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二百十五話

(´・ω・`)連続更新断続中……

「いやまさか……一日どころかその日のうちに戻ってくるとは思わなかった」

「いやぁ……なんかとんぼ返りみたいで恥ずかしいんですがね」

 そもそも。イグゾウ氏の墓がこの都市にあったのがそもそもの計算違いだったわけで。

 ともあれ、無事に槍を返すと、人目もはばからず槍を抱きしめだすリシャルさん。

 うーん……やっぱり強い人間というのは、どこかぶっ飛んでいるのだろうか?

「じゃあ、俺は戻ります。明日は大会の決勝戦ですからね」

「む……そういえば、今年はすっかり見逃してしまっていた……時間を立つのを忘れて、ひたすら槍を振るっていたせい、であろうな」

「明日は是非見に来てください。今年の大会、きっとこれまでの試合の話を聞けば、後悔してしまうくらいの内容でしたから」

「ふむ……カイ殿がそこまで言うとは、確かに惜しい事をしたやもしれんな……」


 無事に槍を送り届け、こちらも明日の試合を控えて緊張しているであろうレイスの元へと戻ることにする。

 早くに部屋を出たせいか、時刻はまだ昼を回ったばかり。

 恐らく彼女達も目を覚ましているだろうと、少しだけ急いで部屋に戻るのだった。




 自室の前まで戻ってきたところで、室内から珍しく二人の言い争う声が聞こえてきた。

 しっかりと聞き取れはしないものの、そのただ事ではない様子に扉を急ぎ開く。

 なぜ、こんなタイミングで? これまでそんな喧嘩なんてしたことなかっただろう!

「ごめん……ごめんレイス……私……」

「もう……いいです。私がこそこそしていたのが原因、ですからね」

「ごめんよ……代わりにこれ、あげるから許しておくれ」

 部屋に入ると、そこには枕カバーを握り、どこか悔しそうな表情を浮かべたレイスと、同じく枕カバー……あれってリュエの家で使っていたヤツじゃないっけ? を持ったリュエの姿があった。

「これは……まさかリュエ! そんなこれは受け取れません」

「いいんだよ、私が間違って洗濯しちゃったのが悪いんだ。これ、レイスにあげる」

「……なんか取り込み中悪いんですけど、それどっちも俺の枕カバーじゃありませんかね」

 なにやら感極まった様子で互いのカバーを交換しているところですが、さすがに声をかけさせて頂きます。

 なに、俺の枕カバーがどうかしたの。

「うわあああ!? カイくん!?」

「!? い、いつからそこに……」

「枕カバーを交換する少し前から。ちょいとお兄さんに事情を説明してみなさい」




「……なんかごめん。タイミング悪くてごめん」

「あ……う……すみません、その……どうしても今日は熟睡したくて、それでその」

「だから、私のこれをあげるってば。一年間カイくんが使っていた枕カバーだよ」

「俺の香りに安眠効果があるとは思えませんが」

 つまりそういうことだそうです。

 なんだろう、気恥ずかしいような、少し恐いような、嬉しいような、もうなんて表現したらいいか分からない気持ちですよお兄さん。

 いやまぁ確かに、はい。認めますよ僕だって二人の香りに抱かれて眠れたら、さぞや夢見がいいだろうなとは。

 つまり、レイスが以前作っていた枕カバーは、いつかこっそり自分のものと交換するためのものであったと。

 そして、それをリュエが洗濯してしまい、代わりに自宅で使っていた枕カバーを差し出していたと。

 なーんでそんなもの持ってきているんですかね?

「これは私のお守りだよ! アーカムの屋敷にいたときも、毎晩これを被せた枕を抱いて眠っていたからね!」

「ぐ……その純粋さにこれ以上追求出来ない」

「わ、わたしもその、布団に潜り込むわけにもいかず、こうしてですね、間接的な方法をですね?」

 深刻な問題じゃなくてお兄さん一安心ですよ本当。


 そして翌朝。

 枕カバーの効果があったのかどうかは定かではないが、こちらが目を覚ましても、まだ隣のベッドではレイスもリュエもすやすやと熟睡していた。

 静かにレイスのベッドへと歩み寄り、彼女の様子を見る。

 ああ……本当に……彼女の寝顔はどうしてここまで美しいのか。

 ……業腹だが、今ならアーカムが何故、あそこまでレイスに固執したのか理解出来る。

 今見せている無垢な寝顔も、どこか上品に微笑む顔も、楽しそうに笑顔を振りまく姿も、全部、全部が美しい。

 以前、俺が彼女と『そういう関係』に踏み込まない理由として『溺れてしまう』と言ったが、あれは建前でもなんでもなく、まぎれもない本心だ。

 ……その身体も、どんな表情でも美しいと思えてしまう面差しも、どんな境遇にも耐え、強くあろうとするその心も。

 その全てに、とっくの昔に俺の心は縛られているのだから。

「うう……私の枕カバー……カイくんのカバー……」

 まぁ尤も、もう一人の彼女に対しても同じ気持ちを抱いているんですけどね。

 本当、こんな娘さん二人とずっと一緒でよく理性を保っていられるな、俺。


「ほら、二人ともそろそろ起きなさい。今日は決勝戦だぞー」






 控室の前で、戦装束である赤いドレスに身を包んだ彼女と向かい合う。

 アーカムに挑む前に購入し、そして俺が『カースギフト』で性能を底上げしたそれ。

 デザイン的に、このドレスはスレンダードレスに分類されるのだろうか。

 今日も彼女はこの少々場違いにも見えてしまうような、美しい装束で戦いに挑む。

「レイス。装備の調整は大丈夫かい」

「はい。昨日、しっかりと補修しました。それに……カイさんに買っていただいたこの指鎧も」

「それは、間違いなく最上に位置するアクセサリーだよ。もしもサイズが合うなら、俺がほしいくらいの」

「ええ、私も確認しました。……これは、秘密兵器たりえるでしょうね」


 レイニー・リネアリスが作り出した旧世界の遺産の一つ。

 ただのアクセサリーにしてはオーバースペックすぎる効果を持つそれを指にはめ、両手にもしっかりと籠手を嵌めたその姿は、服装とはまったく合っていないはずなのに、なぜだか彼女を形作る要素としては必要不可欠な、決して欠けてはいけないもののように思えた。

 麗人として、そして闘士として彼女。

 相反する面を一つにする姿こそが、彼女の最大の魅力なのではないだろうか。

「レイス、後は勝つだけだね。私はレイスが勝つって信じているからね」

「はい。確かにヴィオさんは強く、決して油断出来ない相手ではありますが……お二人の為にも私は……」

 一瞬、彼女の声が止まる。

 その一瞬が、その僅かな間が、彼女の内心の不安を表しているようで。

 だからつい、続きを口にする前に、俺は彼女の両頬に手を添える。

「え……あの、カイさん」

「……レイス。不安でも良い。全力でぶつかってこい」

「っ! はい!」

 一瞬揺らいだ後に、激しく彼女の瞳が燃え上がる。

 たまには不安そうになさい。常に自信過剰で不敵に振る舞っていると誰かさんみたいになってしまうぞ。

 ヴィオちゃんは強敵だ。魔眼を開眼したとしても、届かない可能性すらある。

 レン君との一戦で見せた蹴り技や、常軌を逸したその機動力。

 そして――恐らくまだ見せていない手札。

 間違いなく、この大会で最も高い戦闘能力を持つのは彼女だろう。

 だが――俺は彼女の背負う、布を外した魔弓に目を向ける。

「レイス。遊びはなしだ。俺の真似をしてくれていい。試合を演出しなくたっていい」

「……そうですね。私は、カイさんとリュエと同じ世界に踏み込むのですからね」

 そう、彼女には魔弓がある。

 きっと、足りない分は魔弓が補ってくれるから。どこまでいっても彼女の本職は魔弓闘士だから。

 だからきっと、彼女は負けない。

 最後にもう一度激励の言葉を掛け、控室へ向かう彼女を見送る。

 そして、もはやほとんど人のいなくなってしまった関係者席へと向かうのだった。


「すっかり寂しくなってしまったね、ここも」

「だな。勝ち残った二人のうち、ヴィオちゃんの関係者は殆どいない。ドーソンは恐らく、家族と一緒に一般席にいるだろうし、な」

「アイドちゃんやイルちゃんはどうしたんだろうね?」

「そういえば……レイラの姿もないな」

 誰もいない関係者席で、貸し切りのように真ん中へ二人で座る。

 他の席を見渡せば、当然のように満員御礼。そして会場の外に建てられた櫓席もまた、すべてが人で埋め尽くされていた。

 試合開始前だというのに、そのどよめき、試合の予想や興奮した様子で語り合う声でもう、耳が痛くなってしまう程だった。

 ……そして、忘れてはならないもう一つの目的。

 この大会は、七星であるプレシードドラゴンを顕現させる儀式でもあるのだ。

 優勝者は、現れた七星に今年の作物を捧げる役割を持っているという。

 ……こうなってしまうと分かっていれば、無理やりにでも大会に残っていたというのに。

 それに、ケーニッヒの事も気がかりだ。結局、山間で大きな影を見たという目撃以外に寄せられる情報もなく、またこちらの呼びかけに応えてくれる事もなかった。

 ……今はごちゃごちゃ考えるのはやめておこう。

 まもなくレイスの試合が始まるのだから。


「あ、レイラちゃんだ。それにイルちゃんとアイドちゃんも!」

「ん? 三人揃っておでましか。なんとも豪華なメンツだな、肩書だけ見ると」

「肩書だけ、は余計よ。今日はこっちで見させてもらうわ」


 すると、通路からお付きの人間も付けずに、他国の王族とこの大陸の議長、そして領主の一人娘が現れた。

 丁度いいからと、イルをこちらへと手招き隣へ座らせる。

 ちょっと微妙な表情しないでくれます? 別にからかうつもりはないよお兄さん。

 君のお爺さんからの伝言を――どう説明すればいいのだろうか?

 隣に座った彼女にだけ聞こえるように、小さく話しかける。


「先日、無事にイグゾウ氏の願いを聞き届けてきたぞ」

「っ! そ、そう。……その内容は、私が聞いてはいけないものなのかしら」

「……悪いな」


 それを告げると、やはりどこか悔しそうな、悲しそうな表情を浮かべ。唇をギュッと結ぶイル。……言い方が少し意地悪だったな。


「だが――それとは別に、ある人から伝言を預かってきた。それを伝えようと思う」


 俺は、出来るだけ彼の話した言葉のまま、イントネーションを変えずにそれを伝える。

『飯は残さず食べろ。人様に迷惑はかげるな。だども、頼るどきはしっかりと頼れ』と。

 それを伝えた瞬間、伏し目がちだった彼女が大きく目を見開き、驚愕の表情でこちらを見つめる。


「それ……誰に聞いたの……」

「……想像にお任せするよ」

「……父が、亡くなる前に同じ事を私に言ったわ。これは自分が父、つまりおじいちゃんに言われた事だからって」

「……そうかい。やっぱり、親子なんだな」


 答えは言わない。

 けれども、これできっと彼女は分かってくれるはず。

 嬉しそうに、薄っすらと涙を浮かべた彼女が、一度空を見上げるようにした後に、改めてこちらに向き直る。


「感謝するわ。カイヴォン」

「どういたしまして」


 約束は果たした。だから後は、もう一つの約束を果たせるよう、全力を尽くすだけ。

 さて、今は戦場に集中しないとな。もう、あの二人が現れたのだから。


(´・ω・`)体調崩したので明日はもしかしたら書けないですん

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