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二百二十五話

(´・ω・`)もうすぐこの大陸ともさよならです

「ま、これが今回のお礼兼、引っ越しの挨拶みたいなもんかね」

「ふふ、ありがたく頂戴致しますわ。なるほど……完全に魔導の力だけで作った剣ですか……恐ろしく濃密な闇の魔力、こんなものを見るのは数千年ぶりですわ」

「逆にそんな昔に見たことがあるという事実に驚きだ」

「まぁ……長い歴史の中で、貴方に匹敵……いえ、貴方以上に強く恐ろしい存在もいた、という意味です」


 翌日、訓練区画の最深部にて。

 俺は世話になった借りを返すためにレイニー・リネアリスの元を訪れていた。

 元々、協力を頼むにあたって、多少の見返りを求められていたのだが、今回はカレー一鍋と、こちらが持ちうる最高のアビリティ構成で全力で生み出した闇魔導の剣を渡したのだった。

 今回の事でだいぶ無理をしたらしく、この限られた空間の中だというのに、彼女は今、身体の半分を透過させ、静かにイスに座っている。

 その痛々しい姿に申し訳ないという気持ちが湧き上がるのだが――


「とても愉快なものを見られましたから、どうかお気になさらず」

「……そうかい」


 相変わらずこちらの思考を読む。ちょいと無遠慮が過ぎる気もするが、それが彼女の在り方なのだろうと、諦めて受け入れる。

 面倒な友人だよ、本当に。


「じゃあ、そろそろ行くとするかな。本当ならリュエとか連れてきてあげたかったんだけれど」

「残念ですけれど、この場には世界の理からズレた存在しかお呼び出来ませんの。どうやら、彼女はこの世界で生まれ、そしてこの世界で育ったみたいですし」

「……なんだ、バレてたのか。俺がこの世界の住人じゃないって」

「ふふ、そうですわね。おおかた、観測者のような外世界の住人でしょう? どうです、実際にこの世界へ訪た感想は」


 本当に、食えないヤツだ。

 せっかくいろいろとぼやかして神隷期の事を語ったというのに。


「自由で、不自由。けれども生きがいのある良い世界だよ。だからこそ、俺はこの世界が自由に人の手で変わっていく姿を見ていたい」


 俺は、思うままに答えを述べる。

 この世界で旅をして感じた事を、感じた思いを、願いを。


「……私は貴方のその感想に――」

「くく、満点をくれるのか?」


 先んじてそれを口にすると、彼女は見惚れるような笑みを湛えながら、静かに頷いたのだった。




 訓練区画を後にし、そして周囲の視線に晒されながらギルドへ戻る。

 するとやはり、先日の件のせいでこちらと接触を試みようとする魔族の姿が目についた。

 だが、こちらにその意思がないのは分かりきっているのだろう。直接こちらが話しかけない限り、向かってくる事はなかった。

 するとここで、ふと思い出す。

 そういえば、ケーニッヒの捜索の依頼をまだ出したままだったと。

 恐らく、この先もあの姿で生きていく以上、絶対に見つける事は出来ない。もし今も一攫千金を目論見ケーニッヒを探している人間いたら申し訳ない。

 早速ギルド受付へ向かい、依頼の停止を申請する事にした。


「カイ様。ちょうど今お部屋に向かおうかと思っていたところでした」

「ん、どうしたんです?」


 受付へ向かうと、開口一番にそう告げられる。

 何か急ぎの用事でもあったのかと続きを促すと――


「先程、魔舎の方にカイ様の竜がお戻りになりましたよ」

「……マジですか」






「ケーニッヒ、状況の説明を」

(はい。先日、主と別れた後に姿を隠そうと山の奥へと向かい、そこで少し傷を癒やしているうちに、再び姿を変えられるようになりました)

「じゃあ、もうあの姿にはなれないのか、七星の姿には」

(いえ、可能です)

「そうか……なら、来年以降も頼めるか?」

(それを主が望むのならば。本当であれば、私もこの先の旅に付き従いたいと思うのですが)

「……悪いな。それに、向こうはもう俺が自由に振る舞える土地じゃないんだ。すまない」

(いえ、構いません。それに――私は主の第三の翼です。求められれば、例えどんな場所であろうとも馳せ参じます)

「ああ、頼りにしているからな」


 ギルドの魔舎内で、身体を小さく変化させたケーニッヒを再会を果たす。

 彼(?)には、この大陸に残ってもらうと、すでに取り決めてある。

 今説明したように、この先の大陸では、あまりにも彼は目立ってしまう。

 それは、出来れば避けたい。あの土地は少なくとも、リュエにとっては居心地のいい場所とは言えないはず。

 ならば、出来るだけ人目は避けておきたい。

 なによりも、毎年降臨する七星としての仕事が彼にはあるのだから。

 大丈夫、俺とこいつは繋がっている。これで絆が途絶える事はない。

 ……そう、たとえ離れたとしても、一度結んだ繋がりは解けたりはしないのだから――

 やはり、筋は通すべきだよな。

 俺はケーニッヒに別れを告げ、そしてもう一人、しっかりと別れを告げねばならない相手の元へと向かうのだった。




「よう、豚ちゃん。今晩空いてるか?」


 ギルド執務室へと押しかけ、挨拶もなしに要件を伝える。

 昨日、レイスと二人で出かけたようだが、結局彼女が戻る事はなく、恐らく今も一緒にいると踏んでいたのだが――


「ああ、ほら来てしまいました。オインクがモタモタしているからですよ」

「……さすが、私と思考回路が似通っているだけはありますね。行動が早すぎですぼんぼん」


 執務室の中で、レイスと二人でなにやらアクセサリーを眺めている豚ちゃんでしたとさ。

 なにしてるの、随分と仲よさげじゃないですか。さては昨日なにかあったな。

 ちょっとお兄さんヤキモチ焼いちゃうよ。


「丁度、私も今夜ぼんぼんを誘おうと思っていたんですよ。なんとか一日時間を作ることが出来たので。色々と話しておきたい事もありますしね」

「俺もそんなところだよ。リュエとレイスには悪いけれど、今日は二人にさせてもらえるかな」

「ふふ、勿論そのつもりですよ。リュエの事は私にまかせてください」


 実は、今日はリュエも始めのうちはレイニー・リネアリスに会いに行くつもりだったのだ。

 が、やはり彼女はそこに向かう事が出来なく、今も訓練区画の最深部で、術式に干渉したりと試行錯誤を繰り返している最中だ。

 ……呼ぶことは出来なくても、会いに行く事は可能なはず。が、今の彼女はだいぶ弱っているし、それも難しそうだ。


「で、わざわざアクセサリーを吟味していたと。今更そんな見た目を気にする間柄でもないだろうに」

「分かっていませんね、今日は私にとって勝負なんですよ? なんとか籠絡し、このまま私の元で大陸の平定に努めてもらおうかと」

「くく、言ってろ。じゃあ、俺は部屋で休んでいるから、時間がきたら迎えをよこしてくれ」

「ふふ、たまにはぼんぼんも、自分の作った以外の料理を存分に味わってもらおうかと、最高のお店を用意してあります。期待してくださいね」


 少しだけ挑戦的な笑みを見せる彼女と別れる。

 ……そうだな、今日で一先ずお別れになるかもしれないのならば、俺もそれなりの格好をしようかね。


 部屋に戻り、一ヶ月前に屋台出店コンテストの衣装として買い漁った服をベッドに全て広げる。

 魔王ルックって訳にもいかないだろうし、どうしたものかと頭を悩ませる。

 オインクがあそこまで言う店だ。ドレスコードだってあるだろう。ならば、フォーマルな組み合わせ……この世界のフォーマルというと、貴族が着るような儀礼用の衣装だろうか?

 それとも、執事のような燕尾服の方が相応しいのだろうか。

 そして悩みに悩み抜いた結果――


「さて、俺がわざわざここを訪れたのは何故でしょう」

「そ、それは勿論最近の出来事で溜まったストレスを私で発散――」

「ハズレだ。お前は腐っても王族、社交界やらパーティーやらに出た経験も多いだろう。で、だ。俺の服装について意見を言ってもらいたい」


 やってまいりましたはオインクの私室……だった場所。

 今ではすっかりレイラの巣とかしてしまい、何に使うかわからない滑車やらロープやら、調理機材やらが散乱しているという有様だった。

 突っ込まんぞ。そのロープには絶対に。

 で、結局俺が選んだ服は、シンプルな燕尾服と、白タイ。無難と言えば無難な組み合わせだが、どうだろうか。


「ふむ……服の質自体は上々。ただ、少々返し襟が寂しいですね。それに、カイヴォン様のシルエットでは、ボタンを止めるよりも外したほうが見栄えがよろしいかと。そうですね、中に来ているシャツ、少々飾り気が少なすぎます。もし他に衣装がございましたら私がコーディネート致しますが」

「急に真面目なご令嬢モードになるのはやめろ。けど、お願いしよう。世話になった人に会うんだ、相応の姿で会いに行きたい」

「素晴らしい心がけです。では、僭越ながら私がそのお手伝いをさせて頂きますね」


 ……癪だが、彼女にもそれなりに世話になったな。

 完全にわだかまりがなくなったとは言えないけれど、少なくとも彼女自身の事は、嫌いではない。少なくとも一度くらい、この力を貸してやってもいいと思えるくらいには。

 ……これも、全てが終われば変わってくれるのだろうか。


 そうして、彼女の力を借り、今夜の為の服装を整えていくのだった。






「ただいまーって、カイくんがおめかししてる。どうしたんだい?」

「ん? いやちょっとオインクと大事な話があるんだ。ほら、もうすぐ旅立つんだし、これまでのお礼とか、今後の相談とか色々」


 夕刻が近づいてきた頃、意気揚々とリュエが帰ってきた。

 こちらの服装を見て笑ったりしないのならば、レイラのコーディネートは間違ってはいなかったと。

 結局、返した襟にアクセサリーでワンポイント置いたり、中のシャツを少しだけ飾り縫いと刺繍が施されたものにするだけという微々たる変化なのだが、想像以上に決まって見えたのは、やはり経験のなせる技なのだろうかね。


「ああ、そっか。そうだよね、もうすぐ、出発しちゃうんだもんね」

「ああ。悪い、今日はちょっと二人だけにしてもらいたんだけれど、大丈夫かな」

「うん、勿論。積もる話もあるだろう? 今日はゆっくりしてきなよ」


 彼女の了承を得たタイミングで、今度はレイスが戻ってくる。

 そしてこちらの姿を見た瞬間、その表情を輝かせ――


「……少し、嫉妬してしまいそうですよオインクに。とてもよくお似合いです、カイさん」

「残念ながら俺のコーディネートじゃないんだけどね。癪だがレイラにお願いした」

「ふふ、さすが王家に連なる方。文句なしですよ。では、私が最後に髪を整えても?」

「ああ、あのパーティーの時みたいにお願い出来るかな」

「そういえば、ここに来てからほとんど髪を纏めていたよねカイくん。今日で見納めかなぁ」

「ま、もう変装したりする必要性もないしな」




 髪を整えてもらい、そして丁度やってきたギルドの職員に連れられる。

 ギルドの外にはすでに魔車が停めてあり、それに乗り込むと、ゆっくりと走り出し、これまで俺が向かったことない通りへと進んでいく。

 中央にある行政区画から少しそれた、少しだけ他よりも魔導具の照明が眩しい通り。

 歓楽街とはまた違う、喧騒と優雅さが混在するような、そんな不思議な場所。

 上流階級の人間の為の、歓楽街のようなものなのだろうか?

 道行く人は皆、どこかのパーティーにでも向かうような上品な衣服に身を包んでいる。

 立ち並ぶ店もまた、どこか風格を感じさせるものばかりだった。

 やがて、一際大きな建物の前で魔車が停車する。


「到着いたしました」

「ありがとうございます」


 降り立ったその場所は、まるで映画のワンシーンでも始まりそうな、そんな白亜の神殿めいた建造物だった。

 看板のようなものは見当たらない。ただ、その建物の入り口に、ボーイと思われる男性が静かに佇んでいる。

 近づき、その人物に声をかける。


「本日はようこそいらっしゃいました。会員制レストラン『リアンエテルネル』へ」

「こんばんは。待ち合わせなのですが――」

「お待ちしておりましたカイヴォン様。本日は貸し切りとなっております。どうぞ、ご案内致します」


 そのボーイに連れられて、建物の中へと通される。

 外観に反して、装飾が抑えられた内装に好感を懐きながら進んでいくと、途中の廊下に飾られている絵画に思わず足を止めてしまう。


「この絵は……」

「こちらの絵は、この店のオーナーであるオインク様が、高名な画家に描かせたものです。この店の調度品は全て、オインク様がプロデュースしたものでございます」


 それは、きっと彼女が想像し、無理を言って描かせたものなのだろう。

 そこに描かれていたのは――ゲーム時代の、まだ皆が弱く、手探りで冒険をしていた頃のキャラクターの集合した絵画だった。

 まるまると太ったオインクと、小さな女の子として描かれているダリア。

 ダリアとほとんど背の変わらない白髪の剣士シュンと、少しだけ憎たらしい表情を浮かべる、黒髪をポニーテールにした若い男、ぐ~にゃ。

 そして、俺の隣で笑っている桃色の髪の若い女性、エル。

 ……ああ、そうだったな。まだ、リュエもレイスも生まれる前。

 俺が魔王一式を揃える前の、皆が一流に至る前の、本当に最初期の姿だ。


「この絵のタイトルは?」

「『再来』でございます」


 ……そう、か。

 湧き上がる気持ちと押さえ込み、再び足を進め、彼女の元へ向かうのだった。


(´・ω・`)そして豚ちゃんとも

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