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二百四十話

(´・ω・`)さぁ残り10日だ

 ああ、私は救われた。これから、少しずつ私の凍りついた心が溶けていくのだ。

 この冷えた心が溶け出せば、きっとこの人生を心のままに楽しめるようになる。

もう我慢せずに、私が私らしく、自分の思うままに行動出来るようになるのだ。

 諦めて、心折れて引きこもってしまった私の無邪気な心が、ようやく立ち上がる事が出来るんだ。

ふふ……大丈夫さ、私はいつだって側にいる。私は私。いつだって一緒だよ。

 



ああ、そういえばあの時だったかな。久しぶりに『私』と話したのは。


『ねぇ、どうしようか、演説だってさ。サーディスのエルフもいるし、少しだけ恐いね』

『……けど、ここで私がくじけたら……カイくんが無茶をしてしまうかもしれないんだ』

『……ねぇ、お願いしてもいいかな?』

仕方ないね。じゃあ私がメニュー画面の手紙の欄に原稿を書いてあげるから、それを読みなよ。

『うん、ありがとう!』

ちょっと卑怯かもしれないけれどね?

『わ、私は私! 全然卑怯じゃないよ?』




 そしてここ数日で、私と対話する機会がすっかり増えてしまった。

 それは、きっと悪い兆候。この先、きっとまた私はダメになってしまう。

 だから、私が彼にお願いしたんだ。

『もしも、『私』が苦しくて、我慢できなくて、本当に辛い時がきたら、その時はどうか『私』を、今みたいに抱きしめてくれないかな』と。




『カイくん、先に一人で行ったとしても、戻ってきてくれるよね?』

本当に、大丈夫だろうか。私は、まだ彼と一年半程度しか共にいないというのに

『……大丈夫だよ。『私達』の所に、戻ってきてくれるよ……』

それでも……私は不安だ。また、『私』の心が凍えてしまいそうで。

『私』を……置いていかないでくれ……行かないでよ……カイ君。




『……懐かしいな。昔、あの森に沢山のエルフが住んでいた頃は、みんなちょっとずつ髪の色の濃さが違ったり、瞳の色が違ったり』

『耳の大きさとか、角度とか、それぞれ違いがあって』

『それぞれみんな覚えて、名前も覚えて、一生懸命話しかけたっけ』

ふふ、それでようやく私も名前を覚えてもらったんだったかな?

『そうだね。……よし、もうすぐ夜だし危ないからね。お姉さんが注意してあげないと』




 私は、いつだって側にいた。

 その孤独を、その悲しみを、『私』が受け止めきれない時の為に。

『私』の不安を、取り除いてあげる為に。

 人を疑い、楽しみを忘れ、ただ殺すだけの道具になった私の心を保つために側に居てくれた『私』の恩に報いる為に。

 けれども、また『私』の心が凍りついてしまったのなら、耐えられないのならば、今の間だけ、少しだけ、眠っていておくれ。


「……ああ、たぶん限界かな。少し、休ませておくれ……」

「ああ、分かったよ。今はこのまま、少しだけ眠るといい。俺は、起きた時もここにいるから」

(だ、そうだよ。ふふ、本当に『私』は幸せ者だ。少しの間、私と交代しようか)

『そっか……じゃあ、少しだけまた、休ませてもらうね。元気になったら……また一緒に冒険しようね……』






「カイさん、リュエは――眠っているみたいですね」


 駆けつけたレイスの声が背後から掛けられ、悔しさで泣き出してしまいそうになっていた己に喝を入れる。


「……ああ。どうやら、酷い事を言われてしまったみたいだ」


 腕に力が入らないように、感情を制御する。

 小さな寝息をたてている彼女を起こさないように、この激情が吹き出してしまわないように。

 けれども、俺よりも先に、レイスが我慢の限界を迎えてしまった。


「っ! どうして、カイさんのお友達は、こんな文化を放っておいているんです――! 聞けば、リュエもその方達と友達だというではありませんか!」

「……分かってる。それは、考えないようにしていたんだ。あいつらだって……リュエの髪の色くらい知っているはずだ」


 レイスが、珍しく怒りを露わにする。

 悔し涙を目に溜め、今にもリュエを抱きしめたいと願うように詰め寄りながら。

 ああ、そうだとも。俺だってずっと引っかかっていた。

 何故、俺のセカンドであるリュエにも当てはまる伝承を、明らかに虐げられるような伝承を放置しているのかを。

 俺がこの世界に、ましてや最後の瞬間に使用していなかったRyueがこの世界に存在していると思っていなかったからなのかもしれない。

 けれども――

 とその時、腕の中の彼女が動く気配がした。


「……大丈夫、そんなに怒らなくてもいいよレイス」

「あ……すみません、起こしてしまいましたか」

「リュエ、まだ眠っていたほうが良い。魔車まで運ぶよ」


 腕の中で、リュエがもぞりと身動ぎする。

 そして、こちらに振り返った彼女の表情を見て、ドキリとした。

 ……何かが、違う。先程までの弱々しい、傷ついた彼女とは思えないその様子。

 どこか懐かしいような、そんな気配。


「『カイ君』。もう大丈夫だよ。魔車は森の外、だよね? 一緒に行こうか」


 その、僅かな違いが、こちらの思い出を掘り起こす。

 郷愁のような、そんな思いで満たされていく。

 つい、彼女の身体をもう一度強く抱きしめてしまう。


「うわ、こら、ちょっと放しなさい。もう大丈夫だって言っただろう?」

「……リュエ?」

「うん、どうしたんだい改まって」


 リュエだ。間違いなく彼女だ。けど――懐かしいリュエだ。


「……リュエ。俺は、これくらいすぐに分かる」

「何がだい? よいしょ……ほら、もう自分の足で立てるよ」

「リュエ」


 分かる。分かってしまう。けれど何故。

 ああ、でもそうか……まだ、君はまだ――

 ならば、今は少しだけ休ませてあげよう。

 そして……俺はこの言葉を告げなければならない。


「……リュエ……久しぶり」

「……なんの事やら。私は、いつだって側にいたじゃないか、カイ君」


 ああ――そうだったのか。君はいつだって、側にいてくれていたんだね。




 森の中を、三人で進む。

 先頭を進むのは、どこか楽しそうな足取りのリュエ。

 そして、それを心配そうにみつめるレイスが続き、俺はそんな二人を眺めながら、これがどういう事なのかを考えていた。

 リュエは、確かにあの氷霧の森の中にいた頃に比べて、よく笑うようになり、無邪気に楽しむようになり、そして少しだけ幼い振る舞いをするようになっていた。

 旅の初めのうちはそうでもなかったが、時が進むに連れて、楽しそうに、無邪気な笑みを湛えながら、隣を歩いていた。

 それは、肩肘を張り、これまで辛い使命を背負い孤独に苛まれていた事の反動だと、俺は思っていた。

 けれどももし――その辛さを、その孤独を肩代わりしていた存在がいたのだとしたら。

 あの最後の日、ようやく本音を零した、森の中にいた頃のリュエこそが、その辛い役目を一身に背負ってきた存在なのではないだろうか。

 そして――それが再び顕著に現れるようになったという事は――


「む、魔車が見えてきたよ。御者席はレイスとカイ君が座った方がいいかな?」

「その前に……レイス、ちょっとリュエと二人、中で話しをさせてくれないかな」

「はい、分かりました。……お願いします」


 俺は、彼女と話さなければならない。そして……してあげなければならない事がある。






「リュエ……」


 姉の名を呟きながら、二人が乗り込んだ魔車へと遠巻きに視線を向ける。

 思い出すのは、先程見せた彼女の瞳。

 カイさんの腕の中で目を覚ました彼女の瞳を見た瞬間、私は久しく彼女から感じていなかった感情を思い出した。

 まるで、人の心の奥底を覗くような、どこまでも深い瞳。

 彼女と出会って間もない頃。時折見せる、どこまでもこちらの内側へと入り込んでくるようなそれを、私は恐ろしいと思っていた。

 けれども彼女と過ごしているうちに、それは親愛の証拠だと、どこまでもこちらを理解して、そして受け入れてくれる証だと気がついたのだ。

 けれども……今見せた表情は、何かが決定的に違っていた。

 私のせいだ。安易に彼女を外に置いていくなんて選択をしたばっかりに、こんな事になってしまったに違いない。

 もしも私が諦めずに、彼女と共にカイさんを救う手段を見つけていれば。


「カイさん……どうかリュエを――え?」


 祈るように口にしたその言葉を途中で飲み込む。

 おかしいですね、今魔車から声がしたような。

 ……ちょっと魔車が揺れていませんか? なにをしているんですか二人共。

 私は恐る恐る魔車へと近寄り、耳を澄ます。

 すると聞こえてきたのは――


『こ、こら! 放しなさい! やめ、やめなってば』

『いやいや、頼んだのはそっちだろうに』

『もういい、もういいから! わ、やめ……どこ触っ』

『よーしよしよし』

『ひゃあ! よさないか! やめなってば……ダメだよ……』


 ……なにをしているんですか、本当に。

 そのまま、どこか艶を帯びていくリュエの声を聞きながら、どうしたものかと考え込んでいると、先程まで揺れていた魔車が静かになり、そして――


「はい治った。いつものリュエさんです」

「カイくん……どうしんだい急に……さすがに恥ずかしいよ……」


 にこやかな笑みを浮かべるカイさんと、顔を真っ赤にしてフラフラと降りてくるリュエ。

 い、一体なにをしたんですか!? 完全に顔がとろけてしまっているじゃないですか!


「カイくん……なんだか頭がふわふわするよ」

「カイさん……一体リュエに何をしたんですか? 確かにいつもの彼女のように見えますが」

「ちょっと抱きしめてなでりこして頬ずりしてまた抱きしめてくすぐったり耳コリコリしたり色々試してみました。いやぁ元に戻ってよかった」


 なんて羨ましいのでしょう。

 なるほど、以前カイさんが私を一日中抱きしめていたように、リュエに不足していたカイさん分を補給した、という事なのでしょうか……。


「よーし、じゃあもう少し走ったらどこかで野宿でもしようか。レイス、少し暗いけど御者を頼めるかな」

「わ、わかりました……」


 ……結局、先程のリュエの様子はなんだったのでしょうか?






 いやぁ、なるほどなるほど。前に『また抱きしめて』と言われていたが、こういう事だったのか。

 つまり、心が耐えきれなくなった時にセーフティーとして、昔の先生としての性格が強くなり、それを思いっきり甘やかすといつものリュエに変化すると。

 よし、理解した。けれどもまぁ――


「ま、まったく。人をぬいぐるみかなにかみたいに扱って……そういうのはもっと時と場合と場所を選ぶように」

「……一時的なものでしかない、か。なぁ、リュエ。こっちはもう気がついているわけなんだけど、説明はしてくれないのかい?」

「……まぁ、私もカイ君を誤魔化し通す事が出来ないことくらい分かっていたけどね。つまり、私は少々心が不安定でね。心が完全に区切られているんだよ」


 久しぶりに、彼女は生徒に教えるように、自分について語ってくれた。

 それがなんだか懐かしいと思う反面、悔しくて、悲しいとも感じてしまう。

 それはつまり……そうなってしまうような経験を、過去にしてきたという事なのだから。

 彼女の話をまとめるとこうだ。


 ただ人々の為に剣を振るい、守り、それでも完全に迎え入れてもらえなかった彼女は、次第に人間的な感情を覆い隠していってしまったそうだ。

 そして残ったのは、義務感と敵を倒すという意思のみ。

『心的ストレスの影響で、それから逃れる為に犠牲となる人格を生む』という話は聞いたことがある。

 だが、彼女はそうはならなかった。完全に心を制御し、まるで仕切りのように心を分断したと言う。

 辛い出来事や責務を全うする自分。そして『なにかを楽しむ』『なにかを大切にする』そんな優しい気持ちを時折解放し、心が完全に冷え切らないようにうまくバランスをとっていたそうだ。

 しかし――それでも、1000年という時はあまりにも長過ぎた。

 その孤独を耐えている内に、いつしか区切っていた心、性格を切り替えるスイッチが壊れてしまい、それぞれ別な人格として独立してしまったという。

 けれども、思い出や、経験、感覚は共有しているそうだ。

 そして、人格は切り替わるというよりも、徐々に塗り変わっていくものらしい。

 つまり、旅の中で、ゆっくりと『先生』としての彼女が、いつものリュエ、無邪気な人格に変化していった、と。

 だから、いつだって彼女は俺達と共にあった。どこか一歩引いた視点で俺達の事をずっと見守るように、リュエの中に混在していたのだ。

 リュエが時折見せていた、どこか大人びたあの様子は、今目の前にいる彼女の影響だった、という訳なのだろう。

 だが――今再び、その『先生』としての彼女が表に出てきている。


「歪なのは分かっているのだけれどね。けど……一度分断してしまったものを元に戻すのはなかなか難しくてね。今みたいに今度は私がその……嬉しくて仕方なくなると、ね? あんな風に一時的に変わるのだけれど――」

「よし、じゃあもう一度」

「か、勘弁しておくれ。恥ずかしいよさすがに」

「ふむ。この大陸にいる限り、こんな風になってしまうって事なのかね」

「そうかもしれないね。もしくは、私が感じているこの不安や不満が解消されれば」


 リュエが目の前で、少しだけ自嘲気味にそう言う。

 不安とは、不満とは、一体なんなのか。

 やはり、この大陸の住むエルフになにか思うところが、あるのだろうか。

 当然だ。憎いだろう。復讐したいだろう。問い質したいだろう。

 だが、俺のその予想に反して彼女が口にした不満は――


「私はね、カイ君に対して不満があります」

「……え、俺?」

「そう。まず君は、どうして私に相談してくれないんだい? カイ君が何を考えているかなんて、私もレイスも気がついているんだからね。それをまず、三人で話し合わないとダメじゃないか」

「……それは」


 言い当てられる。いや、これは甘えだ。二人なら俺が何を考えているか薄々気がついていたとしても、見逃してくれるのではないか、という。

 ……レイスは大抵の場合、俺を立てるようにしてくれる。

 そしてリュエも、こちらがなにかしようとすると、それを呆れながら肯定するか、無邪気に後押ししてしまう。

 俺はその環境に甘えてきたと、彼女は言っているのだ。


「カイ君。君は、私の為にブライトの一族になにをするつもりなんだい?」

「それは……」


 核心を突かれる。


「……問いただしたいんだ。何故、未だにリュエを忌むような文化を残しているのか。誰がそれを進めているのか。そして――謝らせるんだ。君を、裏切った事を」

「……良かった。私はてっきり、皆殺しにでもしてしまうのかと思っていたから」

「……悪い、それも正直考えていた。返答次第じゃ、今だってそうだ」


 正直に言おう。俺は異常だ。怒りの沸点を越えた時、それがどこまでもどこまでも、理性や常識を越えて高まってしまう。

 人がしないような事を、平気でしてしまう。道徳心も全て捨て、今自分が抱えている物も全て捨て去って突き進んでしまう。

 それは、もはや人間ではない。ただの化物だ。狂った暴力の化身だ。

 だが俺は、必要とあらば喜んでその道を進もうと、今だって考えている。

 けど――それを誰かに話してしまったら――


「だーめ。君は、優しい人だよ。君は優しすぎるから、そうなってしまったんだね。けど、それは止めた方がいい。それは君の傷になる。そして何よりも――私がそれを望まない」


 彼女が少しだけ、いつもより鋭い表情を優しげに緩め、こちらに手を伸ばす。

 俺がいつもやるように、そっと頭をなでてくる。


「ふふ、なでりこ、だったかな? 私はね、君のこの大きくて、器用で、たまに恐ろしいこの魔法のような手で撫でられるのが大好きなんだ」

「……止めろ、我慢出来なくなる」

「きっと、私とレイスが見ていないと、君はその決断をしてしまう。私はそれをうっすら分かっていたから、君から離れるのが嫌だっていう思いもあったんだ」


 どこまでも、こちらの心の内を暴いてくる、いつもよりも大人びたその青い瞳。

 諭される。俺が、まるで聞き分けのない子供のように。

 けれども、それがなぜだか心地よくて……それを、納得してしまいそうになる。

 卑怯だろ。リュエさん、君本当は1000歳過ぎてるんだもんな。本気出されちゃ、敵うわけ、無いだろうが。


「カイ君は、優しさを見せる相手が本当に限られている。だから、それが暴走してしまう。あの日、君が一人龍神に挑んだように、また君は一人で進もうとしている。もし、君が本懐を果たせなかったとしても、ヤケを起こしちゃいけないよ。その為に、私達が側にいるんだ」


 もしも、謝罪を得られなかったとしたら。

 もしも、自分達の祖先の行いなど知ったことではないと、それを拒絶したら。

 この、忌まわしき風習を根絶する事に協力してもらえなかったとしたら。

 それでも、俺にこの怒りを我慢しろと、耐えてみせろと君は言うのか。

 今、こうして語りかける目の前の彼女もまた、その被害者、過去の遺産だというのに。

 孤独に耐えきれず、分離してしまった心だというのに。


「私の心は、私自身が治してみせる。きっと、それはカイ君が考えている方法では不可能だと思うんだ」

「復讐で晴れる心だってあると、俺は思う。それでも、俺にそれをするなと」

「誰かにしてもらうんじゃあ、ダメだよ。私が自分の足で、そこにたどり着かないといけない。だから、うん。少しだけわがままを言わせてもらおうかな」

「……王都に、入るつもりか」

「きっと、それは私では無理なんだろうね。カイ君が、私の知識、技量を以ってしても疑念を抱くんだ。ダリアは、それくらい出来るんだろう?」


 撫でていた手を彼女が引っ込め、今度は人差し指を立て、くるくると回し始める。

 なにかを考えるように、思考のめぐりを体現するかのように。

 その仕草が、なんだかいつもの彼女のように見えて。

 ああ、やっぱり同一人物なんだなと、同じ心の持ち主なのだなと、なによりも――今も、彼女の心にその優しい気持ちが溶け込んできているんだなと、そう思えた。

 そうか……仕切りを越えて、彼女の優しさが、人間味が混ざり込んでいるのか。

 だからこそ……彼女は冷静なようでいて、少しだけ抜けていて……優しかったのか。

 あの最初の日、迷わずに俺を自分の家に招き入れた時の事を思い出す。

 あの、幸せな、どこか不思議な関係で過ごした一年を思い出す。

 ……そうだ。俺がもし道を間違えてしまえば、リュエやレイスだけではない。

 あの始まりの一年間を、今目の前で大人びた表情を浮かべている彼女と過ごした時をも台無しにしてしまうのだ。

 ……そうだな。命を奪う事だけは、今回はなしだ。

 なにせ、彼女はもう気がついてしまっているのだから。自分の為に俺が動こうとしているのを。

 殺しの理由を背負わせる訳にはいかない、か。

 けれども――その限りではない場合、本当に俺が俺のために殺意を抱いたその時は――


「よし、じゃあ決めた。どんな方法でも良い。けれども、出来るだけ血を流さずに、私をこの国の王様の所まで連れていってくれないかな? 私が、自分の口で話したいんだ」

「……そいつは、なんとも難しいわがままだな」

「ふふ、けれども君は今も考えてくれている。そうだね、私はそれまでの間、レイスとどこか違う場所に潜んでいるよ。大丈夫、私なら、君と離れても耐えられる」

「……善処します。本当、リュエには敵わないよ」


 なんでもない風に彼女は言う。

 きっと、その願いの先に、彼女の心を救う方法が隠されている。

 今は疲れ、そして休んでいる彼女の子供の部分。そして、歪な心の中、一身に負の感情を受け持ってきた大人な部分。

 その両方を救う為に、彼女の願いを叶える方法を模索するのだった。


(´・ω・`)四巻発売まで残り10日でございます

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