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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
十章

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二百十七話

『へぇやるじゃん! いやさ、結構いるんよ挑戦者って。まぁ大抵はアイツが払ってくれるんだけど、今丁度休眠期でさ。けどたまには自分で戦ってみるもんだね』

『どう……なってるのかな君。なんでまだ、立っていられるの』

『そりゃこっちのセリフ。いやよくもまぁ丸一日戦えるね、二十四時間戦えますかを地で行く人間がいようとは』

『……でも、ようやく分かった……あと一発、付き合ってもらうよ』


 ああ、懐かしい。あの飄々と立ちふるまい、戦う意思も見せずに全ての攻撃を受け切るバケモノとの一戦を思い出す。

 再生術を極めた人間。それを、私は知っている。そして――


『……マジでやるじゃん。俺に剣を抜かせるか』

『やっぱり……その力、優先度が低い!』

『正解。けどまぁ……沈んどけ小娘』


 最後の一撃を振り下ろす、あの女の顔が脳裏を過る。

 大丈夫、今私が戦っている相手は、あの女よりも格下だ。

 きっと、同じ結末には至らない――




 過去から現在に思考を戻し、私は背後に迫る八つの閃光に向けて、空気を引き裂くように腕を振るう。

 魔力を掴むように、強引にかき乱すように、見えない爪で薙ぎ払うように。

 そしてそれは、目視できる斬撃と化す。閃光を微塵にかき消す。


「……ふぅ……お姉さんちょっと調子に乗りすぎ」


 デタラメに手を振るう。会場を細切れにするような気持ちで、縦横無尽に腕を振り回す。

 地面を、壁を、障壁を、空気を微塵に切り裂く。

 私の思うように、なにかを切り裂き微塵にする。

 すると、こちらの動きに気がついたお姉さんが、観念したようにこちらに顔を向けた。


「ふぅ……面倒ですね。魔力の流れが細切れになって乱れてしまいましたか」

「お姉さんのソレ、他人に干渉されると物凄く効率が下がるんだよね? じゃあ、こういうのはどうかな?」


 場の残留魔力を利用するのは、別に再生師だけの技じゃない。

 静かに呼吸を繰り返し、自分の内に眠る力の奔流を渦巻かせる。

 その流れを、徐々に外へと広げ、周囲を巻き込んでいく。

 その流れが、何かを掴む。自身へと集まってくる。


「ほら……器用なものでしょ? お姉さん……もう一段回上、用意していないとここで終わるよ?」


 邪魔なガントレットを外す。全身の圧迫感を解放する。

 邪魔な思考を破棄する。ただ目の前の相手を――微塵に切り裂くだけ。






 彼女の手が、淡い光を纏う。

 大きな光の爪が伸びたその豪腕が振るわれ、その衝撃で体勢を崩してしまう。

 一歩引いたところで、その惨状を目の当たりにする。

 フィールドに刻まれたのは、まるで巨大な竜が爪を振るったかのような深い傷跡。

 そしてそれを生み出した本人は、狂気を宿した赤い瞳で私を強く見つめていた。

 まるで、心臓を掴まれたかのような圧迫感。

 強く息を吐き出し、その感覚から逃れようとする。

 その一瞬、意識を自分に向けた一瞬が命取りだった。

 気がつくと、猛烈な衝撃と共に私は――

「うぐううう!!」

 全身が壁にめり込んでいた。

 胸が、肋が、頬が潰れるような感覚に襲われ、すぐ後に体力が根こそぎ奪われる。

 壁から抜け出すと、その衝撃だけで崩れ落ちそうになる。

 すぐに大気中の魔力を取り込もうとする。だが……やはり思ったようにいかない。

 いつもより著しく遅い回復で、なんとか身体のふらつきを抑え、相手の姿を探る。

 幸い、あの光る爪のお陰で動きを捉えることは出来る。けれども、それに追撃を放つ程の力がまだ戻っていない。

 ならば――

「“ブラッドカーペット”」

 私が闇魔術と再生術を合成して生み出した、オリジナルの魔術。

 純粋な再生術ではないこれならば、直接触れる事で相手から直接奪う事が出来るこれならば、あるいは――

 フィールドいっぱいに広がる、赤黒い魔力のフィールドに、一瞬だけ足をつけるヴィオさん。

 その瞬間、やはり私の体力が凄まじい勢いで回復する。


「カイさんに教わっていなければ危なかったですね……」

「っ! これ……なに……」


 一度足を付けてしまえば、残りの部分がその獲物を逃すまいと殺到する。

 足に絡みつき、機動力を奪おうと地面に縫い止める。

 そして――


「“ストレンジレイン ツーハンドレット”」


 これ以上暴れられる前に……申し訳ないけれど勝負を決めさせてもらう。

 上空に放つ極太の光りの矢。そしてそれは、狙い定めた相手へと細切れになり降り注ぐ。

 これも、威力が低く、対象者も一人だけという、使い所の難しい技。

 オインクさんの使う『地平穿“驟雨”』には遠く及ばないけれど。

 それでも、彼女の残りの体力を自分に転換するのならば、この接触回数の多い技は無類の強さを発揮してくれる。

 私の闇魔術やそれを付与した技の欠点。それは、最初に触れた瞬間にしか効果が発生しない事。

 だからこそ私は、当たる回数の多い技を選んできた。

 そして油断なく、私は身動き取れず光の雨に今も晒され苦しみの声を上げるこの少女の側へと寄り――


「うがぁ!」

「知ってます。私だってそうします」


 タイミングを見計らっていたかのように拘束を打ち破り、こちらの身体に振るわれる大きな爪。

 そして……それに合わせて私は再び、ヴァン選手に放ったのと同じ、相手の技の威力をそのまま自分の一撃に転換する拳を放った。

 ……先程までの攻撃で、私の体力はもう万全の状態まで回復、してしまいましたからね。

 一撃くらい、耐えられる状態だったんです。


「……卑怯だよ……お姉さん……再生師で……弓使いの癖に……体術も使うなんて」

「そうですね。きっと、普通なら今の一撃で逆転されていますから」


 私の腕の中で、纏っていたオーラや、青い光の爪をかき消し、全体重をかけてくる彼女。

 弱々しく口を開いて出てきたのは、そんな少しだけ悔しそうな、思わず言ってしまいたくなった文句。

 ゆっくりと彼女を床に寝かせ、そして――拳をもう一度叩き込む。


「うぐっ!」

「……油断、しませんよ。先程捨てたはずの籠手がなくなっています」

「あーあ……ばれてたか」


 彼女の背中から、ゴトリと音を立てそれが転がり落ちる。

 これで、なにか企んでいたのでしょう。

 最後の最後まで粘った彼女の瞳がゆっくりと閉じられていく。

 そしてそっとその場から離れ、その宣言がされるのを待つ。

 ……それにしても、残留魔力をかき乱し切り裂くとは、凄まじいですね彼女は。

 目には見えない。そして魔導師でも残留魔力を知覚するのは難しいというのに。

 大気中に存在する魔力や魔力の素ならば、高位の魔法、魔術、魔導の使い手ならば見ることが出来る。

 けれども、一度他人に使われた搾りかすのようになったそれは、酷く存在が希薄で、通常見えたりはしない。

 恐らく、リュエですら残留魔力の流れを感知出来ても、見る事は出来ないはず。

 だとすると――見えなくてもいいから、適当に切り裂きかき乱せばいいと?

 わからない。けれども――彼女にこの対策法を伝授した人間は、恐ろしい事を平然とする人間のようですね。

 こんな場所でなければ、一体どれほどの人間があの爪に切り裂かれていた事か。

 無事な場所がない。全てが崩壊した戦場を見渡しながら、改めてこの相手の異常さを噛みしめる。

 ……よく、勝てましたね。自分を褒めたくなりますよ、これは。


『試合、終了! 本年度の七星杯優勝者は、レイス・レスト選手に決定しました!』

『これは……たしかにこれまでの大会とは比べ物にならない試合展開でしたね。まさか口伝級の弓術や、魔装術や気功術、可視化させる程の闘気を纏うとは……来年も、もし叶うのならば、あのどちらかと戦いたいですね』

『おおおおお! おめでとうございますレイス殿! 素晴らしい戦いでしたぞ!』




 ああ、本当に勝てた……優勝することが出来た……これで、やっと私も、二人の隣に――

 その時、何かの壊れる音がした。誰かの悲鳴と怒声が聞こえた。


「え?」


 身体が揺れた。

 何かがぶつかったような、そんな衝撃。

 視線を下に向ける。

 ああ――これは少し、マズイですね。

 喉をせり上がる熱いものが、口内を満たす。

 それと同じものが、突き破られた自分の体から溢れ出す。

 意識が遠のく中、その聞こえてきた叫び声に、少しだけ安堵する。

 きっと、すぐに終わる。誰も傷つかずに、この事態を治めてくれる。

 ねぇ……そうでしょう? リュエ、カイさん――






 歓声渦巻く会場が、俄に影に覆われる。

 突然の雨雲だろうかと空を見上げれば、そこには巨大な、途方もなく大きな存在。

 急降下してきたそれは、会場の結界や防護壁をやすやすと砕き、そしてそのまま戦場に一人立つ――


「レイス!!!!」


 その爪が、まるで獲物を捉えるように彼女へと向かう。

 客席から飛び出し、戦場へと飛び込むのと、その爪が彼女を貫くのは同時だった。


「間に合えよ……『サクリファイス』」


 戦場に着地すると、一呼吸置いてもう一人が降り立つ。


「カイくん。あいつどっかにやって。私は回復に専念する」


 見たことのない表情を浮かべるリュエが淡々と指示を飛ばす。

 大丈夫。『サクリファイス』が発動した以上、これ以上彼女の命が流れ出る事はない。

 急激に減っていく自分のHPを見ながら、今も彼女が瀕死の重症を負っている事を認識し、こちらの存在を知覚し飛び立とうとする相手に視線を向ける。


「……よう、七星だろお前」


 ああ、なるほど。封じられていない、自由に動ける七星というのはここまでのプレッシャーを放つのか。

 かつて葬った龍神に匹敵するその大きさ。

 黄金の鱗を持ち、黄金色の稲穂を植え付けたようなたおやかな翼を広げるその姿。

 それは確かに、人々に豊穣の神と信仰されてもおかしくはない、そんな神々しい姿だ。

 おいおい、なんでまだレイスを見る。こっちを見ろ。


「こっち見ろよおい。ダメだろお前。気が立っていたのか分からんが、供物が届くのを待たないとダメだろうが」


 ああもう、ダメだダメだ。言葉を話す余裕がなくなってきてしまった。


「あああ……ああああああ! ガアアアアアアアア!」


 叫ぶ、叫ぶ。全てを曝け出す。

 剣を構える。アビリティを組み替える。

 自分の力を全て出す。理由なんてもうどうでもいい。

 託された願いなんてクソ食らえ。

 やられたらやり返す。なに人の家族傷つけて平然と立ってんだお前。

 崇められようが知らんぞ。後で何言われようが知らんぞ。

 手を出したお前が悪い。お前が悪いなら、俺は何をしても悪くない。

 正当な怒りを罰する法なんてクソ食らえ。

 誰も何も言わせない。こいつは今ここで――



『カースギフト』

対象者 プレシードドラゴン 【生命力極限強化】反転付与

対象者 カイヴォン 【天空の覇者】付与


 すぐにでも殺す。


(´・ω・`)ここで三択クイズ この後七星はどうなる

1『無残に殺される』

2『残酷に殺される』

3『跡形もなく殺される』

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