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二百八話

(´・ω・`)おまたせしますた

 闘技場を後にし、自室へと戻る。

 早速今日の祝勝会……といきたいところなのだが、明日はついにレイスとドーソンがぶつかり合う準決勝。ここで緊張を緩めるのは彼女的にも避けたいだろうと、いつも通り過ごす事にした。

 レイスは今も、今日の戦いの反省点をリュエと共に洗い出し、さらに開眼した魔眼の力、魔力の流れを視認する力の応用法をリュエから教わっているようだ。

 こうしていると、確かにリュエは戦士として大先輩なのだな、と実感する。

 しかし、相手はあのドーソンか。

 正直、レイスが負けるビジョンが浮かばないのだが、その半面ドーソンがただ負ける姿というのも想像出来ないのだ。

 あいつには、なにかある。奥の手、切り札、禁じ手、秘密兵器。そんななにかが隠されているように思えてならない。

 そして繰り返される想定外の展開は、時に盤石だったはずの流れを狂わせる事もある。

 つくづく食えない人間だな、ドーソン。

 明日の戦いについて考えを巡らせながら、俺も自分の仕事を全うする。

 祝勝会はなしでも、勝利祈願になにか作るのは許されるだろう。


「とまぁ、今見せたように魔力、魔素の流れにも差はあるんだよ。少なくとも、氷属性の場合は小さな塊がある程度固まって動いていく感じかな」

「なるほど……流れだけでは分からない事が分かるようになる、と。まだ瞬時に発動させる事は出来ないけれど、いずれは私もリュエのように見えるのかしら……」

「魔眼は身体の器官の一部だからね、馴染めばきっと私よりよく見えるんじゃないかな?」

「では今は少しずつ慣らしていくしかないみたいですね」

「そうだ、カイくんなんかはかなり特殊な魔力の流れを持っているから、観察すると参考になるんじゃないかな? 炎に氷、さらに闇まで使える上に、種族をころころ変化させるし」


 すると、耳にこちらの名前が入ってくる。

 いやいや、俺は生粋のヒューマンです。魔王ルックは魔族っぽいだけですから。


「カイさんを観察……いつも見ていますが、魔眼で観察ですか」

「カイくーん、ちょっと魔王モードになっておくれー」

「今料理中だってば……仕方ない」


 魔王スタイルで調理続行。完全にギャグである。

 まって翼邪魔。振り返ったらフライパンに当たっちゃうぞこれ。


「あ、確かに全体の魔力の質が変化しましたね。これが、魔族の魔力なのでしょうか」

「ちょっと違うんだけどね。でも魔族に近くはなっているよ。私の見立てだけど、力を出せば出すほど魔族に近くなっていってるね」

「なるほど……後ほどギルドで他の方々の魔力を観察してみます」

「それが良いと思うけど、無理は禁物だよ。ところで――さっきから何を作っているんだい? 凄くいい匂いがするんだけど」

「そういえば、少し前から様々な香辛料を調合していましたよね? それを使った料理ですか?」

「今回は隠し味程度にだけど、やっぱり香りで分かっちゃうか。今日はレイスが明日も勝てるように、必勝祈願の定番の料理を作っております」


 とはいえ、彼女の食文化に合わせたものなのだが。

 今回俺が作っているのは『コートレット』ピンとこない人には『カツレツ』と言えば分かるだろう。

 つまり『カツ』と『勝つ』をかけた料理だ。

 今回は仔牛肉を使い、パン粉を可能な限り細かく砕いたスタイルで、どちらかと言うとミラノ風の『コトレッタ』に近い形状になる予定だ。

 付け合わせにはアスパラのチップスとフライドポテト、そして口の中が油っこくならないようにミントのシャーベットを冷凍庫で冷やし中である。


「……カイくん、その姿で料理をしているのって凄く違和感があるね」

「……知ってた! そろそろ戻すよ」

「そういえば角や翼が消えても服装はそのままですよね……一張羅が汚れてしまっては大変ですし、私が見ていますので着替えてきても大丈夫ですよ?」

「いやいや、あと少しで終わりだから大丈夫」


 それに料理の仕上げは自分でやるって決めているんです。こればっかりは譲れない!

 おお、黄金の衣を纏った牛さんがまもなく皿の上に上陸するぞ。さぁさぁ、サクサクジューシーなお肉の登場ですよ。

 そんな風に内心一人でテンションを上げていたその時、室内にノックの音が鳴り響く。

「ごめん、誰か代わりに出てくれ」

「分かった!」

 時刻は夕方、こんなご飯時にやってくる腹ペコさんは誰なんでしょうかね?

 すると、入り口の方からリュエの驚く声が聞こえてきた。


「珍しいね、君が来るなんて。どうしたんだい?」

「……いや、やっぱりまた今度にする。悪かった」

 ここを訪れる事など無いと思っていた相手の話し声に、ついキッチンから大きな声で呼びかける。

「いや、せっかく来たんだ。上がっていきなレン君」


 来客の正体は、先日惜しくも敗退してしまったレン君だった。

 彼の取り巻きである三人娘の姿はなく、一人どこか思い詰めた様子でテーブルに着く。

 ふむ、せっかくだし食べていってもらうか。


「なんで、アンタが料理なんてしてるんだよ」

「趣味だ趣味。味の保証もばっちりするから食ってけ」

「いや、さすがに遠慮しておく。俺も仲間を待たせているんだ」

「そうかい」

 料理を仕上げながら会話をするも、やはりどこか浮かない様子。

 何か用事があっての事だと思うのだが、さすがに他の人間がいる時では話せない内容だったのかもしれないと、上がらせてしまった事を申し訳なく思えてきた。

「後で、ギルドの訓練施設で会えないか。それだけ伝えに来たんだ」

「後でっていうと、晩御飯の後でもいいかい?」

「ああ。悪いな」

 それだけ言うと、彼は足早に立ち去ろうとする。

「本当に食べていかないのかい? カイくんのご飯はどのお店よりも美味しいんだよ?」

「悪いな、リュエさん。こっちの仲間も腹空かせて待ってるんだ」

「ふふ、それは仕方ないですね。ではお気をつけて、レン君」

「……ああ。しかし話には聞いていたけど、レイスさんもカイの仲間だったんだな」

「んー? どうしたレン君、まさかちょっと憧れたお姉さんが既に他の男の――」

「ち、ちげーよ! ああもう、夜九時! 訓練施設で待っているからな!」

「あいよー」

 からかわないとすまない性分なんです。すまんね。




 夕食のコートレットは、やはりお肉が好物だというレイスにも好評で、またサクサクとした食感が好きだというリュエも気に入ってくれたようだった。

 レイスもこの料理を知っていたのだが、何故これが必勝祈願なのかは分からない様子だったので、俺はもといた世界での『カツレツ』や『トンカツ』について語って聞かせる。

 するとどうやらその料理にも興味を持ったようなので、後日作り方を教えると約束し、後片付けを彼女達に任せて部屋を後にした。

 さてはて、一体なんの用事だというのだろうか。

 彼の状況と待ち合わせ場所からある程度は予測出来るのだが――


 夜のギルドは、日中に比べて幾分人が少ない。

 それは依頼を発注しにくる人間や、旅行者や住人の問い合わせが少ないのが主な理由であり、建物内にいる冒険者の数そのものはあまり変わらない。

 そして、彼らがこの時間もここにいる最たる理由が、明日受ける依頼をあらかじめ受注する、または一定以上のランクの人間の場合、訓練施設を利用する為に訪れるからだ。

 折角ここを通るのだし、施設に向かう前に受付へと向かい、俺が出した依頼の状況を問い合わせる。

 そう、ケーニッヒの捜索依頼だ。なにか目撃情報でも上がっていないだろうか。

「カイ様のご依頼とは直接関係あるかは分からないのですが、山間で大きな影を見た、という報告なら多数上がってきております。ですが、今は時期が時期ですので、恐らく七星様ではないかと……」

「……そうですか。では、引き続きお願いしますね」


 七星の影……? あれは、恐らくケーニッヒが打ち倒したはず。

 やはりまだ生きていたのか。そして、ここを襲撃しようとしていたと見るべきなのか。

 それとも、まさかケーニッヒが負けたと……?

 契約の関係で、俺とケーニッヒの間にはかすかな繋がりがある。

 それが途絶えた時は、こちらにもそれが伝わるようになっているらしいのだが、今のところそのような兆候はない。

 ……一体どこに行ったのか、そしてその影は本当に七星だったのだろうか。

「今はレン君だったな。急ぐか」


 施設内に入ると、入り口のすぐ側にレン君の姿があった。

 所在なげな様子の彼が、こちらの姿を見た瞬間、再びどこか浮かない、いやどこか不安そうな表情を浮かべながらやって来る。


「待たせたかね」

「いや、こっちが少し身体を動かしに早めに来ていただけだ」

「そいつはなにより。敗北のショックで引きこもるよりは何倍も良い」

「……いちいち刺さるような事言うんじゃねぇよ」

「褒めてるんだって。実際、あれはいい試合だったよ」

 ギルド内や周囲の声を聞いても、レン君の戦いぶりは大いに評価されていた。

 まだ年若い彼が、他の選手が逃げ出した中果敢に挑み、そして最後の最後まで追い詰め、あと一歩届かず敗北する。

 そんなもの、王道中の王道だ。それを笑ったりする人間などほとんど居ないだろうさ。

 実際、俺だって最後には君の方を応援していたくらいだ。

「……それでも負けは負けだ」

「俺はその勝者から直接『実戦だったら私も死んでいた』って聞いているんだけどね。誇れよ、その負けはこれまでのどんな勝利よりも価値がある」

「……そうかもな」

 あの後、ヴィオちゃんは彼に会ったのだろうか。

 ……きっと会ったんだろうな。少なくとも、こうして彼が再び立ち上がっているのにはそれなりの理由があるはずだ。

 彼に先導されるようにして、施設の内部へと足を運ぶ。

 大会で既に負けている人間も、やはり触発されているのかこんな時間にも拘わらず訓練を続けている。

 ちらりと対人用のスペースに目をやれば、なんとアルバまでもが大勢の冒険者の列を捌くようにして連戦を続けていた。

「みんな、この大会で変わった。今までこの大陸で一番強いと思われていた人間の敗北や、アルバさんの大敗。そしてヴィオさんの暴れっぷりにみんなの闘争心に火がついたんだよ」

「その原因の一つに君の戦いだって含まれているだろうさ。……で、ここに来た理由は?」

 分かりきっている。だがそれでも敢えて問わねばならない。

 すると彼は、今までで一番真摯な瞳でこちらに向き直る。

 かすかに震える口を一度噛み締め、そして口を開く。


「……俺と、戦ってください。負けた俺が、こんな事を言うのは筋違いだし、そんな権利がないのも分かっています。けれども、俺はもう一度今の俺を見せたいんです。そうしないと、きっと前に進めないから」

「……慣れない敬語まで使って頭まで下げるか。生粋の武人だな」

 俺がこの勝負を受けたら、俺との戦いを熱望し、そして今はまだ早いと諦めたヴィオちゃんに示しがつかない。

 ……そう、ヴィオちゃんは『カイ』という冒険者のお兄さんとの戦いを望んでいる。

 だが、彼は違う。恐らく彼は『カイヴォン』という暴力の化身に挑みたいと言っている。

 そんな屁理屈を自分の中でこねる。

「お願いします。どうか、俺と本気で戦ってください。勝てないのは十分に承知しています。けれどもどうか――」

「……勘違いしているみたいだけれど、エンドレシアで戦った俺より、この闘技大会で戦った俺の方が強いよ。それでもその願いを続けるのかい?」

「……それでも、です」

「なんの為に」

「強くなりたいからです」

「それは七星開放の為かい?」

 問答を繰り返す。

 頭を上げる気配も見せずに答え続ける彼に、さらに問を重ねる。

 そしてその答えが返ってくるまで、僅かばかりの時間を要した。

「……俺がいた世界じゃ、戦いなんてなかった。戦おうとする人間なんてそもそもいないし、娯楽の延長として俺みたいな人間がいるだけだったんだ」

 それは彼の独白。胸の内。

「笑われるかもしれないが、俺はこの世界に来て使命を背負わされた反面、こうも思ったんだ『強くなれるだけなってやりたい。最強を目指したい』なんて」

「多かれ少なかれ、そんな思いを持っている人間はいるだろうさ」

「そうかもしれない。けれども、この世界はそれを本当に目指すことが出来た。だから、俺は知りたいんだ。この世界の頂点がどんなものなのか。俺は少なくとも、カイ……いやカイヴォンより強い存在を知らないから」

「そうかい」

 目標を見定めたい。自分が歩む道の先に何があるのかを知りたい。

 使命ではなく、ただ自分の欲、夢や目標のために強くなりたい。

 実に『らしい』じゃないか。変な正義感や使命感なんか振りかざすよりも、そっちの方がよっぽど君らしい。

 俺は対人訓練区画に背を向け、さらに深部へと足を運ぶ。

「待ってくれ、いや待って下さい! 頼む、頼みます――」

「ついておいで。ここじゃあさすがに不都合が多い。ちょうどいい場所があるんだ」

「え?」

 さて、じゃあ『友人』に協力をお願いしましょうかね?


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