十八話
精神的ブラクラって最近余り見ないよね
戦績はっぴょーう!
さぁ気がつけばメニュー画面のアイテムボックスには見慣れないアイテムの山が大量に。
そして雀の涙とはいえ経験値が沢山!
そしてここからが本題。
エア電話をしながら一言。
「もしもしヴォンヴォンです! アビリティまだ!?」
まるで成長していない。
確かに狂化されているとは言え、ありふれたモンスター達が元だしあまり期待はしていなかったが、それでも労力に見合っていなさすぎる。
まぁ大量に入手出来た『怨霊結晶』が主な戦果って事かね。
「一人で盛り上がってズルいぞカイくん」
「気にするな。所で少し街が落ち着くまで滞在しようと思うんだけど異論は?」
「のんびりしていいなら異論なし」
決定。
廃鉱山の調査で何か分かるかもしれないしもうちょっとだけここにいよう。
「で、昨日の今日でまた呼び出しですか」
「申し訳ない」
「それで、何の用だい?」
「実は早速今朝調査団が廃鉱山へ向かったのですが、途中で崩落を起こしていた為引き返してきたのです。なので、街のすぐ横にある、以前お二人が浄化した坑道へと向かう事になったのですが――」
クロムウェルさんが言うには、余りに怨嗟の声が酷く、常人には耐えられないレベルの魔界と化しているそうな。
一応調査団は皆、実力も十分な神官達だったらしく、それ以上となると首都から聖騎士を呼ぶしかないのだそうな。
「つまり俺達に再び?」
「何度もお願いばかりで心苦しいのですが……」
「今回はもしかしたら、事前に私達がその原因を浄化出来ていればここまでの大事にならなかったかもしれない。だから引き受けるよ。カイくんは今回は休憩してなよ」
「ん? 俺に精神干渉系の攻撃は効かないし問題ないぞ?」
結局まだ一度もセットしていない『龍神の加護』の出番がついにやってまいりました。
精神に起因する状態異常を防ぎ、さらにあらゆる攻撃に耐性がつくという優れもの。
ただ、現状相手と自分のレベル差だけで大抵の攻撃は無力化出来ちゃうんですよね。
まぁ今回はセットするけど。
ついでに全然出番のなかった『簒奪者の証』シリーズから一つ、初めて使う逸品をどうぞ。
『簒奪者の証(妖)』
『七星の三、妖狐を完全に調伏した者の証』
『妖霊族の攻撃半減 経験値10倍』
まぁ簒奪者の証(龍)とほとんどかわらないんですけどね。
しかしまぁ、この2つがあれば何が起きても問題ないだろう。
というわけで、近くの廃鉱山へ向かうのだった。
「私は一応聖騎士だから問題ないのだけど、さすがだねカイくん」
「まぁ仮にも初代七星を倒してますから」
「というと『白炎妖狐』かい? あれを倒せるならまぁ、悪霊がどれだけいても関係ないか」
他愛無い話をしながら目的地へ。
途中住人から熱烈な声援を受けるが、これはもう俺が魔王ルックじゃなくても関係ないんですね。
そしてやってまいりました廃鉱山。
以前はリュエと共に最深部、怨霊が噴き出している地点まで行きリュエの魔法で浄化して終わりだった訳だが、今回も同じ場所からなのだろうか?
早速剣を地面に突き刺し、マップをメニューに表示させる。
「リュエ、気分はどうだ?」
「さっきから凄く煩いけど問題なし」
「俺には聞こえないなぁ。どれどれ」
テラーボイス発動。
これで君達少し大人しくして?
「――少し黙れカス共が」
おおう、自分でも驚きのデスボイス。ちょっとしたデスメタル歌手になれますぜ。
そしてその効果があったのかと隣へと振り向く。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。許してくださいなんでもしますから許してください」
涙目で隅っこで震える彼女の姿が。
何この子可愛い。
「なんでリュエに効果が出てるんだよ」
「純粋に恐いんだけど!? ……でも本当に静かになったよ」
あ、ログに表示が。
……なんか怨霊のドロップアイテム取得してるんですが。
ていうか魔物扱いなのか怨霊。
そして今ので死んじゃったのか怨霊。
メンタル弱過ぎィ!
「やっぱり今回もここか」
「前よりも吹き出てくる怨霊が多いね。あのヒビ割れの奥になにかあるのかな」
「ちょっと壊してみるか?」
ちょっとワクワクしながらアビリティ『悪食』をセット。
さぁ、どれだけ武器の性能があがってくれるか。
「せーの"剛波烈斬"」
大剣の上級スキル。
効果はシンプルな、防御無視の特大ダメージ。
範囲が狭く、消費も大きいためワンコンボに一度しか組み込めない中々ピーキーな性能。
ただ、相手が動かないなら問題はなし。
何度も技を放ち、それを『簒奪者の証(闘)』も使う事によってMPの回復速度を上昇、そこに今回初めて使うアビリティ『コンバートMP』で駄目押し。
毎秒10のペースでHPをMPに変換すると言う、中々リスキーなアビリティ。
自分で回復する手段を持つ人間ならばそのリスクはだいぶ下がるが、それでも自分の命を削り続ける恐いスキル。
ここで注目したいのは『毎秒10』と言う固定変換率。
そして俺の持つ『生命力極限強化』
俺のHPの回復速度は毎秒『3%』だ『3』じゃない。
なので勿論、回復速度の方が遥かに早い。
早い話がMP回復速度がマッハ。
普段はここまで技を連続で多様しないのでこんな構成にはしないが。
「オラオラオラオラオラ」
ガッツンガッツン岩が削れていっております。というか崩壊していっています。
割れ目はみるみる広がっていき、新たな道でも作るのかと言わんばかりのペースで岩を削っていく。
そしてついに――
「カイくんストップ! なんだいその技……連続突きの威力じゃないよ」
「一発一発が致命傷になるレベルだったりします」
「改めて化け物だね」
「照れる」
「照れるな」
剣を止めた先には、明らかに俺が壊したのではない、人為的に作られたであろう空間が広がっていた。
恐らく、どこか別な場所から掘り進み作ったであろう岩の中のドーム空間。
その中央には、巨大な黒い像が鎮座している。
……明らかにアレだよなぁ。
「カイくんだめだ……あれはマズい、呪物だ、それも最凶最悪の」
「知ってるのか?」
「何かはわからないけど、効果は分かる。ここに済む怨霊を『更に殺してる』」
「浄化じゃなくて、殺してる?」
となると、怨霊がさらに恨みを濃くするって事なのか?
その怨霊をさらに……無限ループって怖くね。
どっかの誰かさんが石っころで遊んでた無限ループとはモノが違う。
「あ、ダメだカイくん、これは私じゃあ……」
「マジでか。んじゃ壊してくる」
別に俺に特に影響は――
お前が。
お前がお前が。
お前がお前がお前がお前がお前が。
オマエがお前がお前がおまえがおまえがおまえがオマエがお前がお前がおまえがオマエがお前がお前がおまえがオマエがお前がお前がおまえが。
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ニクイ。
「うっわすっげー冷汗」
白昼夢を見た。
馬車に揺られた大人たちから、広場で遊ぶ子供たち、街行く人達が一斉に振り返り俺に言う。
『お前が憎い』と。
恨まれることをした覚えはないが、とても気分が悪く、正直今にも吐き出してしまいそうだ。
だが、やはり身体は不調を表に出すことをしない。
Lv補正って凄いね。
ステータスには『攻撃力』『防御力』『魔力』『精神力』『命中力』『素早さ』『技量』『体力』と種類があるが、この世界にきてからはこの項目に強さ以外の意味も持たされている。
その最たるものが『精神力』だ。
元々魔法や精神攻撃等、物理以外のダメージに影響を与える数字だったのだが、ここではそのままの意味になっている。
現実世界で『精神力の強い人間』と言われたら、どんな人間を想像するだろうか?
そう、つまりそれ。
あらゆる逆境や恐怖、それに立ち向かう勇気。
そして何かを実行するのに必要な覚悟。
それら全てが強化されているのだ。
だが人格に作用はしないらしく、こうして異常に見舞われた時だけ、その真価を発揮してくれる。
「で、これか」
目の前には顔のない女神像。
キリスト教の教会にあるマリア像のような造形だが、衣服はボロボロにデザインされており、材質は謎の黒い塊。
顔はないと言ったが、どちらかというと無くされたようだ。
まるで抉られたかのような目玉に、穴だけあいた鼻。
口も歯がむき出しで、頬は無理やり削ったかのようにぐしゃぐしゃだ。
……リアルすぎやしませんかね?
「カイくん、早く!」
「おーけーおーけー」
剣を上段に構え、思い切り振り下ろす。
だがその手応えに、さすがに表情を崩してしまうのを自覚する。
……これ、表面が変色して硬化してるけど人間だわ。
「……気分悪いな、さすがに」
「カイ……くん?」
「リュエ、浄化頼む。手厚く葬ってやってくれ」
「判った」
何かを察したのか、すぐに真剣な表情になりリュエも剣を構える。
垂直に自分の顔の前に掲げ、呪文を唱えながら剣を振り下ろす。
すると、剣先から光の雫がこぼれ落ち、地面に落ちた場所から光が一面に広がってゆく。
何度見ても綺麗な光景だ。
『ディスペルアース』
空間に作用する状態異常回復魔導であり、習得には聖騎士を最大レベルまで育成する必要がある。
さらに、一定ランク以上の神聖な加護を受けた武器が必要と言う珍しい魔導だ。
その効果は絶大。
あらゆる罠、ダメージ効果のあるギミックを解除し、半永久的に回復エリアとして作り変えると言う反則っぷり。
ただしこの世界では、時間と共に徐々に回復効果は薄れてゆく。
「お疲れ」
「カイくん、彼女はどうしようか」
彼女。
黒い女神像は、本物の人間だった。
半分に両断されてしまっているが、まだこの場に存在する。
調査対象にはなるかもしれないが、どうにも気が進まない。
だってなぁ……明らかにもう最悪クラスの目にあってただろこの人。
もう何かするのは酷ってもんだろ。
「"彼の者を彼の地へ ヘヴンリーフレイム"」
ザ・アドリブ魔法。
名前の割に見た目は漆黒の炎。
地面からまっすぐ吹き上がる炎が、ドームの天井をも抜き、熱もまき散らさずにただ岩盤を抜き、遺体を空へと運んで行く。
徐々に崩れ、そのまま空の彼方へと消えていく亡骸。
なんとなく、こんな岩の中に閉じ込められた彼女が、最後は空に消えていってもらえたらと願いを込めた魔法。
闇魔法は使用者の思念で非常に柔軟に操作出来るのだし、俺の思いくらい反映してくれるだろ。
「なんだ、私よりもよっぽど聖職者だよ」
「こんな見た目だけどな」
いつのまにか、姿が魔王ルックになっていた。
無意識に全力を出してしまっていたようだ。
別にどこの誰とも知らない、もしかしたら元凶そのものかもしれない。
けれども、俺がやりたいからやった。
俺が可愛そうだと思ったからやった。それだけだ。
「黒炎を操る魔王なんて、どう考えても黒幕にしか見えないよな」
「ふふ、じゃあ私は裏切りの聖女って所かな?」
「自分で聖女とか……」
「な、なんだと!」
まぁ、いいや。
安らかに眠れってね。
尚、岩を殴ったけど武器の性能はかわらなかった模様。
事後処理も終わりこれにて第二章終了。