだ」

「ええ……」

「ふむ……見たところ、少々不思議な気配をした猫だったね。一種の守護獣なのかな?」

「分かんない。ある日突然森の中から現れて、私の家に住み着いたんだもん。にんにく畑で番猫してるよ」


 ……なんとも不思議でパワフルなお猫様ですね。




 猫を追いかけようにも追うあてもないからと、にんにく娘さんもアマミが戻ってくるのを待つと言い出し、軽く自己紹介を済ませた時だった。

 先程アマミが消えた獣道から、再びアマミが戻ってきたのだ。

 するとその姿を見るや否やにんにく娘さんが駆け出し、彼女に抱きついた。


「アマミおかえり!!! 何年ぶりだっけ!?」

「うわ! なんでこんなところにいるのクゥちゃん」

「チャトラン追いかけていたら、知らない人がいたから少し話していたんだよ」


 君クゥって言うのか。さっきからずっとにんにく娘と心の中で呼んでいましたよ。

 しかし……何年ぶりって、アマミは年単位でここから離れていたのか。


「今回、ちょっと色々仕事の関係とかあって帰ってきたんだ。で、今はこのお客さんを里に案内するとこ」

「分かった。じゃあ後でうちにも寄ってね。アマミの飼っていた牛とかみんな会いたがってると思うから」

「ああ~! そういえば牛子元気? お乳はもう出ないと思うけれど」

「ううん。今朝もたっぷり出てたよ、絞ると『アア~』って鳴く癖も変わらず」


 ……飼い主に似たのかな? あと牛につける名前が『牛子』って……。


 先程言っていたが、どうやら俺達が里に入る許可が出たらしく、再び彼女に連れられて森の奥へと進んでいく。

 もうそろそろ近いとのことだが、相変わらず間違った道を進むと町まで戻されてしまうらしいので、慎重に彼女の後を追いかけていく。

 そして、先程からレイスがこちらの服の後ろを掴んでいるせいか、微妙に歩き辛い。

 いや気持ちは分かるんですけどね。


「なんて恐ろしい場所なんでしょうか……カイさん、もしもの時は私も一緒に……」

「まぁ、最悪の事態が起きたら私が結界を強引にこじ開けるから安心しなよ。ふふ、恐がりだね」

「当たり前です……大切な家族と離れるのは嫌です……」

「……そうだね。じゃあ、レイスの手は私が握ろうかな」


 大切な家族。そう言ってもらえるのが、光栄で、嬉しくて、むず痒くて。

 ここじゃなければギュっと抱きしめたくなります。


「あ、この木の根を飛び越えたら結界を抜けるよ。ただの森になるから安心してね」

「お、ついにか!」


 アマミが指差す地面には、太い、ちょっとした木くらいの太さの立派な根っこがうねり、道を遮っていた。

 そこをアマミが飛び越えた瞬間、彼女の姿が掻き消える。

 そしてそれに続きクゥちゃんも飛び越えると、背負籠からニンニクをこぼしながら消えていった。

 ……拾っておいてあげましょう。

 さて、じゃあ次は俺の番だとその根の前に立つ。

 ふいに、その根をよく見てみると、傷が修復されたのか、少しだけ盛り上がったような跡が残されていた。

 誰かが釘で引っ掻いたかのようなその痕跡に目を凝らしていると、後ろからリュエも覗き込んできた。

 興味深そうに唸りながら、その傷跡を指でなぞり、そして目を閉じて何かを思い出すように首をかるくかしげる。


「これは……形が変わってしまっているけれど、見覚えがある紋章だね。確かエルフの氏族のどれかの紋章だったはずだよ」

「魔術的なものではないのかい?」

「いや、氏族の名を表す紋章はどれも魔術的な意味合いを持っているんだ。たとえばリヒトは『導き』ブライトは『繁栄』の意味を持つ紋章を自分達の証として使っていたよ。けれどこの紋章の意味は……『静寂』ナハトの氏族のものだね」


 初めて聞く、第三の氏族の名前。元々リュエの住んでいた森には沢山の氏族が住んでいたそうだが、そのうちの一つなのだろうか。


「ふむ……彼らの誰かがこの隠れ里を最初に作り出したのだろうか」

「その氏族はどういう人達だったんだい?」

「そうだね……変わり者の一族だったかな。私は周囲の人間から爪弾きにされていたのだけれど、それでも多少は交流があったんだ。リヒトなんかがそうだね。けど、中には私に『その魔術の知識を教えてくれ』と教えを請う氏族もいたんだ。それが――」

「ナハトか」

「いや、ナハトとブライトだね」


 脳に勢い良く血が流れていくのが分かった。

 ……おいテメェ、リュエから教えを受けていた癖にあの仕打ちをしたのか。

 それだけじゃない。まさか、まさかとは思うが――


「契約魔導を教えたのは……まさかリュエ自身なのか」

「……そうだよ」

「カイさん!?」

「ストップ、落ち着いてカイ君。覇気だけで結界が壊れそうだ。大丈夫、私はもう大丈夫だから」


 リュエが背中に抱きついてくる。密着した背中に、直接彼女の言葉が響いてくる。


「本当に……君は少し不安定過ぎるよ。私は、今君の隣にいる。それを、忘れないで」

「けれども……カイさんの気持ちも、分かります。あまりにも……不義理です」

「レイスまで……っと、アマミを待たせちゃいけない。話しの続きは向こうについてからだよ」

「ああ」


 その怒りを少しの間だけ飲み込んでおく。

 そして、その結界の境界である木の根を飛び越えたのだった。






「ここは……なんだ、空が、妙に青いな」


 そこを飛び越えると、鬱蒼とした森から、日当たりの良い森へと変化していた。

 青色が不自然に濃い、少しだけ違和感を覚える空。そして、森の終わりに目を向ければ、アマミとクゥちゃん。そして、初めて見るもう一人の女性の姿が。


「あ、来た来た! 里長、あの人がさっき言った、白い髪のエルフさんの仲間で――」


 どうやら里長だったようだ。

 だが、その肩書に反して、その人物の姿は若々しく、そしてどこか場違いめいていた。

 黒いゴシック調のワンピースを来た、クゥちゃんよりも更に背の低い女の子。

 どこかのお嬢様を思わせる佇まいと、その外見に似合わず、こちらを値踏みするかのような、真紅の瞳。

 髪の色は……白ではなく銀。だが、どこかこの少女もまた、普通の人間とはどこか違うような、そんな違和感、雰囲気を感じさせる。


「へぇ、良い男じゃない。主賓の到着はまだだけれども、ご挨拶させていただきます。この里の里長を務めている……まぁ、名前よりも里長と呼んで貰ったほうが通りもいいでしょうし、里長と、お願いします」


 凛とした声で、どこか距離を感じさせる自己紹介を済ませるその人物。

 とここで、背後の茂みの揺れる音がする。どうやら二人も追いついたようだ。


「ここは……また不思議な場所だね」

「空が少し……違和感を覚えますね」


 するとその時、里長が一歩、また一歩と踏み出して来た。

 何事かと身構えると、見事にこちらを無視し、背後の二人へと駆け寄っていく。


「まぁ、なんと魅力的な方。どうです、ここに住まわれては?」

「え? あの、私ですか?」


 レイスの手を取り、うっとりと見つめている里長。

 随分と変わった人ですね……?


(´・ω・`)次回更新は少々間が開くと思います。さすがに疲れました


追伸

ラノベニュースオンラインさんからインタビューを受けました。

サイン本を貰えるキャンペーンなどもありますので良かったらどうぞ。

http://ln-news.com/archives/49029/post-49029/

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