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十九話

 三章開始

「以上が廃鉱山での全ての出来事です」

「……その呪物については調査を進めてみます」

「呪物じゃない、不幸な生贄だ」

「そう、ですね」


 調査の結果を報告し、後日再び調査団があの空間を調べるそうだ。

 まぁそうだろう。何せ人為的に作られた以上、どこかからあそこへと繋がっている筈なのだから。

 まぁ俺が見た限り他に出口らしい物はなかったけど。

 あ、でも新たに出口作っちゃったか。


「ではこれで失礼しても?」

「あ、その前に調査団と共に、大陸本部からギルド総長が視察にきております。お二人に会いたいと言っているのですが……」

「ふむ、私の所為だったり?」

「おそらくは。何せ創世記に作られたカードですからな……情報は全て本部にも流れております」

「しかし、随分早く到着した物だね」

「隣町まで"魔車"で来たそうですよ」


 魔車? あれか、馬の代わりに魔物にでも引かせるのか。

 ゲーム時代の移動方法なんて徒歩と、七星を倒す時に使ったマーキング魔法とテレポート魔法のセットでの移動しかなかったと言うのに。

 今となっては懐かしいな。

 そういやあの時Oinkが最初に俺に付き合ってくれたんだっけ。

 あの後続々とチームメンバーがログインして先にマーキングしてくれたおかげで、短時間で七星の撃破が出来たっけ。


「本当、懐かしいな」


 不思議と、現実世界での家族に対しては寂しいとか、心配だとか、そんな気持ちは湧いてこなかった。

 まぁ元々家族だと思ってたのなんて母親だけ。その母親が亡くなってからはもう、どうでもいいなんて思っていたし。

 マザコンじゃないぞマザコンじゃ。

 だが逆に、ゲーム内の友人達の事を考える時間の方が多いような気がする。


「何が懐かしいのでしょう?」

「いや、なんでもありません。ではその総長さんにお会いしたらいいんですね?」

「ふむ、私だけでも良いんじゃないか?」

「あ、そうか。まぁ一応俺も近くで待機してようか」



 その後、向こう側の希望と言う事で、近くの喫茶店へと向かう事になった。

 結構フランクな人なのかもしれないな。

 俺はリュエから少し離れた席に座り、何やらお酒の香りの強いパウンドケーキを食べながら時間を潰す事にした。


「しっかし、俺以外にこっちに来てる奴なんているのかね……」


 今更ながら、俺だけがこの世界に来た原因で思い当たるのはやはり、この手に入れたアビリティ『簒奪者の証』シリーズだ。

 あの時、全てをセットしても何の効果もなかったが、もしその結果俺がここにきたのだとしたら……?

 その時だった。

 リュエの席に近づいて行く、白いスーツにタイトスカートという出で立ちの、黒い長い髪をした女性が近づいていった。

 直ぐ様アビリティをセットし、盗み聞きを始める。

 結構ゲスいな、これ。


「まさか、本当に貴女だったとは思いませんでしたよ」

「む? 貴女が総長さんかい?」

「ふふ、気が付きませんか? やはり現実となるとパッと見じゃわかりませんよね」

「現実……?」


 ん? おいおい聞き捨てならない単語が飛び出してきたぞ。


「……あの、私の事分かりませんか?」

「……創世記の人間なのかい?」

「まさか……出身地はどこです? 本当の意味の」

「出身地……私が目覚めたのは北の果ての森だよ。もしかして……貴女は神隷期の人間なのか!?」


 案の定会話が微妙に噛み合っていない。

 これは俺も行くべきか。

 彼女は恐らく――


「リュエは純粋にこの世界で生まれた存在で、貴女の言う事を理解出来ていないと思いますよ」

「え!? ふ、二人いる……?」

「その言い草。俺がファーストでリュエがセカンドだって知ってるみたいだな。誰だ、お前」

「何を言っているんだいカイくん」


 間違いない、こいつは俺と同じプレイヤーだった人間だ。

 俺は身内以外とは会話らしい会話もしてこなかった。従ってリュエが俺のセカンドキャラクターだと知っている人間は限られる。

 だが、俺はこの女性、この女性のような外見をしたキャラクターを知らない。

 黒髪に透き通るような白肌、うっすら赤みがかった黒い瞳に、スッと通った鼻筋、薄い唇にはうっすらとルージュが塗られている。

 文句なしの美人さんで、さらに肉付きの良い身体は非常に男としてそそるものがある。

 こんな美人身内にいなかったぞ?


「……こちらで過ごした時間も長いですからね、確かにわからないかもしれません。ではこれでどうでしょう」


 そう言いながら、彼女はコホンと咳払いをして、口を開く。


「おほー! お久しぶりよー! ぼんぼん元気だったかしら?」

「この豚ァ!!!!!」

「ピギィ!」


 条件反射で蹴っ飛ばしてしまった。

 こいつは間違いねぇ……豚だ! Oinkだ!

 そういえば、あれも黒髪で白い肌で……横に大きかった。

 名前の通りの姿で、某スタンドアローンコンプレックスに染まりきった豚だ!


「相変わらず非道いですね……一応これでも女なんですけど」

「それは魂が身体にひっぱられた的な意味で? それともリアル的な意味で?」

「それはご想像にお任せします」


 正直どっちでも良いです。

 ただ、嬉しい。

 久々なこのノリ、恐らくこの世界でこんな暴挙を許してくれる相手なんてこいつしかいないだろう。


「オインク、話したいことが沢山ある」

「私もですよ。それに彼女の事も聞きたいです」

「え、ええと君はオインクなのかい? 凄く痩せたね?」

「わ、私の事を知っているんですか?」

「よく一緒に冒険したじゃないか。あの頃とは随分しゃべり方もかわってしまったんだね」


 やはり、リュエもオインクの事を知っている。

 しかしオインクは俺と同じ状況のようだ。

 これはつまり……あの瞬間、使われていたキャラクターだけが現実世界からこっちに迷い込んできたって事なのか?


「恐らく、ぼんぼんの考えている事と私が考えている事は一緒でしょうね。後で二人でお話させて下さい」

「了解。なんか違和感が凄いんだけど」

「一応、総長という身分ですからね。これでも、かなり頑張ってるんですよ?」

「まぁその辺も詳しく頼むわ」






 一応目的は果たしたという事で一旦オインクはギルドへと戻っていった。

 そして同時に、リュエにもある程度ボカして状況を説明した。


「つまり、オインクもカイくんと一緒で上位世界の出身なんだね?」

「そういう事」

「なるほど……じゃあそっち方面の事で話し合いが必要と言う訳なんだね」

「悪いな、気使わせて」

「ううん、私にしても仲間がこの時代に他にいたってだけで嬉しいんだ、気にしないでおくれよ」


 宿でリュエと別れ、俺は豚の待つレストランへと向かう事にした。


 指定された店は随分と敷居の高そうな、それこそドレスコードが設けられていてもおかしくない高級レストランだった。

 既にオインクは到着しているらしく、俺はVIPルームへと案内されていった。

 店の奥まった場所、他人に聞かれたくない話をするにはうってつけのその部屋で、優雅に彼女は佇んでいた。


「豚は出荷だオラァ!」

「そんなー! ……やめて下さい」

「いやぁつい」

「私もこの身に染み付いたクセが憎いです」

「さすがだな。じゃあちょっと料理注文していいか?」

「ええ、食べながら話しましょうか」

「じゃあポークソテーとポークシチューと豚のテリーヌで」

「おにちく」


 開幕出荷は基本。

 豚は出荷慈悲はない。

 しかしこうしてみると、本当日本人的というか大和撫子と言うかものっすごい美人である。

 中身はどう繕っても豚だが。


「照れますね、さすがにその外見で見つめられると」

「お互い美男美女だからな。ちなみにリアルではヤクザとか呼ばれておりました」

「リアルではイベリア半島に住んでおりました」

「イベリコ豚乙」


 運ばれてきた料理をつつきながら、料理談義をすすめつつ思い出話に花広げる。

 そして、ついに本題へと入る。

 そう、彼女が今まで何をしていたのか、そして他のプレイヤー達の事を。


「結論から言いますと、創世記と呼ばれる時代から生きている人間はそれなりに存在します。ですが私とぼんぼん同様、プレイヤーとしての記憶を持つ人間は現状、私達を抜かして二人しか見つけられておりません」

「他にもいたのか……」

「シュンとダリアですよ」

「本当か!?」


 その答を聞き、勢い良く立ち上がり食卓のシルバーを落としてしまう。

 俺の数少ない現実世界の友人であり、晩年(死んではいないが)家族よりも過ごす時間が多かった友人達だ。

 その二人が、今もここで生きている!


「その前に、ぼんぼんがこちらに来たのはいつ頃ですか?」

「1年位前だな」

「……なるほど。私は30年程前です。気がついたらこの大陸の首都にいましたよ」

「随分とズレがあるな……そんだけ時間があれば痩せもするし口調もかわるか」

「そうですね。本当、苦労しましたよ」

「俺がちょっと予想してやろう。お前、商人から成り上がっただろ?」

「なんでわかったの!?」


 こいつ、ゲーム時代から金を貯めこむの大好きだったからな。

 転売から行商まで手広くやって、莫大な資産を使って自分の装備を強化していったプレイヤーだ。

 商才があるというか、むしろそれが本業のような奴だった。

 その為『資本主義の豚』なんて呼んでからかったっけ。


「そ、そういうぼんぼんは随分とこっちの世界に順応しているみたいですが……彼女のおかげですか?」

「そういう事だ。ちなみに彼女はどうやらプレイヤーに関する記憶は持っていない。ただゲーム時代の事は"神隷期"と呼ばれて、その時代を生きた人間としての記憶を持っている」

「それは、他の創世記の人間もそうでしたね。もしかしたら、ぼんぼん同様にセカンドキャラだったり、ログインしていなかった人のキャラなのかもしれませんね」

「なるほどな。オインクはセカンドキャラ作ってなかったからリュエみたいな事例を見た事がなかったと」


 だが、確かSyunもセカンドキャラクターを持っていた筈。

 自分のセカンドキャラクターとコンタクトを持つのは稀なのだろうか?


「それでも、やはり苦労したのではないですか? ゲーム時代のお金も通常の売買では使えませんし」

「そこは一応ステータスは当時のままだったからな、これで稼いでたようなもんだ」

「なるほど……ではもっと突っ込んだ話を、教えて置かなければいけない事があります」


 そう言うと、真剣な顔でオインクは言った。


「この世界に私以外の豚はいないので私がオリジナルですらんらん♪」

「出荷だオラァ!」

 ,、_,、 __ 

(´・ω・`)  ) =3 ブッ  

  u--u´-u´

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