二百四十八話
(´・ω・`)連続更新ももうすぐ終わりだで
アマミ行きつけの酒場で、たっぷりと胸焼けしそうな程のにんにく料理を堪能してから一夜明け。
一緒に提供されたドリンクの効能か、胃のムカつきや口臭などは問題ないと確認を終えたところでベッドから起き上がる。
さすがに、女性陣の寝起きをまじまじと見る訳にはいかないからと、少しだけ早く起きて身支度をすませていく。
「…………ああ~! ああ~! ダメ! ダメ! ……ぐぅ」
「どんな夢見てるんだこの子は」
必死に天井に向けて両手を伸ばすアマミを見て笑いを漏らす。
さて、じゃあちょっと朝の散歩と洒落込みましょうかね。
宿から出ると、こちらが想像していた通りの光景をこの目に映してくれた。
朝の木漏れ日、まるで光のシャワーのような幻想的な光がまだ静寂に包み込まれた町を優しく照らす。
元々木造の建物の多い関係か、その淡い光に照らされたそれらが、どこかぬくもりを感じさせてくれる。
……なるほど。もしも、もしもここがこの大陸でなければ、ついつい長期滞在をしてしまいたくなる場所だな。
それに、ポイントカードも貰った事ですし? あの店員達はいい顔をしないだろうが。
町の中を眺めながら、アマミが言っていた更に森深くへと続く道の様子を見に向かう。
鬱蒼と生い茂る緑。そこへと伸びる、かろうじて獣道と呼べるような、草木の背の部分。
こりゃ、魔車での移動は不可能だな。宿で預かってもらう事になりそうだ。
「みんなが起きたら昨日の酒場に向かうんだったか」
そろそろみんなも起きた頃合いだろうと、一度宿に戻ることにした。
扉をノックすると、しっかり三人分の返事が返ってきた。
室内に入ると、既に三人共着替えを済ませており、ちょうどアマミがレイスに髪を結ってもらっていると ころだった。
どこか照れたような表情を浮かべているアマミと、長い髪だからやりがいがあるのか、少しだけ嬉しそうに手を動かすレイス。
そしてリュエがそんな二人に時折視線をやりながら、なにやら本を読んでいた。
「少し散歩に出ていたよ。業腹だが、いい町だね、ここは」
「あ、カイヴォンがまた憎まれ口叩いてる。どうして素直に褒められないのかなー」
「いろいろあるんだよ。まぁいい町だよ、本当。ご飯も美味しいし言うことなしだ」
「くく、カイ君が心の中で『この大陸でなければな』と付け加えたのが聞こえてきそうだ」
「さすがリュエ」
「むー。私の故郷をそんな風に言わないでよね」
「あ、動かないでください。もうすぐ終わりますから」
「あー悪かった。いや大陸自体は嫌いじゃないんだよ。ただ本当、こっちにも事情があるんですよ。そのうち話すから、とりあえず今は謝罪だけで勘弁してくれ」
大人げないのはわかっているんだがね。
だが坊主憎けりゃ袈裟まで憎いを地で行く身としてはなかなか難しいんです。
未だ頬を膨らませるアマミに頭を下げ、ようやく怒りを収めてくれたところで、レイスが髪から手を離した。
「完成です。どうですか? これならある程度の長さもキープしつつ、乱れないでしょう?」
「どれどれ……うわ、なにこれ! どうやったのこの髪型!」
「フィッシュボーンという編み方です。後で紐を使ってやり方を教えてあげますよ」
「へー! 三つ編みの凄いやつって感じなのかなぁ」
嬉しそうなアマミと、それを見ながら少しだけ羨ましそうな顔をするリュエ。
……なんだろう、段々といつものリュエに戻りつつあるような気がする。余程この道中が楽しいのだろう。
そういえば、昨日も何度も吹き抜けから飛び降りて遊んでいましたね?
楽しい事が増えると、段々といつもの無邪気な心がこちらの人格に影響を与える……という事なのだろう。
「さて、じゃあ昨日の酒場に行こうか」
「おう、来たなアマミ。それじゃあ奥に向かってくれ」
「お邪魔しまーす」
酒場に着くなり、アマミがカウンターの奥へと歩きだす。
まてまて、説明プリーズがっかりエルフ二号さんよ。
だがその願い虚しく、奥へと消えていく彼女の背中。どうしたものかと頭を捻っていると、店主がこちらにやってきた。
「まぁ、とりあえずアマミの後を追いかけてくれ。俺は店の鍵を閉めなきゃならん」
「どういうことなのかよく分かりませんが、とりあえず分かりました」
カウンターテーブルの向こう側という、ある種の聖域めいたそのスペースを通り、バックヤードへと入っていく。すると、両脇に酒棚が備え付けられた狭い通路が現れた。
「ふむ……随分年代物のワインが置いてあるじゃないか。今度ごちそうになろうかな」
「確かに……これなんて製造年が今から八◯年前のウィスキーですよ」
「へぇ……酒場としても一流の品揃えなのか。こりゃ帰りの楽しみが出来た」
その狭い通路を抜けると、今度は備品やら何やらが積まれた倉庫に辿り着く。
だが、未だアマミの背中が見えてこない。一体どこへ向かったのだろうか?
とここで、背後からリュエの声がかかる。
どこか剣呑な、警戒心を露わにする様子の。
「……レイス、魔眼の発動を。カイ君、私とレイスの間に入って。殿は私が引き受ける」
「分かりました。カイさん、後ろへ」
「了解」
疑問より前に行動に移す。二人に挟まれるようにしながら、さらに進んでいく。
「レイス、前の様子はどうだい」
「……既に、だいぶ奥まで入り込んでいるみたいです。先の方にアマミさんの魔力反応もあります」
「……罠ではない、か。カイ君、ここは、言うなれば私の家の倉庫のような場所なんだ。いつの間にか、私達は狭間の世界へと迷いこんでいるみたいだ」
「……なるほど」
つまり、この町から更に奥へ向かう道というのは、あの獣道ではなかったちうことなのか。
そう思い立ったその時、この備品だらけの倉庫の果て、一つの扉が見えてきた。
他に道もないからと、そのドアノブをゆっくりとひねり押し開く。
するとそこに広がっていたのは――
「あ、遅かったね。ごめんね、説明するのが遅れちゃった」
「いやまぁ、説明しづらい場所っぽいからいいけど……ここって、町の奥にあった森だよな?」
そう、予想に反して扉を開いたその先は、朝に俺が確認した獣道の真っ只中だった。
だが、今まで俺は屋内を歩いていたはずだ。不思議に思い、後ろを振り返る。
すると、そこには確かに先程まで俺達が滞在していた町の姿。
「あ、ここから引き返すとまた酒場からやり直しだからね?」
「……空間相違術式の一種かな……普通に森に入ったんじゃあその里にはたどり着けないって訳なんだね?」
「正解。あの酒場の奥からここに来て、さらに決まった道を通らないと絶対にたどり着けないんだ」
「……なるほど、ここを作ったのはダリアではなさそうだ。これなら私でも関与出来る」
「ああ~! やめて、絶対にいじらないでね!?」
……すげぇ、なんだこのファンタジーギミック。ただの空間転移やら四次元空間的倉庫よりもロマン溢れるんですが!?
見れば、レイスも少し混乱した様子で周囲をキョロキョロと見回している。
やだ可愛い。そんなに不安そうにしないでくださいな。
「じゃ、私の後に続いてね」
獣道を進んでいく。途中、明らかに藪にしか見えない場所へと進路を変えたり、意味があるのかないのか 分からない迂回路を通ったりと、正直道を暗記しようとしていたのだが途中で断念してしまう程だ。
それだけではない。途中、周囲の木々が熱帯雨林風のものから、針葉樹、さらには紅葉と、目まぐるしく環境が変化していったのだ。
すると、前を行くアマミが恐ろしい事を言い出した。
「これ、基本的に別な道に行こうとすると森の外に放り出されるんだけど、極稀に永遠に迷子になるらしいから気をつけてね。昔、いなくなった子供がいたんだけど、三〇年後に見つかったっていう話もあるんだ。しかも、当の本人は二日くらい迷った程度の感覚しかなかったとか」
「それは……なんとも恐ろしいね。周囲に取り残されたその子供はどうなったんだい?」
「……分かんない。私が生まれる前からある迷信みたいなものだから。けど、くれぐれも気をつけてね」
こわ! もう絶対アマミの背中から目を離さないぞ俺。
それからまた少し進んでいくと、少しだけ開けた場所に出た。
苔むした切り株が点在する、まるで天然の休憩所のような場所。
少しだけ寂しいような、そんな気持ちにさせるその場所で、アマミが一度立ち止まった。
「じゃあ、私はちょっと里長にお伺いを立てにいくから、三人はこの場所で待ってて。くれぐれもさっきの道を引き返そうとしないように。あと、私の後も追いかけないようにね。それ以外なら自由にその辺りを見て回っていいから」
「分かった。けど……恐いからここに座ってるよ」
「そ、そうですね……もしも三〇年もカイさんと離れたらと思うと……」
「右に同じく。強引に突破して、この術式結界を壊す訳にもいかないからね」
心底恐ろしそうにレイスがこちらの腕を掴み、そしてリュエも苦笑いを浮かべながらレイスの肩に手を置く。
その様子を見て、おかしそうに笑うアマミが静かに森の奥へと消えていく。
……ふむ。動きはしないが――
「ちょいと調べてみるか」
剣を取り出し[ソナー]をセットする。さて、この不可思議な森の全貌を見せさて頂きましょうか。
地面に剣を突き立て、魔力の波を木々に反響させる。
ここまで鬱蒼とした森ならば、屋内と同様の効果を出してくれるはずだが――
「……なんだ、これ」
「それはカイ君の探知魔法のようなものだね。結果はどうだったんだい?」
「それが……木の反応しかない。アマミの反応もなければ、他の建物も、生き物も、なにもいない」
「こ、ここは本当に森なんですよね? まさかあの世なんて事は……」
「ふむ、確かにここは狭間の世界。ある意味あの世に近い場所かもしれないね」
「ひっ」
ああ、柔らかな膨らみが押し付けられる。
はっはっは、怖がりさんめ。もっと抱きつきなされ。
とその時。なんの反応もなかったはずの藪が、ガサガサと音を立てる。
すぐさま剣を構え、その音の正体が現れるのをじっと待つ。
そして――小さな黒い影が飛び出してきた。
「フシャー!」
現れたのは、口に蛇を加えた茶トラの猫。
そしてその直後にもう一度、ひときわ大きな音がする。
「待って、どこいったチャトラン」
藪をかき分けて現れたのは、一人の少女。
独特の髪色を持つ、エルフの少女だった。
(´・ω・`)都心ではすでに売ってるお店もあるそうですね
ちなみに、ブックワーカーさんにて暇人魔王の電子書籍が1~3巻までが期間限定(28日まで)で100円になっています。
スマホに入れてどこでも読むというのはどうでしょう。