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二百二十八話

(´・ω・`)いよいよこの章も終わりが見えてきました

「ただいまー」

「あ、今丁度探しに行こうとしていたところだったんだ。まだ粘っていたのかい?」

「ごめんごめん、時間の感覚がない場所にいたから」


 リュエを探しに出かけようとした矢先に、捻ろうとしたドアノブが回り彼女が現れた。

 よかった、これなら今日中に出発可能だ。

 ふと彼女の様子を見る。そこに浮かぶのは満足げな表情。

 まさか、本当にレイニー・リネアリスに会えたのだろうか?

 それについて彼女に尋ねてみたところ――


「うん。なんだか不思議な工房に繋がってね? そこに丁度レイニーさんがやって来たんだ」

「不思議な工房……?」


 その言葉に、俺は以前、鎧を購入したあの謎の工房を脳裏に思い描く。

 あの場所もどうやら普通では辿り着けない場所にあるようだし、もしやレイニーの住む場所同様、あの訓練区画から向かう事も出来るというのだろうか。


「ふふーん。お土産に本を貰ったんだ。船の中でじっくり読むとするよ」

「まぁ……リュエまでお世話になってしまって……私も出来れば挨拶に伺いたかったのですが」

「まぁ、神出鬼没な人だし、もしかしたらそのうち会えるかもしえないさ。とりあえず、商業区画の船着き場に向かおうか」






 商業区画は、以前訪れた時も目にしたのだが、商会の立ち並ぶ内陸部まで続く運河が流れている。

 今回俺達が乗るのは、そんな運河を使い大陸の南端にある港町へと向かう遊覧船だ。

 こちらは多少高額だが、誰でも乗ることが可能な船となっている。だが、問題は――


「サーディス行きの船、ですか……定期便が来るのはまだだいぶ先なのですが……」

「ええ? じゃあ今この祭りに訪れているサーディスの人間はどうするんです?」

「通常、向こうから来る人間はとても少なく、今回も来賓の人間をお迎えする為の船一隻しか入港していないのですよ。セカンダリア行きの船でしたら定期便もございますが……」

「もしかしてサーディスとはあまり国交がないんですかね」

「……それは……」


 船着き場を管理しているのもギルドの人間らしく、彼にこの先の港町の船について尋ねてみたところ、返ってきたのはどこか煮え切らない反応。

 じゃあレイラやヴィオちゃんはまだしばらくここに滞在するつもりなのだろうか?

 ……いや、何かあるはずだ。そうでなければ昨日、あのタイミングでオインクが会食を申し出るとはずがない。

 ……これから先は、こういった不測の事態も自分達の力で乗り越えなければならない。

 つまり、そういう事なんだろう?


「分かりました。ではとりあえず港町に着いてから考えます。そこまでの遊覧船、三人分のチケットをお願いします」

「わかりました。では、ギルドカードの提示をお願いします」


 ここでも割引が適用されるのだろうかと、三人でそれぞれカードを提示する。

 青二枚と、そして白銀――白銀?


「レイス、それは」

「ふふ、実はいろいろありまして。昨日、正式に発効して頂きました。元々、戦争前の基準で金になっていた人間は、手続きを踏んでギルドの上役と面談を行えば、その合否で白銀になれたそうなんです」

「へー! やったねレイス!」


 ……それって、もしかしてオインク知ってて黙っていたのか?

 さては、大会が盛り上がるようにと……しかしまぁ、この大会に出場したおかげで、レイスは一皮も二皮も剥けたと言える。結果オーライってやつだ。


「これは……お三方の船賃は既にギルドにより支払い済みです。どうぞこのまま乗船ください」


 カードを確認した職員がそんな事を言う。

 ……なるほど、最後のお見送りの代わり、ってやつなのかね。

 裏の糸に気が付いたであろうレイスもまた、感傷深そうに瞳を閉じている。

 ああ……最後にも一度会いたかった……とは言わない。ただ、その最後の最後の心遣いに、少しだけじんわりと温かいものが広がっていく。

 こちらの様子に、リュエも察したのだろう。少しだけ寂しそうにぽつりと呟く。


「そっか。オインクが……私、結局お別れが言えなかったんだ。少し、寂しいな」

「……二度と会えないわけじゃない。全部の大陸を回ったら、また戻ってきたらいいんだから」

「……そうだよね」


 タラップを渡り、船に足を踏み入れる。

 この大陸にやってきた時の船に比べると幾分規模が小さいが、運河を渡る都合上、この大きさが限界なのだろう。

 ここから港町まで、およそ二日。本来ならばケーニッヒの引く魔車に乗れば早いのだが、残念ながら彼は今、山奥で休眠中だ。

 また、魔車の客車部分も、ギルドの方で預かってもらう事になっている。

 それがなんだか、この大陸で、いやこれまで手に入れてきた物を手放しながら進んでいるようで、少しだけ寂しいような、後ろ髪引かれる思いに囚われる。

 ギルドのランクしかり、エンドレシアの後ろ盾しかり。

 ここから向かうのは、誰の庇護の元でもない、未知の大陸。

 ……そろそろ、向こうでの行動方針を考えた方がいいかもな。


「船……初めて乗りましたが、水の上だというのにしっかりと地面があるといいますか……思いのほかゆれたりはしないのですね」

「はは、さすがにこの大きさだとね。けれども、海に出ると波の関係で少し揺れると思うよ。リュエなんかそれで酔って――」

「わ、わー! 言わないでおくれよカイくん。レイス、安心しておくれ。気分が悪くなったらすぐに私が治してあげるよ」


 レイスが、万感の思いを込めるように話す。

 たしかにまだ、ここは大陸内部。けれども、ここは外の大陸へと続く道。

 明確に、この長年住んでいた大陸から去るのだと言う実感が湧いてきたのだろう。

 ……思えば、ここに来てから色々な事が起きたな。

 その最たるものは、今横で共に歩もうとしている彼女、自分の半身とも言える彼女との出会い。

 そして、どこか懐かしいアギダルの町に、他大陸で召喚された解放者との出会い。

 この世界に干渉しようとする何者かの『こちらを排除する』という意思を確認した事。

 ……この大陸は、これからの旅に必要な様々な知識を俺に与えてくれた。

 その、自分達の足で歩んできたこの場所を、いよいよ後にするのか……。

 ふと、隣のリュエの様子を見る。

 ……この大陸を、レイスにとっての試練の地だとするならば、恐らく次の大陸は、彼女にとって辛い試練が待ち受ける場所になるだろう。

 かつて、彼女を騙した一族の起こした国が支配する大陸。

 そして同時に……俺にとっても、試練となるかもしれない大陸。


「……ダリア……シュン……ようやく、会えるんだな」


 その再会は、果たしてどんな結末を迎えるのだろうか。

 そしてなによりも――あの二人と、敵対せずに済むのだろうか。

 それこそが、俺にとっての試練。もしも、あの二人か、今隣にいる二人、そのどちらかを選べと迫られたら、その時は迷わず、この二人……彼女達を選ぶだろう。

 だが、それでもし互いの命を掛けあうような事になったら……。


「なるようになる……か」


 まだ、早い。その時がくるまで、悩むのは後回しだ。

 今はただ、この流れに乗ろう。この船と同じように。

 こちらの気持ちの切り替えを待っていたかのように、汽笛の音がする。

 タラップが外され、桟橋がゆっくりと遠ざかっていく。

 ああ、この都市ともお別れか。

 多くの謎を孕み、そして多くの謎を俺に残したこの場所。

 親友が育て、そしてこれからも発展させていく、彼女の夢の結晶であるこの都市。

 こことも、お別れだ。

 そう感傷に浸っていたその時、砂埃を巻き上げるような勢いで見知った顔が走ってきた。


「……よりによってお前か、ドーソン! こういう時は可愛い女の子って相場は決まってるんだよ!」

「うっせー! カイさん、あんたが何者だろうが、俺はもう知らん! 散々騙されたり誤魔化されたりしたが、俺に取っちゃあんたはただの友達だ! あとよー! 俺の奥さんがあの調味料もう使い切ってしまったらしくてー! どこで手に入る―!?」

「おま、そんなん今聞くなよ! ギルドで今度売りに出すから、問い合わせてみろ―!」


 ドーソンだった。

 ははは、すっかり忘れていた。そういえば、大会でレイスに負けてから、顔をあわせていなかったっけ。

 あの俺の演説を、恐らく彼も聞いたはず。

 だが、やはり油断ならない。きっとまた、俺がよからぬ事でも企んでで嘘をついていると思っているのだろう。

 ははは、よく分かってらっしゃる。さすが俺の『友人』だ。


「ドーソン! 奥さんと娘さんと仲良くな! 絶対に無理はするなよ!」

「おうよ! じゃあヴィオさんにもよろしく伝えておいてくれー!」


 ゆっくりと、彼の姿が小さくなっていく。

 まさか彼が見送りに来るとは、予想だにしなかったぞ。

 ……しかし、ヴィオちゃんに宜しくとはどういう事なのだろうか。

 まさか、彼女も既にこの都市を発っているというのだろうか?


「ふふ、とても良い友人が出来ましたね、カイさん」

「ははは、だろう? そうだな、あいつと飲みにいった事もまだないし、やっぱりそのうち戻ってこないとな」

「いいなぁカイくん。私は友達〇人だよ?」

「そのかわり大量のファンが出来たでしょうに。ミスセミフィナル」

「……あ! どうしよう、来年あのティアラ返さなくっちゃ!」


 完全に失念していた。ははは、やっぱりどうあってもまたここに戻ってこなくちゃいけないな。

 そうだな……先の事はまだ分からない。けれども、ここに絶対に戻ってくる。これだけは決定事項だ。

 ……あの絵画『再来』を再現する為にも。

 本当に、どこまでも仲間想いな人だね、お前さんは。

『リアンエタルネル』あのいつか仲間が揃う事を祈って作られたレストラン。

 その名前の意味は『永遠の絆』なんとも、俺がフレンチで仏語を齧ってなければわからないような名前をつけおって。


「……さぁ、行こうか。この大陸最後の目的地、海運都市ディスラートへ」


 名残惜しさを振り払うように、目的地の名を告げる。

 そして、そこを抜ければもう、再び大海原へと旅立つのみ。

 まぁもっとも、船を探すとこから始めないといけないんですけどね?


(´・ω・`)さらば首都サイエス

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