二百四十一話
(´・ω・`)新キャラ登場
レイスに助けられ、そしてリュエの人格についての話を聞いてから一夜明け。
絶賛ブライトネスアーチに向けて魔車を走らせているわけだが、現在の御者は俺。
二人は今どうしているかと言うと――
「なるほど……つまりリュエは、リュエなんですよね」
「そう、私は私。いつだって一緒にいたリュエだよ」
「……人格、というよりは、性格の変化、の方がしっくりきますね」
「言い得て妙だね。確かに、殆ど私達は同化している以上、その表現の方がしっくりくるかもしれない」
「なるほど……その、大丈夫なんですか? なにか辛い事があるのでしたら、すぐに言ってくださいね」
「ふふ、本当に優しい子だね。良い妹を持てて私は幸せだ」
御者席から、客車内の二人の話し声に耳を傾ける。
どうやら無事レイスにも説明を終え、受け入れられたようだった。
……彼女を王の元へ、か。騒ぎを起こさずに彼女を王都、そして城まで連れて行く方法となると……絶対に必要になるものがある。
それはズバリ、ダリアの協力だ。だが、現状俺がダリアと接触する方法がない。
仮に俺が直接王城まで乗り込んだとしよう。そこで『カイヴォンだ』と名乗れば、もしかしたらダリアが来てくれるかもしれない。
だが……問題はあいつが具体的にどういう役職についているか、だ。
聖女と崇められている以上、もしかしたら城とは別な場所にいるのかもしれない。あいつは別に王家の人間という訳ではないのだから。
ともすれば、俺が城で名乗りを上げたところで、あいつの元まで名前が届かないのではないだろうか。
勿論、試すつもりではあるのだが。
さすがに、アビリティを駆使しても城に侵入するのは難しい。
いっその事問題でも起こして連行されれば――とも考えたが、仮にも王都の、それも王族の住まう場所。
犯罪者をいちいち城の地下牢まで連行するとも考えられない。よくて刑務所のような施設送りだろう。
「ままならないな……無血で辿り着くのがこんなにも難しいとは」
具体的な方法は、王都に着いてから考えるとするか、ね。
「カイ君。この大陸はだいぶ魔力が淀んでいるから、恐らく夜になれば魔物も活発になるはずだ。久しぶりに私が結界の魔導具を設置してくるよ」
「あ、じゃあ任せるよ。俺はそうだな……この魔車は寝泊まり出来そうにないし、テントの準備でもしようかな」
「では、私は周囲の様子を見てきますね。テントを張るのに相応しい場所を見つけてきます」
レイスの入手した魔車は、どうやら特権階級の人間の為のものだったらしく、我が家のケーニッヒさんには及ばないものの、かなりの距離を移動する事が出来たようだ。
彼女が魔車と一緒に手に入れた地図によると、俺達が今通っていたのはサーディス大陸の南端から、北の港町まで続く巨大な河に面した街道だったようだ。
が、残念ながらブライトネスアーチまでの道程のうち、まだ1/10にも満たない距離しか走破出来ていない。
まぁ、さすがそうすぐに辿り着けるとは思ってはいなかったが……。
「しかし河沿いって言ったって……密林しか見えないじゃないか」
今は街道から逸れ、密林の密度が薄くなっている、ちょっとした獣道を進んだところで野営の準備に入っている。
魔物がいるのならば、見通しの良い街道沿いの方がいいのだろうが、こちらは仮にも追われている身。まぁ恐らく追いつかれはしないだろうが、念には念を入れて、と。
それに、実は街道での野営は、場所によっては森や川のような、自然の中よりも危険性が高い場合がある。
そしてそれは、その周囲の治安の良さに反比例する。つまり――野盗やそういった類の人間に見つかる可能性だ。
が、こちらはそこまで警戒していない。レイスが言うには、ここ最近魔物、それも正体不明の影の目撃例が増えているらしく、それを警戒して巡回している人間がいるそうだ。
で、その巡回にあたっているのが、この大陸における『ギルド』に相当する『自由騎士団』と。
ヴィオちゃんはその自由騎士の中でも、最高位の称号を得ているらしい。
ふむ。俺も所属して名を上げ、それで王国に取り入るというのはどうだろうか。
……戦争でも起きて何百人と敵を倒さない限り、そんな短期間で出世は望めないだろうな。
「よし、こちら側は設置完了。ただいま、カイ君。今回は少し余裕を持って広めに結界を展開したよ。もしもの時は森の中に隠れられるように、残りは森の中に設置してくるよ」
「おかえり、リュエ。でもそれだとだいぶ魔力を食うんじゃないかい?」
「ふふ、その気になれば一つの森をまるまる封絶出来る私だよ?」
「……そうでした。ありがとう、リュエ」
「どういたしまして。それで、レイスはどこかな?」
「ああ、今テントを貼れる場所を探しに森に入っていったところだけれど」
「……ふむ、じゃあ私も彼女を追いかけようかな。テントの設置場所のすぐ側にも一つ基点を起きたい」
そう言いながら、彼女も木々の合間へと姿を消していく。
彼女のこれまでの様子を見るに、やはり俺と森で暮らしていた頃のような、旅を初めて間もない頃のような立ちふるまいに戻っているように思える。
そして次第に、彼女の奥で眠っていた、純粋でどこか幼い感情が目を覚まし、それが徐々に溶け込んでいった、と。
つまり今の彼女は、またその幼い心が眠りについてしまった状態、という事なのだろう。
……となると――今のリュエはもしかしたら、この日常を退屈で、味気ないものに感じてしまっている? ……いや、少なくともそれはないだろう。
幾ら大人びたとしても、楽しいと思う心に嘘つける程、彼女は器用ではないさ。
なにせ――
「言葉は冷静でも、仕草に現れてるんだよなぁ……森の中でスキップは危ないですよ」
木の根っこにでもひっかかるんじゃないかね?
こちらもテントをアイテムボックスから取り出し、二人が戻ってくるのを待っていた時だった。
街道側から馬、それとも魔物だろうか。力強い足音が聞こえてくる。
そしてそれは、明らかに進路をこちらに変えその音をどんどん近づけてくる。
何事かと、身構えて音のする方に目を凝らす。
見えてきたのは、馬に似た魔物と、それに跨るエルフの女性の姿。
髪の色は……濃い金色だ。そして瞳は――深い、とても深い緑色だ。
舌打ちをしながら、どうするべきか考える。
まず、アイツは何者だ。なぜこっちに来た。
だがこれ以上思考する時間はないようだ。向こうが、こちらに気がついた。
「あ! ああ~! 人、人だ! ちょっと今から飛び降りるので受け止めてくれませんか!」
「は!? ちょ、うわ!」
突然のダイブ。慣性をたっぷりと受けたその身体が猛烈な勢いでこちらに突っ込んでくる。
それをなんとか受け止めるも、勢い余って倒れ込み、押し倒される形になってしまった。
まさか、このコートに付与されている[衝撃耐性]を持ってしても受け止めきれないとは。
俺じゃなかったらこれ、受け止めた人間もろとも大怪我だろうが。
まったく、なんのつもりだこいつ……。
「た……助かった……。助かりました、今回復魔法をかけますからね」
「必要ない。なんだ、お前は」
何故かこちらを押し倒したまま魔法を発動させようとする目の前のエルフの女性。
それを押しのけようとするのだが……あ、まずい凄い柔らかいものが当たってる。
ついに俺もラッキースケベという主人公特有のアビリティを入手してしまったのだろうか。
……相手がこいつじゃなきゃ役得だが。
「カイさん。ただ今戻りました。先程物凄い勢いで魔物が走り去って――カイさん?」
「ふむ。カイ君、それはどういう状況かな? さすがに私も面白くない」
「突然襲われた。二人共助けてくれ」
「え!? ちょ、待って下さ――ああ~!」
とりあえず疑わしきは……罰する! ブライトの一族の可能性がある以上、容赦はせん。
「あ、あんまりですよこれは……ちょっと助けてください、これ取って下さいよ」
「突然現れて、下手したら人が死ぬような勢いで飛び込んできた正体不明の人物を無警戒で自由にしておく道理がないわけだが」
「そんな……現に貴方、無傷じゃないですか、そんな大げさな……」
「それは俺が特別強くて、それでこの着ている服の性能が高いからだ。とりあえずそっちの言い分を聞いてから解放する」
さて、我が家の娘さん二人が流れるような動きでこのエルフを取り押さえ、木から吊り下げているわけですが……レイスさん、こんな縛り方どこで覚えたんですか。これ亀甲縛りですよね?
あとリュエさん、さすがに剣を突きつけるのはまだ早い。
「じ、自由騎士団所属のアマミと言います。調査の司令を受け、この辺りの森の調査向かう予定だったのですが、急に騎獣が暴走して、それで……」
「……なんの調査だ」
縛られたまま、アマミと名乗ったエルフが語る。
調査……まさか、リュエの捜索か? ならばここで――
「実は、昨日の夕方、ある街で黒い影の魔物が現れました。その際、白髪のエルフの姿も目撃されたという事で、この先の隠れ里にそれについての話を聞きに――あ!」
「……」
リュエとレイスに視線を送る。どうするべきか、ここで始末するべきだろうか。
いや、血は流さないように、と言われている以上、手にかける事は出来ないが――
「今、貴女は森の調査と言っていましたが、途中から『隠れ里』と言いましたね。それはどういう意味ですか?」
「……も、黙秘します」
レイスが追求するも、それを拒否するアマミ。
するとここで、無言でリュエが剣を喉に突きつける。
血を流させないと言ったのは彼女だ。ならばただの脅しだとは思うのだが――
その視線が、その言動の鋭さが、この先の惨劇を幻視させる。
ゾクリとこちらの背筋が震える程の殺気。その目に見えない、けれども肌に感じてしまう程の威圧感……これが……『殺す道具』として生きた彼女の在り方か。
「訳あって、私達は情報が欲しい。けれども、邪魔をする人間は誰だろうと容赦はしない。身内に危害を加えた以上、相応の対価を貰いたいところだ。情報か、身包みか、どちらか選びなさい」
「ああ~! だれかー! だれかー!」
なんか凄く緊張感がないというか、がっかり感漂う娘さんだ。
ぱっと見凛々しい剣士なのに。あれ、そういえばそういう人が身内にもいたような……。
そういえば今キリっとしてますけど、貴女もがっかりなエルフさんでしたよね?
ふむ……しかしなかなかどうして根性がある。間近でこの殺気を受けてまだ話さないとは。
「言いません、絶対に!」
「リュエ、もういい俺がなんとかする」
こういう手合の場合、直接的な脅しではなく内側から揺さぶりをかけるべきだ。
俺は早速剣を取り出し、アビリティをセットする。
まずは[詳細鑑定]をセットし、彼女の情報を読み取る。
【Name】 アマミ・ダリア・ハーミット
【種族】 エルフ
【職業】 剣豪(37) 狩人(44)
【レベル】98
【称号】 頑張り屋
みんなのお姉さん
剣聖に至る者
【スキル】剣術 弓術 投剣術 回復魔法 部隊編成
料理 簡易調合 騎乗 悪路走破 不運 不屈
ふむ。さすが魔物が平然と闊歩する大陸に住むだけはあり、また自由騎士団というものに所属しているだけはあるようだ。
……というか、かなり強いなこいつ。
だが、それよりも気になるのは――
「お前、ブライトの一族じゃないのか」
「ああ~……また間違われた。たぶん、私のお爺さんとかお婆さんに血を引いてる人がいるんだと思います。私のこれはその先祖返り? みたいなものだって聞いてます」
「隔世遺伝みたいなものか……?」
ふむ、ブライトじゃないのなら多少は扱いを考えねば。
とりあえずですね、その全身に食い込んだ縄のせいで目の毒なんですよ。
……なかなか立派なものをお持ちのようなので。
うん、なんかごめんね。アマミさん。
「イテテ……とにかく、私は喋りませんよ」
「それなんだが――俺に隠し事は不可能だぞ、ハーミットさん」
拘束はまだ続けているものの、一先ず彼女を木から下ろしてやる。
まずはそうだな、読み取った情報をブラフとして使い、揺さぶりをかけてみるか。
だが――どうやら俺は彼女の逆鱗に触れてしまったようだった。
地面に下ろされているとはいえ、縄で縛られていたはずの彼女が、その拘束を無理やり引きちぎり、そして腰の剣に手を伸ばし――
「……何者だ貴様。何故その名前で呼ぶ」
「そっちが本性かね。だが一先ず剣を収めな、うちの娘さん達の気が立ってる」
恐らく、俺が以前レイスに頼まれて放った剣術『ゲイルピアサー』だろう。
一瞬で距離を詰め放たれた一撃が、こちらの額に触れる寸前で止められていた。
剣術は剣術でも、ゲーム時代の技を使える人間は極々稀だ。
ステータスからも見て取れていたが、やはり彼女も只者ではないようだ。
「相手の思考をうっすらと読める、とだけ。どうやら余程触れられたくない話題のようだ」
「……危険だ。ここで消すべきか」
「……やってみろ」
剣にこちらから額を押し当てる。
確かに強い。だが――それはあくまで一般的な範疇での話だ。
額は、本来割れやすく、また血も流れやすい場所。まさに急所だ。だがそれを押し付け、彼女の剣を押し返す。
感じるのは、僅かな抵抗のみ。そこにチクリとも痛みは生じず、少しずつ彼女の伸ばしきった腕が曲がっていく。
「もう一度言う。やってみろ」
「な……なんだ、これ……」
「このまま、頭の奥の奥まで覗き見られるか、こちらの質問に答えるか、二つに一つだ」
鋭い眼差しが、驚愕と恐怖に彩られていく。
そしてこちらの言葉を信じたのか、それとも諦めたのか、彼女は剣を収めた。
「くっ……殺せ。頭を読まれるくらいなら、死んだほうが――」
「なんと……今の言葉聞こえましたかお二人とも!?」
はいストップ。今このエルフの女騎士が言っちゃいましたよ。
今までリュエやスティリア嬢、それにアーカムの娘ジニアも言わなかったあのセリフをついに言ってしまいましたよ!?
「『くっ、殺せ』と言ったみたいだね。ふむ、なかなか肝がすわっているじゃないか」
「あの……カイさん?」
いやぁ、生くっころ聞けてちょっと興奮してしまいました。
が、相変わらずアマミは睨むようにこちらを見つめている。
その視線にこちらが気がつくと、慌てて彼女は視線をそらし、両手で自分の目を隠そうとする。
……恐らく目を見られたら思考を読まれると思っている模様。
なんだろう、結構切迫した状況なのに、微妙に締まらないというかなんというか。
あ、今度は目だけじゃなくて自分の服をめくって頭を隠しだした。頭隠しておへそ隠さず。お腹が丸見えである。
「……あの、カイさん。さすがにそろそろ見ていて気の毒ですので……」
「あ、ああ……アマミさんや。もう一度話を聞かせてくれないか」
「そうやって思考を読む気なんだろう! く、私に自刃する勇気がないとでも――」
「はい没収。いいから、少し話を聞きなさい」
リュエさんナイス。一先ず彼女を座らせて、話の続きをすることに。
まず、先程から感じていた事なのだが、どうやら彼女はその『隠れ里』とやらの存在を必死に隠しているように見える。
調査内容というよりは、その里そのものを隠そうとしているようにも感じられる言動。
そして、彼女の名前に含まれている『ハーミット』。その言葉の意味は『隠者』。
もしかして――
「なるほど……アンタ自身がその隠れ里の出身って訳か。じゃあ調査の為って言うのは――」
「やっぱり読まれていたのか……」
「いや、俺が読んだのは名前だけだから。残りは全部推理だ推理」
「…………え?」
「そんな一瞬で頭の中読めるなら最初からそうしてるって」
彼女は『白髪』と『魔物』の調査と言っていた。
だが、それでわざわざそんな隠された場所に向かい、こうも過剰に反応するあたり――
「まさか、その里には白髪のエルフが住んでいるのか……?」
「ああ~! やっぱり頭の中覗かれたんだー!」
あ、キャラが戻った。
(´・ω・`)アマミー




