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十七話

 一度振るえば十匹は消滅する。

 そして隙を見ては地面に剣を突き刺し、地中を移動するワームの位置を割り出し魔法を放つ。

 どうやら酸素がなくても動けるらしく、今回は氷と闇の複合魔法で地中を攻撃する。

 まるで、地面を縦横無尽に走る木の根っ子の用に、黒い塊が地中をかき乱す。


「後でこの辺りの道、整備するように教えないとだな」


 すでにアイテム取得ログが流れすぎて、最初に倒した相手のログが消えてしまっている。

 それでも、一向に魔物の襲撃が収まる兆しを見せない。

 体力的には問題ないが、一匹でも通せばそこはもう街中だ。

 精神的なプレッシャーが半端じゃない。

 だがそれでも、俺にだってプライドはある。


「この姿で負けるのだけは許されないんだよ」




 ――思えば、ゲームとは言え魔王と呼ばれ、そして多くの強敵を葬ってきた姿だ。

 どんなに人が居なくなっても、変わらずに戦い続けた俺の意地の果ての姿だ。

 俺はどんなに現実世界で辛いことがあっても、それを引きずってゲームなんてしない。

 その世界にいる間だけは、何にも負けない強い自分で有りたいと願い戦ってきた。

 だからこそ、そんな"自分が一番強く有れる"姿で、敗北なんて決して許されはしない。

 だからこそ、この姿で生きる事になった以上、絶対に負ける事は許されない!


「"ウォークライ"」


 技名を呟いた次の瞬間、今度は魔力を込めて絶叫する。

 喉が裂けてしまわんばかりのその声に、魔物の注意が一斉にこちらに向く。

 そしてそのままもう一段階上の技を発動させる。


「"テラーボイス"」


 更にありったけの気合を込めて、相手を萎縮させようと強い意思を込めて叫ぶ。

 自分で出したとは思えない程の、まるで地の底から這い上がるような声。


 一斉にこちらへと向いた敵が、次の瞬間には恐怖で動けなくなる。


 生粋の前衛職の数少ない攻撃以外の技。

 剣術ではなく補助技の一種であるテラーボイスは、自分に向いた敵意を増幅して相手へと跳ね返す。

 相手はその恐怖で一時的に麻痺に陥るという技だが、正直ゲーム時代は使わなかった。

 だってこれ、ゲーム時代は手打ちで発言しないと効果でなかったんだぜ……。

 さすがに恥ずかしい。


「固まったな? じゃあこっちから動くとしますか」


 すぐ様剣を振るいながら敵の集団へと切り込んでいく。

 そしてそのまま、坑道の前までやってきた。

 坑道内部にもまだまだ魔物がひしめいていたが、麻痺させたお陰でようやく敵の戦線を押しこむことが出来た。

 ここまでくれば、もう後は簡単だ。


「狭いから逃げられんだろ」


 大きく剣を振りかぶり、もう一度"ウェイブモーション"を放つ。

 貫通する波動は、狭い坑道を真っ直ぐに進みこれまで以上の戦果を上げてくれる。

 繰り返し振るわれ、やがて敵の数が疎らになった頃、背後に気配を感じて剣を向ける。


「ひっ! あああ、ああの! 外の魔物の進軍が止んだので、一度カイヴォンさんも休憩を!」

「あ、すまない。じゃあここ、まだ敵が出てくるかもしれないけど、何人かで守ってもらえるか」

「はい! 本当に一人で……お疲れ様です!」


 体力はMAXのままだが、さすがに気疲れしてしまった。

 妙に頭も痛いし、お言葉に甘えさせてもらおう。


 街へと下って行くと、大勢の冒険者、そして住人が待ち構えていた。

 皆、涙を流しながら頭を下げている。

 うわ、もしかしてずっと見られてたのか?

 やーめーろーよー! ちょっと途中から自分に酔ってたんだぞ!

 それを見られていたとか、しかもウォークライもテラーボイスも使ってたんだぞ!

 ……俺なんて叫んだっけ? 無意識で覚えてないんだけど。


「有難うございます……本当に、本当に……」

「まおーさまありがとう! かっこよかったよ!」

「こ、こら! 申し訳ありません冒険者様」


 まおーさまですかそうですか。

 いやでも、悪い気はしないかな。

 だってさ、今目の前で頭を下げているって事は、頭を下げたくないと思うような被害が出なかったって事なんだから。


「皆、無事ですか? 誰か家族とか、友達とか、知り合いが大怪我したりしませんでしたか?」


 誰も、悲しい顔をしていない。

 それだけで苦労が報われた思いだ。

 多くの人に迎えられながら、俺はギルドへと戻って行った。


「やべ、魔王ルック解除しなきゃ」


 坑道から出る時に解除すりゃよかった。





「カイくん、クロムウェルから聞いたよ! なんで黙っていたんだ」

「クロムウェルさんに言われたから。というわけで文句はクロムウェルさんへどうぞ」

「カイヴォン殿!?」



 応接室には、俺とリュエとクロムウェルさん。

 今回の報告と、勝手に持ち場を離れてしまった事への謝罪だ。


「いえ、私共の調査不足です。恐らく坑道同士が繋がりやすい場所があったのでしょう」

「ならその場所を壊して現れた魔物が一枚上手だって事です。そちらに落ち度はないですよ」

「ですが……」

「それよりも本来想定していた出口はどうなっていたんですか?」

「それが、何の異常も見られませんでした。一応見張りをつけていたのですが……」


 となると最初から街の廃鉱山を狙っていた?

 そこまで魔物が賢いのだろうか?


「恐らくですが、街の近くの廃鉱山で急にアンデッドが増えたのも偶然ではないのかもしれません。アンデッドはアンデッドにひかれますからな……」

「しかしあそこは私とカイくんで浄化したはずだよ?」

「それなのですが、もしかすると発生の大本になる何かが、あそこに隠されているのかもしれません」

「何か、ですか」


 今回の事は偶然なのか、それとも何者かの意思なのかは分からない。

 だが少なくとも、原因となった何かがあの鉱山にあるのかもしれない。

 魔物の数も減ったことだし、調査の必要がありそうだ。


「幸い、首都の援軍の中に神官団もいるそうですし、本業である彼らに任せるといいでしょう。お二人は今回の件でお疲れでしょうし、ゆっくりと羽根を休めて下さい」

「わかりました。ですが何かあればすぐに連絡をお願いします。もう少しこの街に留まるつもりですから」

「と、言うことだね。ちなみにしっかり今回の事も含めて報酬は貰うからね?」


 がめついっす。



 ギルドへと戻ると、外で戦っていた人間達が一斉にリュエの元へと駆け寄ってきた。

 またですかリュエさん。

 彼女はどうやら、直接ではなく補助や援護に徹したようで、そのおかげで被害を最小限に抑えることが出来たらしい。

 魔物の足止め、弱体化、撃ち漏らしの処理に怪我人の治療。大群戦闘において、この行動が全体に与える影響は計り知れない。

 やはりリュエを表に立たせて正解だった。


「カイさんもありがとうございました! もしカイさんがいなければ、私達の帰る場所はなくなっていたかもしれません」

「本当だぜ! 知らないうちに後ろで街が壊滅してるなんて、悪夢でしかねぇ」

「一人で守り切ったって本当ですか!?」


 なんと今回は俺にも人だかりが! 街の中にいた人に話を聞いたのか、外で戦っていたこの街の冒険者からも感謝の言葉が後を絶えない。

 見れば、一緒にこの街への護衛を受けたムスタさんもいる。

 この街の人間だったのか。


「本当にお前が防ぎきったのか? 彼女じゃなく?」

「ん、ああ解放者のレン君だったかい?」


 とそこへ、アースドラゴンを探して丸一日坑道を探し歩いた事で有名な(俺の中で)レン君達が現れた。

 あの一件で、ちょっとだけ敵意が強くなったような気もしないでもないが、なかなか面白い逸材だ。


「街の外で戦っていたリュエが街の中の魔物を倒す方法について詳しく」

「……」


 だんまりかい。

 つっかかるならもうちょい考えてからにしてくれ。

 あれですか、外ではリュエに活躍を取られて、さらに街の中では気に入らない俺が持ち上げられてて面白くないんですかね。

 けれども、彼だって外で街の為に戦ったのは事実。今回はあんまりからかわないでおこう。


「それより、あんたリュエさんの仲間なんだろ? 一緒に俺の仲間にならないか?」

「何故そうなる。仲間になる理由がないし、そもそも君の目的も知らない」

「俺はな、ただの解放者なんかじゃないんだよ。七星の七、最強の存在に挑み、認めさせる男だ」

「お、おう……がんばれよ」


 認められたら俺、なんでもしてやんよ!

 あ、ごめーんその相手もう俺殺しちゃったーテヘペロ。

 って言えたらどんなに楽しいか!

 しかしそうか、割と辺境に位置するこの街にいる理由が気になっていたけど、それが理由か。

 ……もし俺が倒していなかったとしても、絶対リュエが許さなかっただろうけど。


「中々やるみたいだし、リュエさんは文句なしに強い。アンタと一緒に俺の仲間にしてやるよ」

「いや遠慮する。別に興味ないし」

「同じく興味なし。私は彼以外の人間と旅をするつもりはないよ」


 あれだ、たぶんこの子はこの世界に来て強い力を手に入れたんだ。

 それで増長しちゃったんだね、仕方ないね。

 強い力を貰って、それでさらに勇者みたいな扱いだ。

 このくらいの年令の子なら、こうなってもおかしくないね、せやね。

 まぁきっと元々取り巻き引き連れて歩くのに慣れてるんだろうけど。

 イケメンだしイケメンだしイケメンだし。


「ちょっと、こんな事滅多にないのよ!? っていうかアンタはついでなの つ い で ! この女の説得くらいしてみなさいよ!」

「うるさい黙れ」


 リュエさんが恐い。

 なんだかさっきから機嫌が悪いけど、七星のくだりでいよいよ雲行きが怪しくなってきたな。

 と言うか毎回、リュエを欲しがる男の所為で面倒な事になってる気がする。


「まぁ諦めてくれ。それに、こう見えても俺もリュエも……君達の格上なんだよ。そろそろ理解してくれないか?」

「ほら」


 権力というか立場をひけらかすようで気持ちいいものじゃ……嘘ですめっちゃ気持ちいいです。

 ギルドカードを提示する。


「白銀!? それに、黒?」

「嘘……Sランクに……黒?」


 おいちょっと待て。黒いギルドカードってそんなに認知されてないのか!?


「私はSランク冒険者、そしてカイくんはさらにその上だ。こんな言い方はしたくないんだけど、君達とは次元が違うんだよ」

「言い方は悪いかもしれないけど、俺達には何のメリットもない。それとも、君は俺達の力を借りて最強の存在に認めてもらうのかい?」


 まぁ認めるもクソもないんですけどね。

 強いて言うなら、あの力を奪った俺が認めるか否か判定したりして。

 ……死んでも認めません!


「……今に見ていろ。そんな規則じゃない、俺の本当の強さが認められたら俺が――」

「レン様、そろそろ」


 涙目だった女の子が居心地が悪そうにしている。

 見れば成り行きを見守っていた周りの視線も、次第に冷めたものに変わっていっている。

 それに気がついたのか、慌ててギルドを出て行く一行。


「大人げなかったかな」

「いや、構わないよ。私は彼のことが余り好きじゃないんだ」

「俺様系は嫌いか」

「純粋に、精神が子供すぎる子が嫌いなんだよ」


 子供の心(中二病)を忘れない男がここにいるんですがそれは。

 権力を振りかざす主人公にあるまじき屑

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